この話は、林業歴三十年以上のTさんから聞いた話。 その日もTさんは、三人組である区域の境界に近い尾根に入っていた。 午前中はチェーンソーの音が響いていたが、午後になると皆バラバラに位置取りして、間伐作業に入っていたという。 喉が乾いたTさんは手を止め、 「おーい、休憩にしねぇかー」 仕事仲間に呼びかけたつもりだった。だが返ってきたのは 「Tさぁん」 甲高い女の声だった。
この話は、林業歴三十年以上のTさんから聞いた話。 その日もTさんは、三人組である区域の境界に近い尾根に入っていた。 午前中はチェーンソーの音が響いていたが、午後になると皆バラバラに位置取りして、間伐作業に入っていたという。 喉が乾いたTさんは手を止め、 「おーい、休憩にしねぇかー」 仕事仲間に呼びかけたつもりだった。だが返ってきたのは 「Tさぁん」 甲高い女の声だった。
この話は趣味で登山を続けているYさん(30代・男性)が、昨年の秋に体験した話。 その日、YさんはN県にある標高1,◯00mほどの山に登っていた。 天気は快晴。 平日ということもあり、登山道に人の姿はほとんどなかった。 ゆるやかな尾根道に出た頃には昼も近く、山の上から見下ろす紅葉の景色に、彼は何枚かスマホで写真を撮っていたという。 尾根沿いの道は左右に低木が続いていて、見通しは良かった。 ところがふと気配を感じて、Yさんはスマホ越しに右側の斜面を見た。
これは、Sさんが引っ越した直後に体験した出来事。 就職を機に一人暮らしを始めたSさん。 新生活の運気を上げようと、駅前の骨董市で真っ白な張り子のだるまを一つ購入した。 古道具屋の隅に置かれていたそれは、手作りなのか少しいびつで、他と比べると妙に目が大きかったのが印象的だった。 「願いごとをして、左目を入れるんだよ」 店の老人がそう言うので、部屋に戻ってすぐ黒ペンで左目を塗りつぶした。 「どうか、新しい仕事がうまくいきますように」
これは大学時代に肝試しに行ったという、Tさんから聞いた話。 Tさんたちは友人6人のグループで、とある山奥の古民家を訪れた。 すでに人が住まなくなって久しく、屋根の一部も抜けかけていたが、知り合いの親戚の持ち物で取り壊しが決まっていたため、一晩だけならと泊まる許可をもらったのだという。 古民家には全部で五つの部屋があった。 そのうちの一つ、一番奥の部屋だけが他と明らかに違っていた。 畳が真っ赤だった。
Kさんが小学生の頃に体験した話。 当時住んでいたのは、山あいにある静かな集落だった。 街灯も少なく、夜になると辺りは真っ暗になったが、自然に囲まれたのどかな場所だったという。 その村には、少し変わった風習があった。 「影送り」と呼ばれるもので、夕暮れ時に自分の影を踏みながら「さようなら」と唱えることで、一日分の厄を影に流して追い出すというものだった。 ただし、年に何日か「影送りをしてはいけない日」がある、と大人たちは言っていた。 Kさんはその理由を深く聞いたことはなかった。
これは会社員のMさんが実際に体験したという話。 その日Mさんは仕事からの帰宅中、スマホに「留守番電話が1件」と表示されていることに気づいた。 発信元は非通知。 だが内容を確認してみると──自分の声だった。 『…オレだけど…たぶん、大丈夫、もうすぐ帰る』 声は確かにMさんの声。 けれど、どこかおかしい。
この話は、大学生のIさんが体験した出来事だという。 Iさんは、郊外の二階建てアパートの一室に一人で暮らしていた。 夏も終わりに近づいたある夜、部屋の窓を開けて夜風に当たりながらスマホを見ていた。 その時だった。 「コン、コン」 耳をすますと、窓のすぐ下から軽く叩くような音がした。
これはRさんが昔、古道具屋で働いていた時のこと。 遺品整理の依頼で引き取った荷物の中に、木枠が黒ずんだ古い額縁があった。 中の写真はすでに抜かれており、ガラスと台紙だけが残っている。 湿気を含んだような匂いが微かに漂っていたが、Rさんはそれを丁寧に拭き取り、他の額縁と一緒に棚へ並べた。 ところが数日後、その額縁に異変が起きた。 他の作業をしていた同僚が、「あれ、今、人の顔が…」と額縁を見て顔をしかめる。
Eさんが転勤を機に引っ越したのは、地方のとある町にある古びた一軒家だった。 家賃は月2万円。 風呂トイレ付きで、間取りも一人暮らしには十分。 築年数は古いものの、特に事故物件などの説明もなかった。 最初の一週間は特に問題もなかった。 静かな環境で、仕事から帰ってはテレビを見て寝るだけの生活。 だがある晩、眠りかけたEさんの耳に声が届いた。
これはTさんが高校生の夏、田舎の親戚の家に泊まりに行ったときの話。 その村は山間にあり、携帯の電波もろくに入らないような場所だった。 Tさんにとっては退屈な時間だったが、近所の子どもたちと話すうちに一つだけ気になる場所の話を聞いた。 「崖の上の祠、ぜったい行っちゃダメだよ」 「近づいたら、目ぇつけられるんだって」 どうやら村はずれ、断崖の上にぽつんと建っている古い祠があり、地元の人間は子どもどころか大人でも近づかないという。
これはYさんが大学生の夏休みに体験した話。 Yさんは数年ぶりに祖父母の家を訪れていた。 山間の古い家で、子どもの頃はよく裏山を駆け回って遊んでいたという。 到着した日の午後、夕飯まで少し時間があったので、懐かしさから一人で裏山へ登ってみることにした。 山の入り口には、変わらず朽ちかけた鳥居が立っていた。 奥には昔よく通った小道が続いている。
Kさんが大学時代に体験した話。 夏の終わり、Kさんは友人4人と一緒に、人けの少ない山奥のキャンプ場を訪れた。 標高は高く、夜になると一気に気温が下がる場所だったが、年に一度の恒例行事となっていた。 その晩も焚き火を囲んで他愛もない話をしていたが、日付が変わる頃、疲れた一同はテントに入って眠りについた。 Kさんが目を覚ましたのは、午前2時を少し回った頃だった。
Yさんは新緑の眩しい季節を選んで、愛車のバイクで気ままな一人旅を続けていた。 予定していたルートを少し外れ、地図にも載っていないような細い山道に入り込んでしまったのは、もう日が傾きかけた頃だった。 焦りと不安を感じ始めたYさんの目に、不意に小さな集落が飛び込んできた。 まるで忘れ去られたような、静かで古びた村だった。 「助かった…」 ほっと胸をなでおろし、村へとバイクを進めたYさんだったが、すぐに異様な光景に気づく。 村の入り口から続く田畑に、無数の案山子が立っているのだ。
会社員のKさんは、都内の築三十年近い古いマンションに引っ越してきたばかりだった。 家賃は安く駅からも近い。 設備は年季が入っていたが、広さのわりに格安だった。 最初の一週間は何の問題もなかった。 だが、それはアラームが鳴った日から始まった。 その日、Kさんは寝不足だった。 ベッドに倒れこむようにして眠ったのに、突然、けたたましいアラーム音で目が覚めた。
ネットで知り合ったFさんから聞いた話。 Fさんがそのアパートに引っ越してきたのは、仕事の都合で急遽決まった異動がきっかけだった。 築年数は古いが、内装はリフォーム済みで綺麗。 家賃も安く立地も悪くなかった。 ただひとつだけ気になるのは、入居時に管理会社の人が妙に念を押したことだった。 「お風呂、夜中には入らないほうがいいですよ。 …できればですけどね」
大学生のSさんが住むのは、都内郊外に建つ築40年のアパートだった。 木造二階建て、六世帯が住む古びた建物で、メインの階段の他にSさんの部屋の横には、古い鉄製の非常階段が取り付けられていた。 その非常階段は黒い階段と呼ばれ、住人の間ではある噂が囁かれていた。 「一段だけ、踏んじゃいけない段があるんだって。 夜中に降りると、変なことが起きるらしいよ」 そんな話を聞いたのは引っ越してきたばかりの頃だった。
築50年を超える木造アパート「桜荘」の一室に、女性のYさんは住んでいた。 家賃が安く都内の職場にも通いやすかったが、夜になると家鳴りが酷く、冬は隙間風がひゅうひゅうと鳴いた。 Yさんの部屋の隣には、Mさんという30代くらいの男性が住んでいた。 物静かで会えば軽く会釈を交わす程度だったが、特に問題のある人物ではなかった。 だがある日を境に、そのMさんの姿をぱったりと見かけなくなる。
この話は、都内で働く会社員のSさんが体験したという出来事。 彼は終電で最寄りの無人駅に降り立ち、自宅まで歩いて帰るのが日課だった。 その帰り道、工場地帯へと伸びる貨物専用線の踏切がある。 住宅街とは少し離れた場所で、日中でもあまり人が通らないようなところだ。 その踏切は深夜になると、1本だけ貨物列車が通過していく。 時刻は毎晩0時37分。
Tさんから聞いた話。 大学時代、Tさんにはよく遊ぶ仲間が3人おり、どこに行くにも一緒だった。 そのうちの1人、Yさんは写真に写るのが苦手というタイプではなかったが、ある日を境に少しずつ様子がおかしくなっていった。 きっかけは旅行先での集合写真だった。 Tさんがスマホで撮った1枚、みんなが笑っている中、Yさんの顔だけがぐにゃりと歪んでいた。 ピントがずれたかと思いすぐに撮り直したが、やはりYさんの顔だけがぼんやりしている。
ネットで知り合ったJさんが体験した話。 大学進学をきっかけに、Jさんは地方都市の少し古びたアパートに引っ越した。 駅から遠くもなく家賃も安く、少しだけ壁が薄いことを除けば、条件としては悪くなかった。 引っ越しからしばらくして、気になったのは隣の部屋のことだった。 入居の時に管理人から「隣室は長らく空き部屋」と聞かされていたのに、夜になると壁越しにわずかな生活音が響いてくるのだ。
Sさんから聞いた話。 Sさんが通っていた中学校には、すでに使われていない旧校舎があった。 今では扉も錆びつき、廊下にはホコリが積もっている。 けれど文化祭の準備期間中だけは、道具置き場として一部の教室が解放されることがある。 その年の文化祭前、Sさんたちのクラスも旧校舎の教室を一時的に使うことになった。 掃除と荷運びのため、何人かの生徒が旧校舎へ行くことになり、Sさんもそのうちの一人だった。
ネットで知り合ったRさんから聞いた話。 この話はRさんの知り合いのMさんの体験談となっている。 その日、Mさんは仕事帰りに立ち寄った銭湯で、ちょっとした違和感を覚えた。 そこは昭和の雰囲気が残るタイル張りの古びた銭湯。 常連らしき年配客が多く静かで落ち着いた雰囲気だった。 脱衣所で服を脱ぎ浴場へ入ったとき、ふと鏡に映った自分の姿を見てMさんは一瞬立ち止まった。
Hさんが体験した話。 それは秋の初めの頃、大学時代の友人と2人で、山奥にあるペンションへ一泊旅行に出かけた時のことだった。 目的地は山の中腹にひっそりと建つ洋風のペンション。 近年は訪れる客も少ないらしく、平日ということもあり、泊まっていたのはHさんたちと、もう1組の年寄り夫婦だけだったという。 「なんかこの部屋、床がちょっと斜めってない?」 そう言ったのは同行した友人だった。
Kさんが大学時代に体験した話。 地方都市の外れにある小さな古アパート。 木造で築年数も経っているが家賃が格安だったため、Kさんは即決でそこを借りることにした。 大学までバスで10数分。町中と違って静かな環境。 部屋も狭いがそれなりに住めそうだった。
Tさんが中学生だった頃に体験した話。 学校からの帰り道、通学路の途中には小さな公園があり、その一角にガラス張りの電話ボックスがぽつんと建っていた。 当時はまだ携帯を持っている子はほとんどいなくて、電話ボックスもそこそこ使われていた。 でもその電話ボックスだけは、なぜかいつも空気が重かった。 曇ったガラス、誰かの指で書かれたような消えかけた文字、そして中に入ると、ひんやりとした湿気が肌にまとわりつく。
Oさんが体験した話。 転勤を機にOさんは都内のワンルームに引っ越した。 駅からは少し遠いがオートロックつき、室内も清潔で申し分ない。 ただ一つ入居初日から妙な違和感があった。 それはどこか“空気が澱んでいる”という感覚。 窓もドアも開け放って換気してもなぜか息苦しい。 「きっと引っ越し疲れだろう」と思い直し、その晩は早めに寝ることにした。 深夜、玄関の方から「カチャ…」という音が聞こえた。
ネットで知り合ったIさんから聞いた話。 Iさんが泊まったのは山の中腹にあるロッジだった。 スキー客や登山者がよく利用する場所で、年季は入っていたが掃除は行き届いていて、清潔な印象だったという。 そのロッジには宿泊者用の共同浴場があり、脱衣所には古い木製ロッカーが並んでいた。 その中にひとつだけ白く塗られたロッカーがあった。 他と違って色褪せており、扉には紙が貼られていた。 「使用禁止」
Mさんが体験した話。 その温泉旅館は、山深い場所にひっそりと佇んでいた。 古くからあるというその宿は木造のぬくもりが残っており、観光地からも離れているせいか、とても静かだったという。 Mさんは仕事の疲れを癒やすため、一人でその宿に泊まった。 部屋は二階の端にあり、山の景色が一望できる角部屋。 露天風呂にも入り、静かな夜を満喫しながら布団に入ろうとしたときだった。 ――外が、白く霞んでいた。
Sさんが体験した話。 登山の帰り道、Sさんは知人の勧めで山中にある一軒の宿を訪れた。 木造の古びた2階建ての建物で、周囲には人の気配も少なく、まさに“隠れ家”のような佇まい。 その日は天気も良く、何も問題なくチェックインを済ませ、夕食を食べて早めに部屋に戻って布団に入った。 奇妙な音が聞こえ始めたのは、午前2時過ぎのこと。
Kさんという人から聞いた話。 Kさんが社会人になって数年が過ぎた時、ゴールデンウィークに大学時代の友人たちと久々の小旅行をする事になった。 泊まりに選んだのは、山間にある一棟貸しのコテージだった。 山道を抜けて辿り着くそのコテージは古びてはいたが清潔感があり、木の香りが心地よく漂っていた。 昼間は自然を満喫し、バーベキューを楽しむ。 何年ぶりかに味わう無邪気な空気に、みんなすっかり気が緩んでいた。
山の中や地方の旅館めぐりが好きな、Yさんから聞いた話。 週末、前にネットで見つけた温泉旅館に向かった。 そこは山間にぽつんと佇む古びた温泉旅館の為、電車とバスを使い、最後は細い山道を徒歩で上ってたどり着くような場所だったという。 帳場には年配の女将と若い従業員が一人。 笑顔で迎えられ宿帳に名前を書くと、女将がふと奥を見ながら小さく言った。 「あら、お連れの方はどこに…」 その瞬間、隣にいた若い従業員が急に小声で何かを告げ、女将はハッとしたように顔を引き締めた。
Rさんが体験した話。 秋も深まった頃、Rさんは静養を兼ねて山間の温泉宿を一人で訪れた。 その宿は三方を山に囲まれ、谷に面して建っているため窓からの眺めはよく、夜ともなれば遠くに町の明かりがちらちら見え、自然と心が落ち着くような場所だった。 到着した日は平日で客は少なく、館内もひっそりと静まり返っていた。 露天風呂に入ったあと、部屋でひとり晩酌を楽しみながら、窓の外を何気なく眺めていたとき――崖の下の林の中に、小さな光が揺れているのを見つけた。
ネットで知り合ったKさんが体験した話。 それは盆休みを利用して、山へ一泊釣り旅行に出かけた時のこと。 Kさんは社会人で普段は都会で働いているが、静かな自然の中でゆっくり釣りを楽しむのが唯一の癒しだった。 その日も車で数時間かけて、かつて祖父に教えてもらったという山中の古い橋の近くまでやってきた。 人の気配はなく、川の流れる音だけが心地よく響いていた。 橋の上から糸を垂らしているうちに、ふと橋の下の様子が気になり、岸を回って影の奥へと歩を進めた。
Hさんが体験した話。 夏の終わり、Hさんは家族を連れて、山間にある老舗旅館へ泊まりに出かけた。 木造三階建てのその旅館は昔ながらの建物で、少し年季が入ってはいたものの、館内は清潔に保たれており、何より静かで落ち着いた雰囲気が気に入ったという。 その夜、風呂から上がって一息ついた頃、子どもが「探検してくる」と言って部屋を飛び出していった。 Hさんは最初こそ微笑ましく見送っていたが、しばらくしても戻ってこないことに気づき、廊下へ出て名前を呼びながら探し始めた。
Nさんが体験した話。 それはNさんが大学時代の友人たちと夏休みに訪れた、山奥の貸別荘でのことだった。 周囲に民家もなく、最寄りのバス停からもかなり離れたその別荘は、川のそばに建つ一軒家で、夜になると虫の音と風の音しか聞こえないような静けさに包まれていた。 その晩はバーベキューや花火を楽しんだあと、皆疲れて早めに布団に入った。 深夜1時を少し回った頃だった。 玄関のチャイムが「ピンポーン」と鳴ったのだ。
Aさんが体験した話。 趣味の登山で一人、山を歩いていたAさんは、急に天候が崩れたため予定を変更し、地図に載っていた無人の山小屋に避難することにした。 標高も高く風雨が激しくなるなか、小屋を見つけたときは本当にほっとしたという。 中は古びてはいたが、雨風を凌げるだけで充分だった。 入口近くの棚にはカセットコンロや古いランタン、そして「登山者用ノート」が置かれていた。 そこには何年も前からの記録が、登山客たちの手で残されていた。
Kさんが体験した話。 短期の仕事で地方都市に滞在することになったKさんは、駅から少し離れた場所にあるマンスリーマンションを借りた。 間取りは1K。 家具つきで、すぐに生活が始められる手軽さが気に入ったという。 初日から特に不便はなかったが、夜になると部屋のどこかで引き戸が開くような音がすることに気づいた。 スー…と、空気を切るようなその音は、毎晩0時を過ぎた頃に決まって聞こえる。
Tさんが体験した話。 出張の帰り道、少し足を延ばして立ち寄ったのは、山あいにある古びた温泉宿だった。 建物全体に時代を感じさせる静けさがあり、平日ということもあってか他の宿泊客の気配もほとんどなかった。 その宿には、昔ながらの大浴場が一つある。 夜も遅くなった頃、Tさんはゆっくり湯に浸かろうと脱衣所に向かった。 時刻は0時を回っていた。 誰もいないだろうと思いながら浴場の引き戸を開けたそのとき。
Mさんが体験した話。 彼が引っ越してきたのは、築年数の古いアパートの一室だった。 「駅からも近いし、家賃も安いから助かる」と思って決めたが、どうにも気になる点があった。 それは「三号室だけがずっと空いていた」ということ。 他の部屋にはそれなりに住人がいるのに、その部屋だけが数ヶ月も空いていたという。 だがMさんはそんなこと気にもせず、すぐに入居を決めた。
Sさんが体験した話。 季節は秋の終わりごろ、Sさんが地方出張で泊まったとある町外れのビジネスホテルでのことだった。 そこは古びていて受付以外人がおらず、廊下の蛍光灯もところどころちらついていた。 設備は最低限、値段も格安。 だが寝るだけなら不満はなかったという。
蒸し暑い夏の夜。 Tさんは寝苦しさに耐えかね、天井を見つめていた。 窓の外からは、夜なのに鳴き止まないカエルの声が響いている。 普通なら心地よい田舎の音だが、その夜は何かが違った。 妙にうるさい。 枕を耳に押し当てても鳴き声はどこまでも響いてくる。 まるで家の中まで入り込んでくるようだった。 「ちょっと外の空気でも吸うか…」 そう思いTさんは玄関のドアを開けた。
夏の夜、Hさんは友人たちと花火大会を楽しんでいた。 大きな花火が夜空を彩り、屋台の明かりが人々の顔を照らす。 しかしちょっと目を離した隙に、Hさんは人混みに紛れ、友人たちとはぐれてしまった。 「あれ?どこに行ったんだろう」 スマホを取り出して連絡を取ろうとするが、なぜか圏外になっている。 仕方なく辺りを見回しながら歩いていると、暗い路地が目に入った。 そこだけまるで、花火大会の光や音が届いていないようだった。
真夏の夜、Sさんたち四人は地元の山奥にある廃駅へ向かった。 その駅は数十年前に廃線となり、今では線路が草に埋もれ駅舎も朽ち果てている。 夜になると肝試しに訪れる者もいるが、あまりの不気味さにすぐに引き返すのだという。 「本当に出るのか確かめてみようぜ」 好奇心旺盛なTさんの提案で、Sさんたちは懐中電灯を片手にホームの脇にある駅舎へ足を踏み入れた。
七月に入り、避暑地の湖は観光客で賑わうはずだった。 しかし今年は何かがおかしい。 湖畔のキャンプ場を管理するSさんは、湖のほとりで奇妙な跡を見つけた。 それはまるで小さな手のひらを押し付けたような形をしていた。 最初に見つけたのは湖開きの日の早朝。 湖から泥のようなものが這い出し、岸へと向かって進んだ跡が残されていた。
大学時代の友人たちと、山奥の小屋に泊まった時のことだった。 その小屋は登山客向けに使われる簡素な造りで、水道や電気は通っていたが、周囲には他の建物はなく、夜になると街灯の明かりすら届かない。 食事を済ませた後、俺たちはランタンの灯りを頼りにトランプをして過ごし、夜が更けるとそれぞれ寝袋に潜り込んだ。 どれくらい眠っただろうか。 ふと目を覚ますと、ザッ…ザッ… と、誰かが小屋の周りを歩いている音が聞こえた。
Kさんの祖父が若かった頃の話。 彼の故郷では、毎年秋の終わりに「送りの灯」という行事があった。 場所は町外れにある、今は使われていない小さな駅。 古いホームに灯籠を並べ、最後の列車を見送るように火を灯す。 そして夜が更ける前に、それらの灯籠をひとつずつ消していき、駅は再び暗闇に戻るのが習わしだった。 規模は小さいが、町の者にとっては大切な行事であり、準備や片付けも皆で協力して行っていたという。
ある夏の夜、友人と二人で渓流釣りに出かけた。日が暮れる頃、山奥の川辺にテントを張り、焚き火を囲んで釣果を語り合う。ひっそりとした森の静けさと、川のせせらぎが心地よかった。 やがて火を落としテントの中の寝袋に潜り込んだ時だった。 「誰か、いますか?」 不意に聞こえたその声に、二人とも目を見開いた。確かにテントの外から聞こえてくる。
友人の話。 彼は登山が趣味で、休日にはよく山へ出かける。 ある日、低い山を軽く登った後、山道の脇にある小さな沢で休憩していた。 水を汲んでいると、少し離れた場所で同行していた後輩が何かをじっと見つめている。 「どうした?」と声をかけると、後輩は沢の向こうを指さして言った。 「鹿がいるんです。でも、ちょっと変で…」 見ると霧がかかった木々の間に、確かに動物の姿があった。
知り合いの話。 彼の叔父は、郊外にある築百年以上の古い家を受け継いだ。 人が住まなくなって長いせいで庭は荒れ放題で、少しずつ手入れをしているらしい。 ある日、彼は叔父の手伝いのためにその家を訪れた。 庭の草を刈ったり、古い家具を運び出したりしていると、叔父が裏手の畑を見て言った。 「ここも手を入れたいんだけどな…まあ、放っておくしかないか」 そう言われて彼も畑を見てみたが、そこには妙なものがあった。
知り合いの話。 彼の叔父は漁師だった。 島で暮らしていた彼は、よく叔父の船に乗せてもらい漁の手伝いをしていたという。 ある日、叔父が仲間の漁師たちと沖に出た。 その日は潮の流れが良く、大漁が期待できる状況だった。 しかし漁の最中に無線が飛んできた。 「すぐに引き上げろ!あれが出た!」 慌てた声だった。
Mさんと3人の釣り仲間で体験した話。 彼らは週末になると車を走らせ、人気のない山間の沼へ向かうのが恒例になっていた。 その日も夕方から釣りを始め、夜になっても撤収せず焚き火を囲んで酒を飲んでいた。 夜の沼は風もなく、水面はぴたりと静まり返っていた。 そんな中、ふとSさんが「…今、誰か変な声出したか?」と呟いた。 他の三人は顔を見合わせる。 「いや、普通に喋ってたけど?」 「ちょっと皆静かにしてくれ」とSさんが言う。
Tさんが幼馴染のYさんと二人で、地元の山奥にある廃神社を訪れた時の話。 その神社は何十年も使われておらず、地元でも「あまり近づくべきではない」と言われている場所だった。 二人はその場所が心霊スポットとして有名だと聞き、興味本位で昼間に訪れたが、薄暗い木々に囲まれた神社は昼でも異様に静まり返っており、不気味な雰囲気だった。 鳥居をくぐり本殿の前に立つと、Yさんが「おかしい」と言い始めた。 最初は「空気が重い」と言っていたが、次第に「耳元で何か囁いている声が聞こえる」と震えだした。
ネットで知り合った友人の話。 高校の部活で、山の中にある合宿所で合宿をしたときのことだった。 最終日の夜、深夜になると突然どこからともなく優しい音色が聞こえてきた。 オルゴールのような旋律が静かな山の中にぽつりぽつりと響き渡る。 「何の音だ?」 最初に気づいたのはAさんだった。 次第に音ははっきりしてきて他のメンバーも耳を傾ける。
山登りが趣味のIさんと仲間たちは、秋の終わりに山小屋を目指して登山をしていた。 夕暮れ時、目的地の山小屋に到着すると、古びた外観と苔むした壁が印象的だった。 簡単な夕食を済ませたあと、疲れもあって仲間たちは早々に寝袋に潜り込んだ。 Iさんも目を閉じたが小屋の古さゆえか、軋む音や隙間風の音が不気味に響いてくる。 夜半、ふと冷気を感じて目が覚めた。 薄暗い室内に目を慣らしていくと、仲間たちは全員寝静まっている。
廃墟巡りを趣味とするMさんは、ある晩、町外れにある古びた日本庭園付きの屋敷を訪れることにした。 長い間手入れされていないその庭園は、噂によれば"不思議な池"があるという。 夜中にその池を覗き込むと、自分ともう一人の人影が映るという話だった。 到着した屋敷は苔むした石灯籠や荒れ果てた植木で覆われ、どこか息苦しい雰囲気を放っていた。 庭園を進むと確かに池があった。 満月の光が揺れる水面を静かに照らしている。 興味津々で懐中電灯を消し、Mさんは池のほとりに腰を下ろした。
Rさんが鉄道写真を趣味とする大学生だった頃の話。 ある日、Rさんは友人と廃線跡を巡る撮影旅行に出かけた。 途中山奥の朽ちた無人駅にたどり着いた二人は、その場所の静けさに感動し、しばらく撮影を楽しんだ。 しかし日は早くも傾き薄暗くなり始めたため、その駅近くにあった小さな民宿に泊まることにした。 夜、疲れ果てたRさんは深く眠りについたが、夜中にふと目が覚めた。 トイレに行こうとベッドから起き上がり、部屋の隅に置かれた古びた鏡台に目が止まった。
Tさんが大学生の頃の話だ。 サークルの友人たちと肝試しに行こうということになり、郊外にある使われなくなったトンネルを訪れた。 地元では「何かがいるトンネル」と噂されている場所だった。 夜の10時過ぎ、トンネルの入口に着くと薄い霧が立ち込め、錆びた標識が幽かに揺れていた。
Rさんが社会人になりたての頃、友人たちと肝試しをしに郊外の廃工場へ行った時の話。 その工場は数十年前に閉鎖され、今ではひっそりとした廃墟と化している場所だった。 薄暗い夜、懐中電灯を片手にRさんたちは工場内を進んだ。 広いフロアには古びた機械が並び、錆びた金属やオイルの臭いが鼻をつく。 不気味な雰囲気だが、興味本位の彼らはそのまま奥へと進んでいった。
Tさんが体験した話。 友人のKさんと一緒に訪れたのは、山奥にある廃病院だった。 噂好きのKさんが「幽霊が出る」と言われる場所をどうしても見てみたいと言い出し、半ば強引に連れて行かれたのだ。 山奥は夜中という事もあり不気味な程静かだが、Tさんたちは廃病院に入っていく。 朽ち果てた壁、割れた窓ガラス、錆びついた器具が散乱する中、Tさんたちは懐中電灯を頼りに廊下を進んでいった。 数分歩いた頃だろうか。
Sさんが体験した話。 友人たちと訪れた山間のキャンプ場でのこと。 彼らはキャンプ場から少し離れた森の中を探索していた。 その途中、苔むした倒木の隙間に何かが挟まっているのを見つけた。 それはビニールに包まれた古びた日記だった。 カバーは湿気で傷んでいたが、中のページは意外にもはっきり読める状態だった。 興味を惹かれたSさんたちは、その場でページをめくり始めた。 日記には数年前、この場所でキャンプを楽しんだ人々の記録が残されていた。
これは学生時代に親しくしていたRさんから聞いた話。 Rさんたち数人の友人グループは、夏休みを利用して山奥のキャンプ場へ行くことにした。 その場所は川がすぐ近くにあり、涼しい風が流れる絶好のキャンプ地として知られていた。 夕食を終えた後、彼らは焚き火を囲みながら喋っていたそうだ。 時刻はすでに深夜に差し掛かった時、川の向こう側から奇妙な音が聞こえてきた。 最初は風の音かと思ったそうだが、それは次第に明確な声になり何かを叫んでいるようだった。
これは山奥の古びた集落で働いていた知人の話。 彼は地元で古民家を改修する仕事を請け負っており、ある日、村の外れにある一軒家の調査を頼まれた。 その家は長らく空き家になっていたが、所有者が売却を考えているらしく、修繕の見積もりが必要だったのだ。 その家は道端の他の古民家と比べても異様に朽ち果てていて、壁は苔むし、木の扉にはひびが入っている。
Yさんが大学生の頃の話。 地元に帰省していたある夏の日、友人のKさんと夜の散歩をしていた。 Kさんは昔から好奇心旺盛で、地元の不思議な話を集めるのが趣味だった。 その日も「少し変わった場所に行こう」と言い出した。 連れて行かれたのは山奥にある小さな神社だった。 地元でも人がほとんど訪れない場所場所らしく、荒れた石段を登ると古びた鳥居と小さな拝殿が現れた。
Sさんが中学生くらいの時の事で、夏休みに毎年恒例の祖母の家にお泊りしにいった時の事。 古びた和室で過ごしていると、押し入れの中から何かが落ちる音がした。 気になって中を覗くと、押入れの上の段の箱の上に埃をかぶった古いアルバムが置かれていた。 重厚な装丁で、年代物らしいそのアルバムには見覚えがなかった。 どこから落ちてきたんだろう?と押し入れの上を見るが上には天井板があるだけ。
週末、Mさんたちは仕事の残業を終え、コンビニで買い物をしてから深夜の閑散とした街を歩いていた。 都会の喧騒はすっかり消え、街灯の淡い光だけが道を照らしていた。 「少し先に誰かいるな」 同行していた友人が小声でそう言った。 目を凝らしてみると街灯の下に立つ影が見えた。
Rさんたちは夏の高原でキャンプをしていた。 山の澄んだ空気と満点の星空を楽しみながら、焚き火を囲んで語り合う夜は格別だった。 深夜になり火が小さくなり始めた頃、ふとRさんが「何か動いてる」と言い出した。 皆で焚き火を囲みながら視線を向けると、草むらの奥に白い影が見えた。 それはゆらゆらと揺れながら近づいてくる。
Hさんの職場では、夜になるとほとんどのフロアが無人になり静寂が広がる。 その夜、Hさんは一人で遅くまで残業をしていた。 仕事を終えて帰るころには日付も変わり、ビル全体が不気味なほど静まり返っていた。 エレベーターを使おうとボタンを押したがなかなか来ない。 「こんな時間に故障か?」 と考え、仕方なく非常階段を使うことにした。 階段を降り始めてすぐに、何か違和感を覚えた。
Hさんが子供の頃、近所には底なし池と呼ばれる不気味な池があった。 その池には、絶対に近づいてはいけないという言い伝えがあり、村の子どもたちは遊び場にすることを厳しく禁じられていた。 ある日、Hさんと友人たちはその池の近くを通りかかった。 猛暑の日で、どこか涼しい場所を求めて山中を歩いていたのだが、誰かが冗談で「底なし池に行ってみよう」と言い出した。 「噂なんて大げさだろう?」という友人の言葉に押され、彼らは池に向かうことになった。
仕事で遅くなった帰り道のことだった。 住宅街を抜ける細い道を歩いていると、遠くからこちらに向かって歩いてくる人影があった。 やがて近づいてきたその人は、どこか懐かしい雰囲気を纏った中年の男性だった。 「お久しぶりです」そう声をかけられた瞬間、私は驚いた。 彼は昔よく世話になった近所のYさんだったのだ。
数年前の出来事。 その日、友人たちとの集まりが思いのほか長引き終電を逃してしまった。 仕方なく深夜運行のバスを利用することにした。 乗客は私一人。 運転手は無言でハンドルを握り、バスのエンジン音だけが車内に響いている。 外は街灯もまばらな道が続き、車内の薄暗い照明が気持ちをさらに不安にさせた。 バスが森の中を抜けるあたりでふと窓の外に目を向ける。 その時、暗闇の中に何かが動いているのが見えた。
小学四年生の夏休み、私は母方の実家に帰省していた。 古い日本家屋のその家はどこか薄暗く、静けさが際立つ場所で、昼間は楽しい田舎暮らしを満喫していたけれど、夜になると少し不気味に感じることもあった。 その夜、私は真夜中に目を覚ましてしまった。 時計を見ると、午前二時を少し過ぎたところだった。 ついでだからトイレに行こうと布団を抜け出し廊下を歩いていると、仏壇のある部屋のあたりから微かに音が聞こえた。
日付が変わり、新年を迎えたばかりの夜。 大学生のRさん、Oさん、Yさんの三人は、「肝試しに行こう」と軽いノリで、地方にある小さな丘の廃墟を目指していた。 車で丘のふもと近くにある駐車場に到着すると、辺りはひと気がなくひっそりとしていた。 夜の冷気が漂う中、三人は懐中電灯を片手に登り始めた。 丘といってもなだらかな道が続く程度で、話しながら歩いていればそれほど怖くないはずだった。
年始の深夜、Sさんは親戚の家での新年会に向かうため車を走らせていた。 田舎道は街灯がまばらで、ほとんどが暗闇に包まれている。 車内にはラジオが微かに流れているが、周囲の静けさを紛らわせるには十分ではなかった。 山間の狭い一本道に差し掛かった頃、Sさんは何気なくバックミラーを見た。 すると遠くにぼんやりと人影のようなものが見えた。 「こんな時間にこんな場所を歩くなんて…」 気のせいだろうと自分に言い聞かせて前方に目を戻したが、しばらくして再びミラーを見ると、影はさっきより近づいている。
大晦日の夜、Sさんの家では家族が集まり、こたつに入って年越しそばを食べていた。 外は冷たい風が吹き荒れ、テレビから除夜の鐘の音が流れている。 そんな中、不意に玄関を叩く音がした。 「こんな時間に誰だ?」 と父親が立ち上がる。 時計を見るとすでに日付が変わろうとしていた。 近所の人だろうか、それとも何か緊急事態か。
知人のTさんが経験した話。 ある日、Tさんは趣味の登山の途中で、山奥で偶然見つけた廃屋について話してくれた。 古びた木造の家で、瓦は落ち、壁は所々崩れ、長い間放置されていた様子だった。 見た瞬間何か奇妙なものを感じたが、特に気にせずその日はそのまま帰った。 数日後、Tさんはその廃屋について友人たちに話した。 すると「面白そうだから見に行こう」という流れになり、深夜に数人で再び廃屋を訪れることになった。
Tさんは解体現場の現場監督として多忙な日々を送っていた。 ある古い建物の解体作業中、不可解な出来事が起きた。 夜間作業中、ふと背後に人の気配を感じたTさんが振り向くと、そこには青白い肌の女性が立っていた。 彼女は古びた赤い着物を着てじっとこちらを見つめていた。 目には深い悲しみが宿っているようだった。 驚いたTさんが声をかけようとした瞬間、女性の姿はふっと消えてしまった。 それからというもの、作業中に彼女の姿が幾度となく現れるようになった。
Mさんが体験した話。 ある日、彼は友人とともに山中の渓流へ釣りに出かけた。 人気のないその川は、地元では魚影が濃いことで知られていた。 朝早くから竿を垂らし、静かな時間を楽しんでいた。 昼を過ぎた頃、Mさんがふと川面を見つめていると、水中で何かが揺らめくのに気がついた。 魚が跳ねたのかと思った瞬間、水面からスッと手が現れた。
知り合いのTさんが体験した話。 Tさんは休日に山奥の渓流へ一人で釣りに出かけた。 人里離れた場所で、川のせせらぎと鳥の声が心地よい場所だった。 日が傾き始めた頃、思いのほか釣果が良かったので、もう少しだけと竿を垂らしていた。 ふと背後から視線を感じて振り返ると、薄暗い木立の間に何かがいるのが見えた。 目を凝らすと、それは大きな影のようなものだった。
Hさんがその工場の夜勤に入ったのは、その日が初めてだった。 大学を卒業して数年、工場の現場作業員として働いている彼にとって、夜勤は初めての経験ではなかったが、初めての場所ということで少し緊張していた。 その夜、作業室で数人の同僚と一緒に作業を進めていたが、途中で機械の調整に必要な工具を倉庫まで取りに行くことになった。 工場内は広く、照明の少ない廊下は静まり返っている。 Hさんは小走りで進み、目的の倉庫の扉が見えてきたところで物音が聞こえた。
大学時代、登山サークルに所属していたMさんから聞いた話。 新入生歓迎合宿の一環で、彼らは山間のコテージに泊まることになった。 そこは森に囲まれ静かな場所だった。 一行は昼過ぎに到着し、荷物を運び込んだ後、これからのスケジュールを確認したり夕飯の準備をしたりして過ごした。 辺りがすっかり暗くなった頃、Tさんが玄関先で立ち尽くしているのに気づいたMさん。
山好きのNさんから聞いた話。 梅雨のある日、彼は地元で有名な渓谷近くのキャンプ場にテントを張った。 天気予報では小雨程度と聞いていたが、その日は一日中土砂降りだった。 夕方、暇を持て余したNさんは、雨音を聞きながらテントの中で地図を眺めていた。 ふと外に出ると、霧が立ち込める中、渓谷を挟んだ向かいの山肌が目に入った。 雨で濡れた岩壁がぼんやり光るように見えていたが、何かが岩の間から浮き上がっているように見える。
ネットで知り合ったHさんから聞いた話。 彼が趣味で廃道巡りをしていた時のこと。 場所は某県の山奥。 地元では「崩れ道」と呼ばれ、長年使われていない古い山道だったらしい。 雨上がりの午前中、Hさんはその道を歩き始めた。 苔むした石畳や、ところどころ崩れた土砂が無人の時間の長さを物語っていた。 それでも古地図を頼りに奥へ進むと、かつて村があったと思われる小さな開けた場所にたどり着いた。
これは友人のKさんから聞いた話だ。 Kさんが車で一人旅を楽しんでいた年末のある日のこと。 深夜1時頃、山奥の峠道を走っていた時、ふと人気のない休憩所が目に留まった。 少し休憩しようと思い、車を停めて外に出たのだという。 休憩所はひっそりとしていて、月明かりが木々の影を地面に映し出していた。 しばらく車のそばで冷たい空気を感じていると、遠くの方で「カツ、カツ」と硬い靴音のような音が聞こえてきた。
おそば屋さんで働いているTさんが、何年か前に経験した年末の奇妙な出来事。 それは12月31日の夕方、普段は配達を頼まない家から「夜遅くに年越しそばを届けてほしい」という連絡が入ったところから始まった。 その家は街外れにあり、古い日本家屋だった。 夜になり、Tさんは注文されたそばを持って家を訪れた。 庭先から見える座敷には灯りがともり、中に一人の人影があった。
Yさんが新人の頃、ロープウェイの係員として働いていた時のこと。 その日は昼過ぎから濃い霧が立ち込め、視界がほとんど効かない状態だった。 霧の日は乗客が少なくなることが多く、Yさんも特に大きなトラブルなく終われるだろうと考えていた。 午後5時を過ぎたころ、山頂からの最終便が運行される時間になった。 霧はますます濃くなり、ロープウェイのゴンドラが到着するのを待つ間、ぼんやりと白い世界を眺めていたYさんだったが、遠くからかすかにワイヤーが軋む音が聞こえ、やがてゴンドラが到着した。
大学生のAさんたち5人は、年末休暇を利用して山奥の小屋に泊まることにした。 地元の人が「使っていないから自由に使っていい」と教えてくれた場所で、古びた薪ストーブが中心にあり、壁際には簡素な布団が並べてあるので使ってくれとの事だった。 Aさんたちは到着するなり急いで中に入り、ストーブに火を入れて小屋の中を暖めた。 夕飯を終えて寝る準備を整えた後、それぞれ好きな場所で寝る事になったのだが、Aさんは壁際の布団で寝ることになった。
ある池は地元で「夜になると人を引きずり込む」という噂が絶えない場所だった。 昔その池で恋人を待ち続けた女性が命を落とし、その未練が池に染みついているという話だ。 噂によれば夜に池のほとりに立つと水面に女性の姿が映り込むことがあり、彼女はそのまま人を水中に引きずり込むという。
子ども会のキャンプでの夜、Rさんは友達と一緒に肝試しイベントに参加していた。 ルールは二人一組になり、キャンプ場の施設の周囲をぐるりと一周するというもの。 途中には保護者が何人か隠れていて驚かせる役をしているが、暗闇の中を歩くだけで十分に怖い。 Rさんたちの順番が回ってきた。 懐中電灯を片手に、二人は施設を囲む小道に足を踏み入れる。 街灯はほとんどなく、足元をかろうじて照らす懐中電灯の心細さに、二人は「怖いね」と小声で話していた。
単独登山を趣味にしているYさんは、その日も山深くまで入り込んでいた。 天気予報では夕方から雨という話だったが、いつものように山道を進んでいると、予報よりも早くポツリポツリと雨が降り始めた。 雨足は次第に強くなり、Yさんは近くにあった枝の長い大木の下で雨宿りをすることにした。 大木の下に簡易テントを張り、簡単な食事を済ませるとすぐに寝る事にした。 どのくらい経ったのか分からない頃、Yさんのテントのすぐ前を誰かが歩いているような足音が聞こえた。
知り合いのHさんが、ひとりで山道を歩いていたときのこと。 初夏の頃で木々の緑が生い茂り、風も涼しく歩きやすい日だったという。 彼は普段通らないような細い道を選んで進んでいたが、ふと目を引くものがあった。 木自体はよく見る木なのだが、まるで果実のようなものがぶら下がっていたのだ。 しかしその実には明らかに異常な特徴があった。 普通の木の実は丸くて滑らかだが、その実はまるで人間の顔のような凹凸があり、目や口の部分にしわのようなものが見える。
夏の終わり、Sさんたちは登山がてら人里離れた山中で野営をすることにした。 メンバーは4人、夜になれば山は静まり返り、虫の音だけが響いている。 テントの中で軽い雑談を続けていたが、やがて疲れもあり全員が寝袋に入って眠りについた。 しかし深夜になって異変が起きた。 Sさんがふと目を覚ますと、隣で寝ていたKさんが寝袋をずるりと這い出し、何かをつぶやいているのが目に入った。
地方の小さな映画館でアルバイトをしていたMさん。 そこは昔から地元の人たちに親しまれている劇場だが、古さもあり、夜になると少し薄気味悪さがあった。 Mさんはある日の閉館作業中、上映が終わって静まり返った劇場内を一人で見回っていた。 忘れ物がないか座席を回って確認していると、劇場の一番隅の席に人が座っているような影を見つけた。
田舎の中学校に通うSくんたちは、地元ではちょっとした悪ガキグループ。 夜の学校に忍び込んで遊ぶのが密かな楽しみだった。 その日、Sくんたちは鍵が閉まり忘れていた体育館に集まり、バスケットボールで遊んでいた。 誰もいない夜の体育館は広々としていて、彼らの笑い声とボールが床を弾く音だけが響いている。 ひとしきり遊んだ後、Sくんが 「そろそろ片付けて帰るか」 と言い出すと、Yくんが突然顔を強張らせて天井を指差した。
Kさんたちがその噂を耳にしたのは、学校の怖い話が話題に上ったある日のことだった。 「誰もいない深夜の放送室で、囁き声が響いてくるらしい」 そんな噂に興味を持ったKさんと仲間たち3人は、ある夜忍び込むことを決意した。 「けどさ、学校なんて夜は鍵が掛かってるだろ?」 友人のYさんが計画にやや消極的な様子で言う。 「まあもし閉まってたら帰ればいい。運が良ければ入れるだろ」 Kさんがそう言うと渋々うなずいた。
Eさんは友人の家に泊まりに行くことになった。 そこは古びた一戸建てで、地元では「座敷わらしが出る」と噂されている家だった。 友人も何度か足音を聞いたり、小さな影を見たりしたことがあるらしい。 もし本当に座敷わらしがいるのなら幸運を呼ぶと聞いていたEさんは、期待に胸を膨らませていた。 その晩、Eさんは友人と遅くまで語り合った後、二階の客間に布団を敷いて寝ることにした。
Rさんは週末、友人と訪れた山小屋に泊まっていた。 木造の簡素な造りだが山の静けさと星空が心地よく、夜は早めに床に就いた。 深夜ふと目が覚めると何かの気配を感じた。 部屋は暗く、窓から月明かりがぼんやり差し込んでいる。 ぼんやりと天井を見上げた瞬間、Rさんは息を飲んだ。
大学のレポートを終えたのが夜中の1時過ぎ。 Sさんは住んでいるマンションの近くにある、24時間営業のコンビニに行こうと部屋を出た。 古びた6階建てのマンションは築30年以上で住人も少ない。 3階と4階は特に空室が多く、ほとんど使われていないと聞いていた。 エレベーターに乗り込むと、Sさんは1階のボタンを押してドアが閉まるのを待った。
大学を機に一人暮らしを始めたSさんは、駅から少し離れたアパートに引っ越した。 築年数は古いものの家賃は安く、周囲は静かで最初の印象は悪くなかった。 しかし、引っ越して数日が過ぎた頃から夜になると妙な現象に気付き始めた。 深夜12時を過ぎた頃。 明日への準備を済ませて眠ろうとしていると、外から聞こえる足音…階段を上る音だ。 アパートは2階建てでSさんの部屋は2階にある。 最初は「隣人が帰ってきたんだろう」と気にも留めていなかった。
大学生のSさんは、アパートの自室で深夜まで動画を見ていた。 小さなワンルームで家具は少なく、背後には狭いクローゼットがあるだけだ。 時刻が午前2時を回った。 部屋は照明を消していたのでスマホの明かりだけ。 ベッドに横になりながら、何気なくホラー系の動画を見ていたSさん。
秋も深まり、夜になると肌寒さを感じるようになった頃、Fさんは友人のKさんと二人で山奥のキャンプ場へ来ていた。 平日のためか他のキャンパーの姿は全く見当たらない。 静かな森の中、Fさんたちは焚き火を囲み、暖を取りながら語り合っていた。 Kさんは昔から霊感が強く、時々不思議な体験をすることがある。 今日も来る途中の道で「何か嫌な気配がする」と呟いていたのを、Fさんは少し気にしながらもいつものことだと軽く流していた。
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この話は、林業歴三十年以上のTさんから聞いた話。 その日もTさんは、三人組である区域の境界に近い尾根に入っていた。 午前中はチェーンソーの音が響いていたが、午後になると皆バラバラに位置取りして、間伐作業に入っていたという。 喉が乾いたTさんは手を止め、 「おーい、休憩にしねぇかー」 仕事仲間に呼びかけたつもりだった。だが返ってきたのは 「Tさぁん」 甲高い女の声だった。
この話は趣味で登山を続けているYさん(30代・男性)が、昨年の秋に体験した話。 その日、YさんはN県にある標高1,◯00mほどの山に登っていた。 天気は快晴。 平日ということもあり、登山道に人の姿はほとんどなかった。 ゆるやかな尾根道に出た頃には昼も近く、山の上から見下ろす紅葉の景色に、彼は何枚かスマホで写真を撮っていたという。 尾根沿いの道は左右に低木が続いていて、見通しは良かった。 ところがふと気配を感じて、Yさんはスマホ越しに右側の斜面を見た。
これは、Sさんが引っ越した直後に体験した出来事。 就職を機に一人暮らしを始めたSさん。 新生活の運気を上げようと、駅前の骨董市で真っ白な張り子のだるまを一つ購入した。 古道具屋の隅に置かれていたそれは、手作りなのか少しいびつで、他と比べると妙に目が大きかったのが印象的だった。 「願いごとをして、左目を入れるんだよ」 店の老人がそう言うので、部屋に戻ってすぐ黒ペンで左目を塗りつぶした。 「どうか、新しい仕事がうまくいきますように」
これは大学時代に肝試しに行ったという、Tさんから聞いた話。 Tさんたちは友人6人のグループで、とある山奥の古民家を訪れた。 すでに人が住まなくなって久しく、屋根の一部も抜けかけていたが、知り合いの親戚の持ち物で取り壊しが決まっていたため、一晩だけならと泊まる許可をもらったのだという。 古民家には全部で五つの部屋があった。 そのうちの一つ、一番奥の部屋だけが他と明らかに違っていた。 畳が真っ赤だった。
Kさんが小学生の頃に体験した話。 当時住んでいたのは、山あいにある静かな集落だった。 街灯も少なく、夜になると辺りは真っ暗になったが、自然に囲まれたのどかな場所だったという。 その村には、少し変わった風習があった。 「影送り」と呼ばれるもので、夕暮れ時に自分の影を踏みながら「さようなら」と唱えることで、一日分の厄を影に流して追い出すというものだった。 ただし、年に何日か「影送りをしてはいけない日」がある、と大人たちは言っていた。 Kさんはその理由を深く聞いたことはなかった。
これは会社員のMさんが実際に体験したという話。 その日Mさんは仕事からの帰宅中、スマホに「留守番電話が1件」と表示されていることに気づいた。 発信元は非通知。 だが内容を確認してみると──自分の声だった。 『…オレだけど…たぶん、大丈夫、もうすぐ帰る』 声は確かにMさんの声。 けれど、どこかおかしい。
この話は、大学生のIさんが体験した出来事だという。 Iさんは、郊外の二階建てアパートの一室に一人で暮らしていた。 夏も終わりに近づいたある夜、部屋の窓を開けて夜風に当たりながらスマホを見ていた。 その時だった。 「コン、コン」 耳をすますと、窓のすぐ下から軽く叩くような音がした。
これはRさんが昔、古道具屋で働いていた時のこと。 遺品整理の依頼で引き取った荷物の中に、木枠が黒ずんだ古い額縁があった。 中の写真はすでに抜かれており、ガラスと台紙だけが残っている。 湿気を含んだような匂いが微かに漂っていたが、Rさんはそれを丁寧に拭き取り、他の額縁と一緒に棚へ並べた。 ところが数日後、その額縁に異変が起きた。 他の作業をしていた同僚が、「あれ、今、人の顔が…」と額縁を見て顔をしかめる。
Eさんが転勤を機に引っ越したのは、地方のとある町にある古びた一軒家だった。 家賃は月2万円。 風呂トイレ付きで、間取りも一人暮らしには十分。 築年数は古いものの、特に事故物件などの説明もなかった。 最初の一週間は特に問題もなかった。 静かな環境で、仕事から帰ってはテレビを見て寝るだけの生活。 だがある晩、眠りかけたEさんの耳に声が届いた。
これはTさんが高校生の夏、田舎の親戚の家に泊まりに行ったときの話。 その村は山間にあり、携帯の電波もろくに入らないような場所だった。 Tさんにとっては退屈な時間だったが、近所の子どもたちと話すうちに一つだけ気になる場所の話を聞いた。 「崖の上の祠、ぜったい行っちゃダメだよ」 「近づいたら、目ぇつけられるんだって」 どうやら村はずれ、断崖の上にぽつんと建っている古い祠があり、地元の人間は子どもどころか大人でも近づかないという。
これはYさんが大学生の夏休みに体験した話。 Yさんは数年ぶりに祖父母の家を訪れていた。 山間の古い家で、子どもの頃はよく裏山を駆け回って遊んでいたという。 到着した日の午後、夕飯まで少し時間があったので、懐かしさから一人で裏山へ登ってみることにした。 山の入り口には、変わらず朽ちかけた鳥居が立っていた。 奥には昔よく通った小道が続いている。
Kさんが大学時代に体験した話。 夏の終わり、Kさんは友人4人と一緒に、人けの少ない山奥のキャンプ場を訪れた。 標高は高く、夜になると一気に気温が下がる場所だったが、年に一度の恒例行事となっていた。 その晩も焚き火を囲んで他愛もない話をしていたが、日付が変わる頃、疲れた一同はテントに入って眠りについた。 Kさんが目を覚ましたのは、午前2時を少し回った頃だった。
Yさんは新緑の眩しい季節を選んで、愛車のバイクで気ままな一人旅を続けていた。 予定していたルートを少し外れ、地図にも載っていないような細い山道に入り込んでしまったのは、もう日が傾きかけた頃だった。 焦りと不安を感じ始めたYさんの目に、不意に小さな集落が飛び込んできた。 まるで忘れ去られたような、静かで古びた村だった。 「助かった…」 ほっと胸をなでおろし、村へとバイクを進めたYさんだったが、すぐに異様な光景に気づく。 村の入り口から続く田畑に、無数の案山子が立っているのだ。
会社員のKさんは、都内の築三十年近い古いマンションに引っ越してきたばかりだった。 家賃は安く駅からも近い。 設備は年季が入っていたが、広さのわりに格安だった。 最初の一週間は何の問題もなかった。 だが、それはアラームが鳴った日から始まった。 その日、Kさんは寝不足だった。 ベッドに倒れこむようにして眠ったのに、突然、けたたましいアラーム音で目が覚めた。
ネットで知り合ったFさんから聞いた話。 Fさんがそのアパートに引っ越してきたのは、仕事の都合で急遽決まった異動がきっかけだった。 築年数は古いが、内装はリフォーム済みで綺麗。 家賃も安く立地も悪くなかった。 ただひとつだけ気になるのは、入居時に管理会社の人が妙に念を押したことだった。 「お風呂、夜中には入らないほうがいいですよ。 …できればですけどね」
大学生のSさんが住むのは、都内郊外に建つ築40年のアパートだった。 木造二階建て、六世帯が住む古びた建物で、メインの階段の他にSさんの部屋の横には、古い鉄製の非常階段が取り付けられていた。 その非常階段は黒い階段と呼ばれ、住人の間ではある噂が囁かれていた。 「一段だけ、踏んじゃいけない段があるんだって。 夜中に降りると、変なことが起きるらしいよ」 そんな話を聞いたのは引っ越してきたばかりの頃だった。
築50年を超える木造アパート「桜荘」の一室に、女性のYさんは住んでいた。 家賃が安く都内の職場にも通いやすかったが、夜になると家鳴りが酷く、冬は隙間風がひゅうひゅうと鳴いた。 Yさんの部屋の隣には、Mさんという30代くらいの男性が住んでいた。 物静かで会えば軽く会釈を交わす程度だったが、特に問題のある人物ではなかった。 だがある日を境に、そのMさんの姿をぱったりと見かけなくなる。
この話は、都内で働く会社員のSさんが体験したという出来事。 彼は終電で最寄りの無人駅に降り立ち、自宅まで歩いて帰るのが日課だった。 その帰り道、工場地帯へと伸びる貨物専用線の踏切がある。 住宅街とは少し離れた場所で、日中でもあまり人が通らないようなところだ。 その踏切は深夜になると、1本だけ貨物列車が通過していく。 時刻は毎晩0時37分。
Tさんから聞いた話。 大学時代、Tさんにはよく遊ぶ仲間が3人おり、どこに行くにも一緒だった。 そのうちの1人、Yさんは写真に写るのが苦手というタイプではなかったが、ある日を境に少しずつ様子がおかしくなっていった。 きっかけは旅行先での集合写真だった。 Tさんがスマホで撮った1枚、みんなが笑っている中、Yさんの顔だけがぐにゃりと歪んでいた。 ピントがずれたかと思いすぐに撮り直したが、やはりYさんの顔だけがぼんやりしている。
ネットで知り合ったJさんが体験した話。 大学進学をきっかけに、Jさんは地方都市の少し古びたアパートに引っ越した。 駅から遠くもなく家賃も安く、少しだけ壁が薄いことを除けば、条件としては悪くなかった。 引っ越しからしばらくして、気になったのは隣の部屋のことだった。 入居の時に管理人から「隣室は長らく空き部屋」と聞かされていたのに、夜になると壁越しにわずかな生活音が響いてくるのだ。
知り合いのKの話。 Kは大学の生物部員で、夏休みに入った時、先輩から「山の昆虫の生態調査」という課題を任された。 場所は大学の研究林に隣接する、原生林が残る山腹だ。 「定点カメラを設置して一週間ほど撮影するんだ。 どんな昆虫がいつ現れるか貴重なデータが取れるぞ」 先輩はそう言って、使い古された防水型のカメラと三脚を手渡してくれた。 Kは指定された場所、苔むした石段の脇にカメラをセットした。 そこは昼間でも薄暗く、ひんやりとした空気が漂う場所だった。
これはA子さんという子が一人暮らしをした時の話。 A子が一人暮らしを始めて3ヶ月が経った。 住んでいるアパートは築年数は古いものの、家賃も安く、駅にも近いので気に入っていた。 ある夜、いつものようにベッドで本を読んでいると、壁の向こうからかすかに音が聞こえてきた。 隣の部屋の住人がテレビを見ているのだろうと思ったが、その音は次第に大きくなり、何かを叩きつけるような音や、何を言ってるかは分からないが怒鳴り声のようなものまで聞こえてきた。
山奥に住むBさんから聞いた、奇妙な体験談。 Bさんがまだ小学生だった頃、山裾の小さな村に住んでいた。 家のすぐ裏は森が広がり、少し歩けば山道が始まるような自然豊かな環境だった。 BさんにはF君とEちゃんという仲の良い友達がいて、よく3人で森の中で秘密基地を作ったり、探検ごっこをしたりして遊んでいた。 ある曇りの日、3人はいつものように森の中で特撮ヒーローごっこに夢中になっていた。 F君が怪獣役、Eちゃんがヒロイン役、そしてBさんが正義のヒーロー役だ。 段ボールで作った剣を振りかざし、F君を追いかけ回していると、突然空がゴロゴロと鳴り出した。
6月初旬、Yと友人は気分転換に海辺の安いホテルを訪れた。 まだシーズンオフだったためか、ホテルは閑散としており、宿泊客の姿はほとんど見られなかった。 午前中にホテルに到着した二人は、荷物を部屋に置いてすぐに近くの海に出かけた。 曇り空ではあったが海風は心地よく、波の音を聞きながら砂浜を歩くのは楽しかった。 夕方になると二人はホテルに戻り、すぐそこの海で取れたという海鮮料理を堪能し、温泉で旅の疲れを癒した。
夏の終わり、大学生のグループが山奥のキャンプ場を訪れた。 そこは携帯電話の電波も届かないような秘境で、深い森に囲まれた静かな場所だった。 彼らは学生最後の思い出作りに、自然の中で羽を伸ばそうとやってきたのだ。 キャンプ場に着くと管理者のおじさんが出迎えてくれ、簡単な説明を受けてから彼らは森の中にテントを設営し始めた。 まだ夏と言っても森の中、日が暮れ始めると辺りは急速に暗くなっていった。
毎年夏になると、家族で山の別荘に行くのが恒例だった。 別荘の裏手には鬱蒼とした森が広がっており、子供の頃は少し不気味な感じがして近づかないようにしていた。 ある年の夏、好奇心に駆られて森の中に入ってみた。 木々の間を進んでいくと、小さな祠を見つけた。 祠の周りは枯れ葉や小枝が綺麗に掃き清められており、誰かが定期的に掃除をしているようだった。 祠の中が気になって遠目に覗いてみたのだが、遠目からでは何も見えない。 ただ、祠の奥に白い布が垂れ下がっているのが見えた。
友人は子供の頃、山間の小さな村に住んでいた。 村の外れには鬱蒼とした森が広がる山があり、そこには「入ってはいけない」と村人たちに言い伝えられている場所があった。 理由は定かではないが、その場所は昔から何かがいると噂され近づく者はいなかった。 ある夏の暑い日、友人は幼馴染みと山に探検に出かけた。 好奇心旺盛な二人は、村の言い伝えを無視してその禁足地へと足を踏み入れてしまった。
私の友人はアウトドアが好きで、特にキャンプには目がなかった。 彼はゴールデンウィークの長期休みを利用して、一人で山奥へと向かった。 事前にキャンプ場を予約していなかった彼は、山道を車で走らせ良さそうな場所を探していた。しばらく走ると山道から少し入った場所に、ぽっかりと開けた広場を見つけた。 木々に囲まれていて地面は比較的平ら、テントを張るには絶好の場所だった。 友人は車を停め、早速テントの設営に取り掛かった。
私の友人の家族は、毎年夏になると車で数時間かかる山奥の故郷に帰省していた。 その途中の道に、地元で曰くつきの心霊スポットとして知られる古いトンネルがあり、トンネル内は薄暗く、じめっとした空気が漂いどこか陰鬱な雰囲気に包まれていた。 ある年の夏、友人の家族がいつものようにそのトンネルを通過していると、後部座席に座っていた幼い娘が突然泣き出した。 「ママ、怖いよ。あそこに誰かいる」 娘は震える声でトンネルの壁を指差した。
私の故郷には、小さな山の上にひっそりと佇む古びた神社があった。 子供の頃、その神社は薄気味悪く近づくことを避けていた。 しかし大人になってから故郷を訪れた際、ふとその神社のことを思い出し足を運んでみることにした。 山道を登っていくと、木々の隙間から神社の屋根が見えてきた。 近づいてみると、境内に足を踏み入れるのも躊躇われるほどの異様な雰囲気に包まれていた。 鳥居は朽ち果て、社殿は崩れかかっており、まるで長い間放置されていたかのようだった。
小学校の帰り道、私はいつも近道のために裏山にある竹薮を抜けていた。 鬱蒼とした竹林は昼でも薄暗く、少し不気味だったが近道できるメリットには代えられなかった。 ある日、いつものように竹薮を歩いていると、奇妙な物音に気づいた。 ガサガサと竹が揺れる音、そして何かが蠢くような気配。 立ち止まって耳を澄ますと、微かに子供の笑い声が聞こえた気がした。
これはとある神社の神主から聞いた話。 数年前の夏、大学生が神社にやってきて、リュックサックから古びた木彫りの人形を取り出し、神主にこう頼んだ。 「この人形、処分してくれないか?」 話を聞いてみたところ、その人形は彼が最近骨董品屋で購入したものらしい。 アフリカの木彫りの民族人形で、素朴ながらも力強い存在感を放っていた。 だが、家に持ち帰ってからというもの、奇妙な現象が起こるようになったという。
夏の強い日差しが照りつける中、Rさんはドライブを楽しんでいた。 地方の道を気ままに走らせていると、古びた図書館が視界に飛び込んできた。 蔦が絡まり、外壁の塗装は剥がれ落ち、まるで長い間忘れ去られていたような佇まいだ。 「こんなところに図書館が・・・」 好奇心に駆られたRさんは車を駐車場に停め、図書館へと足を踏み入れた。
深夜、台車を押す作業着を着た人
夏休みが始まったばかりの7月、ある中学校の2年生は、恒例の林間学校に出かけた。 場所は山奥にある古いキャンプ場。 生徒たちは自然の中で過ごす3日間を楽しみにしている様子だった。 初日の夜はキャンプファイヤー。 火を囲んで歌を歌ったりゲームをしたりと、生徒たちは楽しい時間を過ごした。 夜の自由時間になり、各班ごとにテントに戻ると、興奮冷めやらぬ様子でしばらくの間はひそひそと話し声が続いていた。
中学校2年生のAさんは、自然体験学習で山奥の宿泊施設に来ていた。 同級生たちと寝食を共にし、ハイキングやキャンプファイヤーなど、都会では味わえない貴重な体験に胸を躍らせていた。 Aさんたちが寝泊まりする部屋は2階にあった。 2日目の夜、Aさんは奇妙な体験をする。 消灯時間を過ぎ、同級生たちが寝静まった頃、Aさんはトイレに行きたくなって目を覚ました。 薄暗い部屋の中、Aさんはベッドから抜け出し廊下へと出た。 宿泊施設は古い木造建築で、廊下は長く裸電球がぽつんと一つ灯っているだけだった。 その薄明かりがかえって廊下の奥を暗く見せ、Aさんは少し怖くなった。 トイレを済ませ部屋に戻ろうとした時、Aさん…
大学の探検部のメンバーであるA子は、夏休みの合宿で山奥の廃村を訪れていた。 その村は数十年前の山津波によって壊滅し、それ以来無人となってしまった。 A子たちは村の調査を目的として、廃墟となった家屋や神社などを探索していた。 ある日、A子は村はずれの森の中で奇妙な石碑を発見する。 その石碑には見たこともない文字が刻まれていた。 A子が石碑に触れた瞬間、彼女の頭の中に鮮やかな映像が流れ込んできた。
夏休みに入ったばかりの7月の事。 大学のサークル仲間5人、A子、B美、C香、D奈、E子は、海辺のキャンプ場に来ていた。 昼間は海水浴やビーチバレーを楽しんだ彼女たちは、夜になると砂浜に焚き火を囲んで、怪談話を始めた。 「この近くには、曰くつきの岬があるって知ってる?」 地元出身のC香が、意味ありげに話を切り出した。
大学生のA子は、夏休みを利用して友人3人と海辺の別荘に遊びに来ていた。 その別荘はA子の叔母が所有するもので、古くて少し不気味な雰囲気だったが広くて快適だった。 ある夜、4人はトランプをして遊んでいた。 窓の外は嵐で激しい雨が窓を叩きつけていた。 その時、突然停電が起こり部屋は真っ暗闇に包まれた。 「キャー!」 悲鳴を上げたのはB子だった。
夕暮れ迫る薄暗い校舎。 部活に熱中していたAさんは、気がつけばすっかり日が暮れてしまっていた。 慌てて荷物をまとめ帰路につこうとするが、大事な教科書を教室に忘れてきたことに気づいた。 もうあたりはすっかり暗くなっている。 それでも教科書は宿題の為に必要なものだ。 ため息をつきながら、Aさんは重い足取りで4階の教室へと向かったのだが、向かってる途中で嫌な噂を思い出してしまった。 それは「18時を過ぎると4階の教室の中に黒い影が歩き回っている」というものだった。