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  • 『百億の昼と千億の夜』萩尾望都/原作:光瀬龍 第9・10・11章

    ここから第2巻に入ります。 こうやって少しずつ読むことで何かをつかめたらと期待しています。自分にw ネタバレします。 第9章「戦士たち」 シッタータはオリオナエが囮だったのではと考えた。 そのとおりその背後にはナザレのイエスがいたのだ。 イエスはどこかに隠れながら人々を攻撃していく。 またもやオリオナエの眼前で若い男女が殺されてしまう。 むすこのハルトとその婚約者アリナを思い出すオリオナエ。そのオリオナエも撃たれる。シッタータはイエスの姿を見つけ攻撃した。 見えたのは薄汚い男だった。 シッタータはオリオナエを抱き起す。死んではいない。 そして彼は自分の国だったアトランティスの話を始める。 一万…

  • 『百億の昼と千億の夜』萩尾望都/原作:光瀬龍 第8章

    一巻の終わりの章です。この人、だれだろうかと思いました。 ネタバレします。 第8章「トーキョー・シティー」 冒頭、魚人の登場。 長い年月の間海の中で彼は暮らした。 空腹を覚えては魚類を食べ疲れては海底で眠った。 もう定かではないほどの長い年月一人で過ごした。 目を覚ますとウロコが落ち新しい皮膚のような者が現れていた。 彼は陸へと上がる。 大きな建物の前に「2902TOKYO」という文字を見つける。 しかしそれは都市の設立の年でありそこからすでに千年の時が過ぎていた。 それを教えてくれたのはオリオナエだった。そして魚人から人間に姿を変えた青年はあのシッタータであった。 オリオナエは「私は道標だ」…

  • 『百億の昼と千億の夜』萩尾望都/原作:光瀬龍 第5・6・7章

    この絵最高ではないでしょうか。 阿修羅は「少女」と設定されていると思いますが、そうすればこの話もやはり「奔放な美少女とそれに翻弄される男」の話の一つですね。 ネタバレします。 第五章「弥勒」 冒頭でかなりSM的な阿修羅とシッタータの絡みが表現される。 むろん、阿修羅=サド&シッタータ=マゾのかなり痛い表現だ。 阿修羅によってリフトに乗せられたシッタータは自分一人だけが地下へ(すごい勢いで)降下していく、と感じて「あしゅらおう」と叫んでしまう。 ところが阿修羅はずっとシッタータの背後に立っていたのだ。 「あ そこに!」と気づきシッタータは膝をついて涙してしまう。 それを見た阿修羅はちょっと心痛む…

  • 『百億の昼と千億の夜』萩尾望都/原作:光瀬龍 第2・3・4章

    ネタバレします。 第2章「シッタータ」 シャカ族の太子シッタータは出家を決意する。 妻子を残し「国を見捨てるのか」と咎めるウッダカの剣は太子を止めることはできなかった。 シッタータはバラモンたちに導かれ兜率天へと向かう。 気づくとシッタータは八寒地獄かと思える極寒の場所にいた。ここは忉利天だと告げられる。かつて至楽の地だった場所が八万年壊滅に瀕すること甚だしいという。 四王天の上方虚数座標二ー三の空間のひずみが原因なのだ。 熱エントロピーが極めて小さくなりすでに熱量の変化は無くこの世界は冷えていくばかり。 しかもそれは忉利天だけにとどまらず六欲天すべてに変動があり破滅へと向かっている。 この宇…

  • 『百億の昼と千億の夜』萩尾望都/原作:光瀬龍 その1

    1977年34号~1979年3号「週刊少年チャンピオン」 ついに来ました。 この作品は今まで持っていたのにかかわらずよく読めてなかったので今回を機にきちんと読みたい所存です。 ネタバレします。 読んだ人はすべからく阿修羅王の記憶だけは絶対残るはず。 あのビジュアルのすばらしさは無二。 冒頭の天地創造。 今もかもしれないがかつてのSFの始まりはこうした神々しい厳かな導入部が多かった。 しかしその後そのクオリティを維持できるかどうかは個々に違うが本作はその稀有な例ではないだろうか。 一転してプラトン(後にオリオナエ)の牧歌的とも言えるエピソードに入っていく。 彼はアテナイに住みアトランティスを夢見…

  • 『マリーン』萩尾望都/原作:今里孝子

    1977年「セブンティーン」5月号 この作品については語らない方が賢明だと思う。悪口雑言しそうで。 言えるのは主要登場人物が皆変な人ばかりだということくらい。 特にこのマリーンさんはおっかないです。もうひとりの女も不思議だが。 主人公もマリーンさんの旦那も変な人だし? そういうものもあるわけだよ。時にはね。 なむあみだぶつ

  • 『十年目の毬絵』萩尾望都

    1977年「ビッグコミックオリジナル」3月20日号 この作品の話をまた書くことになってしまった。 いわゆる「ヤコブ館の二階はし」なのだ。 とはいえ「その話」はすでに以前書いたのでここで繰り返すのはやめよう。 気になる方は一番下まで行ってみてください。 ネタバレします。 なのでここではこの作品の感想のみを書く。 主人公は「島田太一」という名の名前の通り太った青年。 夢の中でも思い続ける大学時代の友人だった久野毬絵という女性がいる。 が、マリエは同じく大学時代の友人だった津川克実とすでに結婚し十年経つのだ。 大学時代、津川とマリエと太一はいつも三人一緒でバルセロナへピカソを見に行く計画なんかを立て…

  • 『集会』ブラッドベリSF傑作選「ウは宇宙船のウ」より 萩尾望都/原作:レイ・ブラッドベリ

    この傑作選の中でも最も素晴らしい一編だと思っています。 原作でも何度も本作マンガも何度も読み返しました。 ネタバレします。 特別な説明はされないのだけど主人公ティモシーの一族とその仲間たちはいわゆる魔族というものなのだろう。 彼らは夜に行動し毒キノコやトリカブトを好み様々な魔法を特技としているらしい。 人間の身体、血液も彼らの嗜好品となっているようだ。 そんな一族の中でティモシーは「落ちこぼれ」なのだ。 闇が怖く毒キノコは食べきれない。体が弱く空を飛ぶことも魔法の力も持っていないのだ。 一族のものは皆ティモシーを馬鹿にして笑いものにしているがエナー叔父だけはそんなティモシーに優しかった。 ティ…

  • 『びっくり箱』ブラッドベリSF傑作選「ウは宇宙船のウ」より 萩尾望都/原作:レイ・ブラッドベリ

    1978年「週刊マーガレット」26号 原作は「10月はたそがれの国」収録 この傑作選の中でもしかしたら一番有名な作品でしょうか。 一度読んだら忘れられないに違いありません。 ネタバレします。 原作では主人公が男の子である以外にはほぼその通りに描かれている。 原作を先に読んでいるけど女の子の方がぴったりしているように思えるのは萩尾氏のせいか。 いや女の子の方があってるよね。 主人公ドーナはママとふたりきりで暮らしている。いやもうひとり年老いた女性教師がいてドーラに勉強を教えているのだ。 ママは美しく厳格な性格のようだ。 ふたりの会話からこの世界は終わっていてこの家だけが安全らしい。 窓から見える…

  • 『泣きさけぶ女の人』ブラッドベリSF傑作選「ウは宇宙船のウ」より 萩尾望都/原作:レイ・ブラッドベリ

    1978年「週刊マーガレット」22号 原作は「スは宇宙のス」収録 この作品もいろいろな作品の原型になったのではないでしょうか。 ネタバレします。 人命にかかわる恐ろしい事件を子供だけが知っている。 けど、どんなに説明しても信じてもらえず逆に子どもまで危険にさらされていく。 この話では子どもはあっさり危険を回避できたけど今ならここが最も怖い場面になるだろう。 生き埋めにされている、という状況が恐ろしい。

  • 『宇宙船乗組員』ブラッドベリSF傑作選「ウは宇宙船のウ」より 萩尾望都/原作:レイ・ブラッドベリ

    1978年「週刊マーガレット」22号 ブラッドベリの物語はどれも他の作家が書いたものとは違う不思議な味わいを持っていますがこの話は特にそんな印象があります。 ネタバレします。 物語設定はむしろよくある話、というものにすぎない。 主人公の男の子の父親は誇り高い宇宙船乗組員だ。 主人公も男の子だけに「将来自分も同じ道に」と願っている。 だが母親は夫がいつ死ぬかわからない宇宙船乗組員であることに絶望している。 夫が帰ってくる時に頼めるよう芝刈りや故障した家電をそのままにしてとっておく。 そして帰ってきた夫にその修理や家の手入れを頼むのだ。夫はにこにこしながらそれを片付け妻は幸福そうに見守っている。 …

  • 『ぼくの地下室へおいで』ブラッドベリSF傑作選「ウは宇宙船のウ」より 萩尾望都/原作:レイ・ブラッドベリ

    1978年「週刊マーガレット」18号 原作はかつて『スは宇宙(スぺース)のス』に収録されていました。 この短編は多くの作品に影響を与えているのではないでしょうか。 ネタバレします。 キノコが人類を征服してしまうかもしれない、というお話。 キノコには手も足もないけれど人間を媒体として広がっていくことができる。 主人公マニーのボーイフレンドそして双子の弟たちがおかしな行動をとり始める。 それに気づいたマニーもまた弟たちに手を引かれて・・・。 いやもうすでに乗っ取られているのかもしれませんよ、ふっふっふ。

  • 『ウは宇宙船のウ』ブラッドベリSF傑作選「ウは宇宙船のウ」より 萩尾望都/原作:レイ・ブラッドベリ

    1978年「週刊マーガレット」14号 以前本ブログで横山光輝『宇宙船レッドシャーク』はレイ・ブラッドベリの本作の元タイトルである『「ウ」は宇宙船の略号さ』を読んでからの作品ではなかろうかと熱く語ったのだがアメリカでの出版は確かにその前だが日本版は横山『レッドシャーク』の後に出版されているのを知って逆に驚いてしまった。 (無論横山氏が英語版ですでに読んでしまったという可能性はある) つまり宇宙船パイロットになりたい、というのは当時の男の子がみんな持つ夢でありそんな想像は誰しもしていた、ということなのだろう。 gaerial.hatenablog.com ブラッドベリも「はしがき」で少年期には星を…

  • 『みずうみ』ブラッドベリSF傑作選「ウは宇宙船のウ」より 萩尾望都/原作:レイ・ブラッドベリ

    1977年「週刊マーガレット」9号 ということは『霧笛』と『みずうみ』同時掲載だったってこと? 本作は萩尾望都の基盤「奔放な美少女に翻弄される男」のブラッドベリ版ということですね。 手塚治虫『シュマリ』『陽だまりの樹』そして萩尾望都の一連の作品特に『花と光の中』『影のない森』の男にようにブラッドベリもまたひとりの少女を想い続ける男という題材を描いているわけです。 というか本作を選んでしまうところにこの題材が好きなことが見て取れるのです。 マーガレットさん、なんの罪もないのにお気の毒。一途な愛のおぞましさよ。 (いやもちろん私も好きなのですが) 原作は「10月はたそがれの国/THE OCTOBE…

  • 『霧笛』ブラッドベリSF傑作選「ウは宇宙船のウ」より 萩尾望都/原作:レイ・ブラッドベリ

    1977年「週刊マーガレット」9月号 萩尾氏は「まさか私がブラッドベリを漫画化できるとは」と語っていますが私も「まさかブラッドベリを萩尾望都作画で読めるとは」と思いました。 ここに収められた物語はやはりどれも好きなものでした。 そんな思いとは別に。 このマンガは「週刊マーガレット」掲載だったんだあと驚きました。 集英社だったとは!小学館何やってんだあと思ったら今現在文庫本として販売されているのは小学館なのね。 でも私は下を持っていました。 こちらも持っていますが。 本巻ではタイトルの『ウは宇宙船のウ』が冒頭に収録されていますがいつもどりwiki年表に従い発表順の『霧笛』から記述していきます。 …

  • 『少女ろまん』萩尾望都

    1977年「月刊プリンセス」3月号、4月号、7月号 wiki年表に従い記録しています。 私は下の本で読みました。 「少女ロマン」は一番最後にのってます。萩尾望都の詩と童話とイラストが詰まった一冊。おみのがしなく。

  • 『影のない森』萩尾望都

    1977年「ビッグコミックオリジナル」2月5日号 これもある意味「奔放な美少女に翻弄される男」の話ではある。 ネタバレします。 そして前作の『花と光の中』とほぼ同じ心理が描かれている。 「ひとりの女性をずっと追い続ける一途さ」の男はその相手の女性にとって幸福なことなのか。 誰よりも愛されている、ずっと愛されている、というのは女性にとって幸せなことと描かれ続けてきたし萩尾氏自身もそう描いてきたと思う。 それが1976年の『花と光の中』から不気味な心理に変わっている。 『花と光の中』評で書いたとおり、それが手塚治虫著『シュマリ』からの影響であればとても面白い。 『シュマリ』での主人公シュマリの一途…

  • 『花と光の中』萩尾望都

    1976年「少女コミック」14号 はあ?何これ?という作品であります。 といっても悪いのではなく、マンガ作品として素晴らしいのですがとにかくこの男子ルーイの人格に問題があるのです。 ネタバレします。 なにしろつい最近になって手塚治虫『シュマリ』を読んだのでこのルーイとシュマリを重ねてしまう。 『シュマリ』は手塚治虫著1974~1976年作品なのでほぼ本作と同時期作品なのはちょっとした驚き。 シュマリは元自分の妻だった妙をひとすじに愛していて新しく出会った女性峯とも関係をもつくせに妙の事しか考えていない。 本作のルーイもイザベルの面影だけを追い続けていて同じ名前で違う容姿の女子を罵倒し突き飛ばす…

  • 『アメリカン・パイ』萩尾望都

    1976年「月刊プリンセス」7月号~8月号 この作品の批評だけはあまり書きたくないのです。 私は良い作品に「泣いてしまった」という言葉で讃えることを良しとしない派に属していますし、そんなに泣いたりしないつもりです。 萩尾作品でもそうそう泣くことはないのですがこれだけは何度読んでも泣いてしまいとりとめがつかなくなってしまう。 なにがそこまでツボなのか自分でもよくわからないほど泣いてしまうのです。 しかし今回はとにかく書いてみます。 ネタバレします。 えーここを書くために再読(再再再再再々々々々読)したのでまた泣いた。 萩尾マンガの他のと何が違うのだろう。 まずは、アメリカマイアミという舞台。 可…

  • 『ヴィオリータ』萩尾望都

    1975年「JOTOMO」12月号 これも美しい女性、少女に翻弄される男の物語、というかその集大成というべき作品なのでしょうか。 ネタバレします。 冒頭老人として登場するヨハンという名の男が少年期に戻り或いは青年期に成長しまた赤ん坊に戻りながら絶えず『ヴィオリータ』という名の美しい少女・女性の姿を追い求めていくという仕組みの幻想的な作品。 萩尾望都は初期からずっと魅惑的な少女が少年の心をかき乱していく、という物語を描き続けているが、このことを評論家諸氏はどう解釈しているのだろうか。 この作品はこれらの作品を明確に言葉として表現している。 女性作家が「女性を引き付ける男性」を描くのなら当然として…

  • 『赤ッ毛のいとこ』萩尾望都

    「セブンティーン」1975年11月号~1976年8月号 純日本的美人茨城まりと赤ッ毛くせっけで英語ぺらぺらののえるのドタバタ劇。 ネタバレします。 これもリアタイしていた気がする。 萩尾コメディ好きでこれも良かった。のえるがかっこいいのだ。 なのに今この作品は新刊本には収録されておらず古本でしか読めないとか。やはりこのタイプの話は時代が移ると引っかかりが出てしまいがちだからかな。 赤ッ毛=外国人、黒髪=純日本というような描き方が「マズイ」とされるのだろうなあ。 しかしそう言ってたのは事実なんだが。 変な男ばっかり出てくるのだが ツワブキくんが好きだった。 ちなみにこまわり君が登場するが萩尾セン…

  • 『続・11人いる!東の地平西の永遠』萩尾望都

    1976年「別冊少女コミック」12月号~1977年2月号 本作が掲載された時のことを覚えている。 いきなり絵が丸っこく可愛くなって驚いたのだ。話も前作と違って長くなった分甘くなったと感じたのだ。 しかし今回再読してまったくそんなことはないじゃないかと自分にあきれた。 いったいなにを読んでいたのだろう。 あの時、失望したのはいったいなんだったのだろう。 丸く可愛くなってしまったと思った絵はやはりとても美しく物語は本作から以降のSFの基盤ともなっているように思われる。 よく作者が変化すると「駄目になった」「つまらなくなった」と思い込んでしまう読者の声が多くなるが自分もまたそのひとりだったのだろう。…

  • 『11人いる!』萩尾望都

    1975年「別冊少女コミック」9月号~11月号 もしかしたら萩尾作品で最も有名なタイトルなのではないでしょうか。 自分の記憶的に。 少女マンガSFという惹句になるのだろうが私的にはSFというよりはたまたま未来が舞台のミステリーという感覚で読みたい気がする。 ネタバレします。 様々な要素が絡まりながら構成される。 私がもっとも惹かれたのはタダが幼い頃この船「白号」に乗っていた記憶が脳内にかすめた時と戻った場面だ。 ガンガを危険な状態にしてしまい手術した後に話し合いガンガから一つのキーワードが発せられる。 「数がかぎられる」 ガンガはまったく別の話をしていたのにタダの記憶はその言葉に危険信号を感じ…

  • 『アロイス』萩尾望都

    1975年「花とゆめ」10・11合併号~12号 うって変わってこちらは大好きな作品です。そしてこちらは『半神』を思い出しました。 ネタバレします。 萩尾作品で何度も繰り返し描かれる双子(もしくは三つ子)の話の一つ、だがこの話はほんとうに双子の話なのだろうか。 本作の主人公ルカは未熟児で生まれた時に双子の弟アロイスは死んでしまった、ということをどういう経緯で知らされたのか、この作品の中では描かれていない。 アロイスがもしほんとうにルカの中にいるのならルカがまったくの赤ん坊の時期にアロイスがルカに話しかける、という場面がマンガで描かれるはずだし、べきだが、その場面はない。 ただもう14歳になったル…

  • 『温室』萩尾望都/原作:イケダイクミ

    1975年「セブンティーン」6月号 実を言うと本作、あまり好きじゃなくて原作のイケダイクミ氏作品は以前の『ハワードさんの新聞広告』の時もそんなかんじに書いたのでこの原作者さんと波長が合わないのかもしれません。 しかし今回読み返してふと気づきました。 ネタバレします。 と思わせぶりに書かなくてもいいのだが、この話設定的に『残酷な神が支配する』と似ているのだなと。 髪の長い年上男の父親と美少年の母親とが結婚することで義兄弟となりその美しい弟君が性暴力を受け消え去ってしまうことが幻想的に描かれている。 『残酷な神が支配する』は本作での精霊が長髪男の父親だということになる。 これもまたそういう意味のな…

  • 『この娘うります!』萩尾望都

    いろんな意味でぎりぎり危ない作品かもだが、タイトルからして。 愉快痛快なのですよ。 ネタバレします。 とにかく楽しい作品でもう何度も読んでいるが何度でも楽しめる。 典型的少女マンガ、と言っていいのだけどあちらこちらに仕掛けられている毒やら知性やらがぴりりと効いている。 お得意のミュージカル仕立てでかなりのスピードで読ませられるのでかなりの長さがあるけどきっと誰もあっという間に読んでしまうのではないか。 主人公ドミの底抜けの明るさ、相変わらず奔放で男たちをてんてこ舞いに惑わせていく楽しさよ。 萩尾氏のファッションマンガの一つ。さすがに上手い。

  • 『プシキャット・プシキャット』萩尾望都

    1974年「少女コミック」夏の増刊フラワーコミック 猫好き萩尾望都氏のブラックユーモア短編作品。 いろいろな猫が楽しい。 これも奔放な美少女に翻弄される男子という設定なり。

  • 『訪問者』萩尾望都

    1980年「プチフラワー」春の号・創刊号 こちらは『トーマの心臓』の前の話。 シュロッター・ベッツに来る前の彼がどんな状況だったのかは『トーマの心臓』一巻で校長先生の記憶で語られています。 確か萩尾氏は映画『砂の器』を観て疎外される父と子の旅をオスカーとグスタフに重ねて構想したと言われていてとても心を打たれました。 それ以来『砂の器』を見るとオスカーを『トーマの心臓』を読むと『砂の器』を思い出してしまいます。 ネタバレします。 『トーマの心臓』のオスカーは誰よりも大人びてカッコいい。多くの人がそうであるように私もオスカーが好きだった。 しかしよく読めば考えればオスカーはまだほんの子ども(15歳…

  • 『湖畔にて - エーリク 十四と半分の年の夏』萩尾望都

    『ストロベリーフィールズ』1976年に描き下ろし ネタバレします。 『トーマの心臓』のすぐあとの物語。 夏休みになってエーリクは養父となるユーリ・シドと初めての夏を過ごす。 シドは愛する妻を失いエーリクは母を失った。 その女性はマリエという同じ人だ。 エーリクとシドはその一つだけの共通点でつながっている。 なにをするでもない静かな夏休みをエーリクは過ごす。 しばらくするとオスカーが訪ねて来る。 オスカーは神学校に行ったユリスモールに会ってきたと言う。 オスカーとユリスモールとエーリクという忘れられない記憶を私たちは持っている。

  • 『トーマの心臓』萩尾望都

    1974年「少女コミック」19号~52号 『ポーの一族』と共に萩尾望都の執筆期70年代の代表作です。 ここまでの記事で「萩尾望都と言えば少年のイメージが強いが実は魅力的な少女を数多く生み出してきた」と書いたのはこのふたつの代表作の主人公が少年であったからでした。 少女マンガで少年が主人公でしかも少女はほとんど出てこない、というのはそれまでになかったことだと思えます。 この作品がコミックスだと三巻、それぞれ別マンガ作品が収録されているので実質二巻ほどで描かれたのは今では信じられない濃厚な内容です。 尚且つこれ以上足す必要もないと感じさせるものでもあります。 ネタバレします。 と言っても本作はとこ…

  • 『ユニコーンの夢』萩尾望都

    1974年「別冊少女コミック」4月号 絵が突然変わったような成長したように思えます。 ネタバレします。 そして物語も突然変わったような。 SFを描くと萩尾望都の才能はより鮮明に他とは違う何者かになる。 夢見るように美しい少年と少女の恋。 そして少女に恋をしたユニコーンは少女から少年を奪ってしまったのだろうか。 遠い昔のような物語がそのまま未来の宇宙の話へと結びついていく。 掴むことのできない幻想的な話なのだけど何度も読み返してしまう。

  • 『ハワードさんの新聞広告』萩尾望都/原作:イケダ・イクミ

    1974年「別冊少女コミック」3月号 原作付きなので余計思うのですがこの話、萩尾望都作画でなければあまり読めなかったのではなかろうかと。 ネタバレします。 「ただの子ども」=「飛ぶ子ども」という含みを持たせた話なのだけど実際には人間の子どもは飛べないし「飛ぶ」というのが「死んだ」ことを意味しているような気がしてちょっと怖い。 萩尾作画でコメディタッチの良い話になっているけどある種の描き方ではゾッとする話にもなりそうだ。 ハワードさんのキャラもどうするかで全然話が変わってくる。 他の人が描いたらどうなるのか、見てみたい気がする。

  • 『オーマイ ケ セィラ セラ』萩尾望都

    1973年「少女コミック」21号 はい、やっぱり自由奔放な美少女とそれに翻弄される年下の少年の物語です。 ネタバレします。 で、年下だけど精神年齢は彼女より上という。 『妖精の子もり』では兄妹だったのが姉弟になるけど血のつながりはないんだから結ばれていいよね、というラブストーリー。 「ケ セィラ セラ」という歌を核にして物語が進む。 ママのようなプレイガールになりたいという甘い夢を見ている少女とそんな少女を優しく見守る男気ある美少年の話。 夢見るようなお話。

  • 『キャベツ畑の遺産相続人』萩尾望都

    1973年「少女コミック」15号 この作品がとても好きだった。 今読み返しても最高の一作! なぜみなこれに注目しないの? ネタバレします。 キャベツ畑の中に建つ一軒の家に住むのは三人の魔女だった。 ジョージイ・ポージイ・プリン=パイなんてステキな名前。そしてそこへ転がり込んできた「遺産」とは?それはター・ブーという男の子だった。 なんかぽっちゃりしたター・ブーが可愛い。 彼は何も知らないまま三人のおばさんの家に引き取られることになったのだが「遺産」が届くと聞いて喜んでいた女性たちは遺産どころか素寒貧のガキンチョの面倒をみなければならなくなったと知ってがっくり。しかし見放すことはなく渋々そのまま…

  • 『千本目のピン』萩尾望都

    1973年「週刊少女コミック」正月増刊フラワーコミック 扉絵1p+内容6ページの短い絵物語です。 ネタバレします。 やっぱりこういうお話が入ってくるのが萩尾氏の良さだと私は思ってしまう。昔風の女性性も肯定しているところがほっとするのである。 これが完全になくなってしまうと寂しいのではないだろうか。これも古臭い考えだろうか。

  • 『とってもしあわせモトちゃん』萩尾望都

    1972~1976年「別冊少女コミック」「少女コミック」「ちゃお」「おひさま」 すみません、これだけは全部は目を通していませんし今からきちんと全部通す気力はないのでおおよそ適当です。 ネタバレします。 読んだことはいくつかありますが持っていたのに全部読んではいない。 掲載誌で少しずつ読むならいいが一気に読むのは逆に辛いのでお許しを。 しかしこの不思議な生物に自分の名前をつけてしまう、というのが萩尾望都の凄いところではないだろうか。 しかも未知の生命体であるモトちゃんはとってもしあわせなのである。 エドガーが出てきたのだけは何度も読んだのだがココには収録されていないようだ。 見落としたかなあ。

  • 『ミーア』萩尾望都

    1972年「少女コミック」35号 これも萩尾作品の中ではほとんどとりあげられないタイトルではないでしょうか。 ネタバレします。 表紙はこれも萩尾氏が繰り返し描かれるバレエですが、中身はまったくのバレエではなくキャンプのお話。 男女が入れ替わる話、というのも萩尾氏が何度も繰り返し描かれているテーマですが本作に限ってはあまりうまくいっていない、というよりも今この作品を読まれてしまうとちょっと表現がひっかかってしまいそうで隠したくなる。 題材が同じでも少し間違うとこうなってしまうという症例だろうか。あの萩尾望都でもこういう話を描くこともあるのだということなのである。

  • 『ママレードちゃん』萩尾望都

    1972年「少女コミック」23号 萩尾望都氏は服飾の学校で学んでいるせいもあり幾つかファッションを題材にしたマンガ作品がある。 その一つが本作。 ネタバレします。 ガリガリ鼻ぺちゃそばかす、という本人は気にしているのだろうけどそんなに悲劇的ではない、というのが少女マンガにとって大切なのだった。 そして少女はほんのちょっとだけの魔法で目覚めるのだ。 今となってはこんなファンタジーはあり得ないのだろうか。 萩尾作品としてもあまり語られることはない一作であるが萩尾氏の魅力と才能はファッションにも活かされている。

  • 『六月の声』萩尾望都

    1972年「別冊少女コミック」6月号 萩尾望都SFの醍醐味が味わえます。 ネタバレします。 萩尾望都SFの第二弾というところでしょうか。 第一弾は『あそび玉』であるとして。 この第二弾では萩尾望都SFの重要なテーマであると思える男女の物語が絡んでくる。 (『あそび玉』は基本主人公少年個人の問題だった) 特に今の私は手塚治虫『シュマリ』を読んだ直後なので古い世界を捨て未知の世界へ行く希望と恐怖を重ねてしまう。 江戸時代の終りそして明治時代の始まりの時期に江戸に住んでいたシュマリの元妻はシュマリを捨てて蝦夷地へと行く。 長い泰平の世の終り華やかで安定した江戸を離れて未開地のエゾに行った妙は何を期待…

  • 『妖精の子もり』萩尾望都

    1972年「別冊少女コミック」5月号 望都ガールというジャンルはあるのだろうか。望都女子でも萩尾少女でもよいが。 萩尾望都、というと「天使のような少年たち」と言われる気がするけどこうして読み返していくと特に初期は少女たちの活躍がすばらしい。 ネタバレします。 本作も奔放な美しい少女とそれに押されながらも惹かれる少年の話だ。 むろん、日本の少年少女ではなくどこか別の国の話、というのがポイントなのだろうけど。 非常に外国的なのは男の子ウォルトのせいだろう。 少女の魅力に翻弄されるのをすでに楽しんでいる。 少女の気まぐれを受け止めながらそれを愛らしく感じてうまく切り返している。なかなかこういう男子は…

  • 『3月ウサギが集団で』萩尾望都

    何度も読んでいたので記憶もあるのですが何故か見当たらない。 なので後で記述します

  • 『ごめんあそばせ!』萩尾望都

    1972年「少女コミック」12号 以前のノリを忘れてしまったのでまっさらからの再開となります。 『ポーの一族』シリーズを全部通してから戻るのはwiki年表に従っているからもありますがその方が書きやすくわかりやすいかなという判断によるものです。 ネタバレします。 男性マンガそれも昔の男性マンガ家から萩尾マンガに移行すると女の子がなんと元気で邪悪で可愛らしく生き生きしているかと感じさせられる。 本作は特に男子が主体となったロックバンドに可愛い女子エマがドラマーとして参加することになる大騒ぎを描いていくのだがまあそれらの楽しいことといったら! 自己チューの美少女エマに引っ掻き回される男子たちの涙と汗…

  • 『シュマリ』手塚治虫 その5 完結

    最終巻です。 この内容でたった四巻というのは現在のマンガでは考えられない。 ずしっと重い四巻です。 まったくの未読の初読みでした。こんなすごい話とは思わなかったしこんなに読みやすいとも思ってなかった。やはり手塚マンガは(少なくとも私には)めちゃくちゃわかりやすく読みやすいのになぜかすごく濃厚なのだと改めて思いました。 今となってはこの絵柄で損をしているのかもしれません。 私でさえ「今風の絵柄であったら」と思ったりもしますがこの絵柄だからこその良さもあります。いやそうに違いありませんね。 ネタバレします。 今回の『シュマリ』読書。1~3巻を文庫本で持っていて4巻のみをデジタルで読んだがその二巻め…

  • 『シュマリ』手塚治虫 その4

    あけましておめでとうございます。 2025年が良い年でありますように! いつも通りやっていきます。 ネタバレします。 第十七章「脱出行」 シュマリ、十兵衛(土方歳三)太財弥十、なつめの四人は地震による落盤で炭坑内に閉じ込められてしまうがシュマリの執念で脱出を試みる。 が、なつめは途中で死んでしまい弥十は外へ出られたものの出た途端に恨みを持つ男によって殺されてしまう。 弥七が経営する炭鉱は破壊されてしまった。 弥七はシュマリと十兵衛の名簿を死んでしまったことにしてやると言って解放した。 シュマリは「死んでしまった人間には金は要らない」と言って残りの金のありかを弥七に教える。 弥七の炭鉱はこれで復…

  • 2024年を振り返る「横山光輝から始まり手塚治虫で終わる」

    ずっと世の中に関係なく突っ走っている本ブログですが一年に一度くらいは振りかえってみましょうか。 今年2024年はおおむね前半と後半にくっきり分かれています。 たぶん去年もそうだったのでは。 というのは去年の6月から今年の6月までほぼ横山光輝を読み続けていたからです。 去年は6月から後半を横山光輝沼。 今年は最初から6月までの前半を横山光輝ひとすじ、だったと思われます。 とりあえず観てみましょうか。 gaerial.hatenablog.com はい。2024年1月1日横山光輝著『史記列伝/上』から始まりました。 『クイーンフェニックス』『赤影』『地球ナンバーV-7』『水滸伝』『三国志』『伊達政…

  • 『シュマリ』手塚治虫 その3

    すみません。がまんできずに最後まで読んでしまいました。 あまりの感動に言葉もありません。手塚治虫の最高傑作なのではと思えました。 しかしここでは地道に続けていきます。 ネタバレします。 ちょうど二巻から。 第九章「お峯」 1875年石狩幌内熊尻 太財炭鉱 太財一家の野望は「エゾ共和国」を作り上げることだった。 しかしその夢は遠い。 シュマリが持つ三万両を手にいれることができないまま炭鉱に着手したが坑内の事故が相次ぎアイヌの坑夫の事故死が相次いだ。 そんな中、太財峯はひとりシュマリのもとへと向かっていた。 シュマリはポン・ションの二人暮らしで馬を飼おうとしていたがその試みは困難なものだった。 「…

  • 『シュマリ』手塚治虫 その2

    開拓督務補佐役、島義勇とシュマリ ネタバレします。 第三章「刺青」 明治二年(1869年)12月札幌でシュマリは暴れ投獄される。 と言っても獄中にいたのはふたりだけ。 それは極寒の夜を迎えれば囚人たちは次々と死んでしまうからだった。 シュマリの目の前で一人が凍え死ぬ。シュマリは牢内で火を起こして火事を起こし今度は外で杭に縛られるがそれを率い抜いてさらに暴れる。 シュマリは北海道開拓督務補佐役で判官様と呼ばれる島義勇に呼ばれる。 島義勇は五稜郭の軍用金だった金を探していた。五稜郭が落ちる前に榎本武揚が密かに持ち出しどこかへ莫大な金を隠させた。そのありかを部下のひとりの身体に刺青でしるしたのだ。し…

  • 『シュマリ』手塚治虫 その1

    さて続けて手塚治虫先生の明治時代もの。 こちらはまったくの初読みです。 知らなかったのですが本作はあの(私も大好きな)『ゴールデンカムイ』の元ネタであると書かれていて「なにィ」となってしまいました。 まだやっと読みだしたばかりですが最初からなるほどなるほどです。 この表紙からして(この男の風貌からして)読みにくいのではと思っていたのですがやはり手塚治虫、読みだすとどんどん読めてしまうというなんというマンガ作者でしょうか。 初読み『シュマリ』楽しんで読んでいきます。 ネタバレします。 一巻、読み終わる。 幕末歴史をかなり勉強して&『ゴールデンカムイ』を先に読んでいるのもあって大体理解しているので…

  • 横山光輝『飛猿斬り』からの幕末の歴史を辿り、手塚治虫『陽だまりの樹』へ

    横山光輝『飛猿斬り』この作品を読んで以来、山田一郎(表紙のお人)が頭から離れずこの半年間幕末に入れ込んできました。 以前の記事はこちらです。 gaerial.hatenablog.com これを読んだ時は「天狗党」のなんたるかも知らず山田一郎の苦しみを理解してあげられないのが苦しくてこの半年間彼に近づこうと様々な文献&YouTubeを覗いていました。 横山先生に知られたら苦笑されそうですがこの年齢になっても幕末から明治維新の歴史がまったくわかっていなかったからです。 とりあえず「天狗党」とはなにか、を探ろうとしたのですがこれがまた驚くほど「天狗党」を題材とした小説マンガなどは少なく一番わかりや…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 十一巻「維新の章」

    最終巻です。 ネタバレです。 ついに最終章となった。 伊武谷万二郎は頑固一徹のまま突き進んできた。 おせき殿を一筋に思い続けていた彼はもう少しのところでその糸はちぎれてしまい彼女は手の届かない場所に行ってしまう。 入れ替わるように現れた綾は万二郎にとって父の仇であった男の妹であり仇を取った万二郎は今度は綾の兄の仇となる。 そして万二郎の母にとっては愛した夫の仇の妹である。 万二郎は綾に惹かれるものを感じていた。恐ろしい拷問を受けた綾は植物人間となってしまうが万二郎は彼女を守り抜こうと考え仕事で遠出する際に母に綾の看護を頼む。 だが母は万二郎がいない間水や食事を与えず餓死させてしまおうと考えた。…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 十巻「桑海の章」

    ネタバレします。 緒方洪庵は慣れ親しんだ大坂適塾を出て江戸城の奥医師そして医学所頭取となるため江戸に住むこととなる。 これは体の弱い洪庵にはむしろ有難迷惑であったらしい。 特に大奥での仕事は神経の疲れるものであった。 さて緒方洪庵を通して良庵改め良仙は陸軍歩兵組付医師となる。 つまり伊武谷万二郎の隊の掛医師になるのである。 だが良仙は気が進まずお紺の店に隠れて時が過ぎ去り話が立ち消えになるのを待っていた。 品川で堂々たる豊屋の女将として活躍するお紺は今度は歩兵組屯所造成の材木調達を一手に引き受けるといい大仕事を手掛けようとしていた。 だが、競争相手である多磨屋の若旦那から「入れ札の時に尻の刺青…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 九巻「落花の章」その2

    ネタバレします。 後半は画像にあげた場面、万二郎が平助を伴って登城するところから始まる。 母上の前では乗馬で出たが途中で下馬し平助に馬を引かせて猛然と走っていく。 門前に行くと以前とはまったく違う礼を以て案内され、二の丸お留守居役の勝海舟に迎えられる。 勝は陸軍の歩兵組の重歩兵を農民を訓練することで作り上げようとしていた。 その百姓による軍事訓練を伊武谷万二郎に任せようというのである。 弱り果てた万二郎は母の勧めで父が面倒をみていたという永沢村へ行きそこで歩兵を集めることにした。 ところがいざ永沢村へ置くとそこでは無頼の徒が仕掛けた賭け事が蔓延しており村の男たちは困窮していた。 万二郎は村男た…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 九巻「落花の章」その1

    ネタバレします。 万二郎がおせき殿の異変を知るのは三日後だった。 ふたりの仲人をしようとしておせき殿の寺を訪ねた良庵が彼女がすでに尼寺に入って髪をおろしてしまったと聞いたのである。 良庵の知らせを聞き万二郎は善福寺へ走ったが住職とも会えず出てきたヒュースケンの口から彼がおせきを強姦しその後おせきが姿を消した、と言われたのだ。 万二郎はヒュースケンを斬ろうとして思いとどまった。 万二郎はおせきが入ったという全稱寺へと走り訴えるがその門は固く閉じられた。 ヒュースケンはもう別の女たちを手に入れ喜んでいた。 万二郎はアメリカ使節の護衛を辞退した。 その夜、プロシアの新任の使節が通訳を欲しておりヒュー…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 八巻「万延の章」その2

    一番左=勝海舟、左上=ハリス、左下=手塚良庵 真ん中上=ヒュースケン、真ん中真ん中おせき、真ん中下=福沢諭吉 右上=伊武谷万二郎、その下=平助、その下の左=大槻俊斎、その右=お紺、 俊斎の下=手塚良仙、一番右端=丑久保陶兵衛 ネタバレします。 さて、万二郎は禄高百石にて小姓組見習いを任じられる。 最初の仕事として命じられたのは現在ハリスから逃げてしまったヒュースケンを説得して以前の役職に戻すことだった。 ヒュースケンは赤羽はずれの百姓家にひそみ誰にも会わないらしい。 万二郎はヒュースケンの住む家へ向かう。 彼はひとりの寡婦を側に置いて世話をさせていたがそれでは物足りず「恋をしたい」と万二郎に訴…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 八巻「万延の章」その1

    幕末から明治維新。 よく日本人は江戸城無血開城で平和的だと自慢する向きがありますが事実はそんな生易しいものではないのですよねえ。 ネタバレします。 安政六年の秋から冬にかけて大獄の嵐が吹きすさんだ。 頼三樹三郎、鵜飼吉左衛門、吉田松陰は斬首。水戸藩家老安島帯刀切腹。徳川斉昭永蟄居。越前藩主松平慶永隠居謹慎。 福井藩士橋本佐内、斬首。 さて良庵は善福寺のおせきを訪ね万二郎の無事を伝え、おせきが万二郎に好意を持っていることを確信する。 しかしここで(あの暗殺された)多磨屋の若旦那成吉というのが登場する。 この男化粧しているのか赤い唇(?といっていいのだろうが?)のなよなよした風情なのだが物凄い女た…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 七巻「大獄の章」

    まさかここまで望んだとおりのものだとは思ってもいませんでした。 ネタバレします。 伊武谷万二郎は橋本佐内・西郷吉之助の名で送られてきた手紙に誘われ雨の中向かった屋敷で捕らえられてしまう。 その首謀者は井伊直弼の謀臣、長野主膳だったが万二郎は知らない。 万二郎は拷問を受けるが平助に助けられる。 家に戻った万二郎は母を山岡鉄舟の家に預け、平助と共に自宅にこもり自分を狙う敵が来るのを待った。 しかし訪ねてきたのは岡っ引きの伝吉という男だった。 ここからの展開がややこしいのだがとにもかくにも万二郎は再び捕らえられより酷い拷問を受けることになってしまう。 そしてこの牢で小浜藩の梅田雲浜、橋本佐内などが投…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 六巻「虎狼痢の章」

    いっそうおもしろくなっていきます。 ネタバレします。 上様の口の中の黒いシミを調べたい良庵はイギリスの医書の中にその症例が書いているのではないかと考えるが英語が読めない為どうしようもない。 そこで思いついたのが伊武谷万二郎に頼めば来日しているアメリカ人に読んでもらえるのではないかということだった。 急ぎ江戸に戻り無理を押し切ってヒュースケンに訳してもらい黒いシミの原因とその治療を知った良庵は伊東玄朴先生に伝えるが橋渡し役の元迫が監禁され元の木阿弥に終わる。 万二郎はいつもどおりヒュースケンたちの護衛をしていたがヒュースケンの馬に毒針が刺さっているのを発見し犯人を捜し出した。 その様子を見ていた…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 五巻「謁見の章」

    やっぱり手塚治虫マンガは読みやすくてわかりやすくて面白いなあ。 ネタバレします。 橋本佐内は適塾の緒方洪庵を訪問。適塾出身者であった。 ゆっくり語らうつもりが阿部正弘が急死との知らせに慌ただしく去っていく。 刑死人一体の腑分けが行われる。 研修生らは立ち合い見学となり良庵も参加する。 この時、突如夜鷹のお紺が現れ腑分けを見学したいと言い出す。 お紺は男装して紛れ込んだ。 腑分けの途中、陰茎の部位になった時お紺は忍び泣き始める。 腑分けされた男はお紺の亭主だったのだ。 虐待をする酷い男だったが忘れられずにいたのである。 が、夜鷹に腑分けを見せたことが洪庵先生の知るところとなり良庵は破門すると言い…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 四巻「竜胆の章」

    ネタバレします。 最初は比較的良い人だったヒュースケンが一転嫌な感じに。 よくわからんハリス氏は良い人になったかと思ったらやっぱりよくわからん人に。 しかし伊武谷はヒュースケンの一言から興味を抱き韮山の反射炉を見ることになる。 そこで福井藩校明道館教監、橋本佐内と出会う。 佐内が藤田東湖を尊敬しているという一点で伊武谷は仲良くなる。そして佐内から「近いうちあなたにも一役買ってもらうことになりそうです」と言われるのである。 そしてこの直後に会う不気味な中年男平助に出会う。 この男、マジで謎である。 いったいなぜこの男が登場したのか。 すごく印象深い存在なのだけど意味が良くわかっていない。 今回の…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 三巻「下田の章」

    幕末・維新にはまり中の今。 注目すべきは薩長土肥よりも水戸藩なのではなかろうかと思っています。 本作ではあまり出てこないかもしれませんが、水戸藩の浪人牛久保が登場しています。 ネタバレします。 緒方洪庵の適塾で手塚良庵はダメ人間ながらもなんとか医学を学んでいく。 まずは仲間たちで嫌がられながらもアンモニア精製をし、洪庵先生の付き人として痘瘡にかかった大店の主人に会いに行く。 しかしそこの主人は種痘には嫌悪感を持っており自分自身の診察はさせず使用人にも種痘は禁じ調べるだけならというのであった。 すると店で下働きをしている若い女が風邪で休んでいるという。 洪庵に命じられ良庵はその女の家を訪ねる。 …

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 二巻「鳴動の章」

    ネタバレします。 冒頭の丑久保陶兵衛とその妻のエピソードが怖くて一番記憶に残ってしまった。 本書の熊菱という蘭方医に臨月の妻を診せたところ「すぐに産ませた方が良い」と言って薬を飲ませたが生まれる気配はなく妻は苦しみだした。 慌ててその医者は陰部を切り裂いて子供を引きずり出したというのだ。 それ以後その妻は子どもを産めぬと言われたうえ顔に痣ができ頭髪も抜けはじめた。 丑久保は恨みを晴らそうとしたがその蘭方医はどこかへ逃げてしまったのだ。 牛久保は手塚良仙に「同じ蘭方医の責任で妻の身体を元に戻せ」と無理難題をもちかけ「できないならその指を全部斬り落とす」と迫った。 出産のアクシデントは最も辛いこと…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 一巻「双鯉の章」

    幕末から明治維新にかけての読書を希望しているのですが手塚治虫作品ではこれを外すわけにはいかないだろうと思い再読&感想を書いてみます。 何度も読んだ作品ですがこの思いで読めばまた一味違うかもしれません。 もともと手持ちの本なのでこのための散財もなし。嬉しき事なり。 ネタバレします。 手塚治虫作品はとにかくわかりやすくて嬉しい。キャラクターの違いが明確でストーリーがびしびし入ってくる。 本作はダブル主人公というのだろうか。 貧乏武士のせがれである伊武谷万二郎と外科医の手塚良庵のふたりの男の生き様を描いていく。 伊武谷万二郎は架空の人物だが手塚良庵は手塚治虫氏の実在の曽祖父である。 直情型真面目一本…

  • 『合葬』杉浦日向子 その4

    ネタバレします。 (了) 「維新は実質上維新(これあらた)なる事はなく末期幕府が総力を挙げて改革した近代軍備と内閣的政務機関を明治新政府がそのまま引き継いだにすぎない。 革命(revolution)ではなく復位(restoration)である」 雨降る夜分、腕に傷を負った極は柾之助に支えられながら秋津家の分家を訪ねる。 が、奥から「ならぬ、匿えば家が絶える。奥州へでも逃げよと云え」という主人の声が聞こえ極は柾之助に「出よう」と告げた。 追ってきた爺がとある店屋に小判と米を渡して「この雨の中。せめて一晩匿ってほしい」と土下座して頼み込んだ。 いったんふたりは納屋にかくまわれたが「ひとり一両」とい…

  • 『合葬』杉浦日向子 その3

    続きます。 ネタバレします。 (五) 悌二郎の妹砂世は別の人に嫁ぐこととなった。 その前に一目、極に会いたいという。妹の頼みを悌二郎は極に伝えに行く。 極はその頼みを断る。その時に「山は官軍に取り囲まれている」と報がはいった。 即刻戦闘準備がなされたが具体的な作戦指令はない。 春日左衛門が檄を飛ばす。 弾避けは畳だった。 悌二郎は逃げ遅れしまう。 丸毛靱負は「一人一殺だ。死ぬ前に必ず敵を一人以上殺せ。銃声がしたら木に隠れるか伏せろ。弾に当たって死ぬほど無駄なことはない」と言い渡す。 極は悌二郎に謝った。 悌二郎は昔兄と共に蝉が脱皮する瞬間を見たことを思い出し極に話す。 「いや、なんでもない」 …

  • 『合葬』杉浦日向子 その2

    さて続きです。 ネタバレします。 (参) 彰義隊はすでに三千名を越え存在そのものが巨大な反政府勢力とみなされていたが、彼らには新政府を倒し幕府の再建を謀るという所思はなくしいて言えば「義憤」が彼らの原動力にすぎなかった。 しかし数度の解放勧告を拒否するうち、初志とかけ離れた軍事的組織へと変貌していく。 福原悌二郎は上の寛永寺彰義隊屯所へと向かった。 ここで悌二郎は秋津極の除隊を頼むつもりだったが逆に入隊したまえと誘われてしまう。 そう言ったのは森篤之進、二十四歳。体内穏健派の川村敬三の懐刀である。 川村らは戦争回避のために派遣されていた。主戦論を持つ強硬派を危ぶんでいた。 福原悌二郎のような論…

  • 『合葬』杉浦日向子 その1

    初めての杉浦日向子作品読です。 今幕末から昭和初期までの歴史にはまっており本作に巡り合いました。 私はとりあえず生まれた場所的に官軍側の人間なのですが、だからといってこれまで大した幸運はなかったよなと思っていました。しかしよくよく考えれば歴史による何かしらはあるはずです。もし賊軍側の場所に生まれていれば何かと悔しい思いもしたのかもしれません。 本作はいわば賊軍となってしまう彰義隊の物語です。 本作を読んで何かを知りたいと思っています。 ネタバレします。 (壱) 旗本笠井家三百石小普請(非役)に養子としての恩義がある吉森柾之助が語る。 ある夜、養父が酒席で死んだ。 酔って抜刀したのを相席していた…

  • 『「坊っちゃん」の時代』第五部「不機嫌亭漱石」 関川夏央・谷口ジロー

    第四部までを総括する一巻となっています。 また幻想的な文学作品とも言えます。 ネタバレします。 夏目漱石の胃の痛みがますますひどくなる。 漱石は伊豆修善寺の菊屋旅館で転地療養することにした。 しかし雨が降り続く上に旅館は部屋の用意をしておらず漱石の気分はより沈鬱なものになっていく。 出された食事の刺身は食べず生卵二つを混ぜて三杯の飯をかき込む。 隣ではゴム長で儲けたという男たちが歌って騒ぐのがうるさく漱石は怒鳴りこむ。 ここでも漱石は伊集院警視が監視をよこしたと疑っている。 漱石の教え子である松根東洋城(豊次郎)がなにくれとなく世話を焼いた。 漱石の物語は次第に幻想的なものになっていく。 かつ…

  • 『「坊っちゃん」の時代』第四部「明治流星雨」 関川夏央・谷口ジロー

    関川夏央氏による「あとがき」に第三部から三年半の時日を経て関興できた、とされています。 そのせいもあってかかなり絵柄が変わった感があります。 しかしこの内容にはこの筆致が適切だったのではないでしょうか。 ネタバレします。 「坊っちゃん」の時代、というタイトルが示す通りの物語だ。 なぜか皆体が弱い。 興味深い話なのだけど「どうしてこうなっていくのか」というもどかしさがある。 若き日の幸徳秋水が「一夜にして天下をとれましょうか」と問う。 芸術で人々の心を捕らえるという意味でならあるだろうけれど社会改革のそれは不可能だろう。 しかしこの時はまだ何もわからない。 やがて世界的な戦争が始まりそして共産主…

  • 『「坊っちゃん」の時代』第三部「啄木日録 かの蒼空に」 関川夏央・谷口ジロー

    読み込むのに時間と努力が必要だった前回の森鴎外編とは違い本編石川啄木は初読で入り込んでしまった。 ネタバレします。 貧乏なダメ男の話を読むほど辛いことがあるだろうか。 しかも才能はあり自尊心も高い。 が才能はあってもそれがすぐに認められることもなく金に換える力はない。もともと家柄もよく甘やかされて育っただけにそれなりの贅沢が当たり前になっているのだ。 しかもこのルックス。 谷口ジローキャラデザはいかつい男が多くそこが魅力だ。漱石も鴎外も必要以上にいかめしく描かれていたが啄木に至って実像以上に愛らしく描かれてしまうというのがおもしろいところ。 谷口氏本当に絵が上手い。こんな可愛い男も描けるのだ。…

  • 『「坊っちゃん」の時代』第二部「秋の舞姫」 関川夏央・谷口ジロー

    この第二巻は冒頭を除けば森鴎外の『舞姫』で描かれたそのモデルとなるエリスバイゲルトと森鴎外の物語となっています。 ネタバレします。 この物語をどのように受け止めていいのか迷ってしまう。 正直今の自分には本作を良しとしていいのか否定すべきなのかもわからない。 しかしそう言ってばかりでは先に進まないので思った通りに書いていこう。 まずは森鴎外という人物の人格を怖れる。 エリスに日本へ行って結婚しようと言いながら共にではなく別便で後を追わせている。 別に手をつないでとは言わないがこの時代に女性一人で渡航させてしまうことに人間性を疑う。この時点で鴎外はエリスが自分の後を追うことをあきらめさせようと思っ…

  • 『「坊っちゃん」の時代』第一部 関川夏央・谷口ジロー その2

    続きます。 ネタバレします。 第六章 マドンナと清 「坊ちゃん」を思い出し、そうかーとなった。 しかし清は印象深いがマドンナのことはさっぱり覚えていない。 坊ちゃんは清から物凄く褒められおだてられて大きくなった。すごく幸福な少年なのだ。 誰もが自分にとっての清を欲しいだろうと思う。が、清は日本における旧時代の女性だったのか。 小説として坊ちゃんは最終的に清を選ぶ。 清と一緒に暮らすのだと願う。しかし清と暮らせたのはごくわずかの間で彼女は死んでしまうのだ。 坊ちゃんは清のことは「婆さん」と呼んでいるから恋する相手ではなかったのだが一緒に暮らしたいと願う相手はその婆さんである清だった。 しかしマド…

  • 『『坊ちゃん』の時代』関川夏央・谷口ジロー

    「漫画アクション(双葉社)」1987年~1996年 作者名は原作・作画に分けず共著という形であるということです。 最近、幕末から明治そして昭和初期まで、つまり日本近代史に凝っています。 ところがその辺が舞台のマンガ作品は極端に少なく、且つ興味が抱けるものとなればますます限られてきます。 その中で本作は非常に気になる作品です。 谷口ジロー氏作品自体初めてなのですがこれから楽しく読んでいこうと思います。 ネタバレします。 まずは読前情報として、この作品は「この人とこの人がこの時点でもしも出会っていたら」という仮定を織り交ぜる手法であるらしい。主人公夏目漱石をはじめ多くの実在の文豪や有名人物が登場す…

  • 『ポーの一族』「青のパンドラ」(2016年)萩尾望都

    「フラワーズ」2022年7月号- 8月号、10月号、2023年1月号 - 2月号、6月号 - 7月号、9月号、11月号、2024年1月号、8月号、10月号 と、前回悲劇的な感じに襲われましたが今回本作そんなことは忘れたかのように面白いのでありました。 ネタバレします。 どういうわけか本作は『ポーの一族』始まって以来最高の活劇ものになっている。 神のように美しく千年間眠り続けている兄を持つ悪魔的なバリー。明るくハンサムなファルカと美しいブランカ夫妻。 そして御大と呼ぶにふさわしい大老ポーの登場。 エドガーは燃え尽きて炭と化したアランをアタッシェケースに入れて持ち歩いている。 萩尾氏は少女マンガの…

  • 『ポーの一族』「秘密の花園」Ⅰ・Ⅱ(1888年)萩尾望都

    「フラワーズ」2019年7月号、2020年8~11月号 「フラワーズ」2021年6~8月号、10~11月号 第10作「ランプトンは語る」の前日譚です。 アーサー・クエントンとエドガーとアランの物語。 ネタバレします。 この二巻の間に一年以上の時間が経ち萩尾氏の絵がはっきりと変化していくのがわかる。 物語は40年前と比較すると格段に円熟し深みを感じさせるが絵は肉体の変化が露骨に出てくるものなのだろう。 構成、演出、構図は素晴らしいのだが「線」だけはどうすることも出来ないのかもしれない。 逆に言えば萩尾氏はペン入れを他の人に任せることなく自身で行っているのだろう。 人はこの作品をどんな気持ちで読む…

  • 『ポーの一族』「ユニコーン」(2016年、1958年、1975年、1963年)萩尾望都

    1976年にロンドン、エヴァンズ家での火事でエドガーとアランが姿を消してから四十年経ち2016年にエドガーとファルカが再会する、というところから始まります。 そのための先に『春の夢』だったのでしょう。 つまりエドガーはアランが火の中に落ちた後ひとりだけで行動することはなかったのですね。 ネタバレします。 ファルカは「壁を通り抜けて思った場所に出られる能力の他に「鳥のネットワーク」を持っているという。 なんだかわくわくする展開だ。 そしてエドガーはずっとグールのような怪物の姿になっていたという。 さらにエドガーはアタッシェケースを出して「アランはここにいるよ」と言うのだ。 ここで「ダイモン」と呼…

  • 『ポーの一族』「春の夢」(1944年)萩尾望都

    2016年7月号~2017年3~7月号 とうとうここに辿り着きました。 これまでの何度も読み返した作品群とは違いここからは私目を通してはいますが解像度はかなり低いです。 とはいえ自分自身楽しんで書いていきます。 ネタバレします。 40年ぶりの新作。そしてそれ以上に再びアランが登場すると聞いて私も他のファンと同じように嬉しく読んだ。 且つ新作が単なる懐かしさに留まるものではなく新しい局面を見せていくことに萩尾望都の物凄さを感じる。 40年前のエドガーは孤高の超人の思わせた。恐れを知らぬ佇まいと高い能力に魅了された。彼がなぜ怯えもせず生活できるのかわからなかったが本作を読んでエドガーもまた労働無く…

  • 『ポーの一族』「エディス」(1976年)萩尾望都

    1976年「別冊少女コミック」4~6月号 『ポーの一族』シリーズ15作目。現在の再開に至るまでは長い間ここで最終作となっていました。 ネタバレします。 この一作については様々な思い出があります。 まずはなんといっても衝撃的な終わり方。 私はどんな終わり方であろうともエドガーとアランは永遠の時を生きるのでしょう、というような夢みる終わり方になるとなんとなく信じ切っていて疑わないでいたのだ。 それがアランの死、というそれまでのどんなマンガいやコンテンツから受けたことのない残酷な仕打ちをされしばらく茫然とするしかなかった。 なぜ作者はこんな冷徹なエンディングを与えたもうたのか。 悲しかった。 折りし…

  • 『ポーの一族』「一週間」萩尾望都

    1975年「別冊少女コミック」12月号 アランの一週間の物語です。 ネタバレします。 というか上に書いた通りでエドガーが出かけて一人切りになったアランの一週間を描いたほのぼのほっこり一編。 この作品がラストのひとつ前とは思えない。というかラストひとつ前と思って読むと泣けてしまうではないか。 という以前の涙も今は払拭されたことがなにより嬉しい。 雨の日に出かけなければならないというエドガーに文句をいうアラン。 なら留守番してな、悪さするんじゃないよ一週間で帰ると言ってエドガーは出かけてしまう。 こども扱いするエドガーに愚痴るアランだが考えたらうるさいエドガーは一週間いないんだとはしゃぎだす。 翌…

  • 『ポーの一族』「ホームズの帽子」(1934年)萩尾望都

    1975年「別冊少女コミック」11月号 シリーズ第13作目。 前作「はるかな国の花や小鳥」の男性版ともいえる内容でありますがこちらはまったく明るい感じです。 ネタバレします。 私的にはこちらも女性でやって欲しかった気もする。 とはいえ仕方ない。 これまで第9作「リデル・森の中」と第10作「ランプトンは語る」でエドガーを追い続ける老紳士オービンがどうしてエドガーを追いかけるようになったかを描いているのだから。 オービンはもともと魔物が好きで伝説やら妖精やらを研究し旅をしていた男だった。霊感を強めようと髪を長く伸ばしていた。 が、男が髪を長く伸ばしているのは嫌がられる時代。思いを寄せていたイゾルデ…

  • 『ポーの一族』「はるかな国の花や小鳥」萩尾望都

    1975年「週刊少女コミック」37号 正直言ってこのエルゼリさんが好きになれないのですが何故この話を描かれたのかと考えてみました。 ネタバレします。 萩尾作品は「そんな簡単に人生は送れない世界」を描いている。その上で「なんとかなるさ」的な明るさ希望を見せてくれる話が多いので好きなのだが本作は救いのない話になっている。 今回の主人公エルゼリは美しい女性で「町の合唱隊」を自分で作り練習させている。 いつも微笑みを浮かべている幸福な女性なのだ。 なぜ幸福なのかというと決して現実の嫌なものを見ないようにして薔薇やアップルパイや歌など自分が好きなものだけを大切にして生きているのだ。 「自分の好きなものだ…

  • 『ポーの一族』「ピカデリー7時」萩尾望都

    1975年「別冊少女コミック」8月号 なんだか不思議な味の小品です。 ネタバレします。 ポリスタ―卿というポーにしちゃお人好しな男性がリリアという美しい少女を育て上げ二十歳になったら自分の配慮として一族に加えるつもりだったのだけどその前に殺され消え去ってしまう。 何も知らない美しいリリアは優しかったポリスター卿が突然行方不明になったことを悲しみながらも愛し合っているポールと結婚できることに喜びも感じていた。 この物語で「ポーの村」というのがエドガーたちにもどこにあるのかわからなくなっている知る。 ポリスター卿はポーの村への入り口を見つけてエドガーたちを連れていく約束をしていたのだ。 しかし彼が…

  • 『ポーの一族』「ランプトンは語る」(1966年)萩尾望都

    1975年「別冊少女コミック」7月号 シリーズ第10作目。これまでの一連の物語がここに収束される。 この一編がとても好きです。 この一編だけでもいいほどです。 ネタバレします。 1966年、かなり現在に近づいてきた。 とはいえ古い館で配線工事もまだの為ランプをともしての会合が始まる。 最初の説明はなくゆるゆると何の会合なのかが判ってくる。 (まあ、『ポーの一族』シリーズなのはわかっているのでそれ関連だろうと思われるはずだ) 老紳士が一枚の絵を来訪客に見せる。 ひとりの愛らしい少女が「あらトーマス・ロレンスの「ランプトンの肖像」だわ」と発言する。 老紳士は「そのとおり。だがこれは模写です」という…

  • 『ポーの一族』「リデル♡森の中」(1879年ころ~1940年)萩尾望都

    1975年「別冊少女コミック」6月号 1940年、リデラード(リデル)・ソドサ夫人がジョン・オービンに幼い頃の思い出話をする、という形式の物語。 前回の続きなので1879年ころ~となる。 ネタバレします。 一見、愛らしいリデルがエドガーとアランに大切に愛され育てられた微笑ましい物語と見えてしまうが、その実リデルの両親を惨殺したのはエドガー自身でありアランもその血を吸収することで生き永らえたというおぞましい短編である。 恐ろしいのはその事実を誰も知らされず気づいても勘ぐってもいない様子でそれはせめてもの救いになるのかどうか。どうせならリデルが何も知らぬままであって欲しい気もするが。気の毒すぎるよ…

  • 『ポーの一族』「ペニー・レイン」(1879年)萩尾望都

    1975年「別冊少女コミック」5月号 シリーズ第8作。 第4作「ポーの一族」の続きとなる。 ネタバレします。 妹メリーベルをヴァンパネラ一族に加えて後失い、今度は友人になったアランを仲間にと願ったエドガー。 だが一日で蘇生したメリーベルと違いアランはなかなか目覚めない。 エドガーは物思いにふけるばかり、というお話。 話を追うにつれ時間が経つにつれエドガーは以前のヴァンパネラになったことに思い悩むことはなくなり人を襲って血を吸うことには何のためらいもなくなっていく。 本作で物思いにふけるのはひとりでは寂しいからアランよ早く目覚めてくれという願いばかりなのだ。 アランが目覚めないのはペニーレインの…

  • 『ポーの一族』「エヴァンズの遺書」(1820年)萩尾望都

    1975年「別冊少女コミック」1~2月号 『ポーの一族』シリーズ第7作。前作「小鳥の巣」で終了するはずだった本シリーズの再開最初の作品です。 ネタバレします。 実は『ポーの一族』三部作が終わって以降が面白いのかもしれない。 「エドガーを見たことがある」シリーズは『ポーの一族』第一弾「すきとおった銀の髪」から始まっている。 本作ではエドガーの青い目に夢中になってしまうヘンリー・エヴァンズ伯爵、と思いきや豈はからんやエドガーを目の敵にしまくったロジャーと傍観者ドクトル・ドドが「エドガー追跡者」となっていくのである。 この一作もとてもおもしろい。 常に自信に満ち堂々と立ち居ふるまうエドガーが馬車の事…

  • 『ポーの一族』「小鳥の巣」(1959年ころ)萩尾望都

    1973年「別冊少女コミック」4~7月号 ネタバレします。 『ポーの一族』三部作の最後の作品とされる。 「グレンスミスの日記」の冒頭およびラストシーンがこの物語の中にある。 『ポーの一族』の真骨頂と言えば本編ではないでしょうか。 すでに吸血(噛みつきはしない)による殺人を犯すことに喜びを感じている揺るぎなきヒーロー=エドガーとその彼を焚きつける相棒(そんな表現誰もしないが)アランによるギムナジウムホラーミステリーに成長した。 『トーマの心臓』との相似点も楽しみのひとつでもある。(相違点も) まずは冒頭落ちてくる少年の構図から始まる。(「小鳥の巣」の出だしはキリアンの妄想だが) 『トーマの心臓』…

  • 『ポーの一族』「メリーベルと銀のばら」(1744~1757年ころ)萩尾望都

    1973年「別冊少女コミック」1月号~3月号 バンパネラであるエドガーとメリーベルのまだ人間だった頃のお話です。 ネタバレします。 1700年代。 初めて読んだ時は考えてもいなかったが読みかえしていくとはっきりとこの物語が見捨てられた子どもの話だと認識させられる。 エドガーとメリーベルは実際は殺せと命じられて殺されずやむなく捨てられてしまう。 それを拾ってくれたのが老ハンナ・ポーだった。 エドガーたちはハンナの館で育てられるがここでも村人たちから怪しげな者たちとして疎外されている。 昔は何も思わずポーの雰囲気にひたっていたが今読むと(今更!)なぜポーの一族は「年を取らず永遠の時を生きる」という…

  • 『ポーの一族』「ポーの一族」〈第一・二・三・四話〉1880年ごろ 萩尾望都

    1972年「別冊少女コミック」9月号 - 12月号 この4話めが私の萩尾望都初遭遇です。 いきなり4話目、打ちのめされました。 ただしどうもリアルタイムではなかった気もします。 ネタバレします。 というわけで私は本作(4話目)が初体験だったので逆に驚かなかったのだけどずっと萩尾望都マンガを読んできた人、編集者も含む、は驚嘆したということはないのだろうか。 今回萩尾望都の軌跡を追いかけてきて思うのだが、この前の作品『毛糸玉にじゃれないで』からのこれというのは物凄い変化だ。 むろんこの間に先日あげた三作があるのだけどこの三作を描くうちにここまで激しい上達というのか成長というのかいわばレベルアップを…

  • 『ポーの一族』「グレンスミスの日記」(1899~1959年ごろ)萩尾望都

    1972年「別冊少女コミック」8月号 昨日の「ポーの村」の続きです。 ネタバレします。 「グレンスミス魔の24ページ伝説」というのがあります。(今考えました)(というか多くの方が言われてますね) まずは冒頭。 「だれにする?」 大きな建物を背景にしてのセリフ。 「それ これから決める」と続く。 これは最初がアランで次の答えがエドガーなのだと後にわかるがこの時点でアランは登場していないので読者はわかりようもない。 そしてこの会話が第3巻に収録される「小鳥の巣」での会話だというのもこの時点では誰も判らないのだ。作者以外は。 そこに「エド!」と話しかける少年がいる。周囲にも少年たちの姿。もちろん「小…

  • 『ポーの一族』「ポーの村」(1865年ごろ)萩尾望都

    1972年「別冊少女コミック」7月号 後に『グレンスミスの日記』として読まれるそのグレンスミスの物語です。 ネタバレします。 昨日書いた普通の人が出会ってしまう「エドガー体験」をしてしまうグレンスミス氏。 森の中で鹿狩りをしている時、仲間とはぐれこともあろうに物音を聞いて鹿と間違えメリーベルを撃ってしまう。 追いかけてきたエドガーは怒りグレンスミスから銃を奪って撃ち殺そうとするが当然だ。マンガとはいえ腹が立つわ。 「メリーベルのためにだけぼくは生きているんだ」と言う言葉にどんなに惹きつけられたことか。 そしてエドガーの言葉に打ちのめされたグレンスミスは茫然としながら村を巡り歩く。 グレンスミス…

  • 『ポーの一族』「すきとおった銀の髪」(1815年ごろ)萩尾望都

    1972年「別冊少女コミック」3月号 ついに到達した『ポーの一族』です。 『ポーの一族』にいついて何を語りたいか、今はまだ何もわからずにいます。 いったいこの物語が私にとってなんだったのかをこれから考えていきたいと思います。 ネタバレします。 本作ではないが私が初めて萩尾望都作品として認識したのは『ポーの一族』だった。 それはとても幸福なことだったと思う。 以後、『ポーの一族』第1巻を買って読みこの作品は末尾に収録されていた。 確かに本作は先に収録されている「ポーの一族」より絵がやや稚拙でその時の私でもこの作品が前に描かれたと気づいていた。 しかしその世界観はすでに明確にされていたのではないだ…

  • 『毛糸玉にじゃれないで』萩尾望都

    1972年「少女コミック」2号(1971年12月) さらに珍しい萩尾望都日本現代劇の高校受験もの。 しかしSFファン界隈で話題となる。 ネタバレします。 とは言えこの頃はとにかく詰め込み教育、受験地獄受験戦争と言われる時代だった。 自然とマンガでもそうした話が多くあった。 山岸凉子氏には『メタモルフォシス伝』という名作がある。これはおすすめ。 山岸作品のは完全に真剣な受験勉強マンガだけど萩尾氏のこちらはやっぱり希望的。 そしてSFへの道を進んでくれる。 このマンガは読んでいなかったけどキースのアルジャーノンは読んだよ。

  • 『みつくにの娘』萩尾望都

    1972年「別冊少女コミック」お正月増刊 希少な日本時代劇もの。 でも本質的には『ビアンカ』の流れですね。 ネタバレします。 そしてやはり「疎外される主人公」の系譜である。 〝みや”は愛らしい娘だが「父なし子」というので村人から母親をいびり殺された。 祖母はみやを連れて山奥で暮らしているのだ。 そんなみやに村人の〝きち”は心惹かれ嫁にほしいと願っていた。 しかし祖母は「みやは山の神にみそめられている」と言ってきちの言葉を否定した。 山の神に愛されたみやの美しさよ。

  • 『あそび玉』萩尾望都

    1972年「別冊少女コミック」1月号 多くの作家は、そして優れた作家ほど同じ話を繰り返して表現するような気がします。 萩尾望都もその一人かもしれません。 彼女の作品は疎外された主人公の物語。 疎外するのは社会であり主人公の親・家族なのです。 ネタバレします。 この『あそび玉』の原稿が紛失してしまった、話は今はもう有名なのだろう。まるでこの物語そのもののようにどこかへ飛んで行ってしまったのだろうか。 いやいや、漫画原稿の紛失問題かなりある。 特に以前は管理が甘かったとしか思えない。このマンガが読めなかったかもしれないと思うとその怒りをどこへぶつけていいかわからない。 しかもそのせいでいつものシャ…

  • 『セーラ・ヒルの聖夜』萩尾望都

    1971年「少女コミック」冬の増刊号 萩尾望都作品で何度も繰り返し出てくるモチーフ双子、そして特に男女の双子というのは女性作家に多く男性作家ではほとんど見られないものです。 何故女性作家は男女の双子に惹かれてしまうのか。 そしてその傾向は現在よりも過去に多い気がします。 ネタバレします。 男女の双子であるキャロンとクリス。 十二年前、ふたりは50日足らずの赤ん坊の時に両親を事故で失ってしまう。一時養護施設に預けられたふたりはそれぞれ一人ずつ別の両親によって引き取られていった。 ところがある偶然で二人は出会ってしまう。 まったく同じ顔の相手を見た二人は驚く。 ふたりは自分たちが預けられていた養護…

  • 『白い鳥になった少女』萩尾望都/ 原作:アンデルセン『パンをふんだ娘』

    1971年「別冊少女コミック」12月号 名作文学のマンガ化はかなり行われてはいると思いますが萩尾氏のこれはいったいどうして行われたのでしょうか。 言っちゃなんだけどほんとに心えぐってくる嫌~な話である。 インゲの悪娘感がたまらない。 綺麗な顔が自慢で蠅の羽根をむしる娘。 でも働きに出た先のおかみさんには気に入られていたのだからそうそう悪くはなかったはず。 しかしもらったパンを踏みつけたことでおぞましい場所に堕ちてしまう。醜い沼女にからかわれながらかつてインゲ自身が羽根をむしったために飛べなくなった蠅が彼女の身体を這いずり回る。そしてお腹がすいてくるが足の下にあるパンを手に取ることはできないのだ…

  • 『11月のギムナジウム』萩尾望都

    1971年「別冊少女コミック」11月号 萩尾ファンであれば本作が『トーマの心臓』の習作版だったと想像してしまうが本当は先に『トーマの心臓』が構想され執筆されつつあったのだが発表の場がなくやむなく先に短編として再構築された本作のほうが世に出ることとなった、という萩尾氏自身の説明があるということらしいです。 私も『トーマの心臓』の後で読んだものです。 ネタバレします。 ついに萩尾望都の大きな扉に辿り着いた気がする。 『11月のギムナジウム』折りしも今11月。 萩尾望都のギムナジウムもの、というと「女性が考えたほんとうの男子ではない天使のような美しさ」とよく評されていて私はそれが不満だったし今もそん…

  • 『白き森白き少年の笛』萩尾望都

    1971年「少女コミック」45号 美しい物語です。 ネタバレします。 『ビアンカ』の少年版ともいえるしその後の話とも思える。 静かな田舎に一家で越してきたおとなしい少女は森の中で綺麗な少年と出会う。 不思議なことに少女の家にはその少年の絵が飾られていた。 少女は母親に森の中の少年を紹介する。 だが母親にはその少年の姿は見えなかった。 しかしすべてを察した母親はその少年、森の中の井戸に落ちて死んでしまった少年の両親に知らせたのである。 果たして、井戸の中から少年は白い骨となって見つかった。 『秋の旅』と違って考えることはない。 美しい短編である。

  • 『秋の旅』萩尾望都

    1971年「別冊少女コミック」11月号(10月号に掲載となっていた不思議) 萩尾望都氏の代表作のひとつに数えられているのではないでしょうか。 構成の素晴らしさは確かなのですが今回読んでみて以前とは違う感情を持ちました。 ネタバレします。 少年ヨハンのモノローグから始まる。 萩尾氏のいつもの語り口で静かに物語の中へ誘われる。ここでは汽車の全景は描かれないのにガタンガタンという書き文字が聞こえてくるようだ。 小さな田舎の駅に着いたヨハンはそこで降りてモリッツ・クライン先生の名を知っていた馬車の男性に乗せて行ってもらうことになる。 到着するとヨハンはクライン先生と思しき男性に会うのだが何も言えない。…

  • 『10月の少女たち』萩尾望都

    この「10月の」はレイ・ブラッドベリ『10月はたそがれの国』からきたものでしょう。 『10月はたそがれの国』は『THE OCTOBER COUNTRY』なのでこれでよいのであります。『10月のたそがれ少女』でなくてよかったです。(もしかしたらそういう作品あるかも) ネタバレします。 その1.トゥラ 隣同士に住んでいる少女トゥラと少年ロビー。 トゥラは「宿題を手伝って」とロビーを部屋に呼ぶ。 そして「ロビー、女の子にキスしたことある?」と聞いてくる。「やってみない?」と誘うのだ。 ロビーが「実験じゃなくて本気でやるよ」といってキスするとトゥラは「いやあ」と泣きだした。 その2、真知子 庭で恋愛小…

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