安藤元雄『恵以子抄』(書肆山田、2022年08月12日発行)安藤元雄『恵以子抄』(「恵」は、正しくは旧字。本文中も)は、妻の死を書いている。死を書いていると書いたが、死は書きようがなく、書こうとすればどうしても生にもどってしまう。その生は、妻の生であり、安藤自身の生である。そこに人間の悲しみがある。この不思議な感じ、どうしようもない何か絶対的な不条理が「恵以子抄」に書かれている。21ページから22ページにかけての、次の一連。思うように歩けなくなった恵以子のために家中に手すりを取りつけた寝室に居間廊下と階段手洗い洗面所や風呂場玄関に勝手口恵以子がいなくなって手すりだけが残ったいまは足腰の衰えた私がもっぱらそれに頼って暮らしている死は「いなくなる」ことである。それ以外のことは、わからない。死んだ人は死について...安藤元雄『恵以子抄』