十。お山に封じられてもの」上妻剛史はなぜ尸解仙を残すことができたのか?どんな意味があるのか?なぜ今なのか?様々な」疑問が渦巻いている。少し痴呆症の面影を残しながら弓指公代さんはある種の記憶はありありと思い出すようだった。「上妻?あの地蔵購の口寄せのことかいね。きれいな人だったなぁ。地蔵講もそりゃあ人気だったなぁ。わしも顔を出したことがあるが、差しさわりの無い話ばかりじゃった。あの人の容姿が人を集め...
言葉で描くみえないこころ。 縦横高さ、時間軸、いつか 見えてくるでしょうか? 拙いながらの一綴り、ジャンルは絵のように…詩や小説の創作物を載せています。 どうぞお気軽にお立ち寄りください。
「あなたは悪い妖精かなにか?もう目を閉じるから帰りなさい!」冷静さをよそおいながらも、少し震える声で伽奈子は夢に命じた。しかし巧が消えることはなかった。巧はいつも目の前にいた。第一のハードルは母だったが、それはハードルでもなかった。母には見えないのだ。見えないばかりではなく、巧の声が聞こえてもいないようである。この現実を受け入れるとしても、伽奈子にとってはやはり夢であり、他者にしたらあきらかに非...
するりと伸びたヤマボウシ梢に群がる白蝶の花庭に下りたらParsleyを摘んで香るMintも二三枚頭上の空は突き抜けて山稜に白雲の踊る午後に「Lost And Found」の響きに浸りフライパン片手にキッチンに立ったきっと今日は明日に生きて昨日の弱音を取り払う明日の疲れを慰める光と水と大地の命をそっともらった緑の手からもっと大きなものをもらったから赤く色づくユスラ梅プリムローズの薄紅の花樫の木陰でBerryを摘んでついでにPeri...
瞳のヘーゼルの太陽を覗いていると、向こうの世界が見えるような気がする。横たわる萌黄色の地面から青緑の空が見える。かさかさと冬枯れから目覚めた新葉が風に揺れるのが見える。春が来たかのように冬枯れの木々が変わったのも、多分巧がいるから、巧が見ている世界だからだ。伽奈子は自分の左目に親し気に語りかけた。「そっちはネバーランドのような世界なの?」草原だけじゃない、きっと山も海も島もある。萌黄色の絨毯が広...
ふたいろの惑星 一、Star Eyes(虹彩異色症の瞳) ー5
伽奈子が左目に名前をつけようと思ったのは夢のせいである。筋書きのない、場所もわからぬところに伽奈子はぽつんと一人でいる。大勢の人間?が辺りにたむろしているようだが、ときおり大勢の中の一人が伽奈子の前に来る。あるいは前を通り過ぎる。姿はあるがぼんやりとしている。顔の判別もつかないありさまで、一様にぼやけ闇に消されていく。何度目のことだろう。夢の中の誰かが話しかけてきた。どこから話しかけてくるのかは...
愚かに若きことをぼくは恥じたが要らぬ知識で動きの取れぬ老獪さも遠ざけたい肉体につながれた欲求に踊らされることもまたぼくに必要なのは澄んだ大気細く長い一呼吸がずっと続きぼくの中の何かが空へと抜けて行くその軽やかさ愛は共振の中にあった遠くにあるあなたへの愛は目覚めへの警句内なる春を謳歌するために魂の緯度は太陽に顔を向ける「何故太陽に・・とお前は聞くだろう私は答える内なる諸元素にそれは隠されている とそ...
ふたいろの惑星 一、Star Eyes(虹彩異色症の瞳) ー4
ヒルダ夫人こと緒方佐知枝さんは、伽奈子がイメージしている占い師とは似つかわしくない容姿で降りて来た。まず丸い眼鏡をかけている。まあそんな占い師もいるだろうけど。中背中肉でふくよかな顔立ちをしている。服装はシックなパープル色が強いワインド・アップ。服はどちらかといえば占い師に近い。ただその服の色をあでやかに際立たせるともいうべき貴金属類にいたっては、真珠のネックレス以外何も身に着けておらず、イヤリ...
ふたいろの惑星 一、Star Eyes(虹彩異色症の瞳) ー3
初夏もいよいよ色を濃くしていったある日。伽奈子が学校帰りの坂の途中で立ち止まり、ふかぶかと深呼吸をはじめかけた時のこと。ほら見える…と左目に語り始めたそのとき。「かなちゃん。今日もまっすぐ帰るの」と突然話しかけられた。胸でつぶやいた言葉にもかかわらず、話しかけられたことに驚いてごくりと言葉をのみこんだ。伽奈子が後ろを振り向くと同じクラスの宮瀬晴海(みやせはるみ)が立っている。「知ってる?占いの舘...
きょうの遊びももうすこし釣瓶落としに日は暮れて星の冴える幕間に命も忘れて影と消え家路を急いだ子供等はさらなる夢を見るだろか夢にふたたび遊ぶのか昨日の道は山向こう明日の道は海向こうぼくは道から逸れたのかぼくの遊びは過ぎたのか月ほど知らず風ほど語らず灯台は暗黒の海を照らしている気持ちはなぜを探している夢の遊びはまだ遠く波間に踊る一葉の船は座礁の岩で風を待つ痛さを恐れ弱さに惑う故郷仰いだ空と海はぼくに憧...
ふたいろの惑星 一、Star Eyes(虹彩異色症の瞳) ー2
伽奈子が居心地の悪さを感じるようになったのは、左目の疼きを覚えてからのことである。これまでと変わらぬものが見えながら、しかし、フレームが一枚追加されたような、カラコンが熱を帯びたような、奇妙な違和感。「カナ。左目充血してるよ。大丈夫?」そうクラスメイトにいわれ出してから時々鏡をのぞくようになった。鏡の中で目は確かに赤い。カラコンが浮いたような、あるいは二重になったような感覚。とにかく、目に乾きと...
ふたいろの惑星 一、Star Eyes(虹彩異色症の瞳) ー1
これは左右の目の色が異なる虹彩異色症の少女、伽奈子のお話。ある日、レイリー散乱を放つ左目から伽奈子の分身がやってくる。分身は惑星から来たというが、なんのために現れたのか?父を事故で亡くした伽奈子はどうするのか? わたしは自分の左目が好き!伽奈子は鏡を覗くたびにそう言う。しかし…幼い頃だと少し違う。鏡を覗くたびに目をそらした。周りの子供たちからはストレートな差別言葉を何度も投げかけられてきた。たとえ...
ある日この心を脱ぎ捨ててぼくはきみのことに心を砕くだろうきみの生の一欠けら一欠けらがぼくに反映しきみの頼りなげな表情も泣き顔もくいしばる意地もきっとこの世界に溶け込み不可思議な親和力に守られて本来の笑顔を取り戻すことをぼくは知っているあるがままにぼくは不安に根を下ろし微かな知恵を養分として枝を張る切られても切られても贈る詩を心に秘めて生い茂るぼくはいまだ小さな樫の樹きみの背丈をこえて傘のようにひと...
とてもおおきな陽だまりの中に大好きな町はあって日陰になった公園のベンチにぼくはいるさわやかでどこか優しい風が枝を揺らし建物のすきまをぬって吹いてくるするとそのかくれた冷たさにぼくはおどろき日当たりを見上げ、ふときみを思う優しさはときにとてもさびしくなる優しいきみをみているととても悲しくなるなぜだろうと考えながら空を見上げる日々高くおおきくなる町を見上げていつか空が小さくなってしまうのではないかと心...
笑っているひとときの叫んでいる一瞬のこの内なる悲しさを誰が知るだろう僕のいない町は今日も動き君のいない道に夏草は繁る曲がり角にはいつも唐突に雨が降る立ち止まった交差点の空は青く透き通り 透き通り 現実は今を後にする残っていたのは粉塵のような散らけた思い出と後悔たち琥珀の映像の陽だまり光は主に祈る永久に届かない今を捧げて耳を澄ますひとときの歌っている一瞬の密やかな大気の振動を誰が知るだろう大気に隠れ...
カルナッキスのカーブを速度五十マイルで突っ切ればあとはゆるやかなムーン・ロード南十字星に向ってまっすぐにプラターヌ・ストリートは延びているペリエは二本足で踏ん張って戦士の像を見上げたマーブルの戦士の指は北剣は東のプロポジション(命題)アキシオム(公理)の公道は工事中ですスター・ブレードの流れる空の下そそり立つスカイタワーのイルミネーションクレイのビルは造成中レンジのビルは加熱中デルタに広がるシティ...
君は僕からはなれ僕は昨日からはなれ昨日は明日からはなれる留め置くことが叶わぬ大きな過程(プロセス)が静かな嵐のように吹き荒れる心がいくら追いかけようと新しい時間が波のようにすべてを洗い流す誕生する輝く存在と時間過ぎて行く褪せた存在と時間僕の心を動揺させる矛盾時と場所の不思議君と僕の不思議この場所で、この時に僕らは語り合い今を作り出すそして離れていく時と場所嬉しかったよ! 楽しかったよ!でもそれ以上に...
降りたプラットフォームから見ていたものあれはただの町の灯りであったろうか?夕空に瞬いた星あれは一番星ではなかったろうか?希望の町に彷徨って人の間に彷徨って 愛にも傷つく探し回ったもの走り回った地図求めぬいたマボロシ胸に輝いていた星あれはただの思い過ごしであったろうか?あの遠い道程は昼と夜の道程は誰が僕に教えられるだろう情熱を隠したもの それは不条理偏見に冷え 矛盾に燻ぶる消えても 過ぎても憤りは自...
君の軌跡はもう過ぎたことさよなら言葉 君の言葉は雲となりさよなら心臓 君の時はせっかちな短針手と足は 時空に溶けた空間のデザインおつかれさまでした ほんとうに夢のようでした胸のエンジンがうなりを上げ足は行きたいところへ向かい手は取りたいものを取り汽笛代わりに言葉を蒸気する航路には文字を走らせるそんな日々に…サヨウナラ君の思いは飛散してさよなら今日 君の時空の一点を閉じて さよなら記憶 もう不具合な...
白く流れる虚無の河僕はどうして渡りましょう?形而上学をひも解いて素足で奇跡を起こしましょうか!赤く流れる因果の河僕はどうして渡りましょう?無心に血などを投げうって遺伝子(ひも)の結びを改めましょうか!青く輝く高熱の星は塵も影も光となって十方金剛 闇を照らして弥勒のように微笑むのでしょうか?ふねにおちたこがねのほしはくだけてさきんもきらきららしぶきをあげたマーメイドくものすせいざにみせられてさきんをま...
降りしきる雨の音がきこえる空へ昇る雨の子供たちが見える旅する雲の音が ささやく 伝える頓頓頓 品品品 比喩ン比喩ン 弾く 跳ねる 飛ぶ 連弾の調べよきみのこころを吹き抜ける風の音がきこえる鳴るきみの願いが きこえるどんなに離れようと…どこにいようときこえている きいている誰が? 誰でも きいている きこえている地に育ち 大気を震わしたすべての遺伝子の紐の震え 距離の分割に鳴る高音域 低音域の調べた...
起きて夢見て時間は過ぎる暗い過去にさまざまに現実は海 とても広くて深いのです島影などは彼方まで見えないのですだからこの地が沈むまでここを国と呼ぶのです始めた過去がいつであれ進んだ経緯がどうであれささやかな行為が無為に勝るとは思えず人と一緒に歩いても水平線は高くなるばかり大陸も生きているのですから星座に道を問うことも必要です舟と櫂がひとつずつ足元の波を騒がせず 静かに慌てず太陽と星の道へと漕ぎ出すと...
今は遠いブルゴーニュの空に血糊に似た粘液質な雲が動きもせず浮かんでいて、それは頽廃した一日の無念の死から流れた血であろうかなどと考えていると、いつしかミズキの街路樹に差し掛かり膨らむ蕾に春の時刻が季節の九時を指している。春か!と思えばどこからかぷーんと鼻にまとわりつく洋風肉汁の香り、甘くかぐわしき香りと感じるものならそれこそワインやチーズを思い浮かべ、今日の収穫と利益を思い浮かべ、異性との目眩くソ...
1 「これが斗鬼一族の独鈷杵だ」そう言って父は日枝神社の隅にある小さな宝仏殿の中から、桐箱を取り出して開いた。中を覗くと模様の入った三日月に似た短刀らしきものが見える。「二鈷杵といって斗鬼一族に残されたものは仏教のものとは少し違う。名前は昇月鉾。上弦と下弦、二つの月が合わさる。これをお前に渡す日が来るとは思ってもいなかった。本当なら美了から手ほどきを受けて渡されるはずだったからな。だが…いや、ま...
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十。お山に封じられてもの」上妻剛史はなぜ尸解仙を残すことができたのか?どんな意味があるのか?なぜ今なのか?様々な」疑問が渦巻いている。少し痴呆症の面影を残しながら弓指公代さんはある種の記憶はありありと思い出すようだった。「上妻?あの地蔵購の口寄せのことかいね。きれいな人だったなぁ。地蔵講もそりゃあ人気だったなぁ。わしも顔を出したことがあるが、差しさわりの無い話ばかりじゃった。あの人の容姿が人を集め...
九、尸解仙になった少年 夏穂の前で地面に蠢いていた黒い影が立ち上がった。影は立ち上がって体をしならせて前後左右に動いている。死者だ。死者の群れが立ち上がった。夏穂は思った。そう思えた瞬間丹生川神社の社殿も庫裡も燃えている。また同じだ。あの時代に戻っている。振り返るといたるところで火の手が上がり燃えている・中で影が呻き叫び声を上げている。阿鼻叫喚というやつだ。どうしてみんな焼け死んでいるの?焼夷弾の...
八、丹生川神社に影が踊る その頃響鬼沢へ向かった夕夏と紗英4それに亮の三人は町から移ったお稲荷様の前にいた。「ここも響鬼沢だけど、ホントの響鬼沢ってもっと上流でしょ」「そう、川に石がごろごろあるの」「じゃあ石が響くかもね」亮が言った。「どういうこと?」「洪水の時とか大きな石が大量に転がるとかも考えられるよ」「洪水だなんて今は雨も降らないよ」「やっぱり夏穂が言ったように飛行隊の轟音かもしれない。シ...
...
六.別世界の現実は?マンションの外は別世界だった。そこは古びた昭和の町か大正の町が脈々と鎮座していた。これって何?と振り返ると現代のマンションが建っている。そのちぐはぐさ、まるで映画のセットに迷い込んだような眩暈すら覚える。そんななか夏穂突き放したミタマが道に飛び降りた瞳が不思議な光を帯びている。見上げると月も同じように輝いている。コッチと聞こえた。ミタマが発しているのか。月の光を受けながら夏穂を...
五、庚申の塔は三尸の虫を封じたか「夏穂大丈夫?こんなことされて。一体誰がしたの?」夏穂を縛っていた紐が解かれた途端に夕夏が言った。「大丈夫ですか?」と少年が訊いてくる。ああ、夕夏が「彼が従兄。比古村享」と成り行きで紹介した。「まことです」と少年は繰り返し続けてこうつぶやいた。「危害を加えるつもりはなかったようですね」「危害を加えるつもりはないって、これって十分危害だよ。覚えていることない夏穂?」紗...
四、廃校は寂れた漆喰の匂いがする 夏穂は思いついたことを整理した。すると眠れなくなって、その場所に早くいかなければと朝を迎えていた。もっとも馬鹿な考えだ。親にも内緒にしておきたかった。そっと、そしてすばやく制服に着替え部屋を出た。マンションはまだ夜でエレベータには誰も乗り込んでこなかった。気づいたのは飼っている玉藻ぐらいだった。「ミャォ」と小さな声を上げてベッドに飛び乗ってきた。夏穂は顔を近づけ静...
三…炎の魔力が夏穂を呼ぶ 不謹慎にも、夏穂は火事を待っている。火は昔から人間のたましいを惹きつけて来た。動物にしだってそうかもしれない。火を怖れるということはそういうことだ。炎には不思議な魅力がある。特に、夜の炎は別格だ。何かを呼び寄せているように夏穂には見える。たとえば何だろう?夜の闇からさまよいだして来る何かである。今の夏穂にとっては記憶だろうか。それとも郷土史の幻惑だろうか。夏穂はこれ...
二、…よもやま話がやって来た 五月に入ってからというもの、ここ水尾出市では立て続けに三件のボヤ騒ぎと一件の全焼が起きた。水曜日のプラゴミ集積所から始まったそれは、翌週火曜日になると隣町の離れた燃えるゴミ集積所へと移り、そこかすぐ近くの車庫の自転車が黒焦げになり、ついには住宅の庭で炎があがった。段ボールなどが燃えていたらしいが、町民の不安をかき立てるに十分の効果があった。いつか家に火が、と誰もが案じ...
一、火事の尻尾はおいでおいでするこの町のお稲荷様は宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)を祀ったものなのだろうか?それとも、鬼夜叉のような吒枳尼天(だきにてん)を祀ったものなのだろうか? 暮林夏穂は誰かの張り付くような視線を感じていた。でも何だろう。この視線は空から感じるのだ。下校時になると特に感じる。最初は気の迷いとも思ったが、段々と視野の外で動く影のようなものを感じるようになった。「なに?なにかい...
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十八、イカロスいつもなら、森が見える場所のはずである。それなのに何も見えない。何も見えないというよりも、何もない。あるのは一面を覆い尽くす深い霧。その霧が晩秋の早朝のように道を覆い、森を覆い、その先の山を覆っている。「すげえ。霧のミルクだ」夏分にしてはいい表現だ。「何かの舌みたい」と羽流が続いたのをきっかけに、喩えが応酬した。雲の津波とか、霧の滝とか、アイスクリーム、カキ氷。そんなのはまだ好か...
十七、境界をめざして「ここの時間はもうすぐ繰り返される。明日になるということだ。ただ同じ明日でも何かが違って進行するだろう。新しい経験則が加えられたからな。しかし時間は変わらない。そして同じことが起こる。君達は捕まり、彼らは帰った。そしてここに、我々の時間則にいない君達がやってきた。そういう意味では君達も異星人だ。いいか、ここは君達が知らないだけの記憶のひとときだ。未練を残すことはない。ここに...
十六、思考の冒険 ひどくまじめな顔でルウの話を聞き終えたレニエさんは、一気にコーヒーを飲み干した。「人間に心があるように、時間にも心がある。この地球にも心がある。そう。地球空洞説の復活だ。古代の秘儀の復活だ。造物主デーミウルゴスはいつも失敗する。悪魔に転じた大天使は身を切る告発者だ。人が彼に惹かれる理由もそこにある。この世界は失敗作だ。…どうした、驚かんのかね」レニエさんの変貌に驚きはしたが、こ...
15、天文台のレニエさん 琉有たちは天文台の入口に着いた。「こんにちは。礼爾枝さん。礼爾枝さん」ガチャっと開いたドアから思いがけず一人の少年が出てきた。同い年ぐらいだろうか。「何か用?」そう言いながら少年は首を少し傾け、逡巡した後に訊いてきた。「君、もしかして琉有くん」「どうして?…」琉有は見知らぬ少年を前にして少し後ずさった。「輝はいないの?」少年は傾げた首を伸ばして夏分や羽琉を見る。...
十四、もう一人いる?自分たちの記憶の時間と思っていたのに、ここでも奇妙なことばかり。妹はどうしただろう?まさか両親と共に奴らに捕まった訳じゃあないだろうな?繰り返すと佐伯さんは言うけど、今度はいつ、どんなふうに繰り返されるのだろう?ここに住むことはできるのだろうか?いつかこの町も元に戻ることができるのだろうか?色々な思いが輝の中を去来してゆく。ここにいると青い宇宙の方が夢の出来事に思えてくる。それ...
十三、パパルウは地上に降り立って以来、ずっと推理していた。カブの叫び声がすべてを変えてしまうまでは。「UFOだ」カブが空を指差して叫んだとき、一緒に群れていた人々の動きが止まった。振り返った群衆の冷たい無表情な眼が五人に突き刺さる。その中に奴らもいた。「おまえら。捕まってなかったのか」響はゆっくりと近づく。獲物を狩る野生動物のような視線がじっと五人に注がれている。響は右手を上げると唇に笑みを浮かべ...
13、加速器の太陽と時間のピース「そうか。青い鳥か。」ルウが太陽を指差して言った。「あの太陽。あれこそがガルーダだ。見ろよ。三つの光が色を変え、三つの∞を描いている。ツトラウスの言っていた通り、一つの∞は対の羽だ。この青い宇宙の、生きているように見える青い光は、きっと時間の空なんだ。」「あの太陽がガルーダ?」誰かに何かを訊きただしたいような。忘れていることを自分に問いただしたいような。治まる場所の...
「違ーう。そうじゃない。選択するということは選択しないということだ。つねに表裏一体。選択することは最も単純で最も高度な賭けなんだ。」「じゃあどうすれば…」何度目のことだったろう。祖父はヴィルを叱りつけた。「分からんのか。賭けは人生と同じだ。選択することで勝ち取ってゆく。そんなことじゃあ負け続けることになるぞ。」そんなことは分かっている。これまでずっと負け続けて来たんだ。何を選んでも、どう選んでも負...
私は息を切らして坂道を駆け上がると、最後の石段の前で立ち止まり一息ついた。石段を上り切れば天神様がある。天神様の屋根の部分がここからでも見えた。歌声からするとてっきり子供たちがいるものと思って駆けてきたのだが、石段の下から見上げる境内に人の気配はないようだ。ということはもつとお堂の近くで遊んでいるのか?私は呼吸を整え歌に耳を澄ました。すると…歌はまだ続いていた。続いてはいたがそれは実に奇妙な感じ...
私が生まれた町には数多くの天神様があった。と言っても実際に数えたことはなかったし、理由は?…わからない。これまで気にしたこともなかった。後になって知ったことだが、私が生まれた年に神隠しがあった。これはだいぶ有名な話で、地方にも関わらず当時は全国的に注目されたという。それでも私が十三歳になるまで知らなかったのは誰もが口を閉ざしてその事を口にしなかったからだ。町を上げて負の出来事を封印した理由はこの町...
栞ちゃんは柵のところで止まりました。校庭を指さして見てといいます。「あの子達を見て」年齢も性別もいろんな子供たちがたくさん校庭にいました。ほんとうにたくさんの…「ダメっ」栞ちゃんは私の手を取ります。何が起きたか分からないまま、私は手を引かれ階段を駆け降りました。「どうしたの」私は聞かざるを得ませんでした。「言葉が生まれようとしてる。生まれたら呪われる。自分自身に」栞ちゃんはすまし声でそう言います。...
秋になると紅葉した葉が散りはじめ空が広くなってくる。ここビルの多い街でも街路樹などが透け、ちょっとだけ空が広くなっているのに気づきます。そして空が背伸びをするように高く、成層圏に手が届くようになった頃のこと。そう。大宇宙が地球の地表に近づいてきたとき、ちょうど晩秋になりかけた頃のことです。濡れた地面や水溜まりに薄氷が張るようになったある日。見上げると空に大きな丸い何かが張り付いているのです。その...
更新が絶えて早や二か月である一日がこんなにも早く過ぎ去っているなんてと驚嘆する母が緊急車両に運ばれてちょうど二か月仕事を休みながら行ったり来たりするすべてが年老いてゆく残るものは残骸 「夢の島」だ残骸だけは日々生まれ置き去りになり山を高くする今日もまた置き去り…穏やかに続けと願う 日暮れの記風に揺れたるユキヤナギ、紅の蕾のハナカイドウ、ひらりひらりとユスラウメ、レンギョウは目の覚めるような黄色で...
いた!けど、なんだ。あれが魔王だと。それは姿形というものではなかった。圧倒的な負の雲というべき形のない何かだった。モレールは神の及ばぬ影といい、リシェルは金剛十種の帯といった。誰も巻いたことのない世界王者の帯ということらしい。どっちにしろヴィルにとっては想定内のことだった。「あなたの力は絶対だ。それは誰もが知るところ。でもそれではゲームにならない。それも誰もが知るところ。ゲームは常に50:50だ。...
三人は綿密に計画をたてたはずだった。ボーイスカウトで身支度をしてもろもろ準備をした。モレールは『魔術大全』に聖書、ロザリオに肝心な十字架など、悪魔と対峙したときに必要と思われるものをかき集め、リシェルはヌンチャクに偃月刀、三節棍などを陰陽図を刺繡した巾着バックに詰め込んだ。ヴィルは山岳道具一式とクライミングシューズにハーネス、カラビナ・スリング・確保器などを準備する。それとリシェルに言われた電池...
「ダ―マン家ではな。十二時を過ぎると悪魔の時間なんだ。夜半の街へ行けば分かるだろう狂乱と犯罪が増えてる。目が覚めてたらお祈りをつづることになってる。」「あっ、そ。けどね、いつの時代もゆく手には壁があるの。社会の、年齢の、仕事の、性もそう。現実は悪魔よりも広汎性があって、悪意すらある。わかんないの。」「へえ、言うじゃない。日中は誰もがそれぞれの歯車を規則正しく動かしてる。小さな自由を夜に行使しても...
その日の深夜のこと。ヴィルは突如目が覚めた。耳鳴りの中、部屋の壁が細かに振動している。いや、そうではない。自分の視覚がおかしいのだ。身体がおかしいのだ。淀んで腐った水に漂うボウフラ。そんな気分になった。足元がふらふらする。酒を飲みすぎた親父が、廊下で大きな音を立てるのを思い出した。トイレへもまともに行けない親父。ヴィルは震える自分の足に笑みを浮かべ、窓際に近づいた。新鮮な空気を入れなくては。窓に...
『怠け者はぜったいに魔術師にはなれない。魔術はすべての時間、すべての瞬間にまたがる修練である。快楽の誘惑、食欲、そして眠気にも打ち克てることが。立身出世にたいしてだけでなく、低い身分にたいしても平気でいられることが必要である。その暮らしは、一つの理念によって導かれ自然全体によってかしずかれる一つの意志の現れでなければならない。そのためには先ず五官を精神に従属させ、五官と照応する宇宙の諸力の中にお...
僕たちは頭も感情も混乱していた。恐怖とも違う。逃げ出したいとも違う。モレールとリシェルの姿に自分の中で何かが目覚めた。気づくと飛び出していた。カンテラを振り回してハクスリー先生に突っ込んだ。モレールの手から魔術大全を奪い取るとカンテラの傘を外し火を点けた。「何を!」モレールは驚いて叫んだ。お構いなしに火を点けた。古い本はすぐに燃え出すと、炎が辺りを照らし出した。リシェルが全身を黒く染め数体の彼らと...
その時刻、ベンダー湖の東岸に一台のセダンが止まった。湖の北側には夕日を浴びた森が続き、南側の街道沿いに街が続いている。ミルズ校は湖の反対側、岸から五百メートルほど行ったところにあった。「なあベティ。これからどうする?ドライブが終わってもうしまいか?食事でもしないか?モーテルの脇にダイナーがあるだろう。あそこのイタリア料理は絶品だ!そしてさ…」「そして何?モーテルでわたしのフルコースでもいただく?」...
金属は錆びるが、木造は朽ちていく。時代と無数の虫に喰い荒らされていく。まるで腐敗臭を放って腐っていくようにも見える。本当であれば木は死んでも生きている。地中で炭鉱にもなるし、壁も柱も呼吸している。人間のように老いると愚痴も言うし、老骨を鞭打って悲鳴も上げる。昔気質の祖父はよく言っていた。そんな悲鳴が上がる階段を暗い方へ暗い方へと下っていた。懺悔室にはいかないのか?と訊くと、まずは石膏像がしまい込...
《…過ぎ去る夏の足音が、ときにタップのように踊りだした後、そろりと忍び寄る猫のような毛並みと共に秋は忍び寄り、秋と共に見たこともない妖艶な女性の教師が赴任してきた。妖艶とはなんだろうといつも考えたが、よくわからない。そのわからないあたりが妖艶なのだ。以前悪童で名が知れ渡っていたリザリーが親父の「playboy」を持ってきたことがあったが、女性たちは妖艶とは似ても似つかないもので、もちろん自分にとってはだが...
オールド・ミルズ校は百年の歴史を壁や柱や床に、あるいはその外観を見ただけでも古き良き時代のモダンさを骨董色の肌に染み込ませ、開拓者たちの息吹き、その気骨を受け継ぎ、柱一本一本に鞭打って今日も町の外れに建っていた。しかし、そう思えるのは良き学生時代を過ごした者の贔屓といってもいい。制度に翻弄され、差別と懲罰の地雷に触れた者、あるいは、教師の行使する権力の独裁とに踏みにじられた者からすれば、特に後者...
雪明かり 冬の日暮れの 路地便り 冷たき風の 耳裏の音空高く 成層の青 開け見る いつかのわたしの 無心の空を空気裂く バイクの爆音 受け止めて 夜へと返す 雪壁の道...
くわえ煙草のアンニュイな朝はどっちもこっちも にっちもさっちも沈んだ気分は深海魚今日という日はすでにあった過去のようで経験し終えた情報のようで通信手段の量子化は経済活動をしり目に新たな神を見せている猥雑さは想像力の翼を萎えさせるそして経済活動は貧弱な幸福感を餌にして一生の大半を牛耳っているそんな世界に馴れ合うこともできず自己満足と倫理が混合し合った善の押し売りに辟易し言葉の端々にぶら下がる自己責任...