十、タイチとトモの道 その年の冬、寒い早朝のことだった。ヨシばぁの遺体が発見された。発見したのは近くに住むご近所さん、坂の下に住むミッチーこと宮下美千代、美千代が漬物をもって茶飲み話にいったところで発見された。死因は心不全だったらしい。シンクの前の床に倒れていて、近くに朝使ったと思われる割れた茶碗と箸が落ちていたという。夜には眠っただろうから、朝が来て起きだした後に永遠の眠りにつくことになっ...
言葉で描くみえないこころ。 縦横高さ、時間軸、いつか 見えてくるでしょうか? 拙いながらの一綴り、ジャンルは絵のように…詩や小説の創作物を載せています。 どうぞお気軽にお立ち寄りください。
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十、タイチとトモの道 その年の冬、寒い早朝のことだった。ヨシばぁの遺体が発見された。発見したのは近くに住むご近所さん、坂の下に住むミッチーこと宮下美千代、美千代が漬物をもって茶飲み話にいったところで発見された。死因は心不全だったらしい。シンクの前の床に倒れていて、近くに朝使ったと思われる割れた茶碗と箸が落ちていたという。夜には眠っただろうから、朝が来て起きだした後に永遠の眠りにつくことになっ...
八、視点が変わって見えてくるもの 死んでいく者にもいろんな気持ちが残るのだろう。カレイドスコープはアツシの視覚を借りて生きているときと変わらない人の欲や見栄、嫉妬などをマモルに見せた。中年の女性などは哀れな泣き声を上げている。その嘆きを訊いていると一生をかけて蒐集してきた衣服や貴金属を身に着けられないばかりか遺産品として兄弟や子供にいってしまったらしい、なんとも哀れだ。人生の時間が無駄になってしま...
八、視点が変わると立場が変わる 死んでいく者にもいろんな気持ちが残るのだろう。カレイドスコープはアツシの視覚を借りて生きているときと変わらない人の欲や見栄、嫉妬などをマモルに見せた。中年の女性などは哀れな泣き声を上げている。その嘆きを訊いていると一生をかけて蒐集してきた衣服や貴金属を身に着けられないばかりか遺産品として兄弟や子供にいってしまったらしい、なんとも哀れだ。人生の時間が無駄になって...
七、アツシのカレイドスコープ アツシの部屋には古びた骨董品のような机がある。以前粗大ごみに捨てられていたものを拾ってきたという。椅子はビール瓶のケースだ。二個積み上げてある。万華鏡は二つしかない引き出しの右に入っていた。手に持つとこれも古い。母に買ってもらったというが本当にそうだろうか?和紙のはげ落ちた筒はブリキでできているようだ。覗くと決まった形のピースが複雑な幾何学模様を描く普通の万華鏡だ。...
六、アツシは万華鏡を見ていた それから数日、アツシとは違う気配を部屋の外に感じるようになった。アツシが新たな仲間でも連れてきたのかと内心恐れよりも厄介ごとがまた増えるのかと気をもんでいた矢先のことである。「夜さ、誰かと話ししてるよね。もう来ないでくれとか、お前は死んだんだとか、あれ絶対会話だった。アツシって誰?」不意にタイチが言ったものだからマモルは飛び上がってしまった。部屋の外に感じた気配は...
五、台風一過のゲロ 台風九号が本土上陸で災害危険高まるといわれていたが運よく東へと避けて行った。一安心した。それでなくとも小さな台風が我が家に居座っているのだ。そして年齢も同じということから、たぶん同じクラスに来る。考えるだけで憂鬱だ。これも被害状況の拡大といえようか。次の日にはこれまで味わったことのない緊張感にさらされていた。もちろんタイチの登校日のことである。従兄弟としての紹介に始まり、そ...
四、アレルギーな従兄弟登場 ぼくは無様なゴミの町で暮らしている。通学路の二十分間にいやというほどそれを味わう。空き缶にペットボトル、それに空になったカップ麺。ペットのウンチも落ちている。途中にゴミステーションがあるが、指定曜日でない日にゴミを出すせいもあって、カラスが散らかしていることがある。醤油のミニボトルやお弁当仕切りのバランなどは臭いを発し、想像過多なぼくの胃袋は急に逆流しそうになることが...
三 トモの家にタクシーが止まった 日曜の朝、隣の幼馴染トモの家にタクシーが止まった。若宮友美。通称トモはぼくの一歳上になる幼馴染だ。なんとなく見ていると、トモの母親が両手にバックを持ちながらタクシーに乗り込んだ。トモも父親も出てこない。タクシーも走り去ってしまった。目線を離そうとすると裏口からトモが飛び出して来た。そして家庭菜園の畑を抜けて北の路地へと走って行く。ぼくは反射的に部屋を飛び出すと玄...
二、時間は消しゴムのように 時間は消しゴムのようにアツシの思い出を消していった。三週間になろうとする頃には話題に浮かぶことすらなくなっていた。時間は猛烈な勢いで出来事のすべてを過去にしてしまう。出来事はアルバムの片隅に納まって、記憶の部屋のどこかに片付けられて行く。もし過去に引っかかっていたら、現実や未来、ここでこうしている今の時間に取り残されてしまう。現実も一時の流行みたいなものなのだ。でもぼ...
一、アツシが死んだアツシが死んだ。シゲオもノリオもトモコもサチも泣いていた。ぼくの心は暗い底に沈んでいたが、悲しいともかわいそうとも思わなかった。涙すら出なかった。反対に心のどこかでは羨ましいとさえ思っていた。生前のアツシは学校ばかりか、父兄の間でも決して評判は良くなかった。いつも問題を起こし、意地悪もするし、万引きもしていた。どこかすねたところがあって、友達も先生も最後には無視するようになっ...
「干渉ってどういうこと。私の夢に干渉したの。そんなことできるの?」「欄さんは…これ言ってもいいかな…」「どうぞ」「欄さんは岩戸神社の巫女でね。そういうことができる体質なんだ」「…霊能者とか」確かに彼女の雰囲気を思うとまさにそんな感じ。「そうだね。そうとも言えるかな」すると欄さんが恐ろしいことを話し出した。「いいえ違います。私の半分は死んでいるのです。平田篤胤は幽世(かくりよ)こそ本世(もとつよ)とお...
…いきはよいよい かえりはこない…こないながらも…かえ~らんセ かえらんセ~ センジュフダには人封じと忌のイトが織られていたよ…静河はそう言った。そしてそれだけではない。静河は自分とは正反対の女性を連れていた。いわゆる影のような女性をである。全身黒づくめで季節柄暑苦しそうに見える。がその肌には汗のひとつも浮かんではいない。ロングの髪をポニーテールのようにまとめ後ろで何重にも結っている。肌色は白い石膏の...
携帯を手にしたまま寝付かれない夜を過ごした。連絡が取れないとしりつつも、圭太と雅人に連絡を入れてみるが何の反応もない。三時過ぎだろうか突然携帯が歌い出した。『とおらんセ とおらんセ~…ごようのないものとおしゃせぬ~ …わたしのみたまの願かけにおふだをおさめにまいります~…』 なに。なに…なんなの。歌を止めようと携帯を持つと画面にそれが見えた。着信『鳥場鏡子』と。えっ。どうして…ああ~貧血だろうか。未...
ごようのないものとおしゃせぬ~わたしのみたまの願かけに~おふだをおさめにまいります~… 三日が過ぎた。以前として圭太には連絡が取れないでいる。静河からはなんの返事もない。サークルの仲間にも尋ね回ったが誰も知らない。気にはしているようだが鏡子の名を出すとどこかとおじけづく。あんまりかかわらない方がいいよ。と言われるとますます鏡子という存在が暗い影を帯びていく。そんな中、大学の校門先でスーツ姿の男...
ある日サークルの教室で鳥場鏡子って子が二人のメイトと話し合ってたの。戸鞠圭太と中込雅人。鏡子と雅人は付き合ってたんじゃないかしら。その三人だけの場に入ってしまったという。何故か教室の空気が重かった。「ミチー。早いねー」鏡子がそう声をかけてくる。圭太は動揺していたし、雅人は消え入りそうだった。二人とも臆病になってた。すると鏡子が近寄ってきてこう言った。「ミチにもあげようか。これ」雅人が俯いているのに...
とおらんセ~ とおらんセ~ こ~こはど~このやまみちじゃ~… 私の前には従兄がいる。温和なつかみどころのない目をしている。だから会いに来たといってもいいけれど、従兄は美丈夫だ。ホントならイケメンというのかもしれない。でも従兄を評するには美丈夫が腑に落ちる言葉だ。派手なとこは一切なく、草紙絵から抜け出てきたような、なんというか人という生臭さを感じさせない存在だ。小っちゃい頃は女の子に間違...
床から起き上がると携帯を手にした。電源が入らない。電池切れ?耳を澄ませて窓を開けた。スーッとモーションだけで音がついて来ない。外に目をやると松の枝が見えた。風はなく松の枝もピクリとも動かない。ほのかに明るいことに気づき空を見上げた。昼と同じで雲が覆っている。少しおかしい。雲が妖しく光っている。蓄光材でも含んでいるように雲の動きと共に渦巻くのが見える。そしてあれっと気がついた。雲が動いているのだ。町...
八月も終りに近いある日。気温も湿度も高い呼吸も苦しくなる日が幕を開けた。サワは朝から頭痛に悩まされている。後頭部に針を刺されたような痛みが奥でずきずきと疼いている。何だろう。この眠くなる痛み。麻酔剤のしこりがじっくりと沁み出して頭全体に広がってくる。気温と湿度と頭痛の鬱陶しい空気が、外からも内からもレザーのように重くサワに張り付いていた。祖母まきの前で愚痴がこぼれた。「変な天気。頭の芯からずきず...
八月もいよいよ終りに近づいている。学期の始まる前控井早羽は実家に帰郷することにした。三ヶ月の間腑に落ちぬことに巻き込まれはしたが、今年のバイト代はかなりいいものになった。腑に落ちぬというよりも、こうして離れた今では現実かどうかさえ疑うときがある。しかし片山教授の言葉には不穏なものを感じていた。彼に脳がない以上にである。実際に脳がない例を知ることになったのだから。片山教授は永久凍土がパンドラの箱にな...
秋深し 人間同士の 黄昏か 死体を並べて 国土を讃うこころして 祈念が届く 神ならば 込めた思いが 世の有り様こもり人 生産性あらば 経済人 社会の参加 多様にありて...
人間は 同じ成分 同じ五感 前頭葉にふる スパイスの違い左右の手 神を似せたか 神真似の 生かすも殺すも エゴと知りえば投票率 最初に半分 放棄して 僅かな残りに 支持率争いて...
未来にも 過去にも起きた 始まりは 人は偏見を 学び直すこと喜びは 生きていることと 笑む子等の 希望に隠した 社会の保険夜には 目が見えぬのに 昼にも 見えぬ心うち 誰ぞあざむく ...
階段を 夜の明かりが 這っている 光も疲れて 背を伏す今日と明日へと続く 行く先知らない 労働は 明日に終わる 人々を知らず憎しみの 相貌(すがた)が魚に あったなら 鳥にも牛にも あったなら...
忍び寄る 終(つい)を見るか アキアカネ 道の上にて 天を眺める青空に 何を急ぐや 紅葉狩り 静かに座して ただ山となれコスモスに 止まるビードロの 秋津かな せわしく動く 球体の星で...
香ばしき 匂いたつかな 安銀座 煙も油も 甘き焼き芋も 血流に 耳を澄ませば 月の浜 赤き潮騒に 人は眠れる月も鳴く 時の奴隷の その中で 身を置き馳せる 壁の向こう側 ...
雨に濡れ 穂先に黄金の 粒ひとつ 落ちて生まれる こともあらばとバス窓に 点るボタンに さかのぼる 過去に見上げた 白き手のひと薬持ち 肌をなぞって 吹く風に 秋も来たかと 後にする店...
窓越しに 釣瓶も落ちる 早さかな うつむく夏の 星座残されて つかぬ間の 夕焼け空に 夕月夜 引き戸を開けて 月の客来る錦繍の パッチワークの 雅かな あれもこれも皆 こころと成して...
だんらんの 恋したるかな 秋の夜の 虫の音悲し 闇を呑み込みさわさわと ため息まじりの 秋の草 秋津止まりて 斜陽傾く行きあいの 雲の騒ぎて 刻々と 千変万化の ひかりのこだま...
秋戦 地面かすめて 兵急ぐ 風の羽借り 夏の虫狩る 鳩の鳴く 色なき風に 身を打たれ ついばみ捨てる 断捨離の秋遠雷の 青き光りが ひた走る 白黒の街に 鼓をひき連れて...
久延毘古も 変わり鳥追い 案山子かな 時代を写す ポーズ決めこむ 千社札 参拝あとの 後利益も 多数作善に 平和おとずれ通学路 黄色の帽子と ランドセル 弾んで歩く 金次郎の道… Sigrid で「 Home To You 」...
古民家の かまちの高さ 将棋駒 縁台の戦 時を重ねて築地塀 たわわに実る ゆずの日の 駆けて回った 願掛けの道ブランコの 先は校庭 赤き屋根 学びの校舎 人影も無くAlexis Ffrench で 「 Songbird 」を...
九月の偈 衰えしらずの 夏送り 煩悩の熱 下がるを知らず風箒 夏の懺悔を 集めつつ 業の火高く 空に送れば多数決 暴力と知らず 加担する 数の論理は 遠慮も知らず…Akira Kosemura で「 Fallen Flowers 」を...
日照り夏 葉の丸まりて 芽は枯れて 群がる蟻も 枯草に隠れ水滴の ふき出す先から 地に落ちる 雨を補給し 汗を放水す日常を 悪夢の底へ 落すかな 天災は忘れる 前にやってくる…洋楽で Imagine Dragons の 「 Demons 」を...
空高く 分水嶺から 吹き下ろす 野分ビル風 雷鼓のうたげ夏草の 香りかぐわし 雨上がり かかる虹にも 秋風の立つ風の道の そうそうと鳴る 草千里 馬草食みて 雲にいななき…「 夏影 」を...
海鳥と 台風一過の 土用波 雲棚連れて 白き手を振る夢のごと 立って座って 時失せて 老いた目で見た 現世のまぼろし 治めの夏 障子に影の モミジかな 枝をのばして 傘を捧げん…haruka nakamuraさんで『 Alone together 』を...
初音鳴き 夏は時雨て はた織の 音色すずしや 秋津たたずむ波騒ぐ ネットの海に 魚影あり 捕らえて上げた 雑魚と私と草闇の 奥で奏でる 蟋蟀の 眠りに落ちる ビオロンの絃…haruka nakamura×細川亜依 さんで 『食卓とピアノと』を...
雲切れて 光りさす世に 数知れず 青の落した ベリルのしずく 杞憂なる 未来も今も 誰ぞいる 数の論理に 個は失われメデューサの 首散らばって 落ちる空 ペルセウス座 冠いだいて…paniyoiodで『 ひかりのにおい 』を...
わびしくも 夏の一夜の 虫語り 秋立てばはや 潮騒とならん 炎天に 息を引き取る 蚯蚓かな 土から産まれ 土にぞ帰る星海の 上下左右に 底知れぬ 光と闇に ひとり棲み分け… [.que] で 「twilight 」...
つけ火かな 決意の程も 酒の宴 ガス欠過ぎの 空ぶかしもまた虫の音の 騒ぐ月夜に 一陣の 風の平手に 秋も立つかな目をみはる 頭上に蒼い そらがある 下にくすんだ わが身を置いて…[.que] さんで『 海辺にて 』を...