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  • こころは存在するか(48)

    鈴木結生「ゲーテはすべてを言った」(「文藝春秋」2025年3月号)を読んだ。そのなかに「ジャムとサラダ」という「比喩」が出てくる。ジャムは混淆、サラダは渾然という概念に相当する。混淆は混沌とも言い換えられている。曼陀羅や万有ということばも出てくる。ストーリーを概念で彩りながら、ティーバッグのタグに書かれていた「名言」がほんとうにゲーテの書いたものが(言ったものか)を追いかける一種のミステリーである。ミステリーであるから、まあ、それでいいのかもしれないが、人間が描かれていない。「あ、こういう人間がいる」という感じで「肉体」が見えてこない。というのは、きょうの「枕」。鈴木が書いている「ジャムとサラダ」=「混淆と渾然」から、私は「無と空」ということばを思い出してしまった。「ジャム=混淆(混沌)=無」「サラダ=渾...こころは存在するか(48)

  • 鈴木結生「ゲーテはすべてを言った」

    鈴木結生「ゲーテはすべてを言った」(「文藝春秋」2025年03月号)ゲーテはすべてを言った鈴木結生朝日新聞出版鈴木結生「ゲーテはすべてを言った」は第百七十二回芥川賞受賞作。その書き出し。(ルビは基本的に省略。)先頃、私は義父・博把統一の付き添いで、ドイツ・バイエルン州はオーバーアマガウ村の受難劇を観て来た。統一が長年要職を歴任してきた日本ドイツ文学会から依頼を受けての取材旅行。といっても、間も無く定年を迎えようとする功労者に対し、ささやかな餞別といった意味合いも多分にある仕事で、PR誌「独言」に何頁でもいいから文章を書いて欲しい、との話であった。勿論、統一本人は至って真面目にこの仕事に取り組んでいたが、そうはいってもやはり久々のドイツ。(文藝春秋、P318)私は、「取材旅行」でつまずき、「ドイツ」で立ち上...鈴木結生「ゲーテはすべてを言った」

  • 小倉金栄堂の迷子(4)

    小倉金栄堂の迷子(4)小倉金栄堂の迷子あるいは破棄された詩のための注釈ふたつの断章と登場人物のリストのあとに、ページの中央に大きな文字で、そう書かれていた。夢のなかで、夢で見たと思った。あるいは、夢で見たと、夢のなかで思ったのか。わからないが、それは絶対に間違えることのできないことばとして、夢のなかへ何度もあらわれた。小倉金栄堂の、角がすり切れた函のなかから本を引き出したとき、雪のように舞い落ちた紙を拾い上げたとき、まだことばになっていないことばは、誰も書いたことのない詩集の書き出しを、まるできのう見た夢を思い出すように、思いついたのだ。「閉店です」と告げながら角口が階段をおりていく。足音が消え、シャッターを下ろす音が聞こえる。「きょうも『あの手』の本は一冊も売れなかった」という、角口がこころのなかに隠し...小倉金栄堂の迷子(4)

  • エミリア・ペレス監督「エミリア・ペレス」(★★★★★)

    エミリア・ペレス監督「エミリア・ペレス」(★★★★★)(2025年03月28日、キノシネマ天神スクリーン3)監督ジャック・オーディアール主演カルラ・ソフィア・ガスコン、ゾーイ・サルダナ奇想天外(と言ってはいけないのかもしれないけれど)のストーリーなのだが、そこから「奇想天外」を取り除き、「芸術」に昇華させているのは、この映画がミュージカル仕立てであることだ。ストーリーを突き破って、登場人物の感情が爆発するとき、それが「会話」のトーンから「音楽」にかわる。「芸術」になる。この映画は、ストーリーをみせるものではなく、「感情」を爆発させる、「感情」そのものをみせる映画なのである。と、書いて、ふと思うのは、「ミュージカル」に相当する日本の芸能(演芸)とはなんだろうか、ということ。歌舞伎、かもしれないが……。私は、...エミリア・ペレス監督「エミリア・ペレス」(★★★★★)

  • 小倉金栄堂の迷子(3)

    小倉金栄堂の迷子(3)『破棄された詩のための注釈』という本があった。100ページもないのに、箱に入っている。売れ残った他の本の箱と同じように、角がこすれて毛羽立っているということばは、削除され、かわりに本を引き出したのと同時に一枚の紙がふわりと舞った、と書き直された。北陸の冬の海。雪のように、カモメの羽毛が舞う、そのように、とブルーの万年室で書かれたことばはつづいていたが、そのことばこそ破棄されなければならない詩である、と詩人は書いている。一行の余白があり、小さな文字で「登場人物」というタイトルで、ことばが並んでいる。目次のように。海の匂いのすることば、海から帰って来たことば、肩に雪をつもらせたことば、淫らなことば、淫らなことばに侮辱されたと感じていることば、ノスタルジーに汚染されたことば、繊細なことば、...小倉金栄堂の迷子(3)

  • 小倉金栄堂の迷子(2)

    小倉金栄堂の迷子(2)路面電車が通りすぎる寸前、小倉金栄堂へ入っていく「ことば」が見えた。帽子を目深に被り、顔を隠すようにしている。夢のなかなので、路面電車の影に隠れたにもかかわらず、店員の角口をつかまえ「あの手の本はないのか」と聞いているのが見えた。私のまねをしている。間違いない。「あの手の本はちょうど売り切れたところだが、二階にはまだだれも目をつけていない本があるはずですよ」先回りして二階で待っていたが、だれも上がってこない。夢の階段を踏み間違えたのか。路面電車のパンタグラフがまき散らす火花の光が書棚を走る。そのとき、一冊の本が目に入った。『削除された詩のための注釈』。私が盗んだメモに書いてあったことば。それが詩集になってしまっているのか。あるいは、これは特別な思想書の、手の込んだタイトルなのか。「逃...小倉金栄堂の迷子(2)

  • Estoy Loco por España(番外篇468)Obra, Juancarlos Jimenez Sastre

    Obra,JuancarlosJimenezSastreEstaobradeJuancarlostieneunritmomisterioso.Ensusobrashautilizadomúltiplesmateriales,entreelloshierro,piedraymadera.Tambiénhabíaallíunritmoúnico,peroelritmodeestaobranoeselquesecreanmediantelaunióndediferentesmateriales.Esunritmoquenacedelencuentrodesólidos,planosylíneas.Estafotografíatieneotroritmotambién.¿Lacosaparecidaalasuci...EstoyLocoporEspaña(番外篇468)Obra,JuancarlosJimenezSastre

  • 池田清子「三月、歌ってくれないか」ほか

    池田清子「三月、歌ってくれないか」ほか(朝日カルチャーセンター福岡、2025年03月17日)受講生の作品。三月、歌ってくれないか池田清子すぐに終わると思っていた三年前の三月突然の破壊穏やかに人々の暮らしていた美しい街並み本当は春に向かって明るい豊かな三月らっぱ水仙、レンギョウ、ユキヤナギ、ムスカリ・・・自由で伸びやかな三月終わるまで書き続けようと思っていた詩も2回でとん挫無力さを恥じるこんな時昔は若者が歌っていたよね「イムジン河」「戦争を知らない子供たち」「死んだ男の残したものは」「フランシーヌの場合」・・・ねえ、髭男よ、YOASOBIよ、Mrs.GREENAPPLEよ歌わないか、歌ってくれないだろうかボブディランのように風に吹かれて「三年前の三月/突然の破壊」はロシアのウクライナ侵攻を指す。それは五連目...池田清子「三月、歌ってくれないか」ほか

  • Estoy Loco por España(番外篇467)Obra, Jesus Coyto Pablo

    Obra,JesusCoytoPabloLoscuadrosestánpensados​​paracolgarlosenlaparedycontemplarlos.Peromegustaríaverestecuadroenelsuelo.Enlugardemirarlodesdeelniveldelosojos,megustaríamirarlodesdearriba.Creoquelarazónporlaquemesentíasíprobablementeestárelacionadaconelclimadeesteaño.Esteañoelfríohaduradomásdelohabitual.Cayónieveenmiciudad,Fukuokatambién.Loqueserepresentaen...EstoyLocoporEspaña(番外篇467)Obra,JesusCoytoPablo

  • 小倉金栄堂の迷子(1)

    小倉金栄堂の迷子(1)「ことばが逃げ出した」。夢のなかへ、顔色をうかがうことが得意な「ことば」が密告しに来た。駆けてきたらしく、やっと、それだけを言った。私は、雪道で転び、大腿骨を骨折し、手術の麻酔のあいまいな意識のなかで、そう知らされたのだった。「どのことばだ」と私は聞き返したが、麻酔の夢から覚めると同時に、密告した「ことば」は消えてしまい、同時に「こたえ」も消えたのだった。しかし、私にはわかった。「あのことば」に違いない。小倉金栄堂の二階、売れ残っていた『廃棄された詩のための注釈』だったか『廃棄された注釈のための詩』だったか、タイトルははっきりとは覚えていないが、その本に、栞のようにノートの切れ端が挟んであり、そこに書いてあった「あのことば」。活字のように正確な文字。群青のインク。メモというよりは、テ...小倉金栄堂の迷子(1)

  • Estoy Loco por España(番外篇466)Obra, Joaquín Llorens

    Obra,JoaquínLlorensAmímeparecequelasobrasdeJoaquínhancambiadounpocorespectoaantes.Losmovimientossonsuavesynaturales.Sientocomosielhierrosehubieramovidonaturalmente,omásbien,hubieracrecidonaturalmentecomolasfloresylasplantas,tomandosuformaactual.Enotraspalabras,laformaqueveoaquínosonlasformasfinales,sinoquecontinuaráncreciendoycambiando.Cadaparteestáatenta...EstoyLocoporEspaña(番外篇466)Obra,JoaquínLlorens

  • こころは存在するか(47)

    大岡昇平全集6(筑摩書房)『事件』。映画にもなった作品。166ページ。金田町という都市隣接町村の生活の姿全体が、事件の背景として、浮かび上ってきた。これこそ菊地の望んでいたことであった。「全体」ということばに注目した。「全体」がなくても意味は通じるが、大岡は「全体」ということばをこそ書きたかったのだと思う。この部分は、弁護士・菊地の「思い」なのだが、それは同時に大岡の「思い」そのものだと思う。大岡は「野火」「俘虜記」を書いた。それは戦争の「一部」であった。個人的体験であった。戦争の「全体」ではなかった。だから、大岡は、あの『レイテ戦記』を書いたのである。もちろん『レイテ戦記』が、日本が体験した「戦争全体」ではない。しかし、大岡が体験した戦争の「全体」と言えるだろう。(アメリカ、マッカーサーの思いを含んだ「...こころは存在するか(47)

  • 犬丸治「歌舞伎座『三月大歌舞伎』」(2)

    犬丸治「歌舞伎座『三月大歌舞伎』」(2)(読売新聞、2025年03月11日夕刊、西部版・4版)歌舞伎で何を見るか。歌舞伎をほとんどみたことがない私が、歌舞伎の批評を書き続けている犬丸の文章を批判しても無意味かもしれないが、少し補足しておく。きのう引用した文章の前に、次の文章がある。白装束姿で切腹する菊之助の判官=写真右=が清冽で、客席も粛然と、咳ひとつしない。さて、この「清冽」「粛然」を引き出したのは「白装束」だけなのか。それでは芝居を見たことにならないだろう。写真を見ればわかることだが、菊之助の腰が少し浮いている。ここに芝居のポイントがある。切腹は座ってやるものだが、菊之助は腰を浮かせている。なぜか。ほんとうに力を入れるには正座のままでは無理がある。力を込めるには全身の力が必要である。そのために、自然と...犬丸治「歌舞伎座『三月大歌舞伎』」(2)

  • 犬丸治「歌舞伎座『三月大歌舞伎』」

    犬丸治「歌舞伎座『三月大歌舞伎』」(読売新聞、2025年03月11日夕刊、西部版・4版)私は歌舞伎をほとんど見たことがないし、その批評もほとんど読んだことがない。きょう紙面を開いたら、いつもの倍くらいのスペースで批評が載っていた。「仮名手本忠臣蔵」についての評である。私が、それを読んでみる気になったのは、ひとつはいつもより広いスペースをとっていることと、私が日本語を教えている生徒(アメリカ人)が日本文化に関心を持っていて、歌舞伎・人形浄瑠璃で「仮名手本忠臣蔵」を取り上げたことがあるからだ。いま彼はアメリカにいて、今度来日したとき、これを教材につかってみようと思ったからである。ちょっと前置きが長くなったが。犬丸治の書いている批評には「菊之助と松緑主従の絆鮮明」という見出しがついている。これは、まあ、なんとも...犬丸治「歌舞伎座『三月大歌舞伎』」

  • 特別講座「谷川俊太郎の魅力」

    3月15日、朝日カルチャーセンター福岡で、特別講座「谷川俊太郎の魅力」を開きます。一回完結の講座です。教室参加でも、オンライン参加もできます。ぜひ、ご参加ください。当日申し込みも受け付けますが、料金が550円追加になります。ぜひ、事前に予約してください。詳細は、チラシの写真で確認してください。特別講座「谷川俊太郎の魅力」

  • 外交とは何か(米・ウクライナ協議決裂について)

    私は、トランプとゼレンスキーの「協議」をテレビで見たわけではない。テレビで見ても、英語がわかるわけではないから、理解できなかったと思うが、読売新聞の報道(2025年03月02日朝刊、14版、西部版)で読む限り、ゼレンスキーは「外交」というものをまったく知らない。私は人間関係を読むのが苦手で、「外交」には向いていない人間だが、そういう私から見ても、ゼレンスキーは馬鹿だなあ、と思う。こんな会話がある。会話の順序として、前後するのだが、協議の途中でのやりとり。バンスあなたは一度でも「ありがとう」と言ったか。ゼレンスキー何度も。バンス違う。この会談で言ったか。ゼレンスキー今日も言った。協議は記者団のいる前で行われている。そうした場合、ゼレンスキーが、何度「ありがとう」と伝えていたとしても、もう一度、協議の前に、記...外交とは何か(米・ウクライナ協議決裂について)

  • すぎえみこ「かみいちまい」ほか

    すぎえみこ「かみいちまい」ほか(朝日カルチャーセンター福岡、2025年02月17日)受講生の作品ほか。かみいちまいすぎえみこかくかかかぬかかかずにいるかかけずにいるかかこうとするかかくまいとするかかいていこうとおもうのかかいていきたいとねがうのかかいたらなにがよろこぶのかかいたらわたしのこころがよろこぶすぎが書を書いていることを私たちは知っている。そのためだと思うが「かく」を「書く」ととらえた上での感想がつづいた。「哲学問答、こころの対話」「かくという動詞だけでいろいろな問いをひきだすところがおもしろい」「わたしのこころへまでことばを動かしていくのがすごい」「ひらがなで書かれているのも、おもしろい。タイトルのかみは紙だろうけれど、神かもしれない」「かくのかわりに、泣く、笑うというようなほかの動詞でも詩がで...すぎえみこ「かみいちまい」ほか

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