十。お山に封じられてもの」上妻剛史はなぜ尸解仙を残すことができたのか?どんな意味があるのか?なぜ今なのか?様々な」疑問が渦巻いている。少し痴呆症の面影を残しながら弓指公代さんはある種の記憶はありありと思い出すようだった。「上妻?あの地蔵購の口寄せのことかいね。きれいな人だったなぁ。地蔵講もそりゃあ人気だったなぁ。わしも顔を出したことがあるが、差しさわりの無い話ばかりじゃった。あの人の容姿が人を集め...
言葉で描くみえないこころ。 縦横高さ、時間軸、いつか 見えてくるでしょうか? 拙いながらの一綴り、ジャンルは絵のように…詩や小説の創作物を載せています。 どうぞお気軽にお立ち寄りください。
かつて思想は地上にあって憎しみの岩場を水のように流れ欲望の雲を風のように過ぎ死の夜を星のように飾った今は知性を弄ぶ机上の論理と化し図書館の中にでも並んでいる一歩外に踏み出せば思想が息できるほど呼吸は深くない思想が根付くほど意志は強くない内なる火に従った預言者は 耳元でひとこと訊ねて歩む「お前は充分に強いか」憎しみの戦場は今も業火の中にあって欲望の濁流は知識の植林をなぎ払う死の壁にはいたずらに幻...
石畳の道はくねくねと松の並木を見上げて続く街は幻想の中にたち雨の道は煙っている間もなく雨は降る道の上に雨は降る 街の底に雨は降る僕の上に降る雨に僕は仮の宿を求め宿で請求を受けている昨日も今日も、明日も明後日も風の塊りが樫の体を叩いたお前は眠っているときみはキット旅の空ぼくもキット旅の空眠りに就いた現実を見る一生の映像を夢見ているあの古ぼけた映写機のあの遠いアルバムを石の坂はごつごつと桜やモミジの天...
ふたいろの惑星 四、umbra sartura(カゲヌイ)の草原ー2
カゲヌイの動きは緩慢だった。お互いにはまったく興味がなさそうに見えた。同じ波長で支配されているのか、一人の行動は全員の行動になっている。たぶんそれは名前が一つだけだからだろう。彼らは四体いても一つの名前、一つの人格なのだ。それぞれが捕獲したターゲットから名をいただくまでは。…ということはターゲットを見つければ彼らは同じような行動をとるということだ。「なあ、カナ。モノリスの数だけど、六列並んでいる...
ぼくの手がきみの手を引いて紫陽花の坂道をのぼるどこへ行くというよりも今を共有するために、ここそこと歩く少し濡れた梅雨の合間にそっと息づくのは紫陽花だけではない空に焦がれた露草、静かに佇むネジバナ風の息づかい、夏雲の吐息振り返っても過去はなく坂を見上げても先はなくただ広がる今の中にぼくらは息をつき空と海を見ていた空を吸い込んで夢を吐いたぼくの手はきみの手を引いて島へ続く橋を渡る二人の橋というよりも思...
頬打つ風の後先にうつろう季節の歌声はぼくを起こす風の歌町も季節も一緒になって命を乗せて過ぎてゆく見たまえ この時の爆風を目の前に今日が訪れるのは離れる岸を忘れないためあらゆる事物が足早に去るのは世界が虚しいほどの空っぽさゆえに風の歌は刷新を望み、無常の残り香を愛した地上のぬくもりの艶模様眼差しにこもる歌声はぼくを掘り起こす光の声地下に眠る種や根たち無心の魂に光は届く見たまえ この意識の発現を頭上に...
ふたいろの惑星 四、umbra sartura(カゲヌイ)の草原ー1
「逃げろ!」コウがカナの手を引っ張ってぐんぐん走り出す。「森に隠れるぞ!」まるで野生の獣のようだ。引っ張られたカナもまた先導する巧コウの脇を負けず劣らず走っている。すごい勢いだ。草原の草が後方へ飛んで行くと、森がぐんと二人に近づいてきた。走りながらカナは何度もコウを見た。三本重なった樹の陰に身を隠す。腰程もある草がこんもりと繁っていて丁度いい。一息ついて思い出すと急に震えがきた。あれは人間に似てい...
陽炎のように炎立つ現実は砂漠のように乾き不毛の砂が一面を覆い尽くしている生命溢れるオアシスは空中に消えたここは滑稽な収容惑星、誰もがウロボロスのように自分を喰らっている自分が夢見た快楽も、絶望も、恐怖も、憎しみも過去に、そして未来に今もこの惑星の隅々で起きているまるで惑星ソラリスのように人の夢見る天国と地獄をこの星は出現させる僕たちは永遠に傷ついた被害者で呪わしい加害者だ自らの尾を噛み、その痛みに...
楡の葉の鱗のようにひらめく下を行きて帰りて道は続く営みの振幅が心を振り切ろうとも独楽のような一日は回り続ける黄昏のランプは赤々と街を包み今日もまた日は落ちぬ表象の風の世界の右左何処より来りて、何処へと到る手の届く現実も時には底すら見えず得体も知れぬ不可思議さ筋肉の経験、また肌の印象よりも血流は心臓の寿命を縮めたモノクロのエピローグモノローグとダイアローグの昼と夜月の見下ろすタールの夜は一面の漆黒に...
人は商品のように流される手から手へ、檻から檻へあなたは何になりました堂々巡りもいいところでしょうそうやって働くのも税金を払うためなんです本当に封建政治も賢くなりました年貢が税金に変わるなんて税金もいつかは嗜好品に変わるでしょう抜け目なく、際限なく心理に寄り添って人生に意味を見つけるのですモノに意味を付加するのです人は商品のように廃棄される福祉国家などと言いますが言葉が化生して誤魔化すばかり本質では...
死の闇がぼくを包み込むその時こよなく愛したあたりまえの世界が地上に過ぎているように営みも生態も大気の頃もに包まれて揺りかごのように揺られている家路は遠い我が胸の中雲が口笛を吹いて空が笑っているその下ですべてのひとときが光に満ち輝いているように死の闇は世界をいっそう美しく染め上げる憎しみよりも強く 暴力よりも深く突き刺さる杭の底で夢見た明日は今日の空の下で別れを告げるただ一度に燃え盛り西方浄土に沈む...
墨絵の空に星もなくうねるような筆使い宇宙はさらに墨を吐き夜の底は排気炎夜を抜けて、夜へと至る昼の儚さ、淡き虹ぼくは夢を見ていたようなぼくは過去を追っていたような明かりはそこらにあるけれど今はどこぞと知れぬ場所ぼくは何処を走るのか何時から走っているのかすべてが歪む四次元時空妖しき虹は環をなしぼくは走るぐるぐると終わりなき時空連続体一つに連なった空の下をあぶくのようなビルの影黒く並んで勢揃い風切るカー...
白壁赤々と燃え急ぐ深く静かに忍び寄る森の息に、道走る遠吠え市庁舎前の広場の足早の人々アコーディオン弾きはもういない噴水の周りを走った子らはどこへ行ったもう… 花の色も数えられないほら! 聞こえる?バンシーが泣いているもう夜警の歌も聴こえてきたよいそいで家まで走ろうバンシーが飛び回るその前に家の玄関に飛び込もう追いかけられないうちに連れ去られないうちに見つかったら終わりだよ彼女は家にもやってくる闇を...
道の真ん中で想像する想像する時はいつも頭のスイッチを入れる誰かさんのようだねと きみはいったでもその誰かさんのことは知らない知っているのはせいぜい両手で数えられるくらいそこから先は想像なんだって…ときどき思い出す顔も人が呼び合う名前も想像だけだったら問題はないだからいっぱいを過ぎたら想像するきみは想像じゃない十一番目で覚えたきみはおじさんがいなくなったから十番目だ人はいなくなると想像になるぼくのキ...
ふたいろ惑星 三、Beyond reality(彼方に)- 2
墓は一基だけではなく何十とあった。…いや何百かもしれない。横並びに六列あって、その六列を基にして後ろに延々と続いている。その奥は見えない。凄い数だ。ここに住んでいた者たちが亡くなったのだろうか。いまは誰もいないのだろうか。見回してみても人影らしきものはない。右手には小高い丘が連なり、ブッシュはあるが大きな木の影はなく、左手にはあの奇妙な細い木が森をなしている。ちなみに背後には切り立つ崖と山々があ...
きみにはきみの生と死があり僕には僕の生と死がある会社には会社の、国には国の興亡がある陸には陸の 山には山の 惑星には惑星のはじまりと終わり 合成と分解 そして愛と孤独とがある愛を怖れるのは死ゆえに愛に執着するのもまた死ゆえに僕らは重力の揺りかごに揺られた立てない赤子歩けない老人気持ちだけが未来を走っている、いつか時間の渦に飛び込んでいく過去の祝祭の時間にあるいは呪われた時間に未来には老獪な死が待ち...
晴れ上がった空を歩いていこう明日に嵐が待っていようと先に道が失われていようとぼくはぼくの生と死と一体だ今日に生き、明日に死ぬその素晴らしい昼に踊りその素晴らしい夜に眠るぼくは野生の鳥風に乗って飛び、落下するように死す褥はこの大地、体は地球に返してしまおうぼくは名を変え、姿を変えてずっと旅してきた人間になる前も、その後も遠い時間を旅をする繰り返される同じ旅でもたぶん経験によって理解によってきっと違っ...
忍びよる目覚めの皮膚のその下でひときわ熱く心の臓は動いている無心に、ただ正直にここにある意識は日常と苦しくとも 虚しくとも自己と格闘しているのに道に立つ陽炎は夏の誘惑激しく 切なく短い時間に向かい合っている……のに幾多の挫折に行き詰まり落つる葉は焼ける思いに焼ける悔いに焼ける社会に焼き爛れ煙となって立ち昇るビルの上から見た世界靴音高く今日を踏むどこまでも…響きあって心ハ遠ク置キ去リノ河原ニ積ンダ石ノ...
ふたいろの惑星 三、Beyond reality(彼方に)- 1
「カナ、どうかした。今日変だよ。いつもの輝きがない。なんか元に戻った感じがするけどわたしの勘違い?」晴海にそう言われたのは登校時の挨拶を交わした後「えっ、いつもと変わりないよ」と言ってはみたものの、クラスでは美織に同じようなことを言われた。「あら、もう恋も終わり。まあ短い間だったわね。あたしはね…」話の続きを聞いていなかった。その日の朝は目覚めた時から変だった。身体は気味が悪いほどうつろで、生ぬ...
太陽のhornが白壁に反響し鳥達を東の空へと吹き飛ばす耳を澄ませば群衆のpercussion 車のtrumpet胸に響くは bass drum夕風に旗がひらめく下をビルのデッキからお前は地に降り立つ昼の船が西へ下る前に自分自身と共有するこのひととき耳に囁く evening song静かに醒めて美しく黄昏の街には光の矢が刺さっている見えぬ棘が疼いている血の流れる内側で盲目の瞳は闇をさ迷っているこの現実に光を探っている昼も夜も 寝ても醒めてもb...
「あら、今日はおひとり」ヒルダ夫人はにっこりと微笑んで現われた。伽奈子は意味もなくほっとする自分に驚いた。ここへ来ることには少なからず葛藤があった。晴海にナイショで来たこともそうだが、カラコンを外すことを決心したこともそのひとつ。ヒルダ夫人と直にありのままの姿で語りたいと思ったのだ。不思議なことにわたしの分身である巧も落ち着きがない。いや、これはわたしに落ち着きがないということか。「どうもいやだ...
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十。お山に封じられてもの」上妻剛史はなぜ尸解仙を残すことができたのか?どんな意味があるのか?なぜ今なのか?様々な」疑問が渦巻いている。少し痴呆症の面影を残しながら弓指公代さんはある種の記憶はありありと思い出すようだった。「上妻?あの地蔵購の口寄せのことかいね。きれいな人だったなぁ。地蔵講もそりゃあ人気だったなぁ。わしも顔を出したことがあるが、差しさわりの無い話ばかりじゃった。あの人の容姿が人を集め...
九、尸解仙になった少年 夏穂の前で地面に蠢いていた黒い影が立ち上がった。影は立ち上がって体をしならせて前後左右に動いている。死者だ。死者の群れが立ち上がった。夏穂は思った。そう思えた瞬間丹生川神社の社殿も庫裡も燃えている。また同じだ。あの時代に戻っている。振り返るといたるところで火の手が上がり燃えている・中で影が呻き叫び声を上げている。阿鼻叫喚というやつだ。どうしてみんな焼け死んでいるの?焼夷弾の...
八、丹生川神社に影が踊る その頃響鬼沢へ向かった夕夏と紗英4それに亮の三人は町から移ったお稲荷様の前にいた。「ここも響鬼沢だけど、ホントの響鬼沢ってもっと上流でしょ」「そう、川に石がごろごろあるの」「じゃあ石が響くかもね」亮が言った。「どういうこと?」「洪水の時とか大きな石が大量に転がるとかも考えられるよ」「洪水だなんて今は雨も降らないよ」「やっぱり夏穂が言ったように飛行隊の轟音かもしれない。シ...
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六.別世界の現実は?マンションの外は別世界だった。そこは古びた昭和の町か大正の町が脈々と鎮座していた。これって何?と振り返ると現代のマンションが建っている。そのちぐはぐさ、まるで映画のセットに迷い込んだような眩暈すら覚える。そんななか夏穂突き放したミタマが道に飛び降りた瞳が不思議な光を帯びている。見上げると月も同じように輝いている。コッチと聞こえた。ミタマが発しているのか。月の光を受けながら夏穂を...
五、庚申の塔は三尸の虫を封じたか「夏穂大丈夫?こんなことされて。一体誰がしたの?」夏穂を縛っていた紐が解かれた途端に夕夏が言った。「大丈夫ですか?」と少年が訊いてくる。ああ、夕夏が「彼が従兄。比古村享」と成り行きで紹介した。「まことです」と少年は繰り返し続けてこうつぶやいた。「危害を加えるつもりはなかったようですね」「危害を加えるつもりはないって、これって十分危害だよ。覚えていることない夏穂?」紗...
四、廃校は寂れた漆喰の匂いがする 夏穂は思いついたことを整理した。すると眠れなくなって、その場所に早くいかなければと朝を迎えていた。もっとも馬鹿な考えだ。親にも内緒にしておきたかった。そっと、そしてすばやく制服に着替え部屋を出た。マンションはまだ夜でエレベータには誰も乗り込んでこなかった。気づいたのは飼っている玉藻ぐらいだった。「ミャォ」と小さな声を上げてベッドに飛び乗ってきた。夏穂は顔を近づけ静...
三…炎の魔力が夏穂を呼ぶ 不謹慎にも、夏穂は火事を待っている。火は昔から人間のたましいを惹きつけて来た。動物にしだってそうかもしれない。火を怖れるということはそういうことだ。炎には不思議な魅力がある。特に、夜の炎は別格だ。何かを呼び寄せているように夏穂には見える。たとえば何だろう?夜の闇からさまよいだして来る何かである。今の夏穂にとっては記憶だろうか。それとも郷土史の幻惑だろうか。夏穂はこれ...
二、…よもやま話がやって来た 五月に入ってからというもの、ここ水尾出市では立て続けに三件のボヤ騒ぎと一件の全焼が起きた。水曜日のプラゴミ集積所から始まったそれは、翌週火曜日になると隣町の離れた燃えるゴミ集積所へと移り、そこかすぐ近くの車庫の自転車が黒焦げになり、ついには住宅の庭で炎があがった。段ボールなどが燃えていたらしいが、町民の不安をかき立てるに十分の効果があった。いつか家に火が、と誰もが案じ...
一、火事の尻尾はおいでおいでするこの町のお稲荷様は宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)を祀ったものなのだろうか?それとも、鬼夜叉のような吒枳尼天(だきにてん)を祀ったものなのだろうか? 暮林夏穂は誰かの張り付くような視線を感じていた。でも何だろう。この視線は空から感じるのだ。下校時になると特に感じる。最初は気の迷いとも思ったが、段々と視野の外で動く影のようなものを感じるようになった。「なに?なにかい...
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十八、イカロスいつもなら、森が見える場所のはずである。それなのに何も見えない。何も見えないというよりも、何もない。あるのは一面を覆い尽くす深い霧。その霧が晩秋の早朝のように道を覆い、森を覆い、その先の山を覆っている。「すげえ。霧のミルクだ」夏分にしてはいい表現だ。「何かの舌みたい」と羽流が続いたのをきっかけに、喩えが応酬した。雲の津波とか、霧の滝とか、アイスクリーム、カキ氷。そんなのはまだ好か...
十七、境界をめざして「ここの時間はもうすぐ繰り返される。明日になるということだ。ただ同じ明日でも何かが違って進行するだろう。新しい経験則が加えられたからな。しかし時間は変わらない。そして同じことが起こる。君達は捕まり、彼らは帰った。そしてここに、我々の時間則にいない君達がやってきた。そういう意味では君達も異星人だ。いいか、ここは君達が知らないだけの記憶のひとときだ。未練を残すことはない。ここに...
十六、思考の冒険 ひどくまじめな顔でルウの話を聞き終えたレニエさんは、一気にコーヒーを飲み干した。「人間に心があるように、時間にも心がある。この地球にも心がある。そう。地球空洞説の復活だ。古代の秘儀の復活だ。造物主デーミウルゴスはいつも失敗する。悪魔に転じた大天使は身を切る告発者だ。人が彼に惹かれる理由もそこにある。この世界は失敗作だ。…どうした、驚かんのかね」レニエさんの変貌に驚きはしたが、こ...
15、天文台のレニエさん 琉有たちは天文台の入口に着いた。「こんにちは。礼爾枝さん。礼爾枝さん」ガチャっと開いたドアから思いがけず一人の少年が出てきた。同い年ぐらいだろうか。「何か用?」そう言いながら少年は首を少し傾け、逡巡した後に訊いてきた。「君、もしかして琉有くん」「どうして?…」琉有は見知らぬ少年を前にして少し後ずさった。「輝はいないの?」少年は傾げた首を伸ばして夏分や羽琉を見る。...
十四、もう一人いる?自分たちの記憶の時間と思っていたのに、ここでも奇妙なことばかり。妹はどうしただろう?まさか両親と共に奴らに捕まった訳じゃあないだろうな?繰り返すと佐伯さんは言うけど、今度はいつ、どんなふうに繰り返されるのだろう?ここに住むことはできるのだろうか?いつかこの町も元に戻ることができるのだろうか?色々な思いが輝の中を去来してゆく。ここにいると青い宇宙の方が夢の出来事に思えてくる。それ...
十三、パパルウは地上に降り立って以来、ずっと推理していた。カブの叫び声がすべてを変えてしまうまでは。「UFOだ」カブが空を指差して叫んだとき、一緒に群れていた人々の動きが止まった。振り返った群衆の冷たい無表情な眼が五人に突き刺さる。その中に奴らもいた。「おまえら。捕まってなかったのか」響はゆっくりと近づく。獲物を狩る野生動物のような視線がじっと五人に注がれている。響は右手を上げると唇に笑みを浮かべ...
13、加速器の太陽と時間のピース「そうか。青い鳥か。」ルウが太陽を指差して言った。「あの太陽。あれこそがガルーダだ。見ろよ。三つの光が色を変え、三つの∞を描いている。ツトラウスの言っていた通り、一つの∞は対の羽だ。この青い宇宙の、生きているように見える青い光は、きっと時間の空なんだ。」「あの太陽がガルーダ?」誰かに何かを訊きただしたいような。忘れていることを自分に問いただしたいような。治まる場所の...
「違ーう。そうじゃない。選択するということは選択しないということだ。つねに表裏一体。選択することは最も単純で最も高度な賭けなんだ。」「じゃあどうすれば…」何度目のことだったろう。祖父はヴィルを叱りつけた。「分からんのか。賭けは人生と同じだ。選択することで勝ち取ってゆく。そんなことじゃあ負け続けることになるぞ。」そんなことは分かっている。これまでずっと負け続けて来たんだ。何を選んでも、どう選んでも負...
私は息を切らして坂道を駆け上がると、最後の石段の前で立ち止まり一息ついた。石段を上り切れば天神様がある。天神様の屋根の部分がここからでも見えた。歌声からするとてっきり子供たちがいるものと思って駆けてきたのだが、石段の下から見上げる境内に人の気配はないようだ。ということはもつとお堂の近くで遊んでいるのか?私は呼吸を整え歌に耳を澄ました。すると…歌はまだ続いていた。続いてはいたがそれは実に奇妙な感じ...
私が生まれた町には数多くの天神様があった。と言っても実際に数えたことはなかったし、理由は?…わからない。これまで気にしたこともなかった。後になって知ったことだが、私が生まれた年に神隠しがあった。これはだいぶ有名な話で、地方にも関わらず当時は全国的に注目されたという。それでも私が十三歳になるまで知らなかったのは誰もが口を閉ざしてその事を口にしなかったからだ。町を上げて負の出来事を封印した理由はこの町...
栞ちゃんは柵のところで止まりました。校庭を指さして見てといいます。「あの子達を見て」年齢も性別もいろんな子供たちがたくさん校庭にいました。ほんとうにたくさんの…「ダメっ」栞ちゃんは私の手を取ります。何が起きたか分からないまま、私は手を引かれ階段を駆け降りました。「どうしたの」私は聞かざるを得ませんでした。「言葉が生まれようとしてる。生まれたら呪われる。自分自身に」栞ちゃんはすまし声でそう言います。...
秋になると紅葉した葉が散りはじめ空が広くなってくる。ここビルの多い街でも街路樹などが透け、ちょっとだけ空が広くなっているのに気づきます。そして空が背伸びをするように高く、成層圏に手が届くようになった頃のこと。そう。大宇宙が地球の地表に近づいてきたとき、ちょうど晩秋になりかけた頃のことです。濡れた地面や水溜まりに薄氷が張るようになったある日。見上げると空に大きな丸い何かが張り付いているのです。その...
更新が絶えて早や二か月である一日がこんなにも早く過ぎ去っているなんてと驚嘆する母が緊急車両に運ばれてちょうど二か月仕事を休みながら行ったり来たりするすべてが年老いてゆく残るものは残骸 「夢の島」だ残骸だけは日々生まれ置き去りになり山を高くする今日もまた置き去り…穏やかに続けと願う 日暮れの記風に揺れたるユキヤナギ、紅の蕾のハナカイドウ、ひらりひらりとユスラウメ、レンギョウは目の覚めるような黄色で...
いた!けど、なんだ。あれが魔王だと。それは姿形というものではなかった。圧倒的な負の雲というべき形のない何かだった。モレールは神の及ばぬ影といい、リシェルは金剛十種の帯といった。誰も巻いたことのない世界王者の帯ということらしい。どっちにしろヴィルにとっては想定内のことだった。「あなたの力は絶対だ。それは誰もが知るところ。でもそれではゲームにならない。それも誰もが知るところ。ゲームは常に50:50だ。...
三人は綿密に計画をたてたはずだった。ボーイスカウトで身支度をしてもろもろ準備をした。モレールは『魔術大全』に聖書、ロザリオに肝心な十字架など、悪魔と対峙したときに必要と思われるものをかき集め、リシェルはヌンチャクに偃月刀、三節棍などを陰陽図を刺繡した巾着バックに詰め込んだ。ヴィルは山岳道具一式とクライミングシューズにハーネス、カラビナ・スリング・確保器などを準備する。それとリシェルに言われた電池...
「ダ―マン家ではな。十二時を過ぎると悪魔の時間なんだ。夜半の街へ行けば分かるだろう狂乱と犯罪が増えてる。目が覚めてたらお祈りをつづることになってる。」「あっ、そ。けどね、いつの時代もゆく手には壁があるの。社会の、年齢の、仕事の、性もそう。現実は悪魔よりも広汎性があって、悪意すらある。わかんないの。」「へえ、言うじゃない。日中は誰もがそれぞれの歯車を規則正しく動かしてる。小さな自由を夜に行使しても...
その日の深夜のこと。ヴィルは突如目が覚めた。耳鳴りの中、部屋の壁が細かに振動している。いや、そうではない。自分の視覚がおかしいのだ。身体がおかしいのだ。淀んで腐った水に漂うボウフラ。そんな気分になった。足元がふらふらする。酒を飲みすぎた親父が、廊下で大きな音を立てるのを思い出した。トイレへもまともに行けない親父。ヴィルは震える自分の足に笑みを浮かべ、窓際に近づいた。新鮮な空気を入れなくては。窓に...
『怠け者はぜったいに魔術師にはなれない。魔術はすべての時間、すべての瞬間にまたがる修練である。快楽の誘惑、食欲、そして眠気にも打ち克てることが。立身出世にたいしてだけでなく、低い身分にたいしても平気でいられることが必要である。その暮らしは、一つの理念によって導かれ自然全体によってかしずかれる一つの意志の現れでなければならない。そのためには先ず五官を精神に従属させ、五官と照応する宇宙の諸力の中にお...
僕たちは頭も感情も混乱していた。恐怖とも違う。逃げ出したいとも違う。モレールとリシェルの姿に自分の中で何かが目覚めた。気づくと飛び出していた。カンテラを振り回してハクスリー先生に突っ込んだ。モレールの手から魔術大全を奪い取るとカンテラの傘を外し火を点けた。「何を!」モレールは驚いて叫んだ。お構いなしに火を点けた。古い本はすぐに燃え出すと、炎が辺りを照らし出した。リシェルが全身を黒く染め数体の彼らと...
その時刻、ベンダー湖の東岸に一台のセダンが止まった。湖の北側には夕日を浴びた森が続き、南側の街道沿いに街が続いている。ミルズ校は湖の反対側、岸から五百メートルほど行ったところにあった。「なあベティ。これからどうする?ドライブが終わってもうしまいか?食事でもしないか?モーテルの脇にダイナーがあるだろう。あそこのイタリア料理は絶品だ!そしてさ…」「そして何?モーテルでわたしのフルコースでもいただく?」...
金属は錆びるが、木造は朽ちていく。時代と無数の虫に喰い荒らされていく。まるで腐敗臭を放って腐っていくようにも見える。本当であれば木は死んでも生きている。地中で炭鉱にもなるし、壁も柱も呼吸している。人間のように老いると愚痴も言うし、老骨を鞭打って悲鳴も上げる。昔気質の祖父はよく言っていた。そんな悲鳴が上がる階段を暗い方へ暗い方へと下っていた。懺悔室にはいかないのか?と訊くと、まずは石膏像がしまい込...
《…過ぎ去る夏の足音が、ときにタップのように踊りだした後、そろりと忍び寄る猫のような毛並みと共に秋は忍び寄り、秋と共に見たこともない妖艶な女性の教師が赴任してきた。妖艶とはなんだろうといつも考えたが、よくわからない。そのわからないあたりが妖艶なのだ。以前悪童で名が知れ渡っていたリザリーが親父の「playboy」を持ってきたことがあったが、女性たちは妖艶とは似ても似つかないもので、もちろん自分にとってはだが...
オールド・ミルズ校は百年の歴史を壁や柱や床に、あるいはその外観を見ただけでも古き良き時代のモダンさを骨董色の肌に染み込ませ、開拓者たちの息吹き、その気骨を受け継ぎ、柱一本一本に鞭打って今日も町の外れに建っていた。しかし、そう思えるのは良き学生時代を過ごした者の贔屓といってもいい。制度に翻弄され、差別と懲罰の地雷に触れた者、あるいは、教師の行使する権力の独裁とに踏みにじられた者からすれば、特に後者...
雪明かり 冬の日暮れの 路地便り 冷たき風の 耳裏の音空高く 成層の青 開け見る いつかのわたしの 無心の空を空気裂く バイクの爆音 受け止めて 夜へと返す 雪壁の道...
くわえ煙草のアンニュイな朝はどっちもこっちも にっちもさっちも沈んだ気分は深海魚今日という日はすでにあった過去のようで経験し終えた情報のようで通信手段の量子化は経済活動をしり目に新たな神を見せている猥雑さは想像力の翼を萎えさせるそして経済活動は貧弱な幸福感を餌にして一生の大半を牛耳っているそんな世界に馴れ合うこともできず自己満足と倫理が混合し合った善の押し売りに辟易し言葉の端々にぶら下がる自己責任...