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怖い話と怪談の処 https://kaibana.hateblo.jp/

怖い話、不思議な話が大好きな人は是非御覧ください。 怖い話はあり(出来)次第アップしていきます。

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2024/01/28

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  • 深夜3時に近づいてくる音

    これはとある社会人のKさんから聞いた話。 Kさんは、最近引っ越したばかりのアパートに住んでいた。 築年数はそれなりに経っていたが、立地も良く、何より家賃が手頃だったため、すぐに決めたのだ。 窓からは小さな公園が見え、日当たりも良く、Kさんは新生活に期待を膨らませていた。 引っ越してきて数日経った頃、Kさんは夜中にふと目が覚めた。 時計を見ると午前3時。

  • 薄暗い書架にあった黒ずんだ本

    これは、Sさんという方が学生だった頃の話。 Sさんは大学で歴史学を専攻していた。 特に興味があったのは、郷土史。 地域の小さな図書館に通い、古い資料を読み漁るのが日課だった。 その図書館は町の中心部からは少し離れた、ひっそりとした場所にあった。 建物自体も古く、天井が高く、木製の書架がずらりと並び独特の埃っぽい匂いがした。 訪れる人もまばらで、静寂が常にその場所を支配していた。

  • 休憩室にいた4人目

    夜勤のBさんは、いつものように仮眠を取るために休憩室へ向かったのだが、4つあるのベッドがすべて使用中だった。 仕方なく、誰かが起きてくるまで仕事を片付けることにした。 しばらくすると、3人の同僚が起きてきてBさんに声をかけた。 「あれ?Bさん、まだ仮眠取ってないんですか?」 Bさんは、仮眠室のベッドが4つ埋まっていたから使えなかったと説明した。 すると同僚たちは不思議そうな顔で言う。 「廊下側が1つ空いてたじゃないですか」 「そんなはずはない、確かに4つ埋まってたよ」

  • 無人駅の背後に座った何か

    ある年の夏、Kさんはいつもの地方の無人駅のホームで、最終電車を待っていた。 残業で遅くなってしまい、疲れた体をひきずって辿り着いたこの駅には、最終の到着を待つ乗客はKさん一人だけだった。 深夜の駅のホームは、街灯の明かりがぼんやりと照らすだけで、物音ひとつしない。 普段なら虫の鳴き声がうるさいのだが、この日は虫の声すら聞こえず、ただただ静寂がKさんを包んでいた。 その時、背後のベンチから「きしり」という小さな音が聞こえた。 誰かが腰かけたような、そんな音だった。

  • 地図にない迷い込んだ谷

    今回この話は2つのバージョンを用意しましたので、お好きな方をどうぞ。 1つ目 Iさんは大学の登山サークルに所属していて、その日は仲間たちと連れ立って、少し険しい山を訪れていた。 新緑が眩しい季節で、鳥のさえずりが心地よく響く、ごく普通の登山になるはずだった。 しかし、途中で道を間違えてしまったのか、Iさんたちはいつの間にか、地図には載っていない谷間に迷い込んでいた。

  • 悪天候の時、山小屋の窓に…

    Sさんは学生の頃から登山が趣味で、社会人になってからも週末になると、一人で山へ出かけることが多かった。 その日もいつものように単独登山を楽しんでいたのだが、予報にない悪天候に見舞われ、急遽、山中の避難小屋に泊まることになった。 小屋は古く、軋む音が不気味に響く。 Sさんは持参した食料を広げ、ラジオで天気予報を聞いた。 夜遅くになるとさらに荒れるらしい。 不安を覚えながらも、疲労からすぐに眠りについた。 深夜、ガタガタと窓が揺れる音で目が覚めた。

  • 祠の中の見てはいけない石像

    Nさんは、数年前から登山に没頭している。 普段から人の少ない、整備されすぎていない登山道を好んで歩く。 その日も、彼は地図には載っていないような古い山道を、気ままに探索していた。 鳥の声だけが響く静かな山の中、踏み固められた道は徐々に細くなり、やがて獣道へと変わっていった。 Nさんはそういった道を進むのが好きだった。 未知の風景に出会える期待感が、彼の好奇心を刺激する。 しばらく獣道を分け入って進むと、ふと、道の脇に不自然な空間があることに気がついた。

  • 森林公園のブランコ

    ある晴れた週末の午後、Yさんは小学生になる娘を連れて、山のふもとにある森林公園を訪れていた。 都会の騒がしい場所と違い、休日でも人がまばらで、静かに過ごしたい家族にはうってつけだった。 Yさんの目的は、娘がネットで見て興味を持った、園内奥にある木製遊具だった。 木製の滑り台やジャングルジムでしばらく遊んだ後、娘はふと、その奥にひっそりと佇むブランコを見つけた。 それは古びた木製のもので、使い込まれた座面はすっかり色褪せ、鎖は錆びついていた。

  • 展望台の赤い手

    Mさんたち大学生グループは、休日を利用して近場の山に登山に来ていた。 新緑が眩しい季節で、道中も賑やかに談笑しながら、ゆっくりとしたペースで山を登っていく。 ちょうど昼食を終え、もう少しで頂上というあたりで、小さな観光展望台に立ち寄ることにした。 展望台は、山の景色を一望できる開けた場所にあり、頂上付近の少し手前に位置する。 小さな東屋が建てられ、中には木製の古びた望遠鏡と、休憩用のベンチがいくつか設置されていた。 普段なら観光客で賑わう場所だが、その日はあいにくの曇り空。 人もまばらでひっそりとしていた。 遠くの景色も霞んで見え、少し肌寒い風が吹き抜けていく。

  • 白い布のテントと黒い塊

    夏も終わりに差し掛かった頃、Hさんは山の中腹で野営の準備を進めていた。 日はすでに傾き、周囲は急速に薄暗さを増していく。 湿った空気が肌にまとわりつき、あたりには濃い霧が立ち込め始めていた。 視界は悪く、わずか数メートル先も見通せないほどだ。 そんな中、Hさんの視界の先にぽつんと白い塊が浮かび上がった。 目を凝らすと、それはどうやら真っ白なテントのようだった。 こんな高地に他の登山者がいるとは珍しい。 Hさんは訝しく思いながらも、近くに誰かがいることにわずかな安堵を覚えた。 登山仲間だろうし、挨拶をしに行こうかな…と、Hさんは白いテントへと足を進めた。

  • 写真に映っている5人目

    Kさんが友人たちと5人でグループキャンプに来ていたのは、夏の終わりのことだった。 山奥のキャンプ場は、昼間は賑やかだったが、夜になると虫の鳴き声だけになる。 5人は焚き火を囲み、酒を飲みながら談笑していた。 持参した一眼レフで、キャンプの思い出にと写真を撮り始めたのは、友人のTさんだった。 焚き火を背に4人全員で肩を組み、笑顔でレンズを見た。 「はい、チーズ!」 Tさんがシャッターを切る。 すぐに撮れた写真を確認すると、妙な違和感があった。

  • 隣の焚き火

    Mさんが友人たちと3人でキャンプに来たのは、少し肌寒くなってきた秋の終わりだった。 予約していたキャンプ場は、平日ということもあってかほとんど人がいない。 それがまた焚き火の暖かさを一層心地よく感じさせた。 夜も更け、3人はパチパチと音を立てる焚き火を囲んで談笑していた。 薪が燃える音と、時折聞こえる虫の声だけが静寂を破る。 そんな中、ふとMさんの視線が林の奥に向けられた。

  • 地下監視モニターに映った通路

    Tさんは、都心に建つ複合施設の、広大な地下駐車場の監視を担当していた。 深夜の監視室はいつも静まり返り、無数のモニターだけが規則的な光を放っている。 Tさんの仕事は、そのモニターに映し出される映像を監視し、異常があれば対処することだった。 その夜も、いつもと変わらぬ深夜勤務についていた。 時刻は深夜3時を少し回った頃。 Tさんはいつものようにモニターの映像を順に確認していた。 その時、ふと、あるモニターにTさんの視線が釘付けになった。 そこには、映っているはずのない通路が映し出されていたのだ。

  • 天井点検口の無数の引っかき跡

    Sさんは、都心にそびえ立つ高層オフィスビルで夜間勤務をしていた。 深夜のビルはほとんどのテナントが閉まり、人の気配はまばらになる。 Sさんの仕事は、そんな静かなビルで設備監視や巡回を行うことだった。 その夜も、いつもと変わらぬルーティンをこなしていた。 時刻は深夜1時を少し過ぎた頃。 監視室のモニターを眺めていたSさんの目に、奇妙な異変が飛び込んできた。 誰もいないはずのフロアを示す表示板が、突然、パッと明るくなったのだ。 そしてそれと同時に、1階に停止していたエレベーターが、ゆっくりと上昇を始めた。

  • 3階東側の非常灯

    警備員のKさんは、深夜のオフィスビルの巡回が日課だった。 人気のない深夜のビルは、普段は静まり返っている。 しかしここ最近、Kさんは奇妙な現象に気づいていた。 それは深夜の巡回中、決まって3階東側の非常灯だけが素早く点滅している時があることだった。 Kさんは最初、単なる球切れか、電気系統の不具合だろうと考えた。 報告しようとも思ったが、よくよく観察すると、その点滅は深夜の2時過ぎにしか起こらず、他の時間には何の異常も見られないのだ。 一度だけならまだしも、それが不定期に、しかし決まって深夜2時過ぎにだけ起こることに、Kさんは徐々に不審を抱き始めた。

  • 深夜の山道にあった道の駅

    Tさんは長距離運転手として夜間の配送中、山道に入り込んだ。 深夜の山道は普段から慣れていたが、その日はいつも通るルートとは少し違う道を選んでいた。 午前2時を過ぎた頃、Tさんの目に見慣れない「道の駅」が飛び込んできた。 疲れもたまっていたTさんは、休憩がてら立ち寄ることにする。 駐車場には、他に2台の大型トラックが停まっていた。 電気が煌々とつき、トイレも清潔に保たれているようだった。 深夜にもかかわらず、人の気配があることにTさんはどこか安心感を覚えた。

  • 赤いジャージ姿の人影

    長距離トラック運転手のYさんは、全国各地を走り回る毎日を送っていた。 彼の仕事は、深夜の高速道路をひたすら走り続けること。 特にある山中の長いトンネルは、毎日のように通過する、もはや見慣れた景色となっていた。 その日は前日の寝不足がたたって、特に眠気が強かった。 眠気を覚ますためのラジオも、いつの間にか切れてしまっている。 静まり返ったトラックの車内には、エンジンの低い唸り声だけが響いていた。

  • 未清掃の301会議室

    オフィスビルの夜間清掃員として働くSさんは、いつものように淡々と業務をこなしていた。 深夜のオフィスは人けがなく、誰もいないフロアを巡るSさんの足音は、妙に大きく聞こえた。 日報を確認すると、「301会議室:未清掃」という文字が目に飛び込んできた。 Sさんは首を傾げる。 301会議室は通常、清掃リストに含まれていないはずだ。 というのも、そこは何年も前から閉鎖されており、普段は鍵もかけられ、清掃の必要がないとされていたからだ。

  • 病室から聞こえるナースコール

    入院中、看護師のNさんという人から聞いた話。 Nさんが夜勤中の深夜巡回をしていた時の事。 深夜1時を過ぎ、患者は皆寝たようで寝静まり返っており、病室から点滴の機械音だけが小さく聞こえている。 Nさんは患者たちの様子を確認しながら、一つ一つの部屋を巡っていく。 その日も特に変わったことはなく、いつも通りの静かな夜だった。 だが、廊下の突き当たりにある、普段は使用されていない個室の前を通り過ぎようとしたその時だった。

  • 木箱の中に何かがいる

    Kさんが倉庫で、フォークリフト作業をしていた時の話。 それはいつもの夜間シフト中のことだった。 広い倉庫には、天井近くまで積み上げられた段ボールや、木箱を積んだパレットが所狭しと並んでいる。 フォークリフトのエンジン音だけが、静まり返った空間に響いていた。 Kさんは慣れた手つきでレバーを操作し、荷物を正確に指定された場所へと運んでいく。 その日も特に変わったことなど何もなく、淡々と作業は進んでいた。

  • 黒く塗りつぶされた報告書

    電気設備の点検員をしているTさんから聞いた話。 その日、Tさんはいつものように、古びた研究施設の電気点検に呼ばれた。 築年数がかなり経っている建物で、廊下には古びた薬品の匂いがわずかに残っていて、壁のあちこちにはひびが入っていた。 点検作業はいつも通りに進んだ。 高圧受電設備から非常用発電機まで、普段と変わった様子もなく、異音や異常な発熱も確認されなかった。 Tさんは点検箇所を丁寧に回り、各機器のメーターをチェックし、問題がないことを確認した。

  • 映像編集中に自分だけに視える異変

    映像制作会社に勤めるYさんは、このところ納期に追われ、会社に泊まり込む日々が続いていた。 日付が変わるのも珍しいことではなく、深夜の編集室はYさんにとって、もはや第二の家のようなものになっていた。 その日も遅くまで作業をしていて、深夜2時を過ぎた頃だった。 重い疲労感と戦いながら、Yさんは黙々と編集ソフトと向き合っていた。 カフェインと眠気覚ましのガムを交互に摂取し、集中力を保とうと必死だった。 ふと、プレビュー画面に違和感を覚えた。

  • 屋上にいた女の子

    Tさんが高校三年生だった頃の話。 Tさんは昼休みになると、よく屋上に上がっていた。 誰もいない屋上でぼんやりと空を眺めたり、持参した小説を読んだりするのが好きだった。 屋上はTさんにとって、学校の中の喧騒から離れられる唯一の場所だったのだ。 ある日の昼休み、Tさんはいつものように屋上で過ごし教室に戻ってきた。 するとクラスの同級生が、Tさんの顔を見るなりこんなことを言ってきた。 「T、さっき一緒に屋上にいた子、誰?」

  • 一人でいると声をかけられる

    Nさんが通っていた高校には、不思議な場所があった。 校舎の中央にある階段の、ちょうど半階分だけ上がる場所。 そこには普段誰も使わない小さな踊り場があるのだが、何故かそこは薄暗い。 ある日の放課後、Nさんはうっかりその踊り場にノートを落としてしまった。 友達と話しながら階段を上っていたため、気づいた時にはもう通り過ぎていた。 ため息をつきながらノートを取りに戻り、踊り場に着くとかがんでノートを拾い上げた。 その瞬間、背後で、まるで耳元に直接話しかけられたかのように、「こんにちは」と囁く声が聞こえた。

  • 写真に写った黒い人

    卒業を控えたMさんは、仲間たちとの思い出を残そうと、校舎のあちこちで記念写真を撮っていた。 体育館、昇降口、屋上…どこで撮っても大切な思い出になりそうな、卒業アルバムのページを飾るのにふさわしい写真ばかりだった。 次に選んだのは、放課後にはほとんど誰もいない、静かな図書室だった。 Mさんたちは書架の間を通り抜け、窓から光が差し込む一角で写真を撮ることにした。 シャッターが切られ、デジタルカメラの画面には、いつものように楽しそうな仲間たちの姿が映し出された…はずだった。

  • サークル棟に聞こえる重苦しい足音

    これはKさんという大学生から聞いた話。 Kさんが通っていた大学のサークル棟は、古びた建物だった。 特に夜になると、薄暗い廊下の蛍光灯が心細く灯り、そこかしこからミシミシと木が軋む音が聞こえてくるような場所だったという。 そのサークル棟には妙な噂があった。 夜遅くまで残っていると、誰もいないはずの階段の途中から、ゆっくりと誰かの靴音が聞こえてくる、というものだった。 Kさんのサークルは2階にあったが、作業に集中していると、その足音がひときわ大きく響くことがあったそうだ。

  • 鏡の前に座る子

    これは、演劇部だったTさんから聞いた話。 Tさんは、高校で演劇部に所属していた。 熱心な部員で、放課後はいつも部室に入り浸っていたそうだ。 部室は校舎の隅にあり、古くてあまり使われていない部屋だった。 独特の埃っぽい匂いがする、薄暗い空間。 その部室には、いつも不思議な光景が広がっていたという。

  • 裏山で見かけた真っ白な服の人

    Sさんは大学二年生の男子学生で、朝早くに家を出て通学していた。 彼の通学路は少し特殊で、毎朝6時には裏山を抜けてキャンパスへ向かうのが日課だった。 その裏山には舗装されていない細い小道があり、そこを通れば大学まで近道できるのだ。 朝の澄んだ空気と、鳥のさえずりだけが聞こえる静かな小道は、Sさんのお気に入りの場所だった。 ある日のこと、Sさんがいつものように小道を歩いていると、前から誰かが歩いてくるのが見えた。

  • ロッカーに入っていたノート

    Hさんはごく普通の高校二年生だった。 いつも明るく、クラスの中心にいるような存在で友達も多く、学校生活を謳歌しているように見えた。 Hさんの日常は、放課後の部活動と他愛もないおしゃべり、そして時々テスト勉強に追われる、そんな他愛もない日々で成り立っていた。 これはHさんの親友である、Yさんから聞いた話。 YさんはHさんとは小学校からの付き合いで、何でも話せる間柄だったという。 ある日のこと、部活動を終え、更衣室の自分のロッカーを開けたHさんの隣で、Yさんは着替えをしていた。

  • パスカードの記録

    ある企業の閑散としたオフィスビルでの事。 夜勤の警備員Hさんは、いつものように監視モニターを眺めていた。 日付が変わる少し前、彼が担当するフロアの入退室ログに、奇妙な記録が残るようになった。 それは数週間前から無断欠勤を続けている同僚、Kさんのパスカードの記録だった。 Kさんは数週間前、何の連絡もなく突然会社に来なくなった。 家族にも連絡がつかず、警察にも捜索願が出されていたが、行方は杳として知れなかった。

  • 白い女が立っていた部屋

    旅行で訪れた古びた旅館で、Rさんは一人、静かな夜を過ごしていた。 深夜、ふと目が覚めると、部屋の隅に白い着物をまとった女が立っているのが見えた。 ぼんやりとした視界の中、その姿はまるで生きているかのように見える。 Rさんはびっくりして飛び起きた。 しかし目を凝らしてよく見ると、それは部屋の角に飾られた掛け軸に描かれた絵だとわかった。

  • 最後に話しかけたのは誰?

    会社員のSさんは、夜遅くにかかってきた電話を終えたばかりだった。 スマートフォンの画面に目をやると、通話履歴には「非通知」の文字が並んでいる。 Sさんは首を傾げた。 通話中、確かに画面には友人のKさんの名前が表示されていたはずだ。 会話の内容も、先日Kさんと話していたのと同じ、週末の予定についての話だった。 たわいもない会話を交わし、SさんはKさんと楽しい週末を過ごせることに胸を躍らせていた。

  • 見慣れない狭い路地

    会社員のTさんが残業で遅くなった時のこと。 地元の駅に着いた時、時計の針はすでに深夜を回っていた。 終電を少し過ぎた静けさが駅前に広がる。 いつもならまっすぐ家に帰るTさんだが、その日はなぜかふと足を止めた。 疲労でぼんやりとした頭で、見慣れない細い路地が通勤路の途中に現れていることに気づく。 普段はそこには壁しかなかったはずだ。 細い路地の奥は暗く、その先がどうなっているのかは全く見えない。

  • 鏡の中から手を振る人

    これは私の知り合いの、社会人のKさんから聞いた話。 Kさんは少し前に引っ越して、新しい部屋に置く鏡を探していた。 ネットのフリマアプリを見ていたところ、ちょうど良さそうな少しレトロなデザインの鏡を見つけた。 値段も手頃だったしすぐに購入を決めた。 届いた鏡は写真で見た通りの品で、Kさんは早速自分の寝室に設置した。 その鏡をフリマアプリに出品していた人は、Kさんが購入手続きを終えた直後、アカウントを削除したようでもう存在していなかったという。 少し妙だなとは思ったが、Kさんは特に気にしなかった。

  • 山の中の校舎

    これは私の友人である、大学生のYさんから聞いた話。 Yさんは昔から好奇心旺盛で、よく友達と心霊スポットや廃墟巡りをしていた。 ある夏の日、Yさんは地元の友人と二人で、とある山奥にあるという噂の「山の中の校舎」へ向かった。 その山道は鬱蒼とした木々に覆われ、昼間でも薄暗く、空気が重く感じられた。 舗装されていない道は途中で途切れていて、さらに奥へと続く細い獣道を進むしかなかった。 道の両脇には、人の背丈ほどもある雑草が生い茂り、まるで道を塞ぐようにYさんたちの行く手を阻んだ。

  • 神社の池にいた黒い塊

    Fさんは古い神社で働く巫女だった。 神社の境内で、毎日の掃除や神事の手伝いをするのがFさんの日課だ。 Fさんは、この神社の静かな雰囲気が好きだったが、中でも夕暮れ時、参拝客もまばらになり、あたりが静けさに包まれる時間が一番好きだった。 その日もFさんは、夕刻の掃除を終え参道を掃いていた。 鳥居をくぐり、石段を上りきった場所に少し古びた手水舎がある。 Fさんは手水舎の柄杓を元の場所に戻し、ふとその隣にある小さな池に目をやった。

  • 裏山の発電施設

    Nさんが小学生の頃、自宅の裏山には小さな発電施設の跡地があった。 古びたコンクリートの壁にはひびが入り、草木が鬱蒼と茂り、子供たちの間では「おばけでるぞ」と噂される場所だった。 しかし、Nさんは好奇心旺盛な子供で、いつもその廃墟に心を惹かれていた。 ある晴れた午後、Nさんは友達に内緒で一人、発電施設の跡地へ向かった。 入口は固く閉ざされていたが、壁の低い位置に、大人一人では到底通れないような小さな通気口があるのを見つけた。

  • 這い上がってくる黒いもの

    私の知人のSさんは一人暮らしの女性で、夜勤の仕事をしている。 そのため、夜中に一人で家にいることが多い。 古いアパートの2階に住んでいて、築年数が経っているせいか、隙間風の音がよく聞こえてくる。 ある日の夜、Sさんは仕事から帰宅しシャワーを浴びていた。 深夜2時を過ぎた頃で、あたりはシンと静まり返っている。 シャワーを終え体を拭いていると、ふと浴室のドアの向こうから、微かに何かの音が聞こえた気がした。 「…こ、こ、こ…」 それはまるで誰かが、息を潜めて何かを呟いているような、不明瞭な音だった。

  • 【不思議な話】消えていく

    私の友人のKさんは、都心で一人暮らしをしている。 仕事はデザイナーで、自宅で作業することが多い。 朝食はいつも決まったカフェで摂るのが習慣だった。 ある日の朝、Kさんはいつものようにカフェに向かった。 お気に入りの窓際の席に座り、スマートフォンでニュースを見ながら、コーヒーとトーストが運ばれてくるのを待った。 何気ないいつもの朝の風景だった。 コーヒーを一口飲み、トーストをちぎろうとしたその時だった。

  • 黒く塗りつぶされた噴水

    私の友人のSさんは絵を描くのが好きで、よく公園やカフェでスケッチをしている。 ある日の午後、Sさんはいつものように近所の公園で、ベンチに座って風景を描いていた。 穏やかな日差しが降り注ぎ、鳥のさえずりが聞こえるごく平和な日常だった。 Sさんは公園の噴水と、その周りで遊ぶ子供たちを描いていた。 集中して筆を動かしていると、ふと視界の端に何かが見えた気がした。

  • 深夜に聞こえてくるオフィスの足音

    これは私がまだ前のオフィスビルで働いていた頃の話。 かなり古びたビルで、夜になると独特の静けさに包まれる場所だった。 私はその頃残業が多く、夜遅くまで一人で仕事をしていることがよくあった。 ある日、夜中の1時を過ぎた頃だろうか。 資料作成に集中していたのだが、ふと、キーボードを打つ指が止まった。 オフィス全体が、いつも以上に静まり返っていることに気づいたのだ。 静かすぎて、自分の心臓の音が聞こえるような気がした。

  • 深夜のオフィスで聞こえる音

    私の会社が入っているオフィスビルは、夜になると人気がなくなる。 最終の電車が出た後、残っているのは数えるほどの社員だけだ。 私もその一人だった。 その日、どうしても終わらせなければならない仕事があり、深夜までオフィスに残っていた。 フロアにはキーボードを叩く音と、時折聞こえる空調の音だけが響いている。 夜中の2時を過ぎた頃だろうか。 ふと背後から微かな音が聞こえた気がした。

  • 日常の違和感

    僕が務める会社は、ごく普通のオフィスビルに入っている。 毎日朝早くに出社して、夜遅くまで仕事に追われている。 そんな日常の中で、ある日些細な違和感に気づいた。 最初はただの気のせいだと思った。 終業間際に、フロアの奥にある誰も使っていないはずの給湯室から、かすかに水の音が聞こえた。 チョロチョロと、水道の蛇口を少しだけ開いたような音。

  • 図書館の奥の本

    あれは私がこの図書館で働き始めて、まだ間もない頃だった。 その図書館は町外れにある古い洋館を改装したもので、夜になるとまるで生き物のように軋む音がする。 特に奥まった場所にある書庫は昼間でも薄暗く、いつもひっそりと静まり返っていた。 ある日のこと。 閉館時間を過ぎても、なぜか奥の書庫の電気が点いていることに気づいた。 普段なら館長さんか、ベテランのSさんが最終確認をするはずだった。 「もしかして消し忘れかな?」 私はそう思いながら、書庫へと続く長い廊下を歩いていった。

  • 影の向こう側

    これは私の友人の話。 彼は都会での生活に疲れて、田舎に移り住んだ。 築百年は経つだろうか、古い農家を改築した一軒家だった。 広い庭には、何十年も前からそこに立っていたらしい、大きなケヤキの木が一本、堂々とそびえ立っていた。 友人はその家を気に入り、快適な田舎暮らしを満喫していた。 特に気に入っていたのが、夕暮れ時の庭の景色だった。 太陽が西に傾くと大きなケヤキの木の影が、ゆっくりと家全体を覆い尽くしていく。 その光景は、まるで家が大きな影に包み込まれるようで、どこか神秘的でさえあったという。

  • いつも縁側で庭を眺めていたお婆さん

    これは私の祖母の故郷で、祖母の近所に住んでいたという人の話。 その家は本当に古めかしい家で、築何年かも分からないような、黒光りした柱と軋む廊下。 そしていつも誰かがいるような、妙な気配がする家だった。 そんな家に一人暮らしのお婆さんがいた。ここでは仮にTさんと呼ぶことにしよう。 Tさんは近所でも評判の物静かな人で、いつも縁側で庭を眺めていたという。 特に何をするでもなく、ただじっと外を見つめている。 まるで誰かを待っているかのように。

  • 消えた道標

    これはRさんという人が、祖父のTさんから聞いた話で、とある地方の山奥にある、小さな村での出来事だった。 その村は、地図にも載っていないような場所にあった。 外界との唯一の繋がりは、険しい山道を一本だけ。 その道の入り口には、昔から古びた道標が立っていた。 風雨に晒され文字もかすれてしまっていたが、それが村の唯一の目印であり、心の拠り所でもあった。

  • 焚き火の隣人

    登山とソロキャンプが趣味のIさんは、週末を利用して県境の山奥へと向かった。 この辺りは標高が高く夜間はかなり冷え込むが、その分、人も少なく静けさに包まれている。 焚き火を囲みながら湯を沸かし、コーヒーを飲みつつ本を読む──そんな時間が、Iさんにとって最高の癒やしだった。 日が落ちてから数時間が経ち、焚き火の火もだいぶ落ち着いた頃。 薪をくべながらIさんはふと、違和感を覚えた。 焚き火の隣、ちょうど自分の左手側に何かがいる気配がする。

  • 山小屋の奇妙な絵

    初秋、まだ日差しが強い九月の連休。 Kさんたち3人は、久しぶりのキャンプ登山を楽しんでいた。 メンバーはリーダー格のKさん、少し神経質なMさん、そしていつも陽気なHさん。 彼らは学生時代からの友人で、年に一度はこうして自然の中に繰り出すのが恒例になっていた。 今回は、以前から行きたがっていた奥秩父の秘境にあるというキャンプ場を目指していた。 前日の夜にレンタカーを借り、朝早くから車を走らせていた。 途中コンビニで食料を調達し、目的のキャンプ場に到着したのは昼過ぎだった。 テントを張り終え、遅めの昼食をとろうと準備を始めた矢先、空の様子が急に変わり始めた。

  • 閉ざされた記憶の家

    結婚を間近に控えたSさんたちは、新しい生活のために郊外に理想の一軒家を見つけた。 大きな庭があり陽当たりも良く、何より価格が手頃だったのが決め手だった。 築年数はそれなりに経っていたが、リフォームされており、すぐにでも住める状態だった。 Sさんは、これから始まる新婚生活への期待に胸を膨らませていた。 引っ越してきて数日後、Sさんはリビングの窓辺に立って庭を眺めていた。 すると、ふと胸の奥に甘酸っぱいような、切ないような、しかし覚えのない感情が込み上げてきた。

  • 古い手紙の連鎖

    大学生のTさんは、休日の骨董市をぶらつくのが好きだった。 古いものに宿る物語を想像するのが、Tさんにとって至福の時間だったのだ。 その日も埃っぽい露店を眺めていると、Tさんの目に一冊の古びた包みが留まった。 黄ばんだ和紙で丁寧に包まれ、紐で結ばれたそれは日記のような、あるいは手紙のような何かの束だった。 値札には「手紙束時代不詳」とだけ書かれていた。 Tさんは何かに導かれるようにそれを買った。 自宅に戻り、Tさんは丁寧に和紙を解いた。

  • 軋む音

    社会人のKさんは、新しい生活を始めるため、築年数の経ったアパートの一室に引っ越してきた。 駅からも近く家賃も手頃。多少の古さは承知の上だった。 引っ越し作業を終え、荷解きを始めたKさんは、ふと隣の部屋から聞こえる「ギィ…ギィ…」という小さな軋み音に気づいた。 最初はただの生活音だと思った。 古いアパートなら、隣人の出す物音が多少響くのは仕方がない。 Kさんは特に気にせず荷解きを続けた。

  • 炭鉱跡の通路の奥に

    Kさんは廃墟探索が趣味だった。 とりわけ、人の手が何十年も加わっていないような場所に心惹かれるという。 今回彼が訪れたのは、山間にある封鎖された旧炭鉱の跡。 林道を1時間ほど歩いた先に、地面が割れたような岩場と錆びた柵が残るだけの無名の坑道があった。 鉄条網は風に吹かれてガサガサと鳴っていたが、人の気配はまったくない。 入口付近の崩れた横穴から内部に入った瞬間、空気が変わった。 ひんやりとしたはずの坑道の中が、妙にしっとりと生ぬるい。 吐く息がやけに重く、地面を照らすライトの光もどこか濁って見えた。

  • 廊下の先にいた半透明の者

    深夜1時、Wさんは郊外にあると噂される「旧◯◯大学の寮跡」に足を踏み入れた。 取り壊しが決まり、今は誰も寄りつかない建物。 だが廃墟マニアの間では、有名な心霊スポットとして密かに知られていた。 建物は3階建てで、窓ガラスは割れ、鉄製の階段は赤錆でところどころ崩れていた。 風が吹くたび、金属音とともにどこからかガタガタと軋む音がする。 その寮跡は当時不慮の事故に遭う者が多かったとか、窓から飛び降りた学生の霊が出るとか、さまざまな噂があったが、Wさんはそれらを半信半疑で聞きながらも、実際にその場所へと足を運んだ。

  • 廃墟の地下にいた黒いものの群れ

    Tさんは廃墟探索が趣味で、各地の封鎖された施設や、取り壊し前の建物を巡っては写真を撮って記録していた。 秋の午後1時を過ぎた時間、その日も一人、山間にひっそりと残る、かつて軍事工場だったという施設跡に向かっていた。 戦時中、航空機の部品などを製造していたらしいが、戦後は長らく放置され、今では地元の人間ですら近寄らないという。 外観は錆びたトタンと剥がれたコンクリートに覆われ、風で揺れる鉄扉の軋む音が時折響く。 剥き出しの鉄骨、瓦礫、落書きだらけの壁面。 しばらく進むと床の奥に鉄製の階段があり、地下へと続いていた。

  • 御札の部屋の向こう

    Sさんがその廃旅館を見つけたのは、ネット掲示板の古い書き込みがきっかけだった。 「〇〇温泉の外れに、開かずの間がある旅館がある。 御札が貼られていて、絶対に入っちゃダメって地元の人が言ってる」 半信半疑で訪れたその廃旅館は、崩れた瓦と蔦に覆われながらも存在していた。 昭和の終わりに閉業したらしく、看板の文字も掠れていたが、「なつめや旅館」と読めた。 建物は老朽化が進んでいたが、2階奥の一室だけが異様に保存状態が良かった。 その襖にはいくつもの御札が乱雑に貼り付けられ、そこだけ異様な圧を放っていた。 「イッテハイケナイ」「シズメヨ」「サワルナ」

  • 防空壕跡の下にあった鉄扉

    廃墟探索を趣味とするYさんの話。 Yさんがその旧病院跡を訪れたのは、秋の終わりだった。 K県の山奥、地図にも載っていないその病院は戦前から存在し、戦後すぐに閉鎖されたという話だけが残っていた。 朽ちた階段を下り、地下室へと続く鉄扉を押し開けると、そこには使い古された手術台や倒れた薬品棚が残されていた。 埃とカビの匂いに混じってどこか焦げたような、妙な臭いが漂っていたという。 そんな中、地下の奥にまるで隠されていたかのような重厚な鉄の扉を見つけた。

  • 霧の中の鳥居と名前を聞く者

    これはSさんが高校生だった頃、実際に体験したという話。 土曜日の午後、秋の気配が濃くなってきた頃。 その日は放課後に部活もなかったので、Sさんはふらりと地元の古い神社を訪れた。 特に目的があったわけではなかった。 ただなんとなく鳥居をくぐり、境内を抜けてその裏手にある森の方へと足を運んだ。 参道から外れて奥へと入り込んだのが、午後3時を少し過ぎた頃だったという。

  • 神無月の神社に鎮座するもの

    これはTさんが体験した、ある秋の夜の出来事。 Tさんは地元で写真を趣味にしており、その日は神無月の澄んだ夜空を撮ろうと、人気のない山中にひっそりと佇む古い神社を訪れた。 木々に囲まれた参道を進み、石段を上がると、月明かりに照らされた拝殿が見えてきた。 神社には誰もおらず、しんと冷たい空気が境内を満たしていた。 Tさんは三脚を立て、夜の社の風情を何枚か撮影していたが、ふと視線の端で何かが揺れた気がした。

  • T沢の川と背の高い女

    これはSさんから聞いた話。 Sさんは大学のサークル仲間と、K県にあるT沢の奥のキャンプ場によく行っていた。 その日も中の良いメンバーと川沿いでキャンプを楽しんでいた。 夜が更け、山の中は冷え込みを増していた。 大学生のSさんたちは、川沿いのキャンプ場で焚き火を囲んでいた。 パチパチと音を立てて燃える炎が、彼らの顔を赤く照らす。 昼間は賑やかだった川のせせらぎも、夜になるとどこか不気味な響きに変わっていた。 「Tさん、薪が減ってきたので取って」 Mさんがそう言って、Tさんのそばに積み上げられた薪を指さした。 Tさんが、ちょっと待ってろと言って立ち上がった、その時だった。

  • 山のコテージを覗いている

    Kさんという、山のコテージを管理している人から聞いた話。 長年コテージの管理人をやっていたKさんは、いつも物静かな男だった。 だが彼がこの場所で見てきたものは、誰にも話せないような、ひどいものばかりだった。 ある夏の夜、Kさんはいつものようにコテージの見回りをしていた。 その日はひどく蒸し暑く、なかなか眠れなかったので窓から外を眺めていた。 すると一番奥にある古びたコテージの影に、何かがいるような気がした。

  • 窓の外の雨音

    Mさんが小学生の時に体験した話。 夏休みのある日、Mさんの家族は、少し古びた趣のある旅館に泊まっていた。 Mさんは日中の遊び疲れもあり、その夜はぐっすりと眠りについていたのだが、夜中にふと目が覚めた。 耳に届いたのは、ザーザーと激しく降る雨の音だった。 まるでバケツをひっくり返したかのような、激しい雨音だ。

  • 深夜の湯けむりの誘い

    この話は、Oさんがまだ中学生だった頃の修学旅行での出来事。 わんぱくなOさんは、初めての長旅に胸を躍らせ、友人たちと夜遅くまで語り合っていた。 普段なら朝までぐっすり眠ってしまうOさんだが、その夜はなぜか、深夜にふと目が覚めてしまった。 時計を見ればまだ真夜中。 他の友人たちは寝息を立てていた。

  • 岩壁を上がっていく液体

    知人のTさんから聞いた話。 彼は高山植物の調査を生業としていて、その日も人里離れた深い山へと分け入っていた。 彼の専門は、滅多にお目にかかれないような珍しい高山植物の生態を記録すること。 そのためならどんな険しい道のりも厭わなかった。 この日も彼は地図を片手に、人の手がほとんど入っていないという山頂を目指して黙々と歩を進めていた。 山肌は次第に険しさを増し、足元はゴツゴツとした岩だらけになった。 Tは疲労を感じながらも、目当ての植物が群生しているかもしれないという期待に胸を膨らませていた。

  • 音のない青い霧の村

    田舎巡りが趣味のHさんは、今日も地図を頼りに人里離れた集落を探して山道を走っていた。 古い農村の風景や、忘れ去られたような神社を見つけるのが好きだった。 しかしこの日は少し様子がおかしかった。 午前中から深い霧が出ていて、山道はまるで白い壁に包まれているようだった。 「こりゃ、どこまで行っても同じ景色に見えちゃうな」 Hさんはそう呟き、少し焦りを感じ始めていた。 気づけば車のナビも圏外になり、頼れるのは感覚だけになっていた。 霧はますます濃くなり、視界は数メートル先も見えないほどになった。

  • 森の祠から付いてくるもの

    大学生のSさんたちは地形調査のため、とある山に入っていた。 普段から野山を駆け回るのが好きな、アクティブな学生たちだった。 この日も地図を片手に、鬱蒼と茂る森の奥へと進んでいた。 「おい、ここ、地図にない道だぞ」 Mが生い茂る草木に覆われた、かろうじて道だとわかるような細い獣道を見つけた。 好奇心旺盛な彼らは、普段なら立ち入らないような場所へも、調査の一環として分け入っていくことがあった。 今回の調査では、古地図に記された失われた道を探すという目的もあったのだ。

  • 古い展示館の倉庫

    この話は、地方にある古い展示館で夜間警備をしている、Kさんから聞いた話。 Kさんが勤めている施設は、昔ながらの民具や地域の歴史に関する展示がされている、小さくても趣がある場所だった。 普段はあまり人も来ないが、たまに遠方から熱心な歴史愛好家が訪れることもあった。 その日の夜も、Kさんはいつも通り閉館作業を進めていた。 全ての展示室を回り、電気を消し、窓の施錠を確認する。 館内は薄暗く、Kさんの足音だけがコツコツと静かに響いた。 全ての戸締まりを終え、最後に倉庫の鍵をかけようとしたその時。

  • 森の方に向かって唸る猫

    小学生だった夏休みのこと。 毎年恒例で、母方の実家の東北にある「じいちゃん家」に遊びに行っていた。 じいちゃん家は本当に田舎で、周りは山と畑ばかり。 夜になるとカエルの鳴き声と虫の音がすごく、都会じゃ絶対聞けないような音が聞こえる。 でもそれが夏休みって感じで好きだった。 じいちゃん家には、ミケという三毛猫がいた。 このミケが本当に可愛くて、じいちゃん家に着くといつも「ニャー」って言いながら擦り寄ってくる。

  • 林間学校の夜

    あれは中学二年の夏のこと。 俺たちのクラスは、林間学校でバンガローに一泊することになった。 昼間はカレーを作ったり、肝試しをしたりしてみんなでワイワイ楽しんでいた。 特に盛り上がったのはキャンプファイヤー。 クラスごとの出し物をしたり、歌を歌ったりして夜遅くまで火を囲んでいた。 出し物が全部終わって、そろそろバンガローに戻ろうかという時間になった時だった。 火の番をしていた先生に、「残った薪を片付けておいてくれ」と頼まれた数人の男子と女子が残って、他の生徒たちは先にバンガローへと帰っていった。 俺もその残るグループの一人だった。

  • 廊下に置いてあったテント

    Fさんという人から聞いた話。 Fさんは、とある映像制作会社で働いている。 彼女の仕事は怖い話の映像を作ること。 怪奇現象や心霊現象をいかにリアルに、そして見る人に恐怖を与えるかを日々追求している。 そのため、企画や編集作業は常に深夜に及ぶことが多かった。 その日も、Fさんは残業に追われていた。 編集室のモニターに映し出される映像の中では、白い靄がゆっくりと形を変え、見る見るうちに人のような姿になっていく。

  • 拾ってきた古い木の棒

    大学の夏休み、仲の良い友人3人組、行動派のAさん、慎重なBさん、ムードメーカーのCさんたちは、都会の喧騒を離れ、人里離れた山奥のキャンプ場へとやってきた。 時間は午後2時を少し過ぎたくらいで、各自が持ち寄ったアウトドアグッズを広げ、慣れない手つきでテントを設営したりしていた。 テントの設営が終わるとまだ陽も高かったので、彼らは少しだけ周辺を探索することにした。 AさんとCさんは興味津々に森の奥へと足を踏み入れ、珍しい植物を見つけては写真を撮ったり、小さな沢を見つけては涼んだりした。

  • 合宿の名簿に存在しない生徒

    H先生から聞いた話。 H先生は都心から少し離れた、私立高校のベテラン音楽教師だった。 普段は穏やかなH先生だが、生徒指導には人一倍熱心で、生徒たちの些細な変化も見逃さない。 その日は新入生を交えた恒例の夏期合宿で、H先生は引率として山奥のキャンプ場に来ていた。 まだ少し肌寒さが残る夜、生徒たちは焚き火を囲んで、それぞれ持ってきた怖い話を披露し合っていた。

  • 旧校舎の心霊現象

    Oさんが中学生の頃に体験したという話。 季節は夏。 学校から少し離れた場所にあった、木材でできた古びた旧校舎。 そこは一時期有名だった、都市伝説が囁かれる場所だった。 一番有名なのは「夜中に人体模型が動き出す」という話だった。 当時のOさんは、そういうオカルトめいた話に夢中だった。 クラスで都市伝説が流行り始めると、友達のYさんやKさんと一緒に、休日になると学校の周りをうろつき、旧校舎の窓から中を覗き込んだり、怪しい音に耳を澄ませたりしていた。

  • 美術室の動く石膏像

    「これは、私がまだ若手の美術教師だった頃の話です」 美術の授業の終わり、生徒たちにせがまれて、K先生は少しばかり声を潜めてそう語り始めた。 冬の時期という事もあり、教室の窓の外はすでに夕焼けが暗くなり始めていた。 その日、K先生は提出物の確認が終わらず、珍しく夜遅くまで学校に残っていた。 職員室で最後の書類に目を通し、ふと、美術室に大切な画材を忘れてきたことに気づいたのは、夜の9時を回った頃だった。 「まあすぐに済むだろう」 そう軽く考えて、K先生は美術室へと向かった。

  • 図書館の奥から聞こえるヒソヒソ声

    Sさんは、地方の市で運営されている図書館の職員だった。 いつも閉館時間まで利用者がいる賑やかな場所も、夜が更ければしんと静まり返り、冷たい空気が張り詰める。 この日も月末の資料整理に追われ、Sさんは一人残業をしていた。 時間はもう、とっくに日付が変わろうとしている頃だ。 カチカチと壁掛け時計の秒針が進む音だけが、やけに大きく響く。 館内の照明は最低限しかついておらず、本棚の隙間には濃い影が落ちていた。 その時だった。

  • 放送室の鏡

    これはUさんという人から聞いた話で、学生の頃の噂話らしい。 その中学校には昔から妙な噂があった。 放送室の奥、機材ラックの裏に、古い姿見の鏡が打ちつけられているというものだった。 誰が何のためにそこへ鏡を設置したのか分からない。 管理記録にも残っておらず、長く教師を務めている用務員ですら、「そんなもん、あったか?」と首をかしげる始末だった。

  • 地下鉄のミラーに写ったのは

    Sさんが終電間際の地下鉄を使った時の話。 その晩、Sさんは仕事帰りに地下鉄に乗り込んだ。 乗客は他におらず、車内はがらんとしていた。 発車してしばらくはスマホを眺めていたが、トンネルのカーブにさしかかった時、ふと目の前にある運転席上部の防犯ミラーに目が向いた。 鏡には自分の姿が映っていた…と思ったのも束の間、その背後に誰かが立っているように見えた。

  • 冷蔵室の背中

    Tさんは、郊外にある食品倉庫で働いている。 冷凍食品や生鮮品を保管する冷蔵室で、配送前の仕分け作業を毎日こなすのが日課だった。 冷蔵室は大型で、一定の低温を保つため出入口には厚いドアが設けられている。 その日は夕方近く、いつも通り一人で作業に入った。 薄暗い庫内でコンテナを並べていると、不意に視界の端に人影が映った。 同じ作業服を着た背中が、冷蔵室の奥に見えた。 「お疲れさまです」とTさんは声をかけた。

  • 毎晩2時44分に届く着信

    Yさんは地方の大学に通う、理工学部の2年生。 下宿先は古いワンルームのアパートで、学校まで自転車で15分ほど。 バイトや研究の合間を縫って、深夜までゲームやSNSをして過ごすのが日課だった。 その電話がかかってきたのは、7月半ばの蒸し暑い夜のこと。 スマホが震えたのは、深夜2時44分。非通知の表示が浮かんでいた。 「誰だよ…」ぼんやりした頭で通話ボタンを押すと、受話口の向こうからは、遠くでチャポン…チャポン…と、水の音だけが聞こえてきた。

  • 見えない同居人

    社会人になったばかりのYさんから聞いた話。 Yさんは念願の一人暮らしを始めるため、都心から少し離れた場所に建つ中古の一軒家を借りた。 広さの割に家賃が手頃で、古いながらも趣のある造りがYさんは気に入っていた。 引っ越してきて数週間、新しい生活にも慣れてきた頃、Yさんは妙なことに気づき始めた。 ある朝、Yさんが目を覚ますと、リビングの方から明るい光が漏れている。 昨夜は確かに消したはずのキッチンの電気が、煌々とついているのだ。 Yさんは「ああ、また消し忘れたのか」と独り言をこぼしながら電気を消した。

  • 誰もいない隣から聞こえてくる音

    一人暮らしをしているKさんから聞いた話。 Kさんは古いアパートの二階に住んでいた。 壁は薄く、隣の部屋の物音も時々聞こえてくるような造りだった。 しかしKさんの隣の部屋は長いこと空室で、半年経っても誰も住んでいる気配はなかった。 ある夜、Kさんは自室で読書をしていた。 時間は深夜を回っていた。 突然隣の部屋から「カタカタ」という奇妙な物音が聞こえてきた。

  • 禁忌の森の赤き眼と揺らめく影

    お爺さんが森の番人を務めるという、Fさんから聞いた話。Fさんのお爺さんは、神社の裏手に広がる「禁忌の森」を見守る役目を担っているという。 その森には、昔から人ならざるものが住み着いていると、祖父や父から何度も聞かされて育ったそうだ。 特に夜の森には決して近づいてはならないと、口酸っぱく言われていた。

  • すすり泣きが聞こえる神社

    夏休み、大学生のKさん、Sさん、Tさんの3人は、普段から探検好きで、今回はネットで見つけた廃村巡りの旅に出かけることにした。 地図を頼りに山道を分け入り、目的の廃村を目指して歩き続けたけれど、日が傾き始めても一向にたどり着く気配がない。 道は次第に獣道と化し、うっそうとした森の中に迷い込んでしまったようだった。 「やばいな、このままだと日が暮れちまう」 Kさんが焦った声を出す。 SさんもTさんも、不安げな表情で周囲を見回す。 その時、少し先に苔むした石段が見えた。

  • 肝試し中に見えた赤い光

    Rさんが、友人のYさんとNさんと体験した話。 彼らはどこにでもいる普通の大学生で、その日はちょっとしたスリルを求めていた。 夜の22時過ぎ、Yさんの運転する車で、とある県の山奥にある心霊スポットとして有名な森へと向かっていた。 「まじかよ、こんなとこに本当にあんのか?」 Nさんがスマホのマップと窓の外を交互に確認しながら、少し不安そうに呟いた。 車は舗装路を外れ、ガタガタと揺れる砂利道を進んでいく。 ヘッドライトが照らす先は、うっそうとした木々が連なる暗闇で道の先がよく見えない。

  • 誰もいない山小屋の訪問者

    都内のIT企業で働く、KさんとTさんが体験した話。 KさんとTさんは同僚で、普段はパソコンの画面と向き合い、コードを打ち込む毎日を送っている。 そんな二人が、たまには都会の喧騒から離れてリフレッシュしようと、会社の有給を使って登山に出かけた。 選んだのはそれほど人も多くないとされる、静かな山だった。 数時間の登山を終え、夕方には目的地の山小屋に到着する予定だった。 山道は想像以上に厳しく、到着する頃にはもう日が傾き、辺りは薄暗くなり始めていた。

  • だんだんと近づいてくる息の音

    フリーライターのHさんから聞いた話。 Hさんはいつものように、カフェで原稿と睨めっこしながら次の企画について考えていた。 今回は過疎化が進む日本の現状を探るべく、とある山奥の廃村を取材することになっていた。 都会の喧騒から離れ、静かに考え事をするのは嫌いじゃなかった。 むしろそういう場所でこそ、良いアイデアが浮かぶこともあった。 取材当日、Hさんは愛車を走らせていた。 ナビが示す道は次第に舗装が荒くなり、すれ違う車もほとんどなくなる。

  • 深夜の研修棟を走り回る音

    Yさんが参加したのは、大手企業の新入社員研修だった。 場所は山奥にある古びた研修施設。 3泊4日で泊まり込み、朝から晩まで座学と体験研修を受けるという、少し厳しい内容だった。 建物は清掃が行き届いており、ぱっと見は清潔だったが、どこか湿気を含んだ匂いと、長い廊下の奥にある暗がりが不気味に感じられた。 初日の夜、Yさんは寝る前にトイレ行き、戻って来る途中の事。 廊下の奥の方から「ぺたっ、ぺたっ、ぺたっ」と裸足のような足音が聞こえてきた。

  • 深夜に最上階に移動するエレベーター

    オフィスビルの警備員をしている、Nさんから聞いた話。 Nさんは都心にある20階建てのオフィスビルで、夜間警備の仕事をしている。 警備員は三人一組の交代制で、ビル内を巡回しつつ、監視カメラをチェックするのが主な仕事。 そのビルで不可解なことが起こるようになったのは、ある改装工事のあとだった。 毎晩深夜1時になると、誰もいないはずのエレベーターが勝手に動き、最上階の20のボタンを点灯させて上昇するのだ。

  • 閉店後の試着室

    Sさんは郊外にある、ショッピングモール内の衣料品店で働いていた。 大型チェーンではあるがその店は少し古く、どこか薄暗さを感じさせる作りだった。 その日も閉店作業は滞りなく進んでいた。 最後の客を見送り、シャッターを半分降ろし、店内の棚や床を整え始めていた頃だった。 Sさんはある違和感に気づいた。 一番奥にある試着室のカーテンが閉まっている。 閉店作業では、全ての試着室のカーテンを開けておく決まりだった。 さっき見回った時には、確かに開いていたはずだ。

  • 水の中の藁人形

    Iさんは水源の点検を仕事としている。 山間部にひっそりと建つ、古い取水施設の担当だった。 その日も町の水道課から「水圧が安定しない」と連絡が入り、午後から一人で点検に向かった。 山奥へ続く細道を軽トラで登り、最後は徒歩で斜面を下って川沿いの取水施設へ。 建屋の周囲は木々に覆われ、午後とは思えないほど辺りはひんやりとして、川の音だけが聞こえている。 施設の扉を開け、中に入って点検を始める。

  • 鉄塔を渡り歩くモノ

    Tさんは高圧送電線の鉄塔点検員だった。 定期的に山中の鉄塔を巡回し、異常がないか確認する仕事で、どちらかというと単調で静かな職場だ。 ただ山奥の鉄塔は街灯も無く、日が落ちると真っ暗になる。 この日も秋が深まりつつある頃で、午後の点検は薄暗さと冷たい風が吹いていた。 Tさんが目指してる鉄塔は尾根に立っているため、送電ルート沿いに登山道を歩き、塔の足元に着いたのが午後5時を回った頃だった。 点検項目を淡々と確認していると、不意に背後の林の方から 「おーい」 と低くかすれた声がした。 思わず振り返ったが誰もいない。

  • 土間の下に埋まってる物

    この話はKさんから聞いた話。 Kさんの家は、曾祖父が自らの手で建てたという築百年近い古民家だった。 土間のある広い玄関、太い梁、そして重たい引き戸。 その家には、古くからの「言い伝え」がひとつだけあったという。 土間の下は絶対に掘り返すな。 言いつけは曽祖父から祖父へ、祖父から父へと代を重ねるごとに、必ず口伝されてきた。 理由は語られない。ただ「決して掘るな」とだけ。

  • 深夜の駐輪場で揺れる自転車

    仕事帰りのMさんが、駅の立体駐輪場に自転車を取りに行った時の事。 時間は深夜0時前。 駅はもう人通りもほとんどなく、遠くを歩いてる人の音が聞こえる程だった。 2階建ての駐輪場は鉄骨の柱が無機質に並び、辺りには誰の姿もなかった。 いつもと同じように、自分の自転車の場所へ向かって歩いていくと、右前方にある一台の自転車が「ぎっ、ぎっ…」と音を立てて揺れているのが目に入った。 「地震?」 そう思って周囲を確認するが、他の自転車は微動だにしていない。

  • 駅の裏側にあった地下への階段

    深夜一時過ぎ。 駅前のコンビニでバイトを終えたTさんは、気まぐれに駅の裏手に回ってみた。 人通りのないその裏路地は街灯も少なく暗い。 ふと視線を落とすと、路面の隙間に古びた階段が口を開けている。 「こんなのあったか?」何度か通った道のはずなのに、これまで目に入ったことは一度もなかった。 吸い寄せられるように階段を下りると、そこには厚い鉄の扉がある。 錆びついているが鍵は掛かっておらず、押すと軋みながら開く。

  • リアガラスを叩きつける女

    深夜2時をまわった頃の事。 配送ドライバーのMさんは、翌朝の納品に備え、山間部を抜けるルートを走っていた。 峠道は街灯もほとんどなく、外はまるで墨を流したような闇。 けれど仕事に慣れたMさんは、ラジオを流しながら淡々と走っていた。 そのとき、カーナビの画面が検索をし始め、目的地への新たなルートを示した。 それは今いる道から外れ、山側に入る細い林道だった。 「近道か?」 そう呟いたMさんは、ためらいなくハンドルを切った。

  • 立入禁止の沢

    写真が趣味のYさんは、ある週末、仲間とのキャンプのついでに一人でカメラを持って近くの沢に向かった。 地元ではあまり知られていない、観光案内にも載っていない場所だったが、前夜に話を聞いた年配の管理人が「水の流れが綺麗」と言っていたのを思い出したのだ。 小道をしばらく進むと、ぬかるんだ地面の先に水音が聞こえてきた。 木々の間から差す陽が、白く泡立つ沢の流れを照らしていて、風に揺れる葉の影が水面に揺れている。 だが、道の途中に細く張られたロープがあった。 「立入禁止」の札が風に揺れている。

  • 旅館の見取り図

    Kさんは一人旅が趣味だった。 人混みを避け、ふと目に留まった古びた旅館のホームページを頼りに、車で山道を登った。 着いたのは、周囲を杉林に囲まれた小さな旅館。 木造三階建てで、表には「創業明治二十年」の看板が色褪せて掲げられていた。 受付で出迎えたのは無口な初老の男性。 必要最小限の挨拶の後、部屋の鍵と一枚の紙を差し出してきた。

  • 見えない鳥居

    Tさんから聞いた話。 大学の休暇を利用して、朝早くに登山に出かけたTさんたち四人のグループ。 地図とコンパスを頼りに整備された登山道を歩いていたが、途中で道を一つ間違えた。 スマホの電波は既に届かず、地図にも載っていない小道に入り込んでしまったことに気づいた時には、もう引き返すタイミングを逸していた。 獣道のようなその細道を進むしかなく、全員で手で草をかき分けながら、なんとか先へ進んだ。

  • 遭難した人の無線

    林業の現場で長年働いていた、Sさんが体験したという話。 ある年の晩秋、Sさんは奥山の斜面で、数人の作業員と一緒に間伐作業をしていた。 山道はぬかるみ、霧も立ち込めていたが、無線機を頼りに連携しながら作業は進んでいた。 その日、Sさんの腰にぶら下げていた無線機が、突然「ジジ…ガッ…コッチニ…」と、ノイズ混じりの音を拾った。 女性の声のようにも聞こえたが、誰の声か判然としない。

  • 存在しない階、3.5F

    MさんがまだIT企業に勤めていた頃の話。 その日は大規模な障害対応で、終電間際まで一人オフィスに残っていた。 Mさんが働いていたのは、都心にある築30年のオフィスビルの5階だった。 普段は賑やかなフロアも、夜になると照明が落とされ、外の灯りだけがぼんやり反射している。 深夜0時をまわりようやく全ての作業が片付き、Mさんは静かに椅子から立ち上がった。 ノートPCをカバンに収め、薄暗い廊下を抜けてエレベーターに乗り込む。 行き先ボタンで「1」を押し、ややくたびれたエレベーターがガクン、と音を立てて降下を始めた。

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