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  • 「絵本戦争」 堂本かおる

    「絵本戦争禁書されるアメリカの未来」(堂本かおる著2025年2月太田出版194p)を読みました。今、アメリカで絵本戦争が起こっているらしい。絵本ばかりではなく児童書も、ヤングアダルトも。禁書運動が起こっているのだ。ニューヨーク在住の著者によるこの本はどんな絵本が禁書になっているのかを一冊一冊丁寧に紹介している。禁書派の主張は「親が読ませたくないと思う本」を学校の図書館から除いてほしいというものだ。親が読ませたくない本というのは、主に白人の子どもが「まだ知らなくてもいい」内容の本だという。黒人がどのようにしてアメリカに連れて来られ現在もどれだけの不利益を被っているか同じようにLCBTQ性教育闘う女性障害者ヒスパニックアジア系イスラム教徒先住民……あの「ゆきのひ」(偕成社)も「くまのコールテンくん」(偕成社)...「絵本戦争」堂本かおる

  • 「死はすぐそばに」 ホロヴィッツ

    「死はすぐそばに」(ホロヴィッツ著2024年9月東京創元社487p)を読みました。「ホーソーン&ホロヴィッツ」シリーズの新作です。元警察官で今は私立探偵をしているホーソーンに作家のホロヴィッツが同行して事件解決の顛末を取材して「書く」といういつものスタイルとは違う。事件は5年前に起こったものでホーソーンは資料を小出しに届けて来るだけで姿を現さない。なぜ?この事件の時はホーソーンと同じように警察を辞めたダドリーが助手をしていたという。密かに対抗心を持つホロヴィッツ。ホーソーンはダドリーのこととなると口を噤む。なぜ?事件そのものは密室殺人だ。中庭を囲んで数軒の家が建つリバービュー・クロースで殺人が起こる。リバービュー・クロースの入り口は電動門扉で外から人が入って来れないようになっている。(密室)新参者で傍若無...「死はすぐそばに」ホロヴィッツ

  • 「にぎやかな落日」 朝倉かすみ

    「よむよむかたる」の朝倉かすみさんの「にぎやかな落日」(朝倉かすみ著2021年4月光文社240p)を読みました。主人公は83歳のおもちさん名前はもち子夫は施設に入っていておもちさんは、ひとり暮らし。近くに息子一家が住んでいて息子の妻のトモちゃんが週に2度ほど顔を出す。東京に住む娘は朝晩2度電話をくれる。おもちさんの記憶はうっすらとしていて面倒なことは、後でいいかと思ってしまう。訪問看護師に糖尿病だから甘いものを食べてはいけないと言われても毎日アイスは欠かさないしお取り寄せのカステラも食べる。(食事記録には不記載)そんなおもちさんの「語り」で物語は進む。とびとびの記憶の日々でもおもちさんの感性は健在だ。娘のちょっとした言葉にかっとなり茶のみ仲間の一言に悪意を感じる。ちょっとした自分の言葉に娘が驚愕の表情をす...「にぎやかな落日」朝倉かすみ

  • 「カフネ」 阿部暁子

    本屋大賞の「カフネ」(阿部暁子著20245月講談社302p)を読みました。読んでいたら「本屋大賞」になってしまった。ひとことで言うと上手い◯バディもの(が面白くないはずはない)法務局に勤める41才の薫子と(ここ数年不妊治療をしているが成功せずそうしているうちに夫から離婚を切り出され少し前に弟が死ぬという出来事があった)と、家事代行を仕事にしている29才のせつな(薫子の弟の別れた恋人)はあることをきっかけにペアを組んでボランティアの家事代行をするようになる。◯家事代行ボランティアの行く先が(水戸黄門スタイル)現代の問題を反映している。ひとり子育て育児放棄認知症の家族の介護……◯主人公の不安定さに目が離せなくなる。不妊治療に成功しなかったためか街中で子どもを見かけると誘拐妄想がふくらむ。夫に出て行かれたことで...「カフネ」阿部暁子

  • 「酒を主食とする人々」 高野秀行

    「酒を主食とする人々エチオピアの科学的秘境を旅する」(高野秀行著2025年1月本の雑誌社275p)を読みました。酒を主食とする人々がいるという。朝食も、夕食も酒、ティータイムも酒大人も、子どもも(表紙写真)、妊婦も酒を飲むって本当?かどうか確かめる旅に出る高野さん。(高野さんの旅なら面白くないはずはない)本当に食事のように酒を飲むのかを確かめるには滞在するしかない。(今回はテレビ番組のためのロケ)最初に滞在したのはコンソという地域のマチャロ村村は石垣に囲まれ、門から入る仕組みうねうねとした道も石で畳まれている。(ゴツゴツして歩きにくい)家は丸い壁に円錐状の屋根が掛かった椎茸のような形のものが数棟で一家族分になっている。村には木のポールが10本あり18年毎に一本立てるというからこの村の歴史は180年ほどにな...「酒を主食とする人々」高野秀行

  • 「謎の香りはパン屋から」 土屋うさぎ

    このミステリーがすごい!大賞の「謎の香りはパン屋から」(土屋うさぎ著2025年1月宝島社253p)を読みました。パン屋漫画家Vチューバー甲子園を目指す野球部員幼なじみと美味しい素材満載(著者は実際に漫画家アシスタント)日常のちょっとした違和感を漫画家志望の主人公の大学生・小春が解いていく連作短編集です。一緒に推しの出る舞台を映画館で観ようと約束したのにドタキャンされたのはなぜ?バイト仲間がフランスパンにクープ(切れ込み)を入れる作業が出来なくなったのはなぜ?幼なじみの野球部員の持つマスコットを少女がコーヒー浸しにしたのはなぜ?……という少女漫画のような話に気を取られていると著者の伏線に足を取られる。描いた漫画の主人公の眼帯がページによって右になったり左になったりしていることを編集者に指摘されるソフトボール...「謎の香りはパン屋から」土屋うさぎ

  • 「バベル オックスフォード翻訳家革命秘史」 クァン

    面白いと聞いたので「バベルオックスフォード翻訳家革命秘史」上下(クァン著2025年2月東京創元社上467p下324p)を読みました。つい「オックスフォード翻訳家(革命)秘史」と読んでしまっていた。下巻を読んで「革命」の文字があったことに気がついたくらい。コレラが流行っている中国でロビンは死に絶えた家族の中に取り残されていた。没落した家計の苦しい家なのになぜか英語の家庭教師が住み込んでいて中国語と英語のバイリンガルとして育てられたロビン……ロビンは英国人の男(ラヴェル教授)に救い出され船で英国に向かうことになる。ロンドンからほど近いハムステッドの教授の屋敷でロビンは家庭教師を付けられラテン語とギリシャ語を学ばされる。忘れないように中国語も。数年後ロビンはオックスフォードへの入学を許される。オックスフォードの...「バベルオックスフォード翻訳家革命秘史」クァン

  • 「なんで人は青を作ったの?」 谷口陽子

    13歳からの考古学シリーズ「なんで人は青を作ったの?青色の歴史を探る旅」(谷口陽子高橋香里著2025年1月新泉社274p)を読みました。骨董店(あまり売れていない)の店主でもあり子供向けの科学倶楽部もやっている森井老人と(老人という名前は、ちょっと)人と話すのが苦手な主人公の蒼太郎友人でちょっと屈託を抱えた律が中学一年の夏休み「青い色」を作る実験をする話。青い色にも色々ある。ヴェルディグリオドントライトラピスラズリウルトラマリンブルーエジプシャンブルースマルトフォルスブループルシアンブルーマヤブルー……「実験」がとても丁寧に書かれている。(再現できるほど)淡々と実験が続くばかりと思っていたら最後に山場がある。蒼太郎と律が作った「色」が2年後に中央美術館の企画展「青の歴史」に展示されることになったのだ!挿絵...「なんで人は青を作ったの?」谷口陽子

  • 「翻訳する女たち」 大橋由香子

    「翻訳する女たち中村妙子・深町眞理子・小尾芙佐・松岡享子」(大橋由香子著2024年11月エトセトラブックス285p)を読みました。年上の人たちの「話」を聞くのが好きという著者が中村妙子1923年生まれ深町眞理子1931年生まれ小尾芙佐1932年生まれ松岡享子1935年生まれの4人のl翻訳家が翻訳家になるまでの歩みを聞いて書いている。中村妙子さん以外の3人は、戦中に小学生だった。それから、それぞれの道を歩んで翻訳家になった。翻訳家になる女性がめずらしかった時代だ。もちろん専門の養成機関もない。松岡享子さんの章には(翻訳した)たくさんの児童向けの本が出てくるのでわくわくする。「しろいうさぎとくろいうさぎ」(原書では「うさぎのけっこん」だけれど最初から結婚すると分かっていては面白くないと思ってこの題にした)「町...「翻訳する女たち」大橋由香子

  • 「小説」 野崎まど

    「小説」(野崎まど著2024年11月講談社218p)を読みました。本屋大賞の候補作です。小学生の内海集司は本を読むのが好きだ。内海集司と外崎真はある日、学校の隣にあるモジャ屋敷に入り込む。有名な小説家の家だと聞いたからだ。現れたのはモジャ屋敷にふさわしいモジャモジャの髪と髭が顔を覆い隠している年齢不詳の男(たぶん)だった。「あのぉ、小説って書けるんですか」という外崎の衝撃の問いに男は、意外にも「まぁ、上がりなさい」と言って書庫に案内し「読んでいいよ。勝手に入ってくればいい」と言ってくれた。それから、2人のモジャ屋敷通いがはじまった。読書ばかりしていて成績の振るわない2人だったがモジャ屋敷から(そしてお互いから)離れたくないばかりに猛勉強して近くの有名進学校に進む。ここでも読書ばかりしていて成績は振るわない...「小説」野崎まど

  • 「サーミランドの宮沢賢治」 菅啓次郎

    「サーミランドの宮沢賢治」(菅啓次郎小島敬太著2025年1月白水社269p)を読みました。シラカバ林の上に丸い月が出ていてトナカイが歩いてるアスタ・ブルッキネンの表紙絵に惹かれて読みました。旅行記です。浜松と名古屋出身の菅(詩人)さんと小島(音楽家)さんは3.11の震災の後古川日出男の書いた朗読劇「銀河鉄道の夜」を被災地各地で上演して来た。2人にとっては東京も北。そんな2人が宮沢賢治が妹トシの死後岩手から青森青森から北海道、サハリンへと旅をしたことを知って(賢治は北に行って確かに変わった)北への旅を計画する。旅の目的地は北欧の北部サーミランド。サーミランドというのは以前はラップランドと言われていたフィンランド、ノルウェー、スウェーデンの北部のことだ。凍った湖に積もった雪の上で菅さんは賢治の詩を朗読し小島さ...「サーミランドの宮沢賢治」菅啓次郎

  • 「星に届ける物語 日経「星新一賞」受賞作品集」

    「星に届ける物語日経「星新一賞」受賞作品集」(2025年1月新潮文庫273p)を読みました。11編の大賞受賞作が収録されています。星というのは空にある星でもあるし星新一の星でもあるという。白川小六さんの「森で」柚木理佐さんの「冬の果実」が好きです。「森で」ストリートチルドレンだったリュカは博士に拾われて研究所に入った。穏やかな暮らしが始まったがそれは博士の実験の対象になることでもあった。博士の試みる人間「緑化」実験リュカの緑化は成功し上腕が緑になって必要とするエネルギーの8%を光合成で得ることが出来るようになった。リュカの時には注射が必要だった緑化はやがてタブレットを口に入れるだけで出来るようになりついには空気感染までするようになった。世界中に広まっていく緑化ところが……「冬の果実」進行性の難病「後天性体...「星に届ける物語日経「星新一賞」受賞作品集」

  • 「鹽津城」 飛浩隆

    「鹽津城(しおつき)」(飛浩隆著2024年11月河出書房新社259p)を読みました。短編集です。未の木ジュヴナイル流下の日緋愁鎮子鹽津城中でも「鹽津城」が圧巻です。鳥がたくさんいる世界も怖いけれど塩がたくさんある世界も怖いかもしれない。「鹽津城」では海水から塩が分離して固形になって襲ってくる世界になっている。テムズ川を固形になった塩がどんどん昇って来て塩の堰を作っていく……とか海の水があまりに塩分が多すぎて泥のようになっている……とかいつくもの世界が語られてどの話が「本当」かどの話を追いかけていけばいいのか分からない。核になるのはこっちの話?と思ってついていくとするりとかわされる。その気持ち悪さ……集落の神社の鹵(しお)落としに参加する夫婦2人は2軒長屋の右と左に分かれて住み塩の海に打った杭のような歯をし...「鹽津城」飛浩隆

  • 「箱庭クロニクル」 坂崎かおる

    「箱庭クロニクル」(坂崎かおる著2024年11月講談社253p)を読みました。短編集です。ベルを鳴らして(日本推理作家協会賞)イン・ザ・ヘブン名前をつけてやるあしながおばさんあたたかくもやわらかくもないそれ渦とコリオリの6編「あたたかくもやわらかくもないそれ」は2つのストーリーが交錯する。モモが小学生の時にゾンビ・パンデミックが起こった。授業はなく、自習になりぽつんと自習していた転校生のモモに卓を寄せてくれたのがくるみだった。空き地を挟んでモモとくるみの家は建っている。やがてくるみがゾンビに感染しある宗教の信者だったくるみの両親は医者にかけないという選択をする。(感染してから発症するまで時間がかかるのだ、ゾンビは)くるみはひとりいる塔の部屋から(くるみの家は普通の民家なのに塔がある)飛行機に折った手紙を飛...「箱庭クロニクル」坂崎かおる

  • 「研究者、生活を語る」

    「研究者、生活を語る両立の舞台裏」(2024年10月岩波書店252p)を読みました。岩波書店編集部がこの本をつくろうと思ったところが興味深い。研究者がどんなふうに家事や子育てや介護をしながら研究しているかが語られる。ただただもう綱渡りの日々だ。勤め先が離れているので2人の子供を1人ずつ連れて別々に暮らしている夫婦がいる。海外で親1人子1人で暮らしている人もいる。親を介護しながら暮らしている人妻を介護しながら暮らしている人病児を育てている人配偶者が研究職の人会社勤めの人……子連れで学会に参加している話山に子連れで調査に行った話海外に子連れで調査に行った話……こういう思いをしながら……というのがひたひたと迫って来る。わたしたちは研究者にこういう思いをさせているのか……お金で解決できないこともあるけどお金で解決...「研究者、生活を語る」

  • 「脂肪と人類」 ダムベリ

    「脂肪と人類渇望と嫌悪の歴史」(ダムベリ著2025年1月新潮選書223p)を読みました。界隈という言葉が流行っているらしい。この前は「編み物」界隈。今回は「脂肪」界隈。確かに脂肪を避けている。ドレッシングはノンオイル揚げ物は月に1度か2度……大した知識もないけれど何となく。人類が石器を使うようになったのは骨を砕いて中の髄を食べるためだったと聞いたことがある。獲物を倒した獣が肉を食べた後に残り物の骨から髄を取り出して食べていた。骨を砕くには石が必要だったからだと思っていたけれどどうやら髄は貴重品だったらしい。美味しいからだ。そのうち土器を作って水と骨を一緒に入れて加熱すれば表面に脂が浮いてくることを知った。すくって食べることができる、無駄なく。(水と脂を一緒に飲めば美味しいスープだし穀物を入れれば甘味が加わ...「脂肪と人類」ダムベリ

  • 「編むことは力」 ナポリオーニ

    「編むことは力ひび割れた世界の中で、私たちの生をつなぎあわせる」(ナポリオーニ著202412月岩波書店161p)を読みました。イタリアで生まれた著者はお祖母さんから編み物を習った。小さな手に手を重ねお話を語りながらお祖母さんは編み物を教えた。(例えば、お祖母さんの語る「眠り姫」では糸つむぎと織りと編みの生産地であった姫の国は紡ぎぐるまを焼き払われることによって生産力を失い姫が目を覚ます100年後に人の住まない地になっていることを恐れた仙女が姫だけでなく城とその周囲をイバラで包み眠らせた……となる)著者は困難に遭っている。長年暮らした夫が多額の借財を抱えていることが分かったのだ。家も手放さなくてはならない。鬱やパニック障害を起こした著者を救ったのが編み物だった。編み物のことを調べて本を書こう!戦線の兵士たち...「編むことは力」ナポリオーニ

  • 「図書館を建てる、図書館で暮らす」 橋本麻里 山本貴光

    「図書館を建てる、図書館で暮らす本のための家づくり」(橋本麻里山本貴光著2024年12月新潮社231p)を読みました。①図書館を建てて②図書館で暮らし③図書に関する仕事をする話です。寝室、キッチン、風呂、トイレ以外居間もない。閲覧室の大きなテーブルで食事をし読書をする暮らし。(それぞれの仕事部屋はある)建てたばかりにしては落ち着いた雰囲気……(写真がふんだんにある)と思ったら九州大学が移転するため使われなくなった棚を(九州大学歴史的什器保存再生プロジェクト)引き受けて(借りるという形)設置しているためだ。棚は開口部からは入らないので家が完成する前に運び入れた。これまで(それぞれに)蔵書の量ゆえに引越しを余儀なくされていた2人の引越遍歴を聞けば(読めば)図書館で暮らすことは必然に思われる。毎日届く(注文した...「図書館を建てる、図書館で暮らす」橋本麻里山本貴光

  • 「フェローシップ岬」 ダーク

    重い!内容がではなくて本自体が。「フェローシップ岬」(ダーク著2024年12月早川書房787p)を読みました。自然豊かなフェローシップ岬に住む作家のアグネスは80代。たいていの小説では80代は脇役だけどこの作品ではアグネスが主役だ。アグネスは大学生が卒論に取り上げるほどのロングセラー児童文学「ナン」シリーズの作者だ。そして実は覆面作家として「フランクリン広場」シリーズも書いている。今アグネスの筆は止まっている。そろそろ「フランクリン広場」シリーズを終わりにしようと思うのだけれど……乳がんの再発も気になる。そして何よりも大きな課題はフェローシップ岬の今後のことだ。祖父が岬の自然を愛し5家族の共同所有にしたことが今ではネックになっている。80年来の親友の隣家のポリーの息子たちが自然保護団体に寄付することに賛成...「フェローシップ岬」ダーク

  • 「梅の実るまで」 高瀬乃一

    「梅の実るまで茅野淳之介幕末日乗」(高瀬乃一著2025年1月新潮社252p)を読みました。三沢市在住の作家です。本当に「愛すべき人物」をつくるのが上手いなぁと感心してしまう。時は幕末。主人公の淳之介は若い無役の御家人だ。父がお役上の粗相で自害し跡を継いだものの月に三度の相対日に組の支配に挨拶に行くことしか仕事がない。私塾を開いているが流行りの蘭学や語学の塾ではないので閑古鳥が鳴いている。幼馴染の同心の青柳からちょっとした仕事を頼まれてやるのが唯一の収入の道だ。口うるさい母のお市の縫い物の手間賃の方が多いくらいだ。世の中は尊王だ攘夷だと騒がしいが腕の立たない淳之介には縁のない話だ。そんな淳之介がなぜか牢に入ることになるのが第5話の「空蝉」最初は青柳の仕事かと呑気に構えていたがいつまでたっても牢から出られない...「梅の実るまで」高瀬乃一

  • 「目の見えない人は世界をどう見ているのか」 伊藤亜紗

    「目の見えない人は世界をどう見ているのか」(伊藤亜紗著2015年4月光文社新書216p)を読みました。目の見えない人ぜんたいをひとまとまりにするのではなくかといって完全に個にするのでもなく(そうすると物語になる)これまでにない小さなまとまりとして捉える「見方」が新鮮だ。年をとるとほとんどの人は少しずつ機能を失う。耳が遠くなったり膝が痛くて思うように歩けなくなったり……中途障害者になる。あるテレビ番組で傘に当たる雨の音が小さくなる傘を作っている傘屋が紹介されていた。目の見えない人は音で情報を得るので雨の音は無い方がいいというのだ。音で情報を収集……目からの情報が無いぶんを補うということ?と思ったらそんなに単純ではないと著者は言う。頬にあたる風におい光の暖かさ温度足の裏の感触を総合して、脳の中で組み立てている...「目の見えない人は世界をどう見ているのか」伊藤亜紗

  • 「しめかざり探訪記」 森須磨子

    「しめかざり探訪記」(森須磨子著2024年11月工作舎252p)を読みました。河井寬次郎記念館では一年中しめ飾りを飾っている。一年中お正月のような気持ちで過ごしたいと寛次郎が言ったからだ。大学で卒業研究としてモース(大森貝塚を発見した)が残したしめ飾り写真と「この国のありとあらゆる物は日ならずして消えうせてしまうだろう」という言葉をきっかけにモースの写真のしめ飾りを職人に依頼して再現したものを発表した。その卒業研究が優秀賞を受賞して著者はしめ飾り研究の道に足を踏み入れたのだという。しめ飾りを集めるのは容易なことではない。まず売られている期間が短い(年末だけ)飾られている写真を撮影しようにも期間も短い(年のはじめだけ)真冬の街をしめ飾りを求めてリュックを背負って時間に追われながら歩く著者。(冬の日は短い)構...「しめかざり探訪記」森須磨子

  • 「生きるための読書」 津野海太郎

    「生きるための読書」(津野海太郎著2024年12月新潮社221p)を読みました。80代になった著者が(たくさんの友人知人が先に行っている)あちら側に行く前に「ひと踊り」(ひと踊りは、津野さんの場合読書)と思って若い著者の本を読んだ記録です。読んだのは伊藤亜紗の「目の見えない人は世界をどう見ているのか」斉藤幸平の「人新世の資本論」森田真生の「数学する身体」小川さやかの「チョンキンマンションのボスは知っている」千葉雅也の「現代思想入門」藤原辰史の「歴史の屑拾い」孫のような世代の彼らの書いたものを読みワクワクしている著者6人の若い研究者たちは「とくに意識せずともごく自然に、これまでにない暮らし方をしている新種の知識人で幼い人とともにいやおうなしに暗黒の未来に直面せざるを得なくなった人たち」だと著者は思う。彼らは...「生きるための読書」津野海太郎

  • 「土と生命の46億年史」 藤井一至

    「土と生命の46億年史土と進化の謎に迫る」(藤井一至著2024年12月講談社ブルーバックス251p)を読みました。一袋数百円で売られている「土」が人工的には作れないものだったとは驚く。月や火星に移住したら食べ物を生産するために「土」が必要なのに作れないものだったなんて……地球には最初から土があった訳ではないというのは頷ける。海の中でカンブリア大爆発が起こっていた時陸地は岩石砂漠だった。話は飛んで3億年前コケとシダ類しかない陸地に裸子植物(イチョウの先祖)が登場する。裸子植物の葉が土になったのねと思ったら大間違いだ。落ち葉と倒木の分解はうまくいかずそのまま積もり泥炭になり泥炭は化石化して石炭になった。材料があるだけではダメなのだ。分解屋がいなくては。そこにキノコが登場する。キノコは植物の分解を進め分解されま...「土と生命の46億年史」藤井一至

  • 「ある行旅死亡人の物語」 武田惇志 伊藤亜衣

    「ある行旅死亡人の物語」(武田惇志伊藤亜衣著2022年11月毎日新聞出版214p)を読みました。古いアパートの一室で高齢の女性が倒れて亡くなっていた。死因はくも膜下出血ドアにはチェーンが取り付けられ窓にも棒が噛ませてあった。室内には一個の金庫があり34821350円が残されていた。(3000万!)女性の右手には指がなかった。身長は133センチ大家にはタナカチヅコと名乗っていたが住民票はない。当然、年金も貰っていない。ベビーベッドには大きな犬のぬいぐるみが寝かせられていた。女性はこの部屋に40年一人で暮らしていたという。遺品の中には「沖宗」という印鑑が残されていた……ミステリではない。共同通信社の若い2人の記者が女性の身元を調べようと奮戦した記録だ。ついには女性の姉妹を探し当てDNA鑑定をして女性が沖宗千津...「ある行旅死亡人の物語」武田惇志伊藤亜衣

  • 「雪夢往来」 木内昇

    「雪夢往来(せつむおうらい)」(木内昇著2024年12月新潮社394p)を読みました。江戸時代に出版された「北越雪譜」の話です。越後縮を扱い質屋も営む儀三治(ぎそうじ)は若い頃に父の命でふた月ほど江戸に出て縮を売る傍ら塾にも入った。もとから読んだり書いたり、絵を描いたりすることが好きだった。越後では雪が一丈(約3m)ほども積もると話したところ塾生たちは畳を叩いて笑い転げた。法螺話だと言うのだ。儀三治は初めて「外の目」を持った。越後の雪を文と絵で書いて、江戸の人たちに知らせたい、信じてもらいたい……真面目に商売をする傍ら儀三治は「本」を書き始める。「北越雪譜」という本があるということは読者にも分かっているのだから「本」は出版されるはずだけれど読んでも読んでも出版されないのだ。越後の儀三治の40年の年月は江戸...「雪夢往来」木内昇

  • 「山學ノオト 5(2023)」 青木真兵・海青子

    「山學ノオト5」(青木真兵・海青子著エイチアンドエスカンパニー336p)を読みました。何だかつい読んでしまうでNo.5まで来てしまった。これは奈良県の村に移住して私設図書館「ルチャ・リブロ」を開いている青木真兵、海青子夫妻の一年間の日記。真兵さんが主に書いていて海青子さんはそれに数行添える。前の年(2022)は海青子さんが調子を崩して入院したりしたが2023は今度は真兵さんが謎の足の重さと痛みに見舞われて勤めの一つ(就労支援)を辞めることになる。大学の講義も持っているし本も書いている。全国を飛び回って講演や対談もしている真兵氏はとにかく忙しい。足の痛みがよくなった後にもエネルギーが保たなくて帰宅したらパタリと寝てしまうことがしばしば起こる。ルチャ・リブロの司書の海青子さんも時々ダウンする。そんな中で二人と...「山學ノオト5(2023)」青木真兵・海青子

  • 「言葉の園のお菓子番 未来への手紙」 ほしおさなえ

    「言葉の園のお菓子番」シリーズの「未来への手紙」(ほしおさなえ著2024年5月大和書房285p)を読みました。主人公の一葉は亡き祖母の属していた連句の会に入って句会のお菓子を買っていく「お菓子番」を引き継いだ。句会の場面で一葉が句について考えを巡らすところがいい。「蛍さん、行きたい会社に決まるといいなあそうしたら、いつか自由丁にも行ってみたいふたりで、過去にではなく未来の自分への手紙を書くんだ」句会仲間の大学生の蛍が就職活動に苦戦しているのを思って書いた句が「鰯雲未来の自分に書く手紙」といった感じに。2人で歩いた蔵前の「未来の自分へ手紙を書く」という店「自由丁」調合して自分の好きな色のインクを作れる「カキモリ」……この世界に入ってみたくなる。句会の外では父が学生時代にフィルムカメラで撮りだめていた(現像も...「言葉の園のお菓子番未来への手紙」ほしおさなえ

  • 「山里の生活実験」 丸山啓史

    「山里の生活実験」(山里啓史著2024年11月かもがわ出版198p)を読みました。暮らしの中で実験(というほどでもない試み)してみるのが大好きということで「生活実験」というタイトルに惹かれて読みました。著者は大学の先生環境にいい暮らしの実験をしたいという著者と畑をやってみたいという奥さんと意見が一致して移住した。冷蔵庫なし車なしスマホなしテレビなしとそこにボイラーが壊れて部品が入ってこないのですぐには修理できないという事態が起こった。そこで、業者さんに勧められて薪ボイラーにすることにした。室内暖房も薪ストーブ(これは計画していた)冷蔵庫問題より薪の調達問題の方が大きいとは意外だった。大学でも剪定や伐採で出た木を貰えることになったのはいいが運ぶのが大変だ。一気にトラックなどで運べばいいのだが多量のガソリンを...「山里の生活実験」丸山啓史

  • 「藍を継ぐ海」 伊予原新 第172回直木賞

    NHKドラマ「宙わたる教室」(「宙わたる教室」は青少年読書感想文コンクールの課題図書にも)の伊予原新の新作「藍を継ぐ海」(伊予原新著2024年9月新潮社264p)が第172回直木賞受賞!短編集です。中でも「祈りの破片」がよかった。町役場で空き家問題を担当している若い小寺は光る空き家があるという通報で現地を見に行く。終戦直後青い光を放ってえすか(怖い)家と言われていた空き家からこの頃また光が漏れるようになったのだという。小寺は家の中に入ってみて驚いた。家財道具はほとんどなく顔の高さまで木箱が並べられその中には黒い石、白い石、レンガ、コンクリート、ガラス、陶磁器片それらにみな白いペンキで記号が書かれている。本棚には地学の本が10冊ほど(待ってました!)ノートには加賀谷昭一という名前が……科学要素にミステリ要素...「藍を継ぐ海」伊予原新第172回直木賞

  • 「蔦屋」 谷津矢車

    「蔦屋」(谷津矢車著2024年10月文春文庫349p)を読みました。2014年に出版されたものが文庫化されたものです。今年、大河ドラマで取り上げられている蔦屋重三郎と丸屋小兵衛という人のバディもの。小兵衛は地本問屋・豊仙堂の主人。日本橋のこの店はかつては繁盛していたが今はそれほどでもない。店を畳む手筈を整えていたところにふらりと若い男が入って来る。店を買い取りさらに51才になる小兵衛を雇いたいという。男は、蔦屋重三郎だった。「一緒にやりませんか、あたしと。もう一度この世間をひっくり返しましょうよ」という蔦重の言葉は小兵衛の胸に刺さった。小兵衛が蔦重から預かった絵師・喜多川歌麿と歩いていたときのことだった。ふと空き地に入って歌麿が虫や草花に興味があることを知る場面から物語は大きく動いていく。庶民の読むものに...「蔦屋」谷津矢車

  • 「貧乏カレッジの困った遺産」 ウォルシュ

    「貧乏カレッジの困った遺産」(ウォルシュ著2024年10月創元推理文庫358p)を読みました。この世に、たった4冊しかない「イモージェン・クワイ」シリーズの3作目。(著者は2020年に亡くなっているので)ミステリです。ケンブリッジ大学の学寮の中でも貧乏で有名なセント・アガサ・カレッジのカレッジ・ナースのイモージェンが事件を解決する。医者になろうと勉強していたのに結婚を申し込まれて医学を断念しそれが壊れてカレッジ・ナースをしているイモージェンは教授たちにも学生たちにも人気だ。優しいナースが探偵役でも殺人は起こる。元恋人のアンドルー(貧乏カレッジからの転職で元同僚たちからは白い目で見られている)の転職先・ファラン・グループの会長のジュリアス・ファランが崖から転落死したのだ。事故死という判断に疑問を持ったイモー...「貧乏カレッジの困った遺産」ウォルシュ

  • 「ケンブリッジ大学の途切れた原稿の謎」 ウォルシュ

    「ケンブリッジ大学の途切れた原稿の謎」(ウォルシュ著2023年10月東京創元社)を読みました。「ウィンダム図書館の奇妙な事件」のイモージェン・クワイ・シリーズの2作目ミステリです。イモージェンはセント・アガサ・カレッジの寮に勤務するナース自宅には数人の下宿人を置いている。その1人・大学院生のフランは生活費を稼ぐために指導教官から伝記を書く仕事を貰って来た。フランは伝記文学を研究する学生なのだ。フランが書いた本は教授の名前で出版されるが協力者としてフランの名前が載り出版社からの報酬はすべてフランのものになるという。伝記に書かれるのは数学者のギデオンある図形に関する発見をした数学者(故人)だ。それにしてもカレッジものなのに書き出しがパッチワークをしている場面→?途中でテキスタイル(布など)史を研究している学者...「ケンブリッジ大学の途切れた原稿の謎」ウォルシュ

  • 「ジェリコの製本職人」 ウィリアムズ

    前作の「小さなことばたちの辞書」がよかったので「ジェリコの製本職人」(ウィリアムズ著2024年12月小学館554p)を読みました。21才のペギーは母を亡くして双子の妹モードと曳舟に住んでいる。モードはこだまのように他人の言葉を繰り返すだけで自分の思いを伝えることはできない(と他の人は思っているけれどペギーは「プリズムが光を濾すように、言葉を濾しているのだ」と思っている)モードは折り紙と歌が得意だ。仕事先の製本所でも家でもペギーはモードから離れることはできない。これからもずっとそうなのだろうペギーはそう思っていた。(いわゆるヤングケアラー)ペギーの母も製本所の工員だった。母は本が好きで不良品になった本を密かに持ち帰って読んでいた。母は言った。「ダーウィン先生の理論を人間に当てはめるのは危険なことかもしれない...「ジェリコの製本職人」ウィリアムズ

  • 「小さなことばたちの辞書」 ウィリアムズ

    「小さなことばたちの辞書」(ウィリアムズ著2022年10月小学館刊)を読みました。。幼くして母を亡くしたエズメは父が仕事をしている辞典の編纂室スクリプトリウムの大きな机の下で過ごすのが常だった。室長のマレー博士(実在の人物)はここで「オックスフォード英語大辞典」を編纂していた。壁には仕切りのある棚がありたくさんのカードが置かれている。国内のあちこちに住む協力者から送られて来たものも多かった。辞典にはことばの語釈だけでなく用例も記載される。その用例を集めることに協力者が必要なのだ。エズメを「育てている」のは父ばかりではない。マレー家の女中のリジー辞典編纂の協力者ディータ(実在の人物)父の仕事仲間の多くもエズメにやさしく接してくれていた。やがてエズメはスクリプトリウムで仕事をするようになる。(マレー博士の娘た...「小さなことばたちの辞書」ウィリアムズ

  • 「大江戸ぱん屋事始」 大平しおり

    「大江戸ぱん屋事始」(大平しおり著2024年3月角川文庫265p)江戸時代にパン?イーストはあったの?かまどは?と知りたい気持ちで読みました。主人公の嘉助がお店[たな)をクビになったところから物語は始まる。嘉助は南部藩の海辺の村の出で冷害による飢饉を経験し父の「まんず生き延びろじゃ、嘉助それが叶ったら人を生き延びさせられる人間さなれ」という言葉を胸に食べ物に関わる仕事をしたいと思っていた。嘉助が思うのは乾飯のように何日も保ち握り飯のようにすぐ食べられるもの(できれば、米がとれなくてもとれるものでできた)嘉助は友人の清吉が医術修行に行くのに同行して長崎に行くことになる。長崎で嘉助はパンに出会う。ほんのひとかけらでもその味は嘉助の記憶にしっかりと残る。麦の粉で出来ている食べ物だから饅頭やうどんと同じだ。長崎で...「大江戸ぱん屋事始」大平しおり

  • 「蔦屋重三郎と吉原」 河合敦

    大河ドラマの予習をしようかな、と「蔦屋重三郎と吉原蔦重と不屈の男たち、そして吉原遊郭の真実」(河合敦著2024年12月朝日新書229p)を読みました。どうして今までこの時代を取り上げてこなかったのかなと思う華やかさ。(個別には取り上げられていた?)登場するのは田沼意次松平定信喜多川歌麿写楽葛飾北斎滝沢馬琴平賀源内……全身を描くものだった浮世絵の美人画を上半身を大きく描くスタイルにしたことに関わるらしい蔦屋重三郎識字率の高い江戸だからこそ成立した文字を読む読書を楽しむ文化(平安時代は印刷技術がないから一冊を一人が読みそれを聞くという読書)の流れで誕生した長編小説に関わるらしい蔦屋重三郎吉原で生まれ育ち吉原のことを知り尽くし吉原にスポンサーを持ち吉原の発展を願った蔦屋重三郎現代にも名が残る星たちに対してブラッ...「蔦屋重三郎と吉原」河合敦

  • ことしのことば 2024 ②

    今年、記憶に残ったた言葉です◯庭でフキノトウを一つだけ見つけて今日という日のすべての事がこれでよいと思った(俳人細見綾子)◯「わからない」ことを楽しんだり味わったりできるのは人間だけです(中野信子)◯物語とは普段はあいまいに見過ごされているものを表出させる器です(小川洋子)◯中ぶらりんでいる勇気こそ本来は必要です(ヨシタケシンスケ)◯昨日の続きを今日やる今日の続きを明日やるずっとそれだけでやってきた(南部ひし刺し天羽やよい)◯どんな人も死ぬまでに一冊国民の義務として絵本をつくるきまりがあったらいいと思うんです(大竹伸朗)◯完全にバランスよくつくるんじゃなくてある意味クセをつけることでその子(人形)の魅力が出てくる(保坂純子)ことしのことば2024②

  • ことしのことば 2024 ①

    今年、記憶に残ったた言葉です◯スイセンは光の花だと思う(ガーデナー山崎亮子)◯つめくさの白いあかり(宮沢賢治)◯身の回りの一つ二つのものを捨てればかなりの程度世を捨てられるし世から捨てられるのである(穂村弘)◯白は祈りの色ですから(川久保玲)◯好きな色は白雪が積もって全てを覆いつくしたような中身が詰まった白です(奈良美智)◯大切なものを、すぐそばに置くな一つ倒れてもドミノのように連鎖して倒れていかないようにちょっと離しておくんだ(キム・ヨソン)◯僕がいちばん好きな時間は夜明け前の数時間だ(小澤征爾)◯少しノイズが入るととたんにかっこよくなる(千葉麻里絵)◯日々のルーティンの中に文学がちょっと落ちているというのはすごくいい国だなと思っています(今村翔吾)◯その水に馴染めない魚だけがその水について考えつづける...ことしのことば2024①

  • 勝手にbest10 2024 ③

    今年読んだ160冊ほどの中から勝手にbest10を選んでみました。(順位はありません)7冊目は「しじんのゆうびんやさん」(斉藤倫著2024年11月偕成社129p)白くて四角くてまるでだれかが森の入り口に置いた一個の角砂糖のような郵便局局員は2人ひょろりとした内勤のガイトーと鳥の巣みたいな頭の配達のトリノス郵便物は一日にはがきが2枚に封筒が5通小包が8個……だけスタンプを押すのも配達をするのもすぐに終わるトリノスが出会った「手紙がほしい」ひとにガイトーが書いてトリノスが届けるそれは白いまっさらの封をしていない封筒で開けてみると中には釘で彫り込んだみたいな丁寧な文字で書かれた詩が入っているそれはもらった人のお守りになったり宝物になった秋になると木々はきれいな赤黄色の葉を流行遅れとばかりにさっぱり脱ぎ捨て地面が...勝手にbest102024③

  • 勝手にbest10 2024 ②

    今年読んだ160冊ほどの中から勝手にbest10を選んでみました。(順位はありません)4冊目は「よむよむかたる」(朝倉かすみ著2024年9月文藝春秋312p)読書会の話です。読書会の名前は「坂の途中で本を読む会」小樽の街の坂の途中にある喫茶店「シトロン」が会場であるということと人生の坂の途中という意味もある。参加者は92歳から78歳までの高齢者6人。叔母の美智留から引き継いで店をやるようになった28歳の安田が会の観察者であり語り手だ。実は安田は作家でもある。でも今は書けないでいる。会は割り当てのページを声に出して読む→他の5人が「朗読」の感想と内容の感想をそれぞれに述べる。それを本一冊が終わるまで繰り返すという方式だ。今は「だれも知らない小さな国」(さとうさとる)を読んでいる。本の感想を語っているうちに自...勝手にbest102024②

  • 勝手にbest10 2024 ①

    今年読んだ160冊ほどの中から勝手にbest10を選んでみました。(順位はありません)1冊目は「イグアナの花園」(上畠菜緒著2024年9月集英社329p)誰かが書いていた。「ずっと自分の星でないところにいるような気がしていた」主人公・美苑はそんな人。ストーリーの予想は次々に覆される。植物学者の父と活け花師匠の母のひとり娘である5年生の美苑は生き物を「ずっと見ている」のが好きだったけれど同級生には関心が薄く名前も顔もよく覚えていない。「友だちができるといいね」という父の言葉を聞いて声を掛けてきた同級生の女子と友だち風な行動を取ってみるもうまくいかない。ということは小学生のいじめの話?という予想は覆される。美苑は傷ついた蛇を見つける。父の同僚の動物学者・児玉先生に手当てしてもらって蛇の世話をしているうちに蛇の...勝手にbest102024①

  • 「恋せぬふたり」 吉田恵里香

    「恋せぬふたり」(吉田恵里香著2024年12月集英社文庫352p)を読みました。最近読んだ本を→ドラマで見てがっかりすることがあまりない(以前はけっこうありました)ドラマのレベルが上がっているのだろうか。これはドラマで見て→文庫が出たので読んでみたという(いつもとは逆の)流れ。会社でも家でも何となく違和感を感じていたことが名前がついて、形になる。一つのブログに出会ったことをきっかけに。主人公・咲子(さくこ)は自分がアロマンティック(他者に恋愛感情を抱かない)アセクシャル(他者に性的に惹かれない)であることに気づく。名前がつくと形が見える。ブログの主・高橋羽(さとる)は咲子の会社のスーパーの野菜売り場の担当者だった。アロマ・アセクだけれど人とは暮らしたい。家族が欲しい。咲子と羽は「家族(仮)」(羽はカゾクカ...「恋せぬふたり」吉田恵里香

  • 「彗星を追うヴァンパイア」 河野裕

    「彗星を追うヴァンパイア」(河野裕著2024年8月KADOKAWA378p)を読みました。ヴァンパイアって吸血鬼のヴァンパイア?舞台は17世紀のイギリスドーセットに1人の少年がいた。名前はオスカー・ウェルズ。母と暮らしていたオランダからイギリスにやって来た。病弱だった母はオスカーが9才の時に死に孤児となったオスカーは港で働いていたところをこの地の領主で商人のロビンソン・ウェルズに見出され養子になった。養父に「何が欲しい?」と聞かれて「本」と答えたオスカーはやがてケンブリッジに入学しかのニュートンの弟子になる。ケンブリッジでオスカーは1人の女性と出会う。掃除婦として働いていたリサだ。モップを持って講義の盗み聞きをしているリサにオスカーは講義の中の分からないところを聞く。オスカーは、リサの深い知識に驚きリサの...「彗星を追うヴァンパイア」河野裕

  • 「パンダ・パシフィカ」 高山羽根子

    「パンダ・パシフィカ」(高山羽根子著2024年10月朝日新聞出版192p)を読みました。モトコには子供のころから皮膚にマラセチア菌という常在菌がいて疲れたりストレスがあったりすると顔を出す。(腰痛とかの)痛みもそうなのかもしれない。(ある雑誌に慢性の痛みのある人は忙しくするのもひとつの手ですとあった)ある日(メインではない方の)仕事先のカラオケボックスの同僚の村崎さんからモトコは頼まれごとをする。自分が留守の間部屋の生き物たちの世話をしてほしいというのだ。村崎さんは、突然いなくなる。モトコが村崎さんの部屋に行ってみると人が住んでいた気配はなく生き物の匂いだけがあった。そこには水槽やプラスチックの飼育箱や衣装ケースが並び温度や湿度が自動で管理され自動の給餌装置まであった。箱には布が掛けられ「見る」(鑑賞する...「パンダ・パシフィカ」高山羽根子

  • 「しじんのゆうびんやさん」 斉藤倫

    「しじんのゆうびんやさん」(斉藤倫著2024年11月偕成社129p)を読みました。白くて四角くてまるでだれかが森の入り口においたいっこの角ざとうのような郵便局局員は2人ひょろりとした内勤のガイトーと鳥の巣みたいな頭の配達のトリノス郵便物ははがきが2枚に封筒が5通小包が8個……だけスタンプを押すのも配達もすぐに終わるトリノスが出会った「手紙がほしい」ひとにガイトーが書いてトリノスが届けるそれは白いまっさらの封をしていない手紙だ開けてみると釘で彫り込んだみたいな丁寧な文字で書かれた詩だったそれはもらった人のお守りになったり宝物になったり秋になると木々はきれいな赤黄色の葉を流行遅れとばかりにさっぱり脱ぎ捨て地面がうれしそうにそのお下がりを着込む大雪の日はトリノスは自転車をあきらめてプラスチックのソリを引いて配達...「しじんのゆうびんやさん」斉藤倫

  • 「台湾漫遊鉄道のふたり」 揚双子

    「台湾漫遊鉄道のふたり」(揚双子著2023年4月中央公論社371p)2024年全米図書翻訳部門賞受賞と聞くとつい読んでみたくなる。(野次馬根性)時は昭和13年舞台は日本統治下の台湾。主人公青山千鶴子は日本人の若い作家。大きな赤ん坊だったので母は出産で命を失いそのことで父に疎まれて叔父夫婦に育てられる。長じてもその体格は変わらず加えてものおじしない性格。今は売れっ子作家になっている。千鶴子は台湾に招かれ旅をして講演をしたりルポを書いたりして暮らすことになる。千鶴子はとにかくよく食べる。屋台のものを次々に食べていく。後援者の高田夫人が付けてくれた通訳が王千鶴という若い女性だった。2人は講演のために旅をし旅先でも食べる。家にいるときも千鶴子が食べたいと言うものを千鶴は買って来たり作ってくれたりする。日本語、英語...「台湾漫遊鉄道のふたり」揚双子

  • 「うそコンシェルジュ」 津村記久子

    「うそコンシェルジュ」(津村記久子著2024年10月新潮社262p)を読みました。短編集苦味と甘味のブレンド加減が絶妙です。タイトルにある「うそコンシェルジュ」「続うそコンシェルジュ」は主人公みのりが姪の佐紀のために大学のサークルを辞める方法を考えるところから始まる。気軽なピクニックのサークルだと思って入ったのに昼食を特定の場所で一緒にとらなくてはならなかったり行動について必ず何か言われたりする。みのりはストーリーを考えてそのミニ劇に自分も出演して佐紀は無事にサークルを辞めることができた。「うそ」と言うには大がかりな「劇」それ以来、なぜか劇作の依頼が来るようになる……「うそコンシェルジュ」もいいけれど「我が社の心霊写真」(社員旅行の集合写真に写っていた女性で会議の録音にも声で登場する女性は退職した後、会社...「うそコンシェルジュ」津村記久子

  • 「マイナーノートで」 上野千鶴子

    「マイナーノートで」(上野千鶴子著2024年10月NHK出版252p)を読みました。「どうしていつもそんなに元気で活き活きしてるんですか」と言われて「なに、簡単です。そうじゃない部分を他人さまには見せないだけです」と言った著者。「そうじゃない部分」を読みたいと編集者に言われて書いたのがこの「マイナーノート」マイナーノートは短調のことだ。後期高齢者になった著者。ある日転んで腰椎圧迫骨折になりコルセットと湿布と鎮痛剤と日にちぐすりを頼りに3週間を過ごすことになる。「それにしても痛みは気持ちを萎えさせる」ことを実感する。手持ちのお金を整理して「上野千鶴子基金」をつくる。「思えばわたし自身がどれほどのスカラシップや研究助成を受けてきたことだろう」恩送りなのだと言う。コロナ禍八ヶ岳の別荘での自主隔離暮らしをして「ひ...「マイナーノートで」上野千鶴子

  • 「よむよむかたる」 朝倉かすみ 第172回直木賞候補

    「よむよむかたる」(朝倉かすみ著2024年9月文藝春秋312p)が第172回直木賞候補になりました。読書会の話です。読書会の名前は「坂の途中で本を読む会」小樽の街の坂の途中にある喫茶店「シトロン」が会場であるということと人生の坂の途中という意味もある。参加者は92歳から78歳までの高齢者6人。叔母の美智留から引き継いで店をやるようになった28歳の安田が会の観察者であり語り手だ。実は安田は作家でもある。でも今は書けないでいる。会は割り当てのページを声に出して読む→他の5人が「朗読」の感想と内容の感想をそれぞれに述べる。それを本一冊が終わるまで繰り返すという方式だ。今は「だれも知らない小さな国」(さとうさとる)を読んでいる。本の感想を語っているうちに自分語りになる→登場人物の人生が分かってくるというところは予...「よむよむかたる」朝倉かすみ第172回直木賞候補

  • 「坂の中のまち」 中島京子

    「坂の中のまち」(中島京子著2024年11月文藝春秋201p)を読みました。坂のまちといえば函館、長崎で意外にも坂のまちなのが東京舞台は東京。大学に通うために上京した坂中真智が住むことになったのは亡き祖母の親友だった志桜里さんの家志桜里さんは「坂」愛好家だった。地図に坂の名前を書き込み自分の家の近所の坂が出てくる文学作品を集めた本棚もある。本は坂の名前が書いてあるページが折り込んであり書き込みもある。意外にも坂の出てくる文学作品は多いのだ。登場人物に味がある。友人になった「よしんば」はお祖父さんに子守りをしてもらって古い言い回しが癖になったひと。幽霊かと思えば幽霊っぽい人間だった青年エイフクさんボロボロの着物を着た少女の夢を見るイタリア人のジュゼッペ大荷物を持って坂を避けるルートを探している男……エイフク...「坂の中のまち」中島京子

  • 「常夏荘物語」 伊吹有喜

    「常夏荘物語」(伊吹有喜著2024年8月ポプラ社379p)を読みました。「なでしこ物語」「天の花なでしこ物語」「地の星なでしこ物語」と続いたシリーズの第4巻。遠藤家の屋敷に勤めていた祖父に引き取られた小学生だった主人公の耀子はこの巻では三十代後半地域に雇用の場をと立ち上げたなでしこ屋は好調だが必ずしもよく思っている人ばかりではない。屋敷の塀に赤いペンキでいらずら書をされたり悪口を書いた紙を投げ込まれたりということもある。19才になった娘の瀬里は東京で浪人中だが予備校にはあまり行かずアルバイトをしているらしい。夫は海外で暮らしている。とまあこんな感じなのだがう〜んこういう方向ですか……(ちょっとお金持ち過ぎる登場人物たち)先代の女主人の照子が蔵にあった代々の女主人の嫁入り道具類を整理し旧知の女性(新しい登場...「常夏荘物語」伊吹有喜

  • 「絵本作家のしごと」

    「絵本作家のしごと」(別冊太陽2024年10月平凡社159p)を読みました。ミロコマチコ出久根育堀川理万子と好きな作家が取り上げられている。一日一作家ずつ大事に読みました×8「ちっちゃい時から生きづらさみたいなものをずっと抱えている感じはあってほんとに、絵の中でだけのびのびできるんですよね」ミロコマチコ「自分がわかっていることを描きたいんじゃなくてわかんないことを描きたい謎が一個解けるような絵本じゃなくて世界が一個わかんなくなるような本が作りたい」及川賢治「今、自分の老いに夢中なので年老いていくことが間違いなく今後のテーマになっていきますね」ヨシタケシンスケ「創作に欠かせないものジョギングや散歩体を維持する脳みそと体をほぐす」出久根育「きっと長〜い夏休みなんだと思う夏休みの研究みたいなものが一生を通してあ...「絵本作家のしごと」

  • 「超空洞物語」 古川日出男

    「超空洞物語」(古川日出男著2024年10月講談社165p)を読みました。「光る筆」という章で源氏物語の光源氏が「琴が鳴る」の章で宇津保物語が交互に語られるうえに源氏が須磨で絵を描く話は時間とともに進むのに「琴が鳴る」の話は時間が逆に流れる。過去へと進むのだ。源氏物語の絵合(えあわせ)の巻では源氏と頭中将が帝の前で絵を見せ合って競い最後の一番というところで源氏が自ら須磨で描いた絵が披露され一同はその見事な作品に涙し勝負は源氏方の勝利で決することになる。作中では源氏は宇津保物語の場面を想像して描く。源氏は考える。次は、どんな場面を描こう……と源氏は物語を逆行で考える。最初の場面は京極の館にある二つの高楼で俊蔭の娘(祖母)とその孫の七歳になるいぬ姫が秘伝の琴を奏でる源氏はその場面を描く。宇津保(うつぼ)物語は...「超空洞物語」古川日出男

  • 「遊牧民、はじめました」 相馬拓也

    「遊牧民、はじめました」(相馬拓也著2024年9月光文社新書321p)を読みました。はじめましたとあるけれど著者は民俗学を研究する学者さんだ。モンゴルというと「スーホの白い馬」の世界を思い浮かべるけれど……現実は過酷だ。厳しい自然環境家畜という財産をすべて人目にさらしてワンルーム(ゲル)に暮らすプライバシーのない日常朝早くから乳搾りをし乳を加工し日帰り遊牧に行く一日(歩数計を付けてもらったら、女性の歩数は一日およそ3万歩だった)ゲルを畳んでなん百キロも移動しまたゲルを設置して暮らす……そんな人たちと行動を共にする著者殴られたり盗まれたり調査に応じて貰えなかったりそれなのに調査が進むとそれまでの土地では飽き足らなくなって「モンゴル国内で一番環境が厳しくて辛いところに行ってみたい」と現地の人に訊いて行ってしま...「遊牧民、はじめました」相馬拓也

  • 「東京藝大で教わる西洋美術の謎とき」 佐藤直樹

    「東京藝大で教わる西洋美術謎とき」(佐藤直樹著2024年9月世界文化社277p)を読みました。「東京藝大で教わる西洋美術の見かた」の続編です。他の画家の作品を見ることが今より難しかった時代画家たちはどうしていたのかが語られる。絵画作品は複製版画になって流布していた。19世紀になるとロンドンには画家の絵を写真に撮って販売する写真スタジオができなんと撮影された絵が展示された展覧会もあったという。(もちろんモノクロ)写真があっても複製版画はその後も流布し続ける。「麗子像」で有名な岸田劉生は筆のタッチを強調した絵画に飽きたりなくなり16世紀のデューラーの作品に惹かれるようになる。(筆跡がない)ヨーロッパに行ったことのない岸田劉生はどこでデューラーに出会ったのだろうか?それが複製版画だった。東京では、名画の複製版画...「東京藝大で教わる西洋美術の謎とき」佐藤直樹

  • 「東京藝大で教わる西洋美術の見かた」 佐藤直樹

    「東京藝大で教わる西洋美術の見かた」(佐藤直樹著2021年2月世界文化社263p)を読みました。「基礎から身につく大人の教養」シリーズシリーズ名といい本のタイトルといいちょっと大げさでも中身は面白かったです。音楽は鑑賞(聴く)人が多いでも絵を鑑賞(見る)人は多いとは言えない見るとはどういうことかよく分からないまま生きている(わたしの場合)ヤン・ファン・エイクの「アルノルフィーニ夫妻の肖像」の章が面白い。解説は視線を誘導する。シャンデリアの蝋燭に一本だけ火が灯されているのは誓いを立てる儀式を表し結婚の誓いに神が立ち会っていることを意味する。窓辺の果物はアダムとイブが堕落した以前の無垢を意味する。犬は貞節を意味する。寝台の柱の彫刻は聖マルガレータが竜の腹から無事に出てきたという伝説から安産を願う意味がある。鏡...「東京藝大で教わる西洋美術の見かた」佐藤直樹

  • 「喪服の似合う少女」 陸秋槎

    「喪服の似合う少女」(陸秋槎著2024年8月早川書房278p)を読みました。中国ものミステリです。主人公は私立探偵の雅弦(がげん)20代の女性かと思われる。というのは雅弦の描写が全く出てこないので、よく分からないのだ。親の決めた結婚をしてアメリカに渡り離婚を告げられ帰国して生活のために探偵をしている(らしい)車の運転ができ、銃が使える。やって来た依頼人はお嬢様学校の生徒で、裕福な葛(かつ)の姪の令義(れいぎ)友人のじゅけんを探して欲しいというのだ。じゅけんは学校の寮に住んでいたが姿が見えなくなったのだ。じゅけんの養父は映画館を経営していたが映画館は倒産し養父は借金を踏み倒して逃げている。どうやらじゅけんは養父のもとからも姿を消したらしい……探偵の雅弦はこつこつと手がかりを探っていく。危険な目にも遭う。どう...「喪服の似合う少女」陸秋槎

  • 「世界の適切な保存」 永井玲衣

    なかなか立ち止まることのない日常なのでせめてと立ち止まり本を読みました。「世界の適切な保存」(永井玲衣著2024年7月講談社285p)著者は哲学者子どもから大人までの哲学対話をする会を開いている。「たまたま配られる」という章美大に通う友だちが「普通の大学が見たい」ということで著者の大学に来ると古ぼけた自分の大学がなぜか風格を持った佇まいで歓迎し貧弱な木々は青々と葉を茂らせ太陽は光を当てて緑色を浮かび上がらせすれ違う学生たちは英語で会話をし(グローバル教育に力を注いでいるので留学生がいる)すぐ後ろを歩く教授は絵本に出てくるような白髪の老人で……著者は思う「世界が本気を出してくれたのだ」「世界は移り気である無垢な友だちを喜ばせたかと思えばまっすぐ立とうとするわたしの膝裏に振動を与えてかくんとバランスを崩させる...「世界の適切な保存」永井玲衣

  • 「言語学バーリ・トゥード ラウンド2」 川添愛

    なかなか立ち止まることのない日常なのでせめてと立ち止まり本を読みました。今回は言葉「言語学バーリ・トゥードラウンド2」(川添愛著2024年8月東京大学出版会227p)(バーリ・トゥード最小限のルールのみに従って素手で戦う格闘技言語学者の著者は無類の格闘技好き)倒置法悪い言葉AIが嘘を言うなどなどどれも興味深い。(倒置法が3つに分けられるなんて、初めて知りました)今回は小咄が載っていてこれが面白い。「メトニミー」というのは語句の意味を拡張して用いることで例えば永田町→政府鍋料理→鍋などの表現である。あるところにメトニミー表現にうるさい男がいた。妻や息子にしょっちゅう注意している。妻が「卵を割る」と言うとそれは「卵の殻を割る」だろうといった具合に。ある日目醒めてみたら「メトニミー禁止法」が成立し家の中に監視用...「言語学バーリ・トゥードラウンド2」川添愛

  • 「病と障害と、傍らにあった本。」

    「病と障害と、傍らにあった本。」(2020年10月里山社246p)を読みました。本は助けになるのだろうか…頭木弘樹さん(文学紹介者)は大学生の時に潰瘍性大腸炎になった。最初は漫画も読めなかったがいつの間にか友達が送ってくれた段ボール箱いっぱいの漫画が読めた。それならと思って以前読んだカフカの「変身」を読んだ。「科学の公式が、いろんな現象に当てはまるようにすぐれた文学で描かれていることもいろいろな状況にぴたりとあてはまる」と思った。カフカがドストエフスキーを血族と呼んでいたので今度はドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」を読んだ。以前、くどくどして嫌だった文章がなんとも心地よい。夢中になって読んでいるとむかいのベッドのおじさんが「面白いの?」と聞いてきた。ビジネス書しか読んだことがないという。そのおじさん...「病と障害と、傍らにあった本。」

  • 「風配図 wind rose」 皆川博子

    1930年生まれの皆川博子さんの新作「風配図windrose」(皆川博子著2023年5月河出書房新社273p)を読みました。歩けないので代わりに編集者に取材に行ってもらったという本書舞台は北海とバルト海沿岸の国。婚礼の場面ではじまる。これが舌を巻くほど上手い。この場面だけでどんな世界かが分かる。固められた土の床壁に沿って据えられたベンチを兼ねる長櫃山羊の膀胱を張った天窓……この家の娘アグネは12歳嫁いできたヘルガは15歳婚礼の翌朝、嵐が起こり、難破船が流れ着く。たくさんの船荷に人々は群がる。琥珀、塩の樽、銀……拾ったものは自分のものだからだ。船のたった一人の生き残りのヨハンはこの荷の所有権は自分にあると主張する。裁判の場面が戯曲仕立てで描かれる。見ていたヘルガは突然立ち上がる。義父が荷の所有権を主張しヨハ...「風配図windrose」皆川博子

  • また 「よむよむかたる」 朝倉かすみ

    ふと自分がお年寄りたちに(ばかり)焦点を当てて読んでいて謎の女性「井上さん」を読み逃しているような気がしてもう一度読んでみることにしました。(滅多にしないことですが)安田くんが読書会の20周年記念の公開読書会の会場として申し込むために行った図書館の受付にいた井上さんは後日カフェ・シトロンにやって来る。縦も横もたっぷりとした身体ぱっちりした目硬い髪の毛濃いまつ毛のひと。読書会を「こぶとりじいさんが雨宿りをしていたときに遭遇した鬼の宴会」「不思議の国のアリスが出くわしたお茶会」のように思う彼女。以前から「山の中や森の奥でだれにも気づかれず機嫌よく遊んでいる朗らかな一群れ」に憧れていたという。記念誌が刷り上がるとお年寄りたちは第一回例会の記念写真に写り込んでいる男の子と女の子が安田くんと井上さんであることに気付...また「よむよむかたる」朝倉かすみ

  • 「檜垣澤家の炎上」 永嶋恵美

    「檜垣澤家の炎上」(永嶋恵美著2024年8月新潮文庫790p)を読みました。谷崎潤一郎の「細雪」風の四姉妹が登場する。「細雪」と違うのは実際に商売を動かしているのが女性「たち」だというところ。祖母のスエ母の花英語も中国語も出来る2人は書生に新聞の切り抜き帳を作らせ官報もファイルして情報収集に余念がない。ところが長女の郁乃は病弱で商売には興味がなく二女の珠代と三女の雪江もお嬢様暮らしに納まっている。四女のかな子は実はスエの夫要吉の妾の子で母の死後屋敷に引き取られたのである。主人公は、このかな子。最初はなかなか添ってよんでいけない、この主人公。孤立無援の自分の立場をよく理解していて小学生ながら情報収集に余念がなく(立ち聞き)家族の揃う食卓の会話をよく聞き珠代と雪江の気分を害さないように妹分として振るまう。そん...「檜垣澤家の炎上」永嶋恵美

  • 「黒い蜻蛉 小説 小泉八雲」 パスリー

    次の次のNHK朝ドラの予習をしようと「黒い蜻蛉小説小泉八雲」(ジーン・パスリー著2024年8月佼成出版340p)を読みました。小泉八雲のイメージは「おじいさんの学者さん」くらいしかなかったけど……この作品の小泉八雲=ラフォカディオ・ハーンはただただ苦しむ人である。母と父の結婚は上手くいかず母は幼い頃に家を出父は再婚しハーンは資産家の大叔母に引き取られる。ところが大叔母は運用に失敗して資産を失い身を持ち崩していたハーンは親類から追われてアメリカに渡る。アメリカではホームレスのような暮らしをしながらも文筆で身を立てるようになりやがて以前から関心を持っていた日本に渡って日本のことを書こうと考える。日本に渡ったハーンは松江で英語教師になり「盆」に出会う。提灯を灯して死者を迎え夜には盆踊りを催し盆が終われば精霊舟で...「黒い蜻蛉小説小泉八雲」パスリー

  • 「さいわい住むと人のいう」 菰野江名

    「さいわい住むと人のいう」(菰野江名著2024年9月ポプラ社332p)を読みました。2024年を起点にして章が進むにつれて2024→2004→1989→1964ときっちり20年ずつ過去に戻って行く物語。主人公は表紙絵に描かれている家とこの家に住む姉妹桐子と百合子2024年現在は80歳になっている。この家を建てたのは60歳の時第1章に登場する市役所の地域福祉課の職員青葉は姉妹2人だけで住む家としては大き過ぎるのではないかと思う。中に入ってみると華美ではないものの彫刻された手すりのある螺旋階段やシャンデリアもある。2階に案内された青葉は書斎の窓から見える桜にかすかに記憶があるような気がした。百合子が出してくれた稲荷寿司にも……独身のまま中学校教師として働いて来た百合子はなぜこんな大きな家を建てたのかそれも退職...「さいわい住むと人のいう」菰野江名

  • 「魚食の人類史」 島泰三

    NHKブックス「魚食の人類史出アフリカから日本列島へ」(島泰三著2020年7月NHK出版238p)を読みました。専門はサル学だけど魚屋さんの息子でどこに調査に行ってもつい魚に目が向くという著者の熱量のある一冊。人類の歯を見ると臼のように磨りつぶす働きをする歯が多い。非力な人類は肉食動物の食べ残しの骨を(肉も少しはついていた)安全なところまで運んで石で砕いて食べていたのだと著者は言う。やがて武器を使うことを身につけた人類は動物を狩るようになった。(昔は大きなマンモスを寄ってたかって仕留めようとしている絵なんかがあったけどそれは今はもういないネアンデルタールの姿であったらしい)ネアンデルタールは逞しい体と(石器を握る)ものすごい握力で大型の動物を狩っていた。ほぼ肉食のネアンデルタールは大型動物の絶滅とともに姿...「魚食の人類史」島泰三

  • 「イグアナの花園」 上畠菜緒

    「イグアナの花園」(上畠菜緒著2024年9月集英社329p)を読みました。誰かが書いていた。「ずっと自分の星でないところにいるような気がしていた」主人公・美苑はそんな人。ストーリーの予想は次々に覆される。植物学者の父と活け花の先生の母のひとり娘である5年生の美苑は生き物を「ずっと見ている」のが好きだったけれど同級生には関心が薄く名前も顔もよく覚えていない。「友だちができるといいね」という父の言葉を聞いて声を掛けてきた同級生の女子と友だち風な行動を取ってみるもうまくいかない。ということは小学生のいじめの話?という予想は覆される。美苑は傷ついた蛇を見つける。父の同僚の動物学者・児玉先生に手当てしてもらって蛇の世話をしているうちに蛇の言葉が(脳から脳にダイレクトに伝わる)分かるようになる。「友達って何?」と蛇に...「イグアナの花園」上畠菜緒

  • 「名探偵の有害性」 桜庭一樹

    久しぶりの桜庭一樹「名探偵の有害性」(桜庭一樹著2024年8月東京創元社397p)を読みました。表紙絵の2人は名探偵の五狐焚(ごこの)風と助手の鳴宮夕暮20代の頃にマスコミでもてはやされた4探偵の1人だったけれど(再現ドラマが作られ鳴宮が事件のことを書いた本も出版された)今は50代(絵は50代にはあんまり見えませんが)作詞した歌の印税でそれなりに暮らしている風と実家だった喫茶店を夫とともに営んでいる鳴宮はある日突然YouTubeに上げられて時の人になってしまう「名探偵(風)は有害(迷惑)だった」ということで。2人は過去の事件の現場を訪ねる旅に出る。被害者だった人加害者だった人(刑期を終えている人もいる)容疑者だった人……事件が終わっても彼らの人生は続いていたのだということを容赦なく見せつけられる旅……それ...「名探偵の有害性」桜庭一樹

  • 「書いてはいけない」 森永卓郎

    「がん告知の瞬間私は何かを食べたいとかどこかに行きたいとかそんなことは微塵も考えなかった。なんとか自分の命のあるうちにこの本を完成させて世に問いたいそのことだけを考えた」本書は遺書だという森永さん。ということで「書いてはいけない日本経済墜落の真相」(森永卓郎著2024年3月三五館シンシャ203p)を読みました。内容は3つジャニーズの性加害問題財務省のカルト的財政緊縮主義日本航空123便の墜落事件2つは分かるけど日本航空123墜落事件?(森永さんは事故ではなく事件だと書いている)読んで怖い話だと思った。図が添付されている。異常事態が発生してから123便は横田基地に着陸しようとしている。それが出来なかったから(!)北に向かったのだ。現場の遺物からはベンゼンが検出された。(「日航機123便墜落遺物は真相を語る」...「書いてはいけない」森永卓郎

  • 「陥穽 陸奥宗光の青春」 辻原登

    「陥穽(かんせい)陸奥宗光の青春」(辻原登著2024年7月日経BP559p)を読みました。陸奥宗光といえば「日本外交の父」だそうですがあんまりよく知りません。その陸奥宗光が主人公。出てくるわ出てくるわ有名人の数々坂本龍馬勝海舟桂小五郎アーネスト・サトウ西郷隆盛伊藤博文……宗光は、ものすごい記憶力を持っていて勝海舟が桂小五郎に密書を送る際に用紙7枚分を暗記させ人間密書として遣わされたとか坂本龍馬の海援隊でも片腕として活躍し武士という身分が無くなってもやっていけるのは自分と陸奥だけだと坂本龍馬に言わしめたとか政府転覆を企てた罪で仙台の監獄に収監されながらもベンサムの原書「道徳及び立法の諸原理序説」を訳していたとかヨーロッパに外遊して憲法について学んでいた伊藤博文が「これは、もう、俺一人の頭では駄目だ」と呼び寄...「陥穽陸奥宗光の青春」辻原登

  • 「冬季限定ボンボンショコラ事件」 米澤穂信

    「冬季限定ボンボンショコラ事件」(米澤穂信著2024年4月東京創元社431p)を読みました。2004年に始まったシリーズの最終章だそうです。シリーズの探偵役は高校生の小鳩君と小佐内さんある雪の降った日2人で歩いていた時に小鳩君は轢き逃げに遭う。大腿骨が折れ小鳩君は手術を受ける。どうやら大学受験は無理らしい。小鳩君は安楽椅子探偵ならぬ寝台探偵になってしまったのだ。そこで考えたのが……(ところが眠くて眠くてたまらない。夜に見舞いに来てくれているらしい小佐内さんと話をすることもままならないほど)中学3年の時に小佐内さんが遭遇した轢き逃げ事件のことだ。同級生の日坂君を轢いた車は小佐内さんに向かって来たのだ。小佐内さんは危く難を逃れる……3年前には解くことのできなかった事件を小鳩君は考え始める……シリーズの最終章に...「冬季限定ボンボンショコラ事件」米澤穂信

  • 「眠れない夜に思う、憧れの女たち」 カンキマキ

    「清少納言を求めて、フィンランドから京都へ」の著者の2作目「眠れない夜に思う憧れの女たち」(ミア・カンキマキ著2024年6月草思社550p)を読みました。著者憧れの先人女性を取り上げその旅先まで行った記録です。女性が一人で旅をすることなど考えられなかった時代ズボンをはくことをはしたないと思われていた時代馬に乗るのは横乗りが普通だった時代に旅をした女性たち。カレン・ブリクセンイザベラ・バードイーダ・プファイファーメアリー・キングスリーアレクサンドラ・ダヴィッド・ネールネリー・ブライが取り上げられる。(この時代、彼女らが書いた旅行記が大ヒット)(カレンの暮らした)アフリカにミアは行く。「そこから見える光景に息を呑む。目の前には雲に縁どられた雪を戴くキリマンジャロその向こうに夕陽を浴びるメルー山下方に大小のモメ...「眠れない夜に思う、憧れの女たち」カンキマキ

  • 「がん闘病日記」 森永卓郎

    「がん闘病日記」(森永卓郎著2024年7月三五館シンシャ204p)を読みました。森永卓郎さんの闘病記です。森永さんはがんになって冷静なのかハイなのか……有名人なので「がんの治し方」情報が殺到する。それを3つのタイプに分けたりする。治療費の話をする。(経済アナリストなので)余命を宣告された人によくある旅に出かけたり高級なレストランで食事をしたりしたいとは思わない。「いつ死んでも悔いのないように生きてきたしいまもそうして生きている」と思う理由として今までどんなふうに生きてきたのかを語る。(側から見るとやりたいことに突っ走って休養が足りないように思われますが)森永さんは言う。「これまで仕事で遊んで遊んで遊びつくしてやりたいことはすべてやってきた。そろそろ家に帰ろうと言われたらすぐに家路につく気分なのだ」……「がん闘病日記」森永卓郎

  • 「なでしこ物語 地の星」 伊吹有喜

    「なでしこ物語」の新刊が出たのでその前話を読んでおこうと「なでしこ物語地の星」を読みました。(再読)峰生の大家(たいけ)遠藤家の物語東京から体の弱い娘の療養のために戻って来ているおあんさん(女主人)耀子はこの家で育った。使用人の娘だったが当主の孫龍治と結婚したためこの家の人になったのだ。家には龍治の母の照子が残っていた。全国模試で高位の成績をおさめたことのある耀子だったが大学には進まず高校を出てすぐに龍治と結婚したのだった。それから10年耀子は娘の瀬里の体調がよくなったのでスーパーに働きに出ている。何かしたいと思った耀子の選択がそれだった。スーパーという舞台が生きてくる。2014年に書かれものだが今読んでも古びていない。買い物難民になっている地域の高齢者たち。注文された品を届ける?弁当を配達する?それだけ...「なでしこ物語地の星」伊吹有喜

  • 「ロシア文学の教室」 奈倉有里

    「ロシア文学の教室」(奈倉有里著2024年5月文藝春秋377p)を読みました。著者は「同志少女よ敵を撃て」の逢坂冬馬の姉でロシア文学の研究者ロシア国立ゴーリキー文学大学卒業ロシア文学……最近読んでいないなぁとちょっと敷居が高い気分で読み始めたらこれが結構面白い。大学のロシア文学の講義を受けているといつの間にかその世界に入り込んでしまうという設定の短編が12編。大学生の湯浦葵(ユーラ)はゴーゴリの「ネフスキイ大通り」では気がつけばネフスキイ大通りにツルゲーネフの「父と子」では友だちの家に泊まっておりゴーリキーの「どん底」では薄汚れた地下室にいる物語の主人公になって。(おおまかなストーリーは説明されるので読んでいなくても大丈夫)友人の入谷(イリヤ)も湯浦が憧れている新名(ニーナ)も講義をする枚下(マイシタ)先...「ロシア文学の教室」奈倉有里

  • 「海を破る者」 今村翔吾

    「海を破る者」(今村翔吾著20245月文藝春秋459p)を読みました。リーダーというものについて考えさせられることの多いこの頃。山極寿一さんが「リーダーというものは部下が身を挺して働こうという気を起こさせるだけの魅力を備えていなければならない」と言っておられますが本書は、若い当主がリーダーへと育っていく物語です。時代は鎌倉伊予の若き御家人河野六郎通有がどのように元寇で戦ったかが描かれる。物語のはじまり六郎の人生は詰んでいる。一族は、承久の乱の時に京方についたために領地の多くを簒奪され幕府からは位も貰っていない。加えて内紛によって一族は分断されたままだ。一族は貧乏になっている。そんなある日六郎は人買いの市に出ていた目の青い金色の髪をした女と出会う。そんなひとがこの世にいると聞いたことがあった人。六郎は同じよ...「海を破る者」今村翔吾

  • 「A・ウェイリー版 源氏物語 4」

    「A・ウェイリー版源氏物語4」(毬矢まりえ森山恵姉妹訳2019年7月左右社638p)を読みました。ー急に解像度が上がる。藤壺女御にこがれて「似たひと」を探し求めていた源氏(紫の上も女三宮も血筋)を踏襲するように源氏の子・薫は死んだ宇治の大君の妹の中君にこがれ(中君は匂宮に譲ってしまったので手遅れ)さらに二人の腹違いの妹浮舟にこがれる。ところが宇治に隠していた浮舟のところに匂宮も通うようになる。二人はともに「京に住まいを用意したから迎えに来る」と日にちまで指定する。これまで世話をしてくれたそしてこれからも絶対に裏切らないであろう薫を捨てて今心惹かれている匂宮に行っていいのか……移り気な匂宮との将来には確信が持てないでも心は匂宮に惹かれている……全ては匂宮に身を任せてしまった自分に責はあるそう考えた浮舟は宇治...「A・ウェイリー版源氏物語4」

  • 「コロナ禍と出会い直す」 山本七平賞

    「コロナ禍と出会い直す不要不急の人類学ノート」(磯野真穂著2024年6月柏書房230p)山本七平賞受賞コロナをコロナ禍と書くことにためらいがある。禍なんでしょうか……次にコロナのようなものがあったらもう少し冷静に考えることができるのだろうかわたしたちは。で、医療人類学を専門とする著者のこの本を読んでみました。他県ナンバーの車を恐れたりスーパーで買ったものをそのまま冷蔵庫に入れることにためらいがあってアルコールシートで拭いてみたりした。アクリル板があると安心した。(設置の仕方によっては換気を妨げるものだったとか)今は忘れかけている日々……そんな日々を思い出させてくれる著者の集めた事例の数々。福井県の地方紙・福井新聞では感染者相関図(判明順に番号がつけられ、感染経路が線で結ばれ、理由が書かれているもの)が掲載...「コロナ禍と出会い直す」山本七平賞

  • 「ぼくは日本でたったひとりのチベット医になった」 小川康

    「僕は日本でたったひとりのチベット医になったヒマラヤの薬草が教えてくれたこと」(小川康著2011年10月径(こみち)書房222p)を読みました。東洋4大医学(中国医学、インド医学、イスラム医学、チベット医学)の1つであるチベット医学(だそうです)のメンツィカン(経営本部、製薬工場、文献研究部、翻訳部、疾病研究部、生薬研究部、暦法学部がある)の教育部、つまり大学に入学した著者。子ども時代「勉強ができる」では人気者になれないと悟った著者は心の底で「勉強ができる」ことに価値のある場を求めていたのかもしれない。メンツィカンこそはその場だった。5年間の学びを終えるとアムチというチベット医になれる大学。そこは「なぜ」という問いを発することを捨てなければならない世界だった。入試の問題自体が・五大仏のお名前とご身体の色と...「ぼくは日本でたったひとりのチベット医になった」小川康

  • 「A・ウェイリー版 源氏物語 3」

    NHKの「100分de名著」は9月ウェイリーの「源氏物語」を取り上げるそうです。ということでA・ウェイリー版源氏物語3」(毬矢まりえ訳左右社725p)を読みました。紫の上が死んで源氏が死んでさて、どうなる?と読者(宮中の人たち)は思ったことだろう。物語は混迷する。源氏の子・夕霧の物語は確かに語られて行くけれど……亡き大宮(源氏の妻・葵上の母)のもとで一緒に育った夕霧と(頭中将の娘)雲居の雁の恋は頭中将の反対をようやく切り抜けて成就。数年後亡き柏木の妻・落葉宮のもとに通い詰める夕霧嫉妬する雲居の雁の物語もなんだかいまひとつ。夕霧に魅力が無いのだろうか……その後も物語は混迷していく。舞台を変えましょう、思い切って(勝手な想像)舞台は宇治に移りひっそりと暮らす八宮とその二人の娘(大君、中君)の物語が始まる。これ...「A・ウェイリー版源氏物語3」

  • 「A ・ウェイリー版 源氏物語 1」

    1925年に出版されたウェイリー版「源氏物語」を再度日本語に訳した「A・ウェイリー版源氏物語1」(毬谷まりえ+森山恵姉妹訳2017年12月左右社685p)を読みました。桐壺から明石までを一気に読んで面白くなるのは葵の巻からだということに気がついた。そこまでとは別人のように作者の筆が冴えるのは単に書き慣れたためかそれとも読者を信頼できるようになったためなのだろうか。(そこまではすばらしい、すばらしいと源氏を称賛しているばかりであまり面白くない)「主人公をどれだけ不幸に陥れることが出来るか」が腕の見せどころという法則に従えば葵の巻からは作者は源氏を遠慮なく不幸に陥れていく。正妻葵上は源氏の恋人・六条御息所の生き霊によって苦しめられ産褥死してしまう。さらに庇護者であった父・桐壺帝の死によって宮廷の風向きはがらり...「A・ウェイリー版源氏物語1」

  • 「A・ウェイリー版 源氏物語 2」

    「A・ウェイリー版源氏物語2」(毬谷まりえ森山恵姉妹訳左右社701p)を読みました。澪標から真木柱まで。この巻の中心は、夕顔の娘・玉鬘明石の君が上京し、六条院に入るとか源氏と葵上の子・夕霧の恋とか読者の反応を見て最も反応の良い玉鬘物語に舵を切った。(勝手な想像です)夕顔の死後乳母に連れられて筑紫に行っていた玉鬘は(実は頭中将の娘)地元の有力者に求婚され、舟で逃げ出す。京に着いて心細い思いをしている時に偶然、夕顔の侍女で、今は源氏に仕えている右近に出会い源氏に引き取られることになる。源氏の娘ということで求婚者が引きも切らずでも、なかなか実の父・頭中将には会わせてもらえない。源氏はしじゅう来てはあやしいほのめかしをする。いつの間にか好きでもない髭黒大将の妻にされ(髭黒の正妻は心を病んでいる)……読者は玉鬘から...「A・ウェイリー版源氏物語2」

  • 「レディ・ムラサキのティーパーティ」 毱矢まりえ 森山恵

    「レディ・ムラサキのティーパーティらせん訳源氏物語」(毱矢まりえ森山恵著2024年2月講談社300p)を読みました。レディ・ムラサキは紫式部のことです。1925年にアーサー・ウェイリーが訳した源氏物語「TheTaleofGenji」をさらに日本語に訳し戻した「源氏物語A・ウェイリー版」(左右社)の訳者毱矢まりえ・森山恵姉妹の翻訳話です。毱矢姉妹の訳では、冒頭は「いつの時代のことでしたか。あるエンペラーの宮廷での物語でございます」(!)となっている。エンペラーは恋に落ちるえ?寵愛は恋だったの(光源氏の母・桐壺更衣は宮中での嫌がらせにあって死んでしまうけれど)桐壺更衣は帝をどう思っていたのだろう?はたして帝に恋をしていたのだろうか?(ご寵愛は、ちょっと迷惑だった?)などと言葉が違えば考えることも違ってくる。中...「レディ・ムラサキのティーパーティ」毱矢まりえ森山恵

  • 「イラク水滸伝」 Bunkamuraドゥマゴ文学賞

    「イラク水滸伝」(高野秀行著2023年7月文藝春秋474p)が第34回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞しました。(パリのドゥマゴ文学賞の持つ、先進性と独創性を受け継ぎ、既成の概念にとらわれることなく、常に新しい才能を認め、発掘を目的に創設された。前年7月1日から当年7月31日までに発表されたものを毎年「ひとりの選考委員」(任期は1年間)が審査している)古代文明誕生の地チグリス、ユーフラテス川が作った湿地帯は今、どうなっているだろうか?湿地帯というところは住みにくいところなのではないだろうか?それなのになぜ人々は古代から連綿と住み続けているのだろうか?「誰も行かないところへ行き誰もやらないことをし誰も書かない本を書く」がモットーの高野さん今度の旅はいかに?と興味津々で読みはじめた。(表紙写真の前から2...「イラク水滸伝」Bunkamuraドゥマゴ文学賞

  • 「恐竜時代が終わらない」 川野辺太郎

    「恐竜時代が終わらない」(川野辺太郎著2024年5月書肆侃侃房177p)を読みました。児童文学ではありません。「父の遺してくれた話を夜道のランタンのようにかざして現実の自分の無力さをやり過ごしながらどうにかわたしは育っていきました」という主人公。「父の遺してくれた話」というのは恐竜の話だ。物語は入れ子構造になっている。ひとり暮らしの「わたし」はある日「わたし」の語りを聞きたいと世界オーラルヒストリー学会の支部長という人がやって来る。入れ子の中の恐竜の話では主人公は草食恐竜の子エミリオ。日がな一日草を食む暮らしに疑問を抱くようになったエミリオは(草はそんなに美味しくないし消化のために石も飲み込まなくてはならない)ある日肉食恐竜の子ガビノと出会う。その時エミリオは父さんの言葉を思い出す。「死んでしまったマルコ...「恐竜時代が終わらない」川野辺太郎

  • 「しぶとい十人の本屋」 辻山良雄

    「しぶとい十人の本屋生きる手ごたえのある仕事をする」(辻山良雄著2024年6月朝日出版社355p)を読みました。著者は書店「title」の店主「いつの間にか踊り場のような場所に立っている」と思うようになった著者は仕事を見つめなおしたいと本屋が本屋に会いに行く旅に出た。その記録。印象に残ったのは「走る本屋さん高久書店」の高木久直さんの章。高校生用の赤本などの参考書をたくさん置いていて参考書選びの相談にも応じる。(高木さんは元教師)高木さんの店の2階には自習室もある。店まで来るのが難しい人には(開店前に)定期購読の雑誌を配達しそれが安否確認にもなっている。店には高木さんと話したい人がたくさん来る。1日が終わると話疲れるほどだ。それでも休みの日には車に本を積んで本屋のない地域に出かける。本棚から本を取って、見て...「しぶとい十人の本屋」辻山良雄

  • 「脳は眠りで大進化する」 上田泰己

    「脳は眠りで大進化する」(上田泰己著2024年6月文春新書)を読みました。起きている時、脳は活発に動き眠っている時は静かに休養しているというこれまでの考えはどうやら違っているようだ。睡眠の研究は急速に進んでいる。脳は眠っている時に「記憶」し起きている時に「探索」する。「記憶」の方もノンレム睡眠ではつながりを形成しレム睡眠では、そのつながりを整理しているということが分かってきた。血流に関しては目が覚めている時とレム睡眠では血流は多くノンレム睡眠では少なくなる。これからは健康診断の時に「睡眠診断」も加えるようになって欲しいと著者は言う。腕時計型のウエアラブルデバイスが広まって来ているし。(精度はいま一つ)そうするとうつや認知症、発達障害などの診断にも役立てられる。子どもの発達障害の早期発見にもつながる。問題は...「脳は眠りで大進化する」上田泰己

  • 「銀河の図書室」 名取佐和子

    「文庫旅館で待つ本は」の名取佐和子さんの新作です。「銀河の図書室」(名取佐和子著2024年8月実業之日本社309p)高校2年生のチカは入学した時に桜の木の下で出会った風見先輩に誘われてイーハトー部に入った。イーハトー部はイーハトーブ宮沢賢治の作品を読む部活動だ。ところが風見先輩は岩手県への修学旅行の後、学校に来なくなってしまう。もちろん、部活にも来ない。「ほんとうの幸いは、遠い」という言葉を残して。なぜ学校に来なくなったのか。(を解くミステリ)困ったチカは同学年のキョンへをイーハトー部に誘った。キョンへは「仮」という条件で入部してくれた。4月、そんなイーハトー部に新入生が入部してくれた。増子耶寿子、マスヤスだ。ゆるキャラみたいにころころした司書の伊吹さん車椅子の顧問・郡司先生アメフト部だったという校長先生...「銀河の図書室」名取佐和子

  • 「2028年 街から書店が消える日」 小島俊一

    「2028年街から書店が消える日」(小島俊一著2024年5月プレジデント社261p)を読みました。著者が招いたゲストは29人(その分1人の分量は少ない)叔父(著者)が書店員を目指す甥に語りかけるという様式で話は進む。ゲストの話が短い分著者の「解説」で補っている。厳しい現状の話(暗くなる)でも、明るい話もある。◯麻布台ヒルズに格安の家賃で書店が誘致された。◯北海道にあるコーチャンフォー(4頭立ての馬車)書店(書籍、文具、音楽、飲食)「鬼滅の刃」の特装本(5720円)を1日で1万冊売った。◯京都駅のふたば書店が売り上げを伸ばしている。「本屋で一番楽しいのは、仕入れと陳列です」(本庄将之)◯「これからは本屋が文化サロンの主催者になり作家トークショーのファシリテータにもなって作家が新刊を出した時の全国ツアーの受け...「2028年街から書店が消える日」小島俊一

  • 「人類と気候の10万年史」 中川毅

    「時を刻む湖」の中川毅さんの「人類と気候の10万年史過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか」(中川毅著2017年2月講談社ブルーバックス214p)を読みました。「せっかく正確な目盛りを作ったからにはそのものさしを使って宝探しの旅に出てみたかった」という中川さんものさしとは「年縞」のことです。(過去を見ると)「温暖な気候には限度がある。海の水が沸騰するほど極端な高温になることはない。いっぽう、寒冷化は時として暴走する。あらゆる場所が氷に覆われていた全球凍結だったことがあるのである」(そうだったんですね)第1章気候の歴史をさかのぼる第2章気候変動に法則性はあるのか第3章気候学のタイムマシン(年縞)第4章日本から生まれた世界標準(水月湖の年縞)第5章15万年前から現代へ第6章過去の気候変動を再現すると来て...「人類と気候の10万年史」中川毅

  • 「農業が温暖化を解決する!」 枝廣淳子

    「農業が温暖化を解決する農業だからできること」(枝廣淳子著2024年6月岩波書店70p)を読みました。「農業は温暖化の被害者であり加害者であり救いの女神でもある」???CO2を排出しないことが目標だと思っていたけれどそれと同じくらい大事なのが回収することなのだという。(CO2には寿命がない。だから、既に大気中に出てしまったCO2を回収し定着させる必要がある)どうやって農業で「回収」するのか1つ目はリジェネラティヴ農業をすることだ。リジェネラティヴ農業とは「環境再生型農業」とも呼ばれる。農地の土壌をただ健康的に保つのではなく土壌を修復・改善しながら自然環境の回復に繋げることを目指す。土壌が健康であればあるほど多くの炭素を吸収(隔離)する。具体的には不耕起栽培土を被覆作物で覆う輪作(8〜9種で)合成肥料を使わ...「農業が温暖化を解決する!」枝廣淳子

  • 「惣十郎浮世始末」 木内昇

    「惣十郎浮世始末」(木内昇著2024年6月中央公論新社542p)を読みました。時代ミステリです。主人公は同心の服部惣十郎。発端は薬種問屋・興済堂が火事になり焼け跡から番頭と主人の遺体が見つかったことだった。どうやら付け火らしい火事番頭は毒殺されたらしい。一体誰が?間に他の事件を差し挟みながら興済堂事件の捜査は続いていく……数年前に妻(尊敬する元上司の一人娘)を亡くした惣十郎は病みついて数日で亡くなった妻の死が未だに納得できないでいる。女性の登場人物がいい。下女のお雅は小町と言われるほどの美貌だが子供ができないことで離縁されて後に奉公に来た。密かに惣十郎を慕っている。お雅の作る日々の料理が作品の彩となっている。惣十郎が密かに想いを寄せているのは書肆須原屋のおかみ冬羽(とわ)身なりも構わずに出版事業に集中して...「惣十郎浮世始末」木内昇

  • 「望むのは」 古谷田奈月

    「あの本読みました?」(BSテレ東)で朝井リョウさん強くが勧めていたので気になって「望むのは」(古谷田奈月著2017年8月新潮社205p)を読んでみました。この春から高校生になる小春は15才3月生まれだ。つまり高校一年のほぼ丸々を15才で過ごすことになる。隣家の奥さんの秋子さんはゴリラだ。心優しく思慮深い。今まで伯父さんの家で暮らしていたという秋子さんの息子の歩が帰って来て同じ高校に入るという。ゴリラを母に持つという境遇の歩を助ける自分……というイメージは簡単に破られる。自己紹介で歩は自分がバレエダンサーであるとカミングアウトする。ゴリラの子ではなくてバレエをする男子というイメージを打ち出したのだ。(男子社会ではマイナス?)担任の八木先生の恋人は美術部の顧問の里見先生らしいと聞いて美術部をのぞきに行ったら...「望むのは」古谷田奈月

  • 「両京十五日」 馬伯庸

    「両京十五日①②」馬伯庸著2024年2月早川書房①477p②517p)を読みました。中国時代ミステリです。父・洪煕帝の命で南京に来ていた皇太子・朱瞻基(しゅせんき)は今まさに上陸しようとしたその時に船が爆発し危く難を逃れる。父子ともどもに命を奪われようとしたことを知った皇太子は身分を隠して北京へ戻ろうとする。モモタロウ皇太子に同道するのは南京の警察官・呉定縁(ごていえん)(父は警察署長だが本人は酒浸り。突然襲ってくる頭痛の発作に苦しんでいる。敬愛する父が実父でないことを知り自分が何者なのかを知りたいと思っている。優れた推理力を持ち、父の解決した事件は定縁が解いたもの)「まずは自分が何者なのかはっきりさせてこそ何を為すべきかが分かる」と思う定縁。官吏の于謙(うけん)生真面目で声が大きい。女医の蘇荊渓(そけい...「両京十五日」馬伯庸

  • 「続七夜物語 明日、晴れますように」 川上弘美

    「続七夜物語明日、晴れますように」(川上弘美著2024年6月朝日新聞出版473p)(「七夜物語」が新聞に連載されていた時はまず「七夜物語」を読んでから一面に戻って読みはじめたものです)ようやく出ました「続七夜物語」登場するのは「七夜物語」の仄田君の娘りらとさよの息子絵(かい)小学校4年生だ。(こう来ましたか)閑話休題「ヨセフを知っている一族」という言葉が「赤毛のアン」に出てくる。今でも、ときどき「あの人はヨセフを知っている一族」だなぁと思うことがある。(めったに遭遇しませんが)ヨセフを知っている一族・仄田君はヨセフを知っている大人になり大学の先生をしている。でも、娘りらのお母さんはどうやらヨセフを知っている一族ではないようだ。さよもヨセフを知っている大人で今は、児童文学の作家をしている。絵のお父さんとは離...「続七夜物語明日、晴れますように」川上弘美

  • 「利き密師物語2 図書館の魔女」 小林栗奈

    今日は8月3日はちみつの日です。で、はちみつの物語を。「利き蜜師物語2図書館の魔女」(小林栗奈著2017年5月)(再掲)親元を離れてカガミノに住む利き蜜師・仙道に弟子入りしている少女・まゆの今度のしごとはお城の図書室に預けられているたくさんの「本」の行く先を決める旅のお供をすることだったことだった。寝台車の旅を経て(おりしも四季島が初走行)仙道とまゆはベルジュ城の執事・アルビノーニに迎えられる。病で伏せっているという主のブランケンハイム伯爵は実はうら若い美しい女性だった。当代ブランケンハイム伯爵シェーラは両親を亡くし祖父の先代ブランケンハイム伯爵フリッツとひっそりと暮らしているのだという。案内された図書室には吹き抜けの天井まである本棚にびっしりと本が収められていた。そしてブランケンハイム伯爵がこの城を引き...「利き密師物語2図書館の魔女」小林栗奈

  • 「離島建築」 箭内博行

    「離島建築島の文化を伝える建物と暮らし」(箭内博行著2024年4月トゥーヴァージンズ191p)「看板建築」「沖縄島建築」「復興建築」「近代別荘建築」「横濱建築」と続いたシリーズの6冊目です。「英雄たちの選択」で青ヶ島を見て離島に惹かれて読みました。「海によって本土と隔てられ自然の猛威と隣り合わせの離島で生きること、暮らすことこの課題にいったいどれほどの先人たちが頭を悩ませ知恵を絞ってきたことだろう」と考える著者が巡った島々の建築。明治政府がキリシタン禁制を解除したので堰を切ったようように教会の建築が相次いだ。その時に50棟もの教会を建築した鉄川与助。鉄川与助の建てた旧野首教会(野崎島)崎津天主堂(天草下島)江上天主堂(奈留島)頭ケ島天主堂(頭ケ島)……75才の女性がコレラが治ったことに感謝して家族とともに...「離島建築」箭内博行

  • 「母の待つ里」 ドラマ化

    「母の待つ里」(浅田次郎著2022年1月新潮社)がこのたび文庫化ドラマ(NHK)にもなるそうです。「母」「里」う〜んそしてクラッシクな表紙絵、う〜んまあ、でも、それで終わるわけがないし…この作家ならと思って読み始めました。60才になったばかりの3人の登場人物大手食品会社の社長の松永徹(ここまで独身を通した)薬品会社を退職したばかりの室田精一(退職を機に妻に離婚を切り出されてひとり暮らし)循環器の医者の古賀夏生(ナツオ)(母を亡くしてひとり暮らし)共通点は年会費35万円のカードの会員だということだ。そして、それぞれにアメリカのユナイテッド・ホームタウン・サービス(帰郷)の日本版のゲストになっている。ゲストとは…東北新幹線と在来線を乗り継いでさらにバスで40分あまり。バスを降りると軽トラに乗った「同級生」が声...「母の待つ里」ドラマ化

  • 「古墳と埴輪」 和田晴吾

    「古墳と埴輪」(和田晴吾著2024年6月岩波新書281p)を読みました。「日本列島の長い歴史の中で人びとが憑かれたように古墳づくりに熱中した時代があった」熱中現在残っているものだけでも159953基!日本の人びとの特性の中に量で表現するというのがあるのかもしれない。形に凝ったり埴輪に凝ったり副葬品に凝ったりしないでこれだけのものをつくる人材を持っているということを量で表現する。(大きな古墳になれば15年かかるというから)著者の視線は中国にも向かう。人が生きているのは「魂」(こん・精神天から与えられた陽性のもの)「魄」(ぱく・肉体地から与えられた陰性のもの)が体内に宿っているからだという。死ぬと魂魄は分離し一方は天に帰り、もう一方は地に帰る。だから肉体を古墳の表面の土を深く掘って埋めるのだ。さらに古墳の表面...「古墳と埴輪」和田晴吾

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