翌朝、ユウキはいつもより早く目を覚ました。窓の外には、静かな曇り空が広がっていた。どこかまだ夢の余韻を引きずるような感覚が残っている。あの砂の荒野、そして、僧侶の姿。言葉のひとつひとつが、心の奥底に沈殿していた。――「空を知れば、執着は風のように消える。」意味はわからない。けれど、わからないままではいられない。ユウキは、前夜に読みかけた『般若心経入門』をもう一度開いた。ページをめくる指先が、今度は少しだけ、確信をもっていた。「空とは、実体のないことではない。それは、すべてが変化し、関係性の中にあること。」本の一節に、目が止まった。「すべてが、関係の中にある…?」ユウキは声に出してみた。けれど、その言葉が何を意味するのか、すぐには理解できなかった。彼の頭には、「空=無」「空っぽ」「意味がない」というイメージ...第3章:空の意味