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  • 【××× 2】

    ああ、ぼくが存在するこの世界はこんなにも醜悪で哀しい。 どうか愛してください。それはなんという身勝手で穢れた願い。 しあわせな夢をみて、 眼を覚まし、露見した願望に反吐が出る。 ああ、あなたがそこに居るその世界はこんなにも美しくも儚い。 ねぇ、 もういっそずたずたに切り裂いて跡形も無く千切って砕いて。 そうしてどうか、どうか、―――どうか あなた が。 殺してください。この想いを、 壊して下さい。このこころを、

  • 【××× 1】

    「花が咲くんだ」 そう云うとあなたは困った様に笑ってそれから頭を撫でてくれた。 それだけで、 うれしくてしあわせで、 くるしくてかなしくて、 ああ、 ほらまた、―――またひとつ、花が咲く。 ねぇ? 花が咲くんだよ。花が、・・・・・・。 「花が咲いて咲いてたましいを切り裂くんだよ」

  • cry for the moon【交錯】/8~fin~

    俺はいつかつくろう。 女を守るための花園を。 彼女が、辿りつけなかった現世(うつしよ)の楽園。 それは贖罪なのかすらわからないけれど、「それでも俺は、」 救われたいなんて思わない。 救えるだなんて思わないさ。 ただ俺は、 こんどこそ、きっと。 守り抜いてみせる。 ~fin~

  • cry for the moon【交錯】/7

    俺はひとり、昏い場所に立っている。あの日から、彼女が消えたあの日から。 暗がりの中、ただ待ち続けていた。暗闇の中、闇雲に探し続けていた。 光は届かない。そうか、もう―――もう、 悪寒で我に返った。あの瞬時に、流れたらしい汗が、躰を冷やしはじめていたせいだ。 じじじじ、と。いつの間にか消えていたらしい外灯が点く。不安定な灯り。それでもその弱い光が俺の思考を現実へと引き戻した。 既にあのふたりの姿は無い。深く息を吐いて、強張った指を数回握った。 ・・・・・・ああ、―――ああ、そうか俺は、恐怖していたのか。 妙に冷静に、そう理解をし、 そしてあの美しくも歪なふたりを思い、苦く嗤った。 あのね、お兄さ…

  • cry for the moon【交錯】/6

    そして少年は『良くあるハナシ』を語る。 ・・・・・・近くも遠い国で、おんながひとり、捨てられた。と。 まるで飽きられた人形の様に、 まるで壊れてしまった玩具の様に、 無造作に、 廃棄されていた。と。 そんなことは日常茶飯事で、 そんなことは『ヨクアルハナシ』で、 そんなことは誰れも気にも留めない些末な事だと。 弱き者の末路。 救いはそこに無いのか、 弱き者は、救われはしないのか、 「ひとのいのちなんてとくべつなものじゃないよね」 あの少年は無邪気に、曇りの無い眼差しで、 そう微笑んで傍らに立つ『はる』の手を取った。 「・・・・・・・・・・・・よくある、はなし・・・・・・、」 ああ、・・・・・・…

  • cry for the moon【交錯】/5

    はる、」 少年は慌てることなく、変わらない口調で俺の背後に呼びかけた。「このひとは『違う』。大丈夫」 少年がそう云った途端。ふ、っと気配が消える。 全身に汗が滲んでいた。なんだこれは。・・・・・・恐怖? 少年は、「お兄さん、」と、俺の手首を掴み、強張ったまま自分の意思に逆らい続けている俺の指を一本一本ゆっくりと外すと、すっ、と自ら躰を引いた。 そして、「はる、」 少年は再び俺の背後に呼びかけた。ざわざわと葉擦れの音。「おいで杳(はる)。帰るよ」 ざっ、と。足音。 突然露になった気配に驚きながら俺が顔を上げると、そこには、遮光レンズのゴーグルをかけた少年が立っていた。 当然目許は見えない。それで…

  • cry for the moon【交錯】/4

    きれいなひとだね、」 長い沈黙の後、少年がそう云った。「お兄さんに似ている」 そう云われ、少し驚いた。 似ているなんて云われたことは無い。 俺は少年に向けた彼女の写真を見つめた。 そうか、似ているのか。 血の繋がりを思い、苦さが胸に広がる。「・・・・・・姉だ、」 少年の反応を見て、はずれだったかとがっかりしながら答える。「お姉さん。・・・・・・そう、・・・・・・」 少年は俺に写真を返す。「お姉さんは、どうしたの? どっか行っちゃったの?」「・・・・・・なんでそう思う?」「だって、『見たこと無いか』だなんて訊くってことは。そういうことでしょう?」「そうか・・・・・・そうだな、・・・・・・」 俺は…

  • cry for the moon【交錯】/3

    ・・・・・・天使が居るのよ。 そう云って、寂しそうに微笑む彼女。 ・・・・・・そうだいつだって彼女は寂しそうに笑っていた。「・・・・・・天使、」 声に出ていたらしい、少年の視線がまた俺に向いていた。 訊いてみようか。 駄目で元々。少しでもなにか掠れば。「この女を、見たことは無いか?」 ポケットから取り出して写真を見せる。 少年がそれを受け取り、ちょっと首を傾げた。「・・・・・・・・・・・・、」 沈黙が酷く重い。 鴉がばさりと、何処かで羽ばたいた。

  • cry for the moon【交錯】/2

    「お兄さん?」 その声で我に返った。少年が心配そうに俺を見ていた。 どうしてか、俺は吸い寄せられる様に、少年にふらりと近づいた。 少年は、警戒するでもなく、ただ俺を見ている。 鴉が「かぁ」と一声だけ鳴いた。 一瞬空気が密度を増した気がした。何故だろう、胸がざわざわとさざめく。 少年は俺を見上げている。 ・・・・・・純な表情。あどけない顔だ。 綺麗なものしか、知らない。無垢な貌。 眼の色が、・・・・・・灰色なんだな。やっぱり純粋な日本人じゃないのか?「・・・・・・・・・・・・ねぇ、お兄さん。あっちに『街』があるでしょう? 工場の跡地。あそこにはひとがたくさん住んでいるんだって。あのね、あの街に居…

  • cry for the moon【交錯】/1

    あれはいつのことだったか。彼女が云っていた。それを不意に思い出した。 夕陽の残光に、その淡い金色の髪が煌めいている。 なんだか酷く非現実的な情景だった。だから思い出した。彼女がいつか云っていた、あの言葉を。 金色の光に縁取られた輪郭。まるでその姿そのものが発光しているかにも見えた。 『・・・・・・ほんとうよ? 黄昏のなかに天使をみたのよ』 不躾な俺の視線を感じたのか、少年が顔を上げ俺を見た。 肌が白い。但しそれはあくまでも日本人の肌の色。 貌立ちは寧ろ地味だ。 プラチナに近いブロンドの髪。脱色しているにしては妙に馴染んでいる。とすれば、地毛なのか? お坊ちゃん学校の、制服。それを規則通りに乱れ…

  • cry for the moon【交錯】/追憶

    『・・・・・・・・・・・・・・・・・・ねぇ? 信じる?』 いつだったか、 『・・・・・・ほんとうよ? 黄昏のなかに天使をみたのよ』

  • 【離れるべくして、離れたのに】2

    「ずっと、探している気がするんよ、ね・・・・・・」 彷徨う彼の視線は確かに一瞬ぼくをみた。 ぼくを見ている。なのに、「・・・・・・えっと、・・・・・・な、なにを?」 そう問い返した都古くんの意識はこっちを向いている。 計登は少しだけ眉を寄せて天井を見た。「なにを・・・・・・? だろう。なにを・・・・・・、なんだろう、」 彼は、首を少し横に倒す。ぼくは動けない。息すらもできない。彼の視線はぼくに向けられている。―――けれど、「・・・・・・でも、わかんない、」 彼は困った様に、瞬きをした。 ぼくをみたのに。 「・・・・・・わかんないんだ、」 彼はぼくに視線を向けたままだ。でも、 時雨さんの瞳には、…

  • 手のひらに月のゆめを、

    あなたがいるこのせかいは、 あなたをしあわせにしていますか?「オマエはむずかしいこと、かんがえすぎや」 おれの問いにあなたはいつもそう云って笑う。 ああ、なんて綺麗な。「しあわせにきまっとるやん」 ふわりと、 ああなんて綺麗な、美しい笑顔。 なんでこのひとはこんなに綺麗なんやろ。「アイツが居って、仕事もあって、すきなことができて、欲しいもんも買えて」 こどもみたいに、指を折りながらそう云って、「可愛い後輩も、居って」 一旦言葉を切り、にっと口許を緩める。「オマエが、居るから」 なぁ? そう云って首を反らして。俺を見上げる。「だからおれはな、」 しあわあせなんよ。 無邪気な笑顔を向けられて、俺は…

  • 【離れるべくして、離れたのに】1

    だけど、 そう、だけどぼくはまたきっと、 同じ選択をすると思う。 だってぼくには、 永遠なんて、信じられない。 変わらない心も、 終わらない恋も、 そんなもの無いって思っているんだ。 終わらない恋なんてない。 変わらない心なんてない。 裏切られるのが嫌だから、 聞こえない振りをする。 傷つくのが嫌だから、 気付かない振りをする。 そこにあるものが、 大切だと、思えば思うほどに、 壊れるのを恐れて、消えていくのが怖くて。 だったら、最初から、なにもはじめなければいい。 そう思っていたのに。 駄目だった。 抗えなかったんだ。 こんなに、自分のこころが思い通りにならないなんて。 押えられずに溢れてし…

  • 【涙が、】5

    強く吹いた風が。 小さく渦を巻いて僕と計登さんの髪を乱して去っていく。「・・・・・・・・・・・・なんだよ。都古くん泣いてんの?」 計登さんの驚いた声。「・・・・・・違うよ、」 時雨さんは、なにを、「・・・・・・煙りが、・・・・・・煙草の煙りが、眼に沁みただけ、」 時雨さんは、誰れを、「・・・・・・・・・・・・ふぅーん、」 計登さんは、気の無い返事をして、携帯灰皿を取り出した。 時雨さんは・・・・・・掴もうとしたんだろう。 なにを、 諦めたんだろう。

  • 【涙が、】4

    「・・・・・・・・・・・・んかった、」 時雨さんの、小さな声。「・・・・・・届かんかった、・・・・・・駄目やったぁ、・・・・・・おれ、・・・・・・」 あの日、時雨さんはなにを掴みたかったんだろう? 『届かんかった』 ・・・・・・・・・・・・その、意味を、・・・・・・・・・・・・、 僕は今更ながら考えてしまった。

  • 【涙が、】3

    そういえば、いつだったか。 「ぼくがさぁ。くっそ甘いラブソングなんてつくっちゃって。しかもそれをうたっちゃったりしたら、気色悪いよなぁ、」 移動中のクルマの中だった。隣から、ぼそっとそんな声が聞こえてきた。 運転していたのはスタッフさんだ。三列シートのワゴン車の中。計登さんは一番後ろのシートを占領して眠ってた。時雨さんは確か仕事が入っていて、それを終えて現地で合流するって流れだった。 僕はスマホゲームをしていた。手こずっていたミッションを漸くクリアして、片耳だけイヤホンを外した処で、眠っていたと思ってた十秋さんがそんなこと云いだしたから、ちょっとだけ驚いた。 寝てなかったのかな。そう思って。ス…

  • 【涙が、】2

    「時雨がさ、」 そこで言葉を切って、計登さんは煙草を咥えた。 カチ、と。ライターが点火する。 ゆっくりと、・・・・・・言葉を探しているんだろうか、・・・・・・ゆっくりと吸い込み、そして、細く、長く、煙りを吐いた。「時雨さ、アイツは、・・・・・・・・・・・・脆い。よな」 僕と計登さんは事務所の屋上に居る。小さいけれども自社ビルだ。風が少し強い。計登さんは僕に煙がかからない様に、風下に立っている。眼を細め、フェンスに凭れて。煙を細く細く、ゆっくりと吐き出す。「例えば、だけどさ、」 計登さん、少し痩せたな。そんなことを僕は考えていた。「・・・・・・・・・・・・俺、だとしたら。時雨は、ああはなってなか…

  • 【涙が、】1

    ロミオとジュリエットの恋の行く末は、 ほんの少しの掛け違い。 だけど、それを莫迦だなぁと、笑い飛ばすには重すぎる結末だったよね。 十秋さんと、 時雨さん。 あのふたりは、どうだったんだろう。 あのふたりは、どうなるんだろう。 あのふたりの、終着は―――、 本当のところはわからない。 僕たちにはわからない。 どっちが先だったのか、 どっちがきっかけだったのか。 わからない。 わからないまま、僕たちはただ、 ただ、・・・・・・、 結末だけを、見せられている。

  • Reincarnation

    静謐で美しい情景。 満開の桜の下、 ひらひらと舞う。 花びらは無尽に降り続け、 漆黒の世界は淡い紅色に埋め尽くされる。 ――――――――――――ぼくは死んでいる。 精神を喰われ、空虚な人形と化している。 ぽかりと胸に開いた空洞の向こうに、 細い月が嗤っているんだ。 夢をみる。 覚めない夢を、 けれどぼくはそれが、 ぼくの末路だと知っている。

  • 【わかっているくせに】5

    ―――――――――はぁーーーーー、 外に出て、思いっきり息を吐き出した。 見えていない筈なのにその息に、 たくさんの言葉が色んな大きさを持って、 含まれているみたいに思えて、 舌打ちをして脚で踏みつけた。 上を向いて、空気を吸い込む。 何度も、 何度も、 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺、演技下手糞すぎるな、」 なのにアイツは気づかない。違和感は薄らとあるんだろう。そりゃあそうだよな。 ふと、 この中庭に面した、アイツの居る、2階のベランダ窓に眼を向けた。 ちらりと過った影。―――影。影か・・・・・・、 俺は息を吐き出す。云えない言葉を、 アイツが失くした、 俺たちの永遠を。

  • 【わかっているくせに】4

    「よう、」 一応ドアをノックして、だけど返事を待たずに部屋に入る。鍵はかかっていない。そもそも鍵なんてついてすらいない。「けーとさん、」 俺の姿を認めて、 室内にいた男は、ふわりと笑う、見慣れた笑顔。曇りのない、表情。 窓辺の空気が僅かに揺れた。思わず向けてしまった視線をそこからずらす為に「最近肩凝るんだよなぁ」と独りごちながらそのまま首を左右に動かす俺。不自然じゃないよな。 その奥にある大きな窓から入ってくる柔らかな日の光で室内は明るい。バルコニーがついているんだっけ? パイン材の白いフローリング。淡いクリーム色の壁紙。かなり広い部屋。床に大きなクッションが3個。無造作に置いてある。ベッド脇…

  • 【わかっているくせに】3

    石畳をゆっくりと踏みしめながら深い呼吸を繰り返す。 静かな空間に俺の呼吸音が吸い込まれていく。 なにを話そう。なにがNGだったっけ? 考え出すと頭ん中がぐっちゃぐちゃになるな。あー。もう、こんな悩むの性に合わねーんだよ。 玄関に立ち、無意識にインターフォンを探してしまった。そういえば無いんだったっけ。 扉に手をかけると難なく開いた。不用心だなって思ったけれど、訪問時間伝えてるし、そういやモニターでチェックしてるんだったか。社長が云ってたな、セキュリティは万全だって。 ここで声を出しても。応える者はいない。そう聞いている。 靴を脱いで中に入って周囲を見回しながら歩く。 天井が高い。 静かだな。 …

  • 【わかっているくせに】2

    正直まだ迷ってる。 迷っているんだよ俺は。俺らしくねーよなー。って、自分に呆れるくらい迷ってる。『アイツ』のことだからなんだよな。俺も相当なんだよなぁ。 そんなこと考えながら石畳の上を歩いた。 まるでエアポケットだなこの場所。本当に静かだ。 周りを見回す。あの木たちが音を遮断しているんだろうか。 ・・・・・・ここには、何度来ることになるんだろう。「――――――まだ、・・・・・・信じらんねーんだよなぁ」 その呟きに呼応するみたいに周囲の木々がざわわと揺れた。「考えたって、しょーがねーんだけどさ」 風が吹く。俺は息を吐き出した。「社長(かーちやん)も頑張ってくれてるしな」 マジで。小っちぇー事務所…

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