chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
arrow_drop_down
  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その24

    ネタバレします。 【第90回 孫行者 岩窟院を脱れ 丘秀才 金蚕蠱を調う】 岩窟院堂守が百花羞を襲い石方相がこれを追い払う。 小柄な堂守はするりと岩窟の穴に入り込んだが大男の石方相はその穴から入るのはできず馬鹿力で穴を壊し始めた。 中では一升金を抱えた黄袍が悟空と玄奘を追い詰めている。 そして入り込んできた堂守にまたも楽慧の亡霊が「法楽さまは」ととりついた。しかも「参詣人を殺していたのはおまえだろう。おまえが法楽さまを」 石方相は岩窟をこじ開けてしまうがその反動で自分自身が上から落ちてしまう。 一升金が抜け出したその瞬間黄袍は弓矢を発する紐を引く。 悟空は玄奘とともに外へ飛んだがそこは流沙だっ…

  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その23

    巫蠱の章 ネタバレします。 【第86回 瓜州に至りて強風 更に吹き 玉門を前に法師 心乱る】 瓜州に向かう玄奘と悟空は強風に吹かれる。 通臂公は駱駝の壺に入って移動してきた。 巫蠱使いの男と出会い旅を共にする。 瓜州の寺で玄奘は高僧に「どうしても西域へ行きたい」と願い出る。 禁忌である出国については何もわからないと困惑する僧たちだが玄奘のために一案を呈した。 寺の裏に住む毛さんは去年まで玉門関の守備をしていたから何か知っているかもしれないと教えられる。 玄奘と悟空はすぐに毛さんを訪ねて西域への道を訊いた。 国境の関門が玉門関となる。 その先の砂漠には百里おきに烽台が五つあるという。その先は莫賀…

  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その22

    ネタバレします。 【第83回 両雄 空材に戦い 孤僧 巫蠱を破る】 火井鎮では婆の占いが当たった。禍がやってきたと騒ぎになる。 昼間から大トカゲが徘徊し人々は逃げ惑った。 一升金はその様子を見て析易居士は三流だと罵る。 八戒はうっかり寝込んでしまい目覚めると一升金がいないので鎮火石と刻まれた大岩の下を掘り返した。 悟空はぐったりと寝込んでいる玄奘を連れとりあえず火井鎮に行こうとして羅刹女の手下どもに襲われ逆に叩きのめす。 玄奘を馬に乗せ火井鎮へ向かう。 が、村は静まり返り婆巫師の弟子が殺されていた。 さらにいつかの仮面の男がのし歩いている。 そして玄奘の顔をした蜥蜴が「私は死ぬよ。天竺へは行け…

  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その21

    火井鎮の章 ネタバレします。 【第78回 陰風 凄々として砂漠を吹き 聖僧 促々として荒野を過ぐ】 こうしてシン・羅刹女は悟空そして玄奘と出会う。 羅刹女は悟空が気に入ったらしく突如襲いかかりそして去っていく。 西域を目指し八戒は駱駝に乗って旅を続ける。早く帰りたいのだが。 これまで人に敗ける気がしなかった恵岸行者が黄袍の飛抓に襲われ傷を負う。 (まあこの後の布石だからなんだけど) 八戒の一行に一升金が合流。 一升金「玄奘がいる」と聞いて覗き込むと八戒だったのでがっかりする。 紅孩児は羅刹女と行動を共にする。 恵岸を助けたのは百花羞だった。 石方相はここでも愚痴を言っている。 玄奘、悟空は岩の…

  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その20

    【第74回 真の聖僧 水滸に宿を借り 仮の玄奘 甘州に言をもて弄す】 冒頭、玄奘と悟空が言い争いをする。 珍しいなと思っていたらこれは布石であった。だろうて。 しかしこの後さらに珍しいとは言えないほどの怖ろしい事件が起こる。 一見普通の農民に思えた通りすがりの男女からいきなり襲われてしまうのだ。 突然小刀で斬りつけてきた男を悟空は叩きのめす。 が恐ろしいのはその直後鎌を振り上げた女の姿だった。 悟空は迷うことなく女を叩き殺す。 玄奘は「なにも殺さずとも」と小言をいう。 これに悟空も言い返した。 やむなくふたりが歩を進めようとすると前方に女児が牛に乗っているのに出会う。 女児は悟空が人を殺したの…

  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その19

    ネタバレします。 【第71回 百年の仙根 まさに絶えんとし 連理の霊樹 永に生きんとす】 旅を続ける玄奘・悟空一行は砂漠を行くとたちまち砂嵐に包まれてしまう。 その行く手にも扶桑夫人の胞子が化けた植物が生えていたがすでにすっかり枯れ切っていた。 悟空は八戒が今も人参果を持っていると指摘する。 持っていないと言い張る八戒を悟空は脅して白状させた。 玄奘は八戒を叱って去ろうとするが悟空は「これは行きながら草にされた赤ん坊だ」と玄奘を引き留める。 木の根元に埋めるから念仏を唱えてくれと伝える。 悟空は気配を感じていた。 そして人参果を埋めながら「おまえたち、少しでも怨念のようなものがあるのならおれの…

  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その18

    ネタバレします。 【第67回 方相 市を鬧がして蛮力を誇り 李靖 花を摘まんと鸚鵡を贈る】 狼頭堡で玄奘を捜しまわる悟空は百花羞を見かけその家を訪ねる。 そこに悟能がおりさらに百花羞目当てに来た李靖とお嬢様を守ろうとする石方相が入り乱れて大騒ぎとなる。 【第68回 同君 畫より出でて車輪を飛ばし 両雄 大いに狼頭堡を鬧ず】 李靖将軍、弼馬温=悟空に腹立ちが収まらないが突厥が竜牙堡のすぐ近くまで来ているとの報せを受け出兵することになる。 待機する部下に弼馬温捜索を命じた。 道整は忙しい車屋の女将に子守を頼まれおんぶすることになってしまう。 そんな道整に声をかけたのが悟空だった。 悟空はついに玄奘…

  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その17

    ネタバレします。 【第64回 五荘観に唐僧 人参を届け 霊芝谷に悟空 嬰児を拾う】 狼に襲われた玄奘を救った道教の師らは玄奘を五荘観という道観に連れて行く。 与世同君という人物の棲み処だという。 道教の師らは玄奘に届けていただきたいものがある、と言って籠にはいった包みを渡した。玄奘は馬を引きひとりでその道観に向かう。 「主人が留守だから」と一旦断られてしまった玄奘だが「凌虚子殿から包みを預かっているのですが」と言うとその門は開けられた。 主人の代わりのその人物は第一弟子の陰砒生と名乗った。 中に入り事情を説明した玄奘の目の前で包みが明けられるとそこから赤ん坊のようなものが転がり出た。 「人参果…

  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その16

    ネタバレします。 【第60回 黄風の中 大王刀を振るい 砂塵の内 悟空 谷を走る】 これまでと違う悟空。 明確に自分がどうするべきかを考えながら戦い始める。 旅芸人たちは逃げ出す。 玄奘もその中にいる。 しかし黄風大王は旅芸人たちを見逃したわけではなく殺す手段を取っていた。 それに気づいた二娘たちは一行を止める。 大王の手下たちに追われ散り散りに逃げる。 玄奘の行く先には紅孩児がいた。 しかしここでも現れる恵岸行者。 そして悟空の乗る馬が阻まれ悟空は振り落とされる。 【第61回 唐僧を護りて行者 鬼を放ち 大聖を念じて悟空 棒を振るう】 落馬した悟空だが信念は揺るがない。 その時、紅孩児と争っ…

  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その15

    ネタバレします。 【第59回 驕りて城門にいのちを落とし 黄風 死児を冥婚させんとす】 李都督は野盗ふぜいが涼州を襲ったことに苛立つ。 黄袍は負傷していたが牢から救い出された小旋風が門を出る寸前、手下どもの目が離れた隙を狙い殺してしまう。 大王の息子の死に驚く手下どもに聞こえるよう「小旋風を殺したのは弼馬温だ」と言い放った。 傷を負わせられた黄袍の小さな復讐だった。 大王の息子小旋風が殺されたとなっては大王に会うことも出来ないと右旋風は馬を駆り涼州へと向かった。 ところがそこに突如として李勣が現れ右旋風は倒されてしまう。 右旋風の口から「弼馬温」という言葉を李勣は聞いた。 天竺楼の遊女たちは黄…

  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その14

    ネタバレします。 【第57回 通臂 術を弄して玉女を招き 細作 薬を売りて悟空を誘う】 恵岸行者そして黄袍が暗躍する中で悟空は旅芸人一行から抜け出した。 恵岸行者は通臂公の行き先を見つけ通臂公はそこで玉女降臨の術を披露する。 そして李都督は玉女を招こうとしていた李軌の亡霊を見る。 が、恵岸が観音経を唱えたために玉女は壺に収められてしまい李軌の亡霊も去っていく。 翌朝李都督は「あの鼎をどこかに放り出してこい」と命じる。 悟空が割ったはずの鼎は何故か元通りになっており巨大な鼎をどうするか下男たちは骨董屋に売って小遣いにしようとする。 玄奘は法師に促され出立を決意する。 が、悟能の姿が見えずやむなく…

  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その13

    ネタバレします。 【第54回 黄風大王 疊ねて道を遮り 河西回廊 なお路険し】 通臂公は悟能におぶさり玄奘と旅を続ける。 通臂公は黄風大王の一味を見つけ危険を知らせるが玄奘の天竺行きの決意は揺るがない。 悟空、二娘を加えた旅芸人一行も悟空の護衛で進み続けた。 黄砂が晴れ烏鞘嶺を越えると道はいよいよ祁連山脈とゴビ(砂漠)(ゴビって砂漠って意味なんだよね)に挟まれた細長い地帯に入る。これが涼州から甘州、粛州を通って西域に通じる河西回廊である。 (この地図はウェブ上で拾ったもの。本作に収録されてはおらず) 河西回廊と聞いただけでわくわくするのは何故。 沙州(敦煌)わくわく。 そしてその先は西域となる…

  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その12

    いっかーん。褚悟能の画像になってしまったよお。おんおん。 ネタバレします。 【第50回 蘭州城に八戒 三蔵を欺き 観音院に老僧 痴態を尽くす】 八戒こと褚悟能はいまだ追われる身。蘭州に入りたくとも入れない。どうした者かと思案しているところへ玄奘がやってきたのを見てうまく丸め込んでしまおうと考える。 玄奘に話しかけると真面目な彼は同じ志を持つ人だと勘違いして同行する。 頓珍漢なやり取りが続く。 が、悟能は玄奘にくっついてなんとか役人を騙して蘭州の門を通ってしまう。 玄奘が離れた隙に胸から紫金鈴を取り出し振ってみる。 が、音もしない不良品だとすぐにしまった。 しかし紫金鈴の効果は絶大だった。少し振…

  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その11

    観音院の章 ネタバレします。 【第47回 衆を欺いて八戒 閨房に忍び 盗を追って悟空 三蔵に遇う】 盤糸嶺では黄袍が枯れた樹木に突き刺しになり顔を烏に啄まれていた九頭駙馬を見届けていた。 また黄袍は笠を深くかぶった行者を見る。 不意にその笠を奪ったが見知らぬ男であった。 二娘は乾草を積んだ車をロバに引かせていた。 乾草の中には悟空が眠っている。 道中で検問をしている男たちがいた。男たちが乾草に槍を突き刺し調べようとするとどこからか蜜蜂が飛んできて男たちを襲った。 二娘は大急ぎで逃げ出し、蜜娘にお礼をつぶやく。 蜜娘はもう悟空のことは諦めていた。 蜻娘と共に去っていく。 一方、蠦娘に置き去りにさ…

  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その10

    ネタバレします。 【第43回 盤糸洞に怪虫 群れ集い 千花洞に悟空 難に遭う】 蜢娘が矢に倒れ洞の中では年長の螞娘が一番幼い蜻娘を守ろうとしていた。 蜢娘の周囲には彼女の虫であるウシバエがたかっていた。 百眼道人に従う農民たちは次々と洞の中に入ろうとする。 その頃悟空は突厥と戦っていた。その悟空を守るように蝗が動き悟空は突厥を倒していく。 いつしか悟空は蝗婆婆がいる千花洞に入っていた。 蝗婆婆は毘藍婆菩薩を悟空に見せた。 その後に通臂公も現れた。 蝗婆婆は語りだす。 この世の中はいつも同じで権力者は互いに殺し合い弱い者から搾り取る。 そんな世の中に嫌気がさした私は仙道を修めようと決心した。そし…

  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その9

    ネタバレします。 【飛蝗ふたたび興りて 山沢に群れ 道人ひとたび説いて 村民を動かす】 究極のイナゴ「平天蝗」は飛び出した後、悟空の胸に留まる。 そこへ蜜娘が悟空を夜這いに来たのであった。 悟空の胸に留まったイナゴを追い払いキスしようとしているところを蜡娘によって二郎と間違われ逆にキスされてしまう。 さらに別の娘たちも悟空の部屋に入り込んできて大騒ぎとなる。 これを蝗婆婆が怒って静めてしまう。 この間に平天蝗は外へと出てしまった。 悟空は騒ぎを逃れ年長の螞娘の部屋に入っていた。 彼女が戻ってくると悟空は「なぜ蝗婆婆が恐ろしい飛蝗を作る事に熱中しているかを問う。 しかしそれは螞娘の知らぬことであ…

  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その8

    盤糸嶺の章 ネタバレします。 【第37回 皇帝と称すといえども 身に仁なく 民を救わんとせば 義守り難し】 明けて貞観元年、この年の冬突厥の地には大雪が降りたくさんの家畜が死ぬ。 人々は飢え長城を越えて村々を襲った。 冬が過ぎても中国全土を干ばつが襲い多くの人々が飢えたのであった。 さてその中国全土でいまだ唐に平定されていない者がひとり残っておりそれが夏州の梁師都であった。 とはいえその梁師都も突厥の支援を受けてかろうじて持ちこたえている状態だったのだ。 李世民はこの梁師都を一日も早く降すようにと望んでいた。 ところがここに悟空は関わってくるのである。 どうやら何かの恩を受けて悟空はしばらく梁…

  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その7

    【第30回 厩に逃れて弼馬に見え 観を尋ねて 異人に遇う】 玄奘は天竺行きたさに宮城を勝手に歩き回り皇帝に会いたいと願うのだがこれはあまりにも無謀であった。 どういうことか、紅孩児と地湧夫人が悪だくみをしている場面に遭遇し話を聞いてしまう。 物音をたててしまった玄奘は逃げ出すが紅孩児は「殺せ」と叫ぶ。 玄奘が逃げ込んだのは悟空が捕らえられている厩であった。 思わず経を唱えるとその声は幻影に苦しむ悟空を再び救うことになる。 紅孩児と地湧夫人が追ってきた。 悟空が玄奘を匿う。 地湧夫人が悟空に気づき近寄ってくる。 が、紅孩児が「馬丁だ」と呼びかけふたりは逃げていく。 悟空は玄奘に声をかけ「城外の落…

  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その6

    ネタバレします。 【第27回 六健将 深更に井を潜り 三太子 地底に剣を振るう】 悟空はじめ紅孩児とその仲間はいよいよ宮城へと入り込む。 井戸を降り横穴を通り地下道を抜けて森羅殿へと到着する。 龍と思っていたのは鰐だと気づく。 悟空はこの中に入るとどうしても頭が痛くなる。 そんな彼らに近づいてきたのは三太子の哪吒だった。皆はおかしな子供だと思ったが悟空は怖れる。 如意真仙は宝に目がくらむ。 悟空はそこにある立像にも恐れをなして暴れた。 哪吒は巨霊神を呼び悟空を襲わせた。 が、ここに六耳が現れ悟空を守る。 その隙に雲裏霧は悟空の手を引き逃げ出す。 紅孩児は先を急いだ。 その後に続いたのは生き延び…

  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その5

    ネタバレします。 【第23回 李元吉 牢城に首を検め 李世勣 悟空を押送す】 李世勣によって捕らえられた悟空は李元吉に詰問を受けるが答えず、厳重に押送車に乗せられ長安へ向かうことになる。 李世勣は一足早く長安へ急ぎ悟空の護送はその後に続いた。 これを襲ったのが紅孩児であった。 さらに猿たちが金箍棒を取り返してくれた。 長安に到着した玄奘は大覚寺へと進む。 【第24回 落胎観に六健 聚義し 大覚寺に三蔵 聴講す】 悟空は紅孩児ら劉黒闥の残党に助けられ長安の郊外に潜んだ。 そこは紅孩児の叔父如意真仙の道観だった。 悟空は紅孩児の仲間、雲裏霧に連れられ長安の町中を歩く。 そして悟空は皇帝に献上される…

  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その4

    ネタバレします。 【第16回 竜女 環を投げて少年を援け 悟空 賊を殺して学僧を救う】 竜児女はもう斉天玄女の力をすっかり失っていた。 銀角に追い込まれ逃げる術もない。 ついに投げ網によって捕獲されてしまう。 平頂山では唐軍と山賊の戦いが始まっている。 金角大王が立ちはだかっていた。 銀角によって手籠めにされそうになった竜児女だが唐軍の襲撃で危うくも助かる。竜児女は捕らわれながらも悟空を救おうとしていた。 悟空の目の前に竜児女の銀箍棒が現れ悟空はそれを武器として山賊相手に戦う。 そして捕らわれていた玄奘を救った。 【第17回 竜児女 心迷いて魔を忘れ 孫大聖 新珍鉄を得る】 力を失ったとはいえ…

  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その3

    ネタバレします。 【第11回 仙境に処女 天意を図り 村裏に凶徒 良民を虐ぐ】 この部分も微妙に描きかえられている。 通臂公によって竜児女がどんな修行をしてきたかが語られる。 竜児女は悟空が力を持った時に得られる金箍棒を見せる。それは岩から生えているようで今の悟空の力では抜くことができない。 竜児女が持つのは銀箍棒でありそれも彼女が力を持った時に得られたのだ。 しかし悟空は斉天大聖などただの妖怪であり人々や野人までも見境なく食ってしまったと疑問を持っていた。 反抗する悟空の前に岩壁の斉天大聖が「悟空」と呼ばわった。 悟空は脅威を感じる。 白雲洞の中には外国のものらしい読めない文字も書かれていた…

  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その2

    【第6回 処刑場に鬼哭啾啾 黄河上に悟空大いに怒る】 断頭坡で野ざらしになっていた白骨たちは恨みの声を上げた。 「大聖、おれたちの怨みを晴らしてくれ」 しかし悟空には自分がなにものかすらよくわからなくなっていたのだ。 そこに通りかかったのが旅の僧、玄奘だった。荊州から来て長安へ帰るところであった。 玄奘は白骨たちにお経を唱えさらに檻の中で横たわっている悟空が心を取り戻せるよう祈ったのだった。 すると今までどうしても思い出せなかった悟空が自分の名前を思い出したのだ。 悟空は別の道へ進んでいく玄奘を見送った。 やがて一行は黄河をさかのぼる船に乗り込んだ。 すでに別の一行がいたが彼らは劉黒闥の一味、…

  • 『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その1

    いつも単行本の横に発表および発行年月日などを記しているのですがこの作品に関してはかなり複雑で修正加筆さらに中断そして掲載誌も様々に移り変わるなど煩雑すぎるので省略することにします。 本作は双葉社『月刊スーパーアクション」にて1983年から始まった作品であります。 私は画像右上の双葉社発行の第一巻1984年第2刷から数冊持っているのですがこれが中断されているうえに「大唐篇」として大幅な加筆修正が成されているとされていて頭を抱えました。これでは今不足している巻を買い足しても意味がない・・・。 しょうがないのでもうやむなく『大唐篇』デジタル版を購入し手持ちの双葉社版と読み比べながら進めることにします…

  • 『妖怪ハンター 稗田の生徒たち』諸星大二郎

    2014年2月「ヤングジャンプ・コミックスウルトラ」 「美加と境界の神」が読みたく文庫本を購入しました。 が、文庫本は目がつらい。 やむなくデジタル版も購入。ううう。 ネタバレします。 「美加と境界の神」2009年8月号「ウルトラジャンプ」 天木兄妹の美加が登場。 携帯に四方口村にある不思議な大きな藁人形の画像を入れそれを探している。 同じく四方口村で亡くなった姉の謎を解き明かしにきた木戸健人と出会い道連れとなる。 この作品で驚きだったのは「両墓制」だった。 遺体を実際に埋める「埋め墓」「捨て墓」と呼ばれるものと別にお参りするために作られた墓がある、というのだ。 この場合埋め墓捨て墓のほうは土…

  • 『闇の鶯』「それは時には少女となりて」「書き損じのある妖怪絵巻」 諸星大二郎

    2009年4月「KCデラックス」 wiki記載で記事を進行しようとしてやや困惑する事態が発生しました。「妖怪ハンターシリーズ」の中にこの単行本が記載されていなかったのです。 が、「妖怪ハンター」リンク先のエピソード一覧の下に単行本の記載がありそこにはちゃんと記されていました。 ううむ。全部目を通さなかったために起きた困惑でした。いかんいかん。 (個人的事件でなんのことかよくわからない説明となりました) ネタバレします。 「それは時には少女となりて」2004年9月号「アフタヌーン」 大島&渚シリーズ。 大島君が海から来た裸の少女に魅入られてしまう。 海岸にある防塁の向こう側に見知らぬ少女が顔だけ…

  • 『稗田のモノ語り 魔障ヶ岳』〈妖怪ハンター〉諸星大二郎 その3

    ネタバレします。 三章「苧環の男」2004年9月号「メフィスト」 「魔障ヶ岳」で”モノ”を見た四人のひとり岩淵翔子の場合は「神上嵩」であった。 苧環伝説そしてさらに箸墓伝説を重ねるように翔子は神上と自分の関係をそられに模してしまう。 神はその正体を知られた時に姿を消し、女は自殺してしまう、稗田礼二郎はそれを危惧して翔子の後を追う。 果たして神上嵩は消えてしまった。 翔子はそんなはずはない。彼の赤ちゃんがいるのだからと腹部を抑え、そして去っていく。 四章「名を付けなかった男」2005年1月号「メフィスト」 そして「魔障ヶ岳」の”モノ”に名を付けなかったのが稗田礼二郎である。 他の三人はそれぞれ”…

  • 『稗田のモノ語り 魔障ヶ岳』〈妖怪ハンター〉諸星大二郎 その2

    なぜかwiki記載の章と本記載の章が異なるので詳細な年月日は省略します。 本にする前加筆されているのでそのせいでしょうか。 ネタバレします。 一章「魔に遭った男」 奈良県三輪山で遺跡発掘が行われていた。 主導者の赤井高信助教授は遺跡が三世紀は下るまいと判断していた。 記者はドンピシャで発掘場所を当てた赤井に「新たなる神の手と呼ばれているそうですが」と話しかける。 ここに出てきた「神の手」(発掘における)は記憶している人もいるだろう。 2000年に起きた「旧石器捏造事件」だ。 本作の赤井助教授はそんな事件を思いわせるほどの発見を次々に実現していた、と描かれている。 しかし発掘を手伝う人々からは「…

  • 『稗田のモノ語り 魔障ヶ岳』〈妖怪ハンター〉諸星大二郎 その1

    2005年11月「KCデラックス」 1974年から始まったこのシリーズが30年の時を経て描かれます。 他の作者作品の多くが最初は緻密でアクティブなのに段々と投げやりになっていく感がありますが本シリーズはクオリティが落ちないどころかより複雑に活動的になっていくようです。 ネタバレします。 序章「魔障ヶ岳」2003年5月号「メフィスト」 稗田礼二郎は美しい和服女性と話をする。 年かさの上品な佇まいだ。 その女性が言う「この子に良い名前をつけてあげたい」と。 その女性は前作『六福神』「淵の女」で登場している。 本作では稗田が赤井と共に御霊山山系の入り口姥ヶ峠で見かけたとなっている。 (どういうことな…

  • 『六福神』〈妖怪ハンター〉諸星大二郎

    1998年12月「ヤングジャンプ・コミックスウルトラ」 稗田礼二郎のフィールド・ノートより ネタバレします。 「産女の来る夜」1994年8月号「月刊ベアーズクラブ」 産女ー難産で死んだ女の霊が化けた妖怪。なんという悲しい話だろうか。 妖怪自体が怖いのではなく女性の妊娠と出産に対する家父長制が恐怖なのだ。家の繁栄のために女性の性と生が犠牲になるシステムを嫌悪するのは当然だろう。 こんな場所に住んではいけない。 そう思わせるほど悲しい産女を諸星氏は描いている。 「海より来るもの」1994年2月号。 大島&渚コンビの物語の舞台はやはり海辺の町、粟木。 こんなに「ドザエモン」が大量に出てくるマンガがあ…

  • 『黄泉からの声』〈妖怪ハンター〉諸星大二郎 その2

    ネタバレします。 「黄泉からの声」 第一章 井戸のまわりで 1993年8月号、10月号「月刊ベアーズクラブ」 これもまた複雑で奇妙な筋立てである。 稗田の学生時代からの友人・青山が登場する。 一か月前に九歳になる娘・珠美が行方不明となり探し続けているゆえか心身ともに疲れ果てている様子だ。 妻は夫がノイローゼになっていると稗田に伝えていた。 娘は井戸のある空き家で遊んでいる時にいなくなったという。 青山はボロボロの空き家を買い取り井戸をさらい娘を探し続けているのだ。 稗田が青山を訪ね話し合っている時、ひとりの若い女が土手に座り「ずいすいずっころばし」を口ずさむ。青山が聞きとがめると女は「この家も…

  • 『黄泉からの声』〈妖怪ハンター〉諸星大二郎 その1

    1994年7月「ヤングジャンプ・コミックス」 稗田礼二郎のフィールド・ノートより ネタバレします。 「うつぼ舟の女」1991年冬の号、1992年春の号、1992年夏の号、1992年秋の号「ヤンジャンベアーズ」(全4回連載) タイトルにある「うつぼ舟」という伝説にまつわる物語。 他の創作者は「うつろ」という表記を多くとっているようだが「うつぼ」になったのは諸星氏の感覚なのか柳田國男氏がそちらを表記しているからか。 中に若い女が入っていた、というもので興味をそそられる話である。 異国の女性かあるいはその船がUFOでつまりは宇宙人だったなどの説があるが諸星作品ではやはり異世界とのつながりが感じられる…

  • 『天孫降臨』〈妖怪ハンター〉諸星大二郎 その3

    ネタバレします。 『天孫降臨』 第二章 樹海にて 1990年12月号「月刊ベアーズクラブ」 ”光の木”真理教団の信者全員が教祖もろとも行方不明となる。 富士の裾野の青木ヶ原に入り集団自殺を行っているのではないかと報道される。 ここを訪れたのが天木薫と橘であった。 稗田もまたひとりで向かったがその前に美加に電話したところ呼び出し音の中に 「来ないで・・・せめて三本目の矢に気を付けて」という声が混じって聞こえた。 その矢とは稗田が枯野村で見つけた古い鏃で作ったもので橘が持ってきた天の鹿児弓につがえて薫が射るのである。 稗田は駆け付け三本目の矢にカバンを投げつけ惨事を防ぐ。 その間に”光の木”真理教…

  • 『天孫降臨』〈妖怪ハンター〉諸星大二郎 その2

    稗田礼二郎フィールド・ノートより 下の画像があんまり怖いので一枚上に乗せました。 まあこちらも怖いですが。 ネタバレします。 コワスギル 「川上より来りて」1988年7月号「月刊ベアーズクラブ」 「生命の木」シリーズと呼ぶべきだろうか。 「花咲爺論序説」と「幻の木」が融合していく。 天木薫・美加兄妹が諸星先生のお気に入りになったのか、最初からこのシリーズを描くはずだったのか。 航空機事故で死んでしまうはずからの転生をして妹の美加はいわば超能力を身に着けてしまう。 本作で稗田礼二郎は「幻の木」のその後を追っている。 そして美加は「光る木」を夢見てどうしてもそれを見つけねばならないと兄の薫に訴えた…

  • 『天孫降臨』〈妖怪ハンター〉諸星大二郎

    1993年2月「ヤングジャンプ・コミックス」 稗田礼二郎のフィールド・ノートより ネタバレします。 『闇の客人(まろうど)」1990年1月号「YJベアーズクラブ阿蘇 本作最高に爆笑、と言いたいけれどかなり人が死んでてその表現はサイコパスだが面白すぎるのだ。 某県大鳥町。大小五十ほどの集落からなる過疎地域である。 そんな場所を活性化しようという「町おこし」が流行った時期があるが大鳥町もその一つであった。 そしてその「町おこし」のために「百年近く前に断絶した古い祭りを復活させること」が行われる。 我らが稗田礼二郎はそんな「古い祭り」について相談を受けたらしい。彼は以前文献などから「大鳥村の神迎え神…

  • 『海竜祭の夜』〈妖怪ハンター〉 諸星大二郎

    1988年7月「ジャンプスーパーエース」 稗田礼二郎のフィールド・ノートより(あるいは妖怪ハンターと呼ばれた男の手記) うん、かっこいい 諸星氏は『妖怪ハンター』というタイトルが嫌いだったようで本当はこのタイトルにしたかったのでしょうか。私はどちらも好きですが。 ネタバレします。 「海竜祭の夜」1982年9号「週刊ヤングジャンプ」 萩尾望都が怖くてたまらなかったという作品である。 だからというわけではないが本作もやはり名作だと思う。 まあだからこそ単行本のタイトルに選ばれているのだけど。 諸星氏は礼二郎をハンターではなく傍観者として位置づけしている。 そのために「妖怪ハンター」というタイトルを…

  • 『妖怪ハンター』諸星大二郎 その2

    第四話「闇の中の仮面の顔」1978年「書き下ろし」この作品の中に「ルングワンダルング」という言葉が出てきて「?」となったのですが検索して「リングワンダリング」だと判る。 単なる印刷ミスなのか、作者の間違いだったのか、別の本では訂正されているのか、それともそういう言い方もあるのかわからないが、視界が限られた場所でぐるぐる回ってしまう現象のことである。 本作では狩猟中濃霧に迷った男が同じ場所をぐるぐる巡ってしまったという現象が描かれる。 有名な話では『八甲田山』で吹雪の中軍隊が同じ場所をぐるぐると回り続けてしまうものがある。 私は「リングワンダリング」という言葉そのものを知らなかったので(見落とし…

  • 『妖怪ハンター』諸星大二郎 その1

    1978年7月「ジャンプスーパーコミックス集英社」 すみません。どうしても先にこのシリーズを読みたくなり先日書いたwikiの順番を無視して急遽稗田礼二郎シリーズに突入します。 『夢みる機械』も半ばだったのに心変わり失礼します。 ネタバレします。 第1話「黒い探求者」「週刊少年ジャンプ」1974年37号 稗田礼二郎初登場。九州F県(というのは福岡県しか考えられないが)比留子古墳に赴く。「比留子古墳」というのは創作だろうが『暗黒神話』にも福岡県某所にあるとして登場する。 郷土史家の父を持つ矢部まさお少年は稗田礼二郎に手紙を送ったらしい。 それに答えて稗田はF県を訪れたのだ。 まさおの父親は一か月前…

  • 『夢みる機械』諸星大二郎

    1978年 サンコミックス朝日ソノラマ なぜか手持ちの単行本には何刷りかすら記載されておらず。&表紙カバーは外れて存在せず。 ネタバレします。 「夢みる機械」1974年週刊少年ジャンプ11月号掲載 絵柄が何とも言えず可愛らしい。 隣の哲学者シブさんが良い味出している。 無個性で何の刺激もない社会にうんざりしてドロップアウトする、というSFは多々あるだろう。 本作はいわば『マトリックス』カテゴリSFだ。勢作年順としては『マトリックス』が『夢みる機械』カテゴリともいえるが。 単調で退屈な現在に留まるか、『不思議の国のアリス』世界に飛び込んでいくか、それを選択するのは自分自身なのだという問いかけだ。…

  • 『暗黒神話』諸星大二郎 その3

    ネタバレします。 「人間の巻」 スサノオの命は八俣の大蛇を退治し、その尾からひとふりの剣を発見する。 その後その剣はスサノオからヤマトタケルの手に渡る。 それが天叢雲剣、別名草薙剣である。 竹内老人は武に「聖痕もあとふたつ。この先はわしが案内しよう」と告げる。 この後本作で名場面のひとつが描写される。弟橘姫(おとたちばなひめ)の登場である。 ふたりは静岡県焼津市を訪れる。 このあたりでは丸石の信仰があるという。 この丸石を本作では卵としてその中から人が生まれた物語があり、かぐや姫も元来は竹ではなく卵から生まれた話だったらしい、と語る。 老人はとある洞に祀られていた丸石=卵を杖で叩き割る。 中に…

  • 『暗黒神話』諸星大二郎 その2

    ネタバレします。 「餓鬼の巻」 菊池彦は大神美弥を連れ大角隼人が待つ国東半島へ急ぐ。 隼人は武を見失ったという。 武はとある施餓鬼寺に辿り着き倒れていたのを住職らに助けられる。 本堂に寝かせられていた武の周囲に餓鬼どもが集まるのを和尚は観る。 菊池彦は石仏の上に彫られている梵字が気にかかっていた。 そこには「ヤマタイ」と書かれていたのだ。 寺では武が目を覚ましていた。 泥酔和尚は武に馬頭観音の説明をする。 畜生道や餓鬼道に落ちた人間を救ってくれる。 珍しい憤怒の観音である。 観音の馬頭は転輪聖王の乗馬を現しているという。 この施餓鬼寺は普段は寂れているが最澄が施餓鬼供養のために開いた寺であり毎…

  • 『暗黒神話』諸星大二郎 その1

    週刊少年ジャンプ1976年20ー25号 先日記事で書いた通り諸星大二郎シリーズ始めることにしました。 wikiに記載されている単行本リストに従って読んでいきます。 画像の本と2021年第20刷の文庫本を持っています。 (先の本を失くしたと思い購入した) しかし文庫本では細かすぎて読めません。 しばらく映像を観ようと予定していたのですがどうしても映像に耐え切れず本に戻ります。 ネタバレします。 これが一冊の内容とは信じられないほど濃い。 とても順を追って説明するほどの根気はない。 それをやったらたぶんそれだけで膨大な資料になりそうだ。 「畜生の巻」 冒頭の描写がとても良い。 現在のうるさい演出が…

  • 『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』その2

    いつもあーだこーだ書く人間だけど本作については今のところ、特にこの3話4話言いたいこともないんだけど楽しんでいるからいいのかな。 楽しんではいるが一方キャラクターについても設定についても物語についても今のところ猛烈に言いたいこともない。悪口もない。 普通に楽しんでいる。 ところで・・・自分だけの感覚なのか、台詞がすごく『ヨルムンガンド』なのだ。 といってもそもそも『ヨルムンガンド』が『ガンダム』台詞だったのだから仕方ないのかもしれないが。

  • 『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』1

    久しぶりに映像を観る。 賛否両論、かまびすしくもりあがっている、そんな作品に参加してみる。 第一話目、初見、思った以上に面白く好きになれる世界観だった。 問題視されている「スマホ」に関しては確かになあ、という感じ。 存在に別にむかつきはしないがあんな落としやすく割れやすい代物をこの時代にアナクロ趣味としてではなく貧乏学生が必需品として持っているものかな。 しかしそれで言えば学生服も今はおかしくないが将来見る時には古風衣装だろう。 あえて古めかしい鳥居を入れ込んだりして新と旧を混ぜ込んでのお遊びなのだろうと自分的には判断した。 私にとってそれ以上に問題だったのはマチュとニャアンの登場演出なのだ。…

  • 『麒麟狩り』萩尾望都

    2021年 「諸星大二郎デビュー50周年トリビュート」より 今のところこの作品が今回の「萩尾望都マンガ作品読み返し」の最後の作品となります。(wiki記録にて) ほんとうはこの後そして現在も『ポーの一族』シリーズを描かれているのですが記事の書き方としてシリーズものはまとめて記すことにしたので『ポーの一族』シリーズは過去記事としてまとめています。 時期としては2024年10月号掲載の「青のパンドラ」が最後です。(wiki記載に従って書いているだけなので間違いはあるかもしれません) とはいえ今後の発表、というか私の場合は単行本になってからの記事になりますがその場合はこの後に続けて書いていくはずです…

  • 『ガリレオの宇宙』萩尾望都

    2020年「Apple Store」 萩尾望都初の完全デジタルで製作された本作『ガリレオの宇宙』がApple Storeにて公開中(2025年4月30日現在) その詳細はこのサイトに記されています。 www.hagiomoto.net 初完全デジタル作品がガリレオ・ガリレイの物語というのもさすがという感じです。かっこいい。 デジタルはそれまででも活用されてはいるようですが。 しっかしうまいし楽しい。そしてこの 笑ってしまう。色々使えそう。 異端と言われて書くことを禁止されていてもちゃんとこっそり書いてるガリレオ・ガリレイ。 萩尾望都氏は共感するはずだ。 ではその作品にリンクしておこう。 ガリレ…

  • 『バス停まで』萩尾望都

    2018年「週刊モーニング」1月25日号 2011年の東日本大震災後、2012年『なのはな』で福島原発事故後の人々を描き、2013年『AWAY』では世界の破滅への畏怖を描き、7年経ってまた本作を描いた。 やはり萩尾望都の悲憤は福島原発にあるのだ。 ネタバレします。 男がひとり草茫々の中に建つあばら家に向かい傾いだ家の戸をこじ開ける。 頭の中では妹の声が彼を導いていく。 妹の声は男に「汚いし危ないから靴のまま入っていって」というが男は靴のままじゃ上がれないと靴にビニール袋をかぶせて入る。 家の中はすでに荒れ果て泥棒も入っていたようだという。 二階は動物が住み着いていたのか臭いのだという。 「あま…

  • 『由良の門(と)を』萩尾望都/原作:岩明均『寄生獣』より

    2016年「月刊アフタヌーン」5月「ネオ寄生獣」より 残念なことに私が『寄生獣』をまったく読んでいないので原作との照らし合わせなどの面白みを味わえないのですが、その上での感想です。 ネタバレします。 そして本作自体も今回初読みだったのだが原作『寄生獣』を読んでいないのが悔しいほどの名作ではないのか。 私がこれから原作『寄生獣』を読むかどうかは未定だが知らずに本作の感想を持つのは読んでからではできないので原作未読の本作への感想もまた良いのかもしれない。 本作の主人公・由良は病院の中の病室で三歳までを過ごし「ふつうの子」と診断される。 神田夫妻の養女となって神田由良として成長する。 感情表現のない…

  • 『AWAYーアウェイー』萩尾望都 原案:小松左京『お召し』 その2

    ep3から「3月21日」世界が分かれた日です。 ネタバレします。 つまりep2から時間が戻ってAWAY世界では大人たちがどこかに行ってしまったと子どもたちが途方に暮れている。 ここで登場するのが大介が所属するバスケ部の後輩、河津克巳である。 ちょっと昨今のマンガではあまり出てこない個性的容貌の持ち主といえる。 しかも彼はとんでもない活躍を見せる。 それに関わってくるのが次に登場する不思議な笛少女ネネちゃんだ。 場面緘黙症だという説明がされる。 リコーダーを首から下げてピーッと吹くことでなんらかの意思表示をしているようだ。 AWAYでは子どもたちがどうしたらいいのかわからず不安の中で試行錯誤して…

  • 『AWAYーアウェイー』萩尾望都 原案:小松左京『お召し』 その1

    「フラワーズ」2013年6月号~2015年8月号 本作『AWAY』多くの方が評しているように「おもしろいんだけどあまりにも短い」 そしてなにか構成が破綻しているようにも思えます。 いつもやっているようにストーリーを追っていくべきかとも思いましたが、今回はストーリーよりも思ったことを書き記していきます。 ネタバレします。 ある日突然世界が18歳以上とそれ未満の二つに分かれてしまう。 それが「HOME」と「AWAY」 18歳以上の大人世界が「HOME」 未満世界が「AWAY」 「HOME」で赤ん坊が産み落とされたらその子は「AWAY」世界へ飛ばされてしまう。 「AWAY」である子が18歳となったら…

  • 『王妃マルゴ』萩尾望都 その8

    最終巻です。 ネタバレします。 美しく気高いマルゴは最期までアイデンティティを失わなかった。 自我を持ち続けた女性だった。 彼女は母后カトリーヌに厳しく躾けられ母を怖れ続けた女性で、だからこそ萩尾望都はマルゴを描いたと思われるのだが作者自身の成長のためか、マルゴは母を嫌悪しながらも上手く回避し時には逆らって行動していく。 以前の萩尾マンガにおける母親にはなんの対処もできないままの主人公とは大きく違うのが今回読みなおして感じたことだった。 母后は政略に子供たち、むろんマルゴも使っていき場合によっては死へ導く場合もあるのだがマルゴ自身は「そういう人だから」とため息しつつ開き直っている。この強さを萩…

  • 『王妃マルゴ』萩尾望都 その7

    うるわしい『王妃マルゴ』もついに七巻となってしまいました。 ネタバレします。 マルゴはナヴァルのアンリをベアルンに残しひとりフランスに戻る。 そしてサパン、今はジャックと呼ばれている我が子とついに再会する。 ジャックは父親かと思っていたアンリ三世にも失望しマルゴが近寄っても反発するのだった。 マルゴはすべてアンリ三世の仕業だと気づき改めて兄アンリに憎悪を抱く。 がアンリ三世のほうもマルゴに悪態をつきパリから追い出してしまう。 その後もジャック(サパン)を間にして兄アンリとマルゴの確執は続く。 アンリは本当に愛してほしかった人からは愛されないと嘆くが母から溺愛されデュ・ガストという忠実な愛人が長…

  • 『王妃マルゴ』萩尾望都 その6

    さすがに表紙になることはないがやはり歴史的に一番のヒロインはなんといってもカトリーヌ・ド・メディシスでしょう。 彼女の表紙は・・・・無理ですかねえ。 ネタバレします。 シャルルが24歳で死去。 アンジュー公アンリはポーランド女王に言い寄り宝石類をだまし取って(ほんとに?)フランスに逃亡帰国。 そしてフランス国王となる。 コンデ公の妻で身重のマリーを后にしたいと願い出るが(母后のさしがねでか?)マリーは葬り去られる。 (ここにアンリ三世はデュ・ガストを使い手紙を届けさせたためにアンリはデュ・ガストがマリーを毒殺したと疑うこととなる) アンリ三世は悲痛のあまり髑髏の衣服を纏う。 母后に逆らいルイー…

  • 『王妃マルゴ』萩尾望都 その5

    ではマルゴ自身をどう思うのかと言えば強く惹かれます。 一般的な歴史としては派手な男性遍歴と謳われてしまう彼女ですがこうして萩尾望都のマンガとして描かれれば純粋に愛を求めた女性として共感できるし魅了されます。 ネタバレします。 五巻の冒頭は萩尾望都『王妃マルゴ』の中でも圧巻だ。 母后カトリーヌはカトリックの王女マルゴとプロテスタントの王アンリの結婚を契機に一気にユグノーの一掃を企んだ。 この時母后は娘マルゴを夫の寝室へ向かわせる。 幼い頃にも殺戮に怯えて泣いた国王シャルルは自らの命令で虐殺されていくユグノーの死体に奇声をあげながらも狂ったように銃を撃ち続ける。 大虐殺を率いていくのはアンリ・ド・…

  • 『王妃マルゴ』萩尾望都 その4

    アンジュー公アンリ。なんやこいつ。むかつくヤツ。 しかし物語には絶対必要なヤツなんよな。 ネタバレします。 そんなアンリに対しマルゴは嫌悪を激しくぶつける。 マルゴがはっきり文句を言う女性なのが良いのだなあ。 一方、シャルルはコリニーに上手く言いくるめられまたも「父上」と呼んで信頼していく。 マルゴとナヴァルのアンリの結婚はマルゴが嫌がっても着実に母后によって進められていく。 阻むのはアンリの母ジャンヌだったがメディチ家(薬剤師)の生まれであるカトリーヌは彼女を美しい手袋を贈って毒殺する。 国王シャルルは后となったエリザベート・ドートリッシュとも愛妾マリー・トゥシェとも円満に仲良く、アンジュー…

  • 『王妃マルゴ』萩尾望都 その3

    なぜシャルルが一番好きなんだろう。よくわからん。 ネタバレします。 マルゴの美しさは輝くばかりとなっていく。 ギーズとの恋は秘められたものだったがふたりの間でより強くなっていた。 母后カトリーヌへの怖れは変わらないがスペイン語やラテン語が得意なマルゴは母から手伝いを頼まれるようになる。 カトリーヌは商売の大家メディチ家の出身である。政治は戦争だけではなく駆け引きと取引で解決するのが基本だとマルゴに教えるのだった。 アンジュー公アンリは女装をしてマルゴを待ち構えていた。 マルゴは兄アンリに「ギーズが好きなのね」と問う。 しかしアンリは「わたしが好きなのはおまえだ」と言い彼女の処女を奪ってしまう。…

  • 『王妃マルゴ』萩尾望都 その2

    アンリ・ド・ギーズ。 亡き父の仇を討つために自らの顔に向こう傷をつける。 そんな豪放磊落な男にマルゴは強く惹きつけられる。 ネタバレします。 マルゴたちは母后カトリーヌに従いフランス一周の旅に出る。 ところで私はアンリ・ド・ギーズよりシャルルが好きなのだけど皆そうなのだろうか。 そしてアンリ・ド・ギーズより田舎者のナヴァルのアンリのほうが良いと思う。 兄のアンリはなあ、あいつ。 マルゴは14歳となり社交界デビューを果たす。 ますます美しく艶やかになり男たちを魅了していく。 そんなマルゴを国王であり兄であるシャルルは溺愛し修道院に入れて自分だけのものにしたいと言い出す。 性愛に生きたいと本質的に…

  • 『王妃マルゴ』萩尾望都 その1

    「月刊YOU」2012年9月号~2018年11月号→「Cocohana」2019年1月号~2020年2月号 16世紀フランス。 後に王妃マルゴとなるマルグリット・ド・ヴァロワの一生が描かれる。 カソリックとプロテスタントの対立が軸となる。 ネタバレします。 王妃マルゴ。マルグリット・ド・ヴァロワ。 特に西洋歴史を学んだことのない一般日本人としては聞き及ぶこともない名前ではないか。 私はまったく知らなかった。 彼女の母、カトリーヌ・ド・メディシスであればうっすらと聞いてはいた。 それはたぶん彼女の夫であるアンリ2世と彼より18歳年上の愛妾ディアーヌのエピソードで知っていたのだが。 正妻との間に9…

  • 『なのはな -幻想「銀河鉄道の夜」』萩尾望都

    2012年 萩尾望都作品集『なのはな』に描き下ろし 「銀河鉄道の夜」は死んでしまった人が乗る汽車なのだ。 それを思うとほんとうに悲しい。 同様に「ひかりの素足」のお話が語られる。 宮沢賢治の物語の中でも最も怖く痛々しい描写がされるがこの中では救済の部分だけが取り入れられている。 唯一の慰めだ。

  • 『ハルカと彼方』萩尾望都・田中アコ短編集 ゲバラシリーズ

    「月刊アフタヌーン」2010年3月号~4月号 ゲバラと白湯はいわば探偵役のような感じになり表紙に描かれている兄妹ハルカと彼方の物語になります。 ネタバレします。 本作はもう前作の『菱川さんと猫』を上回る不思議話だ。 白湯は小学校で同級だった彼方と偶然再会する。 ほっそりした彼方は美少年を思わせる。 白湯はそのまま彼方の家を訪問する。 そこには驚くほどたくさんの水槽が置かれ様々な海水魚、淡水魚、古代魚などが飼われていた。 それは彼方の兄であるハルカが世話しているものだった。 仲が良すぎるほどの兄妹の話だがだからと言ってふたりがそこに性愛を求めるものでもない。 萩尾氏は「エドガーとメリーベル」とい…

  • 『菱川さんと猫』萩尾望都・田中アコ短編集 ゲバラシリーズ

    「月刊アフタヌーン」 猫シリーズが続く。 レオくんはやんちゃな子供だったけどこちらは落ち着いたおっさん的なかんじで良いです。 ちょっと不思議な本です。 田中アコさんが書かれた原作は全部なのか「菱川さんと猫」だけなのか、よくわかりません。 本にはなぜか目次がありません。 それらも含めて謎の本です。 (あ、カバーの裏表紙に目次的なものがありました) それから読むと絶対泣いてしまうのでご注意ください。 ネタバレします。 「菱川さんと猫」2009年5月号 大森レオくんは学校も会社もうまくやれない未熟猫だったがこちらの菱川ゲバラ氏は会社仕事もそつなくこなしていく。 語り手である高野白湯子は入社二年目の新…

  • 『レオくん』萩尾望都

    「フラワーズ」2008年2月号~2012年6月号 なんといっても表紙が良い。 レオくんと赤い表紙がとても良い。 ネタバレします。 レオくんは実際に萩尾先生が飼われている猫らしい。 幾匹かいる飼い猫の中でも特にお気に入りの猫らしい。 目の上の部分が一直線になるという特徴を持つ。上の画像でもそのように描いてある。 萩尾先生の描く猫は他のマンガ家が描くのと違いどっしりと重さが感じられる。 今回読み返すまで猫のレオくんが学校もお仕事もみんなと同じようにうまくやれなくてなんとなく障害を持つ子どもの置き換えのように感じて「これはいかがなものか」と拒否感を持っていた。 しかし今読んでみるとレオくんはむしろ我…

  • 『バースディ・ケーキ』萩尾望都

    「SF Japan」2007年SUMMER号

  • 『なのはな』その2 萩尾望都 シリーズここではない★どこか

    ネタバレします。 「雨の夜 ーウラノス伯爵ー」 「月刊フラワーズ」2012年2月号 「ウラン」をウラノス伯爵に擬人化してのお話。 「サロメ20✖✖」 「月刊フラワーズ」2012年3月号 「核廃棄物」をサロメとして擬人化した物語。

  • 『なのはな』萩尾望都 シリーズここではない★どこか

    「シリーズここではない★どこか」と記載されているのでそれに従います。 ネタバレします。 「なのはな」 「月刊フラワーズ」2011年8月号 2011年3月11日「東北地方太平洋沖地震」とそれに伴う津波により東京電力の福島第一原子力発電所で原子力事故が発生した。 その時の恐怖は忘れることはできないがそれでも今現在2015年となり14年の年月はその恐怖を薄れさせていく。 本作を再び読むことでその時の焦りのような心情を少し思い出せた気がする。 本作は同年2011年8月号に発表されている。 かなりの速さで描かれたのだ。 物語は事故そのものではなくそこに住む人々特に子供たちに焦点を当て描かれる。 主人公の…

  • 『春の小川』萩尾望都 シリーズここではない★どこか3

    といっても前回「シリーズここではない★どこか」2-2でかなり書いてしまったけど。 ネタバレします。 「花嫁 メッセージⅤ」 「月刊フラワーズ」2010年11月号 メッセージシリーズもⅤとなった。 黒い男の正体は相変わらずよくわからない。 歴史の案内者というところなのだろうか。 そして本作も両親に愛されずいいように利用されていく子供の物語である。 1420年フランスの王女カトリーヌ(キャサリン)とイギリスのヘンリー5世は結婚するがその前夜のお話。 アジャンクールの戦いでイギリスがフランスに大勝しヘンリー5世はフランスの王女カトリーヌ=英語名キャサリンに明日は求婚するということになっていた。 19…

  • 『スフィンクス』萩尾望都 シリーズここではない★どこか2-2

    ネタバレします。 「海の青」 「月刊フラワーズ」2009年7月号 おや前作品とは2年ほどの間があるのだな。 「人魚姫」をモチーフにしてさえない女の子とモテイケメンに置き換えたお話。 おもしろいのはモテイケメンが案外良い奴だったというところかな。 そして現代人魚姫は言いたいことは言って髪を切る。 「スフィンクス メッセージⅣ」 「月刊フラワーズ」2009年10月号 2年前に描かれた「オイディプス」のそれまでの話になる。 予言通りオイディプスは実の父を殺しテバイを訪れる。 しかしテバイではスフィンクスという怪物が夜な夜な出現し赤子を食うため人々は怖れ逃げ出す者もいた。 オイディプスはスフィンクスを…

  • 『スフィンクス』萩尾望都 シリーズここではない★どこか2-1

    ややこしくなりますが「シリーズここではない★どこか」の2巻目『スフィンクス』に入ります。 ネタバレします。 「青いドア」 「月刊フラワーズ」2007年8月号 このお話を「良い話だなあ」と感じるか「なんて嫌な女だ」と感じるかであなたの人生がわかります。 と言いたくなる作品だ。 語り手は「夫」である晴夫さんだ。 眼鏡のいかにも一般サラリーマンといった風情だ。平凡だが心優しく妻を愛している。 その妻の喜代子さんはなかなかの美人で生活力もあるけれどやや行き過ぎている感がある。 我が家をより良くしたいとまずはドアを青く塗ってしまう。 マンガはモノクロなのでわからないがかなり奇抜なのかもしれない。 平凡派…

  • 『山へ行く』萩尾望都 シリーズここではない★どこか 3

    ネタバレします。 「くろいひつじ」 「月刊フラワーズ」2007年1月号 「黒い羊」が「身勝手によって要望や期待から逸脱していることを暗喩する、否定的な意味を持っている」という意味だとは知らずにこの年齢になってしまった。 そうだったのか。 本作では音楽が大好きな一家においてただひとり音楽が苦手でそれゆえに嫌いな男が描かれる。 普通、というか少なくとも萩尾望都的には絶対にこれまでこの役は小さな少年か少女のもので会ったのにここでは「オヤジ」と呼ばれる年配男がそれになる。 冒頭で兄が母のピアノを焼いた、という不穏な情報が呈される。「ピアノを焼く」この恐ろしい行動は特に音楽を愛する人には許されざる暴挙な…

  • 『山へ行く』萩尾望都 シリーズここではない★どこか 2

    ネタバレします。 「ゆれる世界」 「月刊フラワーズ」2006年7月号 この話はどういう意味なのだろうか。パパは言われた通りに従っていたけど娘は自分で考えて行動していた。 パパは驚いたけど娘の説が正しい、というか自分にとっても良い感じだった、ということでいいのだろうか。 萩尾作品にはけっこう横山光輝SFからの発想なのかな、と思うものがある。 本作は横山光輝『ダイモス』を思わせる。 しかし羽があるからといってもなんの超能力にもならないのである。 息子くんがいうとおり邪魔なだけな気もするがそれを良しとしている奥さんが良い人だ。 風通しは確かに気持ちよさそうだと思う。 「メッセージ」 「月刊フラワーズ…

  • 『山へ行く』萩尾望都 シリーズここではない★どこか1

    『シリーズ ここではない★どこか (Anywhere But Here) 』短編集です。 発表順と本の収録順が異なるのですが以前も書いた通り発表順にのっとっていきます。 「月刊フラワーズ」2006年4月号 『残酷な神が支配する』でふっきれたというべきか禊が終わったというのか、他作家に比べれば」ぎこちない感はあれど『午後の日差し』『帰ってくる子』そして『バルバラ異界』になって家族のつながりという題材が描かれるようになった。 本作にいたってはごく普通の家族の在り方と言っていいのではないだろうか。 ネタバレします。 主人公は生方正臣。小説家で大学の臨時講師らしい。 妻と高校生の娘、中学生の息子がいる…

  • 『長靴をはいたシマ猫』『猫本クリニック』萩尾望都

    2006年「講談社MOOK猫本」 「漫画家と猫」vol.1で読みました。 ネタバレします。 萩尾望都氏がイメージしたのが『長靴をはいた猫』なのが嬉しい。 子供の頃からこの童話の挿絵の猫くんが大好きだった。猫なのにきりりと凛々しくて賢い。ちょうどこの表紙のように自尊心の高さを感じられるのだ。 だが本作の猫氏は南南東電力のブレーカーの点検をしている業者さんである。 中上さんの家を訪れる。 主婦のナオちゃんはどう見ても猫にしか見えないその姿に(猫だ)戸惑う。 点検が終わりハンコを求められるがナオちゃんはどうしても猫が仕事をしていることが納得できず、前に飼っていた「タマキチ」ではないか、小学校5年の時…

  • 『天使のはなし』萩尾望都

    1997年「YOU」NO.15掲載 この作品は『あぶな坂HOTEL』の巻末に収録されていたのですがwikiには記載なしだったので1997年の作品だったと知って発表順に記録してきた私としては慌て中ですがやむなくここで記事にします。 「萩尾望都作品目録」には小作品として記載されていたのですが。 ネタバレします。 表紙の天使がユリの花を持っているのはマリアが純潔でありながら受胎したという意味が込められているのだろうか。 表紙まで含めて8pのごく短いお話だ。ドロップアウトした兄貴に代わり期待をかけられた予備校生が妊娠して切迫流産しかけた時に見た夢、という仕組みだろうか。 「どうせ産まないんだもん」とい…

  • 『あぶな坂HOTEL』萩尾望都

    「YOU」2006年第2号~2007年第23号 初読。『あぶな坂』は中島みゆきのファーストアルバムの歌曲からの由来というのが驚きでもありました。 そう言われてみればこの表紙に描かれている本作の主人公というか案内人であり、あぶな坂ホテルのオーナー藤ノ木由良は中島みゆきから造形されている気がします。特にこの表紙は似ています。 ネタバレします。 ところで藤ノ木由良ってなにから来たんだろうと思い検索したら福岡県のJR駅名に藤ノ木から5駅目で由良というのがあったのだけど、まさか福岡県の駅名からとったとか?萩尾氏は福岡生まれなのでありえなくはないが。なぜ??? 「ここはあぶな坂HOTEL この世とあの世の…

  • 『バルバラ異界』萩尾望都 その12

    ネタバレします。 〔その23:ぼくのキリヤをかえしてくれ〕 青羽人形からエズラ=ヨハネのデータチップを受け取ることになった渡会たちは彼の遺言を知る。 大黒先生は叫ぶ「夢は現実になるんだ」そして地下モルグに走り彼の心臓が結晶化しているかを確かめる。さすが科学者こういう時はすばやい。 それをカーラーに見つかり大目玉。 その時菜々実さんが花小金井での火事を報せ続いてパリスから電話がくる。 「キリヤが落ちたんです」 場面が切り替わる。 パリスとキリヤが祭り会場にたどり着く。キリヤは御神楽の衣装と面をつけた。 どうやら「モミジ係」が来なくて用意したモミジを火の見やぐらの上から降らせることができないともめ…

  • 『バルバラ異界』萩尾望都 その11

    ネタバレします。 〔その21:バルバラ崩壊〕 皆が去っていく。キリヤは一足先に東京へ戻った。 渡会は週末には東京へ戻ってキリヤに会いに行くと約束したがパリスは「必ずですよ」と青羽の人形を渡会に預けた。 パリスはキリヤからチップを渡されヨハネの遺言を聞いたので心穏やかではない。 かつてグリーンホームにいた子どもたち、そして老いた三姉妹も皆ヨハネを父とする兄弟だと知ったのだ。 残った渡会と大黒先生はふたりきりで話をした。 大黒先生は渡会に「キリヤはきみの実の子ではない」ということを伝えようとしていた。 だがキリヤが赤ん坊の時明美さんが遺伝子を調べてキリヤが本当に渡会の子供だったことを証明した事実が…

  • 『バルバラ異界』萩尾望都 その10

    第四巻最終巻です。 ネタバレします。 キリヤと青羽は会話する。 「ステキな心臓を用意したからそれを食べて。早くバルバラを完成させましょう」という青羽にキリヤは「オレはひとつになんかなりたくない」と突っぱねる。 翌朝、菜々実は再びマリエンバートになっているのに気づき「嬉しい。渡会さんのために綺麗にならなきゃ」とドレスを着る。 その時ピルケースを見つけそれをエズラに飲ませたいと考えたことを思い出す。 百田氏は行き詰っていた。 青羽をもうこのままにしていた方が良いのではないかと考え始めたのだ。 その時、ボートを漕いでマリエンバートが現れる。 渡会は驚いて近寄りドレス姿の彼女に上衣を着せかけた。 キリ…

  • 『バルバラ異界』萩尾望都 その9

    大事な話があります。 ネタバレします。 〔その17:誰もあなたの名前を知らない〕 ついに明美さんが大黒先生にキリヤの話を打ち明ける。 花小金井保育園に通っていたキリヤは給食に入っていた海老のエッセンスでアレルギーを起こし死んでしまったのだ。 明美さんは死んでしまったキリヤをヨハネに渡した。 ヨハネはキリヤを生き返らせてくれたのである。 ヨハネの息子として。 この話が一気に続けて話されないのでなかなかよくわからないのではないだろうか。 わかる人は超頭が良い。 キリヤは死んでしまった。 そしてヨハネが父親で借り腹で生まれた子どものひとり「タカ」が「キリヤ」となって明美さんのところへやってきたのだろ…

  • 『バルバラ異界』萩尾望都 その8

    「遠軽」というと安彦良和さんですよねえ。 萩尾望都氏と吾妻ひでお氏の対談で「なんで遠軽?」「安彦さんと知り合って」「やっぱそうだと思った」というくだりがありました。 吾妻さんの浦幌町では駄目だったのでしょうか。ちょっと吾妻さんがかわいそうになりました。 「遠軽」という字と響きが良かったのでしょうかねえ。「エンガル」「ウラホロ」どちらもすてきな響きです。 ネタバレします。 〔その15:遠軽への遠い道〕 一行が飛行機で遠軽に向かう。 途中で濃霧が発生し女満別空港に降りる。 「女満別へようこそ」 「ようこそじゃない」「いそいでいるんだ」という罵声が悲しいなあ。(ま、たしかにようこそじゃないかもだけど…

  • 『バルバラ異界』萩尾望都 その7

    渡会時夫が詰まってる表紙です。 ネタバレします。 三巻に入るんだけどこれまでの情報量がたった二巻とは思えない。 萩尾望都の力量を感じるが同時に「もっとだらだら見たい」気もする。わがままな。 〔その13:長い長い遺伝子の物語] カーラー女史。 楽しいキャラである。美女で黒人でバイタリティあってかっこいい。 十条菜々美の二番目の夫氏。良い人そう。 菜々美さんが何故この人と再婚したかというより何故この人が菜々美さんと結婚する気になったか、だが美しい花づくりをしている人だから美人好きだったということだろうか。 青羽はキリヤに遺伝子の物語をする。 いつもキリキリと眉を逆立てているキリヤがこの時は心地良さ…

  • 『バルバラ異界』萩男望都 その6

    ここの話をよく理解していなかったと気づきました。 だからわからない。 ネタバレします。 〔その11:お誕生日は同じ10月1日] キリヤの教室に突然現れたパリス=パインはキリヤを「タカ」と呼んで親し気に話し出す。 つまりパインの話によるとキリヤはキリヤではなくタカなのだという。 パインはずば抜けた記憶力があるので間違いないというのだ。 そしてもう二人の男の子もいた彼ら四人は「ベビーダックス」と呼ばれた。 里親用児童待機施設グリーン・ホームで育てられた彼らは一般タイプの体外受精卵で4人の代理母によって出産された。 同じ10月1日に生まれたのである。 彼ら4人はいつも一緒にくっつきあって動き回ったの…

  • 『バルバラ異界』萩尾望都 その5

    今日も続けます。 ネタバレします。 〔その9:火星の海で泳いでいた] キリヤの前に突如あらわれた少女人形、それはキリカとマシロからのサプライズプレゼントだった。 「帰れよ。いらない」と払いのける(「いたァい」と話す人形)キリヤにすねるライカは人形を抱えて立ち去ろうとした。 二階から飛び降りてキリヤはライカから人形を受け取った。 「すきよ、キリヤ」と話す人形。 その時、どこからか紐状のものが飛んできて人形の首に絡まるや人形を奪い取ってしまう。 キリヤはその人物を見て「青羽の夢の中のパイン?」となる。 ところが”パイン”が人形を持ち去るともう一人同じ容姿の少年がいた。 「・・・これはチガウ・・・」…

  • 『バルバラ異界』萩尾望都 その4

    二巻へと参ります。 本作は実写映画化やりやすいと思うのに何故やらないのだ? ネタバレします。 〔その7:きみに肩車してあげた] 渡会と百田氏は「胡蝶の夢」(我が蝶か、蝶が我か)と言う論議をする。 渡会は話さないがキリヤがイメージしただけのバルバラが現実に瀬戸内海に出没していることが現実となってしまったら、と問う。 「そうなれば我々の方が非現実となってしまう」 「ぼくたちのこの世界が夢になる、誰かの夢に」 「もしも青羽が目覚めてしまったら?」と渡会は問う。 両親の死とその心臓を自分が食べてしまったという事実を知ることになる。 しかし味方になってくれる者はいない。十条菜々美は最大の敵となる。 ・・…

  • 『バルバラ異界』萩尾望都 その3

    ネタバレします。 本作で萩尾望都は子供を愛しているのに愛してはもらえないといういつもと逆転した父親を描くというチャレンジをしているが他にもちょこちょこ「いつもと違うテスト」をやっているようだ。 例えば30代の十条菜々美が10歳も若いエズラと恋をして結婚するというような設定は今では驚くほどのことではないが萩尾マンガではこれまでなかったことに思える。 そもそも萩尾キャラクターはわりに老けていてやや未来の話とは言え80代女性をあそこまで若く描くのも珍しい。 だが一番の「これまでにない」感は主人公の渡会時夫の「おたおた感」だ。 30代男性の主人公がいつもおたおたしながら不安げに進んでいくのが面白い。 …

  • 『バルバラ異界』萩尾望都 その2

    萩尾望都の後期作品の一筋縄ではいかない感じがたまらない。 いったいどうしてこんな話がどこから生まれてくるのと頭をひねくり回してしまうのです。 そして今回気がついたけど本作はわりと目の描き方があっさりしているのですよ。 私は実を言うと萩尾氏の描く目がきつく感じてしまうので目が軽い本作は必然的に好きなのだ、と今更認識しました。 ネタバレします。 [その3:公園で剣舞を舞ってはならない] もうね、キャラクターがひとりひとり魅力ありすぎでワクワクしてしまうんんだよなあ。 少年らしい繊細さと過激さを持つキリヤ、対照的におっとりとしているがおどおどしている渡会時夫と言う父子をはじめ、なんとなくエキセントリ…

  • 『バルバラ異界』萩尾望都 その1

    2002年9月号~2005年8月号「フラワーズ」 この『バルバラ異界』は以前も書いたことがあるのでより細かく書いてみたいと思います。 私にとって萩尾望都作品で最も好きな作品です。 ネタバレします。 これが中表紙。なんと平和な幸福な場面だろう。 年齢のせいでこういうので涙が溜まる。ダメすぎる。 [その1:世界の中心であるわたし] 冒頭は右下の女の子、青羽のおばちゃんマーちゃんの呼び声から始まる。 そして青羽のモノローグ 「あたしはバルバラが世界の中心だと思っていた」 ヤギ小屋で昼寝する三人の子どもたちが示すようにのどかでやさしい世界が描かれる。 朝はマーちゃんが焼くパンケーキをヤギの乳で食べ、青…

  • 『帰ってくる子』萩尾望都

    1998年「チャイルド 異形コレクション7」に描きおろし ネタバレします。 ユウにいちばん帰ってきてほしかったのはぼくだったかもしれない・・・ 『アロイス』を思い出してしまうお話でした。

  • 『学校へ行くクスリ』萩尾望都

    1994年「ビッグゴールド ビッグコミック増刊」16号 一見、SFファンタジー風味の不思議ラブストーリー、だがその正体は。 ネタバレします。 世の中は自分が見たいように見える。 逆に言えば見たいようにしか見えない。 つまりほんとうのものは見えていない。 見たくないものは見ない。 という作品だ。 よく好きな人が好きなアイドルに似ている、と思うのもその一つである。 他人が見るとまったく似ていないのに補正をかけて「似ている」と思ってしまうのだ。 特に若い時は思い込みが激しく強い。 だからある人を激しく好きになり尊敬してしまう。 そしてその人が「そうではなかった」と知ると激しく幻滅してしまうのだ。 「…

  • 『午後の日差し』萩尾望都

    1994年「ビッグゴールド ビッグコミック増刊」14号 萩尾作品定番の親と子の確執問題ものではあるが初めての(かな?)主人公が母親で母親側からの目線で描かれた確執であります。 ネタバレします。 主人公の賞子は42歳(この時萩尾先生は45歳くらいだから同年齢女性を描いたといえる)娘と息子を一人ずつ持つ(もちろん夫は一人)専業主婦である。 学生時代からの友人とトリオを組んでいて料理教室に通ってはおしゃべりをするのが楽しみというような感じのおっとりした中年女性なのである。 さてこの賞子の価値観は萩尾氏の持つ本質的なものだとしていいのか。 この時代の一般的中年女性と考えるべきなのか。 1990年代の4…

  • 『あぶない丘の家』萩尾望都 その2

    ネタバレします。 高校・文化祭でマヒコの1年1組は「シンデレラ」の芝居をやることに。 シンデレラはマヒコ、王子様は律子、という配役だ。 そんな時、マヒコの隣家に金太郎という青年がやってくる。隣家にはおばあちゃんが住んでおりその孫なのだがなぜかマヒコにはあたりが強く。 その金太郎は両親から「おまえがおばあちゃんの養子になればお金を貸してもらえるのよ」という無体な身売りをしろと言われて良い子ぶっていたのだった。 おばあちゃんが一時危篤状態になり両親は遺産が入ると大喜びするがおばあちゃんは奇跡の生還をしたのだった。 しかしおばあちゃんが金を貸してくれるとなって一段落。 金太郎も自由の身となって美大を…

  • 『あぶない丘の家』萩尾望都 その1

    「ASUKA増刊ファンタジー」DX」1992年夏の号・秋の号~1994年10月号」 本作再読して驚きました。 これはもうひとつの『残酷な神が支配する』ではありませんか。 ネタバレします。 黒髪の可愛い顔の弟と白髪のイケメン兄という設定はまったく同じ。 しかもこのようにイケメン兄アズが可愛い弟マヒコをいつも襲うという設定(チガウ) 両作品の執筆はほぼ同時期に始まっているのでこの設定自体は並行して考えられたはずだ。 しかもふたりの両親は自動車事故で死亡してふたりきりで暮らすというのも同じ。 (まあ『残酷な』は金持ち過ぎて単純なふたり暮らしにならないが) 違うのはあちらがドシリアスなのにこちらはかな…

  • 『残酷な神が支配する』萩尾望都 その10

    最後の巻になってしまいました。 ネタバレします。 年末年始をずっとベッドで過ごすジェルミとイアン。 気づくと1月4日になっていてやっとふたりはベッドから出て動き出す。 早く日常に戻って勉強を始めようとするイアンの前にまたジェルミが現れて彼の心を振り回す。 かつてこの記事で「萩尾マンガでは美しい少女が男子を振り回すのが定番」と書いたが美少年も同じであった。 そうした関係性が好きなのだろう。 しかもジェルミはそれを気づかず「ぼくはいつもイアンの言う通りにしてきたのに一度くらい言うことを聞いてくれたっていいじゃないか」と涙しイアンは途方に暮れるのだ。仕方ない。惚れた弱みというやつだ。 ジェルミはペン…

  • 『残酷な神が支配する』萩尾望都 その9

    夢中で追いかけてもう9巻となりました。 今度は終わりそうなのが悲しいです。 ネタバレします。 ジェルミはエリックとその妻ポピーと共にバレンタインに会うためスエーデンへと向かう。 ところがエリックに抱きつかれた途端バレンタインは逃げ出し二階の窓から飛び降りようとした。 必死でそれを抱きとめたジェルミ。 この時、怪我の功名で今まで声が出なかったバレンタインがわめき声をあげたのだ。 どちらが辛い話か、という比較をしてもしょうがないが自分自身が女性のためか、ジェルミの物語よりもバレンタインの話が辛い。 双子の兄との間にできてしまった子供を殺してしまうバレンタインの苦悩と悲しみを思うととても辛い。 ジェ…

  • 『残酷な神が支配する』萩尾望都 その8

    どうしてもどうしても闇の奥から抜け出ることができないジェルミとイアン。 ますます複雑な迷路に侵入していくようです。 ネタバレします。 なんども繰り返されるジェルミとイアンの戦い。 シャロンによってふたりはリン・フォレストにいるナターシャと再会する。 ナターシャはジェルミに謝罪するがジェルミはそんなものは必要ないと答える。 どうしてもジェルミを捕まえられないイアンはあの鞭打ちの写真をもう一度リンドンに作ってくれるように頼み今度はジェルミとふたりでその写真を見ながら真実を聞いていく、という荒療治をし始める。 テーブルを挟んで向かい合うジェルミとイアンはまるでこれから戦うボクサーのようだ。 ふたりの…

  • 『残酷な神が支配する』萩尾望都 その7

    ますます迷走していくイアンの物語です。 ネタバレします。 セックスは仕事でしかないというジェルミ。 ジェルミに金を払って彼の身体を抱くイアン。 そのイアンは「愛しているのはナディア」だという。 ナディアという女性もグレッグの最初の妻リリヤを思わせる。美しいが頼りなく愛だけを求めている女性だ。 つまりナディアはイアンの母親に似ているという構図になっている。 もう逃げない、ジェルミに向き合おう、ジェルミと正しい関係性を持とうと決意したイアンだったがリンドンが心配した通り事態はそんなに思ったようには進まない。 イアンはますますジェルミとの関係がおかしくなりそれゆえにナディアとの関係も不自然なものにな…

  • 『残酷な神が支配する』萩尾望都 その6

    萩尾望都マンガは脇役も生きてるしちゃんと描いてくれるのでとても好きだ。 表紙の猫も良い。もちろんリンドンさんも。 ネタバレします。 イアンは大切なテストも放り出し今度こそはジェルミを救おうとアメリカボストンまでやってきた。 イアンの周囲の人々は彼を心配するがイアンにとってジェルミを見捨てることはできなかった。 この行動は多くの物語で行われないものだ。 たいがいは大切な人が失われ「あの時ぼくが追っていれば」という後悔の言葉によって締めくくられるのだが本作でイアンは後悔をしない行動をとる。 だがその行動はそう簡単には達せられない。 リンドンが言う通りイアンはジェルミが彼を必要とした時に何度も裏切っ…

  • 『残酷な神が支配する』萩尾望都 その5

    さて我々はイアンの苦しみ悲しみを見ていくことになります。 その父親と同じように尊大で美貌で有能で彼自身揺るぎない自信を持っている彼が「おまえは何も知らない馬鹿な人間にすぎない」と打ちのめされるのです。 ネタバレします。 告白すると約束したボート小屋に来て「もうグレッグとはセックスしたくなかった。だから殺したんだ」と告げてすぐに風雨の夜出て行ったジェルミをイアンとリンドンは追いかけるが姿が見えない。 ふたりはボート小屋周囲の水面を探し回る。 ジェルミの服を見つけたイアンは飛び込みジェルミを抱えあげた。 リンドンはふたりをすぐに小屋のなかへと運び入れる。 イアンとリンドンは手早くジェルミの服を脱が…

  • 『残酷な神が支配する』萩尾望都 その4

    「その4」じゃなくて4巻で良さそうだけど実は少しずつずれているのでそのままで行きます。 ネタバレします。 ついに4巻。 この4巻から主人公ジェルミは生きているグレッグに襲われることはなくなるが代わりに亡霊グレッグに苦しめられていく。 そしてイアンはこれまでの何も考えていないハンサムくんから深く考え怒り怖れ戸惑い悲しみ泣き苦しむ青年へと変貌していく。 最初は何故ジェルミの苦悩のパートナーにグレッグに生き写しと言えるイアンにしたのか、例えばマットではなくなぜイアンなのか、他の誰かでもなく、と思ったのだが本作のテーマとしてその相手はイアンでなくてはならないのだと気づく。 イアンはその容姿(長身で美貌…

  • 『残酷な神が支配する』萩尾望都 その3

    恐ろしく鬱陶しい物語なのですが主人公ジェルミがあきらめずなんとかできないか、と最初から行動し続けているために読むことができるのだと気づきました。 他の誰かに助けられるのを待つのではなく自分自身んで探求していくのです。 しかしそれでも精神が破壊されて行ってしまうのですが。 ネタバレします。 実際、グレッグのこの行動を止める方法はなかったのかと考えてみた。 しかし結局ジェルミにとっての問題はグレッグではなく母親のサンドラなのだ。 グレッグとの結婚が破棄されてしまうと弱い母は死んでしまうのではないかというブレーキがジェルミの行動をすべて封じ込めてしまうのだ。 ジェルミは売春宿街へ行ってディジーから話…

  • 『残酷な神が支配する』萩尾望都 その2

    萩尾望都氏はあちこちで「グレッグを描いていて辛くありませんでしたか?」という質問をされそのたびに「それが楽しくて仕方なかったんですよ」と答えるのを繰り返しています。 むろん萩尾氏は自分自身の辛かった時期を重ねて本作を創作したはずですがこれまでと違って親側に感情移入してしまったということでしょうか。 夏目漱石は小説を書くことで自浄作用があった、と『「坊っちゃん」の時代』に描かれていましたが萩尾氏も本作を描くことで何らかの自浄作用があった、ということなのでしょうか。 ネタバレします。 確かに、執拗にグレッグのジェルミへの性暴力は繰り返し描かれていく。 他のこういった作品であれば衝撃的な描写の後では…

arrow_drop_down

ブログリーダー」を活用して、ガエルさんをフォローしませんか?

ハンドル名
ガエルさん
ブログタイトル
ガエル記
フォロー
ガエル記

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用