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1980s 洋楽★創作物語 https://1980s-y-s-m.hatenablog.com/

1980年代ロンドンが舞台のバンドデビュー物語。あの頃の曲が登場します!イラスト描くの20数年振りで、物語も絵柄も一昔前・・・( ˘ω˘ )

ブログに登場予定の曲はコチラ↓ YouTubeリスト〔随時更新中〕 https://1980s-y-s-m.hatenablog.com/entry/2022/01/15/YouTube_list

usagiara
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2023/06/08

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  • No.5-014 Don't Be Scared (章末)

    「もう終わりだ、なんて思うなよ?」ヤスが真剣な表情を向けた。 僕はいつまでも歌っているトニィを遠目に 『例え目の前に壁が立ちはだかっても、僕等は決して負けはしない』 そんな歌の意味を噛み締めた―― ★ ★ ★ 清水の舞台から京都の街を一望しているとマークがサングラスを外し眩しそうに呟いた。 「ウォルターに見せたかったな……」 あれからカナダの更生施設に入ったウォルターは身体はすっかり回復したものの、依存を断ち切るための治療は続いているそうだ。 でも、その施設で出会った10歳も若い看護師さんとステディな仲になり、ボランティア活動に力を入れて充実した日々を過ごしているという。 「その方が、ウォルタ…

  • No.5-013 Don't Be Scared

    feat. Crowded House そして、久々に5人揃ったバンドは思い切り演奏を楽しんだ。 ――ああ、これ、この音と一体感なんだ、求めていたのは! メンバー全員がそれを噛み締めていると確信した。許されるならマークには本当に早く戻って来て欲しい。 「待ってるよ、マーク」 笑顔を見せる皆んなの姿が強く胸に残った。 ◇ ◇ ◇ マークがウォルターを連れカナダへ帰国して数日後、僕等はスティーブンのオフィスに集まっていた。 「もちろんジェム、君が無実なのは分かっている。しかし知っての通り今ノーマンレーベルの内情は非常に厳しく、イメージダウンやスキャンダルになる事は極力避けたいと、非常にナーバスな状…

  • No.5-012 Don't Be Scared

    「急に連絡よこしてスタジオ貸せって、お陰で予約してたバンドに『機械の調子が悪い』とか何とか誤魔化して、キャンセルさせる羽目になったんだぞ⁉︎」 「サンキュー、ライリー! 分かってんじゃん」 「このクソガキが! 変わらず元気そうじゃねぇか」 スタジオ・オーナーのライリーとマークが、お互い叩き合いながら抱擁を交わしているのをバイトを無断欠勤となってしまった僕は、バツの悪い思いで眺めていた。 するとライリーが 「おめーはよく、警官ボビーの言いなりにならなかったな? 思いのほか気骨があるじゃねーか! 見直しだぞ、頑張ったな」 そう笑いながら大きな手で僕の頭を揺らした。 恥ずかしさと嬉しさで目頭が熱くな…

  • No.5-011 Don't Be Scared

    feat. Big Country 「仕方ねーだろ」 マークはビッグバーガーを頬張った。 『シャバの旨い飯でも食いに行こうぜ! 社会人のオレちゃんが、奢ってやるよ』 そうドヤ顔で言われて入った店は世界中どこでも安定供給のファストフード……美味い飯? 「フィッシュ&チップスより断然、旨いだろうが⁉︎」 「やっぱハンバーガーは、最高のご馳走だよな!」 アメリカ(トニィ)とカナダ(マーク)の2大『ビッグ・カントリー』に徒労を組まれちゃ適わないよ? [Big Country『In a Big Country』Released:20 May 1983] でも、2人と一緒に食べれば不思議とご馳走になる。 …

  • No.5-010 Don't Be Scared

    pick out: EastEnders 「僕は無実だ」もう、説明する気も起きない。 「普段フラフラしてるから、こういう目に遭うのよ! 警察沙汰になるなんて――」 ほら見ろ、息子が無実かどうかなんてどうでもいいんだ。親の顔に泥を塗られたことに御立腹で口角泡を飛ばしている。 「聞いてるのジェームス!? フレッドにまで怪我させて! Aレベル[大学入学資格試験]前の大事な時期でしょう⁉︎」 それに関しては深く反省している。 「少し落ち着きなさい」 ステイシーをなだめるミスターに疑問を投げた。 「2人とも、ニューヨークに居たはずじゃ?」 「ああ、深夜の便で帰って来た。フレッドから大体の話は聞いている。…

  • No.5-009 Don't Be Scared

    feat. Tears for Fears 「動くな! 全員止まれ!」 心配したジョージが、警官を連れて様子を見に来てくれたんだ。 男は裏口から逃げ去り僕はヤスが伸ばした手を掴むと必死に叫んだ。 「病院に早く! フレッドが――」 ◇ ◇ ◇ それから1時間、僕は取調室でイラつきを抑えられずにいた。 「だから、何度説明すれば分かるんですか⁉︎」 「あれはジェムの物じゃない。あの場に落ちてたのを拾っただけだ!」 ヤスの必死の説明も真面目なロンドンのお巡りさんは聞いてくれなかった。 あのとき拾ったドラッグの小袋を持っていたせいで、疑いをかけられてしまったんだ。 もちろん、僕がドラッグをやっていないこ…

  • No.5-008 Don't Be Scared

    pick out: Bronski Beat 僕等はセント・ブライアンズの1階入り口までやって来た。 店の看板は外されていたけど外側からは、何ら変わった様子は見受けられない。 扉に鍵は掛かってなかったのでゆっくり寂れた暗い階段を下り地下入口のドアを開けると、甘い異臭を感じた。 元々ライブハウスやクラブではアルコールや煙草と同じようにマリファナ程度のドラッグは珍しいものではないけれど、今のこの状況はそんな類の物だけではないと容易に察せた。 ぼんやりとしたフットライトを頼りにそのまま受付、そしてスタッフルームの前を進むも人の気配は無い。 不意にヤスが足元の感触に気付きそれを拾い上げ、僕に手渡した。…

  • No.5-007 Don't Be Scared

    feat. The Stranglers 「君達こそ希望の光だ。君達なら世界を手に入れることができると、そう信じている――」 そのままウォルターは静かな寝息を立てた。 僕等はそっと病室を後にするとドクターが待ち受けていた。 「彼は警察が保護してきたんだ。失礼だが君達とは、どういう関係だろうか? 家族の方と連絡を取りたいんだが――」 僕は皆んなと視線を合わせると、躊躇いつつ答えた。 「僕等は、彼のライブハウスでお世話になってました。最近は店に行ってなかったから、彼がこんな状態だなんて知らなかったんです」 「ウォルターがジャンキーだなんて、信じられない!」 「ドラッグに溺れるような人じゃ、ないと思…

  • No.5-006 Don't Be Scared

    「だけど、売った相手が悪かった」 溜め息を吐きジョージは続けた。 セント・ブライアンズを奪ったのは表向きは再開発で暴利を目論む不動産業者だったが、その実バックに付いているのはある闇組織のシンジケートだと噂されている。 ウォルターはセント・ブライアンズを最後まで守ろうとしていたけど度重なる営業妨害に客も出演者も離れてしまい抵抗虚しく、彼等のいいように扱われているという。 「オレは音楽から離れてしまったし、もう駅の向こう側に行くこともないから、この目で確かめたわけじゃないが……」 とても信じられない話だった。ウォルターは、今どうしているのか?なぜ連絡が付かないのか? 僕等の気を察したジョージが「今…

  • No.5-005 Don't Be Scared

    feat. Depeche Mode 「実は色々あって、デビューが伸びちゃったんだ」 僕等は事の流れを説明した。 「そうだったのか……まあレーベル側の思惑はともかく、こっちとしては〝Depeche Mode〟じゃないが、掴めるものは掴んでおきたいね。何事にもタイミングというものはある」 「『全てのことに意味がある』 よね? きっと、もっと良いタイミングで、デビューできるはずよ」 [Depeche Mode『Everything Counts』Released:11 July 1983] 励ましてくれる2人に感謝し、トニィが本題を切り出した。 「ジョージ、去年会ったとき話してたよな? セント・ブ…

  • No.5-004 Don't Be Scared

    feat. Everything But the Girl 「どうぞ入って」 2人はドアを開け僕等をフラットに招き入れるとジョージは、うとうとしているベビーをそっとバスケットに寝かせた。トニィが中を覗き込む。 「可愛いね、男の子? 女の子?」 「男だよ、名前はエリック」 「ギターの神様と同じだね⁉︎ 将来はジョージパパを超える、名ギタリストになるかな?」 僕の台詞に、ジョージは軽く微笑んだ。 「できればコイツには、真っ当な道を進んでもらいたいけど」 「あら、私達は真っ当じゃないって言うの?」 アンは呆れながらティーポットとカップのセットをテーブルに置いた。 僕からすれば、2人は〝Eurythm…

  • No.5-003 Don't Be Scared

    「誰かサポートに入ってもらうとか?」トニィはそう言ってフレッドの顔色をうかがった。 曲はともかく、詩の大半を書いているフレッドには気を使ってしまうみたいだ。 「……僕達の曲を、メンバーじゃない人に弄られるのは嫌だよ。アイディアを盗まれたくないしね」 案の定、ムスッとするフレッド。Aレベル[大学入学資格試験]が近いせいか、イラついてるな。 僕は彼の肩を軽くさすってご機嫌を取った。 「オリジナル曲じゃなければ、サポートしてもらってもいいんじゃない? たまには息抜きも必要だよ」 しょんぼりとしていたトニィがパッと顔を輝かせた。 「だったら久々に、セント・ブライアンズで演らないか? ウォルターに頼んで…

  • No.5-002 Don't Be Scared

    pick out: G.I. Orange そら面白い! って皆んなで一生懸命木の箱を振っている姿が笑えるな。外国人観光客が多い京都はおみくじも、ちゃんと英語で書いてあるんだ。 「見ろよこれ?『大吉』だってさ!」マークは引いたおみくじを得意気にヒラヒラさせる。 「僕は『中吉』、北の方角がラッキーだって」フレッドも嬉しそうだ。 「私は『末吉』だ。これは、どのぐらい良い結果なんだい?」とスティーブン。 「オレは『吉』だった。ジェムは?」 「トニィと同じ『吉』だよ。悔しいな『大吉』狙いだったのに」 そして皆んなの視線はおみくじを紐に結ぼうとしているヤスに注がれた。 「あのさー、こんなのはお遊びなんだ…

  • No.5-001 Don't Be Scared

    清水寺、金閣寺、平安神宮 etc.――一日中オフをもらった僕等は待ちに待った二度目の京都見物にテンションを上げていた。 前回プロモーションで来日した時は番組収録を兼ねていたから観光らしい観光はできなかったけど、今日は自由に回れるってことで皆んな凄く楽しみにしてたんだ! 東京のハイテクな街並みも面白いけどやっぱり京都の、このエキゾチックな雰囲気には魅了されてしまう…… 僕は買ったばかりの日本製カメラでフィルム代のことも忘れあちこちシャッターを切って回った。 好奇心一杯のマークが 「うぉー! すげぇエキサイティング! ヤス、あれは何だ!?」 と、そこら中を駆け回り同行のカメラマンが困ってるよ。マー…

  • クリスマスは自宅で

    物語に入れられなかった アーティスト・楽曲シリーズ〔第7弾〕 クリスマスは当日より イブの方がメインって印象なのは 1980年代後半のバブル時期、 恋人達が主役に躍り出てから……? シャンパンで乾杯の豪華ディナー 夜景の美しいシティホテル プレゼントはブランド品の数々―― そんなトレンディーな方々の様子を TVや雑誌で垣間見つつ クリスマスは本来、家族で過ごすもの と鼻息荒くした英国かぶれの自分が 一番好きなクリスマス・ソングは クリス・レアの 『ドライビング・フォー・クリスマス』 一見、恋人達がイチャラブしながら ゲレンデに向かう(←色々混ざったw) ドライブ・ソング? と思ったけど 原題は…

  • No.4-029 Lost The Way (章末)

    「そんな時間あんのか⁉︎ また強引にプロモ入るんじゃねーの?」 「縁起でもないこと言うなよ!」 〈バサッ!〉 マークを小突いたトニィの振動で僕がシートに置いていた手紙の束が落ちてしまった。それをフレッドが拾いつつ 「まだファンレター読んでんの? 車の中で、よく読めるね……僕は気持ち悪くなっちゃうよ」 と呆れながら手渡してくれた。Thank you ! 「だって溜まっちゃってさぁ、昨日読めなかったから」 手紙の山を軽く叩くとマークが覗き込んできた。 「これってファン・レターってよりも、ラブ・レターだよなぁ?」 「オレなんか凄いの貰ったよ!『トニィ、第二夫人でいいから結婚して♡』って、もうルイスの…

  • No.4-028 Lost The Way

    feat. The Cure ゲートに向かって歩き出した2人にフレッドは手を振りながらほっこりとして呟いた。 「なんだかルイス、綺麗になったみたい。穏やかで満たされてる感じ……? きっと好きな人と一緒にいるからだね」 「欲求不満、解消されただけだろ」 鼻で笑うヤスの前に不意にルイスが踵を返して舞い戻って来た。ギクッとなる一同。 ルイスはヤスの正面で立ち止まると 「今度会う時までに、少しはレディへの接し方を学んでおきなさいね?」 そう言って、ヤスの頬にキスしたんだ! 「それはあんたの方が、先ずレディにならないと――痛っ!」 ヤスの腕を軽く小突いてルイスはクスクス笑いながらトニィの後ろに隠れた。 …

  • No.4-027 Lost The Way

    「泊めるならジェムん家ちの方が、広くて余ってる部屋あんだろ⁉︎」 そう、ルイスはヤスの家で世話になることになったんだ。 「だって僕の家は基本フレッドと僕の男2人だけだから、いつ始まっちゃってもおかしくな――痛っ!」 僕の下品な冗談にトニィの鉄拳が飛んだ。彼は僕を押し退けヤスの両手をガッシリ握ると大きく上下に振り出した。 「すまないなぁ、ヤス。君の家なら超〜安心さ!」 「あ〜らヤスアキ、私が居たら迷惑かしら?」ルイスが横目でヤスを見る。 「恭章、何してるの⁉︎ 寒いんだから、早くリビングに上がってもらって?」奥からユミコの声がして仕方なくルイスを手招きするヤス。 そんな2人を見て、ほくそ笑んでい…

  • No.4-026 Lost The Way

    feat. Deniece Williams 甘くキスを交わす2人にいつの間に集まっていたのかギャラリーが〈ヒューヒュー♩〉と口笛を鳴らし、拍手を送っていた。 誰かが 『男の子に声援を送ってあげて!』 [Deniece Williams『Let’s Hear It For The Boy』Released:February 14, 1984] と大きな声を出すと口々に2人に応援の声がかかり一斉に歌い出したんだ! そういえば、このホテルアメリカ人観光客の御用達だっけ。そりゃ『フットルース』で盛り上がるわけだ。 その様子に背中を押されたのかルイスは恥じらいながらトニィの耳元で囁いた。 「今日こそ、…

  • No.4-025 Lost The Way

    feat. Eighth Wonder 「でも、デビューがどうなるか分からないし……」 トニィはルイスを抱き寄せるも一人前になる見通しが立たないのに軽はずみなことはできないと、頑なだ。 それに関しては僕も気が気じゃなくて気休めも言えずにいたけれど。 「オレが待たせてる間に、君に相応しい人が現れたら――」 「相応しいって、何⁉︎」 ルイスは鋭い視線を送った。 「だったら私の方こそ、バンドマンの彼女として失格よね? 音楽の事なんか全然わかんないし、嫉妬深いし我慢も足りない。トニィの彼女に相応しくないでしょ!?」 「そんなこと、関係ないよ!」 「そうよ、関係ないのよ!」 ピシャリと言い放つとルイスは…

  • No.4-024 Lost The Way

    feat. Samantha Fox カクカク揺れる僕を尻目にフレッドがクスッと笑う。 「大丈夫だと思うよ? ルイスの方も〝その気〟なんじゃないかな!? あのスーツケースの中の高級そうなランジェリー、セクシーなドレスにブランド物の化粧品なんて、気合い十分――」 「見ないでよ⁉︎」 振り向くと、真っ赤な顔したルイスが立っていた。 「化粧品は、お姉ちゃんの会社のサンプル品だから」 別に気張ってるわけじゃないと憤慨するルイスの後ろに棒立ち状態のヤスもいたのは驚いた。 安堵のトニィが立ち上がり「良かった、心配したよ」とルイスを抱き締める。 そんな2人にフレッドは 「だって、スーツケースをあんな風におっ…

  • No.4-023 Lost The Way

    僕等の方はフレッドが買ってきてくれたドリンクを飲みながらホテルのロビーのソファに埋もれていた。 トニィの隣に座った僕は彼の様子をうかがいつつ、訊いてみた。 「昨日のトニィは、トニィらしくなかった。ルイスの前では、いつもあんな調子?」 「……どうしていいか、分からないんだ」 彼は項垂れ頭を抱えるも身を起こして、話し出した。 「ルイスとは同い年で家も隣同士だから、いつも一緒に遊んでいたよ。彼女は面倒見が良くてああいう性格だから、オレは怒られてばかりいたけどね。愛らしい彼女は近所でも人気者で、オレも一緒にいるのは嬉しかった。でも、いつからだろう」 顔を曇らせ溜め息を吐くと 「ルイスはとても綺麗になっ…

  • No.4-022 Lost The Way

    「と、とにかくLAに帰るんだ! オレ達のことは大丈夫だから」 「なんで⁉︎ こんな時こそ側にいたいのに、どうして分かってくれないの?」 2人のやり取りで察した僕は思わず口をついて出てしまった。 「もしかして、まだ⁉︎」 もしかすると僕は、トニィより先にルイスのヌードを見ちゃったのかもしれない……(Oh God !) ◇ ◇ ◇ 次の日の夕方慌てた様子のトニィから電話が掛かってきて、僕とフレッドはトニィが待つルイスの宿泊先ホテルへ向かった。 ロビーには「ルイスと、はぐれた」と青ざめた表情のトニィが立ち竦んでいた。 昨日のことで、デート中に話し合っていたらルイスが怒って駆け出して行き雑踏の中に消え…

  • No.4-021 Lost The Way

    僕はヤスの頭を、軽く小突いた。 「まさか学校の女の子にも、あんな態度じゃないだろうね? そんなんじゃ彼女できないよ!?」 「あんなウザイ女に比べたら、クラスのお喋りな女子達の方が、まだマシじゃん」 ヤスの奴、鼻で笑ってるよ。 そして勢いよくドアが開きトニィとルイスが戻って来た。何か揉めてるみたいだ。 「もう知らない、トニィのバカ!」 「とにかく最初の予定通り、明後日の便で帰るんだ!」 珍しくトニィが大声を出し、僕は慌てて2人の側に駆け寄った。 「どうしたんだよトニィ、ルイス泣いてるじゃないか⁉︎ ルイス、両親にOKもらえなかった?」 ルイスは首を横に振る。 「ママは理解してくれたわ。でも私、も…

  • No.4-020 Lost The Way

    僕等は帰る気にもなれずだからといって何をできるわけでもなくその場に、たたずんでいた。 そんな重々しい空気の中とうとうルイスが口を開いた。 「ちょっと、皆んな元気出しなさいよ?」 しかし、彼女に応える者はいない。 「まさか、デビューできないってわけじゃ、ないんでしょう?」 ルイスはトニィの袖を引っ張っるも、彼は深く考え込んでしまっている。 「……駄目なの? ねえ、どうなの⁉︎」 そんなルイスにヤスの堪忍袋の緒が切れた。 「うるせーなっ、少し黙ってろ!」 「あんたの方が、うるさいっつーの!」 僕は溜め息一つ、なだめるようルイスに説明した。 「仮にデビューできたとしても、それだけで成功できるわけじゃ…

  • No.4-019 Lost The Way

    「なんなの、あの態度⁉︎ ちょっとは認めてくれても良くない?」 口を尖らせてトニィに訴えるルイスに反応してヤスは意地悪そうに笑った。 「へえー、俺に認めてもらいたいんだ?」 次の瞬間、ルイスはヤスの足を勢いよく踏んだんだ! 「だ、大丈夫かヤス⁉︎」焦るトニィに 「……別に」と顔色一つ変えないヤス。 だけど休憩時間トニィとイチャついてるルイスを見て彼女には分からない日本語でずっと悪口を言ってたんだ。(ヤスって冷静なのか陰険なのか、分からない) とにかくこの2人は、すっかり犬猿の仲となってしまったみたいだ。 この後も僕等は順調に進めていき全てが上手くいっていると思えたのに突然、予想外のトラブルが起…

  • No.4-018 Lost The Way

    pick out: Japan ヤスはルイスを睨み声を荒げた。 「うるせーな! 俺達はプロとして色々考えてるんだから、邪魔すんな」 「なーにがプロよ? まだデビューしてないクセに」 「ドシロウトに一々、口出しされたくないね! 単純にその音を入れるだけじゃ駄目なんだ、バランスの問題なんだから」 「バランスを調整するのが、プロの仕事なんじゃないの⁉︎ プロならやってみなさいよ、チャイニーズボーイ」 「ジャパニーズだって言ったろ⁉︎ もう老化現象かよ!」 僕とトニィは、お互いの幼馴染同士のバトルに唖然となり手が付けられず、2人のバトルは続く。 「あんたみたいな頭の固いガキに、言われたくないわ! ジャ…

  • No.4-017 Lost The Way

    「別に。ただ、あの手の女は気に入らない。あの甘えた甲高い声も虫唾が走る」 ヤスにしては、珍しく感情的だ。そこへスティーブンが2人の男を連れてやってきた。 「紹介しよう。彼が米国本社の重役広報部長レッド・レイノルズだ。そしてこちらは、プロデューサーのチャールズ・カーツ君だ」 スティーブンの話では、レッドは先ず僕等の写真に目が止まりデモを聴いて興味を持つと直ぐ英国支社に連絡したそうだ。そして、ロバートとの経緯を知ると新進気鋭のプロデューサーチャールズに白羽の矢を当てた。 僕等が2人の前で演奏するとレッドもチャールズもバンドの才能を確信してくれたんだ。これでロバートは、お払い箱さ! 早速、心機一転ス…

  • No.4-016 Lost The Way

    フレッドの学校は共学だからクラスに可愛い子がいるかもしれないしね!? 「好きな子ぐらい、いるんだろう?」 僕の執拗な突っ込みに観念したのか真っ赤になりながらも、話してくれたよ。 「恋……かどうかは分からないけど、忘れられない女の子はいるよ」 「へえ〜どんな子⁉︎ その子、今どうしてる?」 好奇心いっぱいにそう尋ねると 「さあ……どうしてるだろうね。その子はダッドと住んでいた時、仲良くしてたんだ。ほら、前に話したでしょ? 僕にキーボードを教えてくれたガキ大将のサム、あいつの妹なんだ。でも――」 うつむいていた顔を上げ遠い目をして 「僕、彼女を傷つけちゃったんだ。謝る間もなく彼女達は引っ越して行っ…

  • No.4-015 Lost The Way

    feat. Thompson Twins 「ルイス、いつまで居られる? 両親にOKはもらってるよね?」 「来週末ギリギリまで居るつもりよ。トニィに会いに行くって言ったら、パパもママもお姉ちゃん達も喜んで見送ってくれたわ。Ohトニィ! 感動の対面を、やり直しましょう⁉︎ 会いたかったのよ」 と、いきなり抱き付くルイス。 「オレだって会いたかったよ!」トニィもしっかり抱き返した。 さっきまでの緊迫感は、どこへやら?突然の甘い空気に面食らってると 「ちょっとあんた達、気を利かせなさいよ⁉︎」 ルイスに睨まれてしまった。 「あ、ごめん、ごめん」 僕等はトニィにウィンク一つ残し、慌ててフラットを後にした…

  • No.4-014 Lost The Way

    pick out: Pretty in Pink 「そんなブス、私の方が全然キレイだし、スタイルもいいっつーの!」鼻息を荒くするルイス。 思わず彼女のヌードが脳裏に浮かび納得して顔を赤らめる僕の背中を、フレッドが気の毒そうにポンポン叩く。 その様子を見たルイスはさっきまでの勢いはどこへやら、躊躇うように呟いた。 「じゃあ、この2人ってことよね⁉︎ トニィがロンドンに留まっている理由は……バンド、デビューするんでしょう?」 「この2人だけじゃないよ⁉︎ 後ヤスと、今はカナダだけどマークもいるし、スゲェいいバンドなんだ!」 トニィは嬉々として言ってるけどそういうハナシじゃないと思うよ。 「……もう…

  • No.4-013 Lost The Way

    feat. Bananarama 「私が悪いって言うの?」 ルイスのひと睨みで大きく首を横に振るトニィ。 「いや……何でわざわざ……急にこっちに来てくれたのかと……も、もしかして――」 しどろもどろな様子にルイスはイラつき遮った。 「もしかして『もうオレのこと好きじゃない』とか『オレに別れを言いに来た』とか、言うんじゃないでしょうね?」 どうやら図星みたいだ。顔を引きつらせるトニィにルイスは凄い迫力で詰め寄る。 「私が! ただトニィに会うためだけに! わざわざロンドンに来ちゃ、いけないって言うの⁉︎ っていうか別れ話なんかで、わざわざロンドンまで来ないっつーの!!」 「ご、ごめん。でも電話して…

  • No.4-012 Lost The Way

    「――感謝祭」 僕等はハッとなった。そうだった、アメリカではサンクスギビング・デーの連休になるんだっけ。 「感謝祭に帰ってこないなんて……おば様も、がっかりしてたわよ?」 鋭い視線を向けるルイスにビクつくトニィ。なんだか、この2人からは甘い雰囲気が微塵も感じられなくて恋人同士に見えないんだけど……? トニィはご機嫌を伺うようルイスに話しかけた。 「あの、夏は会えなくて残念だったよ」 そういえばトニィは短いサマーホリデーにLAへ帰ってたんだっけ。 ルイスは無言で、舐めるように部屋を物色している。僕等兄弟は固唾を飲んで2人の様子を見守っていた。 おずおずと喋り出すトニィ。 「ボビーから聞いたよ、バ…

  • No.4-011 Lost The Way

    僕はルイスをなだめなきゃと変に焦ってしまった。 「大丈夫! トニィとあの人は何でもないよ、害はないよ?」 「あったり前でしょ⁉︎」彼女は一睨みして話を続けた。 「それでトニィからの手紙を頼りに、ここに来てみたの。詳しい住所は知らなかったけど、写真を見せたらタクシーの運転手さんが良くしてくれて……」 そういえばトニィがまだロンドンに来たばかりの頃、あちこち写真を撮りまくってたっけ。確かに家の前でも皆んなと写った覚えがある。 「でも、どうやって家に入ったの?」フレッドが怪訝な顔をする。 「チャイムを鳴らしたら女の人が出て……事情を話したら、中で待ってていいって言ってくれたの。彼女急いでいたみたいで…

  • No.4-010 Lost The Way

    「どうしたの⁉︎」 慌てたフレッドがバスルームに顔を出した途端、彼は顔面にシャワーのミサイル攻撃を受け、カーテンの影から見知らぬ若い女性が甲高い声で怒鳴ってきたんだ。 「何よあんた達⁉︎ レディが入浴中にスケベ! チカン! エッチ!」 僕は一瞬(本当に一瞬!)彼女のヌードを見てしまい驚いてよろけて倒れちゃってもう頭の中はクラクラ!何が何だか分からないうちにフレッドが引っ張って起こしてくれた。 びしょ濡れになったフレッドもしどろもどろだ。 「そ、それは悪かったけど、でも君は誰⁉︎」 「あーもう、分かってるから早く出てって! 私が出られないじゃない!」 僕等は慌ててその場を離れると濡れた服を着替え…

  • No.4-009 Lost The Way

    スティーブンを連れてきてくれたヤスには感謝するよ。 もし、あの音を聴いた時スティーブンがいなかったら僕等だけでは、対処できなかったに違いない。フレッドも吠えるどころか固まってしまっていたし…… 僕は心底、フレッドに悪いことをしたという気持ちで一杯だった。 暫くすると、ウェイターがやってきてスティーブンに電話だと耳打ちした。 重苦しい空気の中、食事を進めていると電話から戻ってきたスティーブンがさっきまでとは違った明るいトーンで話し始めた。 「皆んな、朗報だ! ノーマンレーベル米国本社が、君達に興味を持ってきたぞ。重役広報のレッド・レイノルズが、君達に目を付けたんだ。レッドとは旧知の仲だ。早急にア…

  • No.4-008 Lost The Way

    「オレが思うに、一度ロバートの言う通り演ってみたらどうだろう? 1曲だけでいいから。そうすれば彼のやりたがっていることが分かるし、それが本当にオレ達に合ってるかも、解るんじゃないか⁉︎」 このトニィの意見を聞いて僕とフレッドは顔を見合わせると勢いよく彼に飛びついた。 「なんてグッド・アイディア!」「君は僕等の新たなリーダーだ!」 「おい、2人とも離せよ!? 首しめるなって!」トニィは照れて真っ赤になった。 彼は僕より7ヶ月ほど年下だけど大柄な体格のせいか頼り甲斐がある印象だ。安心できるお兄さんタイプだから誰にでも好かれるアメリカン・ボーイなんだ。 そんな彼が、密かに悩みを抱えていたなんてこの時…

  • No.4-007 Lost The Way

    「こんなの落ち着いてられないよ! ジェムがそんな奴だったなんて、がっかりだよ」 そう言われて僕も黙ってる筈がない。 「お前こそガキなんだよ。自分の理想ばかりで、周りの状況が見えてない。ロバートの、第三者の意見だって、ちゃんと聞くべきだ」 「聞いてるよ⁉︎ 聞いてて気にくわないから言ってるんだ。ハッキリ言わせてもらえば、ロバートの音は僕達には合わないよ。僕は自信あるんだ。僕達の音じゃなければ、売れっこないってね!」 「2人とも、兄弟ゲンカはやめろって! おいヤス、何とかしてくれ?」 トニィが助けを求めるも 「くだらないね」 そう呟くと、ヤスはスタジオから出て行ってしまった。頭を掻きむしるトニィ。…

  • No.4-006 Lost The Way

    feat. Culture Club - Time(Clock Of The Heart) フレッドの方もかなり気が立っていた。 「ロバートのやることに、疑問を感じないの!? 彼の作る音を気に入ってるの?」 「別に、そういうわけじゃないけど……良い時も悪い時もある、そういうもんだろう」 そう、あっさり答えると彼は怒鳴ってきたよ。 「僕達のデビューアルバムなんだよ⁉︎ 最高のモノを作りたいって言ったじゃないか! 良くも悪くもあるだなんて、良いモノしか認められない……100%じゃない、200%の力を出すつもりじゃなきゃ駄目なんだよ!」 こうなると、熱血少年にはウンザリしてくる。 「だけどこれ以上、…

  • No.4-005 Lost The Way

    feat. XTC - Dear God 「だからロバート! この詩の持つ意味を分かってるって言うなら、どうしてここに、そんな音を入れるの⁉︎」 「分かってないのは、君の方だよフレッド。ここは、もっと早いテンポで左右に振り分けないと、新鮮さが失われるだろう⁉︎ 君の音に対する考えは少々古いようだな。まだ若いのに残念だ」 「あー、また始まった……」 僕もトニィもウンザリしていた。休日も返上になってしまいヘンリー達スタッフも逃げ出すレベルだよ。ヤスだけは、2人のバトルを無視してサッサと次のサックスパートを進めているけどね。 僕はトニィの隣に座ると大きな溜め息を吐いた。 「まるで〝XTC〟並じゃない…

  • No.4-004 Lost The Way

    「ジョージが言ってたんだ。セント・ブライアンズは、たくさんのミュージシャンをバックアップしていて、金銭的に厳しい状態が続いてる。このままだと経営が危ないって。オーナーとウォルターの間も危ういらしい」 皆んな一瞬、言葉を失いフレッドが戸惑うように呟いた。 「ウォルターには、いっぱいお世話になってるし、何か力になってあげられるといいんだけど……」 「俺達にできることって……なんだろう?」 「……とにかく、先ずは良いアルバムを作ろう」 「そうだな!」 トニィも納得し、僕等は改めて決意を固めた。 ◇ ◇ ◇ それから暫くして、スティーブンがアメリカからロバート・ネルソンというプロデューサーを連れて帰っ…

  • No.4-003 Lost The Way

    feat. Eurythmics それにスティーブンが 「私が米国本社に行っている間に、ファーストアルバムの準備をしておいてくれ」 なんて言うもんだから遊んでいる暇なんて無かった。ファーストアルバムだものやっぱり最高のモノを作りたいんだ! 「おーい、開けてくれ?」 トニィとヤスがユミコからの差し入れを持って部屋に戻って来た。 「やったー! オニギリ、オニギリ♩」 僕がすかさずパクつくとフレッドも急いで手を伸ばす。 「ずるいよジェム、僕もツナがいい!」 トニィもグリーンティーをすすりながら、オニギリを頬張った。 「いつも悪いねヤス。君の家は、すっかり The Starlight Night 専用…

  • No.4-002 Lost The Way

    「電話も早かったし、さては振られたな?」 「何とでも言えよマーク。彼女は長電話するタイプじゃないんだ。なのに『全英No.1おめでとう』って、わざわざ電話をくれたんだよ。優しいだろ?」 今頃〜⁉︎ なんて突っ込みは聞いちゃいない、デレるトニィ。そのパン、何個目? 「でも本当は、一緒に来て欲しかったでしょ?」 フレッドが心配そうにトニィの顔を覗き込むも 「まあ彼女は学生だし、しょうがないよ。それに、日本の次はLAだから」 来週には会えると、嬉しそうだ。 「あ~あ、オレもちゃんと彼女つくろうかなぁ」 マークの奴、今のは本気マジだな。ちょっと探りを入れてみようか。 「それは良い傾向だね。で、君の好みの…

  • No.4-001 Lost The Way

    朝食を食べにレストランに向かう途中フロントのお姉さんがトニィを呼び止めた。 「先程ルイス・ミッチェル様から、お電話がございまして――」 「えっ、ルイスから⁉︎ ジェム、キー貸して!」トニィは慌てて、部屋へ戻って行った。 The Starlight Night の中では今のところトニィだけがステディな彼女持ちなんだ。信じられる⁉︎ 別に皆んなモテないわけじゃないのにね!(多分) 僕はブッフェからシリアルとコーヒーをセレクトして 「朝からラブ・コールか、羨ましいね」 とボヤキつつ、席に座った。朝は、あまり入らないんだ。 フレッドは、美しく盛りつけられた皿を両手に持って 「今、LAは何時だろうね? …

  • リラックスできない!?

    物語に入れられなかった アーティスト・楽曲シリーズ〔第6弾〕 今年のGWは有給を取って 9連休にしたのは 旅行や帰省ではなく ただただ、休みたかったから バタバタの年度末を乗り越えたものの 肩こり腰痛、むくみ、疲れ目が酷くて ここでリフレッシュ&リラックス しとかなくちゃね! で、思い出す 『リラックス』ってタイトルなのに 怪しさ全開で 全然リラックス感のない曲 フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの『Relax』 ボーカルのホリー・ジョンソンが ゲイなのは当時から知っていたので この曲が、男性同士の行為の際 「リラックスしなよ」っていってる 内容だからと分かり、納得w 世界中で大ヒットしたも…

  • No.3-032 Believe In(章末)

    「あー撮影だけは、どうも苦手だ」 ぐったりしているマークを見て、タナベさんがクスッと笑う。 「紙面でしか君達に会われへん、たくさんのファンのために頑張らな!」 「でもインタビューって、どこも同じ様なこと聞かれるし……」 そう溜め息を漏らすヤスの肩を軽く叩きながら僕も頷いた。 「そうだよね。逆に僕等の方から、インタビューしてみたいもんだよ?」 「おっ、それイイじゃん! ねぇ君、電話番号は? 今晩、空いてる?」 すかさず、タナベさんに言い寄るマーク。 取材から逃げようとしたクセに彼女が若くて美人だと知ったらコレだよ、現金なヤツ! トニィは笑ってるけどフレッドも「そんなのインタビューじゃなくて、ただ…

  • No.3-031 Believe In

    feat. Howard Jones - Things Can Only Get Better 「ジェム、有難いけどそれは――」 マークの言葉を遮り話を続けた。 「君の言いたいことは分かる。僕等だって、この先どうなるかなんて分からない。このバンドが成功する保証なんて無いんだ。でも約束する、僕等は The Starlight Night を No.1 にして見せる」 トニィ、フレッド、ヤスも深く頷いている。動揺するマークに、僕は詰め寄った。 「だから君も約束して欲しい。絶対に、また僕等の元に戻ってくると――」 「そうだよ、音楽の道を諦めちゃ駄目だよ!」とフレッド。 「ベースはその時々で、サポート…

  • No.3-030 Believe In

    「ポールに相談した結果、この中でオレ達に相応しいと思うのはノーマンレーベルだ。なんたって母体のノーマン・ミュージック・レコードは、アメリカが本社の巨大なレコード会社だしな。ただ、契約金が他所に比べるとイマイチで――」 「君達が私をマネージャーとして雇ってくれたら、ノーマンレーベルの契約金を倍にしてあげよう」 そう言いながらドアを開けて入って来たのはポールの友人、スティーブンだった。 彼の言葉に、皆んな驚きを隠せなかった。 スティーブンは若い頃ポールのいた世界的に有名なバンドのサポート・ミュージシャンとしてポールと共に世界中を駆け巡り、音楽業界のことを知り尽くしていた。 ステージから離れた後は活…

  • No.3-029 Believe In

    「取り敢えず、シーケンサーという手はあるけど……」と僕。 「でも機械の音なんてな……」とトニィ。 「変わりの奴を探さ――」とヤスが言い終わらないうちにフレッドがテーブルを揺らした。 「そんなこと、できないよ! 僕は絶対認めない。マーク以外のベーシストなんて」 「じゃあ、ベース無しで演れって?」ヤスはフレッドの方を見向きもしない。 「だって、だってさ⁉︎ マークは辞めたくて辞めるんじゃないのに『ベースは君じゃなくても、いくらだっているよ』って感じで、やるせないよ」 憤るフレッドに構わずヤスは続けた。 「このバンドはマークがいたから生まれたんだし、彼が実質的なリーダーでもある。だからこそ彼を失った…

  • No.3-028 Believe In

    するとウォルターが気付いたように、まくし立てた。 「そういえばジェム、君も彼女はいないのかい? ちょっと小耳に挟んだけど、界隈で有名なグルーピーの娘としけこんだらしいって、ここの常連のリズ達が憤慨してたぞ⁉︎ 遊びが過ぎると誠実なファンを逃すから、気をつけた方がいい」 僕は慌てて、その場を誤魔化し店を後にした。 確かに、あのセクシーな子に押されるがままそうなっちゃったことがあったんだけど、マークには「シロウトが手を出す相手じゃねーよ」って、呆れられるしヤスには「趣味悪っ」って、ケーベツの視線を向けられフレッドも怒っちゃって、暫くの間口を利いてもらえなかったからトニィが庇ってくれて助かったんだ!…

  • No.3-027 Believe In

    そしてマークはいつものように戯けて見せた。 「ふだん口煩い姉貴がさ、だまーってんのがスゲェ怖かったけど、でもライキーに出るのはOKもらったから。オレのラストステージ、成功させてくれるよな⁉︎」 「もちろんだよ!」皆んな口々に声を上げた。 バンドからマークがいなくなるなんて考えもしなかったし、こうしていつもと変わりなく演奏しているとライブが終わった後は、マークのいないThe Starlight Night になるなんてとても信じられなかった。 ◇ ◇ ◇ ライブ前日、僕は開店前のセント・ブライアンズを訪ねてみた。 ウォルターはカウンターでドリンクの補充をしながら話してくれたよ。 「マークはあれで…

  • No.3-026 Believe In

    「オレの親父、小型船を扱う小さい会社の社長なんだ。社長ったって、ただの飲んだくれジジイだけどな。 オレも海は嫌いじゃないけど優秀でしっかり者の姉貴や病弱で年の離れた弟に比べるとオレは出来損ないでさ、親父の後を継ぐなんて微塵も思わず遊んでばかりいた悪ガキだ。 親父に反発しては殴られる、そんな日々が続いていた頃ウォルターがオレん家ちの居候になった。 プロのミュージシャンを諦めた彼はスタジオ経営に失敗して奥さんにも逃げられて…… 落ちこぼれ同士のオレ達は直ぐに気が合いオレはウォルターの影響で音楽を始めたんだ」 ウォルターと音楽を演っていた時は聞き分けが良かったとマークは笑う。 「だけどウォルターは『…

  • No.3-025 Believe In

    「うわっ、何だよ⁉︎」驚き慌てるマーク。 トニィがマークの背中から両腕を押さえると僕は彼のTシャツの左側の袖を勢いよく肩まで捲った。 「タトゥーあった!」歓声を上げるメンバー。 マークの左腕には、彼の大好きなダークヒーローのシンボル、コウモリが描かれていたんだ。 ヤスが隠し持っていたアルバムをマークの目の前に差し出すと彼は両手で大きく頭を抱えた。 「おーい勘弁してくれよー! トニィ、お前だな? コイツがLA出身だって聞いた時から、いつかこんな日が来るとは思ってたんだ。えーい、コイツめ、コイツめっ!」 マークがトニィを小突いて皆んな大爆笑!そんな和やかな雰囲気の中重々しい表情のウォルターがやって…

  • No.3-024 Believe In

    feat. Def Leppard 「マークだ!」叫ぶフレッド。 そこには、金髪ロングヘアでトレードマークのサングラスをしている今の姿からは想像も付かない派手な恰好をした16歳のマークがいた。 しかも袖を引き裂いたTシャツから覗く左腕に見えるのはタトゥー?そんなの、あったっけ⁉︎ 「ブラッディ・レイン……聞いたことないバンドだ」ヤスもアルバムを手に取って繁々と眺める。 僕は中身をプレイヤーに乗せて音を出してみた。 すると〝IRON MAIDEN〟や〝Def Leppard〟も呆れそうな程の強烈なドラムと切り裂くようなギター音が瞬時に放たれ、思わず絶句! 「ブラッディ・レインって、最近LAで人気…

  • No.3-023 Believe In

    すかさずマークは、ポケットからデモテープを取り出した。スティーブンも驚いたようだ。 「これは用意がいいな。早速、聴かせてもらうよ」 そして遠くから彼等に声が掛かると 「じゃあライキーでのライブ、頼んだよ。詳しい話はマネージャーにさせるから」 「ライキーでの君達のプレイ、楽しみにしている」 そう言い残し去って行く2人を見送ると皆んな一斉にマークを見た。 「デモテープを用意してくるなんて、凄いな」 「デモテープぐらい、いつも持ち歩いてる。いつチャンスが来るか、分かんねーからな」 相変わらず事を鮮やかに進めていくマークに感嘆の溜め息が漏れた。 僕は次の日『バージンレコードロック年間』と『メロディーメ…

  • No.3-022 Believe In

    レジュームとは、最近ロンドンで話題になり始めたロックバンドだ。 「ゴシップ誌で読んだことある。今でこそ人気のレジュームだけど、以前サイドトークと契約して酷い目にあったって」 ヤス、ゴシップ誌なんて読むの⁉︎(ユミコの資料らしい) ポールが、真剣な表情で説明してくれた。 「この世界で成功するには、大手のレコード会社と契約した方が断然有利だ。どこぞの落ちぶれたレーベルや出版社と契約しても、売れないだけじゃなく評判まで悪くする。そうなると、レジュームのように成功するのは、難しいんだ」 「やっぱり、いくらオレ達が頑張っても、レコード会社とプロデューサー、それと優秀なマネージャーが必要なんだ」マークも頷…

  • No.3-021 Believe In

    そういうのに疎い僕は「ポール・エドソンのライブは最高!」なんてことを口にしながらポールが来てくれるのを待ち侘びるばかりだった。 やっと姿を現したポールだけどあちこちの関係者に挨拶して回っている。 ポールはマネージャーから何やら耳打ちされると不安げな僕等に気付いたようで人の波をかき分け、来てくれた。 「やあ、楽しんでるかい?」 彼の笑顔を見て皆んな、ようやっと安堵した。 「そうそう、君達にお願いがあるんだ。来月はライキーでプレイするんだけど、君達にその前座を勤めてもらいたいんだが、どうだろう? もう一組、前座を増やしたいと思ってたところなんだ」 Club1000 より、更に大きなライブ会場での要…

  • No.3-020 Believe In

    マークの合図でステージに立つと皆んな無我夢中で演奏した。まばらだった歓声がだんだん津波のように押し寄せてきてあっと言う間の15分だった―― 「終わったー!」 ステージを降りて興奮冷めやらぬまま楽屋に向かって歩き出した。すると 「君達のステージ、なかなか良かったよ」 そう一人の男が、拍手をしてくれた。 「「ポール・エドソン!」」 僕等は驚き、声を上げた。 なんと、このステージの主役60年代から活躍するビッグ・アーティストのポール・エドソンが直々に声を掛けてくれたんだ。まさか彼が、僕等の演奏を見てくれたなんて! 大体、彼のようなアリーナクラスの大物が、こんな小さな箱で演ること自体信じられないのに!…

  • No.3-019 Believe In

    ユミコは軽く頷き 「やっぱり、イギリスに戻ってきて正解ね。日本だと足並み揃えないと厳しいけど……」 とテーブルに置かれた書類の山を揃えながら話を続けた。 「今、日本は経済的に過度期にあるみたい。仕事も原稿料も、どんどん増えてるの。お父さんが遺してくれたものもあるし、恭章が直ぐ大学に行かなくても構わないのよ?」 「でも、祖父ちゃんが――」 困惑するヤスにユミコは笑顔を見せた。 「自分の人生なんだから、自分が納得するまで全力で取り組んでごらんなさい? 大丈夫! 恭章なら、この先どこを目指そうと何をしようと、道を誤ったりしない。お父さんの子だもの」 ユミコが肩を抱いて励ますとヤスは小さく頷いた。 「…

  • No.3-018 Believe In

    帰り道、ずっと黙り込んでいたヤスが意を決したように口を開いた。 「ジェム、頼みがあるんだけど」 僕とフレッドはその足で岡部家に向かった。 「あら、2人とも久し振りね?」 笑顔のユミコが、出迎えてくれた。 ユミコの淹れてくれたお茶で喉を潤すと、Club1000 でのライブの話を切り出しヤスの出演許可を求めた。 「そう、あの Club1000 で……」ユミコは感慨深げに頷くとソファに沈んでいる、神妙な面持ちの息子を見つめた。 ユミコの意外な反応に僕は意表を突かれた。 「Club1000、ご存知でしたか?」 「まだ結婚する前ロンドンに来た時、主人と何回か行ったことがあるのよ。あそこはジャズのライブで…

  • No.3-017 Believe In

    feat. Pet Shop Boys - West End Girls 「よーし、気合い入れてこうぜ! Club1000 で成功すれば、レコード会社の目に止まる、千載一遇のチャンスだ!」 マークの掛け声で皆んな張り切って準備を進めた。 そして熟考を重ねたセットリストに合わせ一通り演奏し終わると 「そろそろ一息いれようか?」とトニィがスナックを配り出した。 僕はそのスナックを手にしたままマークとフレッドが曲間について意見を戦わせているのをぼんやり眺めていると 「またやってるな、あの2人」トニィは僕の手からスナックを奪いそれを頬張りながら、隣に腰を下ろした。 「マークにやり込められてる、弟が心配…

  • 新しい年へ、セイル・アウェイ!

    物語に入れられなかった アーティスト・楽曲シリーズ〔第5弾〕 明けましておめでとうございます 去年の今頃は物語を完成させて ブログにしてみようと 試行錯誤していたかと思うと ほんと一年なんて、アッという間です! すっかりブログにも慣れたところで 早速、新年に相応しい80年代洋楽をと 思考を巡らせてみたものの 脳内リストはU2一択(笑) 検索しても、New Yearの曲って あまりヒットしないのは 向こうの方々はクリスマスが主流なので 新年には特に思い入れがなく 曲も無い……といった感じ? そこで、新しい年=スタート として選んだのは エンヤの『オリノコ・フロウ』 (Orinoco Flow) …

  • No.3-016 Believe In

    するとライリーから「空いている時間なら構わねーぞ」とスタジオ使用の了承を得たんだ。 マークの社交性の高さには、脱帽だよ! さっそく、僕とマークとトニィでデモテープ作りに取りかかり休日にはフレッドとヤスを呼んで完成を目指した。 デモテープが完成した頃にはマークが少しでも場慣れするようにと他のライブハウスにも出演するようになった。 こんな感じで僕等はバンドが生活の中心となって月日が流れていった―― ◇ ◇ ◇ バンドを結成して、もうすぐ一年。 マークに呼ばれた僕等はセント・ブライアンズに集まっていた。 約束の時間に現れなかったマークは1時間も遅れてやって来た。僕等が怒るより前に大声で叫びながらね。…

  • No.3-015 Believe In

    ちょっとしたフレーズや小曲なら僕も今までいくつか作ってきたけどちゃんとした作曲となると経験があるのは、マークだけだった。 なので、開店前のセント・ブライアンズに集まりマークに色々教わりながら何とか形にしていった。 問題は〝詩〟 ここで、またもや弟の新たな才能が発覚したんだ! 「えっ、詩ったって、あんまりちゃんとしたヤツじゃないよ?」 フレッドが照れながら見せてくれたノートにはラフなイラスト(女の子の絵⁉︎)と共に、細かいフレーズがいくつも散りばめられていた。 ここからアイディアを集めれば歌詞として、まとまりそうだ。 でき上がった曲をウォルターに聴いてもらおうと僕等は彼の前で演奏してみた。 「う…

  • No.3-014 Believe In

    feat. Echo & The Bunnymen - The Killing Moon 少なくとも、昨日マークに追い立てられなければ鍵を閉め忘れることもなく今ここで、トニィに会うことは無かっただろう。 「じゃあバンド名は、スターライト・ルームにする?」と僕。 しかし、ヤスが少し考えてから口を開いた。 「いや、なんていうか……スターライト・ルームって一種の象徴だろ? それよりも俺は今日この日の、この夜の神秘性を感じるんだ」 「スターライト・ナイトだ!」僕は声を上げた。 「スターライト・ナイトか……うん、なかなかロマンチック! 女の子に受けそうじゃん?」〈ヒュー♩〉っとマークは口笛を吹いた。 「…

  • No.3-013 Believe In

    「君達、ドラマーいらないか? 昨日ずっと見てたんだけど、途中でベースの奴が入ってきただろ? オレだってドラムがあったら、飛び入り参加したのに!」 彼は悔しそうに拳を振って話を続けた。 「君達が此処から出て来たときに声を掛けようとしたんだけど、あっという間に行っちゃっただろ? ずっと気になってて……で、来てみた」 「だからって、何もこんな時間に来なくても」呆気にとられる僕等を見て彼は恥ずかしそうに説明した。 「実はフラット・メイトに追い出されたんだ、打音がうるさいって。でもなんだか無性に叩きたくて、此処なら大丈夫かな〜なんて」 そして、頭を掻きつつ自己紹介。 「オレはトニィ・ダスティ。先月LAの…

  • No.3-012 Believe In

    そういえば、昨日慌ててマークに付いて行ったから門の鍵を閉め忘れていたこと、今頃になって気が付いた。 僕等が端の方から恐る恐る様子を伺ってみると男は荷物をほどき何かを組み立て始めた。 あれは……練習用のドラムパッド⁉︎ 空が橙色に染まる静寂の中スティックのカウントが鳴り響く。ぼんやりとした街灯がスポットライトのようだ。 ――なんて、なんて楽しそうに演奏するんだろう。まるで本物のドラムの音が聞こえてくるようで、すっかり惹き込まれてしまった。 彼の動きが止まると僕等は迷わず拍手した。 「うわっビビった! 人がいると思わなかった」彼は驚きの声を上げスティックを重ねて振り向いた。 明るいブラウンの小ざっ…

  • No.3-011 Believe In

    feat. The Smiths - This Charming Man 「ジェム、落ち着きなよ⁉︎ 物に当たるのは良くない!」慌てるフレッド。ヤスも呆れている。 「僕は落ち着いてるよ⁉︎ 君らに八つ当たらないだけ、十分落ち着いてるっ!」 そんな僕にフレッドは溜め息を吐いた。 「ねえジェム、いい加減あの2人のことは、気にせずいようよ? それに僕、意外だなと思って――」 「何がー⁉︎」僕は勢いよく振り返った。 「ギルだよ。あの人、普段僕達に関心ないみたいなのに、ちゃんとジェムのこと見てるなって……」 「俺も思った。仕事できる人なんだって、分かる気がする」ヤスも頷く。 「はぁーっ⁉︎ 2人とも何言…

  • No.3-010 Believe In

    「駄目だと言っても、君達はやるだろう? ただ、まだ未成年なんだから、勉強に差し支えない程度にしておきなさい」 「僕は成人[18歳]している」 と言おうとしたらフレッドが制して笑顔で応えた。 「ありがとうございます!」 仕方なく僕も小声で「どうも」と言い部屋を出ようとした。すると 「ああ、それとジェームス」ミスターが新聞を閉じた。 「9月からの学校が決まったようだが、ビジネスカレッジも検討しておきなさい。ギャップイヤー※という手もある。そうすれば就職先の伝は、いくらでも用意できる」 ※高校や大学の入学前から就職するまでの間を利用して、ボランティアやインターン、海外留学などを経験するための猶予期間…

  • No.3-009 Believe In

    僕等は昨夜のステージの余韻が残るままバンド名やステージ映えする曲のアイディアを出し合っていたんだ。(至って健全でしょ?) 気付けば時計の針はもうすぐ20時になろうとしていた。 「お腹空いちゃったね? 何か作るよ」 フレッドが立ち上がり、僕とヤスも手伝おうとキッチンに向かった。 皆んなで作ったサンドイッチをパクついてると、フレッドの愛犬ビーグルのティックルが尻尾を振っておやつを催促してきた。先住猫のベルは、窓際の定位置であくびをしている。 程なくしてドアが開きステイシーとミスターが帰って来た。 「え、今日は帰らないはずじゃ……」僕が軽く舌打ちすると 「予定変更よ。フレッド、ティックルを退けてちょ…

  • No.3-008 Believe In

    「僕、キーボードなら、少しできるけど?」 フレッドが手を挙げた。えっ⁉︎ 「ダッドと住んでた頃に演ってたバンドの、キーボードだった友達に教わって……あんまり上手くないけどね」 照れ臭そうに答えるフレッド。キーボード? バンド?そんなこと、初耳だよ! 「それならジェムもバッキングできるし、曲の幅が広がりそうだな!」 前のめりになるマークを見てウォルターが嬉しそうに声を掛けた。 「そういえば、この前ジョン達のバンドのオーディションに、アメリカ訛りのドラマーが来てたな。6.2フィートはありそうな長身で、なかなかの男前だった。ジョン達とはスタイルが違ったけど、君達とは上手くいくかもしれない。連絡してみ…

  • No.3-007 Believe In

    「あのガーデンで演ってたのと、同じでいいんだ。大丈夫、初めは誰だって初心者だ!」 ウォルターがドラムのスティックでカウントを取るとマークのベースがルートを刻みフレッドのギターとヤスのサックスで、イントロが始まる。 そして、わずかに震えた僕の声がマイクを通して、会場中に響き渡った。 気付けばパーカッションやホーン、コーラスの女性陣までステージに上がり会場中が踊り出した。 無我夢中で演奏し終わると僕等は客席から、拍手喝采を浴びた。ステージを降りるとマークが笑顔で肩を叩いてきた。 「あの反応、聞こえるだろ?」 放心状態の僕等を見てマークはケラケラ笑い出した。 「おいおい、大丈夫かよ?」 「いいね君達…

  • No.3-006 Believe In

    feat. Kate Bush 僕等はマークに引っ張られステージの正面を陣取った。 先ず、パンクっぽいバンドの演奏からスタート。シンプルながらも激しいビートで掴みはOKだ。 次は女性ヴォーカル。幼げなルックスの割に独自の世界観で歌い上げる様は〝ケイト・ブッシュ〟を彷彿とさせる。 気が付くと、次から次へと入れ替わり立ち替わり常連達で盛り上がっていた。 フロアにいる何人かが、慣れたようにステージに上がっている。もちろんマークも、その一人だ。 もう、どこまでが客だか演奏者だか分からない。ハードロックから弾き語りまでまるで音の洪水だ。 かつて僕が BAD MOUTH で演っていた空間とは、全然違う。こ…

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1980年代ロンドンが舞台のバンドデビュー物語。あの頃の曲が登場します!イラスト描くの20数年振りで、物語も絵柄も一昔前・・・( ˘ω˘ )

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