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*小説『ザ・民間療法』全目次を見る人に何かを教えることは、自分自身にとっても学びが大きい。頭のなかにまとまりもなくつめ込まれていた内容が、むりやり整理される。せっぱつまった引っ越しのときみたいに、なくしたと思っていた大事な物が意外なところから出てくること
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る私がまだ20代のころ、親戚中でいちばん仲良しだったいとこが、腰痛で入院したことがあった。昭和の時代には、腰痛といえば年寄りか新婚さんのモノと相場が決まっていた。それなのに若くて健康で独身の彼が、腰痛で入院するなんてよほど
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る「やんだタマゲたな~。急にナニいうだぁ~♪」私の頭のなかで、オヨネーズの名曲「麦畑」が鳴り響いている。整体学校の大外先生から、出し抜けに「師匠、私を一番弟子にしてください」といわれた私は、いきなりプロポーズされた女性みた
*小説『ザ・民間療法』全目次を見るがん患者には、左側の脊柱起立筋が異常なほど固く緊張している人が多い。起立筋だけではなく、左半身の知覚はことごとく鈍くなっている。そんな状態では、どんなに力を入れてもんでも叩いても、ビクともしないのである。ところがある特定
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る沖縄から帰った私は、久しぶりに池袋の整体学校に行ってみた。さわやかな潮風でリフレッシュしたばかりの私には、この場末感が漂う雑居ビルのたたずまいが、ある意味とても新鮮だ。ギギギィーッと建付けの悪いドアを開けると、そこには大
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る明るい光で目が覚めた。ここはどこだろう。メガネがないからよく見えないが、この陽射しはどう見たってうちじゃない。そうだ。沖縄のホテルに泊まってるんだった。胸の奥にプクッと楽しい気分がわいてくる。窓まで行って外を見ると、視界
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る朝カーテンを開けると、日差しがまぶしい季節になっていた。そういえば今日の午前は仕事の予約が入っていない。今のうちに池尻大橋の図書館に本を返しに行こう。ついでに丸正で魚も見てこよう。そう決めると、私はリュックに本を詰めこん
*小説『ザ・民間療法』全目次を見るいつもお世話になっている樹森さんから電話があった。「ちょっと診てあげてほしい人がいるのヨ~」と、相変わらず元気な声である。それよりも、樹森さんのところでベビーシッターをしている瀬戸さんの妹さんが、その後どうなったかが気に
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る激しい腰痛のせいで、寝たきりになりかけていた春子さんの施術が終わった。ここまで車に乗せてきてくれた樹森さんや、春子さんのお嬢さんたちとみんなでお茶を飲んでくつろいでいると、腰の痛みが消えて饒舌になった春子さんの口から、長
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る樹森さんの運転する車が、買い物客でにぎわう吉祥寺の街をゆっくりと抜けると、あっという間に春子さんが待っている瀬戸さんの家に着いた。見上げるほど大きなマンションの前で、「ここです」といわれて入った地下駐車場には、高そうな外
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る友人の子どもは大きくなるのが早い。ついこのあいだ生まれたばかりだと思っていたら、「もうそんな年なの!?」と驚くことがよくある。その度ごとに、独身の自分だけが、世の中から取り残されているような気分になったりする。先週、樹森
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る 今日は武蔵小杉まで出張だから、渋谷に寄って大和田青果で野菜を買って帰ろう。そんなことを考えながら朝ごはんを食べていると、湯飲みの向こうで電話が鳴った。例の山田先生からである。先生に高木さんの相談をしたのは、おとといの夕
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る 人というのは、話し上手と話し下手の2つのタイプに分けられる。さしずめ私は話し下手タイプなのか、善意でいったつもりでも、逆に悪意だととられてしまうことがよくある。もちろん話すときだけでなく、話の聞き方にも明らかに上手な人
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る 「二度あることは三度ある」とはよくいったものだ。この仕事をしていると、それをつくづく実感する場面が多かった。昨年の暮れから、立てつづけに寺田さん関係でがん患者が現れていた。以前、紹介されて、施術でたいへんな思いをした大
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る新年早々、また寺田さんから電話がかかってきた。「ヨウ、この前はお疲れさん!」と相変わらずごキゲンである。この様子では、彼はまだ山中さんのがんのことは知らないようだ。つづけて彼は、「佐々木さんのことなんだけどナ」と切り出し
*小説『ザ・民間療法』全目次を見るこの仕事を始めて、早くも3度目の冬を迎えようとしていた。北国生まれの私にはちょっぴり心ときめく季節の到来だ。しかしこのヒンヤリとした安アパートでは、ワビしさが漂い始める時季でもある。少しふとんでも買い足そうか。そんなこ
*小説『ザ・民間療法』全目次を見るあれから3日たった。今日はまた瀬尾さんの腕の痛みと格闘する日である。前回の矯正のあと、彼の腕の痛みはかなり軽くなって、残りはあと2割くらいだそうだ。瀬尾さんが腕の激痛で受診した病院でも、そこから紹介された大学病院でも、そ
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る手術の前夜、病院から逃げ出した瀬尾さんの話にもどろう。彼はそこで頚椎椎間板ヘルニアの手術を受ける予定だった。しかし頚椎のヘルニアの存在は、一般的にはあまり知られていないようだ。腰椎の椎間板ヘルニアであれば、腰痛のもっとも
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る今から何年前のことになるだろう。まだ私が子供だったころ、山崎豊子の『白い巨塔』という小説が話題になっていた。あとで何度も映画やドラマにもなった人気作品である。私が観たテレビドラマでは、主役の財前教授の役を、二枚目で名高い
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る干ししいたけの軸をかんだら、ポロッと差し歯が落ちた。あわてて鏡を見ると、そこには前歯が一本抜け落ちて、ギャグ漫画にでも出てきそうな情けない顔が映っていた。これでは人に会えない。あわてて山田先生に連絡して、歯をつけてもらう
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る荒井さんの施術のために、新宿のクリニックに通い始めて早くも半年が過ぎようとしていた。最初のころは、女性にしてはあまりにも筋肉が硬くこわばっていた。それが今ではすっかりやわらかくなって、ポーンと張っていたおなかもペシャン
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る私が定期的に施術していた森脇さんが、先日受けた検査で、「子宮頸がんの疑いあり」と診断された。そんなはずはないのにと私がいぶかっていると、改めて受けた精密検査の結果では、がんではなかったそうだ。ところがその際、医師からは「
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る皮膚科医の前田先生から紹介された子宮頸がんの荒井さんは、西武線のはずれ近くに住んでいる。お宅があるのは駅からもかなり遠いところなので、とても私のアパートから通える距離ではなかった。荒井さんは、以前に比べるとものすごく疲れ
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る看護師の近野さんから手紙が届いた。いまどき手紙は珍しい。そういえば彼女には、お母さんのお葬式以来会っていなかった。白い封筒を開けながら、差出人の近野さんの名前に向かって「久しぶり~」と声をかける。久しぶりといっても、あれ
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る田舎の母から電話がかかってきた。ずっと入院していた父方の祖母がとうとう亡くなったのだ。もう103歳だったから、立派な大往生である。本人も満足だろう。私が受話器をもったまま黙っていると、つづけて「葬式に出られるか」ときいて
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る人が最期を迎えるときの姿は、その人がどんな人生を送ってきたかを物語る。生き方同様、人にはさまざまな死に様がある。そこにはそれぞれ、その人なりの美学があるようだ。私の祖父は70代半ばで亡くなった。当時としては早いほうでもな
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る友人の父親の宗介さんは、今年85歳になる。戦争で胸に敵の弾を受けてしまってからは、彼はずっと片肺で暮らしてきた。それでも大して不自由もなく、特別な病気もしてこなかった。ところが最近、かぜをこじらせてしまった。症状がなかな
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る施術の仕事を始めてからというもの、他人の人生の最期に立ち会う機会が多くなった。その度に胸が引き裂かれる思いにおそわれて、「もうこんな仕事なんかやめてしまいたい」と何度思ったか知れない。先日も、友人の近野さんのお母さんが、
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る田口さんの家にうかがうのは、これで4回目になる。初めてお目にかかってから、3週間が過ぎていた。私が行ったからといって、終末期のがんで余命幾ばくもない人に、何かできるわけではない。それでも、もう1回、もう1回と思いながら通っ
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る私は気が弱いほうではないと思う。しかしどちらかというと、エエかっこしいの部類ではある。この性格のせいで、これまで何度、後悔するはめになったことだろう。大腸がんの下田さんのときだって、初めにはっきりと断っていれば、何か月も
*小説『ザ・民間療法』全目次を見るこの仕事を始めたころは、確かリラクゼーションを目的とした施術だったはずだ。それがいつしか、がんや難病といった、たいへんな症状の患者さんばかりがやってくるようになっていた。民間療法家にすぎない私のところに、そんな重病の人が
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る下田さんが病院での治療を受け入れてくれたおかげで、やっと私も彼の大腸がんとの闘いから解放された。あのまま彼が病院での治療を拒みつづけていたら、私はずっと彼のもとへ通って施術をつづけていただろう。それでは、私のほうが先に
*小説『ザ・民間療法』全目次を見るそれにしても、「左」というのはどこか不気味である。背骨は左にしかズレないし、背中の起立筋も左だけが盛り上がる。人の体の「左」に現れる異変は、何か不吉なサインなのだろうか。その不気味さそのままに、大腸がんの下田さんの起立筋
*小説『ザ・民間療法』全目次を見るがんの話をすると嫌われる。ここのところ、それを実感するようになった。がんという病気は、病院で発見されるまではほとんど症状がないのに、末期になるといきなり激痛におそわれる人が多い。「痛みのあまり絶叫して、アゴの骨がはずれた
*小説『ザ・民間療法』全目次を見る下田さんがパートナーと暮らしている中目黒のマンションは、幸いにも私のアパートから歩いて行ける距離にあった。彼は平日は仕事に出かけているので、日曜の午前中に行って施術することになっていた。最初の約束の日、急ぎ足で歩いてみた
*小説『ザ・民間療法』を始めから読む大腸がんの手術を乗り越えて、須藤さんが無事に退院した。ところが元気ではあるものの、まだ排便がうまくできないのでとまどっているようだった。「そりゃ腸を切り取ったんだから、ムリもないヨ」といって励ます。お医者さんからも、時
*小説『ザ・民間療法』を始めから読む大腸がんの手術を間近に控えた須藤さんは、入院準備だけでなく、入院で不在中の仕事の段取りなどもあって、けっこう忙しそうだ。忙しくしていなければ、不安な気持ちに押しつぶされそうなのかもしれない。そこにあるのは、がんそのもの
*小説『ザ・民間療法』を始めから読むテレビ局でプロデューサーをしている河野くんから、「日本に帰ってきたヨ~」と連絡があった。彼は私が特殊美術の仕事をしているころからの仲間で、今でもわりと頻繁に行き来している仲良しである。彼は番組のロケで、しばらくの間、
*小説『ザ・民間療法』を始めから読むあれから私は、大腸がんの手術を控えた須藤さんの家に通う日がつづいていた。それにしてもがんてヤツは、病気というよりも地震のような天災に近い気がする。地震は何の前触れもなくドカンとやってきて、一挙に今までの生活を一変させて
*小説『ザ・民間療法』を始めから読む相手の体に触れる以上、施術には必ずリスクが伴うものである。だからこそ、患者さんとの信頼関係がなければ、この仕事は成り立たない。まして須藤さんはがん患者なのだ。いくら慣れているとはいえ、今の彼女の状態では施術によって何が
*小説『ザ・民間療法』を始めから読む須藤さんは55歳になったばかりの女性経営者である。彼女はあちこち手を広げて仕事をしているせいで、スケジュールはいつもいっぱいだ。サラリーマンのように休みなど取っていられないから、いつも疲れが取れないといっている。そこで
*小説『ザ・民間療法』を始めから読む子宮頸がんの京子さんの施術を始めて、3週間が過ぎた。家を訪れるたびに、彼女は元気になっている気がする。私を迎えてくれる表情にも、生気が増してすこぶる調子がよさそうだ。以前の体の硬さが、もう気にならないほどやわらかくなっ
*小説『ザ・民間療法』を始めから読む2回の施術を終えてみて、やっと京子さんの体の感じがつかめてきたようだ。そうはいっても、「あれから大丈夫だったかナ」とその後の調子が気にかかる。京子さんだけではない。この不安は、私が施術したどの人に対しても起きてくる。
*小説『ザ・民間療法』を始めから読む私の2度目の闘いが始まった。バトルの相手は京子さんの子宮頸がんである。前回同様、うつ伏せになった彼女の左の起立筋から刺激を再開した。うまい具合に、まだ体はにぶくなっていないようだ。私からの刺激に対して、ちゃんと敏感に反
*小説『ザ・民間療法』を始めから読むどうにか他の患者さんの予約をやりくりして、最初の施術の3日後には京子さんの家に向かった。たとえ無料奉仕だとしても、がんという病気の程度から見れば、最優先になって当然だろう。何よりも、最初の施術が終わってからというもの、
*小説『ザ・民間療法』を始めから読むまずは紹介者の近野さんとの約束通り、子宮頸がんの京子さんの家でお話をうかがった。がんの手術を前にして、彼女が不安に思っていることにも答えられたし、しっかりと体のチェックもした。これで約束は果たせたはずだ。ところがそれで
*小説『ザ・民間療法』を始めから読む子宮頸がんで来月手術することになっている京子さんは、左腰の上の部分が大きく盛り上がっていた。だが初対面の段階で、私にはもう一つ気になるところがあった。鼻筋の真ん中あたりから、左に向かって鼻がクキッと折れ曲がっているの
*小説『ザ・民間療法』を始めから読む近野さんから、子宮頸がんで手術を1か月後に控えた京子さんを紹介された。もちろんがんが私の手に負えるわけではないから、一旦は施術をお断りした。しかし「せめて一度診るだけ」と懇願されて、仕方なく彼女の家を訪れたのだ。そこで
*小説『ザ・民間療法』を始めから読むまた近野さんから電話がきた。彼女の紹介で私が施術した森本さんから、施術の経緯を聞いたそうだ。森本さんはその後もずっと調子がいいらしい。それ以前は職場でも半病人のようだったから、施術後の変化にみんなが驚いているのだという
*小説『ザ・民間療法』を始めから読む海外ではどうだか知らないが、日本には西洋医学と東洋医学という分け方がある。だから日本のお医者さんは、自分は西洋医学だと思っているはずだ。これが民間療法となると、なぜだかみんな東洋医学にくくられる。他にも、科学的かどう