飯田木工所の赤木さん--10
「怪我だけはするなよ」 経緯を伝えると兄はそう言った。確かにその面の不安はある。工場には刃物の類が沢山ある。回転する機械が多い。その殆どに歯が付いている。巻き込まれることだってあるかも知れない。 一応はそれも考えないでもないが、そんな時、ふとあのトイレ男の姿が浮かぶのだ。注意の欠片もないようなだらしない感じ。あんな人で、と言っちゃ申し訳ないが、あれで務まっているのだ。 「保険も入らんで危ない仕事ができるのか」 兄は重ねて言った。確かにそうだ。怪我をしても見舞い金ひとつ出る雰囲気じゃない。事業所そのものがバイトのために保険に入るなど、ありそうもなかった。 「俺は気が進まんな」 予感が働くのか、決…
2024/09/26 14:17