季節の変わり目。身を切る寒さが緩み始め、次第に暖かさが混じり始める時期。日中の暖かさと、夜の冷え込みが両極端な二面性を出している、そんな季節。僕はいつものようにコタツに寝転んで、何をやるでもなくスマホを眺めていた。無為に過ぎていく日々の内に、冬が去り、春が訪れ、夏が来る。季節は変わり、四季は移ろうというのに、僕の生活は変わらない。1日の大半をスマホを眺めて過ごし、時折、居眠りをして、夜が来て眠りに...
2025年3月
季節の変わり目。身を切る寒さが緩み始め、次第に暖かさが混じり始める時期。日中の暖かさと、夜の冷え込みが両極端な二面性を出している、そんな季節。僕はいつものようにコタツに寝転んで、何をやるでもなくスマホを眺めていた。無為に過ぎていく日々の内に、冬が去り、春が訪れ、夏が来る。季節は変わり、四季は移ろうというのに、僕の生活は変わらない。1日の大半をスマホを眺めて過ごし、時折、居眠りをして、夜が来て眠りに...
2025年3月
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季節の変わり目。身を切る寒さが緩み始め、次第に暖かさが混じり始める時期。日中の暖かさと、夜の冷え込みが両極端な二面性を出している、そんな季節。僕はいつものようにコタツに寝転んで、何をやるでもなくスマホを眺めていた。無為に過ぎていく日々の内に、冬が去り、春が訪れ、夏が来る。季節は変わり、四季は移ろうというのに、僕の生活は変わらない。1日の大半をスマホを眺めて過ごし、時折、居眠りをして、夜が来て眠りに...
冬のある日の夕方。夜に向かって時間と共に寒さが強くなっていく、その始まりの時間帯で、昼と夜を隔てる昼の残滓のような終わりの時間帯。気だるい疲れを全身に宿し、日が落ち切るまでのこの僅かな間を僕はこれと言ってすることもなく持て余していた。日没まで後1時間はあるだろう。その1時間をどう過ごすか、ソファに腰掛けてぼーっと何を観るでもなく眺めながら思案というほどでもないが、ぼんやりと思っていた。ソファの右手に...
1人、野原に立つ。結局、僕だけが生き残った。この広大な世界にただ僕1人だけが生き残った。文明の音が消えて10年は経つ。僕もだいぶ歳をとった。冬に入ってから雪が降り続いている。もうずっとだ。静かだ。誰も居ない世界が、より一層静まり返っている。静かな野原に1人立ち、僕は積もっていく雪をいつまでも眺めていた。...
寒い。とても寒い。身体の芯から熱を奪っていく厚い冷気の膜に埋もれて、シオリは身体を小さく振るわせてちーんと身を縮ませた。コタツの電源をオンにして肩までコタツに入り込むと、身じろぎもせずに固まっている。じんわりと温かくなってきた。優しい温かさに徐々に気分が和んでくる。コタツに潜ったまま寝転んでスマホをやっていると、バッテリーが20%を切ったという通知がスマホの画面に表示された。しぶしぶコタツから這い出...
1週間後の夜に2回目のテストを実施した。三日月が綺麗な夜だった。プログラムの一部を修正して仮想環境で入念にシミュレーションを行った。そのなかで幾つかのバグを潰し、システムがより安定するようにパラメータの微調整を行った。また太陽フレアの影響を抑えるため、電磁干渉を抑制するシールドケーブルに変えて、またその長さも極力短いものに変更した。ドッグに腰掛け停止しているデボラC84は、地下室の白色灯に照らされて、...
清々しい晴天の冬の空には、小さく太陽が顔を出し雲が早く流れていた。2025年1月2日のこの日も僕はいつものように地下室に篭り作業をしていた。正月もお盆もなくいつものルーティンをこなす。決まったことを決まった時間いつものように行う。決して例外は作らない。ストイックなのではなく、ただ日常を壊したくないだけだ。いつもと同じように地下室でデボラC84を組み立てていた。デボラC84は人工知能を搭載する予定の自律型ロボッ...
底冷えする深夜、ベランダで僕はカンナと2人で星空を見上げていた。凍てつく寒さに頬が痛いし、手袋をした指がかじかむ。南の空にオリオン座が輝いていた。星空を見上げて、身を寄せ合い、白い息で会話し合う。まるで寒さを忘れてお菓子の家を頬張るヘンデルとグレーテルみたいに、僕らは星空を眺めながら夢中で会話をする。「みて。リゲルの東の小さな星がよく見えるね。」「カイバルンだね、そうだね。よく見えるね。オリオン座...
粘土にナイフを突き立てた。ケーキにロウソクを立てる様に、つるんとナイフは粘土に入っていく。僅かな抵抗もない感触が心地いい。その感触を楽しみながら小分けパックのお豆腐大に四角く粘土を切り取ると、切り取った粘土を、形を変えやすいように丸くしていく。四つほど丸くしたところで一列に並べると、端の方に串を入れて四つを串刺しにした。四つの丸い塊が一本の串で串刺しになっている、それの塊の端から出ている串を掴むと...
炬燵で寝そべってスマホをしていた。誰も観ていないテレビではディズニーのアラジンをやっている。物語は佳境なのか切迫した声が聞こえてくる。アラジンの危機迫った金切り声をBGMに、僕はというとマネーフォワードで今月の収支を見返しては、ため息混じりの繰り言を呟いている。「マジか、そう来ますか?」そう繰り返すたびにこの現実から目を逸らしたい気分に襲われる。目前の危機にじんわりと汗をかいている。きっとこの窮地を...
ベッドに寝転びながらハイサイドライトから溢れる陽光をぼんやり眺めていた。溢れた陽光は反対側の壁に四角形の陽だまりを作っていて、まるで何も記録されていないテープを純白のスクリーンに映写機で再生しているように見えた。室内を満たす優しい光のなか、その光の塊を眺めながら、僕はこの先のことを考えていた。不安定な未来のこと。不確かな将来のこと。目標はなくただこうやって惰性で生きる日々。そんな日々の積み重ねの先...
午前5時、鳥も眠っているようなまだ暗い時間帯。燃えるゴミを抱え外に出た。両手にゴミ袋を持ちながら静まり返る住宅街を集積所のある南に向かって歩く。静かな足音を立てながら、あらゆる罪を優しく覆い隠したような、穏やかな暗闇に包まれた住宅街を歩く。11月も半ばに差し掛かると凛とした空気が体に痛い。白い息を吐きながら、なんとはなしに空を眺めた。南東の方角にオリオン座、おおいぬ座、こいぬ座が作る冬の大三角形がく...
ラジオからアニマルズの「ザ・ハウス・オブ・ザ・ライジングサン」が流れていた。1日の始まりに胃が重くなる憂鬱さを感じながら、ベッドの上で僕は気怠く伸びをして、昨晩飲みかけのビールに口をつけた。まるでラッパを忘れた間抜けなラッパ隊のように居心地の悪い味がした。苦味が舌に残り、その苦味を消すためにさらにもう一口飲む。気の抜けた生ぬるいビールを飲みながら、僕は出勤前の朝の時間を努めて儀式的に振る舞う。熱い...
スバル360のハンドルを握り右に切った。ギアをセカンドからサードにシフトしてアクセルを踏み込む。小気味の良いエンジン音を立てスバル360は加速していく。バックミラー越しにセリカが見える。セリカとの距離を一定に保ったまま、アクセスを少し緩めた。透き通った青空と気持ちの良い秋風を感じながら、僕はスバル360を走らせていた。空高い秋の日の正午少し前、ちょうど過ごしやすい陽気と、晴天の空、なにより絶好のドライブ日...
その部屋には古い木製の椅子がぽつんと置かれていた。簡素な装飾が施された実用を重視したような椅子だった。落ち着いた色合いとしっかりとした造りが重厚さを漂わせている。その部屋には椅子以外は何も無かった。その椅子が部屋の真ん中に一脚だけ置かれていた。部屋の窓からは優しい光が差し込み、椅子に光の帯を掛けている。静寂の空間の中に、光の帯を受けた椅子が一脚だけ置いてある。いつかの一瞬を境に空間ごと固定され、時...
薄ぼんやりとした空が広がっていた。雨でもなく、晴れでもない、霞がかった空だった。空は弱々しい光を地上に届けていた。その光を受けて辺りは柔らかい存在感を湛えていた。その光は窓ガラスを通して室内をぼんやり照らしていた。鈍い光に照らされ、室内は、全てのものが今にも混ざり合ってしまいそうな不安定な雰囲気を漂わせている。その雰囲気を受けて、僕は、落ち着いた、少し不安な、どこか寂しい気持ちを感じていた。ユミが...
ある日の昼下がりであった。その日は、暑くもなく、また寒くもない、ちょうど過ごしやすい日だった。私は、隣町まで用事に出かけていた。その帰りの事である。私は、ちょうど良い過ごしやすい気候と、あまり知らない町という好奇心から、なんとはなしにその町をふらふらと歩いてみたい気分になった。見慣れない風景に心が弾む。この町の生活をより知ろうという思い付きから、大通りよりも裏手にあるような生活道路を選んで歩いてい...
コーという音と共に、ファンヒーターの暖気が部屋中に行き渡っていく。徐々に温められていく部屋の中でコウスケとカオリは部屋着に着替えると買ってきた本をバッグから取り出した。カオリは、ソファに寄りかかり膝を立てて座ると難しい顔をしながら読み始めた。カオリが買ってきたのは占いの本だ。星座でもなく血液型でもなく誕生日占いでもない、生年月日を一の位になるまで、それぞれ一桁ずつ足していくという本格的なやつだ。1+...
エアコンの運転が冷房から暖房に変わった季節。先日まで寝苦しい夜で、冷房をつけて寝ていたのに、今夜は暖房をつけて寝た。そろそろ10月も半ばにさしかかるとさすがに夜は寒い。暖房をつけていながら夜中に寒さで目を覚ました。そろそろ寝間着も半袖半ズボンでは寒いかなどと思いながら、布団を引き寄せて深く被った。布団を深く被った状態で、スマホに手を伸ばす、スマホの時刻には2時36分と表示されている。まだ寝てからそれほ...
シーンと静寂に包まれた世界に、微かに星が瞬く夜。その夜は、大地を照らす月も無く、あらゆる物を隅々まで満遍なく漆黒で満たしていた。その漆黒のなかで、すべての生き物たちが動くことをやめて、身を横たえ、ひと時の安息に身を休ませている時間、僕はこの塔からの脱出を試みていた。この鉱物なのか生物なのかも判別しない塔は、堅い表面を僅かな星明かりに浮かび上がらせて、時々脈動し、呼吸をし、そうかと思えば押し黙り、微...
パソコンに向かい作業をしていると、僕の神様が話しかけてきた。僕を作った神様は、姿は見えないが、声だけで語りかけてくる。「いつまでこんな生活を続けるつもり?いい加減、君も神様になったら?」僕はというと、またこれか、とうんざりした顔で作業中の手を止めて、コーヒーが入っているマグカップに手を伸ばす。コーヒーを一口飲むと、神様に向かっていつものセリフを呟いた。「はい、分かってますけど、神様になることは、な...
作業用ポッドに乗り宇宙空間にただひとり浮かんでいた。何の音もない広大な空間は上にも下にも右にも左にも果てしなく広がり、その無限の空間のなかにただ私1人が浮かんでいた。下の方に地球によく似た惑星が見えた。半分は暗闇に染まり、もう半分は光に当てられ色彩豊かな表情を見せている。私はその様を茫然と見つめていた。残りわずかな酸素が無くなった時、私の人生は終わりを迎えるのだろう。そして、ひとつのチリになって宇...
薄曇りの朝方、近所を散歩する気になった。薄らと雲が空全体を覆っていてすこし閉塞感を覚えた。やや右に湾曲しているこれといってなんの特徴もない道を歩いていると、道の右側の草むらで男が草刈りをしていた。前方の草むらで草刈りをする男はがっしりとした体つきをしていて、白いTシャツとウグイス色の作業ズボンを履いている。草刈りをする男は心ここに在らずといった感じで、ただ機械的に草刈機を左右に動かしている。刈り残...
路地裏の三叉路に風が吹き付ける。通路と通路の真ん中の洲になっている敷地に店を構える主人はサンバイダーが大きく音を立てて唸るのを横目にコーヒーカップを磨いていた。時折、コポコポとサイフォンが音を立てた。「それでお神輿は今年はやらないんですか?」バイトのカナエが客の西条にそう聞いた。西条はカウンターに座り、雑誌を読みながらコーヒーを飲んでいた。「ええ、やりませんね。今年だけじゃなくて今後はやらないでし...
懇願する女の首に鎌をあて、横にひいた。鮮血がほとばしり、女は横にどっと倒れた。涙を流しながら半目を開けて口をパカパカしている女が動かなくなると後ろから悲鳴が上がった。次の狙いを定め、鮮血に染まった鎌を握りしめると悲鳴の主に飛びかかった。パトカーのサイレンが響く。きっと交通違反か何かだろう。向こうが交通違反で、こちらはマナー違反だ、と僕は思いながらミカの寝顔をみた。ぐぅぐぐぅぅ、ぐぅぐぐぅぅ、、すぴ...
アパートの外は曇り空で薄暗く強い風が吹いていた。伸子はアパートのリビングで咲江に連絡するためにスマホを手にして文字を打っている。咲江は高校時代の友人である。お互いに気を遣い合う仲だった。2人が対面する時、座りが悪い空気感が漂う。それでも離れないのはどういう訳なのかわからない。伸子は高校卒業後、インフラ系の会社に就職し、隣町の支店に配属となった。咲江は専門学校に進学して医学療養の知識を学んだのち、県...
隕石落下まで後数時間。その時あなたはどうする?これは地球最後の日を迎えたある夫婦の物語である。「後数時間だな、、おれはお前と一緒にいられて楽しかったよ。ユリ、いい人生だった。」ユリは頷きながら「わたしも貴方と同じ気持ちだよ。いい人生だった。ただ、、」うんん、なんでもない。いい人生だった。「ただ?なんだい?何か不満でもあったかい?」「まあ、そりゃあ、おれは三流でユリには苦労をかけっぱなしだったけども...
そのときチハルはいろいろ考えては気を揉んでいた。この問題はこのときすでに考えて解決出来るような性質のものではなくなっていた。考えるだけ無駄である。それでも生真面目なチハルにはその問題を考えずにはいられなかった。考えは堂々巡りの末、振り出しに戻る。そんなぐるぐると巡っている思考を強制的に方向転換させようとして、チハルは散歩に出かけようと思い立った。解決の糸口を探るために頭からのアプローチではなく体か...
落ち葉が降っていた。 春先なのに落ち葉が舞っている。この季節に映える青々とした葉がハラハラと散っている。 濃い群青色をした葉が螺旋を描いて地に降っていた。春先の淡く色付いた地面が落ち葉により青く染まる。ユウコは落ち葉を降らす老木を見上げた。遥かな年月の経過を感じさせる、 こぶをたたえた老木はささくれ立ち、乾燥し、その生命力が残りわずかなものであるということをその容姿から告げていた。 ...
コンピュータはメッセージという概念で広がっていく。オブジェクト指向のメッセージングで1つのクラスから他のクラスに広がっていき、そのオブジェクト指向で作られたプロセスがプロセス間通信で他のプロセスに広がっていき、さらにそのプロセス間通信で作られたシステムがネットワークプログラムで他のシステムへと広がっていく。コンピュータはメッセージという概念で広がっていく。メッセージはどこから発想を得た概念なのかと...
ぽちゃん、ぽちゃん、、屋根を伝った雨が軒下の何かに当たる音が聞こえる。僕はその音を聞きながらうとうとしている。雨音の一定のリズムが心地いい。雨はさほど強くはなく、まばらな降りだったが、春の長雨というやつで長い時間降り続いていたので家で大人しくしているより他なかった。雨の日の部屋の中は様子が変わって不思議な感じがした。安っぽい部屋も何か重々しい気怠く重厚な雰囲気に包まれる。こんな日にはこの部屋にもR&...
時間は過ぎ去り、戻らないのだろう。 時刻は午前3時。 あたりは静寂に包まれている。 早い時間に目が覚めてしまった。 だが、もう一度寝ようという気にならず、コーヒーを淹れた。 コポコポと音を立ててコーヒーが落ちる。 その音を聞いていたら、すこし昔話をしたくなった。 あれはいつだったか。いつからだったのか。 10歳だったか、12歳だったか、正確には覚えては居ないが、随分...
月明かりに照らされて酔っ払いが歩いている。 だいぶ飲んだらしく酔っ払いは千鳥足だ。 電柱や民家の壁を伝いながら、ひょこひょこ歩いていく。 鼻歌を歌ったり、信号機に挨拶をしたり、電柱にもたれかかったり、、何もかもが幸せそうだ。 ちょっとからかってみたくなった。 俺はワンカップ大関にお酢をいれてよっぱらいに近づいた。 ひょこひょこ歩いている酔っ払いに向かって、突然「危な...
どうやら俺は死んだらしい。 あ、やばいな。それが最後の記憶だった。 最後に聞いた音は車が谷底に激しくぶつかる音だった。 あ、やばいな。と頭によぎった次の瞬間に車は谷底にぶつかり、目の前が真っ暗になって意識が途切れた。 いま俺の目の前には神さまがいた。 神さまはふさふさの白髭を生やしてつるつるの頭、肌つやの良い顔をして微笑んでいる。 肉付きの良い体を白い着流しで覆って、俺をみて...
狭い箱の中に閉じ込められている。 外に出ようと必死に中から扉を叩くが一向に開く気配はない。 無駄だと悟り、そのうちに叩くことをやめる。 長いこと箱の中で過ごしたので、そのうち外がどうなっていたのか忘れてしまった。 外の世界は季節が巡り春先になっているようだ。 随分昔に嗅いだ春の匂いが、箱の中にも入り込んで来る。 外は明るい陽光に照らされているのだろう、でも中はいつだって真っ暗...
メッセージはありません。通信を終了します。 黒いコンソールに白い文字でそう表示された。 事実だけを告げる冷徹なその言葉は、大きく期待を裏切るものだった。 僕はその言葉を1文字づつマウスでなぞって、現実を認識しようと努めた。 端末からは、バッハの無伴奏チェロ組曲第一番が流れている。 その大きく包み込む温もりを感じさせる旋律は、端末の持つ無機質さとあまりに対照的で、 隣...
沖合にある島を目指していた。大しけだった。海はうねりをあげて荒れ狂っている。 小舟は怒涛により何度も転覆の危機を迎えた。1つの怒涛を超えても息つく間もなく次の荒れ狂った大波が押し寄せてくる。小船は急流に飲み込まれる木の葉のように翻弄され続けた。 穂先を波に対して真っすぐに。大波を被りながらも、ただそれだけを愚直に延々と繰り返す。 大しけの日は監視が緩む。決行するにはこの日しかなかっ...
40の手習いに自転車に乗り始めた。子供の頃以来の自転車は、なかなか真っ直ぐに進まず、あっちによれよれ、こっちによれよれしながらペダルを回していた。高校生の自転車に追い抜かれたり、電動自転車に追い抜かれたりしながら、それでも体にあたる風がすがすがしくてとてもいい気持ちだった。そんな気分最高のおれの行く手に長い登り坂が見えてきた。すっかり子供の気分に戻っていたおれは、この坂を登る決断をした。坂の始まり...
早く目が覚めた。午前4時半。 遠くに新聞配達のバイクの音が静かに聞こえている。 僕と新聞配達員しか存在していないと思わせるような静かな時間帯。 すこし寒い感じがする。ハロゲンヒーターをつけようとしたが手が届かない。 パソコンに向かおうとしたけどめんどくさくてやっぱりやめた。 しばらくの間、ベッドから部屋を眺めている。 外はまだ暗い。カーテン越しに外の暗さが解る。 机があって...
ウル第三王朝の牛飼いの少年が丘の上で寝そべって小鳥を戯れているとき、牛たちは思い思いの場所で草を食んでいた。およそ2キロ先をエラムの大群が土煙をあげて馬を走らせる。 牛たちは騒ぎだし、少年の指先で戯れていた小鳥は辺りをキョロキョロと見まわすと飛んで行ってしまった。 少年が地面から聞こえる蹄の音で身を起こしたとき、エラムの兵士が放った槍が牛飼いの少年を貫いた。 少年は言葉も発せないまま高く掲げ...
特製サラダには生のラディッシュも添えた。 ラディッシュはつい今しがた庭の一角の菜園から採ってきたものだ。色とりどりの一皿にテーブルがいっきに華やいだ。町を訪れた客人たちが息を呑むのがわかった。 ラディッシュを摘んできた菜園は庭の東側にあり陽の光をより長く浴びた作物はよく育った。 土作りにはこだわりがあった。季節季節に有機肥料や石灰をまぶして土をよく混ぜる。リン、チッソ、カリウムがバ...