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風の記憶 https://blog.goo.ne.jp/yo88yo

風のように吹きすぎてゆく日常を、言葉に残せるものなら残したい…… ささやかな試みの詩集です。

風のyo-yo
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2014/10/31

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  • 瀬戸の夕なぎ

    夏の夕方、大阪では風がぴたりと止まって蒸し暑くなる。昼間の熱気も淀んで息苦しく感じる時間帯がある。瀬戸の夕凪やね、と私が言うと、周りのみんなは笑う。大阪人は瀬戸という言葉にあまり馴染んでいない。多くの人は海に無関心で暮らしている。海岸線がほとんど埋め立てられて、海が遠くなったこともあるかもしれない。瀬戸の夕凪という言葉を、私は別府で療養していた学生の頃に知った。療養所は山手の中腹にあって、眼下には別府の市街と別府湾が広がっていた。夜の9時には病室の電気は消される。眠るには早すぎるので、夜の海を出航してゆくフェリーや漁船の灯をぼんやり追いかける。航跡の遥か前方には、四国の佐多岬の灯台の灯が点滅しているのが見える。闇の中に無数の灯を浮かべる海は、昼間よりも豊かであり、そこから瀬戸の海がひろがっているのだった。...瀬戸の夕なぎ

  • トンボの空があった

    夏は、空から始まる。もはや太陽の光を遮るものもない。真っ青な空だけがある。地上では草の上を、風のはざまを、キラキラと光るものが飛び交う。トンボの飛翔だ。翅が無数の薄いガラス片のように輝いている。少年のこころが奮いたった夏。トンボの空に舞い上がろうとし、トンボを撃ち落とすことに歓喜した。そんなことに、何故あんなに熱中できたのかわからない。回想の夏空がひろがる。細い竹の鞭が空(くう)を切る。その一閃に全神経をそそぐ。中空でかすかな手ごたえがある。つぎつぎにトンボが川面に落下する。トンボは四枚の翅を開いたまま瀬にのって流れていく。残酷な夏の儀式だった。虫の命を奪いながら、少年は背中を太陽に焼かれ、腕や脚を傷だらけにして、いくつもの夏を乗り越えた。置き去りにしてきた幾つもの夏。もはや少年の日には戻れない。けれども...トンボの空があった

  • 雲の日記

    小学生の頃の夏休みに、雲の日記というものを始めたことがある。絵日記を書く課題があったのだが、その頃は絵も文章も苦手だったので、雲を写生するのがいちばん簡単だと考えたのだった。青と白と灰色のクレヨンがあればよかった。日本ばれの日は雲がなく青一面。何も描かなくていい、やったあ、だった。それでも一週間も続かなかった。やはり簡単で単純なものは面白くないのだった。午後は、日が暮れるまで川で泳いだ。湧き水が混じっているので冷たかった。体が冷えきってくると岸に上がり、熱した砂に腹ばいになって温まる。雷雨が来ても、そのまま背中に雨のシャワーを浴びている。一瞬の雨をやり過ごすと再び強い日差しに背中を焼かれ、熱くなると再び川に飛び込む。夏休みは毎日そんな生活の繰り返しだった。砂地に寝転がってぼんやり空を眺めていると、頭の中が...雲の日記

  • そこには誰もいなかった

    騒がしさの中に、静けさがある。見えそうな声と、見えそうでない声がある。出かける人たちや帰ってくる人たちで、夏のひと日が慌ただしく過ぎていく。生きている人たちが遠くへ行き、死んでしまった人たちが近くに帰ってくる。生きている人と死んでしまった人が、見えないどこかで交錯する透明な夏がある。近くにいた人たちが半分になった。いつかどこかを、行ったり来たりしているうちに、人生の半分を失ってしまったみたいな夏。失った日々を振り返る。かつては父が生まれ育った家でお盆を迎えた。ご詠歌と鉦のしずかな響きが仏を迎える。知っていたり知らなかったりの、縁者がごっちゃに集まるお盆の夜だった。祖父の声は父の声にそっくりで、父の声と伯父の声も見分けがつかなかった。よく似た声と声が唱和して、時を越えて寡黙な仏へと繋がっていくのだった。いま...そこには誰もいなかった

  • 釘をぬく夏

    学生の頃の夏休み、九州までの帰省の旅費を稼ぐために、解体木材のクギ抜きのアルバイトをしたことがある。炎天下で一日中、バールやペンチを使ってひたすらクギを抜いていく作業だ。いま考えると、よくもあんなしんどい仕事がやれたと思う。毎日、早稲田から荒川行きの都電に乗って、下町の小さな土建屋に通った。場所も忘れてしまったが、近くを運河が流れていた。朝行くと、廃材置き場にクギだらけの木材が山積みされている。作業をするのは、私ひとりきりだ。土建屋といっても、夫婦でやっているような零細なところで、夫は早朝から現場に出ているので会ったこともない。若い奥さんもほとんど顔を出さないので、まったくの孤独な作業だった。毎朝積み上げられた廃材を前に、ただ黙々とクギを抜くことに没頭するしかなかった。始めのうちは、とても続けられる作業で...釘をぬく夏

  • 遠くの花火、近くの花火

    幼稚園のお泊り保育の勢いで、その翌日は、孫のいよちゃんがわが家にお泊りすることになった。すっかり自信ありげな顔つきになっている。夕方、いよちゃんのお気に入りの近所の駄菓子屋へ連れていったが、あいにく店は閉まっていた。バス通りのコンビニまで歩けるかと聞くと大丈夫と答えたので、手をつないで坂道をのぼってコンビニまで行く。以前は買物かごの中に、次々とお菓子を入れていくので戸惑ったものだが、いつの間にか遠慮深くなって、かごの中には好物のグミを1袋入れただけ。なんでも欲しいものを選んだらいいよと言うと、ラムネ菓子を1個加えただけで、もういいと言う。さらに促すと、ヤキソバ風と表示されたスナック菓子を手に取った。場所を変えて、いよちゃんの好きなアイスクリームのボックスへ誘導した。小さな手が箱入りのチョコアイスを選んだの...遠くの花火、近くの花火

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