chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
金色銀色茜色 https://blog.goo.ne.jp/knjaskmstkzk

ごめんなさい。 新しい物語になっています。 和洋折中の時代を舞台にしました。

渡良瀬ワタル
フォロー
住所
未設定
出身
日南市
ブログ村参加

2008/05/30

arrow_drop_down
  • 昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)22

    ベティ王妃はケーキを味わいながら考えた。バート斎藤侯爵は元々が美濃の寄親伯爵。歴史ある一族の生まれ。それも、嫡男の不祥事で美濃での影響力は一掃された。ところが伝手が残っていると言う。おそらく一掃されたのは、斎藤伯爵家由来の貴族だけで、平民クラスが残っているのだろう。現在の美濃代官とも接触があるとも言う。これまでの経緯から、親密度までは期待していないが、それでも無いよりは良い。「その代官はカールかしら。ポール細川子爵の弟の」珈琲を飲んでいたバートが上目づかいで頷いた。「はい、そうです。弟のカール細川子爵殿です。兄弟揃って爵位が同じで面倒臭いですな。そろそろポール殿の爵位を上げてはどうですかな」バートの言葉に棘はない。「そうね、・・・。今回の騒ぎで深手を負わせてしまったわ。お詫びも上乗せね。ところで、貴方はカ...昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)22

  • 昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)21

    ベティ王妃とカトリーヌ明石中佐は亡き国王陛下の執務室にいた。当然、二人だけではない。室内に並べられたデスクで、側仕えの者達が書類仕事に勤しんでいた。今回の件と、留守してる間に溜まった書類が山積みなのだ。それぞれが担当の書類を取り上げ、一人格闘していた。二人は皆の忙しそうな様子を横目に、同時に溜息をついた。肝心の疑問点が解消しないのだ。首謀者の管領とその取り巻きが行方不明。管領と繋がっていたと思われる庭師達も行方不明。そのせいで解明の糸口に辿り着けない。カトリーヌの副官が言う。「噂では伯爵殿が魔法を駆使し、遠くへ吹き飛ばしたと」それはカトリーヌも耳にしていた。「噂でしょう」「ええ、噂です。でも全員が行方不明になる前に相手してたのは伯爵殿です。行方不明になる直前ですよ。おかしいと思いませんか」ベティが口を挟ん...昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)21

  • 昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)20

    ここ軍幕内にて俺を補佐している者達は王妃様派閥、ないしは亡き国王陛下に今もって忠誠を誓う者達。それを承知だからか、モビエール毛利侯爵も、ロバート三好侯爵も、面白い小僧だ、とばかりの表情で俺を見遣った。俺は俺で、演技スキル全開の鉄壁の微笑み返し。突っ込みが入らないので、俺は言葉を重ねた。「今回の管領様の件、そして前のテックス小早川侯爵様の件、それは長期の内乱騒ぎに倦んで来ている兆しではないか、臣はそう推測します」君達の支持基盤に罅が入っているのではないか、言外にそう伝えた。これに対し、批判も質問も返って来ない。書記役の者が手を動かしたのをきっかけに、侍従秘書女官等もそう。それぞれが仕事を再開した。何も聞かなかったかのような空気感。これは何なのだろう。同意か、それとも無視か。ロバートが俺に言う。「今の意見を王...昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)20

  • 昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)19

    俺はモビエール毛利侯爵をテーブルに案内した。心得たメイドが直ぐにお茶を運んで来た。俺には緑茶、モビエールには紅茶。お茶菓子も後宮厨房から届けられたビスケット盛り合わせ。モビエールが紅茶を口にして一言。「この紅茶はどこのだ」お気に召したらしい。産地名を知りたいのだろう。生憎、メイドは下がってしまった。俺は知らない。そこで、・・・。「後宮の厨房です。お茶菓子もそうです」「そう・・・か」噴き出しそうな顔を引き締めた。モビエールの執事と護衛が顔を伏せた。両者の肩が小刻みに震えていた。入り口が騒がしくなった。立哨していた近衛兵が俺の方へ来た。困惑の色で耳打ちした。「ロバート三好侯爵がいらっしゃいました。責任者への面会を望まれています」小声だったのだが聞こえたのだろう。モビエールが表情を緩めた。「ここへ招いても構わん...昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)19

  • 昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)18

    軽くジャンプすれば済むものを、アリスは猫を貫き通す。俺の肩に乗る仕草も堂に入っていた。『どうするんだよ』「ふにゃ~ん」尻尾で俺の鼻を打った。駄目だこりゃ。この様子をうちの者達が生暖かい目で見守っているではないか。ほんとに、こりゃ駄目だ。お手上げだ。好きにさせる事にした。そのうちに飽きるだろう。アリスから念話が来た。『イライザとチョンボが来てるわよ』言うや否や、俺の肩からポーンと飛んだ。庭木の枝に飛び移り、枝から枝へ次々と、そして姿を消した。探知を起動すれば見つけられるが、それは無粋というもの。念話を飛ばした。『程々にな』別館の目の前の庭園敷地内に一張りの大型軍幕が見えて来た。厚い警護態勢の向こうから煩い声。「グッチョー、グッチョー、グッチョー」チョンボだ。当然、イライザも居るのだろう。そしてイヴ様も。笑い...昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)18

  • 昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)17

    近衛の制服の一団が案内されて来た。隣の侍従が俺に教えてくれた。「元帥と副官、そして護衛の者達ですね」真ん中の恰幅の良い男の肩章襟章がそれを物語っていた。元帥の鋭い視線がこちらに向けられた。何かを探る様子。それは俺で止まった。どうやら俺を見知っている様子。俺は知らないけど。副官が前に出た。肩章は少佐。「君が佐藤伯爵だね。聞かせてくれるか。表で縛られているのは、うちの長官なんだろう」「ええ、そうですね」「あの様な仕置きの理由は」「謹慎の沙汰を聞き入れてもらえず・・・。結果、あのような処理に相成りました。まあ、ダイエットにはなる筈です」元帥も長官同様に恰幅が良い。割腹ダイエットにでもするか。が、そこまでは口にしない。少佐は納得できぬ色。ところが後ろの元帥は違った。噴き出してしまった。人目がなけれは腹を抱えて笑っ...昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)17

  • 昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)16

    俺の説明にアリスとハッピーが喰い付いた。『面白そう』『パー、イヴが可哀想だっぺ』『私達が手を貸そうか』『ピー、だっぺだっぺ』『よし、手を貸す』『プー、貸す貸す』煩い、煩い、煩いんだよ。俺は妖精達を人間の争いに関わらせたくない。人類特有の醜い、終わりのない争いに。しかし、それも今更か。うちの妖精達は、関東代官の反乱で暴れ、南九州の反乱でも暴れ、ついでにコラーソン王国にまで足を伸ばしてしまった。そして王都とその周辺に甚大な被害を与えた。たぶん、彼の地は魔物が跋扈する地になったのだろう。王国の被害者の皆様、誠に相すまん。遥か遠くの地から、謹んで哀悼の意を表する。届かないと思うけど、この気持ちを理解して欲しい。俺は白旗を揚げた。『分かった分かった。でも一つ約束して欲しい』『やっと分かったのね、私達のこの力。敵に、...昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)16

  • 昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)15

    イヴ様から良い香りがした。石鹸。隣の軍幕にお風呂が設置されていた。「ニャ~ン、どうしたの」「いいえ、さあ、食事にしましょう」「わたしが、あんないする」イヴ様が俺の手を引かれた。テーブルに案内された。侍女二人が椅子を引いて待っていた。「お二人様、こちらへ」二人で並んで席に着くと、それが合図になった。次々と料理が運ばれて来た。育ち盛りの俺には大盛ばかり。流石にイヴ様に大盛はない。バランスを考えてか、小鉢が並べられた。ところがイヴ様、嫌いな物を俺の方へ寄越す。「ニャ~ン、いっぱいたべるのよ」断れない。頃合いを見ていたのか、エリス野田中尉が側に寄って来た。彼女に耳打ちされた。「別館の掃除完了しました」掃除には色んな意味合いがあった。「増員できたんだね」「はい、それも」俺はイヴ様の後ろに控えている侍女を見た。察した...昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)15

  • 昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)14

    大役を勤め終えた気分だ。欠伸をしていると、うちのメイド長のドリスが来た。「そろそろお茶にしましょう」メイドのジューンが紅茶を運んで来た。「目が覚めるように苦いのにしました」煮立てたかのように色が濃い。砂糖も付いていない。「まだ仕事をさせるつもりかい。僕はこれでも子供なんだけど」ジューンが微笑み、ポケットから小さなポットを出して、カップの隣に並べた。ああこれは、砂糖だ。紅茶を飲みながら、これからの流れを考えた。考えれば考えるほど難しい事ばかり。さっさと手を引きたい。だけど事情が許さない。旗頭というか、責任を負う者は不可欠だ。その場合、適任者は俺しかいない。爵位は伯爵だが、一部には王妃様に贔屓されてるとの噂がある。それを活かすしかない。俺は本営の中で働く者達を見回した。王妃様に近い侍従や秘書、女官、彼等彼女等...昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)14

  • 昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)13

    「ここで何をしておる」荒げた物言いで、恰幅の良い男が本営に入って来た。供回りは六名、それらは近衛の制服。恰幅の良い男は貴族の装い。男の態度から推し量ると近衛の文官、それも高位の。これは、・・・誰っ。俺を手伝ってくれている侍従からの耳打ち。「近衛の長官です」ほほう。近衛の最高位にあるのは二名。文官の頂点である長官。武官の頂点である元帥。その二頭体制で近衛軍を動かしていた。国軍、奉行所共に同様の体制。これは武力を持つ組織の共通の、制御する為の仕組みとも言えた。俺は長官を手招きした。「こちらへどうぞ、僕が説明します。・・・。僕はダンタルニャン佐藤伯爵です。今回、王妃様から口頭で、イヴ様の警護を命ぜられました。本来ならイヴ様の警護だけで、この様な事には関わりません。ところが、管領がイヴ様を取り押さえようとした。こ...昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)13

  • 昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)12

    小隊は五十名編成。ところが庭園を包囲しているのは、それよりも遥かに多い。中尉に尋ねると、ボルビンが近衛軍から五個小隊を抽出したという。おそらく不服従を懸念し、連携せぬように図ったのだろう。失敗したので徒労に終わった訳だが、俺様的には丁度いい数だ。俺は全小隊長を呼び寄せ、イヴ様への忠誠を確認した。ボルビンが消えた今、敢えて反抗する者はいない。というか、互いに顔を見合わせ、雰囲気に迎合した。そう、忖度。全員が忠誠を誓った。俺は中尉五名に大まかに指示した。一個小隊をイヴ様の警護の為にここへ残し、残りの四個小隊にはそれぞれ仕事を割り振った。王宮本館と別館の制圧、拘束された者達の解放、死傷者の搬出と治療、そして関係各所への告知と情報交換。やることが山盛り。非常事態なので彼等に自由裁量権を与えた。人手が足りないので、...昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)12

  • 昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)11

    俺は鑑定と探知を重ね掛けした。周辺を調べた。見つけた、見つけた。こっそりと庭園に侵入した者達がいた。ボルビン佐々木侯爵一行は陽動で、庭師集団が本命らしい。庭園の木陰や岩陰を利用し、こちらに迫っていた。三十五名。戦闘に適したスキル持ちばかり。となると・・・。前方のボルビン佐々木侯爵一行に治癒魔法使いが三名いたはず。察するに、イヴ様が怪我する事態を想定してのこと。用意周到だが、ふざけるなと叫びたい。幼児に怪我させる、これのどこに、正道があるんだ。「下がるよ」俺はエリスを促し、後方へ下がった。「どうしたの」「話しは後で」ボルビンと庭師は、そんな俺達を気の毒そうに見送った。もう手遅れだ、とでも言いたそう目色。何とも余裕綽々ではないか。円陣に戻り、俺は真っ先に光魔法を起動した。周囲を半円形のシールドで覆った。それに...昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)11

  • 昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)10

    俺の指示に全員が従った。イヴ様を中心にして、円陣を敷いた。侍女とメイドの十六名がイヴ様を囲み、その外をエリス野田中尉とその配下の女性騎士二十名が受け持った。イヴ様が俺を見上げられた。「ニャ~ン、なにかあったの」俺は両膝を地に着けて、視線を合わせた。「嫌な連中が来ました。でも大丈夫。皆でイヴ様を守ります」近衛軍の一隊にエリス中尉配下の男性騎士二十名が拘束された。そしてこれまた別の近衛軍の一隊がこの庭園を包囲した。こちら側だったメイド二名がボルビン佐々木侯爵側に身を投じた。不可解な行動が続いた。つまり俺達は後手後手、と言う訳だ。ボルビン佐々木侯爵の一行が手前で足を止めた。メイド二名を迎え入れた。そのメイド二名がイライザとチョンボのフィギアを差し出し、得意顔で説明始めた。ここまでは聞こえないが、ボルビンの表情が...昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)10

  • 昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)9

    ☆イヴ様はまだ四才だが、多忙を極めていた。帝王学までは進んでいないが、その前の情操教育が課されていた。読み聞かせで知的好奇心を刺激し、人との関わりを学ばせる。自然との触れ合いの中で命を自覚される。音楽や絵画を通して芸術に触れさせる。神社や教会、史跡等を訪れる。加えて読み書き、足し算引き算。でも多いのは昼寝。発育に一番時間が取られていた。比べて俺は暇だ。まず授業がない。伯爵としての執務も免除された。商会長としての務めもない。王妃様案件の公休だ。自由だ、自由だ。暇がこんなに詰まらないとは思わなかった。そんな俺にイヴ様の昼寝あとの時間が割り当てられた。何かして喜ばせろと。何でも良いそうだ。遊びでも。そういう指示が一番困るのだが、文句は言わない。大人として・・・、色々と考えた末、起きて来たイヴ様に尋ねた。「今日は...昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)9

  • 昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)8

    ベティはまず先触れからの報告を聞いた。「葬儀は王妃様の到着を待って行われます」予定される参列者名が一つ一つ上げられた。この地方の親しい者達ばかり、意外性のある名前はなかった。問題はなさそうだ。ベティは死因を調べた者達に視線を転じた。「そちらはどうだったの」「子爵様は快く遺体を引き渡して下さいました」先代子爵の遺体は氷魔法使いにより冷凍保存されていた。早速解凍して貰い、派遣されたスキル持ち達が綿密に調べた。結果、毒殺と判明した。だが、葬儀前にそれを公表すると混乱を招く。そこで、彼の者達は子爵家へ申し入れをした。葬儀が終わるまで真相を一時的に秘して欲しいと。渋々ながら同意してくれたそうだ。ベティは彼の者達の表情に違和感を抱いた。何やら口を濁しているように見受けられた。隠し事があるのやも。だが、彼の者達の心情を...昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)8

  • 昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)7

    俺は別館へ戻る道すがらエリスの姿を求めた。けれど見つけられない。どこへ。答えは別館の玄関前にあった。エリスは大勢の中にいた。イヴ様とその側仕えの集団と共にいた。エリスは当然の様にイヴ様と手を繋いでいた。イヴ様の声。「ニャ~ン」猫か。イヴ様がエリスの手を振り解き、こちらへ駆け寄って来た。俺はルーティンを守った。両膝を付き、両腕を伸ばした。そこへイヴ様が満面の笑みで飛び込んで来られた。俺は素早く抱き留め、腰を上げて、高い高い。そしてイヴ様をクルリと反転させて、肩車。イヴ様の笑い声が止まらない。周囲を囲む面々も生暖かい目で俺達を見守ってくれた。気が進まないが、イヴ様から情報収集する事にした。「昨夜は王妃様とご一緒だったのですか」「ううん、お母様はおしごとでおでかけ」「カトリーヌ殿は」「お母様とごいっしょ。お仕事...昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)7

  • 昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)6

    王妃様が顔を上げられた。気持ちを切り替えられたのだろう。俺は立ち上がって弔意を表そうとした。俺が口を開くより早く、王妃様に手で制された。「気持ちは受け取るわ。それよりも本題に入るわよ。・・・。問題は因幡の葬儀に誰を送るかよ。私は宮廷を留守に出来ない。政務から目を離すのが不安なのよ。だから代理を送るしかないの。ところが生憎、人がいないの。それなりの人物がね。王兄も王弟も反乱の真っ最中。それに近い王族の者達もそう。人材が払拭しているの。・・・。それで結局、私が向かうしかないのよ。そこでダンタルニャンには、留守の間イヴを頼みたいの。早くて十日、遅くても一ㇳ月で戻るつもりよ。お願い、受けてくれるわよね」一ㇳ月なんて今更だ。その予定で皆が動いていた。近衛も、うちの者達も。「子守は引き受けますが、政務は無理ですよ」王...昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)6

  • 昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)5

    俺は迎車の一輌目に、ドリスとジューンに連行される形で乗せられた。広い座席なのだが、二人に挟まれた俺は肩身が狭い。その代償なのか、左右から良い香りが漂って来た。案外これも悪くない。そんな俺を、向かい席に腰を下ろしたエリスと副官がニコリ。副官は口にはしないが、エリスは遠慮がない。「伯爵様、両手に花ですわね」「だねえ、花だよね」ドリスに尋ねられた。「伯爵様、その花の名前は」急な事で名前が出てこない。幾つか知ってる筈なのに。困った。ジューンにも尋ねられた。「伯爵様、花の名前を幾つ知ってますか」仕方がないので自分の鼻を指した。「一つだけ、伯爵様の小さな鼻」受けなかった。二輌目にはスチュアートと護衛の三名。三輌目には俺や家臣達の荷物。車列の前後には近衛の騎士達が護衛として付いた。傍目には近衛の車列としか見られないだろ...昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)5

  • 昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)4

    俺は屋敷へ急ぎ戻った。まだ迎車の姿はない。執務室で仕事をしながら待つ事にした。自慢ではないが、暇潰しの仕事には事欠かない。それほど待たされなかった。一山片付けた頃合い、門衛が迎車の到着を告げに上がって来た。「王宮からの迎車が到着しました」遅れて、玄関で待機していたスチュアートが戻って来た。「近衛のエリス野田中尉がお迎えに参られました。迎車が三輌、護衛が二十騎です。ダンカン執事長が中尉を一階の応接室に案内されました」屋敷警備責任者のウィリアム佐々木と、侍女長のバーバラをお供に、俺は一階の応接室に向かった。ウィリアムが階下へ下りながら疑問を呈した。「私共の同席が必要なのですか」バーバラも同意した。「ええ、そうですわよね」「二人の立ち合いが必要、と予感が告げたんだ」「「予感ですか」」羊羹ほど美味しくはない予感だ...昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)4

  • 昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)3

    俺は書類の確認を終えた。帳簿等には問題はない。「トランス、仕事は完璧だよ。ここの仕事量だと暇だろう。もう少し増やしてみようか」するとルースに阻まれた。「駄目ですよ。それはオメガ会館の事でしょう。ダン様、それには賛成できません。それに、ここもこれから増々忙しくなります。トランスは手放しませんよ」オメガ商会は俺が岐阜に、個人的に設立した商会だ。あちらとの人材交流を考えてのトランスなのだが、時期尚早だったかな。俺は苦笑いで収め、珈琲に手を伸ばした。うっ、苦い。大人の味が増々か。でも飲み込む。誰かの失笑が漏れ聞こえた。敢えて追及はしない。俺は会計関係以外の書類から、それを取り上げた。「忙しくなるのは、これかな」「ええ、それです」テニスの次に流行らすのはバドミントン、と考えていた。テニスに類似しているので、用具開発...昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)3

  • 昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)2

    俺がカブリオレに乗り込むと同時に供回りの者達が騎乗した。騎士達は職業ながら慣れているので、すんなり騎乗した。従者のスチュアートも。俺はそのスチュアートを呼び寄せて指示した。「先触れとしてアルファ商会に向かってくれ。取締役への伝言は、私人なので出迎えは不要。伝えたら、そのまま事務所で待機、分かったな」「私人なので出迎えは不要ですね。承知しました。伝言後はあちらで待機します」カブリオレがスムーズに発進した。驚いた事にジューンの手綱捌きに問題はない。「ジューン、慣れてるね」「はい、馭者は本来は専門職ですが、当家では今回の様に、一頭立てカブリオレは私達メイドが馭者を務めます。特に遠出の買い物や雨の日に利用します。これを機に、ダン様も私人の時には、この様にご利用くださいませ」俺は初耳だった。ん、待てよ、・・・。厚生...昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)2

  • 昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)1

    俺は執務室に入ると真っ先に、関東の反乱に関する件の報告書に目を通した。美濃地方の寄親伯爵代理・カール細川子爵から送られてきた物だ。執事長・ダンカンが先に目を通して説明してくれたが、それは概要だけ。こちらの報告書はそれをより詳細に記していた。今のカールは多忙なはず。美濃地方の寄親伯爵代理、そして領都・岐阜の代官。美濃地方全体を統括し、治める役儀。文字にすると簡単だが、実務となるとそうではない。地方の、所謂、三権の長なのだ。加えて自身の、子爵としての領地もある。妻もいる。ありがとうカール、ちゃんと休養は取っているよね。カールは国軍出身だけに、的を得た報告書に仕上げていた。俺は念の為、二度読みした。そして一つの疑問に辿り着いた。どうして籠城・・・、援軍が来る訳でもないのに。悪足掻きか、それとも単に意地か。カール...昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)1

  • 昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)12

    アリスは珍しく思慮に思慮を重ねた。結果、『もう一つの方へ行こうか』そう口にした。『『『は~あ』』』妖精達の目が点になった。噴き出すハッピー。『プップップー』アリスは言葉足りずだと気付いた。狼狽えながら言葉を繋いだ。『あれよあれ、えーと、そうそう、もう一つの反乱の方よ』妖精の一人が突っ込んだ。『つまり名前も地名を忘れたのね』『そうとも言う』『仕方ないわね。良いわよ、行きましょうか』別の妖精がその妖精に突っ込んだ。『で、もう一人の反乱首謀者の名前は』妖精達が口を揃えた。『『『・・・、そう言う貴女は知ってるの』』』『知らんがな。そもそも興味がなかったから、聞いてないでしょうよ』誰も名前も地名を覚えていなかった。それを、誰も聞いてない、そう結論付けた。そんな訳でアリスのエビス飛行隊十五機は王都上空から飛び立った。...昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)12

  • 昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)11

    アリスは迷った。すると別の妖精が言う。『攻撃魔法だと瓦礫の山は築けるけど、殲滅の確認が出来ないわ。瓦礫と瓦礫の隙間や、地下で生き残る可能性があるでしょう』確かにそうだ。地下室や下水道等に逃れれば生き残れる可能性が高い。アリスは王宮を見下ろした。逃げる騎士団を追ってライトニングタイガーが王宮区画侵入を果たした。これにその家族が続いた。アリスは決断した。『王都全体を大樹海にするわ。だから皆で公園や庭園の木々や草を急成長させるわよ。ついでに個人宅の小さな庭や、窓際の鉢植えもね』妖精魔法で植生を急成長させる。水堀と外壁、そして急成長させた植生があれば火災から王都は守れる。大樹海大樹海、おお愉快。ハッピーが大喜び。『パー、任せて任せて。食虫植物を増やしてやっぺー』アリスはやる気満々のハッピーに別の指示をした。『ハッ...昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)11

  • 昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)10

    上番長の大尉は此度の火災を隣国の謀略と判断した。火災に乗じて隣国の工作員が避難民に扮して王都に多数潜入する。国軍多数が出兵した今なら占領できなくても、確実に混乱に陥れられる。痛手を与えて国力を削げる。大尉は、それへの対策として四つの門全てを出入り禁止にした。町や村の平民より王都の平安を優先した。北門でも厳しく警戒していた。押し寄せた平民に富裕な者や貴族由縁の者等も混じっていたが、それらの選別は放棄した。行列が出来るからだ。押し寄せる者達には、平等に、差別なく、区別なく、一律に槍の穂先を答えとした。「それより先へ進めば処断する」これには避難民が困惑した。目の前には槍衾、後ろには火災。幸い、火災とは距離があった。彼等は王都迂回を選択した。避難民と入れ替わる様に、小型軽量の魔物達が姿を現した。猫種、兎種、狸種、...昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)10

  • 昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)9

    アリスの仲間は十三人。エビスを操縦して平野の外縁部に散開した。そして躊躇いなく火玉・ファイアボールを放った。搭乗しているエビスの動力源は二つ。ワイバーンキングとワイバーンクイーン、番二頭由来の魔水晶。施された【自動魔力供給】により、その魔水晶がフル稼働した。エビスの口の両端の牙から無尽蔵とも思える攻撃魔法を放ち続けた。王都を囲む平野には村や町が点在した。その村や町に、燃える山や森から逃れた魔物が殺到した。何れも火災から逃れようと必死。闇雲に柵や石塀に突進した。頭が砕けて死ぬ魔物も多いが、遂には圧倒的な数の暴力で、柵は無論、石塀すらも粉砕してしまう。突入した魔物達は人も建物も区別しない。目の前にある物全てに当たりに行く。妖精達は王都とは反対方向、外へ逃れた魔物達には干渉しない。好きに走らせた。しかし、内へ、...昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)9

  • 昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)8

    この数の竜巻では正面突破は不可能。下手すれば巻き込まれる。エビスが壊れる事はないだろうが、搭乗している自分達が目を回す。何日かは立ち直れないだろう。アリスは決断した。『退避よ、各個に【転移】を選択、方向は左斜め前方、宜しく』それぞれが返事をし、行動に移した。アリスは全員の退避を確認、最後に【転移】した。取り敢えずは、それぞれの判断による【転移】なので、距離は一定ではない。でも、一応は視界の範囲内で収まっていた。再び編隊を組んだ。アリスが言う。『転移の術式を施してくれたダンタルニャンに感謝ね。草葉の陰の彼に賛辞を送るわ』ハッピーが笑った。『パー、まだ死んでねえっぺー』『それはそれとして、コースを戻すわよ』竜巻が九州方向へ向かうのを尻目に、エビス飛行隊は本来のコースに戻った。途中までは竜巻の痕跡が見えた。砂漠...昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)8

  • 昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)7

    ハッピーの質問にルイス・ブラウンは頑強に抵抗した。嘘を吐く度に、施された術式が起動し、ランダムに、身体の一部に痛撃を喰らわせるのだが、彼は泣き叫びながら耐えてみせた。どうやら尋問対策を講じているようだ。だが、それは無駄というもの。妖精の一人が悪い顔をしてルイスに告げた。『貴殿はコラーソン王国の第三騎士団長、ルイス・ブラウン殿だろう』ルイスが涙と涎、嘔吐で汚れた顔を上げた。見難いが、自我は壊れていないようだ。「・・・」妖精は再び呼び掛けた。『ルイス・ブラウン殿』ルイスが怪訝な表情を浮かべた。「どう、どうして分かった」『まず、この念話から驚いて欲しいな』ルイスがハッとした。「念話・・・、これは」ようやく我々が口を開いていない事に思い及んだようだ。『我々は貴殿の頭の中に話し掛けている。つまり、貴殿の考えている事...昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)7

  • 昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)6

    アリスの拳発言に一人が反論した。『人間の争いには関わらない、それがポリシーだったよね』ハッピーも同意した。『ピー、ピーピッピー、そうだそうだ』アリスは平然と言い返した。『それはそれ、これはこれ。コップの中の争いは、勝手にやってろって話になるけど、国外からの勢力となると、ちょっと違うのよ』『ほうほう、どんなに』『んー、許しもなく入って来るな、かな』別の妖精が提案した。『取り敢えず、探ってみようか』キャメルソン傭兵団を探る事になった。選ばれた妖精三人が機体後尾のカーゴドアから飛び出し、機体を自分が持つ収納庫に格納した。そして自らを妖精魔法で透明化し、降下した。夕刻前だが、傭兵団は既に業務を終え、てんでに自由時間を過ごしていた。特に多いのは、魔物・キャメルソンの手当てをしている者達。その光景は手酷い敗戦を物語っ...昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)6

  • 昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)5

    アリスは自分を襲ったワイバーンを探した。直ぐに見つけた。近くで低空を旋回飛行している奴だ。その下、地上には別のワイバーンがいた。それはドタンバタンと藻掻き苦しんでいた。断末魔か、・・・。ああ、股間をロックオンした個体か。それを旋回飛行している成体が見下ろしながら、時折、アリスの方を警戒していた。様子から二頭は番と判断した。アリスは片割れも撃墜する事にした。この位置からでは腹部が狙い辛い。相手を刺激せぬ様にやっくり着地した。よし、着弾点は狭いが狙える。妖精魔法を起動した。とっ、相手がこちらの意図に気付いた。素早いブレス。ウィンドスピアを放たれた。【自動回避】はなし。【探知、察知、魔力障壁ドーム】を選択した。これでワイバーンのブレスに耐え切れるか、たぶん、耐え切れる。試した。ブレス・ウィンドスピアが風魔法を纏...昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)5

  • 昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)4

    アリスは高みの見物、野次馬気分でいた。そこへハッピーからの知らせ。興が冷めた。矮小な人間共が地域の覇権の為に、魔物共を巻き込んでまでして戦っているというのに、そこへ空から介入しようだなんて、とんでもない。許せない。ハッピーに確認した。『キングやクイーンはどうなの』『プー、この群れにはいないっペー』キングやクイーンは生まれていないようで、一安心。『直ぐに戻って頂戴、迎え撃つわよ』ワイバーンの成体の体長は5メートルから10メートルほど。翼を広げれば10メートルから20メートル。武器は体力と鉤爪、尻尾、風魔法。ブレスの形でウィンドスピアを放つ。群れとしては、広範囲攻撃のウィンドストームがあるので、そこは要注意。対してエビスは頭部、胸部、腹部を合わせて全長が70センチ。胴回りは50センチ。これに羽根と足。二対四枚...昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)4

  • 昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)3

    キャメンソルの群れは傭兵団であるが、途中で居合わせた魔物達にとっては脅威そのもの。遭遇した弱者はたちどころに逃走を開始した。追い立てられる様に先頭を切って走った。弱者でない者達はその尻馬に乗った。遊び感覚でキャメンソルの群れに加わった。これは、傍目には魔物のスタンピードにしか見えない。河沿いに展開した国軍が膨れ上がる魔力の南下に気付いた。魔物のスタンピード、・・・か。直ちに偵察部隊が発せられた。その中の魔法使いが探知スキルを駆使し、全体像把握に務めた。程なく解明した。「魔物のスタンピードです。その中核はキャメンソル傭兵団です。魔物を追い立てながら、こちらに向かって来ています」国軍の、北側の部隊が迎撃態勢に入った。キャメンソル傭兵団対策として、前以って用意していた荷馬車五十輌を、前面に広く並べ、次々に横倒し...昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)3

  • 昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)2

    別の妖精がアリスを止めた。『アリス、いい加減にして、道草し過ぎよ』これにはアリスも心当たりがあった。『ごめんごめん、悪かったわ。でもね、下の気配がね、何か潜んでいるみたいなの』『それが何か、・・・。敢えて探す必要があるの。それを起こして、住民達に迷惑は掛からないの』『ないか、・・・』『そうよ、ないのよ』飛行隊は湾の奥の城塞都市に向かった。鹿児島。薩摩地方と大隅地方、そして薩南諸島を治める島津伯爵家の本拠地だ。高々度から市内の様子を窺った。桜島の噴火には慣れている様で、混乱は見られない。港から漕ぎ出す船もあり、至って正常。駐屯地にしてもそう。馬場で騎馬隊が調練に勤しんでいるが、乱れはない。アリスは皆に同意を求めた。『戦塵の気配がないわ。たぶん、戦場は東ね』『夕暮れ前には見つけたいわね』飛行隊は東へ飛んだ。す...昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)2

  • 昨日今日明日あさって。(西部戦線は異常ばかり)1

    俺はカトリーヌの顔を二度見した。彼女が言外に言わんとする事は分かった。ぼったくり。たが、敢えて尋ねない。じゃがね、じゃがじゃが。藪を突っついて蛇を出したくない。「伯爵様、当官は兼任の仕事が増えて忙しくなります。そこで、伯爵様専用の連絡役を置きます」カトリーヌが意外な事を言う。俺専用の連絡役、・・・なのか。彼女の背後から副官が前に進み出た。「エリス野田中尉です」疑問顔の俺にカトリーヌが言葉を継ぎ足した。「調整局の局長兼任を申し渡されたの。だから急ぎの用がある時はこの野田中尉にね」近衛軍調整局は、近衛と国軍、宮廷、三者の調整を担う役職。アルバート中川中将がその局長だったのだが、テックス小早川侯爵の一件に加担したのが露見し、密かに逮捕隔離された。対外的には病気療養という名目で休職。実際には【奴隷の首輪】を装着の...昨日今日明日あさって。(西部戦線は異常ばかり)1

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)30

    執事長が書き上げた文書に高山伯爵が署名した。それをダンカンが受け取り、中身を改め、俺に差し出した。「問題はございません」俺も一読した。良し良し。では賠償金を頂こう。俺は兵士達に壁の絵画を外す様に指示した。途端、伯爵が声を荒げた。「何をする」「ご心配なく、絵ではありませんから」執事長も声を上げたそうな様子。でも、途中で止めた。伯爵の執務デスクの背後に風景画が飾られていた。どこかは知らぬが、夕暮れ時に丘から湖を眺めていた。湖面を進むボート、飛び立つ鳥の群れ、対岸に一頭のオーク。意味も価値も分からない。既に室内は鑑定済み。そこでお宝を見つけた。ふっふっふ。お宝お宝なんです。伯爵が、絵画を外そうとする兵士達の前に立ち塞がった。邪魔臭い。俺は兵士達に明確に命じた。「殺すな、部屋の隅に転がして置け」「「はい」」兵士達...昨日今日明日あさって。(テニス元年)30

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)29

    俺は死臭や嘔吐の臭いを消す為に窓を全開にした。冷たい風が頬に当たった。何てこったい。全く罪悪感が湧かない。俺は人の心を失ったのだろうか。下から来る複数の乱れた足音から現状を再認識した。対応を一つでも間違えれば炎上してしまう案件なんだな。ん、炎上なんだな。切れ掛かりそうだった演技スキルを継続し、窓際に立ったままでお偉い方々を出迎えた。兵士の先導で公的機関の幹部連が入って来た。カトリーヌ明石少佐と副官、護衛が二名。名は知らぬが、国軍の大尉と副官、護衛が二名。こちらも名は知らぬが、奉行所の与力と同心、護衛二名。カトリーヌが室内を見回した。全体を見て取っても表情に変化はない。死者二名にも納得している風。彼女が引率した者達を代表して質問した。「佐藤伯爵殿、これは如何なる事か、説明を求めます」俺は冷静に応じた。「僕は...昨日今日明日あさって。(テニス元年)29

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)28

    俺の警告が受け入れられた。室内で本棚を動かす作業が開始された。ドアが開けられるのに時は要しない。ドアが少し開けられ、その隙間からこの家の執事長が顔を覗かせた。「これは何の真似ですか」怒っている色だが、仕事柄なのか、言葉は荒げない。ダンカンが俺の前に出て対応した。「こちらの伯爵に当家の伯爵様が召喚されたので、この様な仕儀と相成りました。出された召喚状の事はご存知ですよね」執事長が不思議そうな表情を浮かべ、ダンカンを見返した。「召喚・・・、何の事ですかな」「貴方に似た執事が、その召喚状を当家に届けに参りましたのですが」途端、執事長が後ろを振り向いた。「ベレット、お前か」室内から答える声。「父上、その召喚状は私が届けました」「私は聞いていないぞ」「伯爵様のご指示でした。取り急ぎと申されましたので、その日のうちに...昨日今日明日あさって。(テニス元年)28

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)27

    ホアキン高山伯爵の屋敷は西区画にあった。寄親伯爵だけあり、仰々しい門構えをしていた。太い鉄柵で、観音開き、高さは3メートルほどか。開けられているのは表門脇の通用門のみ。内側の詰め所で、門衛二名が番をしていた。俺達の車列に門衛二名が困惑の表情。互いに顔を見合わせた後、二名揃って動いた。通用門から出て来て、片方が質問した。「何かご用でしょうか」もう片方は、こちらの車列を眺めていた。それを横目に、先頭の馭者が大きな声で答えた。「ダンタルニャン佐藤伯爵様が参られた。急ぎ、ご主人に取次を頼む」「聞いておりません、アポはお取りでしょうか」門前での遣り取りとは別に、一両目の後部ドアからから武装兵六名が飛び出した。その先頭は隊長のウィリアム。無言で走り、戸惑う門衛二名を無力化し、拘束した。手足をロープで縛られても口で抗う...昨日今日明日あさって。(テニス元年)27

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)26

    玄関には手空きの者達が出迎えていた。メイドの一人が馬車のドアを開けてエスコート。「おかえりなさいませ」このエスコート役は人気で、メイド達が争奪戦を繰り広げるのだそうだ。ジューンが悔しそうな顔で俺を見ていた。えっ、争奪戦に負けたのは俺の責任なの、違うだろう。そのジューンの隣で執事長・ダンカンが、苛立ちを隠し、俺を見ていた。彼は皆の手前、余計な事は口にしない。ルーティン通り、俺の後ろに従った。着替えより先に、ダンカンの抱えている問題に対処した方が良さそうだ。「執務室で聞こうか」「はい」エスコート役のメイドに頼んだ。「二人分のお茶を頼む」執務室で二人きりになった。俺はダンカンにソファーを勧めた。固辞するダンカン。でもそれは許さない。俺が先にソファーに腰を下ろして、ダンカンを見上げた。「ねえダンカン、上からご主人...昨日今日明日あさって。(テニス元年)26

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)25

    侍女長・バーバラがメイド・ジューンを供にして戻って来た。「商家に申し付けましたので、夕刻辺りには届きます。勿論、伯爵様にもございます」遂に俺もお酒解禁か。「酒か・・・」「いいえ、お酒は早過ぎます。ジュースとスイーツで我慢なさって下さい」「だと思った」バーバラの後ろでジューンが声を押し殺し、笑っていた。やがて、執事長・ダンカンやウィリアム達も戻って来た。ダンカンが報告した。「奉行所との折衝は恙なく終わりました」ウィリアムが言葉を足した。「向こうの面子を立てたのが効いたようです」俺は敢えて尋ねた。「それでこの先、奉行所が絡んで来ることは」「ございません」ダンカンが力強く言い切った。「そうなると、後処理は」「奉行所の与力の話ですと、貴族間で起きた厄介事は、貴族院の窓口を通すそうです」「ではそうするか。ダンカン、...昨日今日明日あさって。(テニス元年)25

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)24

    執事長・ダンカンとウィリアム佐々木は、陰供の頭から説明を受けると、表情を曇らせて俺の方に来た。ダンカンが開口一番、「伯爵様、お覚悟ください」と言う。ウィリアムも同意の頷き。二人共に根深い問題を認識していた。それは俺の甘さだ。仕方がないな。ここいらで言葉にするか。俺は覚悟を伝えた。「爵位持ち五名の身柄は当家が預かる。国都だと雑音が入るから、美濃に移送して取り調べてくれ。義勇兵旅団問題が本当に原因なのか、それとも何か裏があるのか。きちんと調べさせる。扱いは爵位持ちではなく、犯罪者としてだ」ウィリアムが笑顔で提案した。「今日のうちに移送しますか」「それがいいな」「取り調べで死んだ場合は」「仕方ない、魔物の餌にしてくれ」「魔物は死体は喰いませんよ」「そうか、だったら実家に塩漬けで送り帰してくれ」ダンカンに尋ねられ...昨日今日明日あさって。(テニス元年)24

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)23

    俺の選択肢は限られていた。鑑定を起動し、危ないスキル持ちはいないか、調べた。低レベルばかり。それで俺に喧嘩を売ってくるとは。貴族は、子爵二名に男爵三名。俺は比較的元気そうな子爵の前に立った。演技を起動し、ジッと見下ろした。児童が大人を見下ろす図。嫌なものだが、心底は隠した。「談合とは何だ」「義勇兵旅団についての問い合わせだ」噂では一ㇳ月前に関東へ派遣したはず。「俺に聞いても仕様がないだろう。知りたいなら国軍に尋ねろ」「それが連絡が付かない」意味が分からない。どうして俺に、・・・。訳が分からないので俺は全員に尋ねた。「分かる様に話せ。でなければ、美濃へ送って取り調べる。・・・。爪なら二十枚、指なら二十本。焼き鏝がご希望ならそれも良し。意味が分かるよな」俺には美濃地方に限ってだが、寄親伯爵なので司法警察権を与...昨日今日明日あさって。(テニス元年)23

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)22

    俺は何時ものメンバーと一緒に下校した。屋敷に戻り、着替えてから冒険者活動をする予定でいた。とっ、突然、横丁から出て来た馬車の車列に前を塞がれた。計五輌、貴族の紋章が入っていた。何れも違う紋章。俺は自慢ではないが、全ての紋章を知っている訳ではない。知るつもりも、暇もない。停車すると馬車から男達が降りて来た。各車輌より二名、計十名。騎士風の装いで、全員の剣帯には長剣。抜きはしないが、片手を柄頭に添えていた。そんな彼等の視線が俺を捉えた。目色から目的が俺だと分かった。理由は知らないが、俺だ。俺の周りにはパーティのメンバーのみ。一人は成人しているが、他の四人は女児。成人していたボニーは守役なので武装していたが、生憎、俺や女児達は学校帰りなので武器は所持していない。でも、怖いとは思わない。魔物討伐の経験が豊富なので...昨日今日明日あさって。(テニス元年)22

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)21

    俺はようやく深夜労働から解放された。穏やかに過ごせる日々がやってきた。普通にお子様伯爵生活を送れる。ほっと一息、二息。街中では様々な噂が流れた。俺がお邪魔した貴族二家と商家三家に関する噂だ。的を射たのもあったが、多くは悪意に満ちていた。それだけ敵が多いという事なのだろう。学校でも、それで持ち切り。うちのクラスも例外ではなかった。平民で構成されていても、商家の子女もいれば、文武官の道を目指す者もいて、無関心ではいられないのだ。執事長・ダンカンが入手した情報によると、治癒魔法使い達に治療されていたラファエル松永公爵だが、今もって昏睡から覚めぬそうで、このままでは引退間近。当主交代するしかない、と身内からそんな声が漏れているそうだ。「奇異な事に、大勢の騎士や衛士が目を痛めたそうです。屋敷内で何が起こったのでしょ...昨日今日明日あさって。(テニス元年)21

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)20

    いつまでも騒ぎを見物していたい。けれど俺は子供、時間は限られていた。明日に差し支えるのだ。そう、明日の授業に。身体の発育にも悪い。涙を飲んで転移した。ごめんよ、ホセ。向かったのはルベン・セナル商会長の旗艦店。難波を拠点とするセナル商会が、一昨年、王都に大型店舗を構えた。それまでの既成の店舗の、倍の広さで、品揃えもきめ細やかなもの。ブランドのラインナップ、そして価格で近隣の競合店を圧倒した。そこへ向かった。事前の情報収集が功を奏し、迷う事はなかった。上空へ転移した。見下ろすと、確かに噂通りの大型店舗。貴族を意識した造りの馬車寄せ。そして何より、駐車場が広い。貴族だけでなく、平民の富裕層の取り込みをも意識していた。俺は鑑定の精度を上げた。店舗全体を3D表示化。一階の詰め所に守衛六名がいるが、動きはない。表と裏...昨日今日明日あさって。(テニス元年)20

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)19

    俺は、去り際のアリスに注意した。『魔物・キャメンソルは死ぬほど臭い唾を吐くそうだけど、それは知ってるよね』アリスが振り返った。胸を張って答えた。『当然じゃない』あ、これは知らない顔だ。ハッピーが言う。『パー、臭いの嫌いだっぺ』日にちを空けた。その間に続報が入って来た。ペミョン・デサリ金融だが、商会長のペミョンが逮捕された。商会は機能停止状態で、噂では、解体されるのは必至とか。ラファエル松永侯爵の安否も分かった。壊れた建物から投げ出されて重傷だそうだ。現在も昏睡していて、回復の目処は立っておらず、嫡男が当主代行を務めているとか。俺は四日目に、深夜労働を再開した。今回はホセ・ラウル商会長。国都の老舗・ラウル商会の会長だ。俺は、黒を基調とした悪党ファッションで、白いひょっとこ仮面。【光学迷彩】【索敵】【転移】【...昨日今日明日あさって。(テニス元年)19

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)18

    しでかして頭を抱えた。ここまでやるつもりはなかった。調子に乗ったとはいえ、これはない。でももう止められない。水の巨大な塊が空気を切り裂いて落下した。魔力を馴染ませたので、早々には崩れない。それが本館の屋根を直撃した。この世のものとは思えない衝撃音。屋根が真っ二つに割れた。ついでに床も真っ二つにした。ようやく水塊が崩れ、周辺に飛び散った。ああー、やっちまった。反省、反省。俺は逃げる事にした。転移で自邸に戻った。着替えてベッドに入った。「明日は良い日でありますように」そう願って目を閉じた。「昨夜、日付が変わる頃でしょうか、ラファエル松永侯爵家が、局所的な大災害に見舞われました」モーニングブリーフィングで、執事のダンカンがそう言う。俺は惚けた。「はあ、局所的な大災害ってなに」「雷鳴と共に滝の様な雨が降って、お屋...昨日今日明日あさって。(テニス元年)18

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)17

    俺Vsエボニー&アピス。敵は、魔物とそれに騎乗するランクAの剣士。それだけで充分なのに、これに夜勤の衛士達がわらわらと湧いて来た。日勤の衛士達も叩き起こされてる模様。それらが寝起き姿で、武器片手に、こちらに駆けて来る。何とも締まらない。俺は、石像の肩に腰掛けた状態でそれらを見守った。さて、大騒ぎになった。これは想定外、想定外過ぎた。どうする俺様、思わず石像の頭を叩いた。エボニーがアピスを宥め、ゆっくり歩を進めて来た。剣を肩に担いで、空いた手でアピスの首を摩りながら。実に余裕のある態度。しかし、視線だけは俺から外さない。ほう、落ち着いて見ると、好い女。剣士というラッテルではなく、娼婦というラッテルが相応しい。そんな女が舌なめずりしながら俺を見上げた「逃げ場はない、大人しく投降しろ。さすれば私が侯爵様に、寛大...昨日今日明日あさって。(テニス元年)17

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)16

    その深夜、俺は外出した。黒を基調とした悪党ファッションに、白い般若仮面。【光学迷彩】【索敵】【転移】【転移】で目的地の上空に辿り着いた。下に見えるのがラファエル松永侯爵邸。王妃様の指示基盤の一つ、三好侯爵派閥の重鎮だが、今回の事は見過ごせない。それはそれ、これはこれなので厳しく処置するつもり。なかなか広い敷地だ。本館以外に別館二つ、他に様々な建物長屋に、練兵場や馬場まで。侯爵としての権威と財力が窺える。噂通りの人物の様だ。俺は、重力スキルで本館の屋根にゆっくり着地した。深夜にも関わらず衛士二組四名が敷地内を巡回していた。本館の詰め所には衛士二名。建物や植木の陰には目を光らせてる様だが、上はお留守。それはそうだ。上から敵が来るとは誰も思わないだろう。鑑定で侯爵の居場所が分かった。とっ、敷地内で魔力が膨れ上が...昨日今日明日あさって。(テニス元年)16

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)15

    俺は朝寝坊した。そこをメイド二人に襲われた。浴室で丸洗いされた。得意気にメイド長・ドリスが言う。「さあさあ、お着換えしましょうね」もう一人のメイド・ジューンが良い笑顔。「うっふふふ、これにしましょうね」登校してクラスに入った。通学路ばかりでなく、クラスも何時もの空気だった。児童の集まりだから騒々しいが、昨夜の件は話題になっていない。押収した物を王宮の上空から撒き散らしたが、全てを近衛軍が回収したとは思えない。風で、王宮区画から外に飛ばされた物もあった。事態の推移は、近衛軍も含めた拾い主の思惑しだいだ。どう動くか楽しみだ。黙殺されたら、されたで、それも面白い。その理由を探れば、新たな何かが出て来る筈だ。授業は滞りなく終わった。下校は、何時もの様にキャロル達が一緒だ。女児達を引き連れての帰り道、街中の空気に不...昨日今日明日あさって。(テニス元年)15

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)14

    俺は部屋の四隅の一角へ移動した。ここなら背中を取られない。はあ、漫画の読み過ぎだって・・・。でも、そこは譲れない。光学迷彩を解いて、サンチョに声を掛けた。「は~い、サンチョ」全員の視線を集めた。前もって幹部クラスの三名にも説明済みのようだ。無駄が省けて結構、毛だらけ猫灰だらけ。サンチョが嬉しそうな顔をした。「待ってましたよ」クラークは通常運転、サンチョに任せて自分は素知らぬ顔。テーブルのグラスに手を伸ばした。一方の、幹部クラス三名は俺を値踏みする目色。感じが悪いが、無視して置こう。サンチョが話を進めた。手元の書類を持って俺の方へ歩いて来た。「これです」俺は受け取って一読した。侯爵一人、伯爵一人、商会の商会長が二人、金貸しが一人。それぞれの居住地、仕事上の拠点、口座、倉庫、家族、側近、現在進行中の仕事内容等...昨日今日明日あさって。(テニス元年)14

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)13

    俺はサンチョには会えなかったが、代わりにクラークに仕事を命じた。嫌な奴だが、加えてご老体だが、まだまだ働けると思う。けど、全幅の信頼を寄せている訳ではない。ちょっとだけ、持ち前の気質がねっ。だから表の人間からも情報を得よう。アルファ商会の保安警備全般を担っている連中を屋敷に呼んだ。その系統は二つ。一つは傭兵団『赤鬼』。もう一つは冒険者クラン『ウォリアー』。共に木曽領地にて常時雇用しているので、その主力は留守がち。それでも、本部事務所が国都にあるので留守居を複数置いていた。その者達にアルファ商会の保安警備全般を委ねていた。留守居とはいうが、役に立たないという意味ではない。多くは、古参と新人の二種。留守中に、現場に出すには早い新人を古参が指導していた。そこへ提案されたのが、今回のアルファ商会の保安警備。渡りに...昨日今日明日あさって。(テニス元年)13

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)12

    アルファ商会を代表してシンシアとルースが屋敷に来た。二人は初っ端に、迎え出たダンカンに注文した。「室内じゃなく、庭園じゃ駄目かしら。この所、事務仕事で疲れているの。新鮮な空気に触れたいわ」それをダンカンから聞かされた。ご要望にお応えして、池の畔の四阿で面会した。行くと、二人は見るからに疲れ切った表情でお茶していた。果たしてそれでお茶の味が分かるのだろうか、甚だ疑問だ。それでも態度は立派なもの。俺の視線をしっかり受け止めた。シンシアに尋ねられた。「この場合は商会長ですか、それとも伯爵様」「身内だけの時は昔通りにダンで」「それではダン、まず朗報から、売れ行きは好調よ。お貴族様向けの高価版も、一般向けの廉価版も品切れ寸前ね。各工房の尻を叩いているけど、熟練工が育つまでは無理みたい。だから商圏は、暫くの間は国都に...昨日今日明日あさって。(テニス元年)12

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)11

    センターホールは満席であった。双方の家族、縁戚、友人、職場の者達、寄子の貴族、土地の有力者、伯爵家の主立った者達が顔を揃えていた。ただ一頭、チョンボのみは除外されていたが、誰も気にしない。列席者は左右の隅の小さな方のドアから入った。ホール真ん中の観音開きのドアは締め切られていた。そのドアの前に、邪魔にならぬ形でブースが置かれ、楽器を手にした者達が位置に着いていた。バイオリン二名、ヴィオラ一名、チェロ一名。もう一名は楽器なしの楽団課長。俺はダンカンを連れていた。そのダンカンが俺の目色を読み、演奏課長に合図した。演奏が始まった。歩き易さを眼目とした曲。小さな編成だが、ホールを満たすには充分だった。高音部が天井へ走って下へ跳ね返る。低音部が足下を擽り、横壁を揺るがせる。そんな中をダンカンは俺から離れ、ゆっくりし...昨日今日明日あさって。(テニス元年)11

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)10

    屋敷で椅子を暖めている暇はなかった。毎日、件の施設に出向いた。そこで各担当者と打ち合わせした。宮司や司祭は当然として、他には現地雇用の料理課長、メイド課長、警備課長、楽団課長、雑務から人事経理事務までを担う総務課長。こういった面々と当日のスケジュールを綿密に組み立てた。当日を迎えた。箱馬車で施設に向かった。俺にカールにイライザ、ダンカン。当然、イライザがテイムしたチョンボが馬車脇を並走した。「クエクエ」と煩い。野生の勘で、祝いを述べているのかも知れない。ここまで来るとカールも疑問を抱いたらしい。「ダン、何かおかしくないか」「なにが」「何かが・・・、何かが引っかかるんだ。ここ数日のダンの様子も変だったし、屋敷の者達も」「そうかな」カールは同乗していたダンカンを見た。「何か隠してないか」「別に」イライザもカー...昨日今日明日あさって。(テニス元年)10

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)9

    山城から美濃は近い。途中に近江を挟むのみ。それでも途次に領地を拝領している貴族への挨拶は欠かせない。格上の貴族が領地に居るのなら俺自ら寄って挨拶し、格下の貴族なら執事長を挨拶に出向かせ、代官が治めているのならなら只の執事を。とにかく面倒臭いのだ。夜もそう。本来の俺なら野営でも一向に構わないのだが、貴族の作法がそれを許さない。冗談で口にしたら皆にお説教された。だから、夜はその地で一番の宿に泊まり、大金を湯水の様に流す。まあ、短い旅であったので我慢できた。でなければ途中で発狂していた自信があった。美濃地方に入った。すると国境でアドルフ宇佐美が騎士団と歩兵隊を率いて待っていた。馬車の前で下馬すると、綺麗な所作で敬礼した。「お待ちしてました」地位が人を作る、とは良く言ったものだ。アドルフが別人に見えてしまった。そ...昨日今日明日あさって。(テニス元年)9

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)8

    順風満帆と言っても良いだろう。商会をスタートさせ、陞爵パーティをも乗り切った。俺の向かうところ敵なし。ところが敵がいた。『約束の報酬は』『パー、ご褒美ご褒美っぺー』アリスとハッピーに詰め寄られた。拒否できない。深夜、山城ダンジョンに連行された。『早く作りなさい』『ピー、遊びたいっぺー』子供なのにも関わらず、深夜労働を強要された妖精サイズのテニスセットを五セット作らされた。そこをアリスの仲間の妖精達に見つかった。これ幸い、彼女達にも玩具にされた。あれ作れ、これ作れ、要求に次ぐ要求で姦しい。仕方なので従った。作ると言っても、全てが妖精サイズ。これが面倒臭い。目が疲れた。解放されたので屋敷に戻った。そもそも、こちらの事情を知らないので、誰も俺を労わらない。「お寝坊ですね」掛けられた言葉だけは優しい。メイドのドリ...昨日今日明日あさって。(テニス元年)8

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)7

    俺はカトリーヌ明石少佐に促され、一声掛けてから横付けされた馬車のドアに手を伸ばした。「ようこそわが家へお出で下さいました」ゆっくり開けた。イヴ様が真っ先に顔を出された。「ニャ~ン」相変わらずだ。両手を上げてバンザイされた。お約束だ。俺はその腋の下に両手を差し入れて持ち上げた。でも今日は、流石に肩車は拙い。他の目があるのだ。多くは招待客の随員達。それらが待機テント群からこちらを覗き見していた。俺はイヴ様を石畳にそっと下ろした。不満顔のイヴ様。そこで俺はご機嫌取り。耳元に囁いた。「美味しいスイーツをご用意しております」「ほんとに、ほんとう」「はい、さあこちらへ」場所を空けるとカトリーヌが進み出た。白い手袋をした手をドア口に差し出した。「王妃様、どうぞ」王妃様が顔を出された。「カトリーヌ、ありがとう。佐藤伯爵、...昨日今日明日あさって。(テニス元年)7

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)6

    翌日も大講堂は大盛況。外には入場を待つ行列、内には試合に出たい生徒達の行列。学年やクラスに関係なく、大勢の生徒がテニス体験を望んだ。これに学校当局は頭を痛めた。結局、規制の上に規制を重ね、事態を収拾しようとした。それで済む訳がない。あちこちから抗議の声が上がった。担任・テリーが教頭に手招きされたのを潮に、俺は運営席を離れた。正確には逃げた。この騒ぎは俺の手には余る。学校当局に任せよう。彼等は大人なんだから、良い解決策を講じるだろう、たぶん。大講堂の裏口から外に出た。校庭を暫く歩いて、ベンチに腰を下ろした。良い風が俺の頬を撫で回した。右肩に微かな重さ。アリスが腰掛けた。少し遅れて左肩にも重さを感じた。ハッピーだ。二人は透明化していたので、誰にも気付かれない。俺が溜息付くと念話が来た。『まるで大人みたいに辛気...昨日今日明日あさって。(テニス元年)6

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)5

    試合に勝ったシェリルが俺に気付いた。悪い笑顔で俺を手招きした。次の相手に所望らしい。俺は逆にシェリルを手招きした。隣の椅子を指し示した。不満顔のシェリル、それでも渋々、コートを後にした。全身汗まみれのシェリル。手で汗を拭きながら口を尖らした。「どうして断るの」「順番待ちがいるんだから、その下級生に譲ろうよ。シェリルは上級生だろう」苦笑いの守役・ボニーから差し出されたタオルで汗を拭きながら、「全く・・・、優等生なんだから。糞真面目。もっと気楽にねっ」と言い返した。「風邪ひくよ、着替えたら」「分かったわ」控室で着替え終えたシェリルが戻って来た。先程の好戦的な態度は消え、普通の女の子になっていた。隣の椅子に腰を下ろした。「ねえダン、アルファ商会は明後日開店でしょう。その前に見学したいんだけど」学校祭は明日まで。...昨日今日明日あさって。(テニス元年)5

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)4

    説明を終えたカトリーヌ明石少佐が副官に目で合図した。頷いた副官が俺の前に綺麗な小箱を置いた。カトリーヌが言う。「今回の褒賞です。陞爵したばかりですので、今のところこれ以上の陞爵はありません。その代わりにこれです」俺は小箱を開けた。宝石が並んでいた。「これは」「ダン様はお金持ちの様なので、お金ではなく宝石に致しました」カトリーヌが珍しくサラリと嫌味を言った。確かに俺はお金持ち。ダンジョン限定で金貨が造れる。金貨だけでなく金塊も、何時でも何度でも。「それにしても綺麗な宝石ばかりですね」「王家の宝物庫の逸品です。今は必要でなくても、何れ大人になれば必要になるそうです」伴侶を得れば必要になる、そう言いたいのだろう。「分かりました。ありがとうございます、と王妃様にお伝え下さい」カトリーヌが躊躇いがちに口を開いた。「...昨日今日明日あさって。(テニス元年)4

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)3

    俺は駐車場全体を見回した。姿勢の良い私服姿の女性が散見された。軍服では目を惹くので、私服で馬車に分乗して来たのだろう。用心の良い事だ。俺はカトリーヌの指示に従って真ん中の馬車に乗った。軍用だから武骨な兵員輸送車と思っていたが全く違った。軍人の汗の臭いはない。王妃様の車輌と同じお上品な香りが漂っていた。そして車内が広い上に、座席と座席の間に余裕があった。その座席は三人用が三列。上物の魔物の皮を使用していた。内装の木目も美しい。見回しながら腰を下ろした。へえー、座り心地も負けていない。これは高級将校専用車だ。所謂、指揮車。感心する俺をよそに、カトリーヌと副官も乗り込んで来た。俺は一列目の座席の真ん中。対面の二列目にはカトリーヌ。副官が、どこから取り出したのか、仮設のテーブルを組み立て、お茶を用意した。ああ、油...昨日今日明日あさって。(テニス元年)3

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)2

    学校祭が始まった。開始と同時に児童達がゾロゾロ、大講堂に入って来た。それを見て隣に腰掛けているテリーが自慢気に言う。「来たな一年坊主」確かに彼が事前に声を掛けた一年十組の子達だ。児童達はテニスの模範試合を観戦すべく、そちらへ向かう。俺はクラス委員としてテリーに礼を述べた。「ありがとうございます」んっ、変だ。彼はうちの担任。やるべき仕事をやっただけ。礼は不要だろう。まあ、それは飲み込んで。一年十組の父兄らしき者達も入って来た。彼等にとっては理解できないテニスの模範試合。それでも物珍しさが勝った。多くがコートの周りに足を進めた。講堂の隅に俺とテリーは陣取り、全体の進行を管理していた。今のところ問題はない。二面のコート。プレーヤーは四名。主審二名。線審四名。球拾いは手空きのクラスメイト。試合終了で順次交替して回...昨日今日明日あさって。(テニス元年)2

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)1

    幼年学校の学校祭が始まった。学校周辺は早朝から送迎の馬車で溢れかえっていた。それを見越してか、近辺の者達は臨時駐車場を開設した。「さあ、安いよ安い」「うちはもっと安いよ」金額は言わない。どうやら、ぼったくりらしい。これも例年の恒例行事、・・・の一つなのだろう。俺は徒歩圏内なので問題はない。否、・・・あった。そもそも伯爵様が歩いて登校とか有り得ない、そう家臣達に注意された。でも今朝も歩いて登校した。今日は特別なので随員はやや多め。まず執事・ダンカン、正式にはダンカン長岡男爵。従者のスチュワート。メイド長のバーバラ。メイドのドリスとジューン。それに兵士が四名。俺が校門を潜ると兵士四名は帰路に付いた。ダンカン達は門衛に招待状を見せると、父兄の控室を教えられた。「ダンタルニャン様、それではここでお別れですね」「あ...昨日今日明日あさって。(テニス元年)1

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)18

    王女の居室が広いと言えど、五十を数える兵は乱入出来ない。剣や槍の間合いもあり、結界を囲むのは十数名。廊下や階段に控えている者達と交替しながら、結界を壊そうと躍起になっていた。剣で何度も斬り付けた。槍で力いっぱい突いて、柄でも殴った。それでもビクともせぬ結界。数少ない攻撃魔法の使い手達が動員された。火、水、風、土の属性でもって破壊を試みた。爆風で室内が二次被害を出すが、結界には罅を入れただけ。それも直ぐに自動修復された。俺は弓を片手に連中を眺めた。謀反人にしては暗さがない。心からこれが正しいと信じているのだろう。何て連中だ。まるで邪教の信徒だ。幼女を殺める、それのどこに正しさがあるのか。信じて疑わぬにしても程がある。俺の隣に女性騎士が来た。「子爵様、あっ、今日からは伯爵様ですよね。佐藤伯爵様、ポーションあり...昨日今日明日あさって。(伯爵)18

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)17

    ポール殿の声が風魔法でフロアの隅々にまで届いた。「すでに謀反は鎮圧されました。外に出ても大丈夫です。ただ、注意を一つ。清掃していますので濡れた床で滑らぬ様にして下さい」観覧席の一角から堂々たる声で、質問が発せられた。「謀反人は誰だ」「近衛軍が二個小隊。これら部外者が加わっていた」「部外者とは誰だ」「とある侯爵家の者が二十数名」執拗に質問が続いた。「どこの侯爵家だ」「鑑定した者によると、小早川侯爵家」この遣り取り、出来レースだ。小早川家の名を当初から明らかにして逃げ道を封じた。こうなると門閥本家・毛利家も庇いきれないだろう。んっ、強力な魔波。これは、・・・。近くで術式が起動した。自分で言うのも何だが、美しい術式。防御に徹した術式。もう考える必要はない。俺は立ち上がりながら、カールに告げた。「イヴ様が襲われて...昨日今日明日あさって。(伯爵)17

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)16

    会場の表と裏で近衛が同士討ちをしていた。けっして演習ではない。HPがゴリゴリ削られていた。血が流れ、死傷者が続出している証。一方が会場に乱入せんと攻め、片や一方がそれを阻止せんと奮戦していた。これはどう見ても、攻め手側の反乱だとしか思えない。けれどその原因が分からない。状況が状況だ。俺は鑑定の精度を上げた。そして特定した。攻め手側の近衛に扮している者達がいた。その数、二十数名。小早川侯爵家の家臣だ。武官を意味する騎士爵も含まれていた。彼等が攻め手側の先頭に立ち、指揮を担っていた。が、その動機が分からない。あっ、思い出した。小早川家は侯爵家。毛利侯爵家の門閥で、評定衆に席を連ねていた。その毛利家の分家の女の子二人から、つい最近、王妃様と内密に面会できないかと相談された。同学年のパティー毛利とアシュリー吉良。...昨日今日明日あさって。(伯爵)16

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)15

    会場に出入りする者が多い。その全てが礼装。当事者とその関係者のみではなく、警備の近衛兵もであった。儀式感、空気感が半端ない。俺達もその波に飲み込まれた。入り口の受付は典礼庁の文官複数名。忙しなさそうに帳簿等を確認し、書き込みを行っていた。俺達は案内の女官の手続きでスムーズに通過できた。よくよく見ると、全ての当事者に女官が付いている訳ではなかった。大半は当事者か関係者が手続きを行っていた。俺達は何故か特別に扱われていた。フロア入り口には近衛兵が壁を背にして、ずらりと並んでいた。その威圧感、半端なし。女官に気付いたのか、そのうちの二名がサッと前に進み出て来た。そして俺達を先導してくれた。ドアが大きく開けられた。すると通路には赤い絨毯が敷かれていた。近衛兵の一人が俺に囁いた。「伯爵様になられる方は最前列です。御...昨日今日明日あさって。(伯爵)15

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)14

    俺はダンカンに尋ねた。「さてダンカン、君はどこを希望する」「岐阜の近くをお願いします。人手は実家に相談します」ダンカンの実家はポール細川子爵家の執事を務めていた。しかも男爵なので姓持ち。「姓は実家のかい」「実家に相談しますが、出来れば新たな姓を興したいと思います」残りはウィリアムのみ。「ウィリアム、君はどこを希望する」「特にありません」「それでは僕が決めるよ。木曽を手薄にする訳には行かないから、隣接する地に信頼できる者を置きたい。だから君に頼みたい。気心が知れてると思うから、イライザと隣り合わせだ。カール、そうしてくれるかい」当人もイライザも異存はなさそうだ。カールが頷いた。「承知しました。二人を木曽に隣接する地に配します。そして私とアドルフ、ダンカンの三人は岐阜に隣接する地に」俺はもう一つの問題を確認し...昨日今日明日あさって。(伯爵)14

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)13

    カールは私的な事情は話してくれない。渋い表情をしただけ。でも、それは一瞬で消えた。表情を改めて口を開いた。「私の領地は美濃地方の領都近くが望ましいですね」良かった。現実を受け入れてくれた。「その辺りの塩梅は寄親伯爵代理に任せます。カールの方で適当に見繕って下さい」苦笑いで頷いた。「承知しました。これまで同様に、ダン様に付き合います。寄親代理はお任せ下さい」美濃地方の領都は岐阜、人口20万余の城郭都市であった。寄親代理としてその岐阜を切り回しながら、美濃地方全体を取り纏める。気難しい仕事だと思うのだが、カールなら熟せるだろう。「カールには寄親代理に専念して欲しい。勿論、僕が新しく拝領する岐阜とその周辺の代官も兼任で。そうなると当然、木曽代官が欠員になる。誰か心当たりは」従来であれば木曽を取り上げて、岐阜への...昨日今日明日あさって。(伯爵)13

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)12

    妖精の仲間から緊急連絡が入った。『アリス、聞こえるアリス。下にイドリス北条伯爵がいるわよ』アリスはそちらに機首を向けた。『あの小勢ね』『小勢でもそれぞれがスキル持ちよ』もう一人が近付いて来た。『精鋭を率いて官軍の不意を突くつもりね』『だとすると本隊は囮ね』『ピー、囮っパー』探索と鑑定の為に散開飛行していた。それが功を奏した。アリスは全機に指示した。『全員集合、奴等の上空よ』アリスが疑問を口にした。『官軍はゴーレムを周囲に配しているのよ。奇襲が成功するとは思えないんだけど』妖精の一人が応じた。『スキル持ちに火魔法使いが多いわ。だぶん、ゴーレム陣の突破じゃなく、遠間からの火魔法攻撃じゃないの』もう一人が応じた。『あの連中のスキルからすると、精々が中距離の火魔法攻撃ね。射程が長距離の魔法使いは一人もいないわ』『...昨日今日明日あさって。(伯爵)12

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)11

    アリスは脳筋の上に方向音痴でもあった。それを補ってくれたのがエビス搭載の【地図、ナビ】。そして仲間のハッピーと妖精達。アリスの間違いを仲間達が突っ込みを入れながらも優しく修正した。対してアリスは脳筋の面目躍如、言い訳はしない。快く受け入れ、飛行隊の機首を本来の目的地へ向けた。前方に雄大な山が見えてきた。山頂は靄がかかっていて判然としない。想像するに、中腹から上の山肌が岩石だらけなので、草木は無いに等しいだろう。妖精の一人が口にした。『富士山みたいね』もう一人が反応した。『という事は、麓に富士大樹海があるのね』『ドラゴンの仮の棲み処があるって噂だけど』『一時立ち寄るだけでしょう』『要するにお休み所ね』ハッピーが言う。『僕達も休もうか』アリスが突っ込む。『素通りするわよ』【地図、ナビ】に富士山と表示された。ド...昨日今日明日あさって。(伯爵)11

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)10

    アリスが仲間達に告げた。『決着をつけるわよ』全員異議なし。一斉に急降下した。途中、ハッピーが主張した。『プー、ワイバーンは貰ったっぺー』言うなり、より速度を上げて機首をワイバーンに向けた。敵を間近にして話し合う余地はない。アリス達は黙認するしかなかった。ハッピーがダンジョンスライム魔法を起動した。エビスの口の、両端の牙が魔力を帯びた。選択したのは氷槍・アイススピア。続けざまに四連射。狙った箇所は後頭部。ワイバーンは暗殺者達の相手で、手一杯であった。何しろ奴等は蛙の様に跳び、斧で一撃を入れて来るのだ。そのせいで上空の敵を放念していた。後頭部に激しい衝撃を受けて、それと気付いた。頑丈な外皮を破って何かが突き刺さった。そのうちの二つの貫通を認識すると同時に、ワイバーンは意識を手放した。アリス達も負けてはいない。...昨日今日明日あさって。(伯爵)10

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)9

    ワイバーンがこちらに気付いた。獲物と認識した様で、こちらにコースを変更して来た。喜び勇んで速度を上げて来た。アリスは仲間の提案を受諾した。面白い、それだけで充分だ。エビス飛行隊はワイバーンに相対する形、一列縦隊となった。先頭はアリス、他は適当に。と、アリスの直ぐ後ろになった機体から順に姿を消して行く。転移だ。ワイバーンに覚られる事無く戦場から離脱した。仲間の離脱を確認したアリスは作戦行動を開始した。妖精魔法をぶちかました。ウィンドボール攻撃。それはワイバーンの風魔法で相殺された。相殺されたと同時に怒りも買ったようだ。殺意メラメラ。アリスは逃げる様に反転した。ワイバーンが追って来た。アリスは右に大きく旋回した。再びウィンドボール攻撃。またもや相殺された。怒り増幅で追って来るワイバーンアリスは確信した。釣り上...昨日今日明日あさって。(伯爵)9

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)8

    「前もって言っとくよ。魔法でのアシストは禁止。当然、身体強化も禁止。自分の素の力でプレーすること、いいね」俺は優しいサーブを心掛けた。それが女児達の適応を早めた。「簡単ね」モニカ。「返せば良いのね」マーリン。「楽勝楽勝」キャロル。舐めた言葉だ。でも我慢我慢。今日の目的は別にある。女児達は数打つうちに慣れてきたのか、こちらへの好返球が増えた。でも利き腕への負担が掛かるので疲れも早い。分かり易い顔色。「痛める前にお父さんと交替した方が良いよ」一人二人三人とお父さんに交替した。全員がお父さんになって、ようやくデモプレイだ。まずはテニスを理解して貰う。より優しくサーブした。ついでに言葉で褒める褒める。楽しさと面白さ全開だ。メイド達が前もって用意したタオルをキャロル達に手渡した。「おお、お貴族様のタオル」「凄い、汗...昨日今日明日あさって。(伯爵)8

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)7

    その日はそれで終わった。けれどクラス委員としては終われない。至急、答えを出さねばならない。だから屋敷に戻ってから考えた。手持ちの人数は、一年時同様に俺を含めて十八名。予算は学校から支給されるが、寄付の受領も許されている。が、こちらは平民なので、そう多くは望めない。その上で出来るのは・・・。貴族なら従者も勘定に入れられるが、うちのクラスは俺以外は平民、望むべきもない。現状、人数も予算も圧倒的に足りない。大道具や小道具も考慮すると演劇や剣劇は無理、料理屋や喫茶店等も最優秀賞には一捻り二捻りが必要。そうなると・・・。別の・・・、斬新な・・・、企画は・・・。あっ、前世の学校祭ではクラス対抗球技大会があった。バレーバール、バスケット。そうだ、サッカーにしよう。用具はボールとシューズ、・・・ゴールは、斬新に、バスケッ...昨日今日明日あさって。(伯爵)7

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)6

    久しぶりに寝坊した。昨日の疲れを実感した。色々あった。邪龍の落とし物探し、ギターを披露、株主会の説明、そして陞爵の予定。一年を一日で済まし終えた感じたがした。半身を起こして伸びをした。幸い、メイドが部屋に突入して来るよりも先に目覚めた。何時もの様にベッドの上でストレッチ。じっくり身体をほぐす。特に関節辺りを丹念に行う。身体がじんわり温まった。次は魔力の操作。丹田を温め、錬成。それを糸を伸ばす様にして、身体全体にゆっくり張り巡らせる。これはこれで身体が温まる。そして何時もの様に願いを込めた。まず「無病息災」、そして「千吉万来」。暫くして気付いた。微かに空気が揺れていた。それで窓を見た。完全に閉められていない。深夜にアリスが戻って来たのだろう。天井を見回した。左隅に見つけた。大きな繭が垂れ下がっていた。脳筋妖...昨日今日明日あさって。(伯爵)6

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)5

    事業計画書と聞いて頭を抱えるシンシア達三人。まあ、そうだろう。そこまでは国軍も教えていないだろう。そこで俺は懇切丁寧にその書式を説明した。聞き終えた三人の感想が凄い。「まるで軍事演習の工程表ね」「行軍や陣地構築も参考になるわね」「そう言われると、糧秣管理や賦役の扱いもね」国軍を舐めていた。類似する書式が存在していた。考えてみると確かにそうだ。軍と商い、お題目は違っても、最終的には数字で語るもの。でないと仕事にならない。終了したところ、ベティ様に呼ばれた。「佐藤子爵、こちらへいらっしゃい」公式の名称で呼ばれた。何か・・・。ベティ様はイヴ様を膝に抱いて、俺を見て笑みを浮かべておられた。嫌な予感、でも無視できない。演技スキル全開で対応した。「はい、ただ今」歩を進めた。ベティ様はソファーなので、位置が低い。俺はそ...昨日今日明日あさって。(伯爵)5

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)4

    まず皆の不安を取り除かなければならない。はあ、まあ、そうだよね。俺は子爵ではあるが、金銭感覚は村人のまま。それに子供だし。為に現状、予算に関する裁量権はない。領地については完全に代官・カールに丸投げ。屋敷は執事・ダンカンやメイド長・バーバラ、ウィリアム小隊長、この三人を含めた四人での合議制。出納帳簿等には部外者であるポール細川子爵も目を通す。今は、大人達が俺を手厚く守ってくれているのは周知の史実。ありがとう。ベティ様や侍従侍女等も居合わせていたので、誰にも分る様に口にした。「まず基本は平等です。均等に頭割りにします。でもそれだと冒険ができない。そこで総額の半額を頭割りにします。それぞれの口座に降り込みます。残り半額で冒険します。その冒険とは、商売です」答えに、一人を除いた全員が押し黙った。特に仲間達はそれ...昨日今日明日あさって。(伯爵)4

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)3

    終えると大拍手。さっきより拍手の圧が凄い。それで気付いた。慌てて圧の厚い方を振り返った。フロア入り口に人溜りが出来ていた。先頭には笑顔の王妃・ベティ様。隣には同じく笑顔のポール細川子爵。供回りの侍従侍女達も笑顔で拍手をしていた。そしてその背後には隣室に移動した面々。カトリーヌ明石少佐やシンシア達。近衛と国軍の魔導師にそれぞれの副官。ベティ様が歩み寄って来られた。「もう一曲お願い」これは断れない。音楽の教科書でお馴染みの曲にした。デュオ『かぼす』の曲で『栄光への駆け足』。勿論、直訳の英語で。スキルの影響か、余裕で弾いて歌えた。意味は分からない筈なのに、終えると再びの大拍手。歌唱もサウンドの一つとして捉えられているのだろう。絶対にそうだ。俺も前世では、児童の頃から洋楽一般が好きだった。英語なので何を歌っている...昨日今日明日あさって。(伯爵)3

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)2

    イヴ様はまだ四才。低いMPにも関わらず、スキルが生えていた。土魔法。それも大地魔法に進化する可能性を秘めたもの。そのイヴ様が意識してかどうかは知らないが、ピアノに魔力を染み込ませていた。土魔法は土だけでなく、草木とも相性が良い。木製品のピアノは当然、イヴ様の魔力を受け入れた。全く反発しない。運指どうのこうのではなく、弾き手の意志に寄り添う気配が感じ取れた。そしてそれが音色に表れた。結果、イヴ様のスキルにピアノが加わった。ピアノ教師が言う。「それですよ、それ。イヴ様、ピアノと友達になれましたよ」やはり運指だけでなく、土魔法によるピアノへの干渉も教えていた。自分の風魔法の経験を応用したとはいえ大したものだ。物の見事にスキルに昇華させたのだから。「ほんとうに友達になれたのね」「そうですよ。お疲れ様でした。お茶に...昨日今日明日あさって。(伯爵)2

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)1

    それぞれがステータスの開示に手間取った。それでも一人も諦めずに挑む。まずボニーの表情が変化した。「取得していますお嬢様」「よかったわねボニー」そしてシェリルにマーリン、モニカ、キャロルと喜びを爆発させた。あまりの喜び様に周囲の注目を浴びてしまった。疑問を持ったのか、複数の者達がこちらへ足を延ばす。なんて欲深い。まあ、人の事は言えない。問題はクリアされつつある。アリスが奮闘し、鱗や血液の回収に走り回っているからだ。アリスは本来の透明化に加えて光体をも利用しているで、魔力の漏れもない。その姿はランクやレベルの低い者に見る事は叶わない。この速度なら、直に終了する。彼等は何も手に出来ない筈だ。俺達は待機してる馬車の所へ戻った。そこで入手した物の処理に付いて話し合った。「これは冒険者ギルドや商人ギルドでは買い取りは...昨日今日明日あさって。(伯爵)1

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)287

    クランクリンの後続はない。他は、・・・何も引っ掛からない。昨夜の邪龍の影響で、行動を控えているのかも知れない。暇なので俺は仲間達を鑑定した。マジックバッグの中身までは分からないが、スキルは見られる。やはりだ。シンシア、ルース、シビルの大人組に探知が生えていた。三人共、元々が魔法使いなので、取得が容易だったのだろう。あっ、ボニーも生えた。探知を取得した。これは、・・・邪龍の鱗に残る魔力のお陰だろう。彼女の探知の真似事に残滓魔力が反応したので、真似事が真似事では終わらず、スキルに昇華した、そう理解した。俺は探知に注力した。鱗の破片を探した。ああ、当初の半分になっていた。消えたのは彼女達のマジックバッグの中か。皆の新たなスキル取得のどさくさに紛れて、俺の偽装ステータスも上昇させておこう。少しだけなら問題ないだろ...昨日今日明日あさって。(大乱)287

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)286

    湿地帯の手前で降車した。馭者や警護の者達はここまで。ここから先は冒険者としての活動になる。パーティとして行動せねばならない。俺は号令を掛けた。「行くよ、隊列組んで」今日は俺が先頭に立った。探知と鑑定を重ね掛けした。幸いここらは棚ぼた狙いの者達は少ない。見掛けても湿地帯に踏み込まず、目視で辺りを探し回っていた。それで見つかるとは思わないのだが、水辺を好むクランクリンや、フロッグレイドの上陸を警戒を考えると、それも正しいのかも知れない。俺は昨夜、邪龍がのたうち回った現場を探し当てた。酷く荒れていた。粘度をこねくり回した感じで、うねうねと地肌が露わになった箇所が多い。濡れずに歩くのは困難だ。下手すれば足を取られて沈む可能性、無きにしも非ず。足下に目を配って探すしかない。アリスとハッピーが後始末した筈だが、細かい...昨日今日明日あさって。(大乱)286

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)285

    俺は喜んでいる二人に声を掛けた。『その前に自分のステータスの確認。新しい称号が付いてる。邪龍の討伐者なんだそうだ』単純な二人はステータスを喜んだ。『邪龍の討伐者か、凄いわね』『パー、みんなに自慢する』俺は水を差した。『他にも邪龍はいる筈だ。それに称号を見られたら確実に狙われる。仲間の敵討ちだと、違うかい』『平気平気、返り討ちよ』『ピー、ひーひー言わしちゃる』釘を刺した。『次も三人で討伐できるとは限らないだろう。もしかして、強い奴に出遭うかも知れない』二人は顔を見合わせた。『ステータスを偽装するわ』『プー、偽装偽装』俺はもう一つ注意した。『部位や魔卵に邪龍の残滓があるのも拙い。どこでどう目に付くか分からない。だからクリーンを徹底する、これも良いね』『ダンジョンに居残っている妖精達を動員するわ』『ペー、ダンジ...昨日今日明日あさって。(大乱)285

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)284

    ドラゴンが顎を大きく上げ、空に向かって何度も激しく咆哮した。吼えている様にも聞こえるが、実態は泣き叫ぶに近い。そのせいで喉元が、がら空きになった。チャンス、好機到来。俺は方向を修正した。狙うは喉元。重力スキルを全開にした。ついでに風魔法を重ね掛け。突撃。構える槍は光魔法が施された逸品、当然ダンジョン産、神話級。ドラゴンの視線が俺を捉えた。これまでとは違い、感情を露わにした目色。俺の読み違いだろうか、増悪にしか見えない。まあ、そうかも知れない。ドラゴンが口を大きく開けた。外の空気と一緒に魔素等を取り込む吸気。それらを体内に貯蔵していた物等と共に錬金して変換。仕上げた物を排出する、排気、ブレス。俺はそう理解していた。しかし、目の前のドラゴンの行為はそうではなかった。前段階の吸気をしていない。となると、悪足掻き...昨日今日明日あさって。(大乱)284

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)283

    アリスとハッピーが全力でドラゴンを攻撃した。狙いは過たない。破壊した鱗の隣の鱗を執拗に射た。外皮から鱗を削いで行く。手間は掛かるが、他に選択肢はない。ドラゴンは耐えた。誰が真の強敵か、見定めたからだ。人間を葬ってから小煩い羽虫二匹を潰す、そう決めた。だから鱗の十枚や二十枚、くれてやろう。全て終えてから生え揃うのを待てば良いだけのこと。俺はドラゴンのブレスがどのくらい続くのか計り兼ねた。何しろ初体験。痛いのは嫌、勘弁して。優しくして。俺は再び鑑定した。さっきは読めなかったが、今回は一部が露わになった。名無し。邪龍。HP残量、894。EP残量、752。やはり邪龍だった。道理で目の敵にされる訳だ。でも、そこは良い。問題はHPとEPの残量だ。もしかして、一部だけだが、鑑定が機能したのは四桁を切ったからか。たぶん・...昨日今日明日あさって。(大乱)283

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)282

    骨折の補修は鉄製品の補修も似た様なもの。手早く済ませた。念の為にダンジョン産のHP、MP回復ポーションの二つを飲んだ。うっ、不味い。次も不味い。それでも直ぐに戦闘に復帰せねばならない。その際に支障が出たのでは困る。術後の確認をした。先程と同様に全身に魔力を巡らせた。接続不具合箇所がないか探した。なし、経過良好。巨椋湖の主であるフロッグレイドが多数、ドラゴンを恐れて湖底に避難していた。そのうちの三頭が俺の近くにもいた。捕食に熱心な彼等であるが、彼等は俺には気付かない。俺が光体で結界を構築してその中にいるからだ。俺の今は言わば、光学迷彩を施された状態。魔力が外部に漏れない様に細心の注意を払っているので、見破られる事はない。俺は湖底の水の動きを読んだ。ゆったりした流れがあった。どこかの川から流れ込む水がその源な...昨日今日明日あさって。(大乱)282

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)281

    それは高々度から、高速で急降下して来た。そしてある程度の高さになると、急激に速度を落した。それでも衝撃波だけはどうしようもない。当人とは無関係に、巨椋湖を襲う。表層を暴力的に圧す。激音と共に、無数の水柱が上がった。耐え切れなかった物達が、水面に大量に浮かび上がった。腹部を月光に晒す。周辺の草木もそう。樹齢とは無関係に、抵抗できぬ木々は圧し折れ、千切れた草や枝葉が夢幻の様に舞い散る。それの姿が露わになった。ドラゴン。20メートルを軽く超える奴。それでも30はないと思う。そいつが俺を睨む。鼻で笑う気配。俺のみではないと感じている様で、視線を左右に走らせた。見つけられないのか、首も動かした。執拗に、四方八方に視線を巡らせる始末。体躯に似ず、神経質なドラゴン。俺はそんなドラゴンは嫌いだ。もっと堂々としろ。俺とドラ...昨日今日明日あさって。(大乱)281

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)280

    カトリーヌ明石との面会を終えた深夜、アリスとハッピーが訪れた。『ジイラール教団の半数ほどが逃走したわ』『パー、それ追跡したっんちゃー』『どこへ逃げたんだ。他所にもアジトを持っているのか』『連中が逃げながら話していたわ。若狭の先、北の山岳地帯に修業道場を構えているみたいね』『ピー、だから妖精達が尾行してるっぺー』逃れた教団員は、目立たぬ様に行商人や冒険者として個々に、もしくは少数のキャラバンで修業道場に向かっているそうだ。説明したアリスが本題に入った。『そういう訳で、私達でその道場を潰すわよ』どんな訳があるというのだ。さっぱり分からない。流石は筋脳妖精。自己完結で突き進む。ある意味、羨ましい。でも俺は二人を眷属にしている身。聞かねばならない。『もしかして、皆殺し』『当然よ』『プー、僕達の木曽に喧嘩売った。だ...昨日今日明日あさって。(大乱)280

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)279

    その夜、得意満面のアリスとハッピーが現れた。『どうよ、仕事をして来たわよ。街で噂になってるでしょう。掻っ攫って、掻っ攫って、空にしたわよ』『パー、僕も掻っ攫ったよー』俺は冷静に対応した。『ペイン商会とハニー商会は分る。けど、他の店は、・・・聞いてないんだよね』『捜査の手を逃れる為の目眩ましよ。伯爵とは無関係の貸金業者を追加したわ。これで犯人を絞り切るのは無理になったわ、そう思わない』『ピー、完全犯罪だっぺ』アリスの仲間の入れ知恵、それが正解だろう。まあ良いか、脳筋妖精を補佐してくれるとは実に心強い。『その四つの商会だけど、襲うだけの理由があったんだよね』『当然よ。カジノと裏で繋がってる悪徳貸金業者よ。十分な理由でしょう』『プー、ぷんぷんだっぺー』俺はもう一つの大事な事を尋ねた。『ジイラール教団の名前が出て...昨日今日明日あさって。(大乱)279

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)278

    明らかにアリスの失敗だが、責めるのは無駄。何しろアリスは脳筋妖精。注意しても、その場で直ぐに忘れる。『アリス、余り騒ぎは起こさないでくれよ』『わかってるわよ、フン』『ポー、開き直った、直った』アリスがハッピーを一睨み。『ダンジョンに送り帰すわよ』『パー、怖い怖い、怖いよアリスン』俺はアリスの注意をこちらに向けた。『それでアリス、教団の連中はどうしてる』『教会を補修しているわ』『引っ越す予定はなしか、そうなんだよね』『当然でしょう。騒ぎが起きただけで、奉行所の手入れじゃないんだから』俺は現状を事細かく説明した。伯爵が発見された一件に、それに対する王宮の動きを絡めた。アリスの暴走癖を抑える意味合いもあった訳だが。ところが、聞き終えたアリスが開口一番。『は~、ダンのやり方は生温いもんね。あそこで始末すれば良かっ...昨日今日明日あさって。(大乱)278

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)277

    この場合、俺が取るべき最善手は。忖度、だよね。領地から届けられた竹筒を王妃・ベティ様に差し出した。至極当然の様に受け取る王妃様。遠慮もしないけど、傲慢でもない。「ダンタルニャン、先に読ませて貰うわね」感謝の目色。封を切ると、中から書状を抜き取った。広げて目を走らせた。無表情を貫くが、目色は違う。驚きと呆れの二重奏。再読を終えると空になった竹筒と書状を俺に戻した。「ありがとう」俺は竹筒を執事・ダンカンに渡し、書状を読んだ。カールらしい書き方だ。丁寧かつ無駄がない。読み進めながら脳内で要約した。伯爵軍は全軍撤退した。その理由は不明。領内を隈なく調べて、被害を確認した。こちらの被害は軽微なもの。土魔法使いと領民で復旧できる。だから、心配無用。子爵様は学業に励んで欲しい。念の為、領内を巡回させていた隊が伯爵らしき...昨日今日明日あさって。(大乱)277

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)276

    俺は興味から馬車の中のブライアンを鑑定した。そのスキルに驚いた。騎士爵。ランク、C。HP、110。MP、80。スキル、剣士☆☆☆、縫製☆☆☆。ブライアン明智は細川子爵家に代々仕える執事家に生まれた。文官仕事は当然ながら、武官として剣士スキルを活かし、文武両道で子爵家を支えていた。それが縫製スキル持ちだというのだ。まさしく便利使いが出来る人材だ。流石はスキル持ち。それほど時間はかからなかった。明るい顔でブライアンが馬車から降りて来た。バックパックを恭しく俺に差し出した。「どうでしょうか」俺の持ち物だから検分は当然だろう。王妃様を差し置いて改めた。強度も剛性も問題ない。否、それ以上だ。足された革と布はブライアン手持ちの部材なのだろう。それが上手く組み合わされていた。バックパックが優しい背負子に、ベビーキャリア...昨日今日明日あさって。(大乱)276

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)275

    カトリーヌ明石少佐が俺の案内に立った。「どうぞこちらへ」ここは俺の屋敷なんだけど。その言葉を飲み込んで、案内された。馬車寄せの奥の庭で、それが展開されていた。主役はイヴ様とチョンボ。四才の幼女が両手を大きく振り回し、叫ぶ。「のせなさい、あたしをのせなさい」対してチョンボが両の羽根で幼女を扇ぎ、笑う。「グーチョキチョキ、グーチョキチョキ」何故か、不毛な会話が成立している様に見えた。そんな一人と一羽の周りを大人達が囲み、ジッと見守っていた。俺に気付いたイライザが急ぎ足で寄って来た。「子爵様、どういたしましょう」「何が、どうしたの」「王妃様とイヴ様が突然いらっしゃいました。そしてチョンボを見せろと・・・。で、今はイヴ様がああして、チョンボと話してらっしゃいます」用件はチョンボであったらしい。王妃様は大きなパラソ...昨日今日明日あさって。(大乱)275

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)274

    イライザの説明で状況が理解できた。チョンボは相変わらずのアホウドリらしい。手間がかかる奴だ。ここは演技スキル。それでもって言葉に威圧を込めるイメージ。おおー、快い。チュンボに言葉を飛ばした。「チョンボ、焼き鳥にされたいのか」するとチョンボが動きを止めた。人の言葉が分かるようになったのかな、チョンボの奴。まあ、効果覿面てことで。チョンボが不安な表情で俺を見た。それからその場で右往左往、動きが定まらない。見兼ねたのか、イライザからチョンボに向けて魔力が発せられた。念話だろう。途端、チョンボの動きが止まった。俺とイライザを見比べた。判断した。小走りでイラザノの背後に隠れた・・・、当人は隠れたつもりなのだろう。生憎、チョンボの方が身体が大きい。顔だけ隠し、大枠がはみ出ていた。俺はイライザに竹筒を示した。「読ませて...昨日今日明日あさって。(大乱)274

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)273

    俺は喰い付いた二人に注意した。「貴族なら何でも良い訳じゃない。お勧めは野良のお貴族様だ」クラークが即座に反応した。「なら野良にするか」野良のお貴族様。それは爵位持ちだが、領地を持たずに市井で暮らす者達を指す。それが割と多い。国都には掃いて捨てる程いる。特に退役軍人にその傾向が見られる。将官経験者は子爵位を、佐官尉官経験者は男爵位を、それぞれ退役時に授けられる。のだが、屋敷や領地はその限りではない。それは自ら手当てする物。退職金と貯蓄を切り崩して得る物。そこで最も手っ取り早いのは自ら人を集め、何処かの寄親伯爵の許可を得て村を開拓し、そして領主に収まる。領地を持つという事は、次の世代への爵位継承を意味する。野良の場合は継ぐべき領地がないので、一代限りとなる。それでも野良で構わないと思っている者達が一定数いた。...昨日今日明日あさって。(大乱)273

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)272

    クラークは俺の言葉に応じない。ジッと酒瓶を見ていたが、やおら身体を持ち上げた。何やら小さく呟きながら、部屋の片隅の流しに歩み寄った。棚からグラスを取り出した。酒瓶の封を切った。慎重な手並みでグラスに酒をちょっと注いだ。目と鼻が・・・、魔力を集中しているようだ。注がれる酒の色を検分するように観察し、匂いを嗅ぐ仕草。俺とサンチョは黙ってそれを見ていた。クラークの性格は理解してが、今回はそれにも増して・・・、怪しい。一体なにを・・・、偏屈だけでは飽き足りずに、偏執にラクンアップか。「美味い、絶品だ」軽く一口飲んだクラークが発した言葉がこれ。それから嬉しそうな顔でグラスをかざし、残りを味わいながら、一口、二口、三口、ついに飲み干した。空にしたグラスを俺に向けた。「この酒はダンジョン産か、だよな」滅多に出ないから「...昨日今日明日あさって。(大乱)272

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)271

    下校する頃合いになってから空気が変わった。まず教師達、その多くが厳しい表情になった。送迎の馬車の馭者達も一様に表情が暗い。顔見知りの者を見つけると歩み寄り、情報交換を行っていた。その点は、腐ってもお貴族様の使用人、感心した。門で執事・ダンカンとウィリアムが待ち構えていた。この二人の顔色にも出ていた。異常事態出来。俺は素知らぬ振りで尋ねた。「どうしたの、二人とも顔が怖いよ」ダンカンが応じた。「拙い事態になりました。美濃の寄親伯爵様が挙兵しました」それが俺の演技開始の合図になった。ダンカンとウィリアムを交互に見た。「何を言ってるんだ」「アレックス斎藤伯爵が寄子貴族を招集して、岐阜近郊の国軍駐屯地を襲いました。伯爵軍は国軍を壊滅させた後、東へ向かったそうです」俺は目を大きく開けた。「東は・・・、木曽ではないか」...昨日今日明日あさって。(大乱)271

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)270

    俺は二人を呼んでから気付いた。伯爵に装着した【奴隷の首輪】を忘れていた。あれは滅多に出回らないダンジョン産。なので残して置くのは拙い。直ちに術式を解除し、風魔法で回収した。アリスとハッピーが来た。『伯爵はどうするの』『ペー、ペ~だ』『ここなら【魔物忌避】の術式で守られてるから大丈夫。たぶん、通り掛かった誰かが助けてくれる』伯爵のHPの減り具合は忘れよう。俺達は領都・ブルンムーンに取って返した。スタンピードを誘導する連中を探さねばならない。集まった魔物達を氷雨と冷風で解散させたので、暴走は起こり様がない。けれど、企んだ者達はそれを知らない。今もどこかで虎視眈々と機会を窺っているはず。広い範囲を探知スキルで探し回った。思いの外、早く見つけた。彼等は伯爵軍の後方で夜営していた。誘い出された魔物達が伯爵軍を襲うと想定し...昨日今日明日あさって。(大乱)270

arrow_drop_down

ブログリーダー」を活用して、渡良瀬ワタルさんをフォローしませんか?

ハンドル名
渡良瀬ワタルさん
ブログタイトル
金色銀色茜色
フォロー
金色銀色茜色

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用