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  • 日々の恐怖 3月30日 村岡君(2)

    日々の恐怖3月30日村岡君(2)いつの間にかクラスメートのほとんどが集まってきました。何人かは竹林側の廊下に出て、より近くで見えない女性のその姿を見ているようです。しかし私や半分くらいのクラスメートには何も見えません。そこへ担任と隣組の先生がやってきました。「お前ら何してるんや、作業せいよ。」担任の山本先生が言います。年下の隣組の先生は腕組みをしています。村岡君がつぶやきました。「あそこの竹のとこに変な女がいるんです。」指差す方向を見た担任は、「雨降ってるだけやないか。竹の子でもおるんか?」と笑います。「や、山本先生、あれが見えんとですか!?」隣組の先生が腕組みをとき、後ずさりながら言いました。「透けとう女です!」中途半端な笑い顔のまま山本先生は、それでももう一度その方向を見ます。「いや、見えんが・・・、みな見...日々の恐怖3月30日村岡君(2)

  • 日々の恐怖 3月25日 村岡君(1)

    日々の恐怖3月25日村岡君(1)それは10月も終わりに近づいた放課後のことです。私たちは文化祭の準備で、かなり遅くまで教室に残り展示物を作る作業をしていました。朝からの雨はいつの間にか霧雨に変わり、夕方なのにまるで夜のような暗さでした。時々遠くで雷鳴が轟き、当たり一面を一瞬明るく照らします。私の故郷はかなりの田舎で、中学校も山を切り開いたその中にあり、校庭を挟んで小さな町が広がり、山手側は竹林になっています。雷光のたびに竹林が照らし出され、うっそうとした奥のほうまでの広がりが見えます。私は親友の村岡君と、紙を切ってセロファンに付ける作業をしていました。すると、村岡君が竹林を見て手を止めました。しばらくして、「何や?あの女・・・?」と私に問いかけます。視線を上げて竹林の方を見ますが、女性はおろか特に変わったものも...日々の恐怖3月25日村岡君(1)

  • 日々の恐怖 3月21日 心肺蘇生(2)

    日々の恐怖3月21日心肺蘇生(2)患者さんのご家族に事情を説明し、開放されたのは深夜の2時を回った頃だったといいます。“あと5分・・・、あと5分続けていれば、心拍が戻ったんじゃないか・・・・・。”無駄だと頭では分かっていても、ご家族の嘆きを見たり、実際に命が掌から滑り落ちる感覚を味わうと、そう思わざるを得ません。Aは疲れた身体を引き摺り、当直室へ戻りました。疲れてはいるのですが、一向に眠気は訪れません。しばらく、ぼうっとベッドに腰掛けていると、”トントン・・・、トントン・・・、トントン・・・、トントン・・・。”当直室のドアをノックする音が響きました。「そりゃあ、不思議に思ったよ、なんだ、こんな時間に、って・・・・。」当直室にはナースセンターからの直通電話があり、普通はそこから連絡が来るものです。こんな深夜に当直...日々の恐怖3月21日心肺蘇生(2)

  • 日々の恐怖 3月19日 心肺蘇生(1)

    日々の恐怖3月19日心肺蘇生(1)大学時代の同期にAという男がいます。在学中は一緒に馬鹿をやった中ですが、今は専門を違えており、なかなか会う機会もありません。そんな彼に久々に会ったときの事です。お互いに昼飯に行くところだったので、連れ立って昼を食べていると、Aが奇妙なことを言いだしました。「俺さ、まったく怖い話とか信じてないけど、あれは怖かったなぁ・・・・・。」聞くと、Aが数日前の当直の日、受け持ちの担当患者さんの容態が急変したそうです。その患者さんはかなりの高齢でしたが、容態は安定しており、本当に急なできごとだったといいます。患者さんのご家族が駆けつけるまでの間、Aは心肺蘇生を試みておりました。患者さんはなにぶん御高齢ですので、電気ショックは使えず、手技による心臓マッサージだったそうです。やったことのある方は...日々の恐怖3月19日心肺蘇生(1)

  • 日々の恐怖 3月17日 風鈴(2)

    日々の恐怖3月17日風鈴(2)見ていた祖父と爺様達は、遠巻きに、「お、ゆっくりな、ゆっくり。」「でぇじにあつかえ。」等、わけがわからないです。丁寧に外し、よく見ると緑色に錆びた風鈴のようなものでした。「爺ちゃん、これ・・・。」と祖父に渡そうとしても受け取らない、触ろうとしない。「おっ、いいからお前がもってろ。」ちょっと待って下さい、お祖父ちゃん。他の爺様達も笑顔だが、誰も近づかない。その後すぐに村へ帰ることになりました。祖父の家へ戻ると祖母も同じ反応でした。近づこうとしない。でも、泣くほど不安になったわけではありませんでした。村中の人が祖父の家へ集まってきました。お爺ちゃんお婆ちゃんだらけの中、「それにはおめぇ以外触れねえんだ。」「良い事があるよ。」「わしは二度目かの。」「まえは誰だった?」等、笑いながら話して...日々の恐怖3月17日風鈴(2)

  • 日々の恐怖 3月14日 風鈴(1)

    日々の恐怖3月14日風鈴(1)昔です。小学校高学年の夏休みです。祖父母の元へ一週間ほど泊まりで帰省していた時の話です。山奥の村落、20軒ほどが身を寄せ合うところで、村には私のような子供は一人もいませんでした。住人はほとんどが高齢者ばかりのようで、過疎という言葉が当てはまる場所です。かといって暗い雰囲気は無く、小さな訪問者に皆が親切にしてくれました。「ミノルの倅か、ほーかほーか。」「テービもねぇからつまらんろ。」「独楽回すか、独楽。」「後で、釣りいくべ。」「虫がいねぇんだろ、あっちは。捕り方おしえんべか。」どちらが子供かわからない。でも、うれしかったことを覚えています。二日目に祖父と釣りへ出かけました。村の爺様ほとんどがついてきます。山間の上流、比較的流れが緩やかな場所です。気を使ってくれているのは分かりました。...日々の恐怖3月14日風鈴(1)

  • 日々の恐怖 3月10日 肖像画(3)

    日々の恐怖3月10日肖像画(3)叔母と老人は単に絵描きと顧客の関係だったため、叔母が老人の死を知ったのは次の週、少し気まずい気持ちで老人ホームを訪れた時だった。部屋は片付き、広い室内にあの絵だけが残っていた。叔母は目を見張った。出来上がるまでもう一手間加える必要があったはずなのに、その絵はどう見ても完成していた。部屋の中では老人の親族と思しき中年の男性が、叔母を待っていた。「生前は、祖父がお世話になりました。この絵なんですが、祖父の遺言で、必ずあなたにお渡しするように、と・・・。」「でも、お金も頂いてるのに。」「いいんです。祖父の言うことを聞かないと、僕たちが叱られてしまう。こんな大きなじいさんの絵、迷惑なだけかもしれませんが。」叔母が呆然と自分の描いた絵を見つめていると、不思議なことに絵の中の老人がニコリと微...日々の恐怖3月10日肖像画(3)

  • 日々の恐怖 3月7日 肖像画(2)

    日々の恐怖3月7日肖像画(2)大学時代から、祖母はよく似顔絵描きのボランティアをしていた。八年ほど前、ある老人ホームに行った時、一人の老人が叔母の絵を気に入り、きちんとした額縁に飾れるような肖像画を描いてくれと依頼した。老人は、その辺りでは有名な病院の前院長らしく、病院のホールにその絵を飾りたいのだという。金持ちらしく、ホームの最上階の特室に住んでいた。叔母は快く了承し、週に一回二時間の約束でホームに通うようになった。老人は九十歳を超えているというが、矍鑠としていた。長話だが話上手で、自分の苦労話や戦時中の出来事なども面白おかしく話してくれたため、叔母はやがて老人を訪れるのが心から楽しみになった。ゆっくり描いてくれという言葉に甘え、一年近く老人の元へ通った。ようやく完成に近づいた頃、いつになく老人の口数が少ない...日々の恐怖3月7日肖像画(2)

  • 日々の恐怖 3月5日 肖像画(1)

    日々の恐怖3月5日肖像画(1)彼女には、絵描きを生業とする叔母がいるそうだ。雑誌や広告のイラスト、本の表紙、油絵の市民講座や高校の美術部の講師など、絵に関する様々な仕事を一手に引き受けていた。叔母は、姉である彼女の母親とは歳が離れており、姪である彼女と十五歳しか違わなかった。そのため叔母としていうよりは、姉のように彼女を可愛がってくれていた。叔母は古い小さな借家に一人で暮らしており、家が近いこともあって彼女はしょっちゅう遊びに行っていた。絵描きなので家のあちこちに絵が飾ってあったが、中でも目を引くのは、玄関を入ってすぐのところにある、高さが一メートルを越すような大きな肖像画だった。大きさもさることながら、壁にかけたり床に置いたりするのではなく、一人掛け用のソファの上に丁寧に置かれており、この絵が特別なことは明白...日々の恐怖3月5日肖像画(1)

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