十、タイチとトモの道 その年の冬、寒い早朝のことだった。ヨシばぁの遺体が発見された。発見したのは近くに住むご近所さん、坂の下に住むミッチーこと宮下美千代、美千代が漬物をもって茶飲み話にいったところで発見された。死因は心不全だったらしい。シンクの前の床に倒れていて、近くに朝使ったと思われる割れた茶碗と箸が落ちていたという。夜には眠っただろうから、朝が来て起きだした後に永遠の眠りにつくことになっ...
言葉で描くみえないこころ。 縦横高さ、時間軸、いつか 見えてくるでしょうか? 拙いながらの一綴り、ジャンルは絵のように…詩や小説の創作物を載せています。 どうぞお気軽にお立ち寄りください。
十、タイチとトモの道 その年の冬、寒い早朝のことだった。ヨシばぁの遺体が発見された。発見したのは近くに住むご近所さん、坂の下に住むミッチーこと宮下美千代、美千代が漬物をもって茶飲み話にいったところで発見された。死因は心不全だったらしい。シンクの前の床に倒れていて、近くに朝使ったと思われる割れた茶碗と箸が落ちていたという。夜には眠っただろうから、朝が来て起きだした後に永遠の眠りにつくことになっ...
八、視点が変わって見えてくるもの 死んでいく者にもいろんな気持ちが残るのだろう。カレイドスコープはアツシの視覚を借りて生きているときと変わらない人の欲や見栄、嫉妬などをマモルに見せた。中年の女性などは哀れな泣き声を上げている。その嘆きを訊いていると一生をかけて蒐集してきた衣服や貴金属を身に着けられないばかりか遺産品として兄弟や子供にいってしまったらしい、なんとも哀れだ。人生の時間が無駄になってしま...
八、視点が変わると立場が変わる 死んでいく者にもいろんな気持ちが残るのだろう。カレイドスコープはアツシの視覚を借りて生きているときと変わらない人の欲や見栄、嫉妬などをマモルに見せた。中年の女性などは哀れな泣き声を上げている。その嘆きを訊いていると一生をかけて蒐集してきた衣服や貴金属を身に着けられないばかりか遺産品として兄弟や子供にいってしまったらしい、なんとも哀れだ。人生の時間が無駄になって...
七、アツシのカレイドスコープ アツシの部屋には古びた骨董品のような机がある。以前粗大ごみに捨てられていたものを拾ってきたという。椅子はビール瓶のケースだ。二個積み上げてある。万華鏡は二つしかない引き出しの右に入っていた。手に持つとこれも古い。母に買ってもらったというが本当にそうだろうか?和紙のはげ落ちた筒はブリキでできているようだ。覗くと決まった形のピースが複雑な幾何学模様を描く普通の万華鏡だ。...
六、アツシは万華鏡を見ていた それから数日、アツシとは違う気配を部屋の外に感じるようになった。アツシが新たな仲間でも連れてきたのかと内心恐れよりも厄介ごとがまた増えるのかと気をもんでいた矢先のことである。「夜さ、誰かと話ししてるよね。もう来ないでくれとか、お前は死んだんだとか、あれ絶対会話だった。アツシって誰?」不意にタイチが言ったものだからマモルは飛び上がってしまった。部屋の外に感じた気配は...
五、台風一過のゲロ 台風九号が本土上陸で災害危険高まるといわれていたが運よく東へと避けて行った。一安心した。それでなくとも小さな台風が我が家に居座っているのだ。そして年齢も同じということから、たぶん同じクラスに来る。考えるだけで憂鬱だ。これも被害状況の拡大といえようか。次の日にはこれまで味わったことのない緊張感にさらされていた。もちろんタイチの登校日のことである。従兄弟としての紹介に始まり、そ...
四、アレルギーな従兄弟登場 ぼくは無様なゴミの町で暮らしている。通学路の二十分間にいやというほどそれを味わう。空き缶にペットボトル、それに空になったカップ麺。ペットのウンチも落ちている。途中にゴミステーションがあるが、指定曜日でない日にゴミを出すせいもあって、カラスが散らかしていることがある。醤油のミニボトルやお弁当仕切りのバランなどは臭いを発し、想像過多なぼくの胃袋は急に逆流しそうになることが...
三 トモの家にタクシーが止まった 日曜の朝、隣の幼馴染トモの家にタクシーが止まった。若宮友美。通称トモはぼくの一歳上になる幼馴染だ。なんとなく見ていると、トモの母親が両手にバックを持ちながらタクシーに乗り込んだ。トモも父親も出てこない。タクシーも走り去ってしまった。目線を離そうとすると裏口からトモが飛び出して来た。そして家庭菜園の畑を抜けて北の路地へと走って行く。ぼくは反射的に部屋を飛び出すと玄...
二、時間は消しゴムのように 時間は消しゴムのようにアツシの思い出を消していった。三週間になろうとする頃には話題に浮かぶことすらなくなっていた。時間は猛烈な勢いで出来事のすべてを過去にしてしまう。出来事はアルバムの片隅に納まって、記憶の部屋のどこかに片付けられて行く。もし過去に引っかかっていたら、現実や未来、ここでこうしている今の時間に取り残されてしまう。現実も一時の流行みたいなものなのだ。でもぼ...
一、アツシが死んだアツシが死んだ。シゲオもノリオもトモコもサチも泣いていた。ぼくの心は暗い底に沈んでいたが、悲しいともかわいそうとも思わなかった。涙すら出なかった。反対に心のどこかでは羨ましいとさえ思っていた。生前のアツシは学校ばかりか、父兄の間でも決して評判は良くなかった。いつも問題を起こし、意地悪もするし、万引きもしていた。どこかすねたところがあって、友達も先生も最後には無視するようになっ...
「干渉ってどういうこと。私の夢に干渉したの。そんなことできるの?」「欄さんは…これ言ってもいいかな…」「どうぞ」「欄さんは岩戸神社の巫女でね。そういうことができる体質なんだ」「…霊能者とか」確かに彼女の雰囲気を思うとまさにそんな感じ。「そうだね。そうとも言えるかな」すると欄さんが恐ろしいことを話し出した。「いいえ違います。私の半分は死んでいるのです。平田篤胤は幽世(かくりよ)こそ本世(もとつよ)とお...
…いきはよいよい かえりはこない…こないながらも…かえ~らんセ かえらんセ~ センジュフダには人封じと忌のイトが織られていたよ…静河はそう言った。そしてそれだけではない。静河は自分とは正反対の女性を連れていた。いわゆる影のような女性をである。全身黒づくめで季節柄暑苦しそうに見える。がその肌には汗のひとつも浮かんではいない。ロングの髪をポニーテールのようにまとめ後ろで何重にも結っている。肌色は白い石膏の...
携帯を手にしたまま寝付かれない夜を過ごした。連絡が取れないとしりつつも、圭太と雅人に連絡を入れてみるが何の反応もない。三時過ぎだろうか突然携帯が歌い出した。『とおらんセ とおらんセ~…ごようのないものとおしゃせぬ~ …わたしのみたまの願かけにおふだをおさめにまいります~…』 なに。なに…なんなの。歌を止めようと携帯を持つと画面にそれが見えた。着信『鳥場鏡子』と。えっ。どうして…ああ~貧血だろうか。未...
ごようのないものとおしゃせぬ~わたしのみたまの願かけに~おふだをおさめにまいります~… 三日が過ぎた。以前として圭太には連絡が取れないでいる。静河からはなんの返事もない。サークルの仲間にも尋ね回ったが誰も知らない。気にはしているようだが鏡子の名を出すとどこかとおじけづく。あんまりかかわらない方がいいよ。と言われるとますます鏡子という存在が暗い影を帯びていく。そんな中、大学の校門先でスーツ姿の男...
ある日サークルの教室で鳥場鏡子って子が二人のメイトと話し合ってたの。戸鞠圭太と中込雅人。鏡子と雅人は付き合ってたんじゃないかしら。その三人だけの場に入ってしまったという。何故か教室の空気が重かった。「ミチー。早いねー」鏡子がそう声をかけてくる。圭太は動揺していたし、雅人は消え入りそうだった。二人とも臆病になってた。すると鏡子が近寄ってきてこう言った。「ミチにもあげようか。これ」雅人が俯いているのに...
とおらんセ~ とおらんセ~ こ~こはど~このやまみちじゃ~… 私の前には従兄がいる。温和なつかみどころのない目をしている。だから会いに来たといってもいいけれど、従兄は美丈夫だ。ホントならイケメンというのかもしれない。でも従兄を評するには美丈夫が腑に落ちる言葉だ。派手なとこは一切なく、草紙絵から抜け出てきたような、なんというか人という生臭さを感じさせない存在だ。小っちゃい頃は女の子に間違...
床から起き上がると携帯を手にした。電源が入らない。電池切れ?耳を澄ませて窓を開けた。スーッとモーションだけで音がついて来ない。外に目をやると松の枝が見えた。風はなく松の枝もピクリとも動かない。ほのかに明るいことに気づき空を見上げた。昼と同じで雲が覆っている。少しおかしい。雲が妖しく光っている。蓄光材でも含んでいるように雲の動きと共に渦巻くのが見える。そしてあれっと気がついた。雲が動いているのだ。町...
八月も終りに近いある日。気温も湿度も高い呼吸も苦しくなる日が幕を開けた。サワは朝から頭痛に悩まされている。後頭部に針を刺されたような痛みが奥でずきずきと疼いている。何だろう。この眠くなる痛み。麻酔剤のしこりがじっくりと沁み出して頭全体に広がってくる。気温と湿度と頭痛の鬱陶しい空気が、外からも内からもレザーのように重くサワに張り付いていた。祖母まきの前で愚痴がこぼれた。「変な天気。頭の芯からずきず...
八月もいよいよ終りに近づいている。学期の始まる前控井早羽は実家に帰郷することにした。三ヶ月の間腑に落ちぬことに巻き込まれはしたが、今年のバイト代はかなりいいものになった。腑に落ちぬというよりも、こうして離れた今では現実かどうかさえ疑うときがある。しかし片山教授の言葉には不穏なものを感じていた。彼に脳がない以上にである。実際に脳がない例を知ることになったのだから。片山教授は永久凍土がパンドラの箱にな...
ナミトがいなくなって以来サワはずっと蚊帳の外だった。ここ数か月なにをやってきたのだろうと考える。初めて会ったときのナミトは白い病衣服を着ていたがその歩き方は赤子のようだった。重心が定まっていない身体でふらふらしながら、それでいて不思議と滑るような動作でやってきた。頭には深々と帽子をかぶり、驚いたことには眉がない。そして肝心な顔は、と考えると容易に思い出すことができない。特徴がないというか、眉の特...
「ナミト!ナミト!」サワは人ごみの中で大声で叫んだ。周辺をどことなく走り回り人々の顔を伺った。どこにもナミトを見つけることは出来ない。気になるビルやイベントなど人が集まるところにも出向いたが見つけられない。どうしよう。あのナミトに行くあてなんてある?こんなことになるなんて…しばらくその場で待ってみたが現われる気配はなかった。五年前初めてナミトと出会ったとき、ナミトは眠っていた。彼は虐められた少年だ...
頭に季節がある。膨張していったり、縮んでいったり。昇っていったり、下っていったり。温度もそう。色の波長もそう。頭がギュッとしめられる圧だってそう。どれもぼくの春夏秋冬だ。ぼくの名前はナミト。ウツイナミト。音はそう聴いたが、字はしらない。小さい頃からナミトと呼ばれてきたらしい。自分から名前を言う機会も少ないのでときどき忘れる。ぼくをナミトと呼ぶ女性がいるが誰なのかと言うとウツイサワとだけ教えてもら...
ある月夜のこと。星屑運河を散歩と洒落て「おとしもの坂」を下っていく。口寂しいときにはハーバルシガー(香草煙草)。ちょいとふかしてリングをひとつ。月に向かって放りながら、インフレーション曲線を描く坂を慎重に下っていく。今日は空気までもミッドナイトスープ。ビルや建物はペンキも乾かない三次元デコで描かれた二次元世界。樹も街灯も、山も雲も、電波塔も、ナイトビロードの空の向こうには黄色い照明があって、今日の月...
「違ーう。そうじゃない。選択するということは選択しないということだ。つねに表裏一体。選択することは最も単純で最も高度な賭けなんだ。」「じゃあどうすれば…」何度目のことだったろう。祖父はヴィルを叱りつけた。「分からんのか。賭けは人生と同じだ。選択することで勝ち取ってゆく。そんなことじゃあ負け続けることになるぞ。」そんなことは分かっている。これまでずっと負け続けて来たんだ。何を選んでも、どう選んでも負...
私は息を切らして坂道を駆け上がると、最後の石段の前で立ち止まり一息ついた。石段を上り切れば天神様がある。天神様の屋根の部分がここからでも見えた。歌声からするとてっきり子供たちがいるものと思って駆けてきたのだが、石段の下から見上げる境内に人の気配はないようだ。ということはもつとお堂の近くで遊んでいるのか?私は呼吸を整え歌に耳を澄ました。すると…歌はまだ続いていた。続いてはいたがそれは実に奇妙な感じ...
私が生まれた町には数多くの天神様があった。と言っても実際に数えたことはなかったし、理由は?…わからない。これまで気にしたこともなかった。後になって知ったことだが、私が生まれた年に神隠しがあった。これはだいぶ有名な話で、地方にも関わらず当時は全国的に注目されたという。それでも私が十三歳になるまで知らなかったのは誰もが口を閉ざしてその事を口にしなかったからだ。町を上げて負の出来事を封印した理由はこの町...
栞ちゃんは柵のところで止まりました。校庭を指さして見てといいます。「あの子達を見て」年齢も性別もいろんな子供たちがたくさん校庭にいました。ほんとうにたくさんの…「ダメっ」栞ちゃんは私の手を取ります。何が起きたか分からないまま、私は手を引かれ階段を駆け降りました。「どうしたの」私は聞かざるを得ませんでした。「言葉が生まれようとしてる。生まれたら呪われる。自分自身に」栞ちゃんはすまし声でそう言います。...
秋になると紅葉した葉が散りはじめ空が広くなってくる。ここビルの多い街でも街路樹などが透け、ちょっとだけ空が広くなっているのに気づきます。そして空が背伸びをするように高く、成層圏に手が届くようになった頃のこと。そう。大宇宙が地球の地表に近づいてきたとき、ちょうど晩秋になりかけた頃のことです。濡れた地面や水溜まりに薄氷が張るようになったある日。見上げると空に大きな丸い何かが張り付いているのです。その...
更新が絶えて早や二か月である一日がこんなにも早く過ぎ去っているなんてと驚嘆する母が緊急車両に運ばれてちょうど二か月仕事を休みながら行ったり来たりするすべてが年老いてゆく残るものは残骸 「夢の島」だ残骸だけは日々生まれ置き去りになり山を高くする今日もまた置き去り…穏やかに続けと願う 日暮れの記風に揺れたるユキヤナギ、紅の蕾のハナカイドウ、ひらりひらりとユスラウメ、レンギョウは目の覚めるような黄色で...
いた!けど、なんだ。あれが魔王だと。それは姿形というものではなかった。圧倒的な負の雲というべき形のない何かだった。モレールは神の及ばぬ影といい、リシェルは金剛十種の帯といった。誰も巻いたことのない世界王者の帯ということらしい。どっちにしろヴィルにとっては想定内のことだった。「あなたの力は絶対だ。それは誰もが知るところ。でもそれではゲームにならない。それも誰もが知るところ。ゲームは常に50:50だ。...
三人は綿密に計画をたてたはずだった。ボーイスカウトで身支度をしてもろもろ準備をした。モレールは『魔術大全』に聖書、ロザリオに肝心な十字架など、悪魔と対峙したときに必要と思われるものをかき集め、リシェルはヌンチャクに偃月刀、三節棍などを陰陽図を刺繡した巾着バックに詰め込んだ。ヴィルは山岳道具一式とクライミングシューズにハーネス、カラビナ・スリング・確保器などを準備する。それとリシェルに言われた電池...
「ダ―マン家ではな。十二時を過ぎると悪魔の時間なんだ。夜半の街へ行けば分かるだろう狂乱と犯罪が増えてる。目が覚めてたらお祈りをつづることになってる。」「あっ、そ。けどね、いつの時代もゆく手には壁があるの。社会の、年齢の、仕事の、性もそう。現実は悪魔よりも広汎性があって、悪意すらある。わかんないの。」「へえ、言うじゃない。日中は誰もがそれぞれの歯車を規則正しく動かしてる。小さな自由を夜に行使しても...
その日の深夜のこと。ヴィルは突如目が覚めた。耳鳴りの中、部屋の壁が細かに振動している。いや、そうではない。自分の視覚がおかしいのだ。身体がおかしいのだ。淀んで腐った水に漂うボウフラ。そんな気分になった。足元がふらふらする。酒を飲みすぎた親父が、廊下で大きな音を立てるのを思い出した。トイレへもまともに行けない親父。ヴィルは震える自分の足に笑みを浮かべ、窓際に近づいた。新鮮な空気を入れなくては。窓に...
『怠け者はぜったいに魔術師にはなれない。魔術はすべての時間、すべての瞬間にまたがる修練である。快楽の誘惑、食欲、そして眠気にも打ち克てることが。立身出世にたいしてだけでなく、低い身分にたいしても平気でいられることが必要である。その暮らしは、一つの理念によって導かれ自然全体によってかしずかれる一つの意志の現れでなければならない。そのためには先ず五官を精神に従属させ、五官と照応する宇宙の諸力の中にお...
僕たちは頭も感情も混乱していた。恐怖とも違う。逃げ出したいとも違う。モレールとリシェルの姿に自分の中で何かが目覚めた。気づくと飛び出していた。カンテラを振り回してハクスリー先生に突っ込んだ。モレールの手から魔術大全を奪い取るとカンテラの傘を外し火を点けた。「何を!」モレールは驚いて叫んだ。お構いなしに火を点けた。古い本はすぐに燃え出すと、炎が辺りを照らし出した。リシェルが全身を黒く染め数体の彼らと...
その時刻、ベンダー湖の東岸に一台のセダンが止まった。湖の北側には夕日を浴びた森が続き、南側の街道沿いに街が続いている。ミルズ校は湖の反対側、岸から五百メートルほど行ったところにあった。「なあベティ。これからどうする?ドライブが終わってもうしまいか?食事でもしないか?モーテルの脇にダイナーがあるだろう。あそこのイタリア料理は絶品だ!そしてさ…」「そして何?モーテルでわたしのフルコースでもいただく?」...
金属は錆びるが、木造は朽ちていく。時代と無数の虫に喰い荒らされていく。まるで腐敗臭を放って腐っていくようにも見える。本当であれば木は死んでも生きている。地中で炭鉱にもなるし、壁も柱も呼吸している。人間のように老いると愚痴も言うし、老骨を鞭打って悲鳴も上げる。昔気質の祖父はよく言っていた。そんな悲鳴が上がる階段を暗い方へ暗い方へと下っていた。懺悔室にはいかないのか?と訊くと、まずは石膏像がしまい込...
《…過ぎ去る夏の足音が、ときにタップのように踊りだした後、そろりと忍び寄る猫のような毛並みと共に秋は忍び寄り、秋と共に見たこともない妖艶な女性の教師が赴任してきた。妖艶とはなんだろうといつも考えたが、よくわからない。そのわからないあたりが妖艶なのだ。以前悪童で名が知れ渡っていたリザリーが親父の「playboy」を持ってきたことがあったが、女性たちは妖艶とは似ても似つかないもので、もちろん自分にとってはだが...
オールド・ミルズ校は百年の歴史を壁や柱や床に、あるいはその外観を見ただけでも古き良き時代のモダンさを骨董色の肌に染み込ませ、開拓者たちの息吹き、その気骨を受け継ぎ、柱一本一本に鞭打って今日も町の外れに建っていた。しかし、そう思えるのは良き学生時代を過ごした者の贔屓といってもいい。制度に翻弄され、差別と懲罰の地雷に触れた者、あるいは、教師の行使する権力の独裁とに踏みにじられた者からすれば、特に後者...
雪明かり 冬の日暮れの 路地便り 冷たき風の 耳裏の音空高く 成層の青 開け見る いつかのわたしの 無心の空を空気裂く バイクの爆音 受け止めて 夜へと返す 雪壁の道...
くわえ煙草のアンニュイな朝はどっちもこっちも にっちもさっちも沈んだ気分は深海魚今日という日はすでにあった過去のようで経験し終えた情報のようで通信手段の量子化は経済活動をしり目に新たな神を見せている猥雑さは想像力の翼を萎えさせるそして経済活動は貧弱な幸福感を餌にして一生の大半を牛耳っているそんな世界に馴れ合うこともできず自己満足と倫理が混合し合った善の押し売りに辟易し言葉の端々にぶら下がる自己責任...
ビジネスの 行き着く果てから ゴミの山 大地も海も 地球のそらまで落ち葉舞う 唸る北風 打つ粒の 雨も凍える 雪に変わりて常世から 帰り花咲く ヒガンバナ 終し赤にぞ 秘めたる心は...
薔薇は自らが薔薇であることを証明もせず咲き誇る血の鮮やかさで、皮膚を裂く棘の上に瞑想している獅子は自らが獅子であることを証明もせず僕は僕であることを恐れはしない約束された生死はすでに過去のもの明日死す者はすでに契約の内に死んでいる世界に隠れた知恵は隠すことでありのままを現すそのありのまま が美なのだ鳥は賢しい手技を空に捧げ風で設計された翼を手に入れた人間の翼への進化は思考に結実し時間と思...
秋深し 人間同士の 黄昏か 死体を並べて 国土を讃うこころして 祈念が届く 神ならば 込めた思いが 世の有り様こもり人 生産性あらば 経済人 社会の参加 多様にありて...
人間は 同じ成分 同じ五感 前頭葉にふる スパイスの違い左右の手 神を似せたか 神真似の 生かすも殺すも エゴと知りえば投票率 最初に半分 放棄して 僅かな残りに 支持率争いて...
未来にも 過去にも起きた 始まりは 人は偏見を 学び直すこと喜びは 生きていることと 笑む子等の 希望に隠した 社会の保険夜には 目が見えぬのに 昼にも 見えぬ心うち 誰ぞあざむく ...
階段を 夜の明かりが 這っている 光も疲れて 背を伏す今日と明日へと続く 行く先知らない 労働は 明日に終わる 人々を知らず憎しみの 相貌(すがた)が魚に あったなら 鳥にも牛にも あったなら...
忍び寄る 終(つい)を見るか アキアカネ 道の上にて 天を眺める青空に 何を急ぐや 紅葉狩り 静かに座して ただ山となれコスモスに 止まるビードロの 秋津かな せわしく動く 球体の星で...
香ばしき 匂いたつかな 安銀座 煙も油も 甘き焼き芋も 血流に 耳を澄ませば 月の浜 赤き潮騒に 人は眠れる月も鳴く 時の奴隷の その中で 身を置き馳せる 壁の向こう側 ...
雨に濡れ 穂先に黄金の 粒ひとつ 落ちて生まれる こともあらばとバス窓に 点るボタンに さかのぼる 過去に見上げた 白き手のひと薬持ち 肌をなぞって 吹く風に 秋も来たかと 後にする店...
窓越しに 釣瓶も落ちる 早さかな うつむく夏の 星座残されて つかぬ間の 夕焼け空に 夕月夜 引き戸を開けて 月の客来る錦繍の パッチワークの 雅かな あれもこれも皆 こころと成して...
だんらんの 恋したるかな 秋の夜の 虫の音悲し 闇を呑み込みさわさわと ため息まじりの 秋の草 秋津止まりて 斜陽傾く行きあいの 雲の騒ぎて 刻々と 千変万化の ひかりのこだま...
秋戦 地面かすめて 兵急ぐ 風の羽借り 夏の虫狩る 鳩の鳴く 色なき風に 身を打たれ ついばみ捨てる 断捨離の秋遠雷の 青き光りが ひた走る 白黒の街に 鼓をひき連れて...
久延毘古も 変わり鳥追い 案山子かな 時代を写す ポーズ決めこむ 千社札 参拝あとの 後利益も 多数作善に 平和おとずれ通学路 黄色の帽子と ランドセル 弾んで歩く 金次郎の道… Sigrid で「 Home To You 」...
古民家の かまちの高さ 将棋駒 縁台の戦 時を重ねて築地塀 たわわに実る ゆずの日の 駆けて回った 願掛けの道ブランコの 先は校庭 赤き屋根 学びの校舎 人影も無くAlexis Ffrench で 「 Songbird 」を...
九月の偈 衰えしらずの 夏送り 煩悩の熱 下がるを知らず風箒 夏の懺悔を 集めつつ 業の火高く 空に送れば多数決 暴力と知らず 加担する 数の論理は 遠慮も知らず…Akira Kosemura で「 Fallen Flowers 」を...
日照り夏 葉の丸まりて 芽は枯れて 群がる蟻も 枯草に隠れ水滴の ふき出す先から 地に落ちる 雨を補給し 汗を放水す日常を 悪夢の底へ 落すかな 天災は忘れる 前にやってくる…洋楽で Imagine Dragons の 「 Demons 」を...
空高く 分水嶺から 吹き下ろす 野分ビル風 雷鼓のうたげ夏草の 香りかぐわし 雨上がり かかる虹にも 秋風の立つ風の道の そうそうと鳴る 草千里 馬草食みて 雲にいななき…「 夏影 」を...
海鳥と 台風一過の 土用波 雲棚連れて 白き手を振る夢のごと 立って座って 時失せて 老いた目で見た 現世のまぼろし 治めの夏 障子に影の モミジかな 枝をのばして 傘を捧げん…haruka nakamuraさんで『 Alone together 』を...
初音鳴き 夏は時雨て はた織の 音色すずしや 秋津たたずむ波騒ぐ ネットの海に 魚影あり 捕らえて上げた 雑魚と私と草闇の 奥で奏でる 蟋蟀の 眠りに落ちる ビオロンの絃…haruka nakamura×細川亜依 さんで 『食卓とピアノと』を...
雲切れて 光りさす世に 数知れず 青の落した ベリルのしずく 杞憂なる 未来も今も 誰ぞいる 数の論理に 個は失われメデューサの 首散らばって 落ちる空 ペルセウス座 冠いだいて…paniyoiodで『 ひかりのにおい 』を...
わびしくも 夏の一夜の 虫語り 秋立てばはや 潮騒とならん 炎天に 息を引き取る 蚯蚓かな 土から産まれ 土にぞ帰る星海の 上下左右に 底知れぬ 光と闇に ひとり棲み分け… [.que] で 「twilight 」...
つけ火かな 決意の程も 酒の宴 ガス欠過ぎの 空ぶかしもまた虫の音の 騒ぐ月夜に 一陣の 風の平手に 秋も立つかな目をみはる 頭上に蒼い そらがある 下にくすんだ わが身を置いて…[.que] さんで『 海辺にて 』を...
借知識 すべて忘れて すっきりと はじめたる晩 学の手習い波騒ぐ 人押し寄せる ビルの岩 ああ行きずりの 都市に打ち上げおはようの 戯れもすぎ 学童ら 声高らかに 里山を行く…[.que] でd『rops』を...
生きづらさ 正直ほどの 非常識 誤解を問われ 左右に千切れ行く先を 知らずに跳ぶ 命あり 目先を追いて 無辺へと飛ぶ雲高し 木々のさざめく 清流に 泳ぐハヤ影 ひぐらしの鳴く…Paniyoroで「風の絵」を...
染色の 劣らぬ色に 染められて 虹をすべ来る 雨いろのきみ 吹き下ろす 風の一揆と 雨の礫(つぶ) 過去を更新 押し寄せる川街路灯 外れて噎せぶ 青蛙 昼を逃れて 夜に隠れて… 「 2度と戻れない、あの夏のノスタルジー 」を 夏は二度と戻れないノスタルジーのようなものを 内にもっている。 夏はいつもアオハルの隣にいるだろう。...
和有田に 載せてこごる水 羊羹の 澄む渓流に 山女魚の泳ぐ振りやまぬ 雲の尾根から 土砂降りの 天の水だる ひっくり返して カーブミラー 道を見下ろし ここかしこ 耳傾けて 青空に澄む…Paniyoroで「green & cloud」を...
つつましく 泳ぐ二匹の トンボかな 添いては離れ 影落とす庭夕立に 煙りし山へ 光の矢 思いの窓に アカネ届けてほむら立つ 地上の火事に 大わらわ 欲色悋気と 火種かかえて …[.que] で「drops」を...
追いかけて 追いかけてなお 雲の下 逃げても逃げても われ網の中苦しいと 言えずに笑う 強がりも 溶けたアイスの 甘さに和む木漏れ日の まだらの路の 夏暦 梅花藻ゆらぎ ホタル棲むかも …Paniyoroで「 雨 」を...
風鈴の 音色しぐれて 縁の夏 咲いたアサガオの 種も採らずに水鏡 面影映す アヤメかな 伏せる目に入る 誰ぞ浴衣か膨らんで いる海がまた 声を上げ 浜には子等の 笑顔(かお)はち切れて… akira kosemuraさんで「“小夏日和”からMain Theme」を...
半夏生 青葉を揺らし 初セミの 木魂も返る 鬨めく坂を待ち受ける 事も知らずに 無鉄砲 黒縁の中 はにかむ遠友(とも)は闇木立 ホタル参りの カジカ沢 月も隠れて 溺死人(しびと)出現れ…古川本舗さんで「ストーリーライター」を...
憂いても 生きるも死ぬも 身のひとつ 陽に向かう芽の 曲がりても直アカネ空 想いに焼かれ 手を伸ばし 指の先から 遠くなる影そよぐ夏 大気の海に 鈴音かな ヒレで風切る トビウオのきみ…Akira Kosemuraさんで「 Light Dance 」を...
風鈴の 音色涼しき 言の葉を 括りて縒りて 請い歌を詠み剣かな 驟雨断ち切る 稲光 神輿にすくむ 神送りの礼入道を 追って雲立つ 夕立に 茜に染まり ともに泣くきみ…ローレン・アキリーアで「you can be king again」を どこか懐かしいアニメ「蛍火の社」の中でギンと蛍と社が刹那の夏の日の記憶とぬくもりを伝えてくる。...
宵の街 枝垂れんばかりに 色っぽく かすみの酒に 足も千鳥てめくるめく 怪しき月が ビルの横 いつどこまでも 追いかけて来るスマホ手に 時の退屈 なぐさみて 臓腑引きずり 目と耳は踊り…DAOKO さんで『水星』を...
宵闇の 月と木立の 墨絵かな 黙して重ね 誰そ彼と詠み 一人来て 二人座りて 一人去る 山河草木 成つの涼しさ てふてふと 人を尻目に 華に舞う 後ろを悔やむ こともなき袖 …Imagine Dragonsで 『 Birds』を...
白南風の 興したるかな 土用波 青き思いに うねる心は 羽化いずる 祭りの夜へ 夜光虫 光に釣られ 闇にこそ飛ぶ 紫陽花を 濡らして梅雨の ひとふらし 流れる先に 蛍草青し…クレナズムで「積乱雲の下で」を...
野には花 心に阿弥陀 探せども 夜中の森で 迷う蛍は川鏡 葉花しだれて 宵の街 ネオン流れて 嬌声の舞う宵の空 明星浮かぶ 空き地には 黒き松影 老舗を偲びて…青葉市子さんで「ゆめしぐれ」を...
雷鳴の 轟く空に 大のろし 子等の傘追う 広重の雨飛行船 航跡も白き 空の波 一路北へと 何をや運ぶ朝焼けの 到来に白き 月浮かぶ 甘き残り香 部屋に横たえ...
有線の 歌によせくる おもかげに 君が仕草か 白き雲ゆく人の世は 浮き事ばかりの 万華鏡 生良く正なり 死良く師なり天も地もひっくり返る 眩暈かな うなぎ上りの 陽炎の路…当真伊都子さんで「Fly」を...
祝詞たつ草葉の闇に 蛙かな 後の月隠して 夜も更けつつことわりも なく踏み入れば 花の寺に 紫陽花誇る 一松の古道行きあいの 白き漁港に 走り雲 ウミネコ昇る 虹のきざはし ...
いますぐに ゆくと答える まどの外 手をふるきみを 夏風は抱いて・・・・・・・・・・・五線譜と おぼしき道に パステルの 靴の符跳ねる 公園の輪舞 ・・・・・・・・・・・ 光さす 雲影乱れて 一陣の 翻る葉の 夏の息かな...
折につけ 忘るな本来 無一物 いつしか消える うたかたのわれ雲は風に 川は海にぞ 消え去らん 月も欠けるか 遠吠えの春 こころはうたかたの水面の揺らめき現れ消える湖面の反射のようだひとときの思いもまた去ってゆくあたかも影のみと寄り添って影に飲まれて夜を歩くか、影を友として日向を歩むか、それはみな思いのままか……...
緑風の ゆれる水面に 陽の光 アップダウンの 胸のまにまにはや五月。初夏は着々とやって来る。...
洗濯を 竿から盗む 急ぎ雨 晴天笑う 一息の珈琲洗濯を終えて録画した番組を見ようとすると突然の雨今日の予報はたしか…と思いきや明日の天気と勘違いしていたようだ急ぎ室内に取り入れると吐息ひとつ、あらためて腰を下ろしたのもつかの間立ち上がって湯を沸かし今度こそカップの珈琲に湯を注いだ香ばしい香りを浴びて録画した番組を見る途中視覚に差し込む光を感じ、ふと窓の外を見たすると青空が見えるなんと気まぐ...
「日が長くなりましたねぇ」「ええ 本当です。突然の暖かさが陽炎をつくっていますよ。ほら、そこ、見えませんか?」「見えたかもしれませんが、気づきませんでした」「大気もずいぶん春らしくなりましたね」「そうそう。あそこにはボウズたちが並んでいますよ」「ほう、土筆ですか。誰かに炒めると美味しいと聞きましたが…」「あれごま油と相性がいいようですよ」「ああそうなんですね。ほら聴いて下さい。聴こえますか?川も何...
わたしは一本の糸につながれている。母の子宮にいるときから誕生後も、臍の緒は切られてしまうけれども、透明な糸はどこか遠い空からずーっとわたしに降りている。「この子は泣かない子だね。」父がそういった時も。「きっと共働きの私たちを困らせないようにしているのよ。」母がそういった時も。わたしは不思議な糸が天井を抜けて消えていくのを見ていた。時々その生糸につかまって天井を抜け、暗い屋根裏を通り、屋根を抜けて...
せせらぎを 俯いて聴く さくらかな 春匆匆に 律華散らして川沿いに枝垂桜が咲いているその姿は川をのぞき込んでいるようそれとも聞き耳を立てているのか…夜はきっとせせらぎの音も高くなるだろう今日の月夜は美しいに違いない人もデコレーションのようだ 人も車もどことなく華やいでいる例年より早い桜の時期はことさらせわしなく春を短くする先日の花冷えでは雪が舞い今日は山々の残雪が空に映えているすぐに消え去...
ただこれっきりの一日がただこれっきりの一時が性急に、そして静かにあるがままに過ぎてゆく泣いて笑って過ぎてゆく怒って悔やんで過ぎてゆく力を入れても、抜いても根を詰めても、投げ出しても相変わらずにぼくの気持ちに無関心でぼくの体に寄り添うこともなくただ無心に過ぎてゆくそれでも何事もなく無事に過ぎてゆく一日には幸福のありのままの姿があるただこれっきりの一日にいのちはある息もある大気の中を、日暮れの中をぼく...
花冷えの 新芽に雨の 涙かな 喜びにみち ふるえて空へいろいろな新芽がふき出してきたと思ったら寒い風と冷たい雨が降ったそれでも草木は喜びに包まれているように見える期待に満ちてつぼみをふくらませ空にひかりを求めている弱く、まだ優しげだがいのちは激烈であるああ…ごきげんよう!まぼろしの春おまえが姿を変えるひとときに住むすべての生きものたちよぼくとともに季節に目を見張れ!...
笹やぶを かきわけて住む 赤鳥居 稲荷古びぬ たえて来ぬ人道を横にずれる丸木を組んで石を敷き詰めた階段入ってみる木々の枝が張り出し空を見上げると壊れたかごのようだ赤鳥居があり、その奥に稲荷がある稲荷も歩いていたぼくは歩いて来たともに旅路を歩いている木々のつぼみも草花のつぼみも芽吹いて太陽にむかって歩き出すぼくも歩き出す目覚めた蜘蛛も、蟻もせっせと歩き出すみんな運ばれていくぼくも踵をかえして...
陣を張る 腐葉の下は 古戦場 隊列組んで 水仙並ぶいつ芽が出たのかつぼみがそろって顔を上げている思えばここは古戦場だったらしい戦いで散った花はいつも徒花だった…それでも散り行くことにはちゃんと意味があったのだろうと思う帰りは神社に参拝でもしていこう日を追うごとに春である...
地蔵さま? ここにおわすは 道祖神 足もと開ける 若葉の道次まだ落ち葉や雪折れの枝が散らばる遊歩の道をあるいた。進むとヒガンバナの群生がある秋までに花の養分をためるためであろうか威勢がいい落ち葉の下にも新芽の草葉がかくれている目を覚ます春の道をこころに問いかけぼくに示しているようである...
大宇宙 山端をなぞる 星の海 夜をふかめて かおる梅花はいつの夜も新しい。朝に限らず。夕に限らず。強迫的な昼に限らず。魂をいざなうような神秘さで心を開いてゆく…宇宙よ。地球を包んでさすらう大いなる魂よ。ただ野生であれ、憐憫も、同情もなく、ただ鮮烈であれ。その鮮烈さゆえに生きとし生けるものの鏡なのだから。...
またひとつ 明かりの消えし 街裏で ひとり迎える 可惜夜の月春になるとベランダから夜の街を見るのが好きだ。街路灯の後ろで落葉の梢が動き始めている。もうすぐ闇に思い思いの顔をあらわすだろう。存在感を増して、それぞれの言葉で語りだすのだ。それは… もうすぐ。アパートの明かりが消えた。夜の明かりは不思議にこころをくすぐる。明かりはなにか存在の証明(照明)なのだ。空を見上げる。傾いていく月を見...
足しげく 通いなれたし セコイアの ゲートのさきに ユべリアの窓遠くなった過去を思い出した。うたのように足しげくというわけではないが、足しげく通えばよかったと何度も思った。今は通わなくなった公園にはセコイアやマロニエ、オオヤマザクラ、また低木のツツジやアベリアのブッシュがある。ベンチで待つことも楽しかった。公園を出るところに、道を挟んで宝石店があった。四季によってか少しづつ展示演出がかわっ...
春分けて こよみの中の 三月は きみと祈りと 彼岸に渡して…何年となく春はいつも分けてきた。季節を、過去を、わたしとあなたを、此岸と彼岸を…その永遠の刹那は、今ここに生きている私たちの刹那でもある。時は取り返せない。もし取り返すことができたとしても、その時は、いつも未来の時間となるだろうし、その未来の時間は、つねに過去の時となってゆく。まるで、時とはうつろう美のようだ。ただ、後になって振り返...
ものほしで 風に手をふる コートかな 寒凪のそらに わかれを告げて陸橋を越えてショッピングモールまで歩いた。風が心地よく、線路は立ち並ぶ家々に消えてる。ふと見渡すと洗濯物が多い。日光浴をしているようにもみえる。寒の虫干しといえるだろうか。東北にも早い春が来る。若い風があしにまとわりつく。腕にも肩にもまとわる。これは少年たちだな、とかんじる。そして、まだ少年であれ、とおもう。人と同じようにそ...
あゆむ子ら かげもゆらいだ あかね道 こだまかえして 行きゆきて聲茜空の道を数人の小学生が歩いている。それはいつの日の光景だっただろう。伸びた影が重なりあって恥を知らない声はよく通る。思わずハッとするその声は遠い過去から届く自分の声だ。それはまっすぐで心地よい。いつかまっすぐに話せなくなった者にはうらやましささえ覚える声だ。過去に思いをはせながら、歩きながら、自分の内奥の声に耳をすました。...
地上へと のびるひかりの 春の手は 枝もわたしも 小鳥も抱いて風が光を運んでいる。小さな庭に出る。ワームムーンの翌日、日なたの壁をクモが動いている。啓蟄も六日に過ぎた。土が活動を始めている。豆乳とトースト食し庭に出た。葉が生い茂り、日陰になる一角にスペースを作り、シェードを張ろうかと考えた。初夏には木陰でひととき思索にふけるのもいい。庭に出ているときガス設備の保安点検のしらせが来た。昨年...
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十、タイチとトモの道 その年の冬、寒い早朝のことだった。ヨシばぁの遺体が発見された。発見したのは近くに住むご近所さん、坂の下に住むミッチーこと宮下美千代、美千代が漬物をもって茶飲み話にいったところで発見された。死因は心不全だったらしい。シンクの前の床に倒れていて、近くに朝使ったと思われる割れた茶碗と箸が落ちていたという。夜には眠っただろうから、朝が来て起きだした後に永遠の眠りにつくことになっ...
八、視点が変わって見えてくるもの 死んでいく者にもいろんな気持ちが残るのだろう。カレイドスコープはアツシの視覚を借りて生きているときと変わらない人の欲や見栄、嫉妬などをマモルに見せた。中年の女性などは哀れな泣き声を上げている。その嘆きを訊いていると一生をかけて蒐集してきた衣服や貴金属を身に着けられないばかりか遺産品として兄弟や子供にいってしまったらしい、なんとも哀れだ。人生の時間が無駄になってしま...
八、視点が変わると立場が変わる 死んでいく者にもいろんな気持ちが残るのだろう。カレイドスコープはアツシの視覚を借りて生きているときと変わらない人の欲や見栄、嫉妬などをマモルに見せた。中年の女性などは哀れな泣き声を上げている。その嘆きを訊いていると一生をかけて蒐集してきた衣服や貴金属を身に着けられないばかりか遺産品として兄弟や子供にいってしまったらしい、なんとも哀れだ。人生の時間が無駄になって...
七、アツシのカレイドスコープ アツシの部屋には古びた骨董品のような机がある。以前粗大ごみに捨てられていたものを拾ってきたという。椅子はビール瓶のケースだ。二個積み上げてある。万華鏡は二つしかない引き出しの右に入っていた。手に持つとこれも古い。母に買ってもらったというが本当にそうだろうか?和紙のはげ落ちた筒はブリキでできているようだ。覗くと決まった形のピースが複雑な幾何学模様を描く普通の万華鏡だ。...
六、アツシは万華鏡を見ていた それから数日、アツシとは違う気配を部屋の外に感じるようになった。アツシが新たな仲間でも連れてきたのかと内心恐れよりも厄介ごとがまた増えるのかと気をもんでいた矢先のことである。「夜さ、誰かと話ししてるよね。もう来ないでくれとか、お前は死んだんだとか、あれ絶対会話だった。アツシって誰?」不意にタイチが言ったものだからマモルは飛び上がってしまった。部屋の外に感じた気配は...
五、台風一過のゲロ 台風九号が本土上陸で災害危険高まるといわれていたが運よく東へと避けて行った。一安心した。それでなくとも小さな台風が我が家に居座っているのだ。そして年齢も同じということから、たぶん同じクラスに来る。考えるだけで憂鬱だ。これも被害状況の拡大といえようか。次の日にはこれまで味わったことのない緊張感にさらされていた。もちろんタイチの登校日のことである。従兄弟としての紹介に始まり、そ...
四、アレルギーな従兄弟登場 ぼくは無様なゴミの町で暮らしている。通学路の二十分間にいやというほどそれを味わう。空き缶にペットボトル、それに空になったカップ麺。ペットのウンチも落ちている。途中にゴミステーションがあるが、指定曜日でない日にゴミを出すせいもあって、カラスが散らかしていることがある。醤油のミニボトルやお弁当仕切りのバランなどは臭いを発し、想像過多なぼくの胃袋は急に逆流しそうになることが...
三 トモの家にタクシーが止まった 日曜の朝、隣の幼馴染トモの家にタクシーが止まった。若宮友美。通称トモはぼくの一歳上になる幼馴染だ。なんとなく見ていると、トモの母親が両手にバックを持ちながらタクシーに乗り込んだ。トモも父親も出てこない。タクシーも走り去ってしまった。目線を離そうとすると裏口からトモが飛び出して来た。そして家庭菜園の畑を抜けて北の路地へと走って行く。ぼくは反射的に部屋を飛び出すと玄...
二、時間は消しゴムのように 時間は消しゴムのようにアツシの思い出を消していった。三週間になろうとする頃には話題に浮かぶことすらなくなっていた。時間は猛烈な勢いで出来事のすべてを過去にしてしまう。出来事はアルバムの片隅に納まって、記憶の部屋のどこかに片付けられて行く。もし過去に引っかかっていたら、現実や未来、ここでこうしている今の時間に取り残されてしまう。現実も一時の流行みたいなものなのだ。でもぼ...
一、アツシが死んだアツシが死んだ。シゲオもノリオもトモコもサチも泣いていた。ぼくの心は暗い底に沈んでいたが、悲しいともかわいそうとも思わなかった。涙すら出なかった。反対に心のどこかでは羨ましいとさえ思っていた。生前のアツシは学校ばかりか、父兄の間でも決して評判は良くなかった。いつも問題を起こし、意地悪もするし、万引きもしていた。どこかすねたところがあって、友達も先生も最後には無視するようになっ...
「干渉ってどういうこと。私の夢に干渉したの。そんなことできるの?」「欄さんは…これ言ってもいいかな…」「どうぞ」「欄さんは岩戸神社の巫女でね。そういうことができる体質なんだ」「…霊能者とか」確かに彼女の雰囲気を思うとまさにそんな感じ。「そうだね。そうとも言えるかな」すると欄さんが恐ろしいことを話し出した。「いいえ違います。私の半分は死んでいるのです。平田篤胤は幽世(かくりよ)こそ本世(もとつよ)とお...
…いきはよいよい かえりはこない…こないながらも…かえ~らんセ かえらんセ~ センジュフダには人封じと忌のイトが織られていたよ…静河はそう言った。そしてそれだけではない。静河は自分とは正反対の女性を連れていた。いわゆる影のような女性をである。全身黒づくめで季節柄暑苦しそうに見える。がその肌には汗のひとつも浮かんではいない。ロングの髪をポニーテールのようにまとめ後ろで何重にも結っている。肌色は白い石膏の...
携帯を手にしたまま寝付かれない夜を過ごした。連絡が取れないとしりつつも、圭太と雅人に連絡を入れてみるが何の反応もない。三時過ぎだろうか突然携帯が歌い出した。『とおらんセ とおらんセ~…ごようのないものとおしゃせぬ~ …わたしのみたまの願かけにおふだをおさめにまいります~…』 なに。なに…なんなの。歌を止めようと携帯を持つと画面にそれが見えた。着信『鳥場鏡子』と。えっ。どうして…ああ~貧血だろうか。未...
ごようのないものとおしゃせぬ~わたしのみたまの願かけに~おふだをおさめにまいります~… 三日が過ぎた。以前として圭太には連絡が取れないでいる。静河からはなんの返事もない。サークルの仲間にも尋ね回ったが誰も知らない。気にはしているようだが鏡子の名を出すとどこかとおじけづく。あんまりかかわらない方がいいよ。と言われるとますます鏡子という存在が暗い影を帯びていく。そんな中、大学の校門先でスーツ姿の男...
ある日サークルの教室で鳥場鏡子って子が二人のメイトと話し合ってたの。戸鞠圭太と中込雅人。鏡子と雅人は付き合ってたんじゃないかしら。その三人だけの場に入ってしまったという。何故か教室の空気が重かった。「ミチー。早いねー」鏡子がそう声をかけてくる。圭太は動揺していたし、雅人は消え入りそうだった。二人とも臆病になってた。すると鏡子が近寄ってきてこう言った。「ミチにもあげようか。これ」雅人が俯いているのに...
とおらんセ~ とおらんセ~ こ~こはど~このやまみちじゃ~… 私の前には従兄がいる。温和なつかみどころのない目をしている。だから会いに来たといってもいいけれど、従兄は美丈夫だ。ホントならイケメンというのかもしれない。でも従兄を評するには美丈夫が腑に落ちる言葉だ。派手なとこは一切なく、草紙絵から抜け出てきたような、なんというか人という生臭さを感じさせない存在だ。小っちゃい頃は女の子に間違...
床から起き上がると携帯を手にした。電源が入らない。電池切れ?耳を澄ませて窓を開けた。スーッとモーションだけで音がついて来ない。外に目をやると松の枝が見えた。風はなく松の枝もピクリとも動かない。ほのかに明るいことに気づき空を見上げた。昼と同じで雲が覆っている。少しおかしい。雲が妖しく光っている。蓄光材でも含んでいるように雲の動きと共に渦巻くのが見える。そしてあれっと気がついた。雲が動いているのだ。町...
八月も終りに近いある日。気温も湿度も高い呼吸も苦しくなる日が幕を開けた。サワは朝から頭痛に悩まされている。後頭部に針を刺されたような痛みが奥でずきずきと疼いている。何だろう。この眠くなる痛み。麻酔剤のしこりがじっくりと沁み出して頭全体に広がってくる。気温と湿度と頭痛の鬱陶しい空気が、外からも内からもレザーのように重くサワに張り付いていた。祖母まきの前で愚痴がこぼれた。「変な天気。頭の芯からずきず...
八月もいよいよ終りに近づいている。学期の始まる前控井早羽は実家に帰郷することにした。三ヶ月の間腑に落ちぬことに巻き込まれはしたが、今年のバイト代はかなりいいものになった。腑に落ちぬというよりも、こうして離れた今では現実かどうかさえ疑うときがある。しかし片山教授の言葉には不穏なものを感じていた。彼に脳がない以上にである。実際に脳がない例を知ることになったのだから。片山教授は永久凍土がパンドラの箱にな...
秋深し 人間同士の 黄昏か 死体を並べて 国土を讃うこころして 祈念が届く 神ならば 込めた思いが 世の有り様こもり人 生産性あらば 経済人 社会の参加 多様にありて...
人間は 同じ成分 同じ五感 前頭葉にふる スパイスの違い左右の手 神を似せたか 神真似の 生かすも殺すも エゴと知りえば投票率 最初に半分 放棄して 僅かな残りに 支持率争いて...
未来にも 過去にも起きた 始まりは 人は偏見を 学び直すこと喜びは 生きていることと 笑む子等の 希望に隠した 社会の保険夜には 目が見えぬのに 昼にも 見えぬ心うち 誰ぞあざむく ...
階段を 夜の明かりが 這っている 光も疲れて 背を伏す今日と明日へと続く 行く先知らない 労働は 明日に終わる 人々を知らず憎しみの 相貌(すがた)が魚に あったなら 鳥にも牛にも あったなら...
忍び寄る 終(つい)を見るか アキアカネ 道の上にて 天を眺める青空に 何を急ぐや 紅葉狩り 静かに座して ただ山となれコスモスに 止まるビードロの 秋津かな せわしく動く 球体の星で...
香ばしき 匂いたつかな 安銀座 煙も油も 甘き焼き芋も 血流に 耳を澄ませば 月の浜 赤き潮騒に 人は眠れる月も鳴く 時の奴隷の その中で 身を置き馳せる 壁の向こう側 ...
雨に濡れ 穂先に黄金の 粒ひとつ 落ちて生まれる こともあらばとバス窓に 点るボタンに さかのぼる 過去に見上げた 白き手のひと薬持ち 肌をなぞって 吹く風に 秋も来たかと 後にする店...
窓越しに 釣瓶も落ちる 早さかな うつむく夏の 星座残されて つかぬ間の 夕焼け空に 夕月夜 引き戸を開けて 月の客来る錦繍の パッチワークの 雅かな あれもこれも皆 こころと成して...
だんらんの 恋したるかな 秋の夜の 虫の音悲し 闇を呑み込みさわさわと ため息まじりの 秋の草 秋津止まりて 斜陽傾く行きあいの 雲の騒ぎて 刻々と 千変万化の ひかりのこだま...
秋戦 地面かすめて 兵急ぐ 風の羽借り 夏の虫狩る 鳩の鳴く 色なき風に 身を打たれ ついばみ捨てる 断捨離の秋遠雷の 青き光りが ひた走る 白黒の街に 鼓をひき連れて...
久延毘古も 変わり鳥追い 案山子かな 時代を写す ポーズ決めこむ 千社札 参拝あとの 後利益も 多数作善に 平和おとずれ通学路 黄色の帽子と ランドセル 弾んで歩く 金次郎の道… Sigrid で「 Home To You 」...
古民家の かまちの高さ 将棋駒 縁台の戦 時を重ねて築地塀 たわわに実る ゆずの日の 駆けて回った 願掛けの道ブランコの 先は校庭 赤き屋根 学びの校舎 人影も無くAlexis Ffrench で 「 Songbird 」を...
九月の偈 衰えしらずの 夏送り 煩悩の熱 下がるを知らず風箒 夏の懺悔を 集めつつ 業の火高く 空に送れば多数決 暴力と知らず 加担する 数の論理は 遠慮も知らず…Akira Kosemura で「 Fallen Flowers 」を...
日照り夏 葉の丸まりて 芽は枯れて 群がる蟻も 枯草に隠れ水滴の ふき出す先から 地に落ちる 雨を補給し 汗を放水す日常を 悪夢の底へ 落すかな 天災は忘れる 前にやってくる…洋楽で Imagine Dragons の 「 Demons 」を...
空高く 分水嶺から 吹き下ろす 野分ビル風 雷鼓のうたげ夏草の 香りかぐわし 雨上がり かかる虹にも 秋風の立つ風の道の そうそうと鳴る 草千里 馬草食みて 雲にいななき…「 夏影 」を...
海鳥と 台風一過の 土用波 雲棚連れて 白き手を振る夢のごと 立って座って 時失せて 老いた目で見た 現世のまぼろし 治めの夏 障子に影の モミジかな 枝をのばして 傘を捧げん…haruka nakamuraさんで『 Alone together 』を...
初音鳴き 夏は時雨て はた織の 音色すずしや 秋津たたずむ波騒ぐ ネットの海に 魚影あり 捕らえて上げた 雑魚と私と草闇の 奥で奏でる 蟋蟀の 眠りに落ちる ビオロンの絃…haruka nakamura×細川亜依 さんで 『食卓とピアノと』を...
雲切れて 光りさす世に 数知れず 青の落した ベリルのしずく 杞憂なる 未来も今も 誰ぞいる 数の論理に 個は失われメデューサの 首散らばって 落ちる空 ペルセウス座 冠いだいて…paniyoiodで『 ひかりのにおい 』を...
わびしくも 夏の一夜の 虫語り 秋立てばはや 潮騒とならん 炎天に 息を引き取る 蚯蚓かな 土から産まれ 土にぞ帰る星海の 上下左右に 底知れぬ 光と闇に ひとり棲み分け… [.que] で 「twilight 」...
つけ火かな 決意の程も 酒の宴 ガス欠過ぎの 空ぶかしもまた虫の音の 騒ぐ月夜に 一陣の 風の平手に 秋も立つかな目をみはる 頭上に蒼い そらがある 下にくすんだ わが身を置いて…[.que] さんで『 海辺にて 』を...