これはとある社会人のKさんから聞いた話。 Kさんは、最近引っ越したばかりのアパートに住んでいた。 築年数はそれなりに経っていたが、立地も良く、何より家賃が手頃だったため、すぐに決めたのだ。 窓からは小さな公園が見え、日当たりも良く、Kさんは新生活に期待を膨らませていた。 引っ越してきて数日経った頃、Kさんは夜中にふと目が覚めた。 時計を見ると午前3時。
2025年6月
これはとある社会人のKさんから聞いた話。 Kさんは、最近引っ越したばかりのアパートに住んでいた。 築年数はそれなりに経っていたが、立地も良く、何より家賃が手頃だったため、すぐに決めたのだ。 窓からは小さな公園が見え、日当たりも良く、Kさんは新生活に期待を膨らませていた。 引っ越してきて数日経った頃、Kさんは夜中にふと目が覚めた。 時計を見ると午前3時。
これは、Sさんという方が学生だった頃の話。 Sさんは大学で歴史学を専攻していた。 特に興味があったのは、郷土史。 地域の小さな図書館に通い、古い資料を読み漁るのが日課だった。 その図書館は町の中心部からは少し離れた、ひっそりとした場所にあった。 建物自体も古く、天井が高く、木製の書架がずらりと並び独特の埃っぽい匂いがした。 訪れる人もまばらで、静寂が常にその場所を支配していた。
夜勤のBさんは、いつものように仮眠を取るために休憩室へ向かったのだが、4つあるのベッドがすべて使用中だった。 仕方なく、誰かが起きてくるまで仕事を片付けることにした。 しばらくすると、3人の同僚が起きてきてBさんに声をかけた。 「あれ?Bさん、まだ仮眠取ってないんですか?」 Bさんは、仮眠室のベッドが4つ埋まっていたから使えなかったと説明した。 すると同僚たちは不思議そうな顔で言う。 「廊下側が1つ空いてたじゃないですか」 「そんなはずはない、確かに4つ埋まってたよ」
ある年の夏、Kさんはいつもの地方の無人駅のホームで、最終電車を待っていた。 残業で遅くなってしまい、疲れた体をひきずって辿り着いたこの駅には、最終の到着を待つ乗客はKさん一人だけだった。 深夜の駅のホームは、街灯の明かりがぼんやりと照らすだけで、物音ひとつしない。 普段なら虫の鳴き声がうるさいのだが、この日は虫の声すら聞こえず、ただただ静寂がKさんを包んでいた。 その時、背後のベンチから「きしり」という小さな音が聞こえた。 誰かが腰かけたような、そんな音だった。
今回この話は2つのバージョンを用意しましたので、お好きな方をどうぞ。 1つ目 Iさんは大学の登山サークルに所属していて、その日は仲間たちと連れ立って、少し険しい山を訪れていた。 新緑が眩しい季節で、鳥のさえずりが心地よく響く、ごく普通の登山になるはずだった。 しかし、途中で道を間違えてしまったのか、Iさんたちはいつの間にか、地図には載っていない谷間に迷い込んでいた。
Sさんは学生の頃から登山が趣味で、社会人になってからも週末になると、一人で山へ出かけることが多かった。 その日もいつものように単独登山を楽しんでいたのだが、予報にない悪天候に見舞われ、急遽、山中の避難小屋に泊まることになった。 小屋は古く、軋む音が不気味に響く。 Sさんは持参した食料を広げ、ラジオで天気予報を聞いた。 夜遅くになるとさらに荒れるらしい。 不安を覚えながらも、疲労からすぐに眠りについた。 深夜、ガタガタと窓が揺れる音で目が覚めた。
Nさんは、数年前から登山に没頭している。 普段から人の少ない、整備されすぎていない登山道を好んで歩く。 その日も、彼は地図には載っていないような古い山道を、気ままに探索していた。 鳥の声だけが響く静かな山の中、踏み固められた道は徐々に細くなり、やがて獣道へと変わっていった。 Nさんはそういった道を進むのが好きだった。 未知の風景に出会える期待感が、彼の好奇心を刺激する。 しばらく獣道を分け入って進むと、ふと、道の脇に不自然な空間があることに気がついた。
ある晴れた週末の午後、Yさんは小学生になる娘を連れて、山のふもとにある森林公園を訪れていた。 都会の騒がしい場所と違い、休日でも人がまばらで、静かに過ごしたい家族にはうってつけだった。 Yさんの目的は、娘がネットで見て興味を持った、園内奥にある木製遊具だった。 木製の滑り台やジャングルジムでしばらく遊んだ後、娘はふと、その奥にひっそりと佇むブランコを見つけた。 それは古びた木製のもので、使い込まれた座面はすっかり色褪せ、鎖は錆びついていた。
Mさんたち大学生グループは、休日を利用して近場の山に登山に来ていた。 新緑が眩しい季節で、道中も賑やかに談笑しながら、ゆっくりとしたペースで山を登っていく。 ちょうど昼食を終え、もう少しで頂上というあたりで、小さな観光展望台に立ち寄ることにした。 展望台は、山の景色を一望できる開けた場所にあり、頂上付近の少し手前に位置する。 小さな東屋が建てられ、中には木製の古びた望遠鏡と、休憩用のベンチがいくつか設置されていた。 普段なら観光客で賑わう場所だが、その日はあいにくの曇り空。 人もまばらでひっそりとしていた。 遠くの景色も霞んで見え、少し肌寒い風が吹き抜けていく。
夏も終わりに差し掛かった頃、Hさんは山の中腹で野営の準備を進めていた。 日はすでに傾き、周囲は急速に薄暗さを増していく。 湿った空気が肌にまとわりつき、あたりには濃い霧が立ち込め始めていた。 視界は悪く、わずか数メートル先も見通せないほどだ。 そんな中、Hさんの視界の先にぽつんと白い塊が浮かび上がった。 目を凝らすと、それはどうやら真っ白なテントのようだった。 こんな高地に他の登山者がいるとは珍しい。 Hさんは訝しく思いながらも、近くに誰かがいることにわずかな安堵を覚えた。 登山仲間だろうし、挨拶をしに行こうかな…と、Hさんは白いテントへと足を進めた。
Kさんが友人たちと5人でグループキャンプに来ていたのは、夏の終わりのことだった。 山奥のキャンプ場は、昼間は賑やかだったが、夜になると虫の鳴き声だけになる。 5人は焚き火を囲み、酒を飲みながら談笑していた。 持参した一眼レフで、キャンプの思い出にと写真を撮り始めたのは、友人のTさんだった。 焚き火を背に4人全員で肩を組み、笑顔でレンズを見た。 「はい、チーズ!」 Tさんがシャッターを切る。 すぐに撮れた写真を確認すると、妙な違和感があった。
Mさんが友人たちと3人でキャンプに来たのは、少し肌寒くなってきた秋の終わりだった。 予約していたキャンプ場は、平日ということもあってかほとんど人がいない。 それがまた焚き火の暖かさを一層心地よく感じさせた。 夜も更け、3人はパチパチと音を立てる焚き火を囲んで談笑していた。 薪が燃える音と、時折聞こえる虫の声だけが静寂を破る。 そんな中、ふとMさんの視線が林の奥に向けられた。
Tさんは、都心に建つ複合施設の、広大な地下駐車場の監視を担当していた。 深夜の監視室はいつも静まり返り、無数のモニターだけが規則的な光を放っている。 Tさんの仕事は、そのモニターに映し出される映像を監視し、異常があれば対処することだった。 その夜も、いつもと変わらぬ深夜勤務についていた。 時刻は深夜3時を少し回った頃。 Tさんはいつものようにモニターの映像を順に確認していた。 その時、ふと、あるモニターにTさんの視線が釘付けになった。 そこには、映っているはずのない通路が映し出されていたのだ。
Sさんは、都心にそびえ立つ高層オフィスビルで夜間勤務をしていた。 深夜のビルはほとんどのテナントが閉まり、人の気配はまばらになる。 Sさんの仕事は、そんな静かなビルで設備監視や巡回を行うことだった。 その夜も、いつもと変わらぬルーティンをこなしていた。 時刻は深夜1時を少し過ぎた頃。 監視室のモニターを眺めていたSさんの目に、奇妙な異変が飛び込んできた。 誰もいないはずのフロアを示す表示板が、突然、パッと明るくなったのだ。 そしてそれと同時に、1階に停止していたエレベーターが、ゆっくりと上昇を始めた。
警備員のKさんは、深夜のオフィスビルの巡回が日課だった。 人気のない深夜のビルは、普段は静まり返っている。 しかしここ最近、Kさんは奇妙な現象に気づいていた。 それは深夜の巡回中、決まって3階東側の非常灯だけが素早く点滅している時があることだった。 Kさんは最初、単なる球切れか、電気系統の不具合だろうと考えた。 報告しようとも思ったが、よくよく観察すると、その点滅は深夜の2時過ぎにしか起こらず、他の時間には何の異常も見られないのだ。 一度だけならまだしも、それが不定期に、しかし決まって深夜2時過ぎにだけ起こることに、Kさんは徐々に不審を抱き始めた。
Tさんは長距離運転手として夜間の配送中、山道に入り込んだ。 深夜の山道は普段から慣れていたが、その日はいつも通るルートとは少し違う道を選んでいた。 午前2時を過ぎた頃、Tさんの目に見慣れない「道の駅」が飛び込んできた。 疲れもたまっていたTさんは、休憩がてら立ち寄ることにする。 駐車場には、他に2台の大型トラックが停まっていた。 電気が煌々とつき、トイレも清潔に保たれているようだった。 深夜にもかかわらず、人の気配があることにTさんはどこか安心感を覚えた。
長距離トラック運転手のYさんは、全国各地を走り回る毎日を送っていた。 彼の仕事は、深夜の高速道路をひたすら走り続けること。 特にある山中の長いトンネルは、毎日のように通過する、もはや見慣れた景色となっていた。 その日は前日の寝不足がたたって、特に眠気が強かった。 眠気を覚ますためのラジオも、いつの間にか切れてしまっている。 静まり返ったトラックの車内には、エンジンの低い唸り声だけが響いていた。
オフィスビルの夜間清掃員として働くSさんは、いつものように淡々と業務をこなしていた。 深夜のオフィスは人けがなく、誰もいないフロアを巡るSさんの足音は、妙に大きく聞こえた。 日報を確認すると、「301会議室:未清掃」という文字が目に飛び込んできた。 Sさんは首を傾げる。 301会議室は通常、清掃リストに含まれていないはずだ。 というのも、そこは何年も前から閉鎖されており、普段は鍵もかけられ、清掃の必要がないとされていたからだ。
入院中、看護師のNさんという人から聞いた話。 Nさんが夜勤中の深夜巡回をしていた時の事。 深夜1時を過ぎ、患者は皆寝たようで寝静まり返っており、病室から点滴の機械音だけが小さく聞こえている。 Nさんは患者たちの様子を確認しながら、一つ一つの部屋を巡っていく。 その日も特に変わったことはなく、いつも通りの静かな夜だった。 だが、廊下の突き当たりにある、普段は使用されていない個室の前を通り過ぎようとしたその時だった。
Kさんが倉庫で、フォークリフト作業をしていた時の話。 それはいつもの夜間シフト中のことだった。 広い倉庫には、天井近くまで積み上げられた段ボールや、木箱を積んだパレットが所狭しと並んでいる。 フォークリフトのエンジン音だけが、静まり返った空間に響いていた。 Kさんは慣れた手つきでレバーを操作し、荷物を正確に指定された場所へと運んでいく。 その日も特に変わったことなど何もなく、淡々と作業は進んでいた。
電気設備の点検員をしているTさんから聞いた話。 その日、Tさんはいつものように、古びた研究施設の電気点検に呼ばれた。 築年数がかなり経っている建物で、廊下には古びた薬品の匂いがわずかに残っていて、壁のあちこちにはひびが入っていた。 点検作業はいつも通りに進んだ。 高圧受電設備から非常用発電機まで、普段と変わった様子もなく、異音や異常な発熱も確認されなかった。 Tさんは点検箇所を丁寧に回り、各機器のメーターをチェックし、問題がないことを確認した。
映像制作会社に勤めるYさんは、このところ納期に追われ、会社に泊まり込む日々が続いていた。 日付が変わるのも珍しいことではなく、深夜の編集室はYさんにとって、もはや第二の家のようなものになっていた。 その日も遅くまで作業をしていて、深夜2時を過ぎた頃だった。 重い疲労感と戦いながら、Yさんは黙々と編集ソフトと向き合っていた。 カフェインと眠気覚ましのガムを交互に摂取し、集中力を保とうと必死だった。 ふと、プレビュー画面に違和感を覚えた。
Tさんが高校三年生だった頃の話。 Tさんは昼休みになると、よく屋上に上がっていた。 誰もいない屋上でぼんやりと空を眺めたり、持参した小説を読んだりするのが好きだった。 屋上はTさんにとって、学校の中の喧騒から離れられる唯一の場所だったのだ。 ある日の昼休み、Tさんはいつものように屋上で過ごし教室に戻ってきた。 するとクラスの同級生が、Tさんの顔を見るなりこんなことを言ってきた。 「T、さっき一緒に屋上にいた子、誰?」
Nさんが通っていた高校には、不思議な場所があった。 校舎の中央にある階段の、ちょうど半階分だけ上がる場所。 そこには普段誰も使わない小さな踊り場があるのだが、何故かそこは薄暗い。 ある日の放課後、Nさんはうっかりその踊り場にノートを落としてしまった。 友達と話しながら階段を上っていたため、気づいた時にはもう通り過ぎていた。 ため息をつきながらノートを取りに戻り、踊り場に着くとかがんでノートを拾い上げた。 その瞬間、背後で、まるで耳元に直接話しかけられたかのように、「こんにちは」と囁く声が聞こえた。
卒業を控えたMさんは、仲間たちとの思い出を残そうと、校舎のあちこちで記念写真を撮っていた。 体育館、昇降口、屋上…どこで撮っても大切な思い出になりそうな、卒業アルバムのページを飾るのにふさわしい写真ばかりだった。 次に選んだのは、放課後にはほとんど誰もいない、静かな図書室だった。 Mさんたちは書架の間を通り抜け、窓から光が差し込む一角で写真を撮ることにした。 シャッターが切られ、デジタルカメラの画面には、いつものように楽しそうな仲間たちの姿が映し出された…はずだった。
これはKさんという大学生から聞いた話。 Kさんが通っていた大学のサークル棟は、古びた建物だった。 特に夜になると、薄暗い廊下の蛍光灯が心細く灯り、そこかしこからミシミシと木が軋む音が聞こえてくるような場所だったという。 そのサークル棟には妙な噂があった。 夜遅くまで残っていると、誰もいないはずの階段の途中から、ゆっくりと誰かの靴音が聞こえてくる、というものだった。 Kさんのサークルは2階にあったが、作業に集中していると、その足音がひときわ大きく響くことがあったそうだ。
これは、演劇部だったTさんから聞いた話。 Tさんは、高校で演劇部に所属していた。 熱心な部員で、放課後はいつも部室に入り浸っていたそうだ。 部室は校舎の隅にあり、古くてあまり使われていない部屋だった。 独特の埃っぽい匂いがする、薄暗い空間。 その部室には、いつも不思議な光景が広がっていたという。
Sさんは大学二年生の男子学生で、朝早くに家を出て通学していた。 彼の通学路は少し特殊で、毎朝6時には裏山を抜けてキャンパスへ向かうのが日課だった。 その裏山には舗装されていない細い小道があり、そこを通れば大学まで近道できるのだ。 朝の澄んだ空気と、鳥のさえずりだけが聞こえる静かな小道は、Sさんのお気に入りの場所だった。 ある日のこと、Sさんがいつものように小道を歩いていると、前から誰かが歩いてくるのが見えた。
Hさんはごく普通の高校二年生だった。 いつも明るく、クラスの中心にいるような存在で友達も多く、学校生活を謳歌しているように見えた。 Hさんの日常は、放課後の部活動と他愛もないおしゃべり、そして時々テスト勉強に追われる、そんな他愛もない日々で成り立っていた。 これはHさんの親友である、Yさんから聞いた話。 YさんはHさんとは小学校からの付き合いで、何でも話せる間柄だったという。 ある日のこと、部活動を終え、更衣室の自分のロッカーを開けたHさんの隣で、Yさんは着替えをしていた。
ある企業の閑散としたオフィスビルでの事。 夜勤の警備員Hさんは、いつものように監視モニターを眺めていた。 日付が変わる少し前、彼が担当するフロアの入退室ログに、奇妙な記録が残るようになった。 それは数週間前から無断欠勤を続けている同僚、Kさんのパスカードの記録だった。 Kさんは数週間前、何の連絡もなく突然会社に来なくなった。 家族にも連絡がつかず、警察にも捜索願が出されていたが、行方は杳として知れなかった。
旅行で訪れた古びた旅館で、Rさんは一人、静かな夜を過ごしていた。 深夜、ふと目が覚めると、部屋の隅に白い着物をまとった女が立っているのが見えた。 ぼんやりとした視界の中、その姿はまるで生きているかのように見える。 Rさんはびっくりして飛び起きた。 しかし目を凝らしてよく見ると、それは部屋の角に飾られた掛け軸に描かれた絵だとわかった。
会社員のSさんは、夜遅くにかかってきた電話を終えたばかりだった。 スマートフォンの画面に目をやると、通話履歴には「非通知」の文字が並んでいる。 Sさんは首を傾げた。 通話中、確かに画面には友人のKさんの名前が表示されていたはずだ。 会話の内容も、先日Kさんと話していたのと同じ、週末の予定についての話だった。 たわいもない会話を交わし、SさんはKさんと楽しい週末を過ごせることに胸を躍らせていた。
会社員のTさんが残業で遅くなった時のこと。 地元の駅に着いた時、時計の針はすでに深夜を回っていた。 終電を少し過ぎた静けさが駅前に広がる。 いつもならまっすぐ家に帰るTさんだが、その日はなぜかふと足を止めた。 疲労でぼんやりとした頭で、見慣れない細い路地が通勤路の途中に現れていることに気づく。 普段はそこには壁しかなかったはずだ。 細い路地の奥は暗く、その先がどうなっているのかは全く見えない。
これは私の知り合いの、社会人のKさんから聞いた話。 Kさんは少し前に引っ越して、新しい部屋に置く鏡を探していた。 ネットのフリマアプリを見ていたところ、ちょうど良さそうな少しレトロなデザインの鏡を見つけた。 値段も手頃だったしすぐに購入を決めた。 届いた鏡は写真で見た通りの品で、Kさんは早速自分の寝室に設置した。 その鏡をフリマアプリに出品していた人は、Kさんが購入手続きを終えた直後、アカウントを削除したようでもう存在していなかったという。 少し妙だなとは思ったが、Kさんは特に気にしなかった。
これは私の友人である、大学生のYさんから聞いた話。 Yさんは昔から好奇心旺盛で、よく友達と心霊スポットや廃墟巡りをしていた。 ある夏の日、Yさんは地元の友人と二人で、とある山奥にあるという噂の「山の中の校舎」へ向かった。 その山道は鬱蒼とした木々に覆われ、昼間でも薄暗く、空気が重く感じられた。 舗装されていない道は途中で途切れていて、さらに奥へと続く細い獣道を進むしかなかった。 道の両脇には、人の背丈ほどもある雑草が生い茂り、まるで道を塞ぐようにYさんたちの行く手を阻んだ。
Fさんは古い神社で働く巫女だった。 神社の境内で、毎日の掃除や神事の手伝いをするのがFさんの日課だ。 Fさんは、この神社の静かな雰囲気が好きだったが、中でも夕暮れ時、参拝客もまばらになり、あたりが静けさに包まれる時間が一番好きだった。 その日もFさんは、夕刻の掃除を終え参道を掃いていた。 鳥居をくぐり、石段を上りきった場所に少し古びた手水舎がある。 Fさんは手水舎の柄杓を元の場所に戻し、ふとその隣にある小さな池に目をやった。
Nさんが小学生の頃、自宅の裏山には小さな発電施設の跡地があった。 古びたコンクリートの壁にはひびが入り、草木が鬱蒼と茂り、子供たちの間では「おばけでるぞ」と噂される場所だった。 しかし、Nさんは好奇心旺盛な子供で、いつもその廃墟に心を惹かれていた。 ある晴れた午後、Nさんは友達に内緒で一人、発電施設の跡地へ向かった。 入口は固く閉ざされていたが、壁の低い位置に、大人一人では到底通れないような小さな通気口があるのを見つけた。
私の知人のSさんは一人暮らしの女性で、夜勤の仕事をしている。 そのため、夜中に一人で家にいることが多い。 古いアパートの2階に住んでいて、築年数が経っているせいか、隙間風の音がよく聞こえてくる。 ある日の夜、Sさんは仕事から帰宅しシャワーを浴びていた。 深夜2時を過ぎた頃で、あたりはシンと静まり返っている。 シャワーを終え体を拭いていると、ふと浴室のドアの向こうから、微かに何かの音が聞こえた気がした。 「…こ、こ、こ…」 それはまるで誰かが、息を潜めて何かを呟いているような、不明瞭な音だった。
私の友人のKさんは、都心で一人暮らしをしている。 仕事はデザイナーで、自宅で作業することが多い。 朝食はいつも決まったカフェで摂るのが習慣だった。 ある日の朝、Kさんはいつものようにカフェに向かった。 お気に入りの窓際の席に座り、スマートフォンでニュースを見ながら、コーヒーとトーストが運ばれてくるのを待った。 何気ないいつもの朝の風景だった。 コーヒーを一口飲み、トーストをちぎろうとしたその時だった。
私の友人のSさんは絵を描くのが好きで、よく公園やカフェでスケッチをしている。 ある日の午後、Sさんはいつものように近所の公園で、ベンチに座って風景を描いていた。 穏やかな日差しが降り注ぎ、鳥のさえずりが聞こえるごく平和な日常だった。 Sさんは公園の噴水と、その周りで遊ぶ子供たちを描いていた。 集中して筆を動かしていると、ふと視界の端に何かが見えた気がした。
これは私がまだ前のオフィスビルで働いていた頃の話。 かなり古びたビルで、夜になると独特の静けさに包まれる場所だった。 私はその頃残業が多く、夜遅くまで一人で仕事をしていることがよくあった。 ある日、夜中の1時を過ぎた頃だろうか。 資料作成に集中していたのだが、ふと、キーボードを打つ指が止まった。 オフィス全体が、いつも以上に静まり返っていることに気づいたのだ。 静かすぎて、自分の心臓の音が聞こえるような気がした。
私の会社が入っているオフィスビルは、夜になると人気がなくなる。 最終の電車が出た後、残っているのは数えるほどの社員だけだ。 私もその一人だった。 その日、どうしても終わらせなければならない仕事があり、深夜までオフィスに残っていた。 フロアにはキーボードを叩く音と、時折聞こえる空調の音だけが響いている。 夜中の2時を過ぎた頃だろうか。 ふと背後から微かな音が聞こえた気がした。
僕が務める会社は、ごく普通のオフィスビルに入っている。 毎日朝早くに出社して、夜遅くまで仕事に追われている。 そんな日常の中で、ある日些細な違和感に気づいた。 最初はただの気のせいだと思った。 終業間際に、フロアの奥にある誰も使っていないはずの給湯室から、かすかに水の音が聞こえた。 チョロチョロと、水道の蛇口を少しだけ開いたような音。
あれは私がこの図書館で働き始めて、まだ間もない頃だった。 その図書館は町外れにある古い洋館を改装したもので、夜になるとまるで生き物のように軋む音がする。 特に奥まった場所にある書庫は昼間でも薄暗く、いつもひっそりと静まり返っていた。 ある日のこと。 閉館時間を過ぎても、なぜか奥の書庫の電気が点いていることに気づいた。 普段なら館長さんか、ベテランのSさんが最終確認をするはずだった。 「もしかして消し忘れかな?」 私はそう思いながら、書庫へと続く長い廊下を歩いていった。
これは私の友人の話。 彼は都会での生活に疲れて、田舎に移り住んだ。 築百年は経つだろうか、古い農家を改築した一軒家だった。 広い庭には、何十年も前からそこに立っていたらしい、大きなケヤキの木が一本、堂々とそびえ立っていた。 友人はその家を気に入り、快適な田舎暮らしを満喫していた。 特に気に入っていたのが、夕暮れ時の庭の景色だった。 太陽が西に傾くと大きなケヤキの木の影が、ゆっくりと家全体を覆い尽くしていく。 その光景は、まるで家が大きな影に包み込まれるようで、どこか神秘的でさえあったという。
これは私の祖母の故郷で、祖母の近所に住んでいたという人の話。 その家は本当に古めかしい家で、築何年かも分からないような、黒光りした柱と軋む廊下。 そしていつも誰かがいるような、妙な気配がする家だった。 そんな家に一人暮らしのお婆さんがいた。ここでは仮にTさんと呼ぶことにしよう。 Tさんは近所でも評判の物静かな人で、いつも縁側で庭を眺めていたという。 特に何をするでもなく、ただじっと外を見つめている。 まるで誰かを待っているかのように。
これはRさんという人が、祖父のTさんから聞いた話で、とある地方の山奥にある、小さな村での出来事だった。 その村は、地図にも載っていないような場所にあった。 外界との唯一の繋がりは、険しい山道を一本だけ。 その道の入り口には、昔から古びた道標が立っていた。 風雨に晒され文字もかすれてしまっていたが、それが村の唯一の目印であり、心の拠り所でもあった。
登山とソロキャンプが趣味のIさんは、週末を利用して県境の山奥へと向かった。 この辺りは標高が高く夜間はかなり冷え込むが、その分、人も少なく静けさに包まれている。 焚き火を囲みながら湯を沸かし、コーヒーを飲みつつ本を読む──そんな時間が、Iさんにとって最高の癒やしだった。 日が落ちてから数時間が経ち、焚き火の火もだいぶ落ち着いた頃。 薪をくべながらIさんはふと、違和感を覚えた。 焚き火の隣、ちょうど自分の左手側に何かがいる気配がする。
初秋、まだ日差しが強い九月の連休。 Kさんたち3人は、久しぶりのキャンプ登山を楽しんでいた。 メンバーはリーダー格のKさん、少し神経質なMさん、そしていつも陽気なHさん。 彼らは学生時代からの友人で、年に一度はこうして自然の中に繰り出すのが恒例になっていた。 今回は、以前から行きたがっていた奥秩父の秘境にあるというキャンプ場を目指していた。 前日の夜にレンタカーを借り、朝早くから車を走らせていた。 途中コンビニで食料を調達し、目的のキャンプ場に到着したのは昼過ぎだった。 テントを張り終え、遅めの昼食をとろうと準備を始めた矢先、空の様子が急に変わり始めた。
結婚を間近に控えたSさんたちは、新しい生活のために郊外に理想の一軒家を見つけた。 大きな庭があり陽当たりも良く、何より価格が手頃だったのが決め手だった。 築年数はそれなりに経っていたが、リフォームされており、すぐにでも住める状態だった。 Sさんは、これから始まる新婚生活への期待に胸を膨らませていた。 引っ越してきて数日後、Sさんはリビングの窓辺に立って庭を眺めていた。 すると、ふと胸の奥に甘酸っぱいような、切ないような、しかし覚えのない感情が込み上げてきた。
大学生のTさんは、休日の骨董市をぶらつくのが好きだった。 古いものに宿る物語を想像するのが、Tさんにとって至福の時間だったのだ。 その日も埃っぽい露店を眺めていると、Tさんの目に一冊の古びた包みが留まった。 黄ばんだ和紙で丁寧に包まれ、紐で結ばれたそれは日記のような、あるいは手紙のような何かの束だった。 値札には「手紙束時代不詳」とだけ書かれていた。 Tさんは何かに導かれるようにそれを買った。 自宅に戻り、Tさんは丁寧に和紙を解いた。
社会人のKさんは、新しい生活を始めるため、築年数の経ったアパートの一室に引っ越してきた。 駅からも近く家賃も手頃。多少の古さは承知の上だった。 引っ越し作業を終え、荷解きを始めたKさんは、ふと隣の部屋から聞こえる「ギィ…ギィ…」という小さな軋み音に気づいた。 最初はただの生活音だと思った。 古いアパートなら、隣人の出す物音が多少響くのは仕方がない。 Kさんは特に気にせず荷解きを続けた。
Kさんは廃墟探索が趣味だった。 とりわけ、人の手が何十年も加わっていないような場所に心惹かれるという。 今回彼が訪れたのは、山間にある封鎖された旧炭鉱の跡。 林道を1時間ほど歩いた先に、地面が割れたような岩場と錆びた柵が残るだけの無名の坑道があった。 鉄条網は風に吹かれてガサガサと鳴っていたが、人の気配はまったくない。 入口付近の崩れた横穴から内部に入った瞬間、空気が変わった。 ひんやりとしたはずの坑道の中が、妙にしっとりと生ぬるい。 吐く息がやけに重く、地面を照らすライトの光もどこか濁って見えた。
深夜1時、Wさんは郊外にあると噂される「旧◯◯大学の寮跡」に足を踏み入れた。 取り壊しが決まり、今は誰も寄りつかない建物。 だが廃墟マニアの間では、有名な心霊スポットとして密かに知られていた。 建物は3階建てで、窓ガラスは割れ、鉄製の階段は赤錆でところどころ崩れていた。 風が吹くたび、金属音とともにどこからかガタガタと軋む音がする。 その寮跡は当時不慮の事故に遭う者が多かったとか、窓から飛び降りた学生の霊が出るとか、さまざまな噂があったが、Wさんはそれらを半信半疑で聞きながらも、実際にその場所へと足を運んだ。
Tさんは廃墟探索が趣味で、各地の封鎖された施設や、取り壊し前の建物を巡っては写真を撮って記録していた。 秋の午後1時を過ぎた時間、その日も一人、山間にひっそりと残る、かつて軍事工場だったという施設跡に向かっていた。 戦時中、航空機の部品などを製造していたらしいが、戦後は長らく放置され、今では地元の人間ですら近寄らないという。 外観は錆びたトタンと剥がれたコンクリートに覆われ、風で揺れる鉄扉の軋む音が時折響く。 剥き出しの鉄骨、瓦礫、落書きだらけの壁面。 しばらく進むと床の奥に鉄製の階段があり、地下へと続いていた。
Sさんがその廃旅館を見つけたのは、ネット掲示板の古い書き込みがきっかけだった。 「〇〇温泉の外れに、開かずの間がある旅館がある。 御札が貼られていて、絶対に入っちゃダメって地元の人が言ってる」 半信半疑で訪れたその廃旅館は、崩れた瓦と蔦に覆われながらも存在していた。 昭和の終わりに閉業したらしく、看板の文字も掠れていたが、「なつめや旅館」と読めた。 建物は老朽化が進んでいたが、2階奥の一室だけが異様に保存状態が良かった。 その襖にはいくつもの御札が乱雑に貼り付けられ、そこだけ異様な圧を放っていた。 「イッテハイケナイ」「シズメヨ」「サワルナ」
廃墟探索を趣味とするYさんの話。 Yさんがその旧病院跡を訪れたのは、秋の終わりだった。 K県の山奥、地図にも載っていないその病院は戦前から存在し、戦後すぐに閉鎖されたという話だけが残っていた。 朽ちた階段を下り、地下室へと続く鉄扉を押し開けると、そこには使い古された手術台や倒れた薬品棚が残されていた。 埃とカビの匂いに混じってどこか焦げたような、妙な臭いが漂っていたという。 そんな中、地下の奥にまるで隠されていたかのような重厚な鉄の扉を見つけた。
これはSさんが高校生だった頃、実際に体験したという話。 土曜日の午後、秋の気配が濃くなってきた頃。 その日は放課後に部活もなかったので、Sさんはふらりと地元の古い神社を訪れた。 特に目的があったわけではなかった。 ただなんとなく鳥居をくぐり、境内を抜けてその裏手にある森の方へと足を運んだ。 参道から外れて奥へと入り込んだのが、午後3時を少し過ぎた頃だったという。
これはTさんが体験した、ある秋の夜の出来事。 Tさんは地元で写真を趣味にしており、その日は神無月の澄んだ夜空を撮ろうと、人気のない山中にひっそりと佇む古い神社を訪れた。 木々に囲まれた参道を進み、石段を上がると、月明かりに照らされた拝殿が見えてきた。 神社には誰もおらず、しんと冷たい空気が境内を満たしていた。 Tさんは三脚を立て、夜の社の風情を何枚か撮影していたが、ふと視線の端で何かが揺れた気がした。
これはSさんから聞いた話。 Sさんは大学のサークル仲間と、K県にあるT沢の奥のキャンプ場によく行っていた。 その日も中の良いメンバーと川沿いでキャンプを楽しんでいた。 夜が更け、山の中は冷え込みを増していた。 大学生のSさんたちは、川沿いのキャンプ場で焚き火を囲んでいた。 パチパチと音を立てて燃える炎が、彼らの顔を赤く照らす。 昼間は賑やかだった川のせせらぎも、夜になるとどこか不気味な響きに変わっていた。 「Tさん、薪が減ってきたので取って」 Mさんがそう言って、Tさんのそばに積み上げられた薪を指さした。 Tさんが、ちょっと待ってろと言って立ち上がった、その時だった。
Kさんという、山のコテージを管理している人から聞いた話。 長年コテージの管理人をやっていたKさんは、いつも物静かな男だった。 だが彼がこの場所で見てきたものは、誰にも話せないような、ひどいものばかりだった。 ある夏の夜、Kさんはいつものようにコテージの見回りをしていた。 その日はひどく蒸し暑く、なかなか眠れなかったので窓から外を眺めていた。 すると一番奥にある古びたコテージの影に、何かがいるような気がした。
2025年6月
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これはとある社会人のKさんから聞いた話。 Kさんは、最近引っ越したばかりのアパートに住んでいた。 築年数はそれなりに経っていたが、立地も良く、何より家賃が手頃だったため、すぐに決めたのだ。 窓からは小さな公園が見え、日当たりも良く、Kさんは新生活に期待を膨らませていた。 引っ越してきて数日経った頃、Kさんは夜中にふと目が覚めた。 時計を見ると午前3時。
これは、Sさんという方が学生だった頃の話。 Sさんは大学で歴史学を専攻していた。 特に興味があったのは、郷土史。 地域の小さな図書館に通い、古い資料を読み漁るのが日課だった。 その図書館は町の中心部からは少し離れた、ひっそりとした場所にあった。 建物自体も古く、天井が高く、木製の書架がずらりと並び独特の埃っぽい匂いがした。 訪れる人もまばらで、静寂が常にその場所を支配していた。
夜勤のBさんは、いつものように仮眠を取るために休憩室へ向かったのだが、4つあるのベッドがすべて使用中だった。 仕方なく、誰かが起きてくるまで仕事を片付けることにした。 しばらくすると、3人の同僚が起きてきてBさんに声をかけた。 「あれ?Bさん、まだ仮眠取ってないんですか?」 Bさんは、仮眠室のベッドが4つ埋まっていたから使えなかったと説明した。 すると同僚たちは不思議そうな顔で言う。 「廊下側が1つ空いてたじゃないですか」 「そんなはずはない、確かに4つ埋まってたよ」
ある年の夏、Kさんはいつもの地方の無人駅のホームで、最終電車を待っていた。 残業で遅くなってしまい、疲れた体をひきずって辿り着いたこの駅には、最終の到着を待つ乗客はKさん一人だけだった。 深夜の駅のホームは、街灯の明かりがぼんやりと照らすだけで、物音ひとつしない。 普段なら虫の鳴き声がうるさいのだが、この日は虫の声すら聞こえず、ただただ静寂がKさんを包んでいた。 その時、背後のベンチから「きしり」という小さな音が聞こえた。 誰かが腰かけたような、そんな音だった。
今回この話は2つのバージョンを用意しましたので、お好きな方をどうぞ。 1つ目 Iさんは大学の登山サークルに所属していて、その日は仲間たちと連れ立って、少し険しい山を訪れていた。 新緑が眩しい季節で、鳥のさえずりが心地よく響く、ごく普通の登山になるはずだった。 しかし、途中で道を間違えてしまったのか、Iさんたちはいつの間にか、地図には載っていない谷間に迷い込んでいた。
Sさんは学生の頃から登山が趣味で、社会人になってからも週末になると、一人で山へ出かけることが多かった。 その日もいつものように単独登山を楽しんでいたのだが、予報にない悪天候に見舞われ、急遽、山中の避難小屋に泊まることになった。 小屋は古く、軋む音が不気味に響く。 Sさんは持参した食料を広げ、ラジオで天気予報を聞いた。 夜遅くになるとさらに荒れるらしい。 不安を覚えながらも、疲労からすぐに眠りについた。 深夜、ガタガタと窓が揺れる音で目が覚めた。
Nさんは、数年前から登山に没頭している。 普段から人の少ない、整備されすぎていない登山道を好んで歩く。 その日も、彼は地図には載っていないような古い山道を、気ままに探索していた。 鳥の声だけが響く静かな山の中、踏み固められた道は徐々に細くなり、やがて獣道へと変わっていった。 Nさんはそういった道を進むのが好きだった。 未知の風景に出会える期待感が、彼の好奇心を刺激する。 しばらく獣道を分け入って進むと、ふと、道の脇に不自然な空間があることに気がついた。
ある晴れた週末の午後、Yさんは小学生になる娘を連れて、山のふもとにある森林公園を訪れていた。 都会の騒がしい場所と違い、休日でも人がまばらで、静かに過ごしたい家族にはうってつけだった。 Yさんの目的は、娘がネットで見て興味を持った、園内奥にある木製遊具だった。 木製の滑り台やジャングルジムでしばらく遊んだ後、娘はふと、その奥にひっそりと佇むブランコを見つけた。 それは古びた木製のもので、使い込まれた座面はすっかり色褪せ、鎖は錆びついていた。
Mさんたち大学生グループは、休日を利用して近場の山に登山に来ていた。 新緑が眩しい季節で、道中も賑やかに談笑しながら、ゆっくりとしたペースで山を登っていく。 ちょうど昼食を終え、もう少しで頂上というあたりで、小さな観光展望台に立ち寄ることにした。 展望台は、山の景色を一望できる開けた場所にあり、頂上付近の少し手前に位置する。 小さな東屋が建てられ、中には木製の古びた望遠鏡と、休憩用のベンチがいくつか設置されていた。 普段なら観光客で賑わう場所だが、その日はあいにくの曇り空。 人もまばらでひっそりとしていた。 遠くの景色も霞んで見え、少し肌寒い風が吹き抜けていく。
夏も終わりに差し掛かった頃、Hさんは山の中腹で野営の準備を進めていた。 日はすでに傾き、周囲は急速に薄暗さを増していく。 湿った空気が肌にまとわりつき、あたりには濃い霧が立ち込め始めていた。 視界は悪く、わずか数メートル先も見通せないほどだ。 そんな中、Hさんの視界の先にぽつんと白い塊が浮かび上がった。 目を凝らすと、それはどうやら真っ白なテントのようだった。 こんな高地に他の登山者がいるとは珍しい。 Hさんは訝しく思いながらも、近くに誰かがいることにわずかな安堵を覚えた。 登山仲間だろうし、挨拶をしに行こうかな…と、Hさんは白いテントへと足を進めた。
Kさんが友人たちと5人でグループキャンプに来ていたのは、夏の終わりのことだった。 山奥のキャンプ場は、昼間は賑やかだったが、夜になると虫の鳴き声だけになる。 5人は焚き火を囲み、酒を飲みながら談笑していた。 持参した一眼レフで、キャンプの思い出にと写真を撮り始めたのは、友人のTさんだった。 焚き火を背に4人全員で肩を組み、笑顔でレンズを見た。 「はい、チーズ!」 Tさんがシャッターを切る。 すぐに撮れた写真を確認すると、妙な違和感があった。
Mさんが友人たちと3人でキャンプに来たのは、少し肌寒くなってきた秋の終わりだった。 予約していたキャンプ場は、平日ということもあってかほとんど人がいない。 それがまた焚き火の暖かさを一層心地よく感じさせた。 夜も更け、3人はパチパチと音を立てる焚き火を囲んで談笑していた。 薪が燃える音と、時折聞こえる虫の声だけが静寂を破る。 そんな中、ふとMさんの視線が林の奥に向けられた。
Tさんは、都心に建つ複合施設の、広大な地下駐車場の監視を担当していた。 深夜の監視室はいつも静まり返り、無数のモニターだけが規則的な光を放っている。 Tさんの仕事は、そのモニターに映し出される映像を監視し、異常があれば対処することだった。 その夜も、いつもと変わらぬ深夜勤務についていた。 時刻は深夜3時を少し回った頃。 Tさんはいつものようにモニターの映像を順に確認していた。 その時、ふと、あるモニターにTさんの視線が釘付けになった。 そこには、映っているはずのない通路が映し出されていたのだ。
Sさんは、都心にそびえ立つ高層オフィスビルで夜間勤務をしていた。 深夜のビルはほとんどのテナントが閉まり、人の気配はまばらになる。 Sさんの仕事は、そんな静かなビルで設備監視や巡回を行うことだった。 その夜も、いつもと変わらぬルーティンをこなしていた。 時刻は深夜1時を少し過ぎた頃。 監視室のモニターを眺めていたSさんの目に、奇妙な異変が飛び込んできた。 誰もいないはずのフロアを示す表示板が、突然、パッと明るくなったのだ。 そしてそれと同時に、1階に停止していたエレベーターが、ゆっくりと上昇を始めた。
警備員のKさんは、深夜のオフィスビルの巡回が日課だった。 人気のない深夜のビルは、普段は静まり返っている。 しかしここ最近、Kさんは奇妙な現象に気づいていた。 それは深夜の巡回中、決まって3階東側の非常灯だけが素早く点滅している時があることだった。 Kさんは最初、単なる球切れか、電気系統の不具合だろうと考えた。 報告しようとも思ったが、よくよく観察すると、その点滅は深夜の2時過ぎにしか起こらず、他の時間には何の異常も見られないのだ。 一度だけならまだしも、それが不定期に、しかし決まって深夜2時過ぎにだけ起こることに、Kさんは徐々に不審を抱き始めた。
Tさんは長距離運転手として夜間の配送中、山道に入り込んだ。 深夜の山道は普段から慣れていたが、その日はいつも通るルートとは少し違う道を選んでいた。 午前2時を過ぎた頃、Tさんの目に見慣れない「道の駅」が飛び込んできた。 疲れもたまっていたTさんは、休憩がてら立ち寄ることにする。 駐車場には、他に2台の大型トラックが停まっていた。 電気が煌々とつき、トイレも清潔に保たれているようだった。 深夜にもかかわらず、人の気配があることにTさんはどこか安心感を覚えた。
長距離トラック運転手のYさんは、全国各地を走り回る毎日を送っていた。 彼の仕事は、深夜の高速道路をひたすら走り続けること。 特にある山中の長いトンネルは、毎日のように通過する、もはや見慣れた景色となっていた。 その日は前日の寝不足がたたって、特に眠気が強かった。 眠気を覚ますためのラジオも、いつの間にか切れてしまっている。 静まり返ったトラックの車内には、エンジンの低い唸り声だけが響いていた。
オフィスビルの夜間清掃員として働くSさんは、いつものように淡々と業務をこなしていた。 深夜のオフィスは人けがなく、誰もいないフロアを巡るSさんの足音は、妙に大きく聞こえた。 日報を確認すると、「301会議室:未清掃」という文字が目に飛び込んできた。 Sさんは首を傾げる。 301会議室は通常、清掃リストに含まれていないはずだ。 というのも、そこは何年も前から閉鎖されており、普段は鍵もかけられ、清掃の必要がないとされていたからだ。
入院中、看護師のNさんという人から聞いた話。 Nさんが夜勤中の深夜巡回をしていた時の事。 深夜1時を過ぎ、患者は皆寝たようで寝静まり返っており、病室から点滴の機械音だけが小さく聞こえている。 Nさんは患者たちの様子を確認しながら、一つ一つの部屋を巡っていく。 その日も特に変わったことはなく、いつも通りの静かな夜だった。 だが、廊下の突き当たりにある、普段は使用されていない個室の前を通り過ぎようとしたその時だった。
Kさんが倉庫で、フォークリフト作業をしていた時の話。 それはいつもの夜間シフト中のことだった。 広い倉庫には、天井近くまで積み上げられた段ボールや、木箱を積んだパレットが所狭しと並んでいる。 フォークリフトのエンジン音だけが、静まり返った空間に響いていた。 Kさんは慣れた手つきでレバーを操作し、荷物を正確に指定された場所へと運んでいく。 その日も特に変わったことなど何もなく、淡々と作業は進んでいた。
廃墟巡りをしていた人が廃墟で見つけた日記。 7月1日 今日はこの村に引っ越してきた記念すべき日だ。 自然に囲まれた静かな場所で、都会の喧騒を離れて穏やかに暮らしていけると思うと、今から楽しみで仕方ない。 7月15日 この村の人々はどこかよそよそしい。 挨拶をしても目を合わせようとしないし、何かを隠しているような、そんな不気味さを感じる。
日本各地に存在する「いわくつきのトンネル」。 山の中にある○○トンネルもまた、そんな曰く付きスポットとして地元では有名な場所だった。 私が耳にしたのは、このトンネルで起こる奇妙な現象についてだった。 それは「赤いヘッドライトの車」の怪異。 「深夜、あのトンネルを走っていると、前から赤いヘッドライトの車が対向車線にはみ出してくるんだ。 で、ヘッドライトの光が強すぎて車種まではよく分からないんだけど、どうにも車の種類が古臭い、っていうか今時見ないような型の車なんだよ」
ある地方の山奥に一つの古びたトンネルがあった。 そのトンネルは長い間使われておらず、昼間でも薄暗い雰囲気を漂わせていて、地元の人々の間では、このトンネルにまつわる恐ろしい噂が広まっていた。 その噂とは、夜になると「白い少女」が現れるというものだった。 その少女は、かつてトンネル近くの村でトラブルにあい命を落とし、その怨念がトンネルに宿っていると言われていた。
深夜のコンビニで働くIさんは、いつものように夜勤に入っていた。 町外れにあるそのコンビニは、夜になると閑散として客足も途絶えがちだ。 時計の針が午前2時を指していた頃、店内はしんと静まり返っていた。 「休憩室に行こうかな…」 Iさんはレジのカウンターに肘をついて、うっすらとため息をついた。 その時だった。 自動ドアが開く音がし、冷たい夜風が一瞬店内に吹き込んだ。
山奥深くで炭焼きを生業とするFさんがいた。 炭焼きは孤独な作業。日が昇ると山に入り、窯の火を見守りながら日が暮れるまでただひたすらに時を過ごす。 ある年の夏の終わり、炭焼き小屋で一晩を明かしていたFさんは奇妙な物音で目を覚ました。 それは小屋の戸をゆっくりと叩くような音だった。 何事かと耳を澄ませていると、戸を叩く音は徐々に速さを増し、まるで何かが中に入ろうとしているかのようだった。 不安を感じ、意を決して小屋の戸を開けたが外には何もいなかった。 Fさんは首をかしげながらも再び戸を閉め、寝床に戻ろうとしたその時、背後からかすかな気配を感じた。 振り返ると小屋の中に一匹の奇妙な生き物がいた。 見…
※虫が苦手な方はこの話は読まない方がいいです。 夏の暑さが本格的になる少し前、古い一軒家で奇妙な出来事が起こった。 雨が降る中、OLのSさんが夜遅くに帰宅すると、玄関のドアの前に見慣れないものが置かれていることに気づいた。 直径10センチほどの泥でできた小さな球体だった。
久しぶりに大学時代の友人たちと再会し、登山をした日の事。 F、Y、Eの3人は、それぞれ社会人となり、忙しい日々を送っていたが、この日は特別な計画があった。 大学時代によく行っていた山に登るため、朝方に駅で待ち合わせしていた。 「久しぶりだな、みんな!」 Fが笑顔で声をかけると、YとEも嬉しそうに頷いた。 彼らは久しぶりの再会に興奮しながら電車とバスを乗り継ぎ、目的の山へと向かった。
東京より山側にある、とある町でのこと。 そこに一人暮らしをしていた大学生のAさんは、数日前から奇妙な現象に悩まされていた。 それは夜中の2時になると、決まって天井裏から「トトトトト」という足音のような音が聞こえてくるというものだった。 最初はネズミでもいるのかと思い、駆除剤を置いたり業者に依頼したりもしたが、効果はなかった。 それどころか「トトトトト」という音は日に日に大きく、そして不規則になっていった。
あれは確か、私がまだ駆け出しの怪談師だった頃の話でございます。 ある山奥の村に伝わる「赤い着物」の怪談を採集しに行った時のことでした。 その村は、古くから「赤い着物を着た女に出会ったら、決して目を合わせてはならない」という言い伝えがあるそうでして、興味津々の私は早速村人たちに話を聞いて回りました。 しかし、話を聞けば聞くほどその「赤い着物」の女の正体は謎に包まれ、得られる情報は 「夜中に山道で赤い着物を着た女を見た」 「女の顔は影になっていて見えなかった」 「女を見た者はその後、原因不明の熱病で死んでしまった」 といった断片的なものばかり…。
夏手前の蒸し暑い夜、大学の友人グループはKの家に集まっていた。 メンバーはK、M、Rの三人。彼らは怪談や都市伝説に興味を持っており、この夜も新たな冒険を企てていた。 「今日は少し変わった場所に行こうか」 とKが切り出した。 「川辺にある幽霊灯の話、知ってるか?」
梅雨が明けたばかりの初夏の夕方、大学生の3人組、M、T、Kは、ネットで見つけた廃村の墓地へと向かっていた。 Mの運転する車で、彼らは廃村があるという山奥へと進んでいった。 「本当にここに廃村があるのか?」 Tが後部座席から前の二人に問いかける。 「ああ、ネットで見た情報だとこの先にあるらしい。気味悪いけど興味あるだろ?」 Kがスマホの地図を見ながら答えた。 「まあな…肝試しにはうってつけだな。」 Mは運転しながら笑った。
梅雨の晴れ間、久しぶりに強い日差しが降り注いだ日のこと。 一人暮らしの女性Sさんが、引っ越しをしようと荷造りをしていた。 段ボールに荷物を詰め込みガムテープで封をしていると、ふと、部屋の奥に何か黒い影のようなものが見えた気がした。 「なんだろう?」 しかし家具の隙間から差し込む光の関係の錯覚だろうと思い、Sさんは気にせず作業を続けた。 箱詰めもあらかた片付いた時、ふと先程の黒い影が気になり壁に目をやった。 「な、何あれ?」 その影の正体に気づいた時、Sさんの顔から血の気が引いた。 それは奥の壁一面に、びっしりと描かれた無数の目だった。 黒く塗りつぶされたような楕円形の一つ一つが、まるでこちらを…
梅雨明けが待ち遠しい、ある蒸し暑い日の午後。 高校の美術部の生徒たちは、日没後の風景を描くため校舎の屋上に来ていた。 「先生、もうちょっとで沈みますね」 「ああ、茜色に染まる空をよく観察して描くんだぞ」 教師の言葉に、生徒たちは一斉にキャンバスに向き直る。 しかし、その中でひとりの女子生徒だけが、じっと西の空を見つめていた。 「先生……あれ、何ですか?」
梅雨の晴れ間、むしむしと暑い日が続いていた。 学校では教室の窓を開け放して授業を受けていたが、生ぬるい風は熱気を運んでくるばかりで、生徒たちの集中力は途切れがちだった。 午後の授業中、黒板に奇妙な影が映っていることに気づいたのは、窓際から少し離れた席に座っていた男子生徒だった。 「あれ?」 男子生徒は目を凝らした。 それは、まるで長い髪の女が立っているような影だった。
今からお話する怪談の登場人物をご紹介させていただきます。 語り部である「私、H」と、高校時代からの友人であるK、そしてS、Yの4人で肝試しに行った時の出来事でございます。 舞台は県外にあるYの実家の近くにある、通称「幽霊トンネル」と呼ばれる場所。 そこで私たちが目にしたもの、体験したものとは。 一体全体どんな恐怖が待ち受けていたのか。 それでは皆様、心の準備はよろしいでしょうか?
雨の夜、都会の一角にある古びた公園。 そこには昔から誰も使わない古い木造の休憩所がり、雨が降るとその休憩所には不気味な噂があった。 ある夜、仕事が遅くなったサラリーマンのケンジは終バスを逃してしまい、仕方なく歩いて帰ることにした。 途中で雨が強くなってきてしまい、濡れるのを避けるために公園にある休憩所で雨宿りをすることにした。 休憩所に近づくと、中には一人の女性が座っていた。
とある都市部の下町での話。 狭い路地裏が多く残るその町で、夜な夜な奇妙な噂が流れ始めた。 「おい、聞いたか?あの路地裏の街灯の下にある水たまりで、奇妙な顔を見たってやつがいたらしいぜ…」 噂の発端は、仕事帰りのサラリーマンだった。 彼はいつものように薄暗い路地裏を歩いて帰宅していた。 雨が降った後で、路地裏にはいくつもの水たまりができていた。
子供というのは感受性が豊かで、純粋な心の持ち主であるが故に、時として大人には見えない「何か」を見てしまうことがあると言われている。 そして、子供たちが日常的に利用する通学路。 そこは子供たちの無邪気な笑顔と恐怖が隣り合わせに存在する、不思議な空間と言えるだろう。 舞台は関東の山の方、とあるのどかな田舎町。 そこに住む小学3年生のユウタ君は、雨が降ると決まっていつもの通学路の景色がガラリと変わって見えてしまう奇妙な現象に悩んでいた。 ユウタ君の通学路は田んぼの脇を通る一本道。 普段は太陽の光を浴びて緑色に輝く稲穂が風になびく美しい風景が広がっている。 しかし、雨が降るとその風景は一変する。
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6月も半ばを過ぎた頃、Nという若者が一人旅の途中で激しい雷雨に見舞われた。 ずぶ濡れになりながら雨宿りできる場所を探していると、山道の脇にひっそりと佇む古びたお寺を見つけた。 「こんな山奥にお寺があるなんて」 Nさんは驚いた様子でお寺の門をくぐった。 境内は鬱蒼とした木々に囲まれ、昼間にもかかわらず薄暗くひっそりとしている。 Nさんは恐る恐る本堂へと続く石段を上っていった。