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谷崎潤一郎の作品群ではしばしば母恋いのテーマが展開される。これは評論家江藤淳も指摘することである ― 「(谷崎潤一郎)氏の心の底には、幼いうちに母を喪ったと感じさせる深い傷跡が刻印されていたはずである。そうでなければ「母を恋い慕う子」というライト・モチーフが、谷崎氏のほとんどすべての作品に一貫するはずがない」(「谷崎潤一郎」「江藤淳著作集 続2」所収)。江藤淳自身、4歳の時に実母廣子を失い、晩年に美しい「幼年時代」を著した母恋いの人であり、晩年に長い谷崎論執筆を準備していただけに、この指摘は鋭い。 抱擁してくれるはずの母親は外出を好み、その不在は常態化し、乳母とふたりで寝る谷崎は悲しみを抱え込…