白水阿弥陀堂・みちのくの姫の美しき御堂 <トラキチ旅のエッセイ>第4話
桜がほころび始めた頃。やわらかな日差しの中、いわきの白水阿弥陀堂を訪れた。 やや南に「勿来の関」があったこの辺り。みちのくの南端。古代から中世にかけては、奥州と関東、ふたつの広大な世界が接する境界だった。 そんな土地に暮らす豪族のもとへ、はるか北の地からひとりの姫が嫁いできたという。 彼女は奥州平泉からやってきた。名は徳姫。 その父は――奥州の王といっていい。藤原氏三代の初代清衡(きよひら)。平泉という、華麗なみちのくのみやこを築いた人物である。 阿弥陀堂を訪れたこの日、境内にはまるで人影がなかった。 時折ひびく鳥の声と、うららかな春の光ばかりが、緑の谷戸に満ちあふれていた。 阿弥陀堂は、丹塗…
2022/09/28 16:40