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ぼくたちはバーの高い椅子に坐っていた。それぞれの前にはウィスキーと水のグラスがあった。 彼は手に持った水のグラスの中をじっと見ていた。水の中の何かを見ていたのではなく、グラスの向こうを透かして見ていたのでもない。透明な水そのものを見ているようだった。 「何を見ている?」とぼくは聞いた。 「ひょっとしてチェレンコフ光が見えないかと思って」 「何?」 「チェレンコフ光。宇宙から降ってくる微粒子がこの水の原子核とうまく衝突すると、光が出る。それが見えないかと思って」 スティル・ライフ/池澤夏樹 作/中央公論社 ぼくと佐々井とは染色工場でアルバイトをしていた。佐々井はちょっと謎めいた人物だった。その佐…
週刊 読書案内 池澤夏樹「十六段の階段」(大岡昇平全集6・月報5・筑摩書房)
池澤夏樹「十六段の階段」(大岡昇平全集6・月報5・筑摩書房) 作家の池澤夏樹が「いつだって読むのは目の前の一冊なのだ」(作品社)の中で、大岡昇平の「事件」という作品について紹介しています。
週刊 読書案内 池澤夏樹「いつだって読むのは目の前の一冊なのだ」(作品社)
池澤夏樹「いつだって読むのは目の前の一冊なのだ」(作品社) 昔から、書評とかブックレビューいうのが好きだったんです。で、市民図書館の棚を見ていると、2019年の初版なのに、新入荷の棚に、デン!と座
昨夜の夕食。たらこパスタとキュウリとツナのサラダ。昨日は疲れてご飯も炊かなかったので、パスタに。サラダも簡単に、キュウリの塩もみにツナ缶とマヨ。今日9月1日は関東大震災の日、そして亡き父の誕生日。大震災の日、父はちょうど9歳の誕生日を迎えました。当時はまだ田舎だった、渋谷区か目黒区に住んでいたはず。「何だか大人があわてふためいていて、おかしかった」と、地震が恐かったという記憶は、あまりなかったよう...
『A Child’s Garden of Verses』(R.L.Stevenson、THE PROJECT GUTENBERG EBOOK、1885)
『子どもの詩の園』(ロバート・ルイス・スティーヴンソン)本書は『宝島』『ジキル博士とハイド氏』などで知られる著者による児童詩集で、病弱だったという著者の子...
【本】池澤夏樹『また会う日まで』|海軍軍人・天文学者・キリスト者、秋吉利雄の3つの顔
池澤夏樹の歴史小説『また会う日まで』をご紹介します。池澤の大叔父秋吉利雄は海軍軍人・天文学者・キリスト者の3つの顔を持って、大正期から太平洋戦争敗戦までの激動の時代を生きました。3つの顔の混ざり合い、せめぎ合いを綿密な資料調査を元に描く、読み応えたっぷりの作品です。
池澤夏樹「熊になった少年」(スイッチ・パブリッシング) 「ゴールデン・カムイ」という漫画を読んでいると、アイヌの人たちにとっての「熊」の存在が、かなり詳しく描かれていて、そこがこの漫画の面
池澤夏樹「パレオマニア」(集英社)「2004年《本》の旅(その6)」
「2004年《本》の旅(その6)」 池澤夏樹「パレオマニア」(集英社) これも「2004年《本》の旅」と銘打って案内している、過去の案内のリニューアルシリーズ。沖縄からフランスへ行ってしまった
ちょうど十年前、ぼくは高校生に向かってこんな「読書案内」を書いていた。高校生の歴史離れ、無関心が本格化する中で、特攻賛美まがいのロマンチックな小説が流行し、総理大臣が腹痛を理由に職を投げ出したころだ
気温が上昇していくにつれて、当ブログもすっかり夏モードに突入。ハワイ、沖縄、バリ、カオハガン……と、南の島を題材にした作品が続くなか、今回は池澤夏樹さんの『南の島のティオ』(1992年/文春文庫)をピックアップしました。 さまざま人生が交錯する島の物語 『南の島のティオ』は、池澤さんが初めて子ども向けに書いた連作短編集。南の島に住む少年が、小さなホテルを営む父を手伝いながら、ひと癖もふた癖もある旅人や島民と出会ったり別れたりしていく10編の物語です。 もともとは季刊誌『飛ぶ教室』(祝・創刊40周年!)で連載され、1992年に同誌の版元である楡出版より書籍化された本著。現在は、児童文学作家の神沢…