一隅を刻む
山寺の鐘つく僧は見えねども四方(よも)の里人時を知るなり‐二宮尊徳翁どこのだれかは知らないけれど、誰もがみんなが知っている時間。一人暮らしの爺さんが限界集落で一人ひっそりと亡くなりました。あるじを失ってもおじいさんの古い時計だけは、時を刻んでいます。爺さんがいなくなって、残飯にあり付けなくなった鼠が時計に言いました。「馬鹿だなあ、誰も見る者はいないのに、何だって動いているんだえ」「人の見ていない時でも動いているから、いつ見られても役に立つのさ」と時計は答えました。「人の見ていない時だけか、又は人が見ているときだけに働いているものはどちらも泥棒だよ」鼠は恥ずかしくなってコソコソと逃げていきました。hommage/夢野久作一隅を刻む
2025/01/12 23:05