神殿の奥、第一の試練の間は、まるで湖底のようだった。壁も天井も、水に覆われたかのようにゆらぎ、音がすべて鈍く響いた。足を踏み入れるたびに波紋が空間に広がる。だが、それは本物の水ではなかった。ただの幻か、それとも記憶の残滓か。「ここ……どこか懐かしい……」ミリアが呟く。言葉と同時に、空間の中央にぽつりと浮かび上がったのは、一枚の鏡だった。鏡は水面のようにたゆたっており、誰が覗いてもその奥に“自分の記憶”が映し出される。リオネルが鏡に近づくと、鏡面に淡く、過去の光景が揺れた。まだ幼い自分。誰かの手を振り払って、走る姿。父の怒鳴り声。母の沈黙。──そして、家を出たあの日の、空の色。「……やめろ」彼は顔を背けた。だが、鏡は誰の声にも応えず、ただ映し続ける。カイもエリスも、皆がそれぞれの記憶に向き合っていた。希望で...第七章:記憶の水鏡