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ごめんなさい。 新しい物語になっています。 和洋折中の時代を舞台にしました。

渡良瀬ワタル
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日南市
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2008/05/30

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)13

    俺はサンチョには会えなかったが、代わりにクラークに仕事を命じた。嫌な奴だが、加えてご老体だが、まだまだ働けると思う。けど、全幅の信頼を寄せている訳ではない。ちょっとだけ、持ち前の気質がねっ。だから表の人間からも情報を得よう。アルファ商会の保安警備全般を担っている連中を屋敷に呼んだ。その系統は二つ。一つは傭兵団『赤鬼』。もう一つは冒険者クラン『ウォリアー』。共に木曽領地にて常時雇用しているので、その主力は留守がち。それでも、本部事務所が国都にあるので留守居を複数置いていた。その者達にアルファ商会の保安警備全般を委ねていた。留守居とはいうが、役に立たないという意味ではない。多くは、古参と新人の二種。留守中に、現場に出すには早い新人を古参が指導していた。そこへ提案されたのが、今回のアルファ商会の保安警備。渡りに...昨日今日明日あさって。(テニス元年)13

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)12

    アルファ商会を代表してシンシアとルースが屋敷に来た。二人は初っ端に、迎え出たダンカンに注文した。「室内じゃなく、庭園じゃ駄目かしら。この所、事務仕事で疲れているの。新鮮な空気に触れたいわ」それをダンカンから聞かされた。ご要望にお応えして、池の畔の四阿で面会した。行くと、二人は見るからに疲れ切った表情でお茶していた。果たしてそれでお茶の味が分かるのだろうか、甚だ疑問だ。それでも態度は立派なもの。俺の視線をしっかり受け止めた。シンシアに尋ねられた。「この場合は商会長ですか、それとも伯爵様」「身内だけの時は昔通りにダンで」「それではダン、まず朗報から、売れ行きは好調よ。お貴族様向けの高価版も、一般向けの廉価版も品切れ寸前ね。各工房の尻を叩いているけど、熟練工が育つまでは無理みたい。だから商圏は、暫くの間は国都に...昨日今日明日あさって。(テニス元年)12

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)11

    センターホールは満席であった。双方の家族、縁戚、友人、職場の者達、寄子の貴族、土地の有力者、伯爵家の主立った者達が顔を揃えていた。ただ一頭、チョンボのみは除外されていたが、誰も気にしない。列席者は左右の隅の小さな方のドアから入った。ホール真ん中の観音開きのドアは締め切られていた。そのドアの前に、邪魔にならぬ形でブースが置かれ、楽器を手にした者達が位置に着いていた。バイオリン二名、ヴィオラ一名、チェロ一名。もう一名は楽器なしの楽団課長。俺はダンカンを連れていた。そのダンカンが俺の目色を読み、演奏課長に合図した。演奏が始まった。歩き易さを眼目とした曲。小さな編成だが、ホールを満たすには充分だった。高音部が天井へ走って下へ跳ね返る。低音部が足下を擽り、横壁を揺るがせる。そんな中をダンカンは俺から離れ、ゆっくりし...昨日今日明日あさって。(テニス元年)11

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)10

    屋敷で椅子を暖めている暇はなかった。毎日、件の施設に出向いた。そこで各担当者と打ち合わせした。宮司や司祭は当然として、他には現地雇用の料理課長、メイド課長、警備課長、楽団課長、雑務から人事経理事務までを担う総務課長。こういった面々と当日のスケジュールを綿密に組み立てた。当日を迎えた。箱馬車で施設に向かった。俺にカールにイライザ、ダンカン。当然、イライザがテイムしたチョンボが馬車脇を並走した。「クエクエ」と煩い。野生の勘で、祝いを述べているのかも知れない。ここまで来るとカールも疑問を抱いたらしい。「ダン、何かおかしくないか」「なにが」「何かが・・・、何かが引っかかるんだ。ここ数日のダンの様子も変だったし、屋敷の者達も」「そうかな」カールは同乗していたダンカンを見た。「何か隠してないか」「別に」イライザもカー...昨日今日明日あさって。(テニス元年)10

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)9

    山城から美濃は近い。途中に近江を挟むのみ。それでも途次に領地を拝領している貴族への挨拶は欠かせない。格上の貴族が領地に居るのなら俺自ら寄って挨拶し、格下の貴族なら執事長を挨拶に出向かせ、代官が治めているのならなら只の執事を。とにかく面倒臭いのだ。夜もそう。本来の俺なら野営でも一向に構わないのだが、貴族の作法がそれを許さない。冗談で口にしたら皆にお説教された。だから、夜はその地で一番の宿に泊まり、大金を湯水の様に流す。まあ、短い旅であったので我慢できた。でなければ途中で発狂していた自信があった。美濃地方に入った。すると国境でアドルフ宇佐美が騎士団と歩兵隊を率いて待っていた。馬車の前で下馬すると、綺麗な所作で敬礼した。「お待ちしてました」地位が人を作る、とは良く言ったものだ。アドルフが別人に見えてしまった。そ...昨日今日明日あさって。(テニス元年)9

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)8

    順風満帆と言っても良いだろう。商会をスタートさせ、陞爵パーティをも乗り切った。俺の向かうところ敵なし。ところが敵がいた。『約束の報酬は』『パー、ご褒美ご褒美っぺー』アリスとハッピーに詰め寄られた。拒否できない。深夜、山城ダンジョンに連行された。『早く作りなさい』『ピー、遊びたいっぺー』子供なのにも関わらず、深夜労働を強要された妖精サイズのテニスセットを五セット作らされた。そこをアリスの仲間の妖精達に見つかった。これ幸い、彼女達にも玩具にされた。あれ作れ、これ作れ、要求に次ぐ要求で姦しい。仕方なので従った。作ると言っても、全てが妖精サイズ。これが面倒臭い。目が疲れた。解放されたので屋敷に戻った。そもそも、こちらの事情を知らないので、誰も俺を労わらない。「お寝坊ですね」掛けられた言葉だけは優しい。メイドのドリ...昨日今日明日あさって。(テニス元年)8

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)7

    俺はカトリーヌ明石少佐に促され、一声掛けてから横付けされた馬車のドアに手を伸ばした。「ようこそわが家へお出で下さいました」ゆっくり開けた。イヴ様が真っ先に顔を出された。「ニャ~ン」相変わらずだ。両手を上げてバンザイされた。お約束だ。俺はその腋の下に両手を差し入れて持ち上げた。でも今日は、流石に肩車は拙い。他の目があるのだ。多くは招待客の随員達。それらが待機テント群からこちらを覗き見していた。俺はイヴ様を石畳にそっと下ろした。不満顔のイヴ様。そこで俺はご機嫌取り。耳元に囁いた。「美味しいスイーツをご用意しております」「ほんとに、ほんとう」「はい、さあこちらへ」場所を空けるとカトリーヌが進み出た。白い手袋をした手をドア口に差し出した。「王妃様、どうぞ」王妃様が顔を出された。「カトリーヌ、ありがとう。佐藤伯爵、...昨日今日明日あさって。(テニス元年)7

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)6

    翌日も大講堂は大盛況。外には入場を待つ行列、内には試合に出たい生徒達の行列。学年やクラスに関係なく、大勢の生徒がテニス体験を望んだ。これに学校当局は頭を痛めた。結局、規制の上に規制を重ね、事態を収拾しようとした。それで済む訳がない。あちこちから抗議の声が上がった。担任・テリーが教頭に手招きされたのを潮に、俺は運営席を離れた。正確には逃げた。この騒ぎは俺の手には余る。学校当局に任せよう。彼等は大人なんだから、良い解決策を講じるだろう、たぶん。大講堂の裏口から外に出た。校庭を暫く歩いて、ベンチに腰を下ろした。良い風が俺の頬を撫で回した。右肩に微かな重さ。アリスが腰掛けた。少し遅れて左肩にも重さを感じた。ハッピーだ。二人は透明化していたので、誰にも気付かれない。俺が溜息付くと念話が来た。『まるで大人みたいに辛気...昨日今日明日あさって。(テニス元年)6

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)5

    試合に勝ったシェリルが俺に気付いた。悪い笑顔で俺を手招きした。次の相手に所望らしい。俺は逆にシェリルを手招きした。隣の椅子を指し示した。不満顔のシェリル、それでも渋々、コートを後にした。全身汗まみれのシェリル。手で汗を拭きながら口を尖らした。「どうして断るの」「順番待ちがいるんだから、その下級生に譲ろうよ。シェリルは上級生だろう」苦笑いの守役・ボニーから差し出されたタオルで汗を拭きながら、「全く・・・、優等生なんだから。糞真面目。もっと気楽にねっ」と言い返した。「風邪ひくよ、着替えたら」「分かったわ」控室で着替え終えたシェリルが戻って来た。先程の好戦的な態度は消え、普通の女の子になっていた。隣の椅子に腰を下ろした。「ねえダン、アルファ商会は明後日開店でしょう。その前に見学したいんだけど」学校祭は明日まで。...昨日今日明日あさって。(テニス元年)5

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)4

    説明を終えたカトリーヌ明石少佐が副官に目で合図した。頷いた副官が俺の前に綺麗な小箱を置いた。カトリーヌが言う。「今回の褒賞です。陞爵したばかりですので、今のところこれ以上の陞爵はありません。その代わりにこれです」俺は小箱を開けた。宝石が並んでいた。「これは」「ダン様はお金持ちの様なので、お金ではなく宝石に致しました」カトリーヌが珍しくサラリと嫌味を言った。確かに俺はお金持ち。ダンジョン限定で金貨が造れる。金貨だけでなく金塊も、何時でも何度でも。「それにしても綺麗な宝石ばかりですね」「王家の宝物庫の逸品です。今は必要でなくても、何れ大人になれば必要になるそうです」伴侶を得れば必要になる、そう言いたいのだろう。「分かりました。ありがとうございます、と王妃様にお伝え下さい」カトリーヌが躊躇いがちに口を開いた。「...昨日今日明日あさって。(テニス元年)4

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)3

    俺は駐車場全体を見回した。姿勢の良い私服姿の女性が散見された。軍服では目を惹くので、私服で馬車に分乗して来たのだろう。用心の良い事だ。俺はカトリーヌの指示に従って真ん中の馬車に乗った。軍用だから武骨な兵員輸送車と思っていたが全く違った。軍人の汗の臭いはない。王妃様の車輌と同じお上品な香りが漂っていた。そして車内が広い上に、座席と座席の間に余裕があった。その座席は三人用が三列。上物の魔物の皮を使用していた。内装の木目も美しい。見回しながら腰を下ろした。へえー、座り心地も負けていない。これは高級将校専用車だ。所謂、指揮車。感心する俺をよそに、カトリーヌと副官も乗り込んで来た。俺は一列目の座席の真ん中。対面の二列目にはカトリーヌ。副官が、どこから取り出したのか、仮設のテーブルを組み立て、お茶を用意した。ああ、油...昨日今日明日あさって。(テニス元年)3

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)2

    学校祭が始まった。開始と同時に児童達がゾロゾロ、大講堂に入って来た。それを見て隣に腰掛けているテリーが自慢気に言う。「来たな一年坊主」確かに彼が事前に声を掛けた一年十組の子達だ。児童達はテニスの模範試合を観戦すべく、そちらへ向かう。俺はクラス委員としてテリーに礼を述べた。「ありがとうございます」んっ、変だ。彼はうちの担任。やるべき仕事をやっただけ。礼は不要だろう。まあ、それは飲み込んで。一年十組の父兄らしき者達も入って来た。彼等にとっては理解できないテニスの模範試合。それでも物珍しさが勝った。多くがコートの周りに足を進めた。講堂の隅に俺とテリーは陣取り、全体の進行を管理していた。今のところ問題はない。二面のコート。プレーヤーは四名。主審二名。線審四名。球拾いは手空きのクラスメイト。試合終了で順次交替して回...昨日今日明日あさって。(テニス元年)2

  • 昨日今日明日あさって。(テニス元年)1

    幼年学校の学校祭が始まった。学校周辺は早朝から送迎の馬車で溢れかえっていた。それを見越してか、近辺の者達は臨時駐車場を開設した。「さあ、安いよ安い」「うちはもっと安いよ」金額は言わない。どうやら、ぼったくりらしい。これも例年の恒例行事、・・・の一つなのだろう。俺は徒歩圏内なので問題はない。否、・・・あった。そもそも伯爵様が歩いて登校とか有り得ない、そう家臣達に注意された。でも今朝も歩いて登校した。今日は特別なので随員はやや多め。まず執事・ダンカン、正式にはダンカン長岡男爵。従者のスチュワート。メイド長のバーバラ。メイドのドリスとジューン。それに兵士が四名。俺が校門を潜ると兵士四名は帰路に付いた。ダンカン達は門衛に招待状を見せると、父兄の控室を教えられた。「ダンタルニャン様、それではここでお別れですね」「あ...昨日今日明日あさって。(テニス元年)1

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)18

    王女の居室が広いと言えど、五十を数える兵は乱入出来ない。剣や槍の間合いもあり、結界を囲むのは十数名。廊下や階段に控えている者達と交替しながら、結界を壊そうと躍起になっていた。剣で何度も斬り付けた。槍で力いっぱい突いて、柄でも殴った。それでもビクともせぬ結界。数少ない攻撃魔法の使い手達が動員された。火、水、風、土の属性でもって破壊を試みた。爆風で室内が二次被害を出すが、結界には罅を入れただけ。それも直ぐに自動修復された。俺は弓を片手に連中を眺めた。謀反人にしては暗さがない。心からこれが正しいと信じているのだろう。何て連中だ。まるで邪教の信徒だ。幼女を殺める、それのどこに正しさがあるのか。信じて疑わぬにしても程がある。俺の隣に女性騎士が来た。「子爵様、あっ、今日からは伯爵様ですよね。佐藤伯爵様、ポーションあり...昨日今日明日あさって。(伯爵)18

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)17

    ポール殿の声が風魔法でフロアの隅々にまで届いた。「すでに謀反は鎮圧されました。外に出ても大丈夫です。ただ、注意を一つ。清掃していますので濡れた床で滑らぬ様にして下さい」観覧席の一角から堂々たる声で、質問が発せられた。「謀反人は誰だ」「近衛軍が二個小隊。これら部外者が加わっていた」「部外者とは誰だ」「とある侯爵家の者が二十数名」執拗に質問が続いた。「どこの侯爵家だ」「鑑定した者によると、小早川侯爵家」この遣り取り、出来レースだ。小早川家の名を当初から明らかにして逃げ道を封じた。こうなると門閥本家・毛利家も庇いきれないだろう。んっ、強力な魔波。これは、・・・。近くで術式が起動した。自分で言うのも何だが、美しい術式。防御に徹した術式。もう考える必要はない。俺は立ち上がりながら、カールに告げた。「イヴ様が襲われて...昨日今日明日あさって。(伯爵)17

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)16

    会場の表と裏で近衛が同士討ちをしていた。けっして演習ではない。HPがゴリゴリ削られていた。血が流れ、死傷者が続出している証。一方が会場に乱入せんと攻め、片や一方がそれを阻止せんと奮戦していた。これはどう見ても、攻め手側の反乱だとしか思えない。けれどその原因が分からない。状況が状況だ。俺は鑑定の精度を上げた。そして特定した。攻め手側の近衛に扮している者達がいた。その数、二十数名。小早川侯爵家の家臣だ。武官を意味する騎士爵も含まれていた。彼等が攻め手側の先頭に立ち、指揮を担っていた。が、その動機が分からない。あっ、思い出した。小早川家は侯爵家。毛利侯爵家の門閥で、評定衆に席を連ねていた。その毛利家の分家の女の子二人から、つい最近、王妃様と内密に面会できないかと相談された。同学年のパティー毛利とアシュリー吉良。...昨日今日明日あさって。(伯爵)16

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)15

    会場に出入りする者が多い。その全てが礼装。当事者とその関係者のみではなく、警備の近衛兵もであった。儀式感、空気感が半端ない。俺達もその波に飲み込まれた。入り口の受付は典礼庁の文官複数名。忙しなさそうに帳簿等を確認し、書き込みを行っていた。俺達は案内の女官の手続きでスムーズに通過できた。よくよく見ると、全ての当事者に女官が付いている訳ではなかった。大半は当事者か関係者が手続きを行っていた。俺達は何故か特別に扱われていた。フロア入り口には近衛兵が壁を背にして、ずらりと並んでいた。その威圧感、半端なし。女官に気付いたのか、そのうちの二名がサッと前に進み出て来た。そして俺達を先導してくれた。ドアが大きく開けられた。すると通路には赤い絨毯が敷かれていた。近衛兵の一人が俺に囁いた。「伯爵様になられる方は最前列です。御...昨日今日明日あさって。(伯爵)15

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)14

    俺はダンカンに尋ねた。「さてダンカン、君はどこを希望する」「岐阜の近くをお願いします。人手は実家に相談します」ダンカンの実家はポール細川子爵家の執事を務めていた。しかも男爵なので姓持ち。「姓は実家のかい」「実家に相談しますが、出来れば新たな姓を興したいと思います」残りはウィリアムのみ。「ウィリアム、君はどこを希望する」「特にありません」「それでは僕が決めるよ。木曽を手薄にする訳には行かないから、隣接する地に信頼できる者を置きたい。だから君に頼みたい。気心が知れてると思うから、イライザと隣り合わせだ。カール、そうしてくれるかい」当人もイライザも異存はなさそうだ。カールが頷いた。「承知しました。二人を木曽に隣接する地に配します。そして私とアドルフ、ダンカンの三人は岐阜に隣接する地に」俺はもう一つの問題を確認し...昨日今日明日あさって。(伯爵)14

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)13

    カールは私的な事情は話してくれない。渋い表情をしただけ。でも、それは一瞬で消えた。表情を改めて口を開いた。「私の領地は美濃地方の領都近くが望ましいですね」良かった。現実を受け入れてくれた。「その辺りの塩梅は寄親伯爵代理に任せます。カールの方で適当に見繕って下さい」苦笑いで頷いた。「承知しました。これまで同様に、ダン様に付き合います。寄親代理はお任せ下さい」美濃地方の領都は岐阜、人口20万余の城郭都市であった。寄親代理としてその岐阜を切り回しながら、美濃地方全体を取り纏める。気難しい仕事だと思うのだが、カールなら熟せるだろう。「カールには寄親代理に専念して欲しい。勿論、僕が新しく拝領する岐阜とその周辺の代官も兼任で。そうなると当然、木曽代官が欠員になる。誰か心当たりは」従来であれば木曽を取り上げて、岐阜への...昨日今日明日あさって。(伯爵)13

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)12

    妖精の仲間から緊急連絡が入った。『アリス、聞こえるアリス。下にイドリス北条伯爵がいるわよ』アリスはそちらに機首を向けた。『あの小勢ね』『小勢でもそれぞれがスキル持ちよ』もう一人が近付いて来た。『精鋭を率いて官軍の不意を突くつもりね』『だとすると本隊は囮ね』『ピー、囮っパー』探索と鑑定の為に散開飛行していた。それが功を奏した。アリスは全機に指示した。『全員集合、奴等の上空よ』アリスが疑問を口にした。『官軍はゴーレムを周囲に配しているのよ。奇襲が成功するとは思えないんだけど』妖精の一人が応じた。『スキル持ちに火魔法使いが多いわ。だぶん、ゴーレム陣の突破じゃなく、遠間からの火魔法攻撃じゃないの』もう一人が応じた。『あの連中のスキルからすると、精々が中距離の火魔法攻撃ね。射程が長距離の魔法使いは一人もいないわ』『...昨日今日明日あさって。(伯爵)12

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)11

    アリスは脳筋の上に方向音痴でもあった。それを補ってくれたのがエビス搭載の【地図、ナビ】。そして仲間のハッピーと妖精達。アリスの間違いを仲間達が突っ込みを入れながらも優しく修正した。対してアリスは脳筋の面目躍如、言い訳はしない。快く受け入れ、飛行隊の機首を本来の目的地へ向けた。前方に雄大な山が見えてきた。山頂は靄がかかっていて判然としない。想像するに、中腹から上の山肌が岩石だらけなので、草木は無いに等しいだろう。妖精の一人が口にした。『富士山みたいね』もう一人が反応した。『という事は、麓に富士大樹海があるのね』『ドラゴンの仮の棲み処があるって噂だけど』『一時立ち寄るだけでしょう』『要するにお休み所ね』ハッピーが言う。『僕達も休もうか』アリスが突っ込む。『素通りするわよ』【地図、ナビ】に富士山と表示された。ド...昨日今日明日あさって。(伯爵)11

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)10

    アリスが仲間達に告げた。『決着をつけるわよ』全員異議なし。一斉に急降下した。途中、ハッピーが主張した。『プー、ワイバーンは貰ったっぺー』言うなり、より速度を上げて機首をワイバーンに向けた。敵を間近にして話し合う余地はない。アリス達は黙認するしかなかった。ハッピーがダンジョンスライム魔法を起動した。エビスの口の、両端の牙が魔力を帯びた。選択したのは氷槍・アイススピア。続けざまに四連射。狙った箇所は後頭部。ワイバーンは暗殺者達の相手で、手一杯であった。何しろ奴等は蛙の様に跳び、斧で一撃を入れて来るのだ。そのせいで上空の敵を放念していた。後頭部に激しい衝撃を受けて、それと気付いた。頑丈な外皮を破って何かが突き刺さった。そのうちの二つの貫通を認識すると同時に、ワイバーンは意識を手放した。アリス達も負けてはいない。...昨日今日明日あさって。(伯爵)10

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)9

    ワイバーンがこちらに気付いた。獲物と認識した様で、こちらにコースを変更して来た。喜び勇んで速度を上げて来た。アリスは仲間の提案を受諾した。面白い、それだけで充分だ。エビス飛行隊はワイバーンに相対する形、一列縦隊となった。先頭はアリス、他は適当に。と、アリスの直ぐ後ろになった機体から順に姿を消して行く。転移だ。ワイバーンに覚られる事無く戦場から離脱した。仲間の離脱を確認したアリスは作戦行動を開始した。妖精魔法をぶちかました。ウィンドボール攻撃。それはワイバーンの風魔法で相殺された。相殺されたと同時に怒りも買ったようだ。殺意メラメラ。アリスは逃げる様に反転した。ワイバーンが追って来た。アリスは右に大きく旋回した。再びウィンドボール攻撃。またもや相殺された。怒り増幅で追って来るワイバーンアリスは確信した。釣り上...昨日今日明日あさって。(伯爵)9

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)8

    「前もって言っとくよ。魔法でのアシストは禁止。当然、身体強化も禁止。自分の素の力でプレーすること、いいね」俺は優しいサーブを心掛けた。それが女児達の適応を早めた。「簡単ね」モニカ。「返せば良いのね」マーリン。「楽勝楽勝」キャロル。舐めた言葉だ。でも我慢我慢。今日の目的は別にある。女児達は数打つうちに慣れてきたのか、こちらへの好返球が増えた。でも利き腕への負担が掛かるので疲れも早い。分かり易い顔色。「痛める前にお父さんと交替した方が良いよ」一人二人三人とお父さんに交替した。全員がお父さんになって、ようやくデモプレイだ。まずはテニスを理解して貰う。より優しくサーブした。ついでに言葉で褒める褒める。楽しさと面白さ全開だ。メイド達が前もって用意したタオルをキャロル達に手渡した。「おお、お貴族様のタオル」「凄い、汗...昨日今日明日あさって。(伯爵)8

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)7

    その日はそれで終わった。けれどクラス委員としては終われない。至急、答えを出さねばならない。だから屋敷に戻ってから考えた。手持ちの人数は、一年時同様に俺を含めて十八名。予算は学校から支給されるが、寄付の受領も許されている。が、こちらは平民なので、そう多くは望めない。その上で出来るのは・・・。貴族なら従者も勘定に入れられるが、うちのクラスは俺以外は平民、望むべきもない。現状、人数も予算も圧倒的に足りない。大道具や小道具も考慮すると演劇や剣劇は無理、料理屋や喫茶店等も最優秀賞には一捻り二捻りが必要。そうなると・・・。別の・・・、斬新な・・・、企画は・・・。あっ、前世の学校祭ではクラス対抗球技大会があった。バレーバール、バスケット。そうだ、サッカーにしよう。用具はボールとシューズ、・・・ゴールは、斬新に、バスケッ...昨日今日明日あさって。(伯爵)7

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)6

    久しぶりに寝坊した。昨日の疲れを実感した。色々あった。邪龍の落とし物探し、ギターを披露、株主会の説明、そして陞爵の予定。一年を一日で済まし終えた感じたがした。半身を起こして伸びをした。幸い、メイドが部屋に突入して来るよりも先に目覚めた。何時もの様にベッドの上でストレッチ。じっくり身体をほぐす。特に関節辺りを丹念に行う。身体がじんわり温まった。次は魔力の操作。丹田を温め、錬成。それを糸を伸ばす様にして、身体全体にゆっくり張り巡らせる。これはこれで身体が温まる。そして何時もの様に願いを込めた。まず「無病息災」、そして「千吉万来」。暫くして気付いた。微かに空気が揺れていた。それで窓を見た。完全に閉められていない。深夜にアリスが戻って来たのだろう。天井を見回した。左隅に見つけた。大きな繭が垂れ下がっていた。脳筋妖...昨日今日明日あさって。(伯爵)6

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)5

    事業計画書と聞いて頭を抱えるシンシア達三人。まあ、そうだろう。そこまでは国軍も教えていないだろう。そこで俺は懇切丁寧にその書式を説明した。聞き終えた三人の感想が凄い。「まるで軍事演習の工程表ね」「行軍や陣地構築も参考になるわね」「そう言われると、糧秣管理や賦役の扱いもね」国軍を舐めていた。類似する書式が存在していた。考えてみると確かにそうだ。軍と商い、お題目は違っても、最終的には数字で語るもの。でないと仕事にならない。終了したところ、ベティ様に呼ばれた。「佐藤子爵、こちらへいらっしゃい」公式の名称で呼ばれた。何か・・・。ベティ様はイヴ様を膝に抱いて、俺を見て笑みを浮かべておられた。嫌な予感、でも無視できない。演技スキル全開で対応した。「はい、ただ今」歩を進めた。ベティ様はソファーなので、位置が低い。俺はそ...昨日今日明日あさって。(伯爵)5

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)4

    まず皆の不安を取り除かなければならない。はあ、まあ、そうだよね。俺は子爵ではあるが、金銭感覚は村人のまま。それに子供だし。為に現状、予算に関する裁量権はない。領地については完全に代官・カールに丸投げ。屋敷は執事・ダンカンやメイド長・バーバラ、ウィリアム小隊長、この三人を含めた四人での合議制。出納帳簿等には部外者であるポール細川子爵も目を通す。今は、大人達が俺を手厚く守ってくれているのは周知の史実。ありがとう。ベティ様や侍従侍女等も居合わせていたので、誰にも分る様に口にした。「まず基本は平等です。均等に頭割りにします。でもそれだと冒険ができない。そこで総額の半額を頭割りにします。それぞれの口座に降り込みます。残り半額で冒険します。その冒険とは、商売です」答えに、一人を除いた全員が押し黙った。特に仲間達はそれ...昨日今日明日あさって。(伯爵)4

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)3

    終えると大拍手。さっきより拍手の圧が凄い。それで気付いた。慌てて圧の厚い方を振り返った。フロア入り口に人溜りが出来ていた。先頭には笑顔の王妃・ベティ様。隣には同じく笑顔のポール細川子爵。供回りの侍従侍女達も笑顔で拍手をしていた。そしてその背後には隣室に移動した面々。カトリーヌ明石少佐やシンシア達。近衛と国軍の魔導師にそれぞれの副官。ベティ様が歩み寄って来られた。「もう一曲お願い」これは断れない。音楽の教科書でお馴染みの曲にした。デュオ『かぼす』の曲で『栄光への駆け足』。勿論、直訳の英語で。スキルの影響か、余裕で弾いて歌えた。意味は分からない筈なのに、終えると再びの大拍手。歌唱もサウンドの一つとして捉えられているのだろう。絶対にそうだ。俺も前世では、児童の頃から洋楽一般が好きだった。英語なので何を歌っている...昨日今日明日あさって。(伯爵)3

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)2

    イヴ様はまだ四才。低いMPにも関わらず、スキルが生えていた。土魔法。それも大地魔法に進化する可能性を秘めたもの。そのイヴ様が意識してかどうかは知らないが、ピアノに魔力を染み込ませていた。土魔法は土だけでなく、草木とも相性が良い。木製品のピアノは当然、イヴ様の魔力を受け入れた。全く反発しない。運指どうのこうのではなく、弾き手の意志に寄り添う気配が感じ取れた。そしてそれが音色に表れた。結果、イヴ様のスキルにピアノが加わった。ピアノ教師が言う。「それですよ、それ。イヴ様、ピアノと友達になれましたよ」やはり運指だけでなく、土魔法によるピアノへの干渉も教えていた。自分の風魔法の経験を応用したとはいえ大したものだ。物の見事にスキルに昇華させたのだから。「ほんとうに友達になれたのね」「そうですよ。お疲れ様でした。お茶に...昨日今日明日あさって。(伯爵)2

  • 昨日今日明日あさって。(伯爵)1

    それぞれがステータスの開示に手間取った。それでも一人も諦めずに挑む。まずボニーの表情が変化した。「取得していますお嬢様」「よかったわねボニー」そしてシェリルにマーリン、モニカ、キャロルと喜びを爆発させた。あまりの喜び様に周囲の注目を浴びてしまった。疑問を持ったのか、複数の者達がこちらへ足を延ばす。なんて欲深い。まあ、人の事は言えない。問題はクリアされつつある。アリスが奮闘し、鱗や血液の回収に走り回っているからだ。アリスは本来の透明化に加えて光体をも利用しているで、魔力の漏れもない。その姿はランクやレベルの低い者に見る事は叶わない。この速度なら、直に終了する。彼等は何も手に出来ない筈だ。俺達は待機してる馬車の所へ戻った。そこで入手した物の処理に付いて話し合った。「これは冒険者ギルドや商人ギルドでは買い取りは...昨日今日明日あさって。(伯爵)1

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)287

    クランクリンの後続はない。他は、・・・何も引っ掛からない。昨夜の邪龍の影響で、行動を控えているのかも知れない。暇なので俺は仲間達を鑑定した。マジックバッグの中身までは分からないが、スキルは見られる。やはりだ。シンシア、ルース、シビルの大人組に探知が生えていた。三人共、元々が魔法使いなので、取得が容易だったのだろう。あっ、ボニーも生えた。探知を取得した。これは、・・・邪龍の鱗に残る魔力のお陰だろう。彼女の探知の真似事に残滓魔力が反応したので、真似事が真似事では終わらず、スキルに昇華した、そう理解した。俺は探知に注力した。鱗の破片を探した。ああ、当初の半分になっていた。消えたのは彼女達のマジックバッグの中か。皆の新たなスキル取得のどさくさに紛れて、俺の偽装ステータスも上昇させておこう。少しだけなら問題ないだろ...昨日今日明日あさって。(大乱)287

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)286

    湿地帯の手前で降車した。馭者や警護の者達はここまで。ここから先は冒険者としての活動になる。パーティとして行動せねばならない。俺は号令を掛けた。「行くよ、隊列組んで」今日は俺が先頭に立った。探知と鑑定を重ね掛けした。幸いここらは棚ぼた狙いの者達は少ない。見掛けても湿地帯に踏み込まず、目視で辺りを探し回っていた。それで見つかるとは思わないのだが、水辺を好むクランクリンや、フロッグレイドの上陸を警戒を考えると、それも正しいのかも知れない。俺は昨夜、邪龍がのたうち回った現場を探し当てた。酷く荒れていた。粘度をこねくり回した感じで、うねうねと地肌が露わになった箇所が多い。濡れずに歩くのは困難だ。下手すれば足を取られて沈む可能性、無きにしも非ず。足下に目を配って探すしかない。アリスとハッピーが後始末した筈だが、細かい...昨日今日明日あさって。(大乱)286

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)285

    俺は喜んでいる二人に声を掛けた。『その前に自分のステータスの確認。新しい称号が付いてる。邪龍の討伐者なんだそうだ』単純な二人はステータスを喜んだ。『邪龍の討伐者か、凄いわね』『パー、みんなに自慢する』俺は水を差した。『他にも邪龍はいる筈だ。それに称号を見られたら確実に狙われる。仲間の敵討ちだと、違うかい』『平気平気、返り討ちよ』『ピー、ひーひー言わしちゃる』釘を刺した。『次も三人で討伐できるとは限らないだろう。もしかして、強い奴に出遭うかも知れない』二人は顔を見合わせた。『ステータスを偽装するわ』『プー、偽装偽装』俺はもう一つ注意した。『部位や魔卵に邪龍の残滓があるのも拙い。どこでどう目に付くか分からない。だからクリーンを徹底する、これも良いね』『ダンジョンに居残っている妖精達を動員するわ』『ペー、ダンジ...昨日今日明日あさって。(大乱)285

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)284

    ドラゴンが顎を大きく上げ、空に向かって何度も激しく咆哮した。吼えている様にも聞こえるが、実態は泣き叫ぶに近い。そのせいで喉元が、がら空きになった。チャンス、好機到来。俺は方向を修正した。狙うは喉元。重力スキルを全開にした。ついでに風魔法を重ね掛け。突撃。構える槍は光魔法が施された逸品、当然ダンジョン産、神話級。ドラゴンの視線が俺を捉えた。これまでとは違い、感情を露わにした目色。俺の読み違いだろうか、増悪にしか見えない。まあ、そうかも知れない。ドラゴンが口を大きく開けた。外の空気と一緒に魔素等を取り込む吸気。それらを体内に貯蔵していた物等と共に錬金して変換。仕上げた物を排出する、排気、ブレス。俺はそう理解していた。しかし、目の前のドラゴンの行為はそうではなかった。前段階の吸気をしていない。となると、悪足掻き...昨日今日明日あさって。(大乱)284

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)283

    アリスとハッピーが全力でドラゴンを攻撃した。狙いは過たない。破壊した鱗の隣の鱗を執拗に射た。外皮から鱗を削いで行く。手間は掛かるが、他に選択肢はない。ドラゴンは耐えた。誰が真の強敵か、見定めたからだ。人間を葬ってから小煩い羽虫二匹を潰す、そう決めた。だから鱗の十枚や二十枚、くれてやろう。全て終えてから生え揃うのを待てば良いだけのこと。俺はドラゴンのブレスがどのくらい続くのか計り兼ねた。何しろ初体験。痛いのは嫌、勘弁して。優しくして。俺は再び鑑定した。さっきは読めなかったが、今回は一部が露わになった。名無し。邪龍。HP残量、894。EP残量、752。やはり邪龍だった。道理で目の敵にされる訳だ。でも、そこは良い。問題はHPとEPの残量だ。もしかして、一部だけだが、鑑定が機能したのは四桁を切ったからか。たぶん・...昨日今日明日あさって。(大乱)283

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)282

    骨折の補修は鉄製品の補修も似た様なもの。手早く済ませた。念の為にダンジョン産のHP、MP回復ポーションの二つを飲んだ。うっ、不味い。次も不味い。それでも直ぐに戦闘に復帰せねばならない。その際に支障が出たのでは困る。術後の確認をした。先程と同様に全身に魔力を巡らせた。接続不具合箇所がないか探した。なし、経過良好。巨椋湖の主であるフロッグレイドが多数、ドラゴンを恐れて湖底に避難していた。そのうちの三頭が俺の近くにもいた。捕食に熱心な彼等であるが、彼等は俺には気付かない。俺が光体で結界を構築してその中にいるからだ。俺の今は言わば、光学迷彩を施された状態。魔力が外部に漏れない様に細心の注意を払っているので、見破られる事はない。俺は湖底の水の動きを読んだ。ゆったりした流れがあった。どこかの川から流れ込む水がその源な...昨日今日明日あさって。(大乱)282

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)281

    それは高々度から、高速で急降下して来た。そしてある程度の高さになると、急激に速度を落した。それでも衝撃波だけはどうしようもない。当人とは無関係に、巨椋湖を襲う。表層を暴力的に圧す。激音と共に、無数の水柱が上がった。耐え切れなかった物達が、水面に大量に浮かび上がった。腹部を月光に晒す。周辺の草木もそう。樹齢とは無関係に、抵抗できぬ木々は圧し折れ、千切れた草や枝葉が夢幻の様に舞い散る。それの姿が露わになった。ドラゴン。20メートルを軽く超える奴。それでも30はないと思う。そいつが俺を睨む。鼻で笑う気配。俺のみではないと感じている様で、視線を左右に走らせた。見つけられないのか、首も動かした。執拗に、四方八方に視線を巡らせる始末。体躯に似ず、神経質なドラゴン。俺はそんなドラゴンは嫌いだ。もっと堂々としろ。俺とドラ...昨日今日明日あさって。(大乱)281

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)280

    カトリーヌ明石との面会を終えた深夜、アリスとハッピーが訪れた。『ジイラール教団の半数ほどが逃走したわ』『パー、それ追跡したっんちゃー』『どこへ逃げたんだ。他所にもアジトを持っているのか』『連中が逃げながら話していたわ。若狭の先、北の山岳地帯に修業道場を構えているみたいね』『ピー、だから妖精達が尾行してるっぺー』逃れた教団員は、目立たぬ様に行商人や冒険者として個々に、もしくは少数のキャラバンで修業道場に向かっているそうだ。説明したアリスが本題に入った。『そういう訳で、私達でその道場を潰すわよ』どんな訳があるというのだ。さっぱり分からない。流石は筋脳妖精。自己完結で突き進む。ある意味、羨ましい。でも俺は二人を眷属にしている身。聞かねばならない。『もしかして、皆殺し』『当然よ』『プー、僕達の木曽に喧嘩売った。だ...昨日今日明日あさって。(大乱)280

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)279

    その夜、得意満面のアリスとハッピーが現れた。『どうよ、仕事をして来たわよ。街で噂になってるでしょう。掻っ攫って、掻っ攫って、空にしたわよ』『パー、僕も掻っ攫ったよー』俺は冷静に対応した。『ペイン商会とハニー商会は分る。けど、他の店は、・・・聞いてないんだよね』『捜査の手を逃れる為の目眩ましよ。伯爵とは無関係の貸金業者を追加したわ。これで犯人を絞り切るのは無理になったわ、そう思わない』『ピー、完全犯罪だっぺ』アリスの仲間の入れ知恵、それが正解だろう。まあ良いか、脳筋妖精を補佐してくれるとは実に心強い。『その四つの商会だけど、襲うだけの理由があったんだよね』『当然よ。カジノと裏で繋がってる悪徳貸金業者よ。十分な理由でしょう』『プー、ぷんぷんだっぺー』俺はもう一つの大事な事を尋ねた。『ジイラール教団の名前が出て...昨日今日明日あさって。(大乱)279

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)278

    明らかにアリスの失敗だが、責めるのは無駄。何しろアリスは脳筋妖精。注意しても、その場で直ぐに忘れる。『アリス、余り騒ぎは起こさないでくれよ』『わかってるわよ、フン』『ポー、開き直った、直った』アリスがハッピーを一睨み。『ダンジョンに送り帰すわよ』『パー、怖い怖い、怖いよアリスン』俺はアリスの注意をこちらに向けた。『それでアリス、教団の連中はどうしてる』『教会を補修しているわ』『引っ越す予定はなしか、そうなんだよね』『当然でしょう。騒ぎが起きただけで、奉行所の手入れじゃないんだから』俺は現状を事細かく説明した。伯爵が発見された一件に、それに対する王宮の動きを絡めた。アリスの暴走癖を抑える意味合いもあった訳だが。ところが、聞き終えたアリスが開口一番。『は~、ダンのやり方は生温いもんね。あそこで始末すれば良かっ...昨日今日明日あさって。(大乱)278

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)277

    この場合、俺が取るべき最善手は。忖度、だよね。領地から届けられた竹筒を王妃・ベティ様に差し出した。至極当然の様に受け取る王妃様。遠慮もしないけど、傲慢でもない。「ダンタルニャン、先に読ませて貰うわね」感謝の目色。封を切ると、中から書状を抜き取った。広げて目を走らせた。無表情を貫くが、目色は違う。驚きと呆れの二重奏。再読を終えると空になった竹筒と書状を俺に戻した。「ありがとう」俺は竹筒を執事・ダンカンに渡し、書状を読んだ。カールらしい書き方だ。丁寧かつ無駄がない。読み進めながら脳内で要約した。伯爵軍は全軍撤退した。その理由は不明。領内を隈なく調べて、被害を確認した。こちらの被害は軽微なもの。土魔法使いと領民で復旧できる。だから、心配無用。子爵様は学業に励んで欲しい。念の為、領内を巡回させていた隊が伯爵らしき...昨日今日明日あさって。(大乱)277

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)276

    俺は興味から馬車の中のブライアンを鑑定した。そのスキルに驚いた。騎士爵。ランク、C。HP、110。MP、80。スキル、剣士☆☆☆、縫製☆☆☆。ブライアン明智は細川子爵家に代々仕える執事家に生まれた。文官仕事は当然ながら、武官として剣士スキルを活かし、文武両道で子爵家を支えていた。それが縫製スキル持ちだというのだ。まさしく便利使いが出来る人材だ。流石はスキル持ち。それほど時間はかからなかった。明るい顔でブライアンが馬車から降りて来た。バックパックを恭しく俺に差し出した。「どうでしょうか」俺の持ち物だから検分は当然だろう。王妃様を差し置いて改めた。強度も剛性も問題ない。否、それ以上だ。足された革と布はブライアン手持ちの部材なのだろう。それが上手く組み合わされていた。バックパックが優しい背負子に、ベビーキャリア...昨日今日明日あさって。(大乱)276

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)275

    カトリーヌ明石少佐が俺の案内に立った。「どうぞこちらへ」ここは俺の屋敷なんだけど。その言葉を飲み込んで、案内された。馬車寄せの奥の庭で、それが展開されていた。主役はイヴ様とチョンボ。四才の幼女が両手を大きく振り回し、叫ぶ。「のせなさい、あたしをのせなさい」対してチョンボが両の羽根で幼女を扇ぎ、笑う。「グーチョキチョキ、グーチョキチョキ」何故か、不毛な会話が成立している様に見えた。そんな一人と一羽の周りを大人達が囲み、ジッと見守っていた。俺に気付いたイライザが急ぎ足で寄って来た。「子爵様、どういたしましょう」「何が、どうしたの」「王妃様とイヴ様が突然いらっしゃいました。そしてチョンボを見せろと・・・。で、今はイヴ様がああして、チョンボと話してらっしゃいます」用件はチョンボであったらしい。王妃様は大きなパラソ...昨日今日明日あさって。(大乱)275

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)274

    イライザの説明で状況が理解できた。チョンボは相変わらずのアホウドリらしい。手間がかかる奴だ。ここは演技スキル。それでもって言葉に威圧を込めるイメージ。おおー、快い。チュンボに言葉を飛ばした。「チョンボ、焼き鳥にされたいのか」するとチョンボが動きを止めた。人の言葉が分かるようになったのかな、チョンボの奴。まあ、効果覿面てことで。チョンボが不安な表情で俺を見た。それからその場で右往左往、動きが定まらない。見兼ねたのか、イライザからチョンボに向けて魔力が発せられた。念話だろう。途端、チョンボの動きが止まった。俺とイライザを見比べた。判断した。小走りでイラザノの背後に隠れた・・・、当人は隠れたつもりなのだろう。生憎、チョンボの方が身体が大きい。顔だけ隠し、大枠がはみ出ていた。俺はイライザに竹筒を示した。「読ませて...昨日今日明日あさって。(大乱)274

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)273

    俺は喰い付いた二人に注意した。「貴族なら何でも良い訳じゃない。お勧めは野良のお貴族様だ」クラークが即座に反応した。「なら野良にするか」野良のお貴族様。それは爵位持ちだが、領地を持たずに市井で暮らす者達を指す。それが割と多い。国都には掃いて捨てる程いる。特に退役軍人にその傾向が見られる。将官経験者は子爵位を、佐官尉官経験者は男爵位を、それぞれ退役時に授けられる。のだが、屋敷や領地はその限りではない。それは自ら手当てする物。退職金と貯蓄を切り崩して得る物。そこで最も手っ取り早いのは自ら人を集め、何処かの寄親伯爵の許可を得て村を開拓し、そして領主に収まる。領地を持つという事は、次の世代への爵位継承を意味する。野良の場合は継ぐべき領地がないので、一代限りとなる。それでも野良で構わないと思っている者達が一定数いた。...昨日今日明日あさって。(大乱)273

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)272

    クラークは俺の言葉に応じない。ジッと酒瓶を見ていたが、やおら身体を持ち上げた。何やら小さく呟きながら、部屋の片隅の流しに歩み寄った。棚からグラスを取り出した。酒瓶の封を切った。慎重な手並みでグラスに酒をちょっと注いだ。目と鼻が・・・、魔力を集中しているようだ。注がれる酒の色を検分するように観察し、匂いを嗅ぐ仕草。俺とサンチョは黙ってそれを見ていた。クラークの性格は理解してが、今回はそれにも増して・・・、怪しい。一体なにを・・・、偏屈だけでは飽き足りずに、偏執にラクンアップか。「美味い、絶品だ」軽く一口飲んだクラークが発した言葉がこれ。それから嬉しそうな顔でグラスをかざし、残りを味わいながら、一口、二口、三口、ついに飲み干した。空にしたグラスを俺に向けた。「この酒はダンジョン産か、だよな」滅多に出ないから「...昨日今日明日あさって。(大乱)272

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)271

    下校する頃合いになってから空気が変わった。まず教師達、その多くが厳しい表情になった。送迎の馬車の馭者達も一様に表情が暗い。顔見知りの者を見つけると歩み寄り、情報交換を行っていた。その点は、腐ってもお貴族様の使用人、感心した。門で執事・ダンカンとウィリアムが待ち構えていた。この二人の顔色にも出ていた。異常事態出来。俺は素知らぬ振りで尋ねた。「どうしたの、二人とも顔が怖いよ」ダンカンが応じた。「拙い事態になりました。美濃の寄親伯爵様が挙兵しました」それが俺の演技開始の合図になった。ダンカンとウィリアムを交互に見た。「何を言ってるんだ」「アレックス斎藤伯爵が寄子貴族を招集して、岐阜近郊の国軍駐屯地を襲いました。伯爵軍は国軍を壊滅させた後、東へ向かったそうです」俺は目を大きく開けた。「東は・・・、木曽ではないか」...昨日今日明日あさって。(大乱)271

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)270

    俺は二人を呼んでから気付いた。伯爵に装着した【奴隷の首輪】を忘れていた。あれは滅多に出回らないダンジョン産。なので残して置くのは拙い。直ちに術式を解除し、風魔法で回収した。アリスとハッピーが来た。『伯爵はどうするの』『ペー、ペ~だ』『ここなら【魔物忌避】の術式で守られてるから大丈夫。たぶん、通り掛かった誰かが助けてくれる』伯爵のHPの減り具合は忘れよう。俺達は領都・ブルンムーンに取って返した。スタンピードを誘導する連中を探さねばならない。集まった魔物達を氷雨と冷風で解散させたので、暴走は起こり様がない。けれど、企んだ者達はそれを知らない。今もどこかで虎視眈々と機会を窺っているはず。広い範囲を探知スキルで探し回った。思いの外、早く見つけた。彼等は伯爵軍の後方で夜営していた。誘い出された魔物達が伯爵軍を襲うと想定し...昨日今日明日あさって。(大乱)270

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)269

    クリトリー・ハニーが伯爵に人払いを願った。初対面の貴族を相手に堂々としていた。飲むしかなかった。執事一人を残して下がらせた。クリトリーが満足そうに頷き、はっきり言った。「支払い期限は一ヶ月後がなります。その点、ご承知おき下さい」伯爵は承服できなかった。「この金額を一ヶ月で揃えろと言うのか。どう考えても無理だろう」「でしたら、国都の侯爵様にお願いに上がりますか」伯爵の実父は侯爵として評定衆に名を連ねていた。「なにを・・・、ワシの許可なく勝手に会うと言うのか」「当然でございましょう。金額が金額ですので」「ふざけるな、貴様、何様だ。ワシを虚仮にするのか。これでも伯爵だ。人は幾らでもいる。店に送り込んでやろうか」暗に商売を潰すと示唆した。するとクリトリーが笑顔で返した。「それは面白い。潰せるものなら、潰してごらんなさい...昨日今日明日あさって。(大乱)269

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)268

    全裸伯爵は慌てて起き上がった。姿の見えない俺を探しあぐね、斜め上に向けて怒った。「どこだ、姿が見えないぞ」へっぴり腰の気概を見せられても困る。それでも命令に従ったので【奴隷の首輪】に施された術式が停止した。怒鳴ったからか、奴は大いに咳込む。鎌鼬の傷口も痛々しい。僕は弱い者虐めは嫌いだ。鎌鼬で傷付いた奴の身体を治療してやろう。まず光魔法のクリーン。傷口を洗う。しかる後、治癒魔法のヒール。傷を治す。でもHPの回復は行わない。弱ったままにして置いた。奴は戸惑った。魔法もだが、俺の行いが理解できないらしい。自身の身体を見回しながら、さかんに視線を巡らし、俺を探す。俺は風魔法を纏い、移動しながら脅した。「同僚の亡霊達が知りたがっている。何故、我等の駐屯地を襲った。全員が納得できるように答えろ」「邪魔だったからだ」【奴隷の...昨日今日明日あさって。(大乱)268

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)267

    俺はアリスとハッピーに伯爵誘拐の手順を説明した。聞いた二人はあくどい表情をした。『それ良いわね』『ポー、良いかも良いかも』俺は虚空からダンジョン産の【奴隷の首輪】を取り出した。それを風魔法でもって操り、伯爵に装着した。首元が冷たい筈なのだが、目を覚ます気配がない。俺は奴に光体を纏わせ、光学迷彩を施した。奴を透明化して上空に転移させた。アリスから返事が来た。『汚い、汚い、汚物。でも捕獲、捕獲、これで良いのよね』『パー、汚物お陀仏』気持ちは分かる、何故なら、伯爵と言えども、おっさん。それも裸体。全裸伯爵を見て嬉しい訳がない。俺も上空に転移した。アリスとハッピーの方を見た。二人は魔物・コールビーの、エビスゼロとエビス一号の三対六歩足で、全裸伯爵を捕獲していた。上半身をアリス、下半身をハッピー。幸い光体が緩衝材の役割を...昨日今日明日あさって。(大乱)267

  • 昨日今日明日あさって。(大乱)266

    ☆俺達は短時間で領都・ブルンムーンの上空に辿り着いた。星明りに紛れて、下界を見遣った。アリスが呻いた。『東側に魔物達が列を成しているわよ』ハッピーも同意した。『ポー、魔物だらけだっペー』俺は探知と鑑定を重ね掛けして、全容を調べた。いるわ、いるわ、東門に隣接する森に、弱いのから強いのまで。普段は遭遇するなり衝突に発展するのに、今はそれがない。互いに距離を置き、人の争いを注視していた。何かの切っ掛け一つで動き出すかも知れない。代官のカール達を見つけた。副官のイライザや複数の領兵を従えて、外壁の上から森を窺っていた。魔物が集まっているのに気付いたのだろう。どうする、カール。ここを守り抜く手段はあるのか。イライザがカールに何事か囁く。頷くカール。仲が良いことで。俺は視線を魔物達へ転じた。奴等を屠るのは簡単だ。範囲攻撃、...昨日今日明日あさって。(大乱)266

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