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「お兄さん?」 その声で我に返った。少年が心配そうに俺を見ていた。 どうしてか、俺は吸い寄せられる様に、少年にふらりと近づいた。 少年は、警戒するでもなく、ただ俺を見ている。 鴉が「かぁ」と一声だけ鳴いた。 一瞬空気が密度を増した気がした。何故だろう、胸がざわざわとさざめく。 少年は俺を見上げている。 ・・・・・・純な表情。あどけない顔だ。 綺麗なものしか、知らない。無垢な貌。 眼の色が、・・・・・・灰色なんだな。やっぱり純粋な日本人じゃないのか?「・・・・・・・・・・・・ねぇ、お兄さん。あっちに『街』があるでしょう? 工場の跡地。あそこにはひとがたくさん住んでいるんだって。あのね、あの街に居…
あれはいつのことだったか。彼女が云っていた。それを不意に思い出した。 夕陽の残光に、その淡い金色の髪が煌めいている。 なんだか酷く非現実的な情景だった。だから思い出した。彼女がいつか云っていた、あの言葉を。 金色の光に縁取られた輪郭。まるでその姿そのものが発光しているかにも見えた。 『・・・・・・ほんとうよ? 黄昏のなかに天使をみたのよ』 不躾な俺の視線を感じたのか、少年が顔を上げ俺を見た。 肌が白い。但しそれはあくまでも日本人の肌の色。 貌立ちは寧ろ地味だ。 プラチナに近いブロンドの髪。脱色しているにしては妙に馴染んでいる。とすれば、地毛なのか? お坊ちゃん学校の、制服。それを規則通りに乱れ…
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・ねぇ? 信じる?』 いつだったか、 『・・・・・・ほんとうよ? 黄昏のなかに天使をみたのよ』
静謐で美しい情景。 満開の桜の下、 ひらひらと舞う。 花びらは無尽に降り続け、 漆黒の世界は淡い紅色に埋め尽くされる。 ――――――――――――ぼくは死んでいる。 精神を喰われ、空虚な人形と化している。 ぽかりと胸に開いた空洞の向こうに、 細い月が嗤っているんだ。 夢をみる。 覚めない夢を、 けれどぼくはそれが、 ぼくの末路だと知っている。