束ねられた光でできた映像を見るとき、そこにはないはずの体温があって、鼻腔が乾いて、自分のものではない思いが湧き出る。それは自分と外界を隔てるガラスに結露となって形を成して垂れていく。口が乾いていく。安そうな紙コップに入った割高のジンジャーエールで喉を潤すと一瞬だけフィクションの世界に引き戻される。でもそれは炭酸の泡のようにはじけてまたノンフィクションへ戻っていく。そこでのあなたは雑魚なのです。脇役なのです壁なのです。何が起きようと手が出せない。でもそれってフィクションでも起こるよね。そのことに気づいたときジンジャーエールの辛さが舌を突きくたびれたソファーの匂いが鼻につくようになる。背もたれの居…
舞い散る雪は誰かのつまらなさ。乾いた感想。言葉にするほどでもない思い。だから酷く冷たい。発することも聞くことも求められなかった言葉は凍りついて、はらはらと控えめに降ってくる。舌に乗せれば最初から何もなかったかのように溶けて消え、なんの味も残らない。 冷たい空気だけがそこにあった。氷の匂いが鼻腔を刺す。地面に着こうとした瞬間風が拭き弄ばれてまた落下するのを繰り返し、なかなか消えさせてくれない。かと思えば樹木にへばりついて消えるどころか塊になってしまっている。 消えたいのか。消えたくないのか。消えさせてくれないのはその言葉の執念だ。伝えなければならなかった人でなくても良い。自分を聞いてほしい。冬の…
私は死んだら地獄にゆくのだと、エスカレータ式に進学した学生の時のようにそれが当然と思っている。天国は信じていないのに地獄は信じている。そもそも清廉潔白な人間を信じていないから、天国も信じていない。 あるとしたらそれは多分ちょっとましな地獄くらいなもので、誰かの描く理想郷などではないと思う。私は自分のみを守るために嘘をつくし、無神経な言葉で他人を傷つけるし、自分自身の扱いすら適当で、他人に優しくするのは自分が優しくされたいためだし、話を聞くのは話を聞いてほしいからだし。 かといって私は私を好きかというと、どちらかといえばかろうじて好き、くらいで、かといって嫌いかと言われればそうでもない。好きでも…
爪やすりを武器のように持って人指指の爪を研いだ。表面を磨き綺麗に光を反射するようになったらベースコートを丁寧に塗り、それが乾いたら真っ赤なマニキュアを塗る。中指も同じく光らせたあと青色のマニキュアを塗る。何度も何度も塗り直す。分厚くなるまで何度も何度も。これは武装だ。私が簡単にできる武装。いつもより長く尖り鋭く光りビビッドに染め上げられた爪。トップコートで防御力を補えばそれは何物も切り裂く刃になる。薄っぺらい夢想や下らない虚構。ばかじゃない、と私は爪で引っ掻き本を破る。その行為が喩え一粒の狂気だったとしても。 (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)
首と顎の境目についたロープの跡が瘡蓋になって、つつくとポロポロと剥がれ落ちた。これは僕の勇気の証であり、失敗の証であり、生きるためのたった少しの燃料である。僕がロープを結んでいるとき誰かは花束を結び、僕がロープをかけているとき誰かは恋人のコートをかけていた。僕が輪を首に通したとき誰かはお気に入りのネックレスを着け、僕が体重をかけるとき誰かはふかふかのベッドに身を任せた。僕がこの思いを抱いたとき誰かが産声を上げ、僕が決意したとき誰かは婚姻届に印を捺した。僕が諦めて首からロープを外したとき誰かはタートルネックを脱いで、僕がむしゃくしゃして刃物を持ち出したとき誰かは肉を細切れにしていた。 僕が生きる…
酒に酔って書く文はアルコールの匂いを含んでそれでいてつまにみぴったりだ特にこんな一人でしっぽりしたい日にゃ自分のための言葉が特に美味くて旨くてしょうがないそこにあるのは万年筆だがそのインクですら飲みたいほどに酒に言葉に溺れて乱れ (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)
社会の縮図というけれど縮めてしまっては意味がない切り捨てられた小数点以下それはもしかしたら私で社会にいないことになっているそしたらきっと楽だろう幽霊のように日々を過ごし社会貢献など意味はなくそこに私はいないのだ (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)
あなたがわたしに触れるとき考えていることはわたしではなくあなた自身のことだ自分の熱を確かめるためあなたはわたしに触れようとするでもわたしは温度計などではないのでその手からするりと逃げるのです (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)
愛してると呟いたときに伝わる温度のいくらかはマガイモノだ平熱より上った体温の差は嘘偽りで平熱でそれを伝えられるようになったときはじめてそれは本物に成り代わるけれど嘘偽りの熱はあまりにも魅力的だだから世界はこんなに嘘と偽りにまみれている (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)
明日へ行きたくないから眠らなかった眠って目が覚めたら明日になってしまうだから私は眠らなかったでも気づいたら寝て気づけば明日だったどう足掻いたって明日ってやつは私のもとへやってきて私の邪魔をしていくんだだったらいっそ立ち向かってやる私は目覚まし時計をかけて眠った (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)
絶対なんて言葉信じてないんだ絶対って言う奴はみんな嘘つきだった絶対って言葉を使わないやつほど絶対信じられるんだ (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)
摘み立ての葡萄を少女が踏みつけると透き通った果汁が固まって紫色の宝石になるらしいそれは穢れた男が握るとあっという間に溶けてしまってだから女性しか身に着けられないあの人の胸元であの人の指であの人の耳たぶで光っているものそれはあの人の清らかだった証 (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)
加湿器の水蒸気がときおり空気とともに入ってくる。この水分は乾いた私を救う無数の宝石たち。淡いLEDに照らされ青く光ると家の中なのに森の中の匂いがする。ここは青く光る葉のなる森だ。湖から浮き出たものたち。それはさざれのように私に流れ込む。 (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)
甘いものが苦手な君バレンタインにチョコを送るのは製菓会社が始めたことで外国では花束を送るそうだだけれど君は花束よりも僕との美味しい食事が好きってことちゃあんとわかっているよ寒い日に二人で鍋をつつく締めは雑炊たっぷり満喫してほら幸せなバレンタインだ (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)
それはもしかしたら夢だったかもしれないだってその思い出だけうまくなぞれないのだ輪郭すらおぼろげで舞台も役者もぼやけて見えるけれどそれは夢じゃなかった私の忘却は既に始まっているみかんの腐る匂いがする (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)
憧れだった。それは期待と羨望でできていた。そして今思い返すとそれは郷愁と悲哀になった。子供の頃の秘密基地。自然の匂いと無機質な音。そこに宿る子供たちの気配。その気配はもうどこにもない。 (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)
私の腕の赤い跡からぽたりと雫が落ちていった。それは詩になるはずだった言葉だ。落ちてしまったのだからそれがどんな言葉だったのかわからない。多分今まで落としてきた雫は組み合わせたらきっといい詩になるだろう。赤い液体に隠れた言葉。それを確認するために、私は今日も言葉を紡ぐ。 (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)
遅刻する! と連絡が来た僕は 了解 とだけ返信した彼女は大体8割の確率で遅刻するでも僕はそれを許す何故なら彼女の遅刻は僕のためだから僕と会う時は可愛くいたいからとこだわって努力してくれているからでも僕的にはそのままの君が好きだから気にしなくてもいいのにな (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)
音声波形が君の声を形として表している僕の声の波形とは全然違う波が表示されていてなんとなく君の声の方がなめらかな気がしたこの波形が僕の鼓膜を震わせているのかと思うとこの棒線グラフすら愛おしく思えてくる視覚で捉えられるようになった君の声それは僕を耳と目から優しく包んでくれるのだ (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)
太陽が涙を流したらしいいつもは雲に泣いてもらっているのに月と喧嘩してしまったらしいだから最近新月なのだ真っ赤な涙は零れ落ちるたび結晶になって降り注いで地球の大地を穿ち抉ったそれを見ていた月はすぐに彼女の光を反射して仲直りしようと声をかけた (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)
月が欠けていくのを何もできずに見ていたあの冷たそうな光は太陽の光の反射だからきっと見た目よりもずっと温かいのだろう今度欠けたら月はもう元に戻らないらしいあの光が見えなくなってしまうのは残念だ僕は発泡スチロールを削って丸い形にして自分だけの月を作ろうとした (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)
それはまだ花開く前蕾を膨らませている最中のこと君は確認しているどのタイミングでどのように花咲くべきか君は戸惑っている周りが次々花咲く中君は焦っている自分が花咲くことで何が変わるのか今かもしれないまだかもしれない君はまだ花開かないでいる (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)
微熱があるときの世界は違って見えるいつもよりも高い温度を纏う世界吸う空気は冷たく吐く空気は熱を持っているお水はいつもより冷たくて飲むとぞわりと背筋に走る熱いお茶は温度が近づいただけ飲みやすくゆったりと体に染み渡る重たい体で見る世界少し呂律が回りにくく話すスピードもゆっくりだ世界の速度が遅くなっている世界の彩度が曖昧になっているぼんやりとした頭で過ごす世界冷たい枕で眠るのが心地良い放熱するときの血液の循環を感じるとき私はより生を感じるのだ (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)
夕方、薄暗くなり、向こうにいる人の顔が見えず姿の影だけ見える頃逢魔が時ともいうその時刻、私は見た気がするのだ木々の痩せ細った枝に積もった雪が自重に耐えかねバサバサと落ちるその間雪と雪の間に君によく似た色白の雪の精が座っていた (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)
あの人の指が私の輪郭をなぞる想像をするそれだけで私の体は熱を持つあの人の熱とぶつかって交わりたい体をぴたりと密着させてシーツに二人分の汗と匂いが染み込んだら私とあなた、もう離れない互いの香りと体温を求めて世界にふたりきりになる (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)
足音が追いかけてくるヒールの高いこつこつという足音私はそれから逃げるように早歩きになるするとその足音のテンポも速くなるこつこつ こつこつそれは私を追い立てるいつも私を追い立てる早く歩け 早く動け 早く働け私はその足音から逃れることはできない (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)
君の根底にあるものはなんだろう子供の頃の思い出?お母さんに言われたこと?お父さんと一緒にやったこと?先生に教えてもらったこと?友達と喧嘩したこと?その思考は呪いのようなものだ底にこびりついて剥がれないこれから君は変わるのかなそれとも変わらないでいるのかな (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)
ころされるかもしれない、と思ったことがある。それは誰でもない、私自身にだ。どうやって私を殺すのか。絞殺か毒殺か殴殺か。階段の上から突き落とされるかもしれない。だから階段を歩くのが怖かった。寝てる間に首を絞められるかもしれない。だから眠るのがこわかった。 そんな妄想に取り憑かれていた。強迫観念のような殺意。それは私を取り囲んでいた。逃げようにも逃げられない。私はずっと怯え恐れていた。あんなに死にたがっていたくせに。殺されたかったことだってあるのに。私は私に殺されたくなかった。 あのときの殺意は私の皮を被った何かだったのだ。あれは私ではなかった。ふわふわと漂いながら私を弄ぶ。あれは私ではなかった。…
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