紙面に落とされたアリスメンディの確固たる意志を感じさせる瞳が、蝋燭の炎を鋭く反射させている。 しばしの後、アリスメンディは、おもむろに顎を引いた。 「いかにも。 わたしが書いたものだ」 (──
征服者とインカの末裔たちとの戦いの物語。インカ皇帝末裔トゥパク・アマルを中心に描く長編歴史ロマン。
と同時にドアが開き──扉の向こうから、全身黒ずくめの僧衣をまとった長身の男が姿を現した。 蝋燭(ろうそく)の明かりぐらいしかない薄暗い室内では、薄闇に隠れて顔はよく見えないものの、鋭い眼光と、そ
その時、キィッと静かにドアが開かれる音がして、先ほどの混血の美しい修道女リリアーナが入ってきた。 彼女は両手に大きなお盆を持っており、その上にはティーポットやカップが乗せられている。 「お茶
礼拝堂を横切りながら、「こっちだ」とマリオが小声でささやき、アンドレスたちを礼拝堂奥の廊下へと導いていく。 礼拝堂を出て、そのまま廊下の突き当りまで進んだところで、マリオは足を止めた。 正面に
逸(はや)る心と緊張感とで、アンドレスは武者震いのようなものを覚えながら、胸襟(きょうきん)を正す。 それは、まだアリスメンディとの面識のないジェロニモやペドロも同じようで、早朝の冷気の中にもかかわ
(いよいよか……!) にわかにアンドレスは身の引き締まる思いがして、手綱を握る手に力を込める。 それから、思い出したように、早朝の蒼天を振り仰いだ。 清々しい陽光を跳ね返しながら翼を羽ばたかせてい
そんな経緯で、今、旅のメンバーたちとマリオはアレキパの街中──人目を避けた裏通りだが──に来ているわけなのだが、まずは、彼らが訪れている街について記しておこうと思う。 アレキパは、インカ帝国の第4代皇帝
やがて目を見開いたトゥパク・アマルが、ハーブティを口元に運んでから、物思わしげに言う。 「……やはり、“あれ”を試してみるか」 不意のトゥパク・アマルの言葉に、その場にいた全員が息を詰めて、目を瞬かせ
その後、トゥパク・アマルとスペイン人医師サレス、老練のインカ族の従軍医、コイユールたちはアレッチェの治療について協議を重ねていた。 会議室用の広間は、かつてはこの砦を取り仕切っていたアレッチェがいか
包帯に巻かれているにもかかわらず、火のように激昂した表情が見えるかのようなアレッチェの暴言に、スペイン人医師サレスは冷静さを失わぬままに答える。 「お気持ちは察するに余りあります。 ですが、閣下の
数日後。 早速、スペイン人の医師がトゥパク・アマルたちが居を構える砦へと招かれた。 50代後半位の年代に見える落ち着いた佇まいのスペイン人医師──サレスは、アレキパ界隈では腕利きの医師として有名で、こ
トゥパク・アマルはコイユールを助け起こすと、「アレッチェ殿を見舞いに来たのだが…。大丈夫かね」と、心配そうな眼差しをコイユールに向ける。 コイユールはいっそう深々と身を低めて、アレッチェに打倒された
「アレッチェ様を殺すだなんて、そんなことするはず……」 そう擦れ声で答えながら、コイユールは悲しげに目を伏せた。 (アレッチェ様、いつも以上に荒れていらっしゃる…。 治療の効果が全然見えてこないの
トゥパク・アマル陣営──。 モソプキオ村でのアンドレスたちとロカ神父との会合が、そろそろ終わりを迎えようとしていた頃の夕刻時。 スペイン軍総指揮官ホセ・アントニオ・アレッチェが治療を受けている居室で
「先ほどもお伝えした通り、アリスメンディ様と親交のあったドミニコ会などの神父や修道女は私だけではありません。 ですから、私と同じような境遇におかれ、モスコーソ大司教から出頭を命じられている者たちは他
少し前まで、時折、教会の外の広場から流れきていた村人たちの喧騒も、今はだいぶ静かになってきている。 治療や薬学に長けているロカ神父を呼びに来ないところからして、先ほどの戦いでの自警団員たちの負傷はさ
「私が追放されなかったのは、私はイエズス会に属する神父ではないからです」 「え!? それじゃ、あなたは……?」 「私はイエズス会士ではなくドミニコ会に属する神父なのです」 「ドミニコ会?」 「
明けましておめでとうございます。 昨年も大変お世話になり、本当にありがとうございました。 今年もどうぞよろしくお願いいたします。 全ての皆さまにとりまして、幸多き素敵な年となりますように。 ☆202
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紙面に落とされたアリスメンディの確固たる意志を感じさせる瞳が、蝋燭の炎を鋭く反射させている。 しばしの後、アリスメンディは、おもむろに顎を引いた。 「いかにも。 わたしが書いたものだ」 (──
「俺は、この植民地生まれです」 ヨハンの答えにアリスメンディは「そうか」と頷く。 「だとすれば、そなたも、本国スペイン出身のスペイン人たちから、いわれのない差別を受けてきたのではないか?」
アリスメンディはゆっくりと首を横に振った。 「いや、ラス・カサス殿も聖ローザも、ふたりともイエズス会ではなくドミニコ会に所属していた。 今、わたしが世話になっている聖カタリナ修道院もドミニコ会に属
燭台の光を反射して、マリオのペンダントの先に付いているメダイ──金属製の小さな銀色のメダル──が、キラリと煌めきを放つ。 「へえ、綺麗だね」 思わず呟いたアンドレスに、マリオは「このメダイには、聖ロ
アリスメンディは、神父らしい面持ちで、次のように語った。 「わたしを匿(かくま)うことを願い出てくれた聖カタリナ修道院の修道院長が、ラス・カサス殿や聖ローザを崇敬している人物なのだ。 修道院
やがてアンドレスが口火を切った。 「アリスメンディ殿、あなたが英国から運んできて我々に供与してくださった武器は、先日のアレキパ砦戦でとても助けになりました。 本当にありがとうござい
明けましておめでとうございます 昨年もご来訪いただきまして本当にありがとうございました。今年も一歩一歩書き進めてまいりますのでどうぞよろしくお願いいたします。 2023年は生成AIが身近なものとなり 創作に
と同時にドアが開き──扉の向こうから、全身黒ずくめの僧衣をまとった長身の男が姿を現した。 蝋燭(ろうそく)の明かりぐらいしかない薄暗い室内では、薄闇に隠れて顔はよく見えないものの、鋭い眼光と、そ
その時、キィッと静かにドアが開かれる音がして、先ほどの混血の美しい修道女リリアーナが入ってきた。 彼女は両手に大きなお盆を持っており、その上にはティーポットやカップが乗せられている。 「お茶
礼拝堂を横切りながら、「こっちだ」とマリオが小声でささやき、アンドレスたちを礼拝堂奥の廊下へと導いていく。 礼拝堂を出て、そのまま廊下の突き当りまで進んだところで、マリオは足を止めた。 正面に
逸(はや)る心と緊張感とで、アンドレスは武者震いのようなものを覚えながら、胸襟(きょうきん)を正す。 それは、まだアリスメンディとの面識のないジェロニモやペドロも同じようで、早朝の冷気の中にもかかわ
(いよいよか……!) にわかにアンドレスは身の引き締まる思いがして、手綱を握る手に力を込める。 それから、思い出したように、早朝の蒼天を振り仰いだ。 清々しい陽光を跳ね返しながら翼を羽ばたかせてい
そんな経緯で、今、旅のメンバーたちとマリオはアレキパの街中──人目を避けた裏通りだが──に来ているわけなのだが、まずは、彼らが訪れている街について記しておこうと思う。 アレキパは、インカ帝国の第4代皇帝
やがて目を見開いたトゥパク・アマルが、ハーブティを口元に運んでから、物思わしげに言う。 「……やはり、“あれ”を試してみるか」 不意のトゥパク・アマルの言葉に、その場にいた全員が息を詰めて、目を瞬かせ
その後、トゥパク・アマルとスペイン人医師サレス、老練のインカ族の従軍医、コイユールたちはアレッチェの治療について協議を重ねていた。 会議室用の広間は、かつてはこの砦を取り仕切っていたアレッチェがいか
包帯に巻かれているにもかかわらず、火のように激昂した表情が見えるかのようなアレッチェの暴言に、スペイン人医師サレスは冷静さを失わぬままに答える。 「お気持ちは察するに余りあります。 ですが、閣下の
数日後。 早速、スペイン人の医師がトゥパク・アマルたちが居を構える砦へと招かれた。 50代後半位の年代に見える落ち着いた佇まいのスペイン人医師──サレスは、アレキパ界隈では腕利きの医師として有名で、こ
トゥパク・アマルはコイユールを助け起こすと、「アレッチェ殿を見舞いに来たのだが…。大丈夫かね」と、心配そうな眼差しをコイユールに向ける。 コイユールはいっそう深々と身を低めて、アレッチェに打倒された
「アレッチェ様を殺すだなんて、そんなことするはず……」 そう擦れ声で答えながら、コイユールは悲しげに目を伏せた。 (アレッチェ様、いつも以上に荒れていらっしゃる…。 治療の効果が全然見えてこないの
トゥパク・アマル陣営──。 モソプキオ村でのアンドレスたちとロカ神父との会合が、そろそろ終わりを迎えようとしていた頃の夕刻時。 スペイン軍総指揮官ホセ・アントニオ・アレッチェが治療を受けている居室で
と同時にドアが開き──扉の向こうから、全身黒ずくめの僧衣をまとった長身の男が姿を現した。 蝋燭(ろうそく)の明かりぐらいしかない薄暗い室内では、薄闇に隠れて顔はよく見えないものの、鋭い眼光と、そ
その時、キィッと静かにドアが開かれる音がして、先ほどの混血の美しい修道女リリアーナが入ってきた。 彼女は両手に大きなお盆を持っており、その上にはティーポットやカップが乗せられている。 「お茶
礼拝堂を横切りながら、「こっちだ」とマリオが小声でささやき、アンドレスたちを礼拝堂奥の廊下へと導いていく。 礼拝堂を出て、そのまま廊下の突き当りまで進んだところで、マリオは足を止めた。 正面に
逸(はや)る心と緊張感とで、アンドレスは武者震いのようなものを覚えながら、胸襟(きょうきん)を正す。 それは、まだアリスメンディとの面識のないジェロニモやペドロも同じようで、早朝の冷気の中にもかかわ
(いよいよか……!) にわかにアンドレスは身の引き締まる思いがして、手綱を握る手に力を込める。 それから、思い出したように、早朝の蒼天を振り仰いだ。 清々しい陽光を跳ね返しながら翼を羽ばたかせてい
そんな経緯で、今、旅のメンバーたちとマリオはアレキパの街中──人目を避けた裏通りだが──に来ているわけなのだが、まずは、彼らが訪れている街について記しておこうと思う。 アレキパは、インカ帝国の第4代皇帝
やがて目を見開いたトゥパク・アマルが、ハーブティを口元に運んでから、物思わしげに言う。 「……やはり、“あれ”を試してみるか」 不意のトゥパク・アマルの言葉に、その場にいた全員が息を詰めて、目を瞬かせ
その後、トゥパク・アマルとスペイン人医師サレス、老練のインカ族の従軍医、コイユールたちはアレッチェの治療について協議を重ねていた。 会議室用の広間は、かつてはこの砦を取り仕切っていたアレッチェがいか