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渓流釣りのエッセイ フライフィッシング での経験、感じたことを書き綴ります 舞台は主に東北

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2021/08/03

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  • アメリカ旅行の道すがらフライフィッシングをしてみた⑧

    キャッチアンドリリース区間 峠のロッジの焚火 車で上流に向かった。まもなく一つ目のキャッチアンドリリース区間に入った。道路は川からつかず離れず並んで走っている。林間から覗く渓相は瀬が主体のようで、どこからでも川に入れそうに見える。それが1マイルほどでいったん途切れるが、間もなく2つ目の区間になった。こちらは渓相には変化があり荒々しく早い流れもあるようだった。両方合わせても4キロ程度である。ちなみにシーズン中よく通っている宮城県の荒雄川は、隣接するA、B区間合わせて6.2キロある。 遜色がなく立派なものです。 シーズンオフだからなのか平日だからなのか、行き来する車も殆どない。さらに上流へ進むと、…

  • アメリカ旅行の道すがらフライフィッシングをしてみた⑦

    7 極東から来た釣り師 Deerfield River で釣れたレインボートラウト 河畔に立ち並ぶメイプルツリーに見守られながら、はやり立つ気持ちを抑え、6本のパックロッドをつないだ。そしてシンクチップをまいたリールを取り付け、リーダーにはオレンジのエッグフライを結んだ。背後に障害物はないので思い切ったキャスティングができたが、ロッドを前後に振ると、ラインの荷重に耐えかねたように、ロッドのグリップあたりがミシミシとしなり音を上げた。これで50センチのマスがかかったら岸に上げられるだろうか。 フライを対岸めがけて投げつけ、ラインを沈め、メンディングをかける。水の流れが緩いポイントにフライを通過さ…

  • アメリカ旅行の道すがらフライフィッシングをしてみた ⑥

    男との出会い 西日に照らされる Deerfield River 男はレモンイエロー色の作業着を着ていた。なにか用か?という表情をしている。 「こんにちは。あのー、ちょっと聞いてもいい?」 「うん。なによ?」 男は思ったよりも若く、気軽な感じで応じてくれた。 「このあたりでは釣りをしたいと思っているんだけど、やっていいのかな。」 「もちろんだよ。」 男はなんだ、そんなことかと言わんばかりで、笑顔を浮かべた。 「魚は川のどのあたりにいるのかな。」 「こっちでも、あっちでも、どこにでもいるよ。」 男は、anywhere ! と、腕を伸ばしてあちこちを指差した。 「それで、どんなマスが釣れるの?」 「…

  • アメリカ旅行の道すがらフライフィッシングをしてみた ⑤

    5 フリーウェイ モホークトレイルを西へと向かう BGMはイーグルス さて、大分前置きが長くなってしまった。ここで旅行の経過をすっ飛ばして、渡米6日目、釣り当日の朝から話を再開する。天気は前日から急に冷え込み、目的地である西方向の山では降雪があったと、朝のニュース番組では雪景色を報じていた。どうなることやら、行ってみなければわからない。 ホテルから水族館の近くにあるレンタカー店までスーツケースをゴロゴロと転がし、借りた日産のROGUEローグという2500ccのSUVは、普段運転している車に比較するとかなりでかい。しかしアメリカでは標準サイズである。 左ハンドルの車は、ワイパーとウインカーの位置…

  • アメリカ旅行の道すがらフライフィッシングをしてみた ④

    4 オレンジ色のレインウエア 川の水位が変化する警告 そして持参する釣り具の準備である。ウエブで推奨しているのは5番か6番のタックルだ。6番の持ち合わせは2本つなぎのロッドしかない。これをアルミケースに入れてマンハッタンをうろつくわけにもいかない。かと言ってスーツケースに納まるパックロッドは3番と4番しかない。庭に出て両方をつなぎ合わせて振って比較してみると、当然だが4番の方が口径が太く、大きな魚の引きにも耐えられそうである。ただしこれは平成のひとけた時代に、白神山地の奥地へ入るために買ったものである。フライフィッシングを手ほどきしてくれた師匠から、ロッドというものはなるだけつなぎの数が少ない…

  • アメリカ旅行の道すがらフライフィッシングをしてみた ③

    3 マサチューセッツ州のレギュレーション 川沿いの公園内の木に張り付けてあった表示 3匹を超えてキープした違反を見つけたら200ドルの報酬がでるとの公示 もう一つクリアしないといけないのが、レギュレーションとライセンスのことだ。そもそも日本では、禁漁期に入っているこの時期にアメリカでは川釣りができるのかという根本的な問題である。そこでこれもインターネットを使って探すと、マサチューセッツ州政府が運営するウエブサイトに、Fishing & Huntingという項目があり、中に入っていくと州内の釣りの情報に触れることができた。わかったことは以下のことである。 魚の種類や川や湖によって異なるが、州内の…

  • アメリカ旅行の道すがらフライフィッシングをしてみた ②

    2 Deerfield River Hail to the Sunrise Park モホーク族を称える像だという この像がある公園に車を止めた モホークトレイルの西端の町NorthAdamsのロッジに宿を取り、ボストンから車で往復する間に、釣りに使える時間はわずかだ。ボストンでレンタカーを借り出す手続きに時間がかかるかもしれないし、初めての町を初めての左ハンドルで右側通行するわけで、所要時間を正確に見込むことは無理だった。 フィッシングガイドを予約して現地で待ち合わせすることは諦め、釣りができそうなところで車を停めて川に入り、ポイントを探しながら釣るという、いつも日本でやっているスタイルでは…

  • アメリカ旅行の道すがらフライフィッシングをしてみた

    1 旅の始まり マサチューセッツ州の田舎町North Adams 秋にニューヨーク市へ観光旅行することになった。アメリカへ行くのは初めて。家族と一緒にもっぱら観光名所巡りになる予定なのだけど、内心ではせっかくそこまで行くのだから、どこかの川でフライフィッシングができないものかという思いが頭に浮かんでいた。ネット上で情報を探してみると、ニューヨーク市から列車で郊外に向かい数時間行けば、釣りができないこともないらしい。でも外国で釣りをするということは、フィッシングガイドを雇ってもそうは簡単なものではないことを過去に経験していた。川までに要する往復の移動時間や、気象条件によっては全く釣りにならないこ…

  • キサス・キサス・アニサキス 2

    アニサキス中毒は食中毒の一種になるんだという。病院から保健所へ連絡されることは聞いていたが、検査が終わって病院を出るなり保健所から電話があり、質問攻めが始まった。原因と思われる食事をとった店の名前、場所、日時、時間、料理の内容、一緒に食べた仲間の名前や住所を聞かれた。 それだけではなく、発症した72時間前までに食べたもの全て調べるという。3日前の三食の内容を思い出すのは難しかったが、そう言ってもなかなか許してくれない。さらに、食した魚については、どこから買ってどういう調理したかまで詳細に問われた。思い出してみると飲み会の前の晩は焼きサバを食べていたし、されにその前にはスーパーから買ってきた茹で…

  • キサス・キサス・アニサキス

    コロナパンデミックも終息を迎えつつあるのか、次なる変異株感染までの谷間なのかは分からないけど、患者数は減少してこの春は全体的に警戒心が緩んできている。去年までの春とどこが違うかというと、飲み会をする機会が増えてきた。 3月になって川は解禁を迎え、どこに行こうかなと思案していると、昔の職場仲間から飲み会のお誘いがあった。いそいそというかわざわざ(・・・・)電車で1時間以上もかけて港町まで出向いてきた。お目当ては、旧交を温めるというよりも、むしろ新鮮な魚介類であった。家飲みで調達するには魚介類の種類にも限界がある。小さな居酒屋に4人揃うと、期待通りに、膳には、アイナメ、まぐろ、カツオ、ヤリイカの切…

    地域タグ:仙台市

  • 釣り爺様の昔語り カーティスクリーク 8/8

    さてずいぶんと寄り道してしまったな。なんの話をしていたんだったか忘れちまったな。笑笑。そうそう、気象データを見てタカシと釣りに出かける話だったな。その年は期待していたほどではなかったがな、イワナは釣れた。面白かったのはな、タカシはブリーチのエルクヘアカディスしか使わないんだよ。あの時白いイワナを釣ったフライさ。季節、天候、魚の食性に合せてフライを変えるというフライフィッシングのセオリーには全くもって反しているんだが、それでも釣果を上げているのだから、面白いものだな。上体を前後にゆったりと振ってな、きれいな軌道でラインを飛ばしていた。 そんで最後に付け加えるがな、この川のもう一つの魅力はイワナが…

  • 釣り爺様の昔語り カーティスクリーク 7/8

    その後しばらくしてからな、ワシは何年かぶりにタカシとこの川に行ったことがあった。しばらく釣り上がって一息ついていると、ワシらの後から来た二人組と会ったんだよ。彼らはワシらの足跡を辿るように釣り上り、そこで追いついたという具合だな。皆も経験あると思うが、こんな風に川で出合った釣り師同士のやりとりというのは、ちとむずかしくてな。どうしても釣る場所が競合することになるからな、お互いに敵意が向きがちだろう。でもな、その二人はな、落ち着いたものでな、ワシらよりも年配で出で立ちからして老練な感じがした。お互いにな、軽く挨拶してから釣りの話になったよ。かれらはこの川に何年も通っていると言うのだ。そしてなあ、…

  • 釣り爺様の昔語り カーティスクリーク 6/8

    実はタカシがその大きなイワナを釣った閉じた沢があるところは、この川のイワナ釣り場のほんの入り口でしかないんだよ。本流の奥は深くてな、山道から杣道を経て川原に降りてからも川は延々と続いていた。地図で見ると、源流はいつかの支流に分かれていて、やがてピークに至る稜線に遮られて途絶えている。そこまで行ったら,どんな釣りができるのだろうか、とな、仕事をしていてもな、何をしてもふと考えているようになってな。白昼夢に取り憑かれるとはこんな風になることをいうのかな。恋と似ているな。笑笑。 それでな。ある夏にな、非常食を携帯してな、装備もそれなりにしてな、タカシと遡行したこともあるんだよ。ひたすら歩いてな、途中…

  • 釣り爺様の昔語り カーティスクリーク 5/8

    そいつはな、ただサイズがでかいだけではなく、体色が白いイワナだった。アルビノとは違う。色が薄かったんだね。暗い谷だと思っていたんだが、実は河床には花崗岩が砕けた白い砂が堆積していたんだよ。そこに居ついていたから、環境に合わせてそんな色になったのだろうな。タカシは魚の大きさもさることながら、見たこともない魚体の気配にな、やったという喜びよりは、戸惑ってしまったらしい。とりあえず、デイパックの奥に持っていた家庭ごみ用のビニール袋に水を入れて、片手に携えて沢から出てきた。透明なビニール袋は川の水でたわわに膨らんでな、イワナを拡大したからなおさら大きく見えたよ。魚もよく観察できた。斑点が大きくてきれい…

  • 釣り爺様の昔語り カーティスクリーク 4/8

    それはさらに古い話でな、さっきの話からさらに30年ばかりも遡る。昭和の時代のことだよ。当時、フライフィッシングを覚えたばかりのワシは,すぐに夢中になって、あっちこっちの川へ足繁くでかけるようになった。そして楽しさを誰彼となく語り聞かせていた。仲間が欲しかったんだろうな。しかし、意外に周囲の反応は鈍かった。まだそれほどフライフィッシングが世の中に知られてはいない時代だったしな、一緒にやってみようと言ってくれる相手は少なかったんだよ。それにフライフィッシングは初めてすぐに釣果が上がるわけでもないだろう。タックルや装備など揃えるにも結構の金がかかるしな、そんな中で、タカシだけが、興味を持ってくれたん…

  • 釣り爺様の昔語り カーティスクリーク 3/8

    前の年にそんないい思いをしたものでな、次の年もまたチャンスを狙っていたのだ。ところが、その年の6月の上旬は雨が続いてしまっていてな、中旬になると今度は気温が上がらなかった。天候につられてこちらの動きも鈍く、なんだかその気にならなかった。そういうこともある。そんな気乗りのしないときは控えるものとワシは思っている。心の声というかな、それはないがしろにしない方がいいのだよ。そんなわけで、何回か延期された上での釣行だったからその年に初めてその川に入った時期は少し遅かったな。当日、ワシは、早起きをして家を出発し、途中で待ち合わせしたタカシの車に乗り換えて、早朝の道路を西に向かった。最後の人家から川をひた…

  • 釣り爺様の昔語り カーティスクリーク 2/8

    その前の年はな、冬の間の雪が少なかった。そして春になってから急に気温が上がったんだ。だから、これは雪代水が落ちるのは早いだろうと予測したわけだ。そして、タカシに連絡して、いつもよりも一か月以上も早く一緒にその川へ行ったのだよ。タカシというのはワシの弟子さ。 それで、実際川に着いてみるとな、川の本流に流れ込む谷筋には残雪があったがな、もう雪代水の大半は流れ去って、水位は平水まで下がっていた。水は清らかなで、穏やか流れの中を釣り上がることができた。しかもな、他にだれも来ていなかったからな、川を二人で独占した気分だった。気持ちよかったね。 ところが、そうは物事うまくいくことばかりでない。釣りを始めた…

  • 釣り爺様の昔語り カーティスクリーク 1

    1 今日はこれから皆にある川の話をしようと思う。食べながら呑みながらでも聞いていっておくれ。 30年も前の話になるがな。その頃には毎年の気候の変わりぶりが激しくなっていてなあ、冬の間に降り積もる雪の量も年によって違ってくることが多くなってきておった。春になってから、気温も急に上がって夏のような陽気になることもあった。そうなると、とたんに雪解けが進むのだよ。皆も知っての通り、雪解けの水は雪代水といってな、冬から春にかけて雪が解け始めると、一斉に川に水が流れ込む。その間はまったく釣りにはならん。なぜかというと、水が多すぎるし、その上濁ってしまっている。なによりもあぶねえのさ。川に飲み込まれそうにな…

  • サクラマスの渚 2

    「魚が見えるの?」 川を渡った女が、マコトたちのすぐそばまで近づいてきていた。男は口をつぐんでしまった。マコトは戸惑いながら逆に 「何かを探していたんですか。」 と問い返した。白いクロップドパンツを履いた女は、見てと言って、マコトまで歩み寄り、手に持った赤色のバケツをマコトの前に差し出した。バケツの中には、角がとれた石が数十個入っていた。ブラウン、グレイや、オーカー色に染まったもの。細かいゴマ模様、地層模様が入っていたりと、様々な種類の石がそこにはあった。 「きれいな石ですね。」 「そうでしょう。」 麦わらのつば広帽の下から女の笑顔が覗いた。女はガラガラとバケツをかき回して、一つ取り上げ、開い…

  • サクラマスの渚 1

    1 目の前には初夏の日差しを浴びた海原が広がっていた。沖からは浜辺に向かって緩やかな風が吹いており、砂浜にさざ波を打ち寄せていた。そして波間には時折大きな波しぶきが跳ね上がった。浜辺の背後はすぐに切り立った崖になっていて、表面の地層を露わにして聳え立っていた。断崖は、緩やかな湾曲線を描きながら、海岸線に沿って南北両方向に伸びていた。そして北の方の突端付近には明るいオレンジ色をした建物の屋根が霞んでいた。まぶしいほどの日差しは、マリンレジャーにはうってつけだったが、平日の午前中のためなのか、それともこれと言った観光地でもないためか、この渚には人の気配は少なく、一組のカップルと、それとは別に大きな…

  • 川で失くしてきたもの 9 お別れ

    シンジは次の年の春、鉄塔高校に入学した。校内では、暴力もけんかもなく、盗みもなく、平和な生活を送ることができた。一方で、シゲハルの消息はまったく分からなかった。もちろん、鉄塔高校を受験したメンバーにはおらず、高校を受験したのかさえ定かではなかった。シンジが知ろうとはしなかったという方が正確だ。シゲハルは、シンジの視野から消えていった。 シンジは高校卒業後、地元を離れた。その後帰省することはあっても、シゲハルを見かけることはなかった。いつしかシゲハルの住んでいた家はなくなり、整地されて、別な家が建っていた。 就職してからしばらくして、転勤で山間部の町に住んだタイミングで、シンジは本格的にフライフ…

  • 川で失くしてきたもの 8 小沼先生の失態

    「今日はたいへん珍しいお客さんをお迎えしています。」 と、校長先生は中学校の体育館のステージに立って、マイクロホンからフロアーに整列して立っている全校生徒に晴れ晴れしく語りかけた。 「ジェニーさんは、アメリカ合衆国のニュージャージー州から来られました。大学で農業を専攻され、いまは大きな研究所の研究員をされています。この度は、当地の特産品であるリンゴの品種改良に関心を抱かれて、日本にやってこられました。」 校長先生の話では、ジェニーさんたち一行は、シンジたちが住んでいる市を含めて何か所かの研究施設の視察のために、日本を訪れていた。それを知った校長先生が、急きょ市役所のお偉いさんにお願いして、学校…

  • 川で失くしてきたもの 7 鉄塔高校

    中学3年生も半ばを過ぎたころ、シンジはシゲハルから問いかけられた。 「シンジ、だれでも勉強すれば成績は上がるんだろ。」 シンジは前回の中間試験で成績が上がり、クラスメートの前で学級担任の先生に名前を挙げて褒められた。それは、塾通いをしたことに拠るところが大きかったが、シゲハルは、そういうことは知らずに尋ねてきたものと思った。 「だれでも勉強すれば鉄塔高校に入れるんだよね」 鉄塔高校とは、その地域の進学高校であった。旧制中学からの伝統があり、文武に優れていた。シンジも進学先を考える時には、その高校を意識していたが、秀才が競い合うその学校の合格レベルに達することは楽ではなかった。だから、クラスの中…

  • 川で失くしてきたもの 6 シゲハルの住まい

    その日、シンジは学校からの帰り道にシゲハルの家に寄った。シゲハルに家に行くのは初めてあった。シゲハルの家は平屋の一軒家で、シンジが玄関に向かって歩もうとすると、シゲハルは、あわててそれを制して 「こっち」 と、母屋の隣にある木造の小さな倉庫にシンジを案内した。倉庫の木製の大きな観音開きの戸を手前に開くと、屋内には天井や内壁がなく、柱や梁はその木材が剥き出しになっていた。床は土間で硬い土の上には筵(むしろ)が一枚敷かれていた。窓もないので、扉を閉めると中は暗く、屋根裏から伸びてぶら下がっている裸電球が室内を照らした。小屋の奥には古い農機具らしきものが置かれており、油の臭いが漂っていた。 母屋には…

  • 川で失くしてきたもの 5 フライフィッシングとの出会い

    シンジはシゲハルと二人だけで話すのは、その時が初めてだった。シゲハルも釣りが好きで、ひとりであちこちの川に出かけて、川釣りをしていることをシゲハルの話から初めて知った。シゲハルの方も、シンジが同じ趣味をもっていることに好感を持ったようであり、学校で見せるような暗い目をシンジには向けなかった。二人の話は弾んだ。 それからは、しばしば二人で釣りに出かけるようになっていった。二人とも、粗末な釣り道具しかもっておらず、餌もミミズや川虫を取って使った。シンジは餌を川底に這わせるような釣りしか知らなかったが、シゲハルは、餌を川に流して、そしてわずかな当たりを感知して竿を合わせ、よくヤマメを釣った。シンジも…

  • 川で失くしてきたもの 4 釣り友達

    シンジもまた、中学生活に馴染めない生徒のひとりであった。シンジは中学入学後、運動部に入ったが、他の部員が簡単にこなしている日々の練習についていくのが辛かった。先輩からは根性がない奴だと思われているのが悔しくて、意気地を見せようとも思うのだが、準備運動でランニングをするだけでも周回遅れになってしまった。 休み時間になると生徒同士が大きな声を出して言い争っていたり、殴り合いのけんかにまでなることも珍しくはなかった。一部の粗暴な生徒はグループ化して、いつも目つきを鋭くさせて校内を歩き回る姿は、獲物を狙っているようにシンジには思え、それから身を隠すようにして過ごすことが情けなかった。 シンジは、こんな…

  • 川で失くしてきたもの 3 失われた教科書

    シゲハルは、中学校の教室の中ではいつも一番前の席に座っていた。背丈が低いということもあったのかもしれないが、むしろ教壇に立つ先生の目が届くところに座らせられていたというところだった。というのも、シゲハルの言動には他の生徒とは異なる奇妙なところがあった。まず、授業中によく居眠りしていた。疲れているのか、先生の話に興味が持てないのか机に覆いかぶさるようにして動かなかった。それから、朝ごはんをいつも食べておらず、午前中は腹を減らしていた。身だしなみについても決して清潔と言えず、秋に衣替えをする時期になっても、白いワイシャツしか着ていなかった。そして、手提げの学生かばんは、いつもパンパンに膨れていた。…

  • 川で失くしてきたもの 2 キャップ

    それはロッドを納めるアルミ製のケースのキャップ(蓋)のことであった。それを失くした時のことはよく覚えていた。 釣りを終えて、車から取り出したケースに釣り竿を収納しようとした時に、キャップを足元に落としてしまった。夕暮れ時であり、暗くなった草むらを探しても,見つけることができなかった。帰宅を急いでしまい、出直して探せば見つかるだろうと安易に思ったのが間違いだった。数日を経て探してみたが、もはやその時には、車を停めた位置も定かではなくなってしまっていた。 それ以後ずっと十数年もロッドケースの口は開きっぱなしである。ロッドを包んだビロードの生地がいつもケースから顔を出しているのを見るにつれ,落ち着か…

  • 川で失くしてきたもの その1 プロショップ

    シンジは長い間務めた職場を退職したが、まだ気ままに釣りをして暮らせる年齢ではなかった。半年ほど就職活動を続けて、春からの雇用されることになったものの、運悪くコロナ禍の影響があって実際に働き始めるのは、5月の連休明けとする通知が届いた。まだ春が浅い時期で、渓流釣りには季節が少し早かった。暇を持て余して、街中の電器屋や家具店などぶらぶらしていたが、やがて行きつけの釣具店に足を運び時間を過ごすようになっていった。 そこは、フライフィッシングのプロショップで、そのためのありとあらゆる釣り道具が売られていた。釣り糸や針、釣り竿(ロッド)やリールといった基本的な道具を始め、毛ばりを作るための動物の羽や毛、…

  • クマより怖いもの

    荒川と言っても山形県から新潟県を経て日本海側に流れる川のことだけれど、その上流域はフライフィッシングにとても適している川である。大小の石がゴロゴロと転がる河原が広がり、その中を透明度の高い美しい水が流れている。河畔林にフライをひっかける心配もなく、ロッドを振ることができるまったく気持ちの良い川だ。源流域まで行くには車止めからしばらく登山道を歩くことになるが、うっそうとしたブナの森にずっと続いていて、所々に巨木もみかける。東北らしいブナの天然林を身近に感じることもできるところである。もっとも、自然が残っているということは当然にして野生の動物も棲んでいるということになるが、いつも連れだっていた相棒…

  • 蜘蛛おじさん

    3月で仕事を辞めてしばらくはすることもなくぶらぶらしていた。早朝の出勤時間帯に、3車線を埋め尽くした車の列が速い速度で流れている。その傍らで愛犬と散歩していると、あらためて身体じゅうから仕事の重圧が抜けていくのを感じた。 そろそろ釣りに出かけようと思い始めたのが中旬を過ぎる頃で、インターネットを使って、各地の天候や川の雪代の量をウオッチし始め、キャッチ&リリース区間のある荒雄川まで出かけた。もちろん平日である。荒雄川に着いてみると、青空が空一面に広がっているものの風が強かった。残雪が残る禿岳から吹き降ろす風は水面にさざ波を立てていた。 釣り人がだれもいない本流を諦めて、支流に入った。山懐に続く…

  • イワナがじゅうたん模様になっている川 

    年に一度、気心の知れた仲間と釣りを目的とした野外キャンプをしてきた。日帰りでは遠くて行けないような地方の川のすぐそばに寝泊まりして、釣り三昧を体験しようという狙いである。帰宅時間を気にしないで夕方のライズを狙うとか、まだだれもいない早朝の川を独占するとか、想像しただけでも楽しくなるような企画であった。実際は、食事の準備、後片付けなど、なにかと手間暇とられることが多く、釣りに費やす時間が取れなかったり、朝は二日酔いで日が高くなるまでテントで寝ていたりと、目論見通りにはいかなかったが、それでも焚き火をしながら普段はできないような四方山話に発展することも多く、それだけでも十分に楽しく、時間はあっとい…

  • アレクサンドラ・オブ・デンマーク

    今年の夏至の日に西津軽の追良瀬川まで、はるばる釣りにでかけた。追良瀬川は久しぶりで、震災後は初めてであった。いろんな思い出があり楽しみにしていた。しかし、着いてみると川の水は少なく、河原の石は乾ききっていた。これでは魚も育っていないだろうとわかっていつつも、未練がましく、フライを浮かせたり、沈めたりして魚を川から引き出そうとしばらくやっていた。ゆったりと日は暮れかかっている中で、周囲に人の気配はない。夕まづめ時まで河原に佇んでいたが、水生昆虫が飛び始める様子はなく、魚のライズの音もない。静かなものである。 追良瀬川は、以前弘前市に住んでいたころはよく釣りに来ていた。車で急いでも1時間半はかかっ…

  • 久慈川の釣り

    久慈川についたのは、旅の3日目の朝だった. 前の日から間断なく降り続けていた弱い雨が止んだものの、日が明けた時間になっても、宿の周囲は立ち込めた深い霧に覆われて静まり返っていた。ビジネス客たちが出発した後のホテルの食堂で、遅い朝食をとってから久慈川に向かった。 川に着いた頃には霧が晴れてきたが、森をしっとりと濡らした霧の水滴は、滴り落ちて川に流れ込み、水量を増やしたようで渓流釣りには好条件であった。平日で釣り人の姿も見えない。 初めて見る久慈川には強い印象を受けた。川は周囲の岩盤をながい年月をかけて削り続けた結果、谷には剝き出しになった岩盤が露になっていた。荒々しい風景に圧倒されそうになったが…

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