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  • インジュと約束④

    結婚式の当日、パタヤのビーチは朝から輝くような青空に恵まれた。 ビーチに面したガーデンには、白い花と竹で作られたアーチが設置され、椅子が整然と並べられていた。青い海を背景に、タイと日本の国旗が静かに風になびいていた。 僕は白いタキシードに身を包み、アーチの下で待っていた。心臓は激しく鼓動していた。両親は前列に座り、温かい笑顔で僕を見つめていた。 音楽が流れ始め、参列者全員が後ろを振り返った。インジュが父親に腕を取られて歩いてきた。 彼女は純白のウェディングドレスに身を包み、髪にタイの伝統的な花の飾りを付けていた。彼女の美しさに、僕は息を呑んだ。 インジュが僕の隣に立ち、二人で海に向かって立った…

  • インジュと約束③

    プロポーズの翌週、インジュと僕は結婚の準備を始めた。 バンコクの街はすでに6月の暑さに包まれていた。 僕の会社のバンコク支社立ち上げの準備も忙しくなる一方だったが、週末はインジュと計画の話し合いに充てていた。 「日タイ両方の文化を大切にしたいね」 インジュは結婚式場のパンフレットを広げながら言った。彼女のアパートのリビングテーブルは、結婚関連のカタログで溢れていた。 「そうだね」僕は彼女の隣に座り、肩を寄せた。 「インジュの家族も、僕の家族も、どちらも大切にしたい」 インジュは少し考え込むように言った。 「私の両親は、伝統的なタイ式の儀式を少し取り入れたいって言ってるの。お坊さんに祝福してもら…

  • インジュと約束②

    バンコクの街は、5月の熱気に包まれていた。 タクシーの窓から見える街並みは、2年前に初めて訪れた時よりも僕にとって馴染み深いものになっていた。 スーツケースを持ち、僕はインジュの両親の家に向かっていた。 胸の内の緊張を抑えることができなかった。 インジュの実家は、バンコク郊外の閑静な住宅街にあった。 玄関のドアを開けたのはインジュ自身だった。 彼女は僕を見るなり、小さな歓声をあげて駆け寄ってきた。 「やっと来たんだね!」 インジュは僕をぎゅっと抱きしめた。 「会えて嬉しい」 「僕も」 僕は彼女の髪に軽くキスをした。 「卒業と就職おめでとう。本当に君は色々な事を成し遂げたよね、本当にすごいよ」 …

  • インジュと約束①

    バンコクの3月は、すでに暑さが厳しくなり始めていた。 インジュは大学の図書館で建築設計の最終プロジェクトに取り組んでいた。 窓から差し込む夕陽が彼女のノートを黄金色に染めている。 卒業まであと数ヶ月。4年間の学生生活が終わりに近づいていた。 「インジュ、まだここにいたのか」 ソンポンの声に彼女は顔を上げた。小さく微笑みながら、 「うん、最後の課題だから完璧にしたくて」と答える。 ソンポンは席に座りながら、 「君の頑張りはすごいよ。でも君自身の意志で頑張っているの?」 と少し批判的な口調で言った。 インジュは一瞬息を止めた。ソンポンが「意志」と言うとき、それは日本にいる彼のことだと分かっていた。…

  • インジュの決意④

    関西国際空港は、朝の光を浴びて輝いていた。 インジュの出発まであと1時間。僕たちは手を繋いだまま、空港のラウンジで静かにコーヒーを飲んでいた。 「私、今日でバンコクに帰るけど、さみしくないの?」 インジュが目を細めて僕を見つめた。 その瞳には、少しの不安と、確かな自信が混ざっていた。 「さみしいよ。でも、君に戻る場所があること、君の夢を応援できることが嬉しいんだ」 僕は彼女の手をそっと握りしめた。 インジュは微笑み、カバンからスケッチブックを取り出した。 それは、京都滞在中に描いた建築の数々だった。 清水寺の舞台、金閣寺の優美な姿、そして現代建築の革新的なデザイン。 どのページにも、彼女の情熱…

  • インジュの決意③

    静けさに包まれて 京都の朝は、清らかな空気と共に始まった。インジュと僕は早朝から出発し、まず向かったのは清水寺だった。朝日に照らされる舞台から見える景色に、インジュは息をのんだ。 「すごい...これが日本の木造建築なんだね」 インジュの目は輝き、その姿は建築を学ぶ学生というよりも、未来の建築家のようだった。彼女はスケッチブックを取り出し、寺院の構造を熱心に描き始めた。 「この支柱の配置と、屋根の曲線の美しさ...教科書で見たのとは全然違う」 僕は彼女の横に座り、静かに見守った。 彼女の集中している表情は、2年前と変わらず美しかった。 「日本の伝統建築は、自然との調和を大切にしているんだ。木材の…

  • インジュの決意②

    再会の瞬間 僕は京都の自宅でくつろいでいた土曜の午後、突然のメッセージに驚いた。 「インジュが京都に?」 信じられない気持ちで、僕はすぐに返信した。 「本当に京都にいるの?どこにいるか教えて、すぐに会いに行くよ」 インジュからの返信には、彼女が宿泊しているホテルの名前が書かれていた。 僕は慌てて準備を始め、家を飛び出した。 インジュのホテルは京都駅を京都タワー側に出て右に少し進んだところにある。 指定されたこのホテルのロビーにつき、周りを見回すと、そこに彼女の姿があった。 インジュは以前よりも少し大人びていた。髪は肩まで伸び、その立ち姿には自信が感じられた。彼女が僕に気づき、目が合った瞬間、お…

  • インジュの決意①

    新たな道へ それから1年が経った。 インジュは大学2年生になり、建築の勉強にますます打ち込んでいた。バイト先も変わり、今は以前のコンテストで入賞した際に縁があり建築事務所でアシスタントとして働いている。実践的な経験を積みながら、学費の返済も進んでいた。 彼女のスケッチブックには、様々な建物のデザインが描かれていた。そのページをめくると、一枚の写真が挟まっていた。パタヤの浜辺で日本人の彼と撮った写真だ。 インジュはその写真を見つめながら、小さく微笑んだ。あの日からメッセージのやり取りは減ったが、時々近況を伝え合う関係は続いていた。 「インジュ、この設計図のここの部分の発送がすごいね!」 ソンポン…

  • インジュの夢④

    大学生活の始まり タイの春の陽光が、インジュの新しい大学のキャンパスを包み込んでいた。 建築学部の校舎は、バンコク郊外の緑豊かな敷地に佇み、美しいレンガ造りの建物だった。 インジュは初めて足を踏み入れた講義室で、胸を高鳴らせながら教授の話に聞き入っていた。 「建築とは、単なる建物ではない。それは人々の生活を形作り、時に感情を動かし、文化を築き上げるものだ」 教授の言葉の一つ一つが、インジュの心に深く刻まれていく。 彼女は熱心にノートを取りながら、ここに来るまでの道のりを思い返していた。 家族との葛藤、彼の支え、そして自分自身の決意—すべてがこの瞬間につながっている。 講義が終わり、キャンパスを…

  • ダナン旅の終わり

    チェックアウトの時間が近づいていた。 荷物をまとめ終えた僕達は、窓から見えるダナンの街並みを最後にじっくりと眺めた。海岸線に沿って広がる街、遠くに見えるドラゴン橋、そして昨日フェンと訪れた市場のある方角。 短い滞在だったが、この街は僕の心に深く刻まれていた。 「もう時間だよ」 TとYが部屋のドアをノックした。二人は既に荷物を持ち、出発の準備を整えていた。 「うん、もう大丈夫」 最後に部屋を見回し、何も忘れ物がないことを確認してから、僕は彼らと一緒にエレベーターに乗った。 「誰か来るの?」とYが尋ねた。 「うん、ロビーで待ち合わせてる」 エレベーターがロビー階に到着すると、ガラスドアの向こうに彼…

  • ダナン5日目③

    午前中から市場見学に行き、午後3時にホテルに戻ってきた。 夏の太陽がまだ高く、部屋に入るとエアコンの涼しさが心地よく感じられた。 窓から見えるダナンの街並みは、活気に満ちながらも穏やかな雰囲気を漂わせている。 「さて、最後の午後をどう過ごそうか」 荷物を置き、スマートフォンでメッセージをチェックしながら考える。 明日の午後には日本へ帰る予定だ。 この数日間、ハンとの時間、友人たちとの旅、そしてダナンの美しい景色が走馬灯のように思い出される。 シャワーを浴びて着替えると、外の暑さも気にならなくなった。 「しばらくプールでくつろごう」 水着に着替え、タオルとサングラスを持ってエレベーターに乗り込ん…

  • ダナン5日目②

    魚介類のセクションでは、まだ生きている海老や蟹が水槽の中で泳いでいた。肉のセクションでは、様々な部位が並び、調理法についてフェンが教えてくれた。野菜や果物のセクションでは、日本では見たことのない種類のものも多く、興味深く観察した。 「次はもっと美味しいものを食べに行きましょう」フェンは僕の手を引いた。「ケンボーって知ってる?」 「ケンボー?聞いたことないけど」 「アボカドのアイスクリームよ。ダナンの名物なの」 「アボカドのアイスクリーム?面白そうだね」 フェンは僕を市場の小さなカフェに連れて行った。そこは地元の人々で賑わっていた。私たちは空いていた小さなテーブルに座った。 「二つケンボーをくだ…

  • ダナン5日目①

    朝日がカーテンの隙間から差し込み、僕の顔を優しく照らした。 目を開けると、すぐにフェンとの約束を思い出す今日はコン市場に行く日だ。 ベッドから起き上がり、窓を開けると、ダナンの朝の空気が部屋に流れ込んできた。 時計を見ると午前8時。フェンとは9時に市場の入り口で待ち合わせていた。 急いでシャワーを浴び、白いTシャツとジーンズに着替えた。 ミラーで自分の姿を確認し、髪を整えながら、彼女に会えることへの期待で胸が高鳴るのを感じた。 朝食食べている時間が無いのでコーヒーだけ飲むことにした。 コーヒーを口にしながら、フェンが話してくれたコン市場のことを思い出す。 「観光客向けじゃない、地元の人たちの日…

  • ダナン4日目⑤

    バーでの中国人観光客とのトラブルが収まり、お店は通常の賑わいを取り戻していました。 時計が11時を指したとき、ママさんがハンと僕が座るテーブルに近づいてきた。 「あなたたち、もう行ってもいいわよ」 ママさんは優しく微笑みました。 「今日はあなたのおかげで大変な事態を避けられたわ。ハンも今夜は特別ね。二人の時間を大切にしなさい」 ハンは少し照れたような表情を見せながらも、嬉しそうにママさんに感謝の言葉を述べていた。 「本当にいいんですか?」 僕は少し驚きながら尋ねた。 「ええ、もちろん」ママさんはウインクしました。 「たまには若い二人の時間も必要よ。お店はまだ続くけど、他のスタッフにハンのことは…

  • ダナン4日目④

    いつの間にか眠りに落ち、目を覚ますと外は暗くなっていた。 時計は午後7時30分を指している。 シャワーを浴びて身支度を整え、友人たちとロビーで待ち合わせた。 「お、元気そうだな」Tが冗談めかして言った。 「楽しい時間を過ごしたか?」 「まあね」僕は照れ隠しに笑った。 「僕らもタオに会えるのが楽しみだよ」Yが言った。 「俺も楽しみだよ。」とTも続いた。 「あくまで旅の思い出としてさ」 「わかってるよ」と僕は答えたが、 心の中ではハンとの関係が単なる旅の思い出で終わる気はしていなかった。 三人でバーに向かうと、店内は客でにぎわっていた。 入口で目を凝らすと、何やら騒がしい声が聞こえてきた。 カウン…

  • ダナン4日目③

    時計は午後2時を指していた。 ハンとは僕はベッドでゆっくりと過ごした後、お互いの体を起こした。 窓から差し込む陽光が部屋全体を明るく照らしている。 「お腹すいたね」 ハンが小さな声でつぶやいた。 彼女の黒髪は少し乱れていて、それが一層可愛らしく見えた。 「うん、何か食べに行こうか」 僕は彼女の頬に軽くキスをしながら答えた。 「ステーキが食べたいな」 「ステーキ?」ハンの目が輝いた。 「いいね!街の中心の方に美味しいステーキ店があるの、連れて行ってあげる!」 私たちはゆっくりとシャワーを浴び、お互いに身支度を整えた。 ハンは上着を薄いピンク色の服に着替えた。 シンプルな装いなのに、彼女の若さと美…

  • ダナン4日目②

    朝食を終えた僕たちは、部屋へ戻った。 窓から差し込む光が、ベトナム・ダナンの青い空を映し出していた。 リゾートホテルの高層階から見える景色は、まるで絵葉書のような美しさだった。 「じゃあ、ちょっと家に帰って水着を取ってくるね。」 ハンは笑顔で言った。 「30分くらいで戻ってくるわ」 「わかった。ここで待ってるよ遅れてもいいから安全に行ってきてね。」 ハンは軽くキスをして、部屋を出ていった。 彼女が去った後、窓際に立ち、ホテルの窓から広がるダナンの街並みを眺めた。 遠くにはミーケビーチの白い砂浜と青い海が見える。 この2日間で急速に親しくなったハンのことを考えていると、胸の中に温かな感情が広がっ…

  • ダナン4日目①

    朝の目覚め 朝の柔らかな陽光が、ホテルの白いカーテン越しに静かに差し込んでいた。 微かに聞こえる波の音と、遠くから響く鳥のさえずりが、まるで心地よい音楽のように部屋を包み込んでいる。 僕はゆっくりと目を開けた。ふと横を見ると、ハンが静かに眠っていた。 彼女の黒髪は枕の上に広がり、穏やかな寝顔が朝の光に照らされている。 僕の腕の中で、彼女はどこか安心しきった表情を浮かべていた。 「…んっ…」 ハンが小さく声を漏らしながら、少しだけ身じろぎする。 彼女の目がゆっくりと開き、ぼんやりと僕の顔を見上げた。 「…おはよう。」 彼女は眠たそうに微笑んだ。 「おはよう、ハン。」僕も笑顔で応えた。 ハンは少し…

  • ダナン3日目の夜⑥

    僕とハンの部屋 ホテルのエレベーターが静かに上昇していく。 隣にいるハンは少し緊張しているようで、指先をもじもじと弄んでいた。 僕もどこか落ち着かない。まさかハンが「いくっ!」と即答するとは思わなかった。 彼女はいつも明るくて冗談も言うけど、今はどこか違う雰囲気だった。 「…緊張してる?」僕が聞くと、ハンは小さく笑った。 「うん、ちょっとね。でも、あなたもでしょ?」 「まぁ、そりゃね。」 「なら、おあいこね。」 エレベーターのドアが開くと、僕はハンを先に通し、自分の部屋の鍵を取り出した。 「ここだよ。」 カードキーをかざし、ドアを開ける。 ------------------------ 部屋…

  • ダナン3日目の夜⑤

    Tとマイの部屋 ホテルの静かな廊下を歩きながら、Tは横にいるマイをちらりと見た。 彼女は柔らかな笑顔を浮かべ、どこか楽しそうに歩いている。 「本当に部屋に入っていいの?」 Tは少し気恥ずかしそうに尋ねた。 「どうして?」マイはクスクスと笑う。 「Tさんが嫌なら帰るけど?」 「いや、そんなことあるわけないけど…」Tは頬を掻いた。 「でも、ちょっと意外だった。」 「意外?」マイは首を傾げながら、Tの部屋のドアの前で立ち止まる。 「私が大胆すぎる?」 「いや、そういうわけじゃ…」Tは言いかけて口をつぐんだ。 「ふふっ。」マイはTのネクタイを軽く引っ張りながら、 「もう、そんなに緊張しないでよ。部屋に…

  • ダナン3日目の夜④

    ホテルの部屋——それぞれの時間 僕たちはタクシーでホテルへ戻り、それぞれの部屋へ向かった。 ダナンの夜 – Yとタオの部屋 ホテルのエレベーターの中で、Yは隣に立つタオをちらりと見た。タオはいつものように落ち着いた表情をしていたが、どこか微かに緊張しているようにも見える。 エレベーターが部屋の階に着くと、タオが小さな声で 「ここがYさんの部屋…?入っても良い?」と尋ねた。 Yに断る理由もない。 「うん、もちろん。」 二人は廊下を歩き、Yは部屋のドアを開けた。 --- 部屋の中に入ると、Yは「どうぞ、適当に座って」と言いながら荷物を軽く整理した。タオはソファに腰を下ろし、部屋の雰囲気を眺めながら…

  • ダナン3日目の夜③

    閉店後 バーの中は、心地よいアルコールと楽しい会話の余韻が残る静かな空気に包まれていた。時計を見ると、すでに午前2時を回っている。 僕たちは最後の一杯を飲み干し、そろそろ帰ろうかと立ち上がった。 「今日も本当に楽しかったね。」 Tがストレッチをしながら言う。 「うん、明日も予定あるし、そろそろ帰るか。」 Yも軽くあくびをしながら同意する。 すると、タオがYの腕を軽く引いた。 「ねえ…Yさん、ホテルの部屋で、もう少しお話ししない?」 Yは少し驚いた様子を見せたが、タオの真剣な瞳に釘付けになった。 「え?…いや、それは…でも…いいの?」 「ダメ?」 タオは甘えるような口調で、Yのシャツの裾を指でつ…

  • ダナン3日目の夜②

    ピザ屋さんの時点でこれは待ち合わせの時間に送れることは確定していたので、YとTには先にバーに行っていて欲しいと伝えてあった。 フェンが帰った後シャワーを浴び、10時半に皆が待つ、いつものバーに着いた。バーに入ると既にYとTは盛り上がっており、それぞれタオとマイと話をしていた。 「遅れてごめん!」と僕は少し恥ずかしそうに言った。店内を見回すと、カウンター席でハンが心配そうな顔で僕を待っており、目が合うと、彼女は安堵の表情を浮かべながら立ち上がった。 「やっと来たのね!」ハンは僕に駆け寄ってきた。「心配したのよ。もう来ないんじゃないかって…」 「ごめんね、ピザ屋さんに寄ってたんだ。実はお腹が空いて…

  • ダナン3日目の夜①

    ホテルに着いたが、まだ午後5時、4時間程時間がある。 YとTは少し部屋で休むとそれぞれの部屋に戻ったが、僕はフェンに会っていない事を思い出し、彼女の働いているスロット店に足を運んだ。 店内は薄暗く、スロットマシンのカラフルな光と電子音が響いていた。少し店内を見回すと、制服を着たフェンを見つけることができた。彼女は客に対応していたが、ふと視線を上げると僕と目が合った。 フェンは目を丸くして、明らかに驚いた表情を浮かべた。手早く客への対応を終えると、すぐに僕のところへやってきた。 「どうしてここに?」フェンは小声で尋ねた。 「スロットなんてしないって言ってたじゃない」 僕はにっこりと笑って答えた。…

  • バナヒルズへ⑤

    「どうだった?」マイが僕たちに尋ねた。「最高だったよ」僕は答えた。「博物館で歴史を学んで、それからもう一度ゴールデンブリッジに行ったんだ」「午後の光の中の橋もとても綺麗でした。」ハンも嬉しそうにうなずいた。「私たちも楽しい時間だったわ」タオが言った。「Yさんが教会の建築様式にすごく詳しくて、逆に私が教えられることも多かったの。特にステンドグラスの色彩の意味について、深い知識を持っているのよ」「ステンドグラスの青は天国、赤は神の愛や犠牲を表しているんだ」Yは熱心に説明したようだ。Yは照れくさそうに笑った。「いや、タオの方が歴史的背景を知っていて、僕はただの形に興味があるだけだから。タオは本当に物…

  • バナヒルズへ④

    昼食後、僕たちは再び三組に分かれた。マイとTは庭園へ、タオとYは教会へ、 そして僕とハンはワックス博物館へと向かった。「午後4時に展望台で合流しましょう」タオが提案した。「いいわね、じゃあそこで」マイが答えた。 蝋人形博物館に着くと、入口には世界中の有名人や映画のキャラクターの蝋人形が迎えてくれた。ハンは楽しそうに僕の手を引いて中に入った。 「ほら、ここにベトナムの有名な歴史上の人物もいるよ」彼女は僕を案内した。 「これはホー・チ・ミン主席。私たちの国の独立と統一のために戦った指導者よ」「日本でも有名な人だよ。実際に蝋人形で見るとより親近感が湧くね」 僕は言った。 「こちらはチャン・フン・ダオ…

  • バナヒルズへ③

    レストランでの昼食は、まさにタオが言った通り、フランスとベトナムの融合料理だった。エスカルゴをレモングラスとチリで味付けしたものや、バゲットの上にフォーの具材をのせた前菜など、斬新なメニューに皆驚いた。 「これは面白い!」Yは食事を楽しみながら言った。「こんな組み合わせ、考えたこともなかったよ。フランス料理の繊細さとベトナム料理のスパイシーさが絶妙だね」「私もこのフュージョン料理、初めて食べるわ」マイが言った。「特にこのエスカルゴが美味しいわ。」 「バナヒルズならではね」タオは嬉しそうに説明した。 「さすがタオだね」Yは感心した様子で言った。 「君は本当に物事の本質をよく理解しているよ」タオは…

  • バナヒルズへ②

    金色に輝くブリッジと神秘の街 ケーブルカーを降りると、バナヒルズの爽やかな山頂の空気が僕たちを包み込んだ。 霧が晴れ始め、朝日に照らされた石畳の道と中世ヨーロッパ風の建物が目の前に広がっていた。 「みんな、まず最初はゴールデンブリッジに行きましょう!」 タオが地図を指さしながら言った。 「朝一番だとまだ人が少ないから、いい写真が撮れるはずよ」マイがTの腕を取り、「私たちはこの道を行くわ。ブリッジで会いましょう!」と言うと、Tは彼女に引っ張られるようにして別ルートに向かった。 「僕たちも行こうか」Yはタオの方を見て言った。「ガイドさん、案内をお願いしますよ」と冗談めかして頼むと、タオは嬉しそうに…

  • バナヒルズへ①

    早朝 朝のダナンは、静かで涼しい。ホテルのロビーにはコーヒーの香りが漂い、ガラス窓の向こうにはまだ朝焼けの名残が淡く漂っていた。青みがかった空が少しずつ明るくなり、今日の冒険の始まりを告げているようだった。 僕たちは約束通り午前7時にロビーに集合した。YとTはまだ少し眠そうだったが、それでも今日のバナヒルズ行きに胸を躍らせているのが伝わる。 タオとマイそしてハンも時間通りに到着し、タオとマイはすでに朝からエネルギッシュだ。 「おはよう!今日はすごく良い天気になりそう!」マイが元気に挨拶すると、Tはあくびを噛み殺しながら「朝からテンション高いな。 その元気、少し分けてほしいよ」と笑った。 「バナ…

  • ダナンへ⑥

    ホテルに戻った僕は、すでにロビーでYとTが待っていることに気がついた。二人とも満足げな表情をしていた。 「おお、戻ってきたか」とTが声をかける。「どうだった?」 「最高だったよ。ミーケビーチとカフェ、龍橋に行ってファイヤーショーを見てきたんだ。」と僕が答える。「そちらは?」 「俺はタオにダナンの博物館や市場に連れて行ってもらったんだ」とYが嬉しそうに言う。「彼女、実は大学で歴史を勉強してたらしくて、めちゃくちゃ詳しいんだ」 「マイは俺をバイクでハイヴァン峠に連れて行ってくれた」とTが興奮気味に続ける。「すごい良い景色で感動したよ。それに地元のレストランで食べたローカル料理も美味かったなぁ。」 …

  • ダナンへ⑤

    フェンとともにミーケビーチへと向かいながら、僕は昨日のホイアンでの思い出を話した。 「昨日のホイアンはまるで夢のようだったよ。君の案内でより一層素敵な場所に感じたんだ」 フェンは嬉しそうに微笑み、「今日も素敵な場所に連れて行くわ」と言った。 ビーチに到着すると、フェンの言った通り、まだ人は少なかった。青い空、白い砂浜、そして透明度の高い海が広がっていた。 「ダナンのビーチは世界的にも美しいことで知られているのよ」とフェンが誇らしげに言う。「特にミーケビーチは"世界で最も美しいビーチ"の一つとして選ばれたこともあるの」 僕たちはビーチでしばらく過ごした後、フェンの提案でビーチ沿いのカフェに入った…

  • ダナンへ④

    ベトナムダナン旅行 — 2日目 朝日がカーテンの隙間から差し込み、部屋を優しく照らしていた。昨日のダナン一日目の疲れが少し残っていたが、今日も新しい一日が始まる。枕元の時計を見ると9時を指していた。ベッドから起き上がり、窓から外を眺めると、すでに太陽は高く、波光きらめく海と青空が広がっていた。 「おはよう」 ドアをノックする音に振り返ると、YとTが待っていた。二人は昨日のスロットの興奮が残っているのか、朝からやたら元気だった。 「今日はまた何処へ行く?」とTが尋ねる。 「午前中は近くのマッサージ店に行こうかと思ってるんだ」と僕は提案した。「ベトナムのホットストーンマッサージが評判いいって聞いた…

  • ダナンへ③

    夜9時に僕はホテルに戻った。 一日中観光で歩き回り、足は疲れていたが心持ちは軽かった。 ホテルに戻るとYとT2連絡すると2人もホテルに戻っており、ロビーに降りてきた。2人はスロットに夢中になって予定をすっぽかしたことを詫びてきたが、僕はフェンのおかげで楽しい時間を過ごしたので快く許した。(フェンのことは話さなかった。)「もしよかったらこの後、せっかくだしバーでも行ってみようぜ。スロットで勝ったから奢るよ。」とTは提案する。目には冒険心が輝いていた。僕は少し躊躇したが、Yが「せっかくだし行ってみようか。」と賛成の声を上げる。確かにベトナムの夜を体験しないで帰るのは勿体ない。僕も頷いた。フロントで…

  • ダナンへ②

    二日目の朝、僕たちはホテルの朝食ビュッフェを軽く済ませ、昼からのスロットに備えてリラックスした時間を過ごしていた。昨夜の余韻を引きずりつつも、YとTは「今日は勝つ!」と意気込んでいた。 昼過ぎ、再びスロットへ向かう。昨夜と同じく、煌びやかな空間が広がっていた。YとTはスロットへ一直線に向かい、僕は少し離れた席に座り2人を眺めていた。ギャンブルにはあまり興味がないが、雰囲気を味わうのは悪くない。 Yが「今日はツイてる!」と興奮気味に言う。どうやら勝っているらしい。Tも「いい感じだな!」と続き、二人とも夢中になっていた。 僕はスロット店内1階のカフェでコーヒーを飲みながら昨日の店員の女性と話してい…

  • ダナンへ①

    ダナン——ベトナム中部のビーチリゾート ベトナム中部に位置するダナンは、美しいビーチと開発をされていく都市の魅力が融合した人気の観光地だ。フランス統治時代の影響を感じる街並みや、ベトナムならではのグルメ、近郊には世界遺産のホイアンやフエ、ゴールデンブリッジで有名なバナヒルズもあり、観光の選択肢が豊富だ。さらに近年はカジノを併設したホテルや娯楽施設も増え、日本人のみならずアジア圏の観光客に注目されている。 今回、僕たちがダナンを選んだのは友人の一言がきっかけだった。「ダナンには、日本ではもう規制で打てなくなったスロットが打てる店があるらしいぞ!」 パチンコ・パチスロ好きの友人がそんな話を仕入れ、…

  • インジュと夢③

    合格発表 インジュは合格発表を待っていた。受験した大学の合否発表はオンラインでの開示となっている。 その日は朝から家の中が落ち着かない雰囲気に包まれていた。家族全員がリビングに集まり、インターネットで合格発表が更新されるのを今か今かと待っていた。 「あと10分ね。」 母が落ち着かない様子で時計を見ながらつぶやく。父も無言のまま腕を組み、兄はソファの肘掛けに肘をつき、スマホをじっと見つめていた。 インジュの手にもスマホがあり、彼女は深呼吸を繰り返しながら、心の準備をしていた。 「大丈夫よ、今まで頑張ってきたんだから。」 母の言葉にインジュは小さく頷く。しかし、緊張で手のひらに汗が滲んでいるのを感…

  • インジュと夢②

    新たな旅立ちとインジュの決意 インジュは大学に合格するため、日々の生活を学業に捧げるようになった。朝から晩まで勉強に励み、予備校に通い、試験対策を進めた。彼女のスケジュールは分刻みで埋め尽くされ、僕たちが会える時間は急激に減っていった。 それでも、僕たちは離れた場所でお互いを応援していた。日本に戻った後も、時折メッセージを送り、彼女の努力を支え。時には短時間だけ電話をすることもあったが、インジュは疲れていることが多く、会話は短くなっていった。 「大丈夫?」と僕が尋ねると、インジュは決まって「大丈夫、頑張る」とだけ言った。 彼女の声には、以前の迷いや葛藤はもうなかった。その代わりに、強い意志が宿…

  • インジュと夢①

    バンコクへの帰路 楽しいパタヤの旅を終え、バンコクへ戻るタクシーの後部座席に並んで座る僕たち。バンコクへと続く夜道は静かで、街灯の明かりが流れるように窓を過ぎていく。車内のエアコンの冷気が肌を撫で、窓の外には闇の中に浮かぶネオンがちらちらと光る。 インジュは僕の肩にもたれ、時折小さく息を吐いていた。僕は彼女の頭を優しく撫でた。繊細な黒髪が指の間を滑る。少しずつ落ち着きを取り戻しているように見えたが、まだ不安の色が完全に消えたわけではない。 「落ち着いてきた?」僕が尋ねると、インジュは小さく頷いた。 「うん……少しすっきりしたかも。」 彼女の声には、かすかに決意がにじんでいた。彼女の肩越しにちら…

  • インジュとビーチへ⑤

    夜の静寂とインジュの涙 ホテルの部屋に戻ると、インジュはすぐにシャワーを浴びた。僕も簡単に身支度を整え、ベッドに横になった。今日は一日、たくさんの場所を巡り、楽しい時間を過ごした。朝の静かなビーチから始まり、タイガーパークでの興奮、イタリアンレストランでの贅沢なランチ、寺院での穏やかなひととき、そして夕暮れの海を見ながらのロマンチックなディナー――どれもかけがえのない思い出になった。 「おやすみ。」 インジュは笑顔でそう言い、ベッドに入った。彼女は疲れていたのか、すぐに目を閉じた。 波の音が静かに響く。窓のカーテン越しに月明かりが差し込んでいて、部屋の中を淡く照らしていた。僕もゆっくりと目を閉…

  • Ex_シャムの踊り子_僕と家族の帰省②

    日本への家族旅行もついに終わりの時を迎えた。 実家の玄関前で、僕の両親と僕たち家族が最後のお別れをする。 「本当に、来てくれてありがとう。孫たちに会えて嬉しかったよ。」 母が目に涙を浮かべながら子どもたちの頭を撫でる。父も、寂しさを隠しながら「またいつでも帰っておいで」と優しく微笑んだ。 「おじいちゃん、おばあちゃん、また来るね!」 兄が元気よく言い、妹も「また遊んでね」と小さな手を振る。アイスも少し涙ぐみながら、母の手を握った。 「本当にありがとうございました。とても楽しい時間でした。」 「こちらこそ。また必ず遊びに来てね。」 名残惜しい気持ちを胸に、僕たちは両親に最後の手を振り、電車に乗り…

  • Ex_シャムの踊り子_僕と家族の帰省

    僕たち家族は、この夏、日本の長野県諏訪市へ帰省することになった。コーンケーンで育った子どもたち——10歳の兄と6歳の妹にとって、日本は未知の世界。アイスにとっても、これが初めての実家への訪問だった。 飛行機を乗り継ぎ、成田空港に降り立ったとき、子どもたちは興奮した様子で周囲を見回していた。 「お父さん、日本って思ったより涼しいね!」 兄がそう言うと、妹は兄の手をしっかり握りながらキョロキョロと見渡していた。 「本当に、コーンケーンやバンコクとは全然違うわね。」 アイスも、日本の清潔で整った空港や街の雰囲気に驚いたようだった。 電車に乗り、長野へと向かう道中、窓の外に広がる山々や田園風景に子ども…

  • インジュとビーチへ④

    イタリアンレストラン タイガーパークでの興奮冷めやらぬまま、僕たちはホテルへ戻り、少し休憩した後、お昼ごはんを食べに行くことにした。インジュがインスタで以前見た評判のいいイタリアンレストランがビーチロード沿いにあるという。 「ここの写真を見たけど、とても美味しそうだったの!」 彼女が見せてくれた写真には、本格的なピザやパスタが並んでいる。 「いいね、タイ料理も美味しいけど、今日は夜もあるし、お昼はここにしようか。」 タクシーに乗り、パタヤの賑やかな通りを抜けて、海沿いのイタリアンレストランへ向かった。店に入ると、オープンテラスの席があり、目の前にはエメラルドブルーの海が広がっている。潮風が心地…

  • インジュとビーチに③

    朝の散歩とタイガーパークへ 朝、部屋のカーテン越しに柔らかな日差しが差し込んできた。まだ早朝にもかかわらず、すでに少しずつ活気づいているビーチが見える。 目を覚ました僕は、横を見るとインジュがまだ静かに寝息を立てていた。彼女の穏やかな寝顔を見ながら、そっとベッドから抜け出した。 窓を開けると、潮風が心地よく吹き込んできた。海の音が遠くで響き、鳥のさえずりが朝の空気に溶け込んでいる。僕は軽くストレッチをして、シャワーを浴びることにした。さっぱりとした気分でバスローブを羽織ると、ちょうどインジュが目を覚ました。 「おはよう。」 彼女はまだ寝ぼけ眼のまま、微笑みながら僕を見た。 「おはよう。よく眠れ…

  • インジュとビーチに②

    ジョムティエンビーチ 午後の陽射しが傾きかけたころ、僕たちはビーチへと向かった。ホテルを出て少し歩くと、目の前には白い砂浜と広大な青い海が広がっていた。遠くにはパラセーリングを楽しむ人々が空を舞い、波打ち際では子供たちがはしゃぎながら遊んでいる。波の音が心地よく響き、潮風が僕たちの頬を撫でていた。 「やっぱり海っていいね。」 インジュは深く息を吸い込みながら呟いた。 「そうだね。海の香りって、なんだか落ち着くよね。」 砂浜には多くの観光客がいて、思い思いにバカンスを楽しんでいた。ビーチチェアに寝そべってカクテルを飲む人、ジェットスキーで疾走する人、恋人と寄り添いながら散歩する人。そんな中、僕た…

  • インジュとビーチに

    パタヤのバスターミナルでの再会 シンガポールへの旅を終えた後、僕たちは再び会う約束を交わした。 まとまった休みが一週間ほど取れたので、日本から飛行機に乗り、スワンナプーム空港から高速バスに乗った。 今回は、パタヤでの再会だ。バスは長い道のりを経て、ようやくパタヤのノースバスターミナルに到着した。陽射しが強く、ジリジリと肌を焼くような暑さが広がる中、僕はターミナルの出口を目指した。 ターミナルは活気に満ちていた。旅行者や地元の人々が忙しなく行き交い、タクシーの呼び込みの声やバイクのエンジン音が響いている。そんな喧騒の中、ひときわ目を引く女性がいた。小さなキャリーケースを片手に持ち、スマホを見なが…

  • Ninaと大坂②

    大阪城にて 朝食を終えた僕たちは、タクシーに乗り大阪城へと向かった。 澄み切った青空の下、堂々とそびえ立つ城の姿が視界に入ると、Ninaの目が輝いた。 「すごく大きい!お城って、本当にこんなに立派なのね。」 「日本にはいくつか有名なお城があるけど、大阪城は特に歴史があって有名なんだ。」 城の周りを囲むお堀の水面は太陽の光を反射し、静かに波紋を広げていた。桜の木が並ぶ遊歩道を歩きながら、僕たちは城へと近づいていく。Ninaは石垣の高さや、城の壮麗なデザインに何度も感嘆の声をあげた。 「タイにも古い遺跡はあるけれど、お城の雰囲気とはまた違うね。どこか力強くて、それでいて美しい。」 「ここは豊臣秀吉…

  • Ninaと大坂①

    大阪へ 京都での滞在を終え、僕たちは新幹線に乗り込み大阪へと向かった。車窓から流れる景色を眺めながら、Ninaは楽しそうに写真を撮っている。春の陽気に包まれた日本の風景が、彼女のスマホに次々と収められていく。 「京都も素敵だったけど、大阪はまた違った雰囲気があるの?」 「そうだね。京都は歴史的な街並みが魅力だけど、大阪はもっと活気があって、食い倒れの街って言われているくらい美味しい食べ物がたくさんあるよ。」 「楽しみ!」 新大阪に到着すると、そこから地下鉄を乗り継いでミナミのエリアへと向かった。まず最初に訪れたのは、大阪名物・たこ焼きの有名店だった。すでにお店の前には長い行列ができていた。 「…

  • 踊り子の故郷③

    アイスと僕の結婚式は、タイのイサーン地方、彼女の実家近くの大きな公会堂で行われた。長い準備期間を経て、ついに迎えたその日、アイスは人生で最も幸せそうな顔をしていた。彼女の周りには、家族や村人たちが集まり、笑顔と歓声が響き渡っている。 イサーン風のドレスではなく、彼女の希望で洋風の白いドレスを身にまとい、母親に手を引かれて歩くアイス。彼女の笑顔は太陽のように輝いていて、その美しさに思わず息を呑んだ。村の古い寺院の前に並んだ家族と親しい友人たちが見守る中、僕はアイスと手を取り合って誓いの言葉を交わした。 式が進む中、僕は自分の気持ちを整理しながら、この瞬間が来たことに胸を打たれていた。文化や言葉の…

  • 踊り子の故郷②

    僕とアイスはまだローカルマーケットにいた。 市場は夜が近づいても活気に満ち、地元の人々の生活が垣間見える。 「この市場、子供の頃によく来たの。お母さんがよくここで食材を買ってたわ。」 アイスが懐かしそうに語る。色とりどりの野菜、スパイス、焼きたてのパンや伝統的なお菓子が並び、地元ならではの雰囲気が漂う。僕はその風景に魅了されながら、アイスに勧められるままにローカルフードを試してみた。 「これ、美味しいよ。ほら、食べてみて。」 彼女が差し出したのは、ココナッツともち米を使ったタイのデザート。甘さと香ばしさが絶妙で、思わず笑顔がこぼれる。 「アイスはここの市場が好きなの?」 「うん。ここには私の思…

  • 踊り子の故郷①

    朝日がバンコクの街を優しく照らす中、僕とアイスはゆっくりと目を覚ました。今日は彼女の故郷、コーンケーン県へ向かう日だ。 アイスに交際申し込み、昨日で一年になった。 彼女のことをもっと知りたいと思い、彼女の生まれた土地を見て感じたいとアイスにお願いしたら快く準備を進めてくれた。 「おはよう。よく眠れた?」 「うん、おかげさまで。でも今日は早起きしないとね。」 僕らはホテルで軽く朝食を済ませ、荷物をまとめてチェックアウトした。アイスの車に乗り込み、ドンムアン空港へと向かう。バンコクからコーンケーンまでは飛行機で1時間ほど。車やバスでも行けるが、時間を節約するために今回は飛行機を選んだ。 空港に到着…

  • 古都とNina②

    八坂神社へ 着物姿のNinaは、日本の街並みに見事に溶け込んでいた。観光客の中には彼女にカメラを向ける人もいて、彼女は少し恥ずかしそうに微笑んだ。 「なんだか、少し照れるね。」 「それだけ似合ってるってことだよ。とても綺麗だよ」 そう言うと、Ninaは照れて小さく頷きながら、視線をそらした。 八坂神社の入り口を通り、ゆっくり歩を進める。Ninaは慣れない草履を履いての歩行にチャレンジしたがやはり大変そうだった。 その為草履は僕のカバンにしまい、もともと履いていたスニーカーに履き替え、着物が汚れない様に進むことにした。 八坂神社の境内には各種屋台も出ており、多くの観光客で賑わっている。 「あ、た…

  • 古都とNina①

    日本に帰った後もNinaとLINEのやり取りを続けていた。 最近Ninaの友達が日本人に招かれて日本を訪問した話を聞いていた。どうやら京都に遊びに行ったらしくNina経由でその友達の楽しそうな京都旅行の写真を見せてもらった。その中に友人のタイ人女性が着物を着ているものが目に止まり、不意にNinaの着物姿も見たいと思ってしまった。 「Ninaさえ良ければだけど・・・」 そう切り出してから2ヶ月後の4月、僕は関西国際空港の1階にある到着ロビーにいた。人を待っている、もちろんNinaを。 冬も終わり春も訪れたとはいえタイと比べると日本の4月はまだ肌寒い。体調を崩さなければいいけど、と心配をして待って…

  • Ninaのイタズラ③

    パタヤ滞在5日目 朝の光がカーテンの隙間から差し込み、静かに部屋を照らしていた。ベッドの上で目を覚ましながら、僕は今日がパタヤ最終日であることを思い出した。数日間の滞在の中でNinaと過ごした時間が、心に深く刻まれていた。 Ninaと昨夜遅くまで一緒に起きていたせいか、体はまだ少し重い。けれど、最後の日だからこそ彼女にちゃんと別れを伝えたかった。 支度を整え、荷物をスーツケースに詰めながらも、心のどこかで現実を受け入れたくない気持ちがあった。携帯を手に取り、Ninaにメッセージを送る。 「おはよう。今から朝ごはん食べに行かない?」 しばらくして、彼女からの返信が届いた。 「うん!いいわよ、カフ…

  • インジュと星の国③

    旅の終わりと新たな約束 2泊3日のシンガポール滞在は、まるで夢のように過ぎ去った。朝から観光地を巡り、夜はバーやホテルの部屋で語り合いながら、2人だけの時間を楽しんだ。短いながらも濃密な時間を共有した僕とインジュは、空港の出発ゲートの前で別れの時を迎えていた。 「また、こんな旅がしたいね。」 インジュが小さな声で言いながら、そっと僕の手を握った。その手のぬくもりが、今までの思い出とともに胸に染み込む。 「うん、次はどこに行こうか。」 僕は彼女の瞳を見つめながら応えた。 「まずは今年またタイに来てよ、私と一緒にパタヤに行こうよ。」 インジュの微笑みが、名残惜しさを少しだけ和らげてくれた。僕たちは…

  • インジュと星の国②

    アラブストリートでの香水探し ">シンガポールの朝は湿り気を帯びた温暖な空気に包まれていた。ホテルのレストランで朝食を楽しんだ僕たちは、コーヒーの香りを残しながらロビーを後にし、タクシーに乗り込んだ。目的地はアラブストリート。シンガポールの中心地から少し離れたこのエリアは、異国情緒に満ちた独特の雰囲気を持ち、観光客にも人気のスポットだ。 タクシーが街の喧騒を抜け、カラフルな建物が並ぶアラブストリートへと入ると、車窓から見える景色が一変した。黄金色に輝くモスクのドーム、アーケードに連なる雑貨店、装飾が美しいカフェやレストラン——まるでシンガポールから別の国に移動したかのようだった。 「ここ、本当…

  • インジュと星の国①

    チャンギ国際空港の再会 シンガポールのチャンギ国際空港は世界で一番の空港であると誰かが言っていた。本当かどうかは知らないが、来てみるとわかるが大きさもそうだがたくさんあるお店や施設が非常に機能的に分類されており他の空港ではなかなか感じられない町中の様な活気がある。到着ロビーで、僕はスマホを見ながらインジュの到着を待っていた。飛行機は定刻通りにバンコクを出発したはずだ。タイ時間とシンガポール時間の時差は1時間、フライトの時間は2時間ほどしかないが、インジュと会うことが待ち遠しい僕にはそれ以上に長い時に感じた。 人々がゲートから次々と出てくる中、見慣れた人を見つけた。シンプルな白いワンピースに、軽…

  • シャムの踊り子④

    オーストラリアのパースに4日間滞在し、バンコクに今日戻ってきた。 スワンナプーム空港に着くと入国審査を行い、到着ロビーへ歩いて向かう。 通常はここからバスか電車、タクシーを使ってバンコクの市内に向かうところだが 今回はお迎えが来ている。 「アイスッ!」 笑顔でこちらに手をふるアイスを見つけ、僕は思わず走って駆け寄る。 たまたまお店の休みの日とバンコクへの帰国が重なり、帰国する日をアイスに伝えたところ迎えに来てくれるというので甘えたのだ。 アイス:「สวัสดีค่ะ」「お帰りなさい。長旅お疲れ様でした、パースは涼しかったですか?」 僕:「ただいま。パースも場所によっては暑かったけどバンコクには…

  • シャムの踊り子③

    アイスと一緒にバーを出ると、バンコクの熱気と湿った空気が肌にまとわりついた。ネオンの光が街を彩り、通りには観光客や地元の人々が行き交っている。アイスは僕の隣を歩きながら、時折こちらを見上げて微笑んだ。 「次、どこに行く?」 彼女は楽しそうに尋ねる。まだ時間は早い。もう少し話をしたかった。 「どこか静かに飲めるバーはある?」 アイスは少し考え、 「うん、いいところがあるよ。」と答えた。 彼女が案内してくれたのは、ネオンの喧騒から少し離れた落ち着いたバーだった。店内は薄暗く、ジャズが流れている。人の姿は少なく、ファランの老人たちが静かにグラスを傾けていた。 カウンターに並んで座ると、バーテンダーが…

  • シャムの踊り子②

    前日談-アイスとの出会い- "> ">バンコクの喧騒の中でも、特に賑やかなエリアにあるバービア街。観光客と地元の人々が入り混じり、ネオンが輝き、グラスがぶつかる音が響く。そこを僕は一人で歩いていた。バンコクに一人で来るのはこれが初めてだ。 "> ">以前来た際には友人と2人できて色々バンコクの街を案内してもらったが、その友人は今回はいない。あてもなく繁華街をさまよううちにこのバービア街へと辿り着いた。 長旅の疲れを癒すため、バーに入り冷えたビールを片手に店内を見回していたときだった。ステージの上で踊る女性たちの中に、一際目を引く存在がいた。しなやかな動きと無邪気な笑顔。その笑顔がふと消え、視線…

  • 2日目のインジュ④

    パタヤでの4日間を終え、バンコクに戻る道中僕の頭はあるメッセージでいっぱいだった。 「ハッピーバレンタイン、あなたは明日私に会いにきますか?」 送信者はインジュ。彼女はバンコクのバーで働くタイ人の女の子だ。 「Maybe…」とだけ返信したが、実際にはパタヤで彼女へのお土産を買い、会う準備を整えていた。しかし、その小さな駆け引きがインジュの感情を揺さぶったのか、彼女から怒涛のメッセージと写真が送られてきた。 降参して「実は会いに行く気でお土産も準備してるよ。」と伝えると、インジュは満足そうに「待ってるね。」とだけメッセージを送ってきた。 バンコクに戻ると、ホテルにチェックインし、夜に備えて睡眠を…

  • Ninaとイタズラ②

    パタヤ滞在4日目 朝から仕事に追われ、パソコンと向き合い続けていた。タイの強い日差しが窓から差し込み、エアコンの効いた部屋でもじんわりと汗をかく。昼を過ぎてもメールの返信や資料作成に追われ、気づけば夕方になっていた。 ふと、スマートフォンを見るとNinaからLINEが届いていた。 「今日は忙しい?夜、どこかに遊びに行かない?」 昨夜のディナーの余韻がまだ残っている。彼女とは話していて気を使うこともなく、心地よい時間を過ごせることが分かっていた。 「いいね、どこに行く?」 「ナイトクラブ!パタヤに来たなら、一度は行かなきゃ!」 クラブか……バンコクで仕事仲間と行ったことはあるが、パタヤのナイトラ…

  • Ninaとイタズラ①

    パタヤ滞在1日目 タイの熱気が私の肌を包み込む。バンコクでの仕事を終え、パタヤに到着した私は、ホテルにチェックインを済ませ、1日目の仕事を無事に終えていた。街をぶらつきながら、バンコクとは全く異なる雰囲気に心が和んでいく。 パタヤは、バンコクとは対照的な場所だった。確かに中心部は賑やかで活気に満ちているものの、一歩その外に出れば、のどかなタイの田舎町の風情が広がっている。ビーチに面した街並みは、東南アジアならではの素朴な魅力に溢れていた。バンコクで日常的に経験した激しい渋滞も、ここパタヤでは中心部に限られており、ソンテウと呼ばれる乗り合いトラックを利用すれば、快適に街中を移動することができた。…

  • 2日目のインジュ③

    4日目のインジュ バンコク最後の夜 連日の寝不足と慣れない環境での仕事により、体がガチガチに固まっていた。 そろそろタイマッサージを受けたいと思っていた矢先、スマホの通知が鳴った。 「なぜタイにいるのに私に会いに来ないの?」 以前通っていたマッサージ店の女性から怒りのLINEだった。そういえば、彼女とはインスタを交換していた。 おそらく、そこで僕がタイにいることを知ったのだろう。 ちょうど良いタイミングだ。彼女の機嫌を取りつつ、マッサージを受けるために仕事帰りに店に向かうことにした。 その日の夕方、インジュからもメッセージが届いた。 「何時に来れそう?」 「たぶん11時くらいになるよ。」 「わ…

  • 2日目のインジュ②

    3日目のインジュ 午後9時。 仕事を終え、スマホを確認するとインジュからのメッセージが届いていた。 「今日の私はエクステを外してショートカットです。」 シンプルな一文だったが、何か挑発的なものを感じる。 思い返せば、昨夜の会話の中で、彼女に「長い髪と短い髪、どちらが好き?」と聞かれた。彼女が長い髪をしている以上、模範解答は「長髪」と答えるべきだったのだろう。しかし、僕は正直に話すこともできず、「長い髪も短い髪も好きだよ」と50%ほどの嘘を混ぜて答えた。 彼女はその後、実はエクステで本当は髪が短いことを打ち明けてくれたが、まさか今日、それを外してくるとは思わなかった。 好奇心が刺激された。 昨日…

  • 2日目のインジュ①

    2日目のインジュ バンコクの夜がゆっくりと更けていく。 再びこの街に戻ってきたのは、去年の失敗がまだ自分の中で整理しきれていなかったからだ。日本時間の午後6時、オンラインでの仕事を終えたが、ここタイではまだ午後4時。時差のズレが、まるで自分の心の状態を映し出しているかのように、どこか違和感を伴っている。 ホテルの部屋を軽く片付けた後、外に出て近くの屋台でスイカスムージーを買った。カップを両手で包み込みながら、ストロー越しに甘くて冷たい果汁を口に含む。冷たさが喉を滑り落ちるたびに、少しずつ頭がぼーっとしていく。 目の前の通りを行き交う人々を眺める。欧米人のバックパッカー、スーツ姿のタイ人ビジネス…

  • シャムの踊り子①

    シャムの踊り子① ショーが始まる。 今まで踊っていたダンサーたちが降壇し、6人の新たな踊り子が黒い衣装を身に纏いスタンバイした。 6本あるポールの内、アイスは僕から見て右前のポールに立っている。先程まで見せていた無邪気で明るい笑顔とは違い、どこかこちらを挑発的に窺う様なそんな顔だ。 そして世界的に有名な洋楽をダンスミュージックアレンジにしたものが流される。 踊り子はそれぞれ目の前の客と、意中の客に目線を向けてポールを回り踊る。 ふとすると他の踊り子が視線に被さってくるがアイスのしなやかな踊りだけに集中する。 隣の席で2人の女性を侍らせた老人が何かを叫びつつ盛り上がっている。 他の席でもそれぞれ…

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