chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
arrow_drop_down
  • [S/3]

    「―――あいつさぁ、」 紫煙が揺れた―――様にみえた。 錯覚だ。だって夜衣(よい)はもう煙草を喫っていない。夜衣が吐いたのは、ただの白い息。 ぼくは夜衣に眼を向けて、それからその視線の先を追って天を見上げる。 冬の夜空。澄んだ空気に星が瞬いている。月は細く、居心地悪そうに浮かんでいた。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どーすんの?」 その声が少し震えていたのは、この寒さの中長時間こんな処に立っていたからだろうかそれとも、「・・・・・・・・・・・・・・・・・・どう・・・・・・、」 何気ない風を装っ…

  • 【ねえ誰れか、】3

    ああ、【永遠】という言葉が、こんなにも儚く虚しく霧散していく。 「大丈夫。アナタたちのことは、私が守る」 僕はよっぽどな表情をしていたんだろう。幼い子供を宥めるような優しい笑みを浮かべ、でもきっぱりと云ってくれたのは、僕たちの所属している小さな音楽事務所の社長。あのとき、僕たちを見つけてくれた。そして必死で育ててくれた。彼女がいたからこそ僕たちはこうして存在していられる。このひとは、身内を捨てたりしない。僕たちを、放り出したりしない。このひとがこう云ってくれるのならきっと大丈夫。僕が頷こうとすると、 がたっ、と。―――大きな音。 眼を向けると、計登さんが足をテーブルにかけ、揺らしていた。「・・…

  • [S/2]

    空が青いと思い知ったのは夜衣(よい)が吐いた煙草の煙を眼で追いかけたときだった。 ビルの屋上で吹きっさらしの真冬の澄んだ空を見て、セカイは美しいんだなって、理解した。 白く淡い煙草の煙が、青く鮮やかな空にとけていく。あの日―――そう、あの日あの瞬間まで、ぼくらは――― ぼくらはふたりきりだった。 ぼくらはひとりきりだった。 ぼくらはふたりで、ひとつだった。 ぼくらのせかいは、ふたりで完結していたのに。

  • [S/1]

    ココロが死んでいく。 笑顔を貼り付けたまま。 紛い物の光に照らされた足許は、昔もいまもこの先だって脆く崩れやすくて不安定だ。

arrow_drop_down

ブログリーダー」を活用して、韻*さんをフォローしませんか?

ハンドル名
韻*さん
ブログタイトル
壱色ノ匣:ヒトイロノハコ
フォロー
壱色ノ匣:ヒトイロノハコ

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用