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#自作小説
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【残039話】聖なる血の裁き(5)
「うぐっ?」 リーディアの行動が理解できないのか、男は初め訝いぶかしげに顔をひそめていた。だがすぐに膨張した花びらを鋭い牙が掠かすめると、男の口から大量の血が溢れ出した。 エルフェリスから吸い取った赤い血が。 リーディアはその時を見計
2024/09/23 12:51
自作小説
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リーダーで読む
3-1
翌朝、慌しく体温と体調が入念に調べられる。僕はなすがまま。食事は水分だけを許された。そして、起床後、一時間で入れ替えが行われる手術室へ僕らは運ばれた。 「目をつぶってください、はい、楽にしててくださいね。はい、大きく息を吸って、深呼吸ですよ」最初に視覚が失われ、次に嗅覚、そして触覚、最後に聴覚だ。声は意識を失う直前まで聞こえていたように思う。結局、昨日のうちに答えは出なかった。もしかするとそれほど、昨日が思い出せなくても僕は生きられるのかもしれない。そういった解釈を残して、眠りに落ちた。他人の寝息が気になる前に眠れただけでも、合格点をあげたいぐらいだった。 僕の頭の情報を取り出して、新しい頭、…
2024/09/23 06:20
2-2
それからだ、僕は彼女との出来事を気に留め始めたのは。 僕はポケットからタバコを取り出した。一連の動作、一本を口咥えるところでぴたりと動きを止めた。灰皿と喫煙の許可を探ったのだ。 「どうぞ、気にしないで」女性がコーヒーを運んで、僕に許可を与える。カウンターに手を伸ばして、二本の吸殻が残された灰皿を彼女はテーブルに置いた。よく見ると白いテーブルはところどころシミや焦げ痕がある。 「いいんですか、禁煙では?」 「いいのよ。あなた以外にお客がいるとしたら、足の生えていない人だわ」細めた目で彼女は微笑んだ。「入れ替え?」 「ええ、明日が交換です」 「ここへは、入れ替えに来る人がほとんど、普通のお客はうー…
2024/09/22 05:19
2-1
カウンターとテーブル席が二つ、スタッキングチェア、カウンターはもちろん背の高いスツール。 「いらっしゃい」髪の長い女性が温かみのある声で出迎えた。テーブル席が一つ空いていたので、そちらへ座る。外は道路反対の遠くの丘陵が見える。夕日と朝日の赤が似合いそうな風景を脳内で思い描く。 メニューはコーヒーとオレンジジュースとアップルパイとミートパイの四種類。アクリルの薄い壁面に閉じ込められたメニュー表。 「すいません」僕はカウンターに顔を向ける。「コーヒーを」 「コーヒーね」女性はたぶん僕よりも若いか同年代ぐらいだろう。人のことを詮索したのは結婚前の彼女のときから数えて二年と六ヶ月と二十二日。彼女との記…
1-3
考え事に耽り、僕は病院を離れた。駐車場に僕の車が見える。黄色いスポーツカー。だけど、車には乗れない、これも検査での決まり。歩くことを望んでいた、こっちへ来てまで運転で気分を晴らそうとは思ってはいない僕である。スロープを降りた、左右どちらへ歩こうか選択に迷う。 左を選んだ。 病院へはひっきりなしに車が流れ着く。皆一様に陽気、空は晴れ渡り、オープンカーで風を感じられる時節だ。車にはハンドサインを返した、これで喜んでくれる。エネルギー消費に換算すれば、無駄でも受け入れられる。そうやって物事を処理しなくては。不本意だ、生まれてからずっとだろう。動物に話しかけることに比べたら、僕はずいぶんまともだと思う…
2024/09/21 06:18
【夜想曲05話】黒の胎動
Dream5.黒の胎動 赤き月よ、出でよ。 そしてこの大地を染めてしまえ。 白き月などもはや不要。 我れが望むは黒の月なり――。 どこかで何かが妖しく蠢うごめいていた。 地底なのか、はたまた地上なのか、それすらも分からないい暗い
2024/09/20 22:22
ただいま試作中!【おすすめアプリ診断】 小説
こんにちは「ほゆむん」です😊いつもいいね、フォロー、リブログ、コメントありがとうございます励みになります🥰このアプリ診断ですが、この前から連結作業を一部…
2024/09/20 16:01
1-2
会社の定期健診は僕のメンテナンスのおかげで、スペック入れ替えは未体験。それでも彼女のためならと、こうして今に至る。家族はスペック検査と入れ替えには立ち会えない決まり。だから、病院内に活気溢れる会話は一切聞かれない。僕にとってはありがたいことである。 服装は自由とは言いがたいが、着物のような前を合わせる上着と下は締め付けがない寝巻きと運動着の中間、程よいゴムの感触。足元は素足にサンダル、サンダルは自宅の下駄箱から引っ張り出した数年前の代物。有効的な活用を見出せないまま、見ないように奥へ押しやったサンダルがやっと日の目を見た。海水浴に行かない限りは、履く機会にめぐり合えない。夏の到来、あるいは海外…
2024/09/20 05:25
1-1
昨日はスペックの入れ替え検査に、丸一日を費やす。新築ビルのような病院を上から下まで行ったりきたり。僕を含めた三名と一緒に入れ替え検査を受診、今日の休息を挟み、明日が入れ替えの本番というわけである。肉体的な修復の前日は、外出などはもちろん、病院内を歩き回ることや飲食の有無も制限されるが、スペック入れ替えに関しては病院ビルの半径一キロまでならば、外出の許可が下りていて、食べ物も固形物以外は決められた時間内の摂取は問題がないらしい。 検査、一日、入れ替え、というスケジュール。 僕は初めての入れ替えであった。友達から検査の内容は聞いていたので、心構えはできているつもり。だけれど、やはり不安は拭えないら…
2024/09/18 15:57
9-4
長々と綴った文章に終わりを告げた、手が痛くなったのだ。手帳を閉じて、つかの間の休息に浸る。飛行機はやはり得意になれない、ひどい揺れ。まもなく、着陸。アナウンスだ。初めての土地である。今日も自宅の目覚めは快調だった。機内に高揚感が漲る。非現実を取り戻すために、異世界が、日常が私に変換される。あの人は暮らしているだろうか、そろそろ建物が完成する時節。もう忘れよう、私の居場所ではない。目を閉じてリセット。ぐっと手を握られた、隣の女性にである。見覚えのある顔、いいや、どこにでもいる平凡な横顔。目を閉じた表情はかつてに、誰かに似ていた。そう思えたら、私はまた一つを取り戻した。 おわり
2024/09/17 15:00
【残038話】聖なる血の裁き(4)
「しかし俺たちも見くびられたモンですよね、まさかドールなどから指図されることになろうとは」 この場の緊張感とは正反対の軽さを含んだその声に、リーダーらしきあの赤目の男は大きく欠伸あくびをしながら面倒そうに同意した。その言葉に、エルフェリス
2024/09/17 08:28
9-3
雨が落ちてきた。門を出た直後である。雨に濡れて、最寄り駅までを目指す。連休の最終日、出歩く人は少ない。私には好都合の環境、適合者を探すにはもってこいだ。肩口が濡れ始めた頃に最寄り駅に着く。進路を変更、今度は線路に沿って次の駅、自宅を目指した。事務所には帰らないつもり。 濡れることに厭わなくなって、 寒さに震え、 歩く速度が低下し、 私を守る私が表出を許され、 考えがまとまった。 あの土地、星が丘の線路を見下ろす土地の適合者は登場人物から選んだのだ。しかし正確には、雨の中で決まったわけではなく、後日当人に関する資料を集め、吟味を重ねた。売買の正式な決定は数週間後のこと。それでも雨の中で掴んだ直感…
2024/09/16 06:31
4.その名で呼んだらブッ飛ばす
Dream4.その名で呼んだらブッ飛ばす かくして最初の目的地は決まったワケだが、同時に私はぐうぐうといびきをかいていた。 しかも夢の世界にいるというのに、ご丁寧にもまた夢を見ていた。 そして朝。 いつもの如ごとくでなかなか起きない
2024/09/15 21:21
9-2
ぐるっと、家の周りを嘗め回すように観察する。松の木だろうか、緑が一段と色濃く映えた植物が歩道にはみ出して日光を遮る。塀は低層ながらも植えられた大木によってどこも敷地内はまったく見えない。裏側にも通用口があった、こちらが駅へ向かう方角。住人の出入りはこっちに分があるのか、調月は裏口を通り過ぎて、また正面に戻り、早見の所在を確認した。本人が出るわけもなく、お決まりの冷徹な声が聞こえた。留守のようである。用件を訊かれた、土地売買に関しての要件で訪ねた、と言い返す。 「その場でお待ちください。お渡しするものがございます」なんだろうか、調月は想像を働かせる。まるで開く扉を待ちわびるかのように地面に靴底を…
2024/09/15 06:31
9-1
二日目にして散策を楽しむ。しかも東京で。願った状況といえばそれまでか、調月は軽く息を弾ませて歩行速度を弱めた。大胆に予測を立てた方角と看板の示す位置表示と距離数では、もう目的地周辺のアラームは鳴っているはずだ。建物が多く、それも旧型のビルが立ち並び、隙間にはクレーン車がわんさか。覆われた背の高い工事用のウォールが完成までのこの一体の外観の役目を担っているらしい。遠くが見えなく方向感覚が鈍る。 現れた坂道に惹かれて上った先に下り坂が待ち構え、その下に低層のマンションが見えた。霞む石に刻まれた文字に接近、予感を確信に変える。あった。調月は同胞を見つけたように手を取り合うように、石の文字をぺしぺしと…
8-3
「直感でも構いません」 「答えても?」時差式の信号が視界の隅で点滅。 「もちろん」風が通り抜ける。砂埃が舞い上がって、ビニール袋が生き物みたいに交差点でダンス。 「お売りできません」 「そう」彼女はほっとしたように調月からは見えた。「身の程を知ったわ」 「私からも質問を」調月はここで他者の価値に影響を受ける自分に興味抱いた。「私に選ばれることのどの辺りに価値を見出すのでしょうか?」 「資金的、社会的な地位を獲得したら、次に何を求めるのか。やはりそこはこれまでの価値や立場にさらに磨きをかける。面白みは十分に堪能しつくし、価値の見出し方、世の中の仕組み、人間という生き物の生態を知りえた。後は残りは…
2024/09/14 07:17
8-2
忙しさをあの土地に当てはめてみるが、めまぐるしい都会だからこそ、成立する体を酷使した稼動に思えるのは、私だけだろうか、調月は街中で立ち止まる人物、いつもその脇を通過する世界を外部を内部と思い込める意識の人物に変容していた。 「そうですか、それでは」私は立ち去りを希望した。 「独断にも何らかの法則は必ず存在する、私の考えですが、調月さんは外面的な要素が判断の基準には組み込まれない、あえてそうしていないよう思います」言葉を切った早苗。「お答えください」 調月はいやに真剣な彼女を数秒眺めて口を開いた。「人の外部は内面の現れである。両方を一度に取り込もうとすると、混乱とひずみが生じる。私は器用な人間で…
2024/09/13 05:43
8-1
早朝。暑さで目が覚めた。一瞬、場所の把握に混乱した気分が味わえた、調月は合格点を与える。今日は連休の最終日だ。人の出方が少ないことを祈ろう、とはいっても、車での移動を考えていない調月である。二つの訪問先は近所であり、さらには一軒目の早苗のマンションが近郊の駅から徒歩五分圏内と、乗り換え案内で知れた。調月が使用する端末の目的はほとんどが、この乗り換え案内である。他のサイト情報を収集するための利用にはまったく使われていない。使う必要がない、といったほうが正しいか。私の感覚で生きているのだから、それに従うまで。 午前九時に家を出て、早苗のマンションに辿り着いたのが十時前。電車は空いていて、しかし私は…
2024/09/11 17:01
【残037話】聖なる血の裁き(3)
「二人とも殺して良いと言われているんでね」 男の中の一人がそう言って、白い牙を覗かせた。 「誰の差し金ですの……」 そんな中、ようやく息を整えたリーディアがゆらりと立ち上がり、エルフェリスを庇かばうように一歩前へ進み出た。 満身創痍の
2024/09/11 14:07
7-2
「少ない?まわりくどい、はっきりと言えばいいのに」 「言っているつもり」 「お二人ともそれ以上しゃべると私はあなた方を残して車から降ります」 「この人が言い出したことなんだから、機嫌を直してちょうだいよ」 調月は会話を無視して早野にきく。「早野さんの自宅はこの辺りでしょうか」 それからは、彼女の指示を聞くだけで、それ以外の質問には一切答えずに早野を下ろして、次に早瀬を自宅まで送る。しかし、彼女は自宅までのルートをよく覚えていない、いつもの違う道で迷ってしまったと、嘘のような言葉を並べて車内の滞在時間を延ばしていたが、私は早瀬の住所を辿り、一切の確認を要求せずに目的地までたどり着いた。大きな邸宅…
2024/09/11 06:25
3.夢の世界ラルファール
Dream3.ラルファール 兎とにも角かくにも、行動を起こすにはこの世界に対するある程度の知識が必要だろうということで、どっぷり日が暮れるまでクライス先生による歴史と社会の講義を受けた。 背後にはセシルド。 欠伸あくびひとつしようもの
2024/09/09 15:01
7-1
サムズアップで歩道に立つ女性は見覚えのある人物だった。早野に債権譲渡を持ちかけ、土地の獲得から身を引くように迫った早瀬である。日傘を差して歩道に立っている。おそらく、こちらを監視していた。だが、ここを通ることを予測できたとは思えない。本来私が通るはずのルートを選んだ場合に、到着時刻はさらに現在から二時間は遅れる。また、調月は早野に捕まらなければ、既に自宅に引き返していたのだ。これらの要因から早瀬は調月の行動を見張っていた、と予測した。 「どうも、奇遇ですね」わざとらしく早瀬は口を開いた。私は助手席の窓を開ける。 「狙っているくせに、芝居ならもっとうまくやってちょうだいよ」 「あなただって偶然を…
2024/09/09 05:34
6-3
「ダメですよ、折角ですから食べなくては。それにおいしいと社内でも評判なんです、今もって来させますから」早野はデスクの受話器に告げる。「開発商品のあれ持ってきって、全部よ、いますぐにね」 断ったが、結局は食べるはめに。しかしやはり、食べきれない。食べ残しは今日中の消費を約束のもと、持ち帰りに彼女とは手を打った。姪への良いお土産になる、と調月は対処を考え付く。それから早野の接待攻勢は続く。割引券から、それこそ無料で最安値のハンバーガーが購入できる権などを数十枚。私の車にナビがついていないことを彼女は見つけていて、入り組んだ場所だから絶対に迷う、自分を助手席乗せろと言ってきかない。仕事があるのでは、…
2024/09/08 06:08
6-2
すると、一人の女性が登場した。落ち着いた色合いのスーツを着込んだ女性である。彼女はなにやらお客を別のレーンに誘導した。そこで話を聞くらしい。私の番だ。料金支払って受け取る。店員の女性は再度中身を渡す前に確認、こちらにも確認を求めた。初めて食べるのでどれが私の注文した商品であるか、わからない、私は正直にそう述べた。相手は困惑。また変な人物がやってきたと思ったのだろう、顔が曇ったが、本当に食べた事がないので、と付け加えた。どうしてお客が気を使うのだろうか、調月はやり取りの疑問を早急に破棄、詮索を拒んだ。 レーンを通過、渋滞の列に入り込む隙間を伺う待機時間に、窓が叩かれた。 「調月さん、奇遇ですね。…
【残036話】聖なる血の裁き(2)
「……な……ッ」 エルフェリスは驚愕きょうがくのあまり絶句した。 初めて見る男だった。すらりとした長身に、長く伸びた髪の毛を風になびかせ、まるで先ほどからそこにいたかのようにごく自然に、笑みを浮かべて立っていた。 少しばかり骨ばった顔
2024/09/07 09:15
6-1
公園に停めた車に引き返す調月散歩は名前の通りに散歩を楽しむ。見慣れない風景はやはり心地よく、頼もしい。早道の適合は考えないよう宙ぶらりんで保管する。切り替え、調月は次の目的地、早野の自宅へ車を向けた。快晴。まだ時刻は正午前である。車の数が多く、道路が込み合っている。進んでは止まる。調月はいつも以上に空腹を意識した、ガソリンスタンドで口にしたおにぎりが呼び水となり、満腹に達するまで中枢神経が食事を要求している。仕方なく、最後のおにぎりを頬張るが、それでもやはり満腹には至らず、道路沿いのレストランを探した。低速ために建物は探しやすいが、飲食店の駐車場は込み合う時間帯と重なり、どこも満車である。臨時…
2024/09/07 01:17
5-5
「突き詰めて考える材料には打ってつけです」調月は相手の目を見て、応えた。「即答はできかねます。表向きの言葉ならば、合格でしょう」 「隠し事があると、言いたいのかね?」片方の眉が上がる、そして煙も立ち上る。テーブルのリモコンで空調が動き出した。 「ええ。まったく裏表のない人は、可能性の一つ、僅かな事でも気づけば、言葉にする。私が察していようと、そうでなくともね」 「……人の懐に入るのがうまい、実に上手だ。組織に属さないから身につけた技能でもあるのか」しみじみと早道はつぶやく、深く背もたれに体を預けた。「君の用件、要望の真実もまた隠されていると、君の言い分では可能だ」 「私の指定した額を超える。も…
2024/09/06 05:41
2.奔放王子と生意気従者
Dream2.奔放王子と生意気従者 確かに私は夢見ゆめみが良かった。 内容を覚えているいないはともかく、毎晩何かしら夢を見ていた気がする。 夢は深層心理の現れだとか、眠りの浅い証拠だとか言われるけれど、それでも何も見ないと言うのはつま
2024/09/05 20:22
5-4
深い緑のソファにオーク材のテーブル、左右はびっしりと本棚で埋め尽くされた室内、戸の正面、こちら側を向いたデスクとその背後に木製?または竹のブラインド。天井はシェードがついた照明というよりかはランプに近い古めかしいフォルムがぶら下がる。ざっと室内を失礼なく見渡して、私はソファについた。カリカリとペンを走らせる音である。あまり詮索は無用だ、見えるものだけを忠実に吸収する。 コーヒーが運ばれ、早道が作業の手を止めてソファの対面に腰を下ろした。頬はやせ窪み、髪はほとんどない、いいや、剃りあげているといったほうが正しいか、外見の詮索はこれぐらいに。調月は自己紹介をする。 「存じ上げています、私のネットワ…
2024/09/05 04:24
5-3
「土地売買の件で伺ったと言えばわかるとおもうのですが」私は通常通りの口調で応えた。あまり卑下しても仕方がない。周辺を調べるのは後からでも十分。まずは直接顔を見て、それで大半の事情、相手が抱える現状と必要性の有無で判断をする。周辺の情報は、在宅の場合には面会後の、気が抜けた時節を狙って収集を行うことしよう。 「少々お待ちください」二分ほど門前で待った。待たされた感じはまったく受けていない、むしろ周辺の立地を振り返って眺めていたら使用人に呼ばれたほどである。 家政婦という人種と使用人との違いはその権限の重さにあるだろう。私は仕事柄、人の家での交渉が多く、また取引はほとんどが資産をかなり潤沢に保有す…
2024/09/04 06:09
1.いじける神様
足元に二人の男が転がった。 少し遅れて、金属の乾いた音が虚むなしく響く。 「まったくもう……お陰で遅刻じゃないの!」 恐らくは聞こえてないだろうけど、間抜けな顔で白眼を剥むく男たちに悪態あくたいを付くのを忘れない。 だって分かるでし
2024/09/04 01:40
短剣と夜想曲【異世界転移ゆる系ファンタジー小説】
大人も子供も武装する現実世界から、夢の世界へと召喚された女子高生キラ。 神を名乗るおじいちゃんに助けを求められ、旅の仲間となる二人連れの元へと吹っ飛ばされる。 そこは、人々に悪夢を見せるという夢魔の蔓延る世界。この世界を救わないと、元いた世
2024/09/04 00:50
【残035話】聖なる血の裁き(1)
道なき道をリーディアに手を引かれながら、一歩一歩を確かめるようエルフェリスは進んだ。 月も姿を隠す今夜は異様なほどに静かで、そして何より闇深い。先ほどに比べればだいぶ目も慣れてきたが、それでもやはり不自由さは拭いきれず、時おり地面から這
2024/09/03 00:43
5-2
車から降りて周辺の散策を開始する。早道という名前は歴史上の人物で聞き覚えがあった。家は豪邸よりも屋敷を想像した、歴史書や教科書の類で読んだ、あるいは聞かされた名前である。電柱の住所表示を確認する、手元の住所と見比べる。うーん、まだ距離がありそうだ。足を進める。いきなり番地が増えた。よくあることだ。ここがどうやら境目らしい。すると、道路に即した方角のどちらかに歩くか。調月は行き着いた通りを左折して公園から離れる位置取りを目指す。この近辺は住宅地として開拓された場所だろうか、かなり平坦な立地である。また、古くからの道とは思えない、私が歩く縦の道路に並行した道が伸びていた。かつての道を残しつつ、宅地…
2024/09/02 01:34
5-1
調月散策の車は旧型である上にナビゲーションシステムを取り付けていなかった。購入の際に彼は断っていたのである、販売員の訴えにも屈することなく、彼は取り付けを拒んだ。乗車機会は月に二、三度。必要性は薄い。時間内に目的地に足を向ける場合はおおむね、所在とルートがはっきりした場所にしか車を使わない。自宅から空港への移動もタクシーと公共交通を利用する。 ただし、地理には詳しい。だから、大よその場所は見当がつく。問題は周辺から距離を詰める移動が要、これが移動時間を大きく左右する要素だろう、調月は早道の住まいに車を走らせた。 途中でガソリンを補給する。スタンドの店員に、エンジンの不具合を伝えて点検をお願いし…
2024/09/01 08:19
4-8
「ですから、真剣なのですよ。そしてゲームとして楽しめる。毎回が賭けです。もちろん、人生が破綻しないように安全側に傾くような取引の範囲内、所有に困った土地はひとつもありません」 「私は彼の意見に賛同するよ」早見は重たそうな瞼を持ち上げて、こちらに賛意を示す。 「足を運んでいただいたのに申し訳ありません。私は皆さんに個別の面会を求めていれば」調月は首を振る。「いいや、それでも私は調査を求めて時間をいただいたでしょうね」 「今日の決断は厳しい、決めかねると、そうおっしゃるのね?」まくし立てて早瀬が答えを促す。 「ええ、はっきりと申し上げるべきでした。この場での決断は行いません」 「帰ります」早瀬は封…
2024/09/01 08:18
4-1
国道を越えて山沿いの斜面を足の向くまま、調月散歩は星が丘の町を散策した。端末を本日二度目の操作、午後の最終便のチケットを確保してからは、大よその時間間隔で生きた。当てもなく歩き、行き止まりにぶつかり、進路を変えて、引き返す。傾斜地は閉塞的でつながる必要性は住民にはないのであるから、行き止まりが多くて当然なのだ。四時間ほど斜面を歩き、駅に引き返して地元民に紛れて乗り込む普通電車で車窓を堪能する。空港ではかなり待ったが事務所へは明日の朝までに行き着くのが彼の条件である、今日は家に帰れれば良いのだ。 翌日。自宅から久しぶりに車を出して、エンジンをかけた。バッテリィーは機能している。どれぐらいの期間、…
4-7
「二倍とおっしゃいましたか、あなた?」早瀬が一番に沈黙を打ち砕いた。早野へ資金の倍額を尋ねた。 「二倍です、一・五でもなく、一・八でもなくて、倍です。×二」 「他の方々は梃子でも動きそうもありませんので、あなたに差し上げますよ。持ち帰りなさい、そして二度とこの私の前に姿を見せないと、ここで約束してくれませんかね。どうもすいませんでした、不躾で場違いな私がのこのことやってきてしまってとね」 「使いきれないほどの資産を持つ、それが何、あなたのお金じゃないでしょうに。代々の資産を受け継いで膨らんだ利子で生活しているくせに、どうせあなたの夫が社長の座に収まった。いいえ、もしかするとあなたは都合よくその…
2024/08/31 06:51
4-6
「私が買い上げますので、皆さんはどうかこのお金で引き下がってくださいませんか?」早瀬は白い厚みのある封筒を五つ、テーブルに無造作に置いた。投げたと言い換えてもいいだろう。 「この時勢に一軒家の購入を望む面々にそれぐらいのはした金など、触手が動くはずもないだろう。あなたの立場に置き換えれば、理解が簡単だろうに」早見が隣の女性を直接見ることなく発言した。場が一気に張り詰めた空気に移行する。 「そちらはマンションの債権です。数十年先までの価値を有する優良な物件ばかりを取り揃えました。皆さんが住まれるとは思いませんが、現金に換えると、一部屋を最低五百万と換算しても、ええ、これからの人生をより豊かにそし…
2024/08/30 00:35
4-5
そういえばと調月は立ち上がって、デスクのブラインドを開けた。車がずらりと未舗装路に寄せて止まる。車は三台、残りの二人はどうやって、やって来たのか、タクシーを借りたのだろうか。そうやって考えをめぐらせていると、バイクが一台滑り込む。エンジン音は即座に止められた、気を配れる人物。調月は表に出て、人を迎えた。リビングのあからさまな喉の渇きを訴える仕草に気づいていないふりをするためである。ここは喫茶店でもなく、もちろん相手はお客であるが、私が望んだ会合、面会の場所ではないのだ。 「面会の方ですか?」調月から相手に尋ねた。ヘルメットを取った人物は若く、二十代の前半に見えた。 「ええ、僕じゃないんですけど…
2024/08/29 05:38
4-4
「申し訳ない、昨日土地の購入に関して連絡を入れた早見というが、調月さんの事務所であってるかな、ここは」がっしりとした体格に似合った硬質な面立ち、髪はしっかりと健在、既に現役は引退しているらしく、ネクタイを外したスーツが様になっている。夏用の涼しげな淡い紫である。 「はい、調月です」足元から頭の先まで目線が移動。そして目にたどり着く。いつもの銅線、早見の表情は固い。思ったような人物ではなかったようだ、仕事振りから人を判断するほうがまだましというもの。顔や姿から想像されては困る、すべてを相手に見せているわけではないのだ。調月は、事務所の赤茶けたつやのあるテーブルに案内、そこに他のお客も座らせる予定…
2024/08/28 06:10
4-3
一度にか……、調月は静かに頭を抱えた。 六名が一同に会するスペースは十分だが、椅子が足りない。ダイニングの椅子は一つが子供用の椅子で残りの四脚を確保。あとに二脚か。そうだ、調月は思いだして、事務所を出た、裏庭の倉庫を開ける。キーホルダーに取り付けた倉庫の鍵がやっと活躍の場を与えられたらしい、彼はいつも目に入っても掴もうとしなかった平たい鍵を差し込み、鍵を開ける感触を懐かしんだ。倉庫を開けたのはここを借りて以来だ、譲り受ける前に一度前のオーナーと庭で数分間立ち話をしていた、その時に倉庫の荷物はいくらか年代物で価値のある椅子が入ってるから、倉庫が必要なければ、それを売り飛ばしてくれれば良いと言われ…
2024/08/26 06:07
【残034話】手がかりと甘い罠(7)
「あら、おかえりなさいませ。エルフェリス様」 二人と別れたエルフェリスが自室のドアをゆっくり開けると、窓辺に置かれたテーブルの縁に腰掛けてティーカップを傾けるリーディアに声を掛けられた。 「あれ? まだ寝てないの?」「お帰りをお待ちしてお
2024/08/25 10:46
4-2
冷蔵庫をあけて、お茶を飲み干す。調月の姪が二階の一室で暮らしているが、彼女には食事の権利を与えてはいない。それらは各自が支払う取り決めだった。彼女の飲み物が冷蔵室に見えた。 天井を見上げる、物音は聞こえない。物音が日常的に聞こえるぐらいなら不気味さが漂う事務所であって欲しい。まだ寝ているのだろうか、調月は足を音を無駄に立てて、階段を上がり右手の部屋をノックした。 「おはよう」ドアを二回ノック。聞こえていないのか、寝ているのか。もう一回ノック、今度は大きめに。 「……今日は講義がお昼からなんだってばあぁああ……」だんだん大きく、声がだんだん小さく。講義とお昼という言葉が聞き取れた。 「お客さんに…
2024/08/25 04:22
3-5
「また銀行から、取引額の確認だってさ。もういい加減一日の取引額の上限を引き上げてって何度言ったらわかるんだか、頭の回路がそっくり抜け落ちてんじゃないの?」 「攻撃性は兄貴そっくりだな」 「何よ、あらたまって感傷に浸ってんのさ、こっちは大真面目もまじめなんだから」 「すまない、口が滑った」 「まったく。いい大人がどうかしてる」 「いい子どもはダメな大人を叱ったりはしない」調月は口の中の飲食物を綺麗さっぱり食道に流す。 「口のうまさは兄弟揃って似てる」姪は明らかに聞こえる息の吐き方を選んだ。 「他に用件があるだろう、銀行のことならいちいち電話をかけてくるわけがないんだ」 「決め付けたように言わない…
2024/08/23 06:49
3-4
「嫌がられませんか、あまりにはっきりと物事を述べることを」 「沈黙を守ってばかりいたので、それを払拭するために反動かもしれない。ただ、私は常にブレーキを人よりも多く慎重にかけたがる傾向のため、やりすぎぐらいがちょうどいいのですよ」 「個人的な質問でした。すいません」牧田は重く顎を引いて、契約に話題を戻した。 それから取引は順調に進み、契約の運びとなった。価格は電話のやり取りの通り、内装費の分を提示の価格から引き下げて、千二百万で折り合いがついた。元々、その倍額でも支払う予定だった、迅速に即決してしまう調月に、牧田は二度、問い返した。公園の敷地と隣の家とに境目に停めた軽自動車に乗り込んで、彼女は…
2024/08/22 06:13
3-3
女性が一人座っている。立ち上がった。曲げた肘には黒のビジネスのバッグが下がる。私は、どこで確信を得たのかはっきりとしないが、公園に足を踏み入れて、数秒目があったとき、おぼろげな感覚がそれに変わった。調月から声を出す。相手が女性だったからではないことを、先に言及しておく。「こんにちは。不動産会社の方で?」「はい。牧田と申します」女性は切れ長の瞳をなくして、そっと微笑を浮かべた。そして、お辞儀。動作は一連でも心が篭っていた。お座なりとは別種の、行動と精神が通い合っためずらしい人物であると、調月は評価する。譲渡相手以外の接見、評価を避けるように努めてきたが、人から離れると感覚が研ぎ澄まされ、感じたく…
2024/08/21 05:35
3-2
「費用はすべてこちらで負担します。それほど土地の所有には価値があるのですよ。マンションで得られた価値は浮いた金銭と一生の住まい。しかし、一軒家の土地を買えるほどの資産を所有する人物には、既に持ちえていたマンションでは琴線に響かない、一般のステータスが引きあがりましたから、そういった方々はもう一段階引き上げた場所を求める。それが、景観の自己所有ですよ」購入者に目の前の土地まで価格に含ませるとは考えていない、相手を納得させるための調月の嘘である。 「はあ、なるほど」まったく理解に及ばないような気のない男の返答を最後に、調月は契約を早急に今すぐに済ませたい旨を根気強く伝え、空き地隣の公園を落ち合う場…
2024/08/19 03:11
【残033話】手がかりと甘い罠(6)
その後、デューンヴァイスの部屋を一足先に出たエルフェリスは一人、部屋が立ち並ぶ回廊に備え付けられた広いバルコニーの手すりに漠然と身を預けたまま、ゆっくりと昇りゆく太陽を見つめていた。 この城に来てからはヴァンパイアの生活に合わせていたた
2024/08/18 08:46
「もしもし、星が丘駅近くの飲食店の売り物件を見て、お電話したのですが、こちらの販売価格を知りたいのです」 電話口の男は、最初こそくぐもった声であったが、咳払い一つで高く営業の、売りを願うさわりのない声に変更して応えた。「少々お待ちください。そうですねぇ、はい、出ました。価格は土地込みで千五百五十万ですね。かなりお手ごろな値段ですよ、個人が飲食店舗を手放すことはまずありません、皆さんマンション建設に土地を高額で売り払いますのでね。ただ、新規の事業を始める方の減少とこの一帯ではマンションの普及は遅れております。オーナーさんはマンションと飲食店両方の価値を残しておきたい意向で、流行といいましょうか、…
2024/08/18 07:12
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