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  • 『細雪』阿部豊/原作:谷崎潤一郎

    少し前谷崎潤一郎と『細雪』にはまっていた時にどうしても観ることができなかった『細雪』映画第一弾がまさかのYouTube無料配信なのですが二週間の限定期間なのでなにもをとりあえず鑑賞してみました。 www.youtube.com ネタバレします。 1959年版1983年版映画は鑑賞して比較にならないほど1959年版が良かったのだが本作を観たらやはりこちらの方が良い。 やはり『細雪』という作品は時代のものなのではないかと思う。 末妹の妙子のことが私は今まで好きでなかった。特に1983年版の古手川祐子が嫌でしょうがなかったけど高峰秀子の妙子がとても良くて考えがすっかり変わってしまった。 三女の雪子の…

  • 『張込み』『声』『共犯者』松本清張/「なぜ「星図」が開いていたか」より

    ネタバレします。 『張込み』1955年12月号「小説新潮」 映画はもう何度も観た作品である。 この作品で清張は女性に強い同情をしている。 確かに彼女は年の離れた吝嗇の夫から苦しい束縛をされ愛情の無い窮屈な毎日を送っているが度を越した折檻や理不尽があるわけではない。 それでも清張氏は彼女の人生が無味乾燥であることに優しいまなざしを送り昔の恋人との再会にそれまで老けた様子だった彼女が見違えるように恋情に燃えているのだと描く。 長い間松本清張に接してこなかった私は驚いた。 松本清張こそ「フェミニズムの作家」であると思うのだが世間ではそうした評価はされていないのが不思議である。 ただの家事奴隷として再…

  • 『反射』『市長死す』松本清張/「なぜ「星図」が開いていたか」より

    つづけます。 ネタバレします。 第4話『反射』1956年9月号「小説新潮」 これを読んで「松本清張作品というのは悪漢小説なんだ」と今頃気づかされた。 清張小説は氏自身の半生もあって貧しい主人公が社会に抗う犯罪が多い。 やむにやまれず、というような同情を誘うものではなく反逆の犯罪であるのだ。 本作主人公はどうしようもないチンピラ男だ。名は霜井という。 大学を出て就職をしているのだから貧困層というわけでもない。 が、金もないし頭も悪い。 初老男から囲われている女の愛人になっているような男でちびちびと女から小銭をせびっては「早く返してよ」と文句を言われるのをやり過ごしている。 ある時その女が「旦那か…

  • 『顔』『殺意』松本清張/「なぜ「星図」が開いていたか」より

    では最初からいきます。 ネタバレします。 第1話『顔』1956年10月「大日本雄弁会講談社ロマン・ブックス」(元・講談社) 松本清張作品でも有名で何度も映像化されている。 このブログでは1959年版岡田茉莉子主演映画と2009年NHKドラマについて記事にしている。 1959年版映画では主人公を女性に置き換えるという変更をしている。 gaerial.hatenablog.com たぶんこの時点では原作小説は読んでいないと思うのだが(その以前に男性主演ドラマを見ている)主人公を男性から女性に改変するのはただ単に性を変えるだけではすまないことがわかる。 男性が行動を起こしていくのと女性とではまったく…

  • 『なぜ「星図」が開いていたか』松本清張/「なぜ「星図」が開いていたか」より

    松本清張初期ミステリ傑作集と銘打たれています。 本著の中で『なぜ「星図」は開いていたか』は3番目収録なのだがタイトルが気になりすぎて最初に読みました。 ネタバレします。 『なぜ「星図」は開いていたか』1956年4月号「小説新潮」 ミステリ短編の教科書のような小説。 必要なことだけが書かれている。 真面目な高校教師である男が三日間のハンストを行った後に自宅書斎で突然死する。 机には百科事典の「星図」の頁が開かれていた。 彼は同僚に「菅野真道」について質問され調べようとしていたらしい。 だが開かれた頁はまったく違う「星図」の頁だったのは何故なのか。 まずタイトルがうまくって「星図」という言葉がなん…

  • 『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』モコちゃん 第2話

    ネタバレします。 第2話になって文句なしにおもしろい。 いや、あのエロシーンはどうなんだろう。 脳内のイメージだからもう少し違うエフェクトでやれるような気がする。 原作通りにやりたかったのだろうからやむを得ないけど。 まあ・・・ほとんどやってない気もするが。 他はほんとにしっくり来てる。 がぜん楽しみになってきた。

  • 『再春』『遺墨』松本清張「隠花の飾り」より

    ネタバレします。 『再春』1979年2月号「小説新潮」 本来この作品を読みたくて本著「隠花の飾り」を購入したのだが戸惑っている。 ネタバレします。 6月28日付のブログ記事に書いた『春の血』(「延命の負債」収録)松本清張1958年「文藝春秋」に掲載された短編はしばらくしてから荒正人氏によって「これはトーマス・マン「欺かれた女」の盗用である」と評され松本清張自身はその小説を読んだことはなかったのだが長い間どの短編集にも収録されず封印されていたという。 それが21年の年月を経て本作『再春』と題されて発表されたのが本作である、という経緯なのだ。 私はその「事件」を知って興味を持ち『再春』を探して読ん…

  • 『百円硬貨』『お手玉』『記念に』『箱根初詣で』松本清張「隠花の飾り」より

    ネタバレします。 『百円硬貨』1978年7月号「小説新潮」 妻子ある男と不倫関係に陥った伴子。その関係は四年越しであった。 男は本気で妻に離婚話を続けていたのだが妻はどうしても承知しないのだという。 ふたりの逢引はモーテルのような場所であり次に別のアパートを借りて一週間に二回くらいそこで過ごした。 幸い男の仕事は車のセールスマンで夜遅くまで売り込みをすることもある。伴子は銀行勤めで時間がきっちりしていた。 それを良いことにふたりきりの時間を持った。 妻はだらしない女だがきみはぼくに尽くしてくれる、と男は言い伴子はそんな男を可愛く思っていた。 結婚出来ればもっと良くしてあげられるのに、と伴子は思…

  • 『天幕のジャードゥーガル』第3話 アベル・ゴンゴラ/原作:トマトスープ

    ネタバレします。 最近はアニメを鑑賞能力が低下してなかなか観ているのが辛いのだけど本作は第3話がますます面白くなってきて信じられないほどの集中で観ることができた。 これまではなんとなく運命に流されてきたシタラが目覚めて復讐心に火が付く展開となる。 やはり人間を強くするのは復讐心かもしれない。 モンゴルの英雄チンギス・カンの四人の息子が登場。 ジュチ・チャガタイ・オゴデイ・トルイ。 そしてシタラは奴隷名であるシタラ(星という美しい意味を持つ)を捨てファーティマという名前を名乗っていく。 それはペルシャで自分を娘のように愛してくれた女主人ファーティマ様の大切な本を取り戻すためだった。 本はトルイに…

  • 『紅い白描』松本清張

    1961年7月号 ~1962年12月号「小学館」 酒井順子『松本清張の女たち』の中で「お嬢さん探偵」として紹介されていたので読みました。 ネタバレします。 「お嬢さん探偵」と言っても女性向けにほのぼの書かれているわけではなくやっぱり嫌な話が題材になっている。 松本清張は「昭和の男たち」の醜さを暴き出すために生まれてきたようだ。 主人公は原野葉子。美術大学図案科を卒業し葛山産業美術研究所に「最初は見習い」ということで就職する。 二年間は小遣い程度しか与えられないという取り決めであった。 こうした書き出しから葉子のデザイナー修行が始まる。 芸術性と精神性はつながっているか、というテーマとなっている…

  • 『北の火箭』『見送って』『誤訳』松本清張「隠花の飾り」より

    ネタバレします。 『北の火箭』1978年3月号「小説新潮」 以前読んだ「松本清張全集34」に収録されていた『ハノイで見たこと』から生まれた小説だろう。 gaerial.hatenablog.com 『北の火箭』ではふたりの日本人男性、評論家と雑誌記者の視点から見たふたりの外国人男女の戦場での恋愛を眺めては妄想する話になっている。 そう、妄想でしかない、という小説なのである。 ふたりの日本人男性は松本清張と森本哲郎である。 唯一の女性であると書かれるジネットのモデルは特にいないらしい。 『ハノイで見たこと』ではアメリカの女性小説家メアリー・マッカーシーが登場するが年齢的にもモデルであるかどうかは…

  • 『足袋』『愛犬』松本清張「隠花の飾り」より

    松本清張短編集を読むほどの楽しみはない。 ネタバレします。 『足袋』1978年1月号「小説新潮」 こういうことが絶対に現在にないわけじゃないけどやはり2016年の現在では男女が逆になるのではないか。 むろんそのまま男女性別が逆転するわけではないが。 昭和時代にはこうした話が多かったように思う。 「女性は男性なしでは生きられなくて男性から見捨てられた女性はその男性に付きまとう」 このことが事実統計的にもそうであったのかそれとも男性作家の思う女性の姿だったのかは私にはわからない。 ただ時代が進むにつれこうした「付きまとい」をするのは男性である、という犯罪記録が増えていっているのは勘違いではないだろ…

  • 『これ描いて死ね』赤城博昭 第1話/原作:とよ田みのる

    2026年7月 マンガはちょっと見でアニメ鑑賞しました。 ネタバレします。 マンガを読んで正直ちょっと自分の世界ではないかなあ、という(なにしろいつもは松本清張読を読んでいるような輩なのだ)気持ちがあっての鑑賞だったがアニメの出来が良く視聴し終えた。 あまりにもハッピーな世界観で抵抗はあるんだけど主人公が憧れのマンガ家に初めて会った場面では涙ぐんでしまった。 ついマンガ作品ももう一度眺め、とよ田氏過去作品『金剛寺さんは面倒臭い』も見てみる。 やはりハッピー感がすごい。 自分にとっては『天幕のジャードゥーガル』や『攻殻機動隊」より異次元世界に思えてならない。 それはすごいことなのではないか、と思…

  • 『陸行水行』その2 松本清張「偏狂者の系譜」より

    昨日『粗い網版』と続けて書いたけど『陸行水行』もう少し書きたくなりました。 ネタバレします。 『陸行水行』 この作品、松本清張としては『魏志倭人伝』の考察のみを書きたいくらいだったのにそれでは小説にならないし誰も読んでくれないだろうということで思いきりロマンチックな涙ものとして小説に仕立てられてのだと思う。 登場人物で学位一番の肩書を持つのが某大学万年講師である語り手なのだが彼はこのロマンチック紀行に参加しない。 夢溢れる冒険旅行に赴いたのは胡散臭い郷土史家と彼に惚れ込んでしまった古代史愛好家の中年男ふたりであった。 書かれたのは1963~1964年(昭和38・39年)である。 語り手の川田修…

  • 『粗い網版』『陸行水行』松本清張「偏狂者の系譜」より

    この『粗い網版』がなぜか私には読みづらくて脱落しました。 ネタバレします。 『粗い網版』1966年「別冊文藝春秋」 こういう読んだだけでわからない小説こそドラマ化してほしい。 小説がすぐにそのままAIドラマ・アニメ化できるようになればいいなあ。 とはいえ本作は私がこれも気になっているのに理解できないでいる『神々の乱心』につながるのだろう。 松本清張は”宗教”にも強い関心・興味を持っているのは幾つも宗教関連の作品を描いているのからもわかる。 『黒い福音』でもカソリックと日本政府のつながりが描かれそれが警察を動かしていく。 本作も『神々の乱心』も警察が目となっていく。 そして任務を遂行する秋島は課…

  • 『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』モコちゃん 第1話

    2026年7月 どうなるのかなと期待と不安の原作遵守という触れ込みの新作アニメ。 鑑賞しました。 ネタバレします。 観ていて恥ずかしいのはなぜだろうか。 自分で作ったかのように恥ずかしかった。 いや私はそれほどの『甲殻』ファンでもないし原作当時からの古参とかでもないのだからそんな思い入れをする必要はないのだが。 それでももぞもぞする恥ずかしさに耐えきれない。 よくできていた、のは確かだと思う。 初めて観た人はどんな感想だったのだろう。 これまでの『攻殻機動隊』アニメを未体験で本作が初の方の感想を聞いてみたい。 本作はこれまでの押井・神山世界で作り変えられた『攻殻機動隊』をもともとの原作マンガ作…

  • 『天幕のジャードゥーガル』1・2話

    wowowにて鑑賞。 マンガも少し読んだけでほぼ知らず。 話題になっていて気になり鑑賞しました。 ネタバレします。 というほど何も言えないけどとても面白く次が気になる。 私はイスラムの方はさっぱりわからないがモンゴル舞台の作品はこれまでそれなりに観たり読んだりしてきた。 なので自分的にはモンゴル目線のほうになってしまうのだが恐れられていたモンゴル兵の恐怖を感じることができた。 アニメで女性主人公の物語といえばどうしても日常的なものになりがちか、冒険アクションものであれば貴族か特殊な能力を持つ女性という設定が多いように思える中、歴史冒険アクション(たぶんだが)で奴隷の少女、というと奴隷ではないが…

  • 『皿倉学説』松本清張「偏狂者の系譜」より

    これまで読んだ松本清張作品では最もおぞましい怖い小説ではないでしょうか。 ネタバレします。 『皿倉学説』1962年「別冊文藝春秋」 これも学者の話だが”科学者”はこれだけらしい。 とはいえ気の強い怖い本妻がおり若い愛人を作って困窮する、という枠組みはほぼ同じである。 主人公は採銅健也、65歳。R医科大学教授。教授という肩書なのだからいつものようにしょぼいわけではないがなぜかしょぼい立場になっている。 定年で官大(官立大学というのがあったのを知った)を退職し弟子の永田盛治たちの好意で拾われたという経緯である。 生理学の大家として知られているのだが官大の名誉教授に否定されかかったのだ。 その理由が…

  • 『笛壺』松本清張「偏狂者の系譜」より

    松本清張短編を読むのが楽しすぎてもう少しこの楽しみに浸っていきます。 『笛壺』冒頭に主人公が”武蔵境の駅で降りて歩いてきた”という文章があった。 先日Xで「村上春樹の新作『夏帆』に武蔵境が出てくる」と知ったばっかりで記憶に鮮明。 本作は主人公が武蔵境に行き孤独の侘しさを噛みしめるところから始まる。 ネタバレします。 『笛壺』1955年6月号「文藝春秋」 偶然なのだけど昨日読んだ『月』に類似した歴史学者系譜の作品であり、女房を持ちながら年の離れた若い女性に引き寄せられていく、という流れまでが似通っているのがおもしろい。 清張作品未熟者だが「学者と若い女」というのがセットになるのが通例なのかな。 …

  • 『月』松本清張「延命の負債」より

    1967年「別冊文藝春秋」 名作として名高い本編一作が残っていたので慌てて読む。 ネタバレします。 一読するとシンプルな短編なのだがその内容は複雑である。 そのイメージは書道で書いた傾いた「月」の形である。 それは年老いた歴史学者の前に現れた四十歳も年下の若い女性が書いた文字なのである。 その字は斜めに傾いていていつも老学者の心を不安にさせるのだ。 主人公の名は「伊豆亨(いずとおる)」 明治時代における官学の大御所である谷岡冀山の門下生だがその存在は他の精力的な弟子の中で目立たないものであった。 目立たないというより厭われているという方がより近いのかもしれない。 「伊豆君が来ると座が陰気になる…

  • 『プロジェクト・ヘイル・メアリー』フィル・ロード&クリストファー・ミラー

    2026年「Amazon MGMスタジオ・ディストリビューション」 アマゾンプライム見放題にて鑑賞。 公開前、映画製作の話を聞いてから我慢できず原作をaudibleで聴き 公開後は多くの方からの感想と数えきれないほどの二次絵を見て待ちました。 もうほぼ鑑賞したような気持ちにすらなりましたが今日ついにアマゾンプライム見放題になったので早速鑑賞しました。 いや、それでも想像以上に良い映画です。 ネタバレします。 と言っても今日はやっと鑑賞し終わったというところなのでそれ以上に書くことはない。 上に書いたように原作は履修済み。さまざまな場面は皆さんの感想&イラストでほぼ体感していただけどやはり映画は…

  • 『子連れ』『余生の幅』『三味線』松本清張「延命の負債」より

    続けます。 ネタバレします。 『子連れ』1965年「小説新潮」 松本清張作品を読み続けていくとほぼ同じような設定が繰り返されていくことに気づく。 普通ならこれは悪口になってしまうのだろうけど清張の場合はそれだけではないと思えてしまう。 松本清張作品はほぼ自分が体験してきたことから発展しているのだろう。 例えば職業がこの作品でも語り手が「小説家」である。よく登場するのが「印刷屋」「新聞記者」「小売業」これは清張氏が体験してきたことからで書きやすいのがわかる。 そうした職業だけでなく印象的なのが本作に出てくるのが「子連れの脅迫者」である。 と言えばすぐ思い出すのは清張代表作である『鬼畜』だろう。 …

  • 『いきものの殻』『津ノ国屋』松本清張「延命の負債」より

    ようやく逃げ出して戻って参りました。 やはり本物を味わうのが最高です。 ネタバレします。 『いきものの殻』1967年「別冊文藝春秋」 なんとなく筒井康隆を思わせる。 というか筒井康隆が松本清張的だったということか。 読んでこなかったからこういう逆転の感想になってしまう。 筒井康隆だと「俺」という一人称で書いてしまうのかもしれないが清張は三人称で書いていく。とはいえほぼ波津の語りのような文章である。 波津良太は「R物産株式会社」を三十年間勤めあげ最後は総務部長という経歴を持つ。 明治の元勲の邸宅が使われているという料亭でその会社を退職した社員で結成されている「社人会」の年に一度の総会が行われてい…

  • 『松本清張の深層心理』藤脇邦夫 その2

    昨日に引き続き『霧の旗』の考察を読んでいったのだがどうにも進むべき道を間違っているような気がしてここまでとしたい。 『霧の旗』の原作小説及び山田洋二監督映画を観てこのような感想・考察をしていくのは個々によるものだが私にとってはあまり共感するところもなく重要な手がかりになったという手ごたえが感じられなかった。 当時に封切られた『眼には眼を』という映画紹介はありがたいものだが説明が詳細すぎて内容が薄くなってしまったのではないだろうか。 『霧の旗』だけでなく松本清張が他の作家と大きく違うのはあの時代に何の力もない女性を主人公にしていったことだと思っている。 確かに清張氏自身が『眼には眼を』をきっかけ…

  • 『松本清張の深層心理』藤脇邦夫 その1

    膨大な数の松本清張作品の沼に足を踏み入れてからまだ間もない私であります。 読んだ数はまだ読んでいない数のどのくらいの割合になるのやら見当もつかないのですがここにきてふと気づいたのはこの「昭和の代表作家」と呼ぶべき松本清張の解説本、評論集、分析・考察本があまりにも少ないようだ、ということでした。 そもそもがミステリー作品なのだからそうした謎解き考察本はむろんのこと、実際の事件とのかかわりとしてもジェンダー論としても様々な角度からの分析されてしかるべき作品群であり作家なのにそうした本が他の作家に比べ少なすぎるのではないでしょうか。 むろん私が気づいていないだけでこれからあちこちで見かけていくことな…

  • 『賞』『春の血』松本清張「延命の負債」より

    小説を書く時、いや他のジャンルでもだがこの『賞』のようなタイトルをつけてしまうと検索するのが大変なので気をつけましょう。 どうしても『松本清張賞』という検索結果がでてしまう。AIが勘違いしてしまうのでした。 ネタバレします。 『賞』1957年「新潮」 これもまた傑作だった。 なぜこんな面白いものを思いつき、書けるのだろうか。 ちょっとあり得ないきっかけではある。 冒頭に「私」は「粕谷侃陸(かすやかんろく)」という名が記された著書がかなりの古本屋で見かけるところから始まる。 とはいえその本はたいてい棚の上の方の天井近いところで埃を浴びていた。 その本は二冊あって一つは千ページほどもある『古社寺願…

  • 『ひとり旅』『九十九里浜』松本清張「延命の負債」より

    ネタバレします。 『ひとり旅』1954年「別冊文藝春秋」 この話も清張氏の経験をもとに描かれている。 主人公・田部は貧しい境遇だったために「旅」に憧れていた。 地理の教科書もその夢を見させた。 が、現実にはあり得ないと諦めていた彼が初めて「旅行」したのは戦争での従軍で訪れた韓国の京城であった。その先に予定されていたニューギニアには行かずにすんだのは幸運だったとしか言えない。 戦後の彼が携わったのは大分の竹を材料にした熊手や竹籠などの注文を取る仕事だった。 行先は北九州や山陽筋の問屋でありさらには大阪方面にも伸びた。 それは彼にとって幼い頃からの夢だった「旅」の実現となったのだ。 ところがある時…

  • 『延命の負債』『湖畔の人』松本清張「延命の負債」より

    短編集 ネタバレします。 『延命の負債』1977年9月号「小説新潮」 短編ミステリーのお手本のような構成。 切れ味凄い。 清張氏は自身が印刷業であったから印刷会社の話が多い。 本作でも主人公は個人経営の印刷会社を経営している。 非常に仕事熱心なのだが生来心臓が弱い。 大きな取引が始まることになり張り切ってきたところ心臓発作があり手術を決めた。 主人公は挫けることなく将来への展望を描くのだが過剰な設備投資と担当医への過大な礼金を払うため借りた金融業者への支払いができずに自殺する。 なにごとも地道にやらねばならないという教えである。 『湖畔の人』1954年2月号「別冊文藝春秋」 この話は思いもよら…

  • 『ひつじ探偵団』カイル・バルダ

    2026年「Amazon MGMスタジオ」 Xで見かけて気になっていた『ひつじ探偵団』がもうアマプラで観放題鑑賞になっていました。 さすがにびっくりでしたが配給がAmazonMGMスタジオってことで当然だったのですかね。 早速鑑賞しました。 こちらの不手際不具合かもしれませんが、英語音声なのに字幕がついておらず日本語字幕をつけようとしてもできずやむなく日本語音声にしたら字幕まで出てきたので切り替えてやっと英語音声&日本語字幕で途中でしばらく停止していたら元にもどるという・・・めんどうなので日本語音声にして最後まで鑑賞しました。 ネタバレします。 そういった細かい苦労は一切吹き飛ぶ面白さだった。…

  • 『鬼畜』松本清張:「桐野夏生オリジナルセレクション”憑かれし者ども”」より

    『鬼畜』1957年『別冊文藝春秋」 このセレクションの2番目に収録されていたのだが怖くて読むことができませんでした。 勿論読んだこともあって映画も鑑賞済みです。 映画も再放送なんかがあっても決して再び観ることはできません。 この本の収録中に限らず、この世の中で最も怖い話ではないでしょうか。 ネタバレします。 映画はもう観ることはしないと思う。あまりにも恐ろしいからだ。 岡田斗司夫氏は「感動して涙を流すのは自己弁護をしているだけ」と言った。私もそれに賛同するがあの映画はそれすら許さない恐怖がある。 比して松本清張原作はその見たくない部分は書いてはいないので読むことはできた。 今回読むことにした『…

  • 『密宗律仙教』松本清張:「桐野夏生オリジナルセレクション”憑かれし者ども”」より

    1970年「オール讀物」 新興宗教の話。 松本清張は「宗教」への強いこだわりがある。 強い怖れというものが。 ネタバレします。 尾山定海、俗名・武次郎。真言宗の僧籍に入り後自ら「律仙教」を創設する。 石川県農家の生まれである。 十五歳で家を飛び出し金沢の或る印刷屋に見習い職人として住み込む。 以後三十五歳まであちこちの印刷屋を回りながら武次郎は女色と切れることがなかった。 というのが本作主人公で新興宗教を作った男の前半生である。 ヘッセの『知と愛ナルチスとゴルトムント』を彷彿とする。 武次郎は次々と年増女たちから性の手ほどきを受けていく。 清張氏はそれを年譜風にまとめ上げていく。 武次郎は印刷…

  • 『馬を売る女』松本清張:「桐野夏生オリジナルセレクション”憑かれし者ども”」より

    『馬を売る女』1977年「日本経済新聞社」 この本で134ページの小説なので短編というよりは中編の部類に入るだろう作品でした。 とはいえわずか134ページでこの内容の濃さは凄いのではないでしょうか。 ネタバレします。 もしかしたら長編としてもよかったかもしれない内容設定に思える。 なんとなく『黒革の手帖』と重ねてしまう設定でもある。『黒革の手帖』はこの作品から3年後に書かれる。 松本清張といえば「強い女」が多く登場するが「耐える女」から「仕掛けてくる女」へと変遷していくように思える。 とはいえ(いきなりネタバレだが)二つの作品とも不幸なラストになってしまうのは松本清張らしい「悪党には懲罰を」が…

  • 『発作』松本清張:「桐野夏生オリジナルセレクション”憑かれし者ども”」より

    ネタバレします。 『発作』 いつの時代にも通用する話に思える。 主人公男・田杉は苛立ちが常にある。 なにもかもが苛立ちの原因となっている。 給料は前借をし続けているのでわずかしか手に入らずそれでは足りないのでまた前借を要求することになるが断られる。 その乏しい金の中から郷里に帰った妻への仕送りをしなければならない。 彼の妻は結核で療養所に入っているのだ。 が、田杉は妻への憐れみはまったくない。むしろ愛してもいない妻に仕送りをし続けねばならないことに苛立っている。 田杉の楽しみは競輪と愛人のふじ子との逢引だ。 だが会社の就業時間中に競輪に行き、その間に大きなミスをやらかして叱責されたことに苛立つ…

  • 『赤いくじ』松本清張:「桐野夏生オリジナルセレクション”憑かれし者ども”」より

    1955年6月号「オール讀物」(元タイトル:赤い籤) 酒井順子『松本清張の女たち』の中に取り上げられていた作品で収録されていたのがこの本だった。 ネタバレします。 1944年戦中から1945年戦後にかけて朝鮮を舞台にした物語、なのは松本清張自身がちょうどその頃朝鮮で軍役についていたからだろう。 戦中の朝鮮は日本統治下であるが日本が敗戦した途端に戦勝国となる。 支配者であった日本軍部がその時を境にしてアメリカ軍への「おもてなし」を考えるという無様さが描かれる。 私は子どもの時から素直に「カッコイイヒーローたち」に憧れてきた。 ほとんどが男性(男子)であった。 か弱い女性(女子)を守って戦う姿に憧…

  • 『雪紅の皇子』──夢の碑より── 木原敏江

    1998年「小学館」 「夢の碑」シリーズの中で私が一番好きで読み返した作品です。 と思っていたら作者木原敏江氏もシリーズ一番のお気に入りと書かれていて「そうですよねえ」と思ってしまいました。 ここのとこ日本史南北朝時代に思いを寄せていてやはりこの作品を取り出してしまいました。 正確にいうと(というか木原氏の説明でも)この作品はすでに南北朝ではなくすでに室町時代となっている頃、南朝の残党の物語であります。 ネタバレします。 冒頭、根姫(ネキ)という女猿楽師の少女が登場する。 彼女は両親と死に別れひとり舞楽によって生活をしていた。 そこに旅の僧侶と出会う。 会いしなに僧侶はネキの秘密「頭にはえた角…

  • 『松本清張の「遺言」』原武史 その3

    さていこう。 ネタバレします。 第五講 「足利」───中世と反逆 この講の冒頭に書かれている「南北朝正閏論」に今はまっている。 はまっている、というのはおかしいがこれまでこのあたりを学んでこなかったせいでよくわからないのだ。 現在の天皇が北朝であるにもかかわらず「正統なのは南朝」とされている事実もよくわからない。 どういう論理、整合性、気持ちが交じっているのだろう。 貞明皇后お気に入りの女官・足利千世子は喜連川という源氏名を持っている。 彼女は栃木県佐野町に住む。なぜ足利氏にゆかりの深い足利市に住まないのか。足利尊氏が乱心賊子の見本とされた以上、あの土地に家をもつ気にはなれないという。 『入江…

  • 『松本清張の「遺言」』原武史 その2

    つづけます。 ネタバレします。 第三講 「秩父」───弟とクーデター 小説の舞台となる埼玉県「梅広」という架空の場所を現在の東松山であると推理して語られていく。 ここに謎の信仰宗教組織「月辰会」の本部がある、とされている。 月辰会はアマテラスの弟ツクヨミを祀っている。 これなら不敬罪に引っかかる気遣いはない。 ツクヨミを祭神とした月辰会教祖の秋元伍一は自らの名を平田有信に改めた。これは江戸時代の国学者平田篤胤にちなんだものだ。 そして平田篤胤は『霊の真柱』の中でツクヨミとスサノオを同一神とみなしイザナギから生まれたのはアマテラスとツクヨミ=スサノオの二神とした。 埼玉県にはスサノオを祀る氷川神…

  • 『松本清張の「遺言」』原武史

    ※本書は、2009年に刊行された『松本清張の「遺言」――『神々の乱心』を読み解く』(文春新書)と、『文藝春秋』2010年4月号に掲載された「『昭和史発掘』を再発掘する」を合わせて一冊にしたものです。 先だって松本清張著『神々の乱心』を読んでみたものの未完とはいえよくわからず。 本著を読むことにしました。 少しでも理解につながるといいのですが。 さらに折しも今現在現実の天皇制の在り方についての議論が政府と国民双方から起きています。 国民側の多く(その数は七割とも九割とも言われる)は天皇の長女である愛子さまをそのまま天皇としてほしいと望んでいるようですが、政府の一部では男系男子でなければならないと…

  • 『学生を戦地へ送るには―田辺元「悪魔の京大講義」を読む― 』佐藤優 その6

    続けます。 ネタバレします。 7 日曜朝 亜周辺の帝国で 柄谷行人『帝国の構造』 この合宿のテーマである〈あの戦争と国家〉に基づき「第7章 亜周辺としての日本」の抜き読みをしていく。 佐藤氏によるとこの本で柄谷氏は「近未来に日中戦争が起こる」と言っているのだという。 「亜周辺とは周辺とは違って中心による直接的支配の怖れがなく、文明の摂取を選択的に行うことができるような空間です」 専制制と封建制の違い。 ヒエラルキーが成り立つか成り立たないか。封建制はリゾーム状の構造になる。 専制制のようなツリー状の構造のヒエラルキーではなく根っこがグジャグジャに重なり合うような状況になるのが封建制なのだという…

  • 『学生を戦地へ送るには―田辺元「悪魔の京大講義」を読む― 』佐藤優 その5

    さあ参ります。 ネタバレします。 6 土曜夜「死に於て生きる」 「五 歴史に於ける発展と建設 歴史社会の構造契機である種族・個人・人類の関係を時間の過去・未来・現在に対比して考え、その契機のどの一つも他の二つを媒介している。その場合意志を持って為すべきことを為すのは個人の外にはない。種族と人類は決してそれ自身が直接に自覚的に意志を持って努力することはない。 個人は種族を人類の立場に媒介するものでありそこに個人の任務があるといってよい。 文化が建設されねば歴史の意味が成り立たないとすれば歴史に於ける個人の任務は大であることを認めねばならない」 ドイツ人にとって建設(Aufbau)という言葉は格別…

  • 『学生を戦地へ送るには―田辺元「悪魔の京大講義」を読む― 』佐藤優 その4

    ネタバレします。 4 土曜午後Ⅱ 個人・種族・人類 『歴史的現実』 三 歴史の地域性、国家と人類、政治と文化 絶対有から絶対無へ。 無くして有る。未来は無いものだが、ただ無いのではなく将来の企画が我々の現在を支配している。すなわち実は現在に有るものである。 世界は神なのか悪魔なのか。 無の哲学を田辺元は説くがそれはシェリンクの「空虚な空間ができて、何でもありの世界になっている」という認識を手鍋は出典を明らかにせず自分の言葉にしてしまっているらしい。 ここで再び「歴史はひとつではない」という言葉が登場する。 歴史的人物もずっと同じ評価をされるものではない。 ある時に英雄でもある時は反逆者となる。…

  • 『学生を戦地へ送るには―田辺元「悪魔の京大講義」を読む― 』佐藤優 その3

    さて参ります。 ネタバレします。 歴史を考える時に「相対的」と「絶対的」があり、私たちはいつもこの点で揺れ動く。 例えば日中韓の戦争問題でそれぞれの言い分がありそれぞれが唯一の歴史があると主張するのだが全部違っていて当然なのだと佐藤氏は言う。 講義は田辺元『歴史的現実』を読み進めるが佐藤氏は田辺の言葉が幾人もの学者たちの言葉をその名を挙げることなく使っていることを指摘している。 なので田辺元のこの「講義を速記した本」は田辺の言葉として記されているが他人の言葉をそのまま自分の言葉として用いているようだ。 「時」というものも「歴史的現実」と同じくわからないもの、わかっていてわからない、という不思議…

  • 『学生を戦地へ送るには―田辺元「悪魔の京大講義」を読む― 』佐藤優 その1

    2017年「新潮社」 偶然出会って何故か絶対読まなきゃいけない気がして読み始めています。 少し読んでなぜもっと早く見つけなかったかという心境なのですが(いつもそう)とにかく読んでいきます。 【amazonでの著書紹介】 日米開戦前夜、京都大学の哲学教授・田辺元は学生たちに「悠久の大義のために死ねば、永遠に生きられる」と熱く語りかけ、その講義録『歴史的現実』はエリート学生のバイブルとされた。若者たちを死に至らしめた巧妙なロジックとは? 田辺の矛盾と欺瞞を暴き、〈戦前回帰〉の進む現代に警鐘を鳴らす、佐藤優渾身の合宿講座全記録。 ネタバレします。 本書前書きには「時代が嫌な方向に動いている。特にドナ…

  • 『地球が静止する日』スコット・デリクソン

    2008年「20世紀フォックス」 昨日鑑賞した『地球の静止する日』のリメイク。 リメイク映画は大概「なんだかな」的なものが多いという印象があるが本作はマジできっちりリメイクしているという感があり感心しました。 ネタバレします。 「横山光輝『マーズ』は『地球の静止する日』と似ている」というコメントをいただいてからの『地球の静止する日』再鑑賞そして今回の『地球が静止する日』初鑑賞になったのだが本作を観ていると様々な日本の特撮ドラマ・マンガ・アニメと重なってきた。 もしかしたらスコット・デリクソン監督かなりの日本SFオタクなのではないかと思ったりする。 冒頭、本作は『地球の』にはなかった雪山場面から…

  • 『地球の静止する日』ロバート・ワイズ

    1951年「20世紀フォックス」 昨日拙ブログの2024年3月2日記事”『マーズ』 横山光輝”にX^2さんから 「「マーズ」と海外SFとの関係でいうと「幼年期の終わり」よりむしろ「地球の静止する日」ではないでしょうか。」 というコメントを頂きました。 1951年度版映画『地球の静止する日』は調べたら遅くとも2023年5月には観ているのでこの記事の時は知っているはずですがその時は『幼年期の終り』にはまっていて言いたかっただけではないかと思います。 しかも現在すっかり『地球の静止する日』を忘れてしまっていたので(ぼんやり幾つかの場面を思い出す)再鑑賞してみました。 ネタバレします。 いやあ、面白か…

  • 『国宝』李相日

    2025年「東宝」 映画情報を知ってすぐ原作小説を読み配信を待っていました。 アマゾンプライムで鑑賞。 ネタバレします。 原作小説で内容は掴んでいたので非常にわかりやすく鑑賞できた。 なので情報なしで鑑賞する感想はできない。 当時「この映画を好きになった人は是非『覇王別姫』も観てください」というレビューがよくあった。小説体験のみとしては「違うんじゃ」と思っていたが映画を観るとこちらは確かに『覇王別姫』を下敷きにしているのがわかり納得した。 『国宝』小説から重ねたのはむしろ少年マンガの世界である。一番近いのは『あしたのジョー』ではないか。 ふたりの関係がジョーと力石を感じたし主人公がドサ回りをす…

  • 『廃用身』久坂部羊(小説)

    2005年「幻冬舎」(小説) 先日ネットで映画情報で知って原作小説をaudibleにて聴く。 おもしろく聴いていったがその後に疑問が浮上する。 この作品は明確に優生学小説として面白がるものであってそれ以上ではない。 ネタバレします。(『わたしを離さないで』のネタバレもします) 「介護が必要な老人の廃用身となった手足を切り落とす、というショッキングな内容。これは是か非か」 という訴えの小説なのである。 映画も予告や主演俳優の説明を聞いている分にほぼ同じもののようだ。 しかし自分としては「この内容は作品としてはそれほどショッキングなのかなあ」という感じであった。 奇しくも同じ年2005年に『わたし…

  • 『インキーパーズ』タイ・ウェスト

    2012年「マグノリア・ピクチャーズ」 『X エックス』三部作があまりに素晴らしかったのでタイ・ウェスト監督作品をもう少し観たくて鑑賞しました。 ネタバレします。 やはりタイ・ウェスト監督優秀だと思う。 ホラー・ムービーというより怪奇小説派が好む感じの映画作品ではないか。 他の方のレビューを見るとガッカリ派と良かった派にはっきり分かれている。私は「良かった」以上の「最高なのではないか」派である。 タイ・ウェスト作品は仕掛けとしては「いかにもホラー」なのにもかかわらず「だからこそおもしろい」 舞台はアメリカコネティカットの古くて小さなホテル。 来週(だったかな)には取り壊され駐車場になる予定だと…

  • 『母という呪縛 娘という牢獄』齊藤 彩

    2026年「講談社」 「滋賀医科大学生母親殺害事件」 2020年12月、筆者は大阪拘留所を訪ねる。 そこで拘留されている34歳の女性に面会を求めた。 彼女は未決拘留者でかつ身柄を拘束する必要があるとして収容されている。実の母親を殺した殺人罪で起訴され大阪高裁での公判が継続中だった。 被告にとって赤の他人の面会は必ずしも応じられるものではない。期待はできないまま筆者は返事を待ちそれは叶えられた。 新型コロナウィルスの感染者数が更新し続けている時期であった。 面会時間は15分のみ。筆者は被告と話をした。 ネタバレします。 被告は「髙崎あかり」そして被害者である母親は「妙子」という仮名をつけられ本編…

  • 『MaXXXine マキシーン』タイ・ウェスト

    2024年「A24」 『X エックス』『Pearl パール』に続く三部作の最終章。時系列は『X エックス』の後日譚となる。 ネタバレします。 この三部作、文句なしのホラー傑作なのは間違いない。 1979年代を舞台にした第一作『X エックス』は『悪魔のいけにえ』のオマージュ作品、第二作目『Pearl パール』は1918年へと遡り農村の少女の心理を描き第三作目=本作=『MaXXXine マキシーン』は1985年ハリウッドを舞台としている。 三作品の共通点はアメリカでスターになることを夢見る少女の物語ということだろうか。 とにかく一作一作が手を抜くことなく細かく丁寧に作られている。 特に三作目が舞台…

  • 『 X エックス』タイ・ウェスト

    2022年3月「A24」 昨日観た『Pearl パール』の数十年後の話、だが順番的にはこちらが第一作である。 とはいえ『Pearl パール』を先に観て正解だった。本作を先に観ていたら『Pearl パール』は観なかったかもしれない。 ネタバレします。 とは言ってもこの映画が駄作凡作だというわけではない。 非常によくできた傑作なのだというのは確かなのだけど私自身がホラーが苦手で特に本作のような脅かしと残虐性を露わにしていくホラーは観ていられないのだ。 なので本作はできるだけ目をそらしながら鑑賞した。 1974年製作『悪魔のいけにえ』をそのまま再現したかのような作りになっているが若者たちはほぼ変わら…

  • 『Pearl パール」タイ・ウェスト/主演・脚本ミア・ゴス

    2022年「A24」 何も知らずに観てしまいました(とはいえ主演ミア・ゴスの笑顔だけはXで何度も見た) 三部作の真ん中らしいです。一作目の前日譚なのだがこちらから観てよかったのではと何もわからないまま思っています。 ネタバレします。 この話はたぶん各国どこでも共感できる話なのではと思ってしまう。 読売ジャイアンツの監督だった阿部慎之助の娘への暴力事件が話題になっている今家族間の暴力がどのように娘に影響するのかを考えさせられる。 しかしこの映画を観ていても娘パールに加虐し続ける母親もまた家父長制の犠牲者ではある。逃れられない戒めの中で母親は娘を戒める。 世の中は暴力から逃れられず暴力に苦しみなが…

  • 『西鶴一代女』溝口健二

    1952年「東宝」 ネタバレします。 「お春」という女性をひとつの女性の理想もしくは「そういうもの」として描いたものなのだろうがその姿はあまりにも「気持ち悪い」のであった。 こういう女性がいないというのではない。 むしろ女性の在り方として在るといえばそうなんだろうけどすべての女性の形を集めて凝縮させて「これが女性」として語られるとなんだか不気味にしか見えないのである。 「お春」はしっかりした気性を持っているのにもかかわらずなぜかいちいち男の言いなりになってしまう。そしてそれを問い詰められるとむっとしてしまうのだけどどう見たってそう言われて仕方ない。 いい格好をやめるのができないのだがこれはむし…

  • 『噂の女』溝口健二

    1954年「大映」 なぜこのタイトルなんだろう? 溝口健二監督作品と気づかなければ観なかったかもしれません。思いがけず良い映画を見つけてしまいました。 京都島原の廓でただ一軒太夫の置屋とお茶屋を兼ねた、井筒屋の女将初子 というのが本作のヒロインで田中絹代が演じています。 ネタバレします。 舞台はそのまま1950年代の京都、ということでよいのだろうか。 初子の娘・雪子は東京の音楽大学でピアノの勉強をしていたのだが失恋で自殺未遂となり母・初子が迎えに行って我が家も兼ねるいわゆる女郎屋に戻ってくるところから始まる。 大学生でもある雪子は自分が売春婦たちが稼いだ金で大学で学んでいることに引け目を感じて…

  • 『無名の人生』鈴木竜也

    2024年「ロックンロールマウンテン」 以前ネットで本作の存在を知って気になっていた作品がいつの間にかwowowで放送されていたので鑑賞しました。 ネタバレします。 そんな風に期待していたアニメ映画だったのだけど一度観てさっぱりわからず二度三度と観てもわからず、でも観るのが嫌にはならず何度でも観てしまう不思議な作品でもあった。 とりあえずわかるのは、というか初めて情報得た時に知った「ジャニーズ問題」を描いたものだということだがそのままを露骨に描いているわけではないのは間違いない。 なにかヒントはないかと乏しい知識の中から幾人かをピックアップして検索してのだがこの人だけというのはなくて幾人かの組…

  • 『さらば、わが愛/覇王別姫』陳凱歌

    1993年「北京電影製片廠 トムソン・フィルムズ 中国電影合作製片公司」 昨日に続き再会映画鑑賞。 ネタバレします。 冒頭から暴力の嵐のような映画作品だった。 京劇役者になるための子どもたちは幼い時から激しい折檻を受けながら稽古を重ねていく。身寄りもなく逃げ出す場所もない。 互いを思いやる主人公蝶衣とその兄弟子石頭もその暴力の中で育っていく。 やがて来る戦争と大日本帝国軍からの恐ろしい暴力。 抗日運動、文化大革命。 蝶衣と石頭と菊仙は文革の責め苦に耐えきれず互いを罵りあう。 暴力から逃れる術は死しかない。 悲しい。

  • 『花の生涯〜梅蘭芳〜』陳凱歌

    2008年12月「中国電影集団 中環国際娯楽事業股份有限公司 英皇電影国際有限公司」 アマプラKADOKAWAに加入してしまったので何かないかと探していたら本作に出会いました。出会うというよりも再会です。 私は一時期中国作品に埋没していたのですが本作品もその時に鑑賞していました。 一度(というか何度かですが)観たものなので迷いはしたものの鑑賞したところかつてこれほど感動していただろうか、というほど心を掴まれてしまいました。 ネタバレします。 本作を鑑賞して感動した、と書いたなら必ずや同監督の「それでは是非『覇王別姫』をご覧ください」というコメントをもらいそうだがご心配なくそちらはもうすでに数え…

  • 『流転の王妃』田中絹代

    1960年「大映」 映画やドラマは数えきれないほどあるのになかなか観たいものが見つからない中で「アマゾンプライム「KADOKAWA」にて鑑賞。 ネタバレします。 この年代の歴史物語にものすごく興味があるのだけど作品自体がそれほどない上に興味を持てるもの、充実しているもの、となるとなかなか出会えない。 その中で本作はかなりの価値があると思えた。 何度も書くけど田中絹代は女優として有名だが監督だったというのは最近まで知らずにいた。 ここに至って続けて鑑賞したがどれも上質な映画作品でなぜもっと話題にならないのかと思うのだ。 田中絹代作品はどれも「女性の生き方」について描いている。 本作は侯爵家の令嬢…

  • 『草』松本清張/松本清張全集4「黒い画集」より

    1960年4月~6月「週刊朝日」 松本清張全集4「黒い画集」の最後の収録作品となる。 これもここまでの作品とは一味違う建付けであった。 ネタバレします。 本作はまったくの「ベッド・ディテクティブ」かと思いきや実は・・・という作品であった。 実をいうと途中で「うん?」と気づいてしまったのだがこれはもう松本清張が何かやるだろうと思っているからでしかない。 本作品で最も気になるのは重要な役割となっている50歳くらいの女性が任じる「付添婦」である。 書き手であり主人公である「私」=沼田一郎は42歳だがこの「50歳くらいの付添婦」河原タミを「おばさん」と呼んでいる。 今でも「あり得ない」ということもない…

  • 『濁った陽』松本清張/松本清張全集4「黒い画集」より

    1960年1月~4月「週刊朝日」 劇作家・関京太郎が依頼を受けたテレビドラマのシナリオで「汚職事件の遺族」を描こうと構想を練る。 そのために実際に犠牲者となった遺族の住所を調べようとしたがどうしてもわからないということになり石はいっそうこの汚職事件に興味を持つ。 ネタバレします。 ここまではいかにも松本清張ミステリーらしい流れだがここから少し様相が変わってくる。 自宅を一向出ようとはせず電話で様々に聞き込みをする関京太郎の調査に二十七歳独身で才気煥発な女性・森沢真佐子が参加するのである。 彼女は裕福な家のお嬢さんが洋裁でも習いに来ているくらいの気持ちで関宅に「シナリオの書き方」を教えてもらいに…

  • 『凶器』松本清張/松本清張全集4「黒い画集」より

    1959年12月「週刊朝日」 さすがにこれは映像化されていないようです。 いや、これも面白い筈です。 ネタバレします。 映像化されていない理由はなんだろうか。 佐賀県の田舎(あとがきによれば清張氏の妻の実家がある神崎町)が舞台で話し言葉がすべて方言で語られており、再現するのはなかなか大変そうだ。 これまでドラマ化映画化されてきた作品と比較すると地味である上になんとも「後味の悪い」話なのだ。 この「後味の悪い」はほんとうに「後味が悪い」のでかなりえぐい。 しかしこの話も清張氏が繰り返し書いてきた「生きづらい女性の物語」であり頼る者(つまり夫もしくは父兄弟ということだが)のない女性が生きていくのは…

  • 『寒流』松本清張/松本清張全集4「黒い画集」より

    1959年9月~12月「週刊朝日」 これも五回映像化されているという。 ミステリーというよりもひとりの心弱い男が追い詰められていく話であります。 ネタバレします。 でもおもしろい。 妻と二人の子を持つ主人公沖野一郎は銀行に勤めているため仕事上で割烹料理屋の女将・前川奈美と知り合い恋人関係になる。 美しい奈美に夢中になっていく沖野だったが大学時代の同期でありながら今は上司となっている桑山から請われて奈美と会わせてから彼の人生は大きく崩れていく。 と説明されているからつい書いたが壊れていったのは妻子がいるのに奈美に溺れていったことから始まっているので桑山のせいではないのだ。 だがとにかく小心者の男…

  • 『証言』松本清張/松本清張全集4「黒い画集」より

    1958年12月「週刊朝日」(画像は別の表紙より) これはほんとに短かった。なのに本作も六回も映像化されているのであった。 ネタバレします。 例によって、である。 主人公の男は四十八歳。会社では課長の座にありさらに出世を望んでいる。 妻がいるが男にはもうすでに愛情がない。妻の存在を醜悪と感じている。 男には若い愛人がいて小さな家をあてがっていた。 が、男にとってそれは絶対に守らなければならない秘密であった。 それが突然思いもよらぬことで破綻してしまうのだ。 それは夜遅く愛人の家から自宅に帰る途中だった。 愛人は男がタクシーに乗るまで見送るのが常だったがそれさえ男は用心深く離れて歩くことにしてい…

  • 『天城越え』松本清張/松本清張全集4「黒い画集」より

    1959年11月「サンデー毎日」(画像は映画より) 映画&ドラマは以前鑑賞済の有名な作品です。 なんとなくスティーヴン・キングにおける『スタンド・バイ・ミー』のような気がします。 むろんあの作品とはまったく違うのですが「十代に友だちがいなかった」松本清張の思春期物語だとこうなってしまうのです。 ネタバレします。 読んでみると驚くほどの短編だった。 この短い小説で、いや、だからこそあの美しいイメージの映画やドラマになってしまうのだろう。 清張自身を思わせる孤独な16歳の少年が主人公である。 以前、この小説は川端康成の『伊豆の踊子』に触発されて書かれたとどこかで読んだ。 それが冒頭ですでに書かれて…

  • 『紐』松本清張/松本清張全集4「黒い画集」より

    1959年6月~8月「週刊朝日」 昨日のどろどろ男女妄執劇とは違う本格的なミステリー物というのか。とはいえしっかりどろどろも混入している。 本作もまた六回もTVドラマ化されているという。 日本テレビドラマ界は松本清張なしでは成り立たないといえようか。 ネタバレします。 七月二十八日午前十時ごろ、という書き出しである。 三人の少年が多摩川の川原に跳ねるように走りおりた、とある。 夏休みも始まったばかり、早起きした子どもたちが意気揚々と遊ぶために繰り出した光景が浮かぶ。 清張の筆致はいつも絵となってすぐに目に浮かんでくる。そこからもうドラマの中にはいりこんでしまうのだ。 さらに少年はここで防止のた…

  • 『坂道の家』松本清張/松本清張全集4「黒い画集」より

    『坂道の家』1959年1月~4月 六回もTVドラマ化されているというのはやはり本作の題材が「若い女にいれあげる中年男」というものだからでしょう。 松本清張小説は生々しい描写が凄まじく、だからこそ私は以前はまったく読むことができなかったのですがやっと読める体質となりました。 ネタバレします。 「若い女に入れあげる中年男」の行く末を生々しく描く本作である。 その経緯は想像通りそのままであってどんでん返しにはならないのも凄い。 いや、この頃はこの経緯がどんでんだったのか? 主人公の中年男・寺島吉太郎は四十六歳。小間物店を経営している。小さな店だが主人がコツコツと真面目に働いているせいもあってなかなか…

  • 『遭難』松本清張/松本清張全集4「黒い画集」より

    『遭難』1958年10月~12月「週刊朝日」 以前映画鑑賞した『黒い画集 ある遭難』の原作です。 gaerial.hatenablog.com 私はまったく登山などしないのですが何故か凄く山岳話に興味があります。楽しい方ではなく怖い話に惹かれるのです。登山遭難のyoutubeまで夢中で聞いてしまうほどです。 そんな私の心を見透かしたかのようなこの短編でした。 ネタバレします。 例によって松本清張はこの作品を反発から生み出している。 初出は1958年であるが当時登山ブームが起きていたという。 戦争も終わって10年以上が過ぎ日本国民にも少しゆとりが出てきたのだろうか。 が、ブームと同時に「遭難」の…

  • 『松本清張の昭和』酒井信

    2015年「講談社」 酒井順子氏で松本清張の小説の大枠を、この本で彼の生涯の細かなことを知ることができた。 これまでも清張氏の人生は自伝でも他の方の文からも聞いてはいたが本作はそれらになかった詳細なものが書かれていた。かなり調べられたのだろう。 ネタバレします。 考えてみれば多くの小説家は才能があるほど早くに小説家となってしまう。 逆にいえば社会での実体験がまったくないままに作家となってしまうのだ。 多くの場合は数編の小説を書いた時点でネタ切れになってしまうのではないのだろうか。 松本清張は82年の生涯のちょうど半分を小説書きではない人間として働いて生きてきた。しかも高等小学校卒業後両親の生活…

  • 『清張が聞く!』1968年の松本清張対談

    1968年1月号~12月号「文藝春秋」 1968年(明治100年)1月号から12月号まで、月刊『文藝春秋』で1年間連載された「松本清張対談」。これまで一冊にまとまっていなかった伝説の連載が、2025年(昭和100年)に、新たな脚注を加えて初の書籍化。 1968年=明治百年という対談企画が2025年=昭和百年に蘇る!という企画である。 ふうん?という気もするがなにしろ松本清張なので期待して読んでみた。 ネタバレします。 他の方のレビューを見ると大絶賛なのだけど私的にはそれほど・・・であった。 ただ単に読解力理解力がないだけかもしれないがあまり心躍らない。 「日本近代史」にぞっこんの今「まさにぴっ…

  • 『半生の記』松本清張

    1963年8月号~1965年1月号「文藝」 本書は初めて読むのだがこれまで様々な場所で松本清張の作家以前の話を聞きかじっていたのでさながら復習しているかのような読書となりました。 作家以前、といっても清張氏は四十歳をすぎてからの作家デビューなので八十数年の人生のまさに「半生」の記録となります。 しかも、デビューまでは素人としてもほとんど小説を書いていないというのは作家の人生として稀有な例なのではないでしょうか。 ネタバレします。 とにかく家族を食べさせるために生きてきた半生であった。 親との縁が薄い人、親から虐待を受けた人、の話は多く読んできたように思うが清張氏は一人っ子(当時は珍しいだろう。…

  • 『「スチュワーデス殺し」論』松本清張

    1959年(昭和34年)8月「婦人公論臨時増刊「美しき人生読本」」 自分が購入した『黒い福音』には”これ”が収録されていなかったのだがここにあったので小躍り。 さて読む。 ネタバレします。 昭和三十四年六月十一日午後七時半、スチュワーデス殺しの重要参考人ベルメルシュ神父は羽田空港を後にしてエア・フランスで帰国の途についた。 警視庁では翌朝これを知って愕然としたという。 小説では「信父」という表記になっていたがここでは「神父」となっている。 「信父」とはなんなのだろう。 とても「神」という文字を使えるものではないという清張氏の批判だったのか。 それにしても殺人事件の「重要参考人」がそのさなかに帰…

  • 『ハノイで見たこと』松本清張 その4

    日記だとわかりやすい。とにかく文章が読みやすい。 ネタバレします。 ハノイ日記 第一帖 戦争に適応する街ハノイ (続き) 三月二十一日(木曜) 松本清張氏はベトナム文学芸術家協会副書記長バオ・ディン・ジアン氏と会見。 ベトナムでは1945年から二十年以上侵略者と抵抗者による銃声の絶えたことがないという。 ベトナム人は侵略者のアメリカを憎んでいる。子どもにもアメリカの憎しみを教えている。 ベトナムの芸術は外国の侵略に苦しんでいる人間、この侵略と戦っている人間を描写している。しかしその主人公は明るい。この戦争に必ず勝つという確信があるからだ。 北ベトナムでは女性も銃を持って反撃をする。 清張氏が食…

  • 『ハノイで見たこと』松本清張 その3

    続けます。 ネタバレします。 松本清張氏と森本哲郎氏はハイフォンへ向かう。 その日は驚くほどの晴天で日が暮れると清張氏は空から照明弾が落ちてくるような気がして空を見上げた。 トンキン湾の海岸に近づき停泊中の外国船の灯が見えると赤い光が輝いて消えた。 同時に今までの賑やかな光が一斉に闇となった。 赤い光は空襲警報の信号だったのだ。 フランス風のホテルに泊まる。 二時半ごろに空襲警報で起こされ松本&森本は庭にある防空壕へと入る。 三分もするとミサイルと高射砲の音が壕内の足元を揺るがす。 あくる日市内の爆撃跡を見て回る。 中心部は美しいが周辺の破壊地区は瓦礫の山だった。 しかし市の中心部はハノイより…

  • 『ハノイで見たこと』松本清張 その2

    1958年 読んでいて気づいたのは今更になって私はほとんどアメリカ映画などからの知識でベトナム戦争を見ていたのだということ。 つまり日本人なのにアメリカ人の視点で考えていたのだとここにきて気付いた。 この本を読んでいなければそのままだっただろう。 怖いことだ。 ネタバレします。 ハノイからの報告(1958年「週刊朝日」) ───昨日からの続き─── 北ベトナムはアメリカ機を撃墜した場所を詳しく言わないことで情報秘匿を厳しくしていた。 こうしたことで長い間アメリカ軍をきりきり舞いさせていたのだ。 アメリカ軍は北ベトナムの情報を取ることに躍起になっているが容易に入手できない。 アメリカ軍は手探り状…

  • 『ハノイで見たこと』松本清張

    『半生の記』を目的にこの本を選んだのだが同時収録されている『ハノイで見たこと』は単独ではあまり読むことができないようだ。 ネタバレします。 1968年3月19日、ベトナム戦争のただなか松本清張と当時朝日新聞記者だった森本哲郎がICC機(インドシナ国際休戦監視委員会の連絡用飛行機)の座席に座る。 ふたりはビエンチャン空港からハノイへと向かおうとしていたのだが何度も悪天候やコントロールタワーの故障などで飛行を断念せざるを得なかった、というのである。 この飛行機は必ずしも安全なものではなかった。数か月前アメリカの爆撃機がICC機の後ろからハノイに忍び込もうとして危うくICC機までが撃ち落されそうにな…

  • 『美しき闘争』松本清張

    1962年「京都新聞社」他(初出) 「マジで松本清張を読んでいこう!」と思い立たなけれ絶対読まなかった作品だろう。 先日の酒井順子著『松本清張と女たち』で酒井氏がなんとなく不満を持っているのが却って気になった。 ネタバレします。 ヒロインは井沢恵子、という。 物語は彼女が離婚して婚家から出たところから始まる。 離婚届に判を押して十五分後、恵子は米村から井沢に戻った。 恵子は冷静に挨拶をして出てきたのだが今になって腹が立ちなぜもっと汚いことを言ってやらなかったのだ、と身体を熱くしていた。 という描写を読むと判るが恵子はこの後、ずっと「ここは耐えて冷静に」と考えては「もっと怒るべきだった」と後悔す…

  • 『熱い空気』松本清張/「別冊黒い画集1」より

    1963年「文藝春秋新社」 ここに収録されています『熱い空気』かの有名なTVドラマ『家政婦は見た!』の原作だということを先日記事にした酒井順子著『松本清張と女たち』で初めて知りました。 TVドラマをまったく観ない私ですらタイトルは知っている(主演が市原悦子だとも知っている)あの有名ドラマですがこれも私はまったくの未視聴です。 それもあってこの原作が松本清張作品とはつゆ知らずでした。 ちらりと内容を聞いて「おもしろいアイディアを考え付いたものだな」と感心していたのですがまさか清張氏のアイディアだったとは。 「家政婦」の視点で物語が語られているというアイディアの小説は幾つもありますが私が知っている…

  • 『松本清張全集34』~エッセイ~より

    と画像を出したのだが収録されているがこの表紙にはなぜか記されていない「エッセイ」を読んでの感想です。 ネタバレします。 数多く収録されたエッセイの中に「推理小説の発想」というのがあった。 松本清張は作家活動は40代を過ぎてからではあるが、1951年に処女作『西郷札』を書き53年に『或る「小倉日記」伝』で芥川賞をとり55年に『張り込み』を書いて以来作者年表を見ると清張は怒涛のベストセラー&映像化をされ続けている。今もなお話題となる清張ミステリーの魅力の謎を誰しもが知りたいところだ。 清張は『私は何によらず動機というものはすべて人間の犯す犯罪においていちばん大事な点ではないかと思っています」と書い…

  • 『神と野獣の日』松本清張

    1963年「女性自身」光文社 松本清張唯一のSFが「女性自身」に掲載されていたというのがおもしろい。 つまりこれは女性向け作品なのだ。 ネタバレします。 普通におもしろかった。 ごめん、ちょっとだけ侮っていた。 確かに、SFはリアルであればあるほど面白いのだ。 松本清張のSFがつまらないわけがなかった。 Z国から東京に向けて誤射された5基の核弾頭ミサイルが着弾する瞬間までの「43分間」に起こる政府首脳陣の対応や人々の反応などの極限状況における悲喜劇を描き出すものである(wikiより) この作品も先日の酒井順子氏の本で知って読みたくなったものだ。 清張唯一のSFと書かれたら読まないわけにはいかな…

  • 『黒い福音』松本清張

    1959~60年「週刊コウロン」連載/1961年「中央公論社」 1959年3月実際に起きたBOACスチュワーデス殺人事件を元にフィクションの形で推理した著作である。 ネタバレします。 先日読んだ酒井順子著『松本清張と女たち』の中でも特に気になった本作。 早速読んでみた。 かなりの長編でありどこまでが事実でどこからがフィクションなのかわからないのだが松本清張だからほぼ事実なのではと思いながら読み進めた。 とはいえ冒頭はスチュワーデス殺人事件のかなり以前の時点から始まる。 この作品ではなぜか神父が信父と表記されている。 これは当時そのような表現があったのか、松本清張氏がこのような人物を「神父」など…

  • 『松本清張の女たち』酒井順子 その4

    ネタバレします。 母と妻と松本清張 15 清張の母、清張が描く母 この項の書き出しは本著で最も不思議な感覚、奇妙というか違和感というか謎めいたものだった。 と言っても作者の酒井順子氏に対してそう思ったわけではなく酒井氏が疑問を持ったことに「それは確かに変だねえ」という良いとも悪いとも言えない不安定な相槌を打つことになってしまったからだ。 ここで酒井氏は前にも取り上げた『砂漠の塩』をテキストにしてヒロインが恋人と初めて結ばれるという時に涙を流しながら「お母さま」と口走る、というのだ。 酒井氏は(こんな場面で)「お母さま、って言うかな」と首をひねっている。 なにしろその作品を読んでいないので実際の…

  • 『松本清張の女たち』酒井順子 その3

    ネタバレします。 昭和の女と松本清張 9 殺す女、殺される女 ここで紹介されている作品で『声』だけは読んでいた。 これは衝撃的な話であり同時に興味深い作品だった。 新聞社の電話交換手を務めていたヒロインは数多くの声を聴き分けられるという能力を持っていたがそれが原因で殺されてしまうのだ。 wikiを見ると清張は実際にこうした能力を持つ女性を知って感嘆し参考にしたのだという。 非常に面白い着想だがそれで殺されてしまうのが悲しい。それだけに印象が強いのだが。 前にも書いたが「殺される女」というのは男性読者の性的好奇心を呼ぶための装置でもある。 その女が若く美しくあるほど殺される価値があるのだ。 その…

  • 『松本清張の女たち』酒井順子 その2

    続けます。 ネタバレします。 5 転落するお嬢さんたち 紹介される小説の中で一作品だけ知っている。『霧の旗』である。 それにしてもこの本は凄まじい企画である。 ひとりの作家を分析していくという評論は数あろうがそれが松本清張のような膨大な作品のものである場合気が遠くなりそうだ。 前にも書いたが私は清張作品のほんの一握りというより一つまみを知っている程度なのでこの企画の恐ろしさを感じてしまう。 松本清張を分析するというこの怖ろしい企画が成立したのは本作が『松本清張の女たち』という清張作品における女性描写それも社会の中でのジェンダー感として捉えていく、という区切りをしたことである。 ではあるが逆に全…

  • 『松本清張の女たち』酒井順子

    2025年「新潮社」 松本清張小説をほんの少ししか読んでいないのにこの本を読んでいいのか迷ったがやはり気になり手に取ってしまいました。 松本清張の小説の魅力と人気は女性たちの存在にあり、と思っているからです。 一時期にはベストセラーとなった本の多くは廃れていきますがその中で松本清張の小説は今もなお高い人気を保持しています。 それはむろん清張ミステリーの面白さであるのは確かですがもうひとつかつての他の小説にはなかった「女性の存在」が大きいのではないでしょうか。 そう考えていた私の目の前に出てきた本著『松本清張の女たち』さて読んでいきましょうか。 ネタバレします。 女性誌と松本清張 1初めての女性…

  • 『お吟さま』田中絹代/主演:有馬稲子

    1962年「松竹」 田中絹代が監督として手掛けた六作品の最後の映画作品であります。 私としては『乳房よ永遠なれ』『月は上りぬ』に続いて三作目の鑑賞です。 ネタバレします。 前に観た二作品同様「女性の生き方」を徹底的に描いた作品だった。 最後の作品だけにその思いも濃厚に込められている。 主人公は千利休の娘である”吟” wikiで見る分には利休の数人いる娘を合わせて作り上げた女性像のように思える。 その女性像を描いた今東光原作の映画化である。 ”吟”は美しいだけでなく自我を持った女性である。 キリシタン大名で妻帯者の高山右近を恋い慕っているのだがその思いは一途に激しいものでありしかも彼女はその思い…

  • 『赦し』アンシュル・チョウハン/主演:松浦りょう

    2023年「彩プロ」 裁判ものを観たいと思って探し出てきたのが本作でした。 日本映画のようなのに監督も脚本も日本名ではない。 出演者は日本の俳優。 さらに裁判の映画である。 不思議と思いながら鑑賞しました。 ネタバレします。 監督はアンシュル・チョウハン。インドのかたであった。 私はインド映画をほとんど観ていないのできちんと観たインド人監督作品は初めてかもしれない。 脚本はランド・コルターとあるがこちらはプロフィール不明。外国の方ではあるようだ。 かなりの低予算で製作されたのであろうと思える品質であるが他の諸々映画作品がなかなか最後まで観通せないのについつい観続けてしまった、という感じだった。…

  • 『二・二六事件 脱出』小林恒夫/主演:高倉健&三國連太郎 その2

    ネタバレします。 昨日に続き本名で書いていく。 迫水久恒氏本人はこの時34歳。そして首相救出に向かった憲兵特務班班長小坂慶助は36歳。よくこの救出作戦を考え出し実行したものである。 二・二六事件。青年将校らによる反乱。将校らは日本を立て直すと考え尊王義軍として首相官邸を襲撃したが首相を取り違え別人を殺害し首相自身は女中部屋に隠れ生存していたのだ。 首相の娘婿であり秘書官でもある迫水は首相であり義父である岡田啓介を救出しようと奔走する。 一方、憲兵特務班班長小坂慶助は二・二六事件の検分に入った憲兵上等兵(千葉真一が演じているという贅沢さ)から「岡田首相の生存を確認した」という報告を受けて救出を考…

  • 『二・二六事件 脱出』小林恒夫/主演:高倉健&三國連太郎

    1962年「東映」 今回の「U-NEXT」配信鑑賞で最も「観られて良かった」となったのは本作である。 昨日まで残りの期間消化に思案していたのだが本作に気付いて慌てた。 「これのこと、忘れていた」 とはいえ本作が面白いかどうかは観てみなければわからない。すぐに鑑賞した。 結果、面白さに唸ったのだが何故本作がもっと鑑賞しやすい状態でないのか。せめて1989年製作五社英雄監督作品と並んで配信されてほしい傑作だと思う。 こんな映画が埋もれているということは日本映画の中には語られない名作がもっとあるのではないか。 口惜しい気がする。 ネタバレします。 本作品の魅力はなんといっても今観ても居ても立っても居…

  • 『武則天-The Empress-』高翊浚/主演:范冰冰

    2015年 次に観る作品を探していてなかなか見つからず、つい『武則天』開始してしまったら面白く観てしまった。 続けるかはわからないがもう少し観ようかな。 『如懿伝』以来の中国歴史ドラマに見入っています。 武則天は唐代の次の武周王朝を作った中国唯一の女帝であります。 ドラマは冒頭、武則天の最期から始まり宮廷に入った才人の頃、つまり唐代に戻るわけですがこの頃の髪型衣服は日本に影響を与えているようで楽しい。 しかし女性たちの描き方は日本女性とまったく違う迫力があってついつい見入ってしまうのだ。 ネタバレします。 武則天が最初「如懿」と同じ読みの「如意(ルーイー)」と呼ばれていることも驚きだったが(よ…

  • 『レディ・バード』グレタ・ガーウィグ

    2017年「ユニバーサル・ピクチャーズ」 本作品名を知ったのはかなり以前で気になってはいたのですが自分の好みがどうしてもこういう「普通の女の子の青春」的なものを選ばないのでそのままになっていました。 先日ライアン・ゴズリング目的で『バービー』を観て感激し「それまでのゴズリング映画で最高なのではないか」とさえ思えました。主役でもないのに。 そこまで思わせてくれたので監督のガーウィグ作品を追おうと思いつつまたしても躊躇しながら観終えました。 素晴らしい青春映画でした。 ネタバレします。 仕方ない。これまで映画界で「女性監督」はほんのわずかであった。 監督が男性か女性かで作品の印象は大きく変わる。 …

  • 『L.A. ギャング ストーリー』ルーベン・フライシャー

    2013年「ワーナー・ブラザース」 ついに今回のライアン・ゴズリング映画作品のほんとうの最終回になったようだ。 (また出てきたら喜んで観るが) 最初に書いておくが本作はほぼ記事にする必要はないようだ。 前にも書いたようにライアン・ゴズリングは順調に俳優業の階段を上っていっている、のだが本作は大きくつまずいたのではないだろうか。 本作の直前の映画は残念ながら今回鑑賞できなかったがその前の『スーパー・チューズデー』は名作ではなくとも確かに意義あるものだった。 しかし本作に彼が出演して何か得る者があったのかどうか。むろん何か意味があるから映画出演するものではないかもしれないがライアンの映画歴を辿ると…

  • 『スーパー・チューズデー 正義を売った日』ジョージ・クルーニー/主演:ライアン・ゴズリング

    2011年「コロンビア・ピクチャーズ」 U-NEXTにまだライアンあったよシリーズ第二段。 しかも主演なのに表示されなかった、という恨み。気づいたからよかったようなものの。 ネタバレします。 ジョージ・クルーニー監督作品。先日観たライアンア・ゴズリング監督作品の夢幻を思わせる映画作品と対称的にリアル一徹な作品であった。 クルーニーと言えばリベラルな思想で民主党派であり政治的発言も明確というイメージの俳優である。 きりりとしたハンサムな顔立ちで大統領候補としては申し分ない自己キャスティングだ。 そのクルーニー=ペンシルベニア州知事マイク・モリスを民主党大統領予備選で当選させようと熱い思いを抱いて…

  • 『ロスト・リバー』ライアン・ゴズリング/監督:ライアン・ゴズリング

    2015年「ワーナー・ブラザース」 昨日「ライアン・ゴズリングを映画14作品から考える」を記事にして満足して別作品に進もうと思って次の物件探していたら「U-NEXT」で「ライアン・ゴズリング作品いかがですか」とばかりに数作品が表示された。 「なんですとー???」 いやちゃんと「ライアン・ゴズリング」で検索していたのにどういうこと? いやいやありがとう。観ますよ、観ますよー、というわけで「ライアン・ゴズリング作品鑑賞」もう少し続きます。 ネタバレします。 ということでなんとライアン・ゴズリング監督作品を急遽観ることに。 彼のフィルモグラフィで見つけてはいたがまさかこう早く観られるとは。 少々不安…

  • ライアン・ゴズリングを映画14作品から考える

    「UーNEXT」「アマゾンプライム」で現在観ることができるライアン・ゴズリング出演映画14作品を鑑賞しました。 特にその後にまとめ感想を書くつもりはなかったのですがゴズリング出演作品の流れがあまりにも意味があるものに思えて書かずにはおれなくなりました。 これも彼がある程度出演作を選べる域にあったからだろうとは思います。 まだ考えがまとまっているわけではありませんが書いていきましょう。 ライアン・ゴズリング映画14作品のネタバレします。 まずはライアン・ゴズリング14作品の鑑賞順番そしてこれは彼の出演順番でもある。 『完全犯罪クラブ』(2002)リチャード・ヘイウッド 『きみに読む物語』(200…

  • 『バービー』グレタ・ガーウィグ/出演:ライアン・ゴズリング

    2023年「ワーナー・ブラザース」 タイトル、出演:ゴズリングとは何事か、主演:マーゴット・ロビーを書くべきだろとお怒りの向きもあるでしょうが本記事、ゴズリング映画鑑賞シリーズなのでご容赦を。 前回もう少し『ファースト・マン』を続けて観ようと思っていたのですが考えていくうちに先に『バービー』を早く観ねばという気持ちが高ぶり本作鑑賞を急ぐことにしました。 そうしてよかったです。 ネタバレします。 最近は映画を観るのも集中力が続かず特に前回の『ファースト・マン』ではまったくのめり込むことができず気持ちが散乱していた。これもみな年を取ったせいなのだと自分に失望していたのだが、本作鑑賞は自分でも驚くほ…

  • 『ファースト・マン』デイミアン・チャゼル/主演:ライアン・ゴズリング

    2018年「ユニヴァーサル・ピクチャーズ」 ライアン・ゴズリング映画でこれだけはちゃんと鑑賞した映画ではありましたが長尺ではあるし深淵な物語なのでもう少しきちんと観ていきたい。 ネタバレします。 アメリカ映画の中で特に重要なジャンルである「男の美学」の作品なのだ。 チャゼル監督はそれを狡い形で出してくる。 『ラ・ラ・ランド』の場合は好きになった女性を一途に思い続けるジャズピアニスト男性、そして今回は宇宙飛行士の厳しい任務を遂行しながら心の奥に亡くした小さな娘の面影を抱き続ける男。 重い病を持つ小さな娘の話が冒頭に出てくるので私は本作がどうにも苦手だ。 ゴズリング自身がふたりの娘が生まれてからの…

  • 『ブレード・ランナー 2049』ドゥニ・ヴィルヌーヴ/主演:ライアン・ゴズリング

    2017年「ワーナー・ブラザース」 予習もしっかり行っての本作鑑賞に挑みましたが現在の私はあまりこの映画を楽しむ気分ではなさそうです。 ネタバレします。 前作の『ブレードランナー』を基盤として優れた作品に仕上がっているのは把握できるのですが昨日のように夢中になって浸る気分になれない。 これはもう仕方ないのかもしれない。 ひとつは前作をリスペクトするあまりなのか「笑い」が皆無なのもある。 前作は冒頭のデッカードの屋台親父とのやりとりを始め「異世界」というか異質な未来空間を楽しむ気分が大きかった。 ハリソン・フォード演じるデッカードがやさぐれたハードボイルド男であること自体笑える気分だったのに本作…

  • 『ブレードランナー』リドリー・スコット/ハリソン・フォード主演

    1982年「ワーナー・ブラザーズ」 本来ならここでライアン・ゴズリング出演『ブレードランナー2049』を観る順番なのだがそのためにも本作を観ねば、ということで鑑賞します。 ネタバレします。 という理由で観始めたのだけどあまりのすばらしさにうっとりとしてしまった。いやちょっとこっちの映画にひたっていたい。 今ではもう当たり前になってしまったであろうアジア風未来景色だがやはりとてもいい。 しかしこの情景2020年だったのだ。 すでに6年も経ってしまったがあまりこんな感じにはなっていない。 1982年には2020年はこういう予想だったのだ。 なにしろ1968年の映画では『2001年宇宙の旅』なんだか…

  • 『ソング・トゥ・ソング』テレンス・マリック/出演:ライアン・ゴズリング

    2017年「ブロード・グリーン・ピクチャーズ」 これもまた奇妙な映画だなあ。 ゴズリング映画鑑賞飽きさせない。 ネタバレします。 正直に言うと本作品がまったく嚙み砕けず呑み込めないんだけど察せられる限りで書いてみる。 ライアン・ゴズリングが『ララランド』の次にこれというのはなかなか面白い。 『ララランド』が互いに夢をかなえた恋人同士が分かれてしまうという物語ならどうやら本作はくっつくことになったふたりを描いているようだからだ。 ライアンが演じているのはなんとなく『ララランド』のセブと似たようなミュージシャンというキャラクターであるのも意味深だ。 信念を持っていて優しくて恋人に一途な男性である。…

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