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  • 「本売る日々」 本屋さんが主人公の時代小説

    チューリップが咲いています。「本売る日々」(青山文平著2023年3月文藝春秋社刊)を読みました。本屋さんが主人公の日常の謎ミステリ時代小説です。主人公の本屋は、専門書を扱う本屋。表紙絵にあるように主人公が本を担いで回る先は近在の寺、手習所、名主、医師中でも裕福な名主たちはお得意様だ。3つの短編のうちファンタジー要素のある「鬼に喰われた女(ひと)」が特にいい。ある藩が取り潰しになり、仕える先を失った武士たちは名主や商家の書役として雇われるようになっていた。ある名主の家でも1人の元藩士の青年を雇い入れた。若い武士は和歌の修行を積んでいた。名主の家のひとり娘もまた和歌学んでいた(流派は違うが)やがて2人は夫婦になる約束をするが若い武士は別の藩の家老の娘に見染められて名主の娘を捨てて家老の娘の方を選ぶ。名主は、婿...「本売る日々」本屋さんが主人公の時代小説

  • 「ゴリラ裁判の日」 ゴリラだって原告になる

    「ゴリラ裁判の日」(須藤古都離著2023年3月講談社刊)を読みました。第64回メフィスト賞受賞作です。ある日、4才の男の子が動物園のゴリラパークの柵を越え転げ落ちるという事件が起こった。雄ゴリラのオマリは近づいて子どもを引きずり(子ゴリラに対する普通の扱い)危険だと判断した園長はオマリの射殺を命じた。麻酔銃でなく実弾で。オマリの妻であるローズはこのことに納得できず裁判をおこす。ローズはカメルーンのジャングルで生まれたゴリラだ。父は群のリーダーのエサウ母ヨランダは近くのゴリラ研究所に時々遊びに行って手話を身につけていた。ヨランダはローズにも手話を教え、ローズは母や研究所のチェルシーと手話で会話するようになった。ある日群同士の抗争で父が死にローズは選択を迫られることになる。別の群に加わるかアメリカの動物園に行...「ゴリラ裁判の日」ゴリラだって原告になる

  • 「文学は予言する」 現在が過去の作品に描かれている…

    「考える人」でちょこちょこ拾い読みをしていた「文学は予言する」が面白かったので1冊にまとめられた「文学は予言する」(鴻巣友季子著2022年12月新潮選書)を読みました。世界は思ってもみなかった方向に急カーブを切っていると思っていたけれどみんな予言されていたんだよと言われて驚く。米国家安全保障局はテロ対策として国民の個人情報を入手していると言われているけれどそういう社会のことは1949年に書かれた「1984年」(オーウェル)に書かれている。人口が減少しているので産めよ増やせよという社会(婚姻、出産への国家の介入)のことは「すばらしい新世界」(ハクスリー)「侍女の物語」(アトウッド)他たくさんの作品に書かれている。文化や芸術にふれて国民が考えるようになったり情緒が豊かになると統制がしにくくなるので文化や芸術が...「文学は予言する」現在が過去の作品に描かれている…

  • 「ストーンヘンジ」 美しい写真も

    「ストーンヘンジ」(山田英春著2023年1月筑摩書房刊)を読みました。肩書はブックデザイナーという著者長年古代遺跡と先史時代の壁画を写真に撮ってきた。その写真をたっぷり使った(素晴らしい写真ばかり)今、一番新しいストーンヘンジ本です。ストーンヘンジは何のために造られたのか?の謎はいまだに解かれていない。造られたのは紀元前3000年からおよそ1000年の間いろいろに手を加えられて来た。石器時代なので巨石を削った道具は石器。上に石が載っていないブルーストーンという石は(重さは1〜3トン)200km以上も離れたところから運ばれて来た。(60個以上)三石塔という大きな石は高さが6〜7mもあり上に屋根のように載っている石にはほぞまで作られている。最近(2006年)の研究によればストーンヘンジを作った人たちの子孫はも...「ストーンヘンジ」美しい写真も

  • 「ネット右翼になった父」 ネット右翼に限らない

    「ネット右翼になった父」(鈴木大介著2023年1月講談社現代新書)家族が、友人が、尊敬する人があやしいネット右翼になったら……そんなことは起こるはずがないではないのかもしれないちょっとためらったけど読んでみました。著者は鈴木大介。ガンで亡くなったお父さんは会社を退職してから海外へ語学留学をしたりボランティアで子どもたちに遊びを教えたりパソコン教室を開いたり……決して凝り固まるような人生ではなかったはずなのに晩年は(保守系を名乗る学者が嫌悪するような)右寄りの雑誌を購読したり右傾の動画を視聴したりするようになっていた。著者は、それを激しく嫌悪し通院の付き添いをしながらも心は離れていた。なぜ著者のお父さんは右傾化していったのか?(親族や友人が右傾化しているという悩みを持つ人は意外に多いらしい)著者は母や姉、姪...「ネット右翼になった父」ネット右翼に限らない

  • 「蝉かえる」 推理を語らない探偵

    「蝉かえる」(櫻田智也著2020年7月東京創元社刊)を読みました。ミステリです。探偵が自分の推理をとうとうと語るというのがミステリの山場なのだがこの探偵は語らない。探偵の名前はえり(魚へんに入)沢泉(せん)。昆虫好きの青年えり沢は惹句によれば「とぼけた切れ者」である。えり沢は自分の推理を語るのではなく推理にしたがって行動する↓相手はそれを察して自分の行動を変える。という流れ。4つの短編はどれも昆虫が絡む物語なのでタイトルも蝉かえるコマチグモ彼方の甲虫ホタル計画サブサハラの蝿となっている。「サブサハラの蝿」はえり沢が空港で学生時代の友人江口海(かい)に出会うところからはじまる。江口は医師で「越境する医師たちに」に属してアフリカで活動してきた。江口の荷物にツェツェバエのサナギが入っていた。(こうこう時代、授業...「蝉かえる」推理を語らない探偵

  • 「一階革命」 一階が変わればまちが変わる

    「一階革命」(田中元子著2022年12月晶文社刊)を読みました。歩いていると、ちょっとひと休みしたいなぁと思う。あるコンビニの椅子席でああ、やれやれといった感じで飲み物を買って休んでいるお年寄りを見かける(しばしば)もっとベンチがあればなぁと思う。ベンチのある町をウォーカブルシティって言う?え、国土交通省でウォーカブルシティを募集している?ということでウォーカブルシティづくりに取り組んできたというこの本を読んでみました。町を見ていて子ども連れの人がふらっと入れるところがない散歩しているお年寄りが休めるところがない犬の散歩の途中に立ち寄れるところがない遠慮なくおしゃべりのできるところがない……私設公民館ならばそれができる、と著者は思った。条件は一階であること。コペンハーゲンのランドリーカフェ(コインランドリ...「一階革命」一階が変わればまちが変わる

  • 「松雪先生は空を飛んだ」

    「松雪先生は空を飛んだ」(白石一文著2023年1月角川書店刊)上、下を読みました。空を飛べたら……何をするだろう。行ってみたいと思っているところにすぐに行ける。交通渋滞も交通費高騰も公共交通機関の減少ももう気にしなくていい。買い物難民問題も解決だ。空を飛んで来たお年寄りがスーパーの玄関前にすとんと降り立って買い物をしてまたすうっと空に上っていくそんな姿が日常になる……大手スーパーチェーンの会長高岡泰成は出張先のスマトラ島で航空機事故に遭い大怪我を負うと会社を甥の純成に任せて引退してしまう。怪我はすっかり治ったのに。泰成は秘書にある調べものを命じる。子供のころ通っていた小さな学習塾での師・松雪先生夫妻と塾に通っていたうちの7人を探し出して欲しいというのだ。松雪先生はある日突然塾を閉じ町からいなくなってしまっ...「松雪先生は空を飛んだ」

  • 「書籍修繕という仕事」

    「書籍修繕という仕事刻まれた記憶、思い出、物語の守り手として生きる」(ジェヨン著2022年12月原書房刊)を読みました。著者はアメリカで図書館の書籍を修繕しながら書籍修繕について学び韓国に戻って「ジェヨン書籍修繕」工房を開いた。本書では修繕した本、栞、日記帳、アルバムなどを修繕前、修繕後の写真付きで紹介している。工房を開いてみれば図書館でやっていた時とは違う苦労があった。高いと言われたり出来上がったものがイメージと違うと言われたり。著者は「こんな技が必要だ」と痛感した。税金を申告する方法打ち合わせの仕方広報の仕方依頼の受け方依頼の断り方丁寧に腹を立てる方法腹が立つのを笑顔でこらえる方法……(共感)修繕に持ち込まれたのはおばあさんの日記帳旅先で買った料理本おじいさんの書いた「千字文」カビてしまった結婚アルバ...「書籍修繕という仕事」

  • 「残月記」 日本SF大賞

    以前から気になっていた「残月記」(小田雅久仁著2021年11月双葉社刊)が「日本SF大賞」を受賞したというのでこれは読まなくてはと思いました。ちなみに「日本SF大賞」は日本のSFとしてすぐれた作品であり「このあとからは、これがなかった以前の世界が想像できないような作品」や「SFの歴史に新たな側面を付け加えた作品」であればあらゆる事物を受賞の対象としているのだそうです。月昂(げっこう)という病が流行っている。はじめの症状はインフルエンザと似ている。伝染する病気なので罹患すると隔離される。(おや、これはあれのこと?)高熱が去ると「つきによってたかぶる」症状が残る。満月の夜になると脳の働きが高まり(人の話がまどろっこく感じられ、早口で話すようになる)身体機能も高まり突出した芸術作品を生み出したりもする。反対に新...「残月記」日本SF大賞

  • 「むかしむかし あるところにウェルビーイングがありました」

    「むかしむかしあるところにウェルビーイングがありました」(石川善樹×吉田尚記2022年1月角川書店刊)を読みました。なんと「ウェルビーイング」という言葉が最初にWHOから出たのは1948年日本では2021年に「成長戦略実行計画」(菅総理の時代)に登場した。2020年にはトヨタが「ウェルビーイングの追求を経営の中核に置く」宣言をした。ウェルビーイングは人生全体に対する主観的な評価である「満足」と日々の体験に基づく「幸福」が揃っていることと定義される。日本の昔話の中にウェルビーイングの要素を見出した石川さんはアニメ「日本昔ばなし」を毎日見てウェルビーイングの研究をしている。同じようにウェルビーイングの研究をして来たお父さんから「難がない無難な人生を送るよりも難があることを有難いと思う人生を送りなさい」と言われ...「むかしむかしあるところにウェルビーイングがありました」

  • 「アンダークラス] 相場英雄のミステリ

    NHKドラマ「ガラパゴス」の著者・相場英雄のミステリをもう一冊。「アンダークラス」(相場英雄著2023年1月小学館文庫)です。主人公は「ガラパゴス」と同じ警視庁継続捜査班の田川信一と「覇王の轍」のキャリア樫山順子。能代の介護施設で入居者の女性が職員のベトナム人技能実習生のアインに車椅子ごと川に落とされるという事件が起こった。アインは女性から殺してくれと頼まれたという。自殺幇助というわけだ。本当に自殺幇助なのか?殺人ではないのか?アインはもともとは神戸の縫製工場に技能実習生として勤めていた。そこから逃げ出して転々と勤め先を変え能代にたどり着いていた。死んだ女性・藤井もまた生まれ育った能代から神戸に行きさまざまな職業を転々としてまた能代に戻っていた。他の入居者とは親しくなかった藤井はアインには心を開いていたよ...「アンダークラス]相場英雄のミステリ

  • 「覇王の轍」 社会派ミステリ

    ミステリ「ガラパゴス」を原作にしたNHKドラマがとても良かったので同じ著者の同じ継続捜査班・田川信一シリーズから「覇王の轍」(相場英雄著2023年2月小学館刊)を読みました。「ガラパゴス」の題材は派遣社員問題だったが今回は日本中に鉄道網を張り巡らす政策が題材。田川信一シリーズといってもこの作品には田川は出てこない。主人公は北海道の捜査二課の課長として赴任したばかりの樫山順子。東大卒のキャリアだ。折しも捜査二課では贈収賄事件を追っていた。道の病院局の課長補佐・栗田聡子が医療機器メーカーから金を受け取りそれを歌舞伎町のホストクラブのあるホストに注ぎ込んでいた。追跡してみれば栗田の日常はごく地味なものだったのになぜ?樫山は赴任早々気になることがあった。ススキノのビルから国交省の若い官僚の稲垣が転落死していたが事...「覇王の轍」社会派ミステリ

  • 「中国全史」 イギリスの映像作家による

    「中国全史」上(ウッド著2022年11月河出書房新社刊)を読みました。著者はイギリスの映像作家本書はBBCのドキュメンタリー「ThestoryofChina」をもとに書かれたものだ。(文章が映像的なのも頷けるj高いところから俯瞰していると思うとぐんぐんレンズが近づいて1人の人物が見えて来る。例えば清の光緒帝「1899年12月冬至を2日後に控え光緒帝は凍てつく寒さの中色鮮やかな大行列を従え天安門から紫禁城の外へと出た皇帝は無表情で前方を見つめていた」悲しい運命が待っているのだ……「632年の夏(唐の時代)中国人の旅人がジャエーンドラの僧院に立っていた。やわらかな緑に包まれたカシミール渓谷と青い湖の向こうには雪を頂くヒマラヤの峰々を見渡すことができた」身長180㎝、明るい瞳と端正な容貌のこの僧は玄奘三蔵だ……...「中国全史」イギリスの映像作家による

  • 「タイム・オブ・デス、デート・オブ・バース」 窪美澄の新作

    「タイム・オブ・デス、デート・オブ・バース」(窪美澄著2022年12月刊)を読みました。人は誰も孤独という尻尾を持っているけれど人には見せないでいる。古い団地に住むみかげは高校生週に3日製菓工場で働き夜は高校に通っている。昼の学校ではいつもいじめられていた。小学校も中学校も昼の高校も。みかげは姉の七海と2人で暮らしている。3才の時に父が死にその後母が2人を置いて出て行ったからだ。姉の七海は夜の仕事をして家計を支えている。喘息持ちのみかげは週に3日アルバイトをするので精一杯だ。勉強も得意ではない。でも夜間高校では友だちができた。ある日みかげはぜんじろうさんというおじいさんに声をかけられる。ぜんじろうさんは独居のお年寄りを訪問してはポカリスエットとパンを渡して歩いている。部屋には入らない。やがて高校での友だち...「タイム・オブ・デス、デート・オブ・バース」窪美澄の新作

  • 「名探偵外来」 泌尿器科のお医者さん

    久しぶりに似鳥鶏(にたどりけい)を読みました。「名探偵外来」(似鳥鶏著2022年12月光文社刊)医療ミステリなのですがめずらしいことに泌尿器科。主人公の医師・鮎川は総合病院の泌尿器科の医師。鮎川が外来診療で感じた「小さな違和感」がやがて事件となって行くという短編が4編。探偵は鮎川というよりもソーシャルワーカーの忍の方が探偵らしい活躍をする。足音もなく近付いていつの間にか背後にいる。必要とあれば捜査対象の患者の住まいや立ち寄り先を調べ上げ身軽に斜面だって登る。かと思えば食事はほとんどジャンクフードどこの店の何時頃のフライドポテトが美味しいかに詳しい。カロリーメイト1箱が食事代わりだったりもする。基本的に無表情。必要な時だけ営業用の笑顔を見せる……脇役は看護師長の大神ヤンキー時代を彷彿とさせる啖呵と拳が時々出...「名探偵外来」泌尿器科のお医者さん

  • 「貸本屋おせん」 時代モノミステリ

    「貸本屋おせん」(高瀬乃一著2022年11月文藝春秋社刊)を読みました。お仕事モノ+ミステリというのはよくあるけど仕事が貸本屋というのは初めて。世界でも有数の識字率だった江戸の庶民の娯楽の一つが読書だったので成り立った商売だ。表紙絵にあるように本を担いで得意先を回る。シリーズものの続きが読みたいお客はおせんを待っている。おせんの担いでいる本は出版社から買い付けるのだが(新刊書が人気)この時代、出版は容易なことではない。お上を皮肉ったり公序良俗に反したりすればすぐに取り締まりに合う。(そういう本こそが人気なのだ),おせんの父は彫り師として出版の仕事に従事していたが取り締まりにあって指を折られ妻にも去られ失意のうちに死んでいった。おせんは12才の時からひとりで生きている。おせんは文字を書くのが得意なので写本を...「貸本屋おせん」時代モノミステリ

  • 「13歳から考える 住まいの権利」 空き家問題とか

    「13歳から考える住まいの権利」(葛西リサ著2022年12月かもがわ出版刊)を読みました。空き家が増えているなぁと思う。更地にすれば税金が6倍とか聞く。詳しく知りたいと思っていたところ新聞で紹介されていたので読んでみた。戦後(爆撃で家が焼かれ)家が足りなくなったところから日本の住宅政策ははじまる。日本の持ち家率は61%にもなった。その家が「空き家」になっているのだ。所有者が亡くなって親などから住宅を譲り受けても遠くに住んでいたりして管理できない。取り壊しにはお金がかかる。そこで2006年「住宅建設計画法」が廃止され「住生活基本法」が制定された。「住生活基本法」では、性能が良く頑丈な住宅を作ること中古住宅を修繕して活用することが目標として掲げられた。また高齢になって「自分の家に住めなくなる」ことを避けるため...「13歳から考える住まいの権利」空き家問題とか

  • 「古典モノ語り」 なぜあえて塀を修理しないの?

    「古典モノ語り」(山本淳子著2023年1月笠間書院刊)を読みました。「伊勢物語」「源氏物語」「枕草子」「「落窪物語」「蜻蛉日記」などなどに出てくるモノにスポットを当てている。取り上げているのは表紙絵にある牛車築地(塀)橘犬ゆする(髪を梳くときに使う米のとぎ汁)御帳台扇……中でも築地の章が面白い。平安時代、塀は木ではなく土を固めて作られていた。だから崩れやすい。足で蹴っただけでも崩れる。でも、土だから修理はそんなに難しくない。なのに「ものかしこげになだらかに修理して門いたくかためきわぎわしきはいとうたてこそおぼゆれ」(小賢しげにすっきりと修繕して門を固く閉ざし、四角四面なのは実につまらないことよ「枕草子」)修理をしては不粋なのだそうだ。なぜ修理をしてはいけないの?それは築地がその家の経済状態を表すからだ。築...「古典モノ語り」なぜあえて塀を修理しないの?

  • 「切手デザイナーの仕事」 日本に8人しかいない職業

    「切手デザイナーの仕事日本郵便切手・葉書室より」(間部香代著2022年10月グラフィック社刊)を読みました。切手箱を見てそろそろ切手が無くなりそうだなと思うといそいそと買いに行き郵便局のファイルを見てよさそうな特殊切手を買うくらいの切手好きですがこの本は面白い。日本郵便の「切手・葉書」室には8人のデザイナーがいる。日本に8人しかいないとも言える。その8人を取り上げたのがこの本。ちゃんとページの中にカラーで切手の写真が入っている。カラーページにまとめてなんていうケチなことはしない。(いい出版社です)ぽすくまをデザインした中丸ひとみさんは切手デザインの仕事に加え手紙振興の仕事もしている。東京の青山に期間限定のカフェも開いたしスコットランドから登録証明を貰ったタータンチェックも作った。中丸さんは言う。「切手には...「切手デザイナーの仕事」日本に8人しかいない職業

  • 「なくしてしまった魔法の時間」 安房直子コレクション

    「安房直子コレクション1なくしてしまった魔法の時間」(安房直子著2004年3月偕成社刊)を読みました。挿絵は北見葉胡さんです。「きつねの窓」他11編が収録されています。教科書にも掲載されている「きつねの窓」もいいけれどこの中では「北風のわすれたハンカチ」が特に好きです。北風の吹く寒い山の中にひとりぼっちで住んでいる熊熊は父さんがドーンとやられて母さんもドーンとやられて妹も弟もみんなおんなじでとってもさびしいんだ胸の中を風が吹いているみたいになのです。ある日北風がやって来ました。北風の持っているトランペットを習おうとした熊は前歯を折ってしまいました。またある日今度は北風のおかみさんがやって来ました。おかみさんの持っているバイオリンを習おうとした熊は見込みなしと言われてしまいました。またまたある日北風の少女が...「なくしてしまった魔法の時間」安房直子コレクション

  • 「栞と嘘の季節」 米澤穂信の新作ミステリ

    米澤穂信の新作「栞と嘘の季節」(2022年11月集英社刊)を読みました。物語は、ゆるゆるとはじまる。放課後の図書室図書委員の堀川と松倉は返却された本の点検をしていて一枚の栞を見つける。植物がラミネートされている栞松倉はすぐにこの植物を「トリカブト」だと断言する。トリカブト?あの毒のある同じころ校内に掲示してある写真部員の撮影した写真のモデルもまたトリカブトを持って写っていた。どうやら写真の撮影場所は校舎の裏らしい。堀川と松倉は校舎の裏で「お墓を作っているの」と言う瀬野と出会う。校内でも評判の美少女・瀬野瀬野が去った後、堀川と松倉が掘り返してみると土の中にはトリカブトが埋められていた…そんなある日嫌われ者の生徒指導担当教師が校内から救急車で運ばれるという事件が起こる。3人は捜査を始める。でもタイトルは「栞と...「栞と嘘の季節」米澤穂信の新作ミステリ

  • 「女を書けない文豪たち」 著者はイタリア人

    「女を書けない文豪(オトコ)たち」(イザベラ・ディオニシオ著2022年10月角川書店刊)を読みました。さぞや、けなされているんだろうな文豪たち森鴎外田山花袋夏目漱石太宰治谷崎潤一郎……と思ったけど日本の近代文学が大好きで日本に来たという著者はけなすというよりは絶賛しつつ、まぁ、仕方ないわねくらいのスタンス。例えば夏目漱石の「こころ」主人公が崇拝する「先生」は若き日、下宿の娘さんである静さんに心惹かれる。その描写は「Iloveyou」を「月が綺麗ですね」と訳した漱石の真骨頂。静さんに対して「私(先生)は喜んで下手な生花を眺めては、まずそうな琴の音に耳を傾けました」となる。「Iloveyou」なのだ。ところが静さんの気持ちはちっとも分からない。窮状を見かねて「先生」が同宿させた同郷のKが「先生」と静さんの婚約...「女を書けない文豪たち」著者はイタリア人

  • 「臆病者の自転車生活」 電動自転車からロードバイクへ

    「臆病者の自転車生活」(安達茉莉子著2022年10月亜紀書房刊)を読みました。自称「根気がなく、回避傾向があり、気も弱いいつだって怯えた犬を内側に抱えて生きている」という著者が自転車と出会って変わっていくすがたを語ったエッセーです。文学フリマに出したZINE「私の生活改善運動」が思いがけず売れてその収益で電動アシスト自転車を手に入れた著者。高校時代に体格のいい同級生が小さな自転車に乗っている姿を友人グループが大笑いして見ていた記憶が著者を自転車から遠ざけていた。(著者は運動の苦手なふっくらタイプ)電動自転車に乗るようになって髪を切って体型をカバーするために着ていたスカートをやめてパンツを買った。「弱虫ペダル」(コミック)を読み始めた。最初の遠出は鎌倉だった。そして思ったもっともっと遠くまで行ってみたい。電...「臆病者の自転車生活」電動自転車からロードバイクへ

  • 「14歳の世渡り術 お金に頼らないで生きたい君へ」 いくらあれば生きられる?

    「14歳の世渡り術」シリーズの「お金に頼らないで生きたい君へ」(服部文祥著2022年10月河出書房新社刊)を読みました。食糧を持たずに登山するサバイバル登山家の服部文祥さん(食糧は現地調達)が書いたものです。ちょっと題名がね〜でも中味は人が一人もいなくなった村の古民家を買って住んで(家族は別の所に住んでいる)家を直しながら水を引いて食糧を調達して(鹿猟、畑づくり、果樹園、山菜野草採りなど)の暮らしが細かい金額とともに書かれている。例えば畑用ネット6280円堆肥10袋3800円……テレビでも古民家暮らしの番組を見かけるけどここまで金額が具体的なのはまずない。そして古民家暮らしは忙しい。朝起きたらストーブに火を燃やすお湯が沸いたらチャイをつくり畑を見回って果樹園の草取りをして…というふうにあっという間に時は過...「14歳の世渡り術お金に頼らないで生きたい君へ」いくらあれば生きられる?

  • 「言葉の国のお菓子番 森に行く夢」 連歌モノ

    「言葉の国のお菓子番」は連歌を題材にしたものです。第1巻「見えない花」第2巻「孤独な月」に続く第3巻「森に行く夢」(ほしおさなえ著2022年8月だいわ文庫)を読みました。主人公一葉は勤めていた書店が閉店して職を失い(第一巻)実家に身を寄せることになる。そこで祖母の遺品を整理していて十二月のお菓子メモを見つける。祖母は、連歌の会に参加していてお菓子を準備する係だったらしいのだ。祖母のメモにあったお菓子を持って連歌の会に挨拶に行った一葉は思いがけなく会に参加することになる。連歌は五七五(長句)→七七(短句)→五七五…とつなげていくものなのだがそこには細かいルールがある。第一句は挨拶句で季語を入れる第二句は第一句と同時同場、寄り添って、体言で終わるなどなど源氏物語は歌がいまひとつと言われているらしいけどこの作品...「言葉の国のお菓子番森に行く夢」連歌モノ

  • 「世界は五反田から始まった」 五反田は中心地?

    あけましておめでとうございます。今年も「ほぼ新刊書読み」読書生活に、よろしくお付き合いください。書評に面白いとあったので「世界は五反田から始まった」(星野博美著2022年7月ゲンロン叢書)を読みました。大佛次郎賞受賞作だそうです。五反田(東京)に生まれ育った著者生家は千葉から出てきて町工場(ネジの製作)を立ち上げたお祖父さんから引き継いだお父さんの代になってそのお父さんも90才近い著者は製品の配達も手伝っている。人は2つのタイプに分かれるという。過去の記憶を保持しているタイプと過去のことはほとんど忘れて先のことに関心を向けるタイプ。著者のお祖父さんは保持タイプで記憶していたことを書き残したものがある。ちなみにお父さんは忘れるタイプ。聞いてもさっぱり埒があかない。そのお祖父さんの手記の周辺を聞き取りや文献調...「世界は五反田から始まった」五反田は中心地?

  • 勝手にベスト10 ③

    2022年に読んだ160冊あまりの中から勝手にベスト10を選んでみました。順位はありません。7冊目は「線と管をつながない好文×全作の小屋づくり」(中村好文、吉田全作著2022年7月PHP研究所刊)建築家の中村好文さんが「線と管をつながない家」を作ったことを書いた本を読んで牛師(うし牛飼いのこと)の吉田全作さんは「線と管をつながない」小屋を好文さんに依頼しようと考えた。線は電気管は水道つまり、電気も水道も引かない家ということだ。沢水を飲んでランプの灯りと囲炉裏の火で煮炊きして暮らすというような昔風の暮らしではなく冷蔵庫もある現代の暮らしをするというところが興味深い。まず電気は風力発電と太陽光発電を比べた結果設備費の安さから太陽光発電に決定。屋根の上にソーラーパネルを敷き詰めそれを鉛バッテリーに蓄電するという...勝手にベスト10③

  • 勝手にベスト10 ②

    2022年に読んだ160冊あまりの中から勝手にベスト10を選んでみました。順位はありません。4冊目は「優等生は探偵に向かない」(ジャクソン著2022年7月東京創元社刊)「自由研究には向かない殺人」の続編のミステリです。主人公のピッパが「自由研究」で解決した殺人は(この作品の)現在は裁判中だ。学校に行っているピッパは裁判を傍聴できないので前作で一緒に探偵をした(恋人の)ラヴィが傍聴に行ってピッパに報告してくれる。最初だけかなと思ったのにこの裁判は作中ずっと続き今回の事件にも関わってくるのが珍しい。前作で危険な目にあったピッパはあれはたまたまでもうそんなことはしないと両親に約束したのにある日、友人のコナーが駆け込んで来る。コナーの兄のジェイミーが行方不明になったというのだ。否応なくピッパは「探偵」役をすること...勝手にベスト10②

  • 勝手にベスト10 ①

    2022年に読んだ160冊あまりの中から勝手にベスト10を選んでみました。順位はありません。1冊目は「リリアンと燃える双子の終わらない夏」(ウィルソン著2022年6月集英社刊)心が燃える…などという比喩があるけれど10才になる双子のベッシーとローランドは本当に燃えるのだ。服が燃え側にある椅子が燃え…でも、双子の体には火傷ひとつできない。タイトルにあるリリアンは28才。スーパーの店員をしている。年に何回か手紙のやり取りをしている学校時代からの友人マディソンから頼まれてひと夏双子の面倒を見ることになった物語。マディソンは今では上院議員の妻になっていて双子は彼の先妻との間の子だ。双子は母親が亡くなって一時的に高齢の祖父母に引き取られている。上院議員は次期国務長官と目されていてそのため、特にこの夏はスキャンダルは...勝手にベスト10①

  • 「語学の天才まで一億光年」

    「幻のアフリカ納豆を追え」が面白かったので高野秀行の新刊「語学の天才まで一億光年」(高野秀行著2022年9月集英社インターナショナル刊)を読みました。20代の著者が学んだ言語は英語、フランス語、リンガラ語、ボミタバ語、スペイン語、スワヒリ語、ポルトガル語、中国語、タイ語、シャン語、ワ語……もちろん日本に居てではない。そのエピソードがとにかく面白い。(声を出して笑ってしまいました)中学生の時考えた英語の勉強法は教科書の最初から最後まで動詞の頻出度を調べる→(英語では動詞が重要)(正の字を書いて数えているうちにレースの観客のような気分になり夢中になってベスト10を作っているうちにけっこう覚えてしまった)ベスト10が出来たら、テストをして知っている単語を外し下の順位から繰り上げていく→(時には相撲番付のように東...「語学の天才まで一億光年」

  • 「ネアンデルタール」 なぜ絶滅したの?

    真冬日が続いています。「ネアンデルタール」(サイクス著2022年10月筑摩書房刊)を読みました。寒いヨーロッパで毛皮を着て狩りをしているがっしりした体格の人たちというイメージが出来ているネアンデルタール最近では私たちにもネアンデルタールの遺伝子があると言われている。なぜ、ネアンデルタールは絶滅したのか?ホモ・サピエンスより劣る部分があったからだと言われてきたけれどそうなのか?ネアンデルタールの食は?衣は?住は?狩の仕方は?道具は?著者は◯◯年に発掘された◯◯遺跡では……と丁寧にひもといていく。現在分かっていることはネアンデルタールの分布範囲は広かったこと。気候が寒冷化している時も温暖化している時も生きていたこと。比較的大型の動物(マンモス、大型のシカ、ウマなど)を狩っていたけれど小型の動物も、ウミガメや貝...「ネアンデルタール」なぜ絶滅したの?

  • 「今日から始める本気の食糧備蓄」

    食料をストックしなくてはとは思っているのだけれどなかなか本気で取り組めない…そんなところにこの本に出会った。「今日から始める本気の食料備蓄」(高荷智也著2022年8月徳間書店刊)そうなのだ。ローリングストックがなかなか面倒なのだ。少量の缶詰をストックしているのだけれど賞味期限を見て古い順に使うというただそれだけのことも出来ないでいる。(賞味期限の表示が小さい)著者は提案する。本気でやっている人ほど面倒なんですよ。だからストック品を単体で捉えるのではなくて箱(コンテナ)に入れて箱単位で掌握すれば簡単ですよと。仕組みは◯複数の箱(袋でもいい)を準備する◯缶詰、レトルト食品、乾物、お菓子などを入れる。◯普段の生活でストックを食べ、1箱を食べ切る。◯空になった1箱分を補充する。(これで、この箱のものが一番新しいと...「今日から始める本気の食糧備蓄」

  • 「キリンのひづめヒトの指」

    冬の戸外でひとりキリンを解剖したシーンが記憶に残っている「キリン解剖記」の著者・軍司芽久さんの新著「キリンのひづめヒトの指」(2022年9月NHK出版刊)を読みました。キリンが大好きで解剖学者になって年に何体もの(動物園などで死んだ)キリンを解剖している著者が独特のフラットな語りで教えてくれる進化の話が面白い。ヒトの大腿骨が10度ほど傾いているおかげでヒトは片足を上げていてももう片方の足を真下についておくことができるのでふらつかないで歩くことができるとかキリンの脚のかくっと曲がっているところは実は膝ではなくてかかとで膝はもっと上の胴体に近いところにある。それは太腿が長いほど足全体が重くなりすばやく足を動かすのが大変になってしまうからだとか長さは違ってもキリンの首の骨とヒトの首の骨の数はどちらも7個だとか反...「キリンのひづめヒトの指」

  • 「無人島のふたり」 山本文緒 死までの日々

    「無人島のふたり」(山本文緒著2022年10月新潮社刊)を読みました。小鳥の来る窓辺という感じの表紙絵。水を飲む2羽の小鳥に木の実を運んで来る小鳥も。2羽の小鳥は無人島の2人の姿でだろうか。コロナの世の中でガンで余命4ヶ月と宣告された著者は夫と2人無人島に居るようだと思う。親しい編集者たち医者、看護師、ケアマネジャー、介護士……無人島を訪ねて来る人たちは多い。でも無人島なのだ。抗がん剤治療を断って緩和ケアを選んだけれどそれはこれまで読んだ小説にはない世界だった。カフェに行ったり家事をしたりもできる日と高熱と吐き気に苦しむ日が脈絡もなく来る。ずっと続く苦しみもつらいだろうがいつ来るかという不安もまたつらい。手記の最後の日付は10月4日亡くなったのは10月13日さっぱりとした書きぶりで読んで重い気分になること...「無人島のふたり」山本文緒死までの日々

  • 「日本史を暴く」 古文書発見記

    「日本史を暴く」(磯田道史著2022年11月中公新書)を読みました。怖い顔をした磯田さん(テレビでお馴染みなので、つい言ってしまう)裏、闇、暴くというほどではありません。新聞連載をまとめた軽い一冊。どの章にも〇〇で古文書を発見読んでみたら…とある。新聞を読むような速さで古文書が読めるという磯田さんでなくてはこんなに発見できないだろう。磯田さんは子どもの頃台風で大雨が降ると20km余りの道を自転車をこいで高松城のあたりが水浸しになっているのを見に行って秀吉による備中高松城の水攻めの情景を想像したという。磯田さんはよしながふみの「大奥」も読んでいて「社会の構成員の声をまんべんなく反映させるにはリーダーや会議メンバーに女性・若者が含まれていてその発言が尊重されていなければおかしい。でなければ、その集団は衰退する...「日本史を暴く」古文書発見記

  • 「編めば編むほどわたしはわたしになっていった」

    東日本の震災のあと出来た「気仙沼ニッティング」の製品(地域の人による手編みのセーターを販売)のデザインを担当したニットデザイナーの三國万里子さんのエッセー「編めば編むほどわたしはわたしになっていった」(三國万里子著2022年9月新潮社刊)を読みました。三國万里子という存在が好きです。表紙は最近人形の服作りに凝っているという三國さん作のセーターを着たロシアの作家の人形(ロシアは人形制作がさかんです)中学生のころ学校になじめずに外階段で時間を過ごしたりしょっちゅう早退したりしていたこと。息子さんはなかなか言葉を言わずひらがな積み木で意思表示をしていた。その後母音だけを発音するようになりずいぶん経って子音も言うようになったこと。(今では日本語ペラペラ)大学を卒業して仕事に馴染めずに秋田の山奥の温泉旅館で働いた日...「編めば編むほどわたしはわたしになっていった」

  • 「死に方がわからない」 現代終活事情

    「死に方がわからない」(門賀美央子著2022年9月双葉社刊)を読みました。物騒な題名ですが世に言う「終活」について調べたレポートです。著者は50才過ぎ配偶者、子どもはなく兄弟もいない。郷里にお母さんがひとりで暮らしている。親類ともあまり交流はない。フリーライターなので職場というものもない。そんな著者が(お母さん亡き後)自分のイメージした最後を実現すべく調べに調べたのがこの一冊。問いを立てその解をそれぞれ3つ以上。ここがすごい。人は、1つ解を得たらつい安心してしまうものなのに。問いは◯自宅でひとりで死んでいた場合、どうした早く発見されるか◯どうしたら希望しない(過剰な)治療をしないで死ねるか◯死後の住居やモノの整理はどうしたらいいか◯葬儀や埋葬はどうしたらいいかなどなど死んでしまったら仕方がないという丸投げ...「死に方がわからない」現代終活事情

  • 「小さなことばたちの辞書」 辞書編纂の物語

    まだ初雪は降っていません。「小さなことばたちの辞書」(ウィリアムズ著2022年10月小学館刊)を読みました。。幼くして母を亡くしたエズメは父が仕事をしている辞典の編纂室スクリプトリウムの大きな机の下で過ごすのが常だった。室長のマレー博士(実在の人物)はここで「オックスフォード英語大辞典」を編纂していた。壁には仕切りのある棚がありたくさんのカードが置かれている。国内のあちこちに住む協力者から送られて来たものも多かった。辞典にはことばの語釈だけでなく用例も記載される。その用例を集めることに協力者が必要なのだ。エズメを「育てている」のは父ばかりではない。マレー家の女中のリジー辞典編纂の協力者ディータ(実在の人物)父の仕事仲間の多くもエズメにやさしく接してくれていた。やがてエズメはスクリプトリウムで仕事をするよう...「小さなことばたちの辞書」辞書編纂の物語

  • 「川のほとりに立つ者は」 寺地はるなの新作

    昨日は霰が降りました。「川のほとりに立つ者は」(寺地はるな著2022年10月双葉社刊)を読みました。直立二足歩行の本を読んだばかりなのでこの本を読んでヒトの脳はなぜこれほど多様なのだろうと考えた。縄文時代も江戸時代もヒトの脳は多様だったのだろうか……カフェの雇われ店長をしている清瀬に登録していない番号から電話がかかって来る。恋人の松木が階段から落ちて意識不明の状態で病院に運ばれたという。一緒にいたのは松木の幼い頃からの友人樹(いつき)樹もまた意識不明だった。松木の部屋に行ってみるとホワイトボードや文字を練習したノートなどがあった。手紙の下書きもあった。天音という人に宛てた手紙だ。松木は誰に文字を教えていたのか?なぜそれを清瀬に隠していたのか……登場人物たちの脳の多様さが意識される。ディスレクシア(文字が書...「川のほとりに立つ者は」寺地はるなの新作

  • 「直立二足歩行の人類史」 人類を生き残らせた出来の悪い足

    「直立二足歩行の人類史人類を生き残らせた出来の悪い足」(デシルヴァ著2022年8月文藝春秋社刊)を読みました。立って歩くようになって手が自由に使えるようになったからヒトはここにいると言うけれどそう単純じゃないんだよと著者は言う。著者は考古学者で特に足の化石(足跡の化石も)を研究している。二足歩行をする生物は他にもいる。鳥恐竜の一部カンガルーだって立っている。ヒトは樹上から地上に降りて二足歩行になったという説があるけれどそうだろうか?木の上で既に立っていたかもしれないのだ。(立っている方がより高い枝の実を採れる?)問題は地上に降り立って時々は立っていたヒトがその時々から「常時」になったのはなぜかということなのだ。その答えはまだない。はっきりしているのは類人猿が手の甲をついて歩くナックルウォークから徐々に立ち...「直立二足歩行の人類史」人類を生き残らせた出来の悪い足

  • ザリガニの鳴くところ

    家にいる時間が長いので少し歯ごたえのあるものを読みたいと思って「ザリガニの鳴くところ」(オーエンズ著2020年3月早川書房刊)を読みました。と書いたのは2020年4月この作品が映画化されました。みるかどうか迷います。心を奪われた作品だったので自分の中にある「像」を壊したくない気持ち。みたい気もするけど……迷います、ほんとに。1969年の世界と1952年の世界が交互に語られ始める。1969年の方はミステリ。町でも人気者の青年・チェイスの死体が町外れの火の見櫓の下で発見される。事故なのか、殺人なのか……1952年の世界の主人公はカイア町の人々からは浮浪者の住む世界のように言われている沼地に住んでいる。縦横に川が流れ海に近く森にも近いたくさんの生き物たちが住むところ。ザリガニの鳴き声も聞こえるほど静かなところだ...ザリガニの鳴くところ

  • 「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」 本屋大賞ノンフィクション本大賞

    「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」(川内有緒著2021年9月集英社インターナショナル刊)本屋大賞ノンフィクション本大賞受賞!目が見えない白鳥さんは何か視覚障害者らしくないことをしたいと考えていた。大学生時代、ガールフレンドに誘われて美術館に行ったらとても楽しかったのでそれから方々の美術館に電話をして「視覚障害者なのだけれど、サポートの人をつけてもらえないか」と依頼してきた。初めは断られていたけれどだんだんに受け入れいてくれるところも増えて白鳥さんの趣味は美術鑑賞になった。そして今では美術鑑賞家になっている。視覚障害者なら手に職をと言われて資格を取ってマッサージ師をしていたけれど辞めて美術鑑賞家として立っている。「白鳥さんと作品を見ると、ほんとに楽しいよ」と友人のマイティに誘われて著者は白鳥さんと一...「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」本屋大賞ノンフィクション本大賞

  • 「マーダー・ミステリ・ブッククラブ」 手がかりが多すぎるミステリ

    この秋はミステリが豊作らしい。「マーダー・ミステリ・ブッククラブ」(ラーマー著2022年8月創元推理文庫)を読みました。お固いブッククラブにうんざりしたアリシアは同居する妹リネットの勧めで自分でブッククラブを立ち上げることにする。ミステリを読む読書会だ。新聞広告のメンバー募集に応募して来たのは古着店を営むクレア開業医のアンダース博物館の学芸員のペリー図書館員のミッシー専業主婦と名乗るバーバラところが2回目の読書会にバーバラが現れない。家族に問い合わせるとバーバラの行方が知れないという。ブッククラブのメンバーたちは読書そっちのけでにわか探偵をはじめることになる。それにしても手がかりが多すぎる。バーバラの家のキッチンの冷蔵庫に貼ってあったシェルターの電話番号乗り捨てられたバーバラの車車の中にあったアガサ・クリ...「マーダー・ミステリ・ブッククラブ」手がかりが多すぎるミステリ

  • 「喫茶の効用」 自宅喫茶も

    ぱらぱらととめくったら「お会計時に「いつもありがとうございます」などと言われてしまった日には……」と書いてあるではないか。そうそう、そうなんです(常連客扱いが苦手)ということで「喫茶の効用」(飯塚めり著2021年11月晶文社刊)を読んでみました。著者は喫茶店観察家。◯雨の日に気分を明るくしたい◯都会の真ん中で旅気分を味わいたい◯とにかくひとりになりたい◯朝から気分が上がりません◯悩みごとをちっぽけにしたい◯どっぷり読書につかりたいなどの項目で、喫茶店を紹介している。(イラストも著者)読めば東京に旅に出て喫茶店でひと休みした気分が味わえる。(旅本の効用と同じ)◯巣ごもり期間も心を動かしたいの項目ではコロナの中で、喫茶店を控えていた時に考え出したことが書かれている。家の中にカフェスペースを作って喫茶店からテイ...「喫茶の効用」自宅喫茶も

  • 「物語の役割」

    「物語の役割」(小川洋子著2007年2月ちくまプリマー新書)を読みました。講演を一冊にしたものです。語りでさえも静かだなぁ、この人は。取り上げられているのは「博士の愛した数式」と「リンデンバウム通りの双子」作品の発想が少しずつ広がっていく過程を語っている。「博士の愛した数式」ではさまざまの数学の本を読んで「友愛数」について知った著者の脳裏に「数学者が新聞広告の裏か何かに鉛筆で一所懸命それらの数字を書いて「君の誕生日と僕の腕時計に刻まれている文字は友愛の契りを結んだ特別な数なんだよ」と、家政婦さんに教える場面が浮かんできたのです」↓「そうすると、もう自然にその人物の声の感じとか立ち居振る舞いとか二人の関係が見えてくるわけです」のようにある一場面がまず浮かび上がってきてそこからいろいろなものが見えてくるという...「物語の役割」

  • 「窓辺の愛書家」 ミステリ

    ようやく庭の秋仕舞いを終えました。「窓辺の愛書家」(グリフィス著2022年8月創元推理文庫)を読みました。原題はThePostscriptMurdersPSは手紙に追伸と書くあれ窓から道を見下ろして通行人の記録をとる老婦人ペギー・スミスのイニシャルでもあるから「追伸殺人事件」でもあるし「ペギー・スミス殺人事件」でもある。(表紙にある)高齢者向け住宅・シービュー・コートに住む90代のペギーは窓辺の椅子に座ったまま死んでいた。部屋にはたくさんの本(ミステリ)が残されその多くにペギーへの献辞が記されていた。ペギーは何人ものミステリ作家に殺人のアイデアを提供していたのだ……ストーリが進むにつれて被害者は増え容疑者も増えていく。名前のある人物の中に犯人がいるという法則なのだからと思っても、覚えきれないほどに。(何度...「窓辺の愛書家」ミステリ

  • 「人口革命 アフリカ化する人類」

    書評で見かけた「人口革命アフリカ化する人類」(平野克己著2022年7月朝日新聞出版刊)を読みました。ヒトはアフリカを出て世界に広まったというけどそれがもう一度起こる?「子どもは何人欲しい?」と訊かれたとき日本では、たいていの人は1〜3人と答えるだろう。ところがアフリカではこれが8人、人によっては10人を超えることもある。どうして?アフリカでは、今、耕地を拡大している(開墾)ところだ。機械化があまりされていないアフリカでは子どもは生まれて数年たてば労働力になるから子どもはたくさんいればいるほどいいのだ。女の子は結婚することになれば(そんなに先のことではない)相手の家から婚資が支払われる。どちらも資産の拡大に結びつく。それが望む子供の数の多さに表れているのだ。アフリカというと不毛の地というイメージがあるけどそ...「人口革命アフリカ化する人類」

  • 「此の世の果ての殺人」

    「此の世の果ての殺人」(荒木あかね著2022年8月講談社刊)を読みました。第68回江戸川乱歩賞を受賞した著者のデビュー作です。あと2ヶ月で小惑星テロスが阿蘇に衝突する地球人々は南アメリカに逃げたりシェルターを求めて右往左往したりロケットでの地球脱出を計画する金持ちもいる。どこに逃げても大量の粉塵が対流圏に停滞し、太陽光を妨げて異常気象が起こる(キョウリュウの絶滅が起こったような)というのに九州の(!)自動車学校で教習を受けるハルと指導教官のイサガワ先生は自動車学校の教習車のトランクの中で滅多刺しにされた女性の死体を発見する……もうすぐほとんどの人が死んでしまう日が来るというのにイサガワ先生はこの殺人事件を捜査しようとする。イサガワ先生は自動車学校の教官になる前は警察官だったというのだ。ハルはイサガワ先生に...「此の世の果ての殺人」

  • 「物語のカギ 読むが10倍楽しくなる38のヒント」

    「物語のカギ「読む」が10倍楽しくなる38のヒント」(渡辺祐真著2022年8月笠間書院刊)を読みました。著者は書評系YouTuberという方だそうです。作業をするには適した道具があればそれに越したことはないということでたくさんの「道具」を読者に見せてくれる一冊です。全体に口調が柔らかくてとても読みやすい。「はっきり言います。作者の意図は正解じゃありません!!!!」という感じに。さらに文学史をさらりと付け加えています。「ついに1968年にロラン・バルトという人物が作品解釈に作者という存在を持ち込まない「作者の死」を宣言します」自分の主張も「読み方には大きく2つの潮流があります。第一は(アレゴリー的解釈)読者の生きる時代においてどのような意味があるかを重視する解釈。もう一方は(文献学的解釈)書かれた時代にどの...「物語のカギ読むが10倍楽しくなる38のヒント」

  • 「仕事でも、仕事じゃなくても 漫画とよしながふみ」

    「仕事でも、仕事じゃなくても漫画とよしながふみ」(よしながふみ語り2022年7月フィルムアート社刊)を読みました。2023年1月からドラマ「大奥」(NHK)が放送されるらしい。ひところ流行ったあのドロドロ系の「大奥」ではなくて女性が将軍という設定の漫画「大奥」を原作としたもの。その原作者のよしながふみに山本文子がインタビューしてまとめたのが本書。共働き家庭のひとりっ子だったよしながは小学生の頃からとにかく漫画を読んでいた。好きな漫画を描き続けるためには手に職をつけなくてはと弁護士になろうと決意大学の法学部に進んだ。よしながの漫画は個性的だ。それは「登場人物に寄り添う形で物語を作るタイプではなく作品に対して引きぎみな視点で作るタイプだからだと思います」と言っているように独特の視点を持っているからだろう。よし...「仕事でも、仕事じゃなくても漫画とよしながふみ」

  • 「若葉荘の暮らし」 ただのシェアハウスものではありません

    10月10日なのに雨(と言ってもいい日だと思う)「若葉荘の暮らし」(畑野智美著2022年9月小学館刊)を読みました。よくあるシェアハウスものかなと思ったら、これがちょっと違う。若葉荘は40才以上の独身女性しか入れないという条件付きのアパートなのだ。主人公のミチルは40才。小さな洋食屋のホール係のアルバイトとして生計を立てている。仕事が性に合っているし昼食と夕食が店のまかないでまかなえるので何とかやって来れた。ところがコロナの世の中になって店が時短営業になり収入が減ってしまったので部屋代の安い若葉荘に引っ越すことになったというのがはじまり。収入(正社員でない)住居将来の展望(結婚など)のどれ一つも確たるもののないミチル。ミチルは言う(けっこうよく語る主人公)「平均寿命を考えるとまだ折り返しにも達していない。...「若葉荘の暮らし」ただのシェアハウスものではありません

  • 萩尾望都がいる

    「萩尾望都がいる」(長山靖生著2022年7月光文社新書1212)著者は同時代の三大漫画家として萩尾望都、山岸涼子、大島弓子をあげている。リアルタイムでは大島弓子のファンであったので萩尾望都作品は振り返ってみるとこうであったのかと知らないことが多々たいへん興味深く読みました。論理的に分析しているというよりは熱烈なファンの書いたものというポジションでしょうか。(資料は多岐にわたっています)著者は言う。「人は孤独でなくては自由になれず孤独と自由を経験したうえでなければ真に自立することはできず本当に他者と向き合うことできない。この過酷で明快な真実を萩尾はこれから先繰り返し描いていくことになります」批判されるかもしれないことを覚悟の上でここまで萩尾熱を書き上げた著者に敬意を表したいと思います。最近大島由美子全集を手...萩尾望都がいる

  • 「優等生は探偵に向かない」 ミステリ

    「優等生は探偵に向かない」(ジャクソン著2022年7月東京創元社刊)を読みました。「自由研究には向かない殺人」の続編のミステリです。主人公のピッパが「自由研究」で解決した殺人は(この作品の)現在は裁判中だ。学校に行っているピッパは裁判を傍聴できないので前作で一緒に探偵をした(恋人の)ラヴィが傍聴に行ってピッパに報告してくれる。最初だけかなと思ったのにこの裁判は作中ずっと続き今回の事件にも関わってくるのが珍しい。前作で危険な目にあったピッパはあれはたまたまでもうそんなことはしないと両親に約束したのにある日、友人のコナーが駆け込んで来る。コナーの兄のジェイミーが行方不明になったというのだ。否応なくピッパは「探偵」役をすることになってしまう。否応なく?前作と違って事件を解決した高校生として有名になってポッドキャ...「優等生は探偵に向かない」ミステリ

  • 「映画を早送りで観る人たち」

    面白いと聞いたので「映画を早送りで観る人たち」(稲田豊史著2022年4月光文社新書)を読みました。本は飛ばし読みはしないけれど録画しておいたものを早送りでザッと見してしまうことはあるという立ち位置で読んでみた。こう思っていた→◎→こう思うようになったという構成が明快でとても読みやすい。「こう思っていた」はどうして早送り視聴をするのということだ。こう思う人は、まだまだたくさんいるだろう。しかし今は早送り視聴をしても大丈夫なような分かりやすい作品が求められている(からたくさんある)ので早送り視聴をしても大丈夫なのだという。「エヴァンゲリオン」の庵野秀明も「謎に包まれたものを喜ぶ人が少なくなってきている」と言っている。「全部説明したら観ている人の思考がそこで止まるから多少視聴者を置いていくくらいじゃないと」など...「映画を早送りで観る人たち」

  • 「独学の思考法」

    「独学の思考法地頭を鍛える考える技術」(山野弘樹著2022年3月講談社現代新書)を読みました。独学とは学ぶにあたって、先達者の指導を仰ぐことなく独力で目標をたてて習熟しようとする学習方法とある。イメージとしては部屋にこもって机に向かっている感じ。ところが出てこないぞ読んでも読んでも「独学」が。読んでいる間ずっとそう思っていた。でも、著者に罪はない副題にもある「考える技術」について一貫して書いているのだから。そこに今関心を持たれている「独学」という題をつけてしまったのが残念の源かなと。前半は原理編後半は応用編となっている。後半の「会話の技術」が面白い。①相手に問いを投げかけましょう。でも、文頭に力を入れてはいけません。例えば「どうして宿題をやっていないの?」の文頭に力を入れると詰問になってしまうけど力を入れ...「独学の思考法」

  • 「タネは旅する」 人類も広まったけれど植物も広まった

    庭にはもうキキョウだけ。「タネは旅する種子散布の巧みな植物」(中西弘樹著2022年6月八坂書房刊)を読みました。植物は動けないなんてとんでもない。植物のタネは海さえ渡る運ばせて。運んでくれるものは風水動物バネの力有名なのは風に乗って飛ぶタンポポのタネ海を漂うヤシの実という誰でも知っているところから上向きのカップ型の果実の中にタネをつくり雨滴がカップの中に入った時にその跳ね返りでタネを撒き散らすチャルメソウ(チャルメラから付いた名前)果実を動物に食べてもらうことで動物のフンに混じって地面に落ちるという戦略を持つ植物の中でも世界一大きな果実を持つバラミツ(バラミツは波羅蜜)果実は長さ90㎝、重さ50kgにもなる。人間の食用としても重宝されている。動物には食べてもらいたいけれどタネを齧って粉砕されては困るのでタ...「タネは旅する」人類も広まったけれど植物も広まった

  • 「水まきじいさんと図書館の王女さま」 児童ものミステリ

    「水まきじいさんと図書館の王女さま」(丸山正樹著2022年7月偕成社刊)を読みました。児童書です。手話通訳者を主人公にしたミステリ(シリーズ)を書いている丸山正樹が(「デフ・ヴォイス」「龍の耳を君に」「慟哭は聞こえない」「わたしのいないテーブルで」)シリーズ中に登場する子どもたちを主人公に初めて書いた児童書です。児童書には少ない現代ものミステリになっています。場面緘黙の少年・英知が美和のお母さんの結婚した相手アラチャンから手話を習うことになったので美和も一緒に習って学校帰りの二人の会話はこの頃では手話が多くなっている。アラチャンは耳の聞こえない両親のもとで育った聞こえるひと(コーダ)で手話通訳士をしている。そんな4年生の二人が出会った謎が描かれる。ぽこぽこと現れる謎は4つも!日常は謎に満ちているのだ。草一...「水まきじいさんと図書館の王女さま」児童ものミステリ

  • 「失われた世界への時間旅行」 石器時代にタイムトラベル

    「13歳からの考古学」シリーズの第1巻「失われた世界への時間旅行」(堤隆著2019年7月新泉社刊)を読みました。中学一年生のハヤトがスマホの画面に現れた「石器時代への招待」についついログインしてしまい石器時代にタイムトラベルをする話。といっても「戻る」ボタンがあるのでハヤトは母親と2人暮らしの現代と石器時代を自由に行き来出来る。行った先でハヤトはさまざまの体験をする。毛皮を貼った小舟をヘトヘトになるまで漕いで島に渡って黒曜石を採集したり土器を作ったり石で毛皮の脂をこそげ取ってなめすところを見たり(どちらも女の仕事とされている)鮭を獲って干し魚を作ったり食べ物がなくて飢えたりマイギリ法で火をおこしたり……現代に戻って来て考古学者たちと知り合いになるとハヤトは知識の深さに驚かれるがなんと言ってもそこは体験した...「失われた世界への時間旅行」石器時代にタイムトラベル

  • 「なんで洞窟に壁画を描いたの?」 物語仕立て

    「13歳からの考古学」シリーズの第2巻「なんで洞窟に壁画を描いたの?」(五十嵐ジャンヌ著2021年1月新泉社刊)を読みました。中学校1年生の理乃は元世界史教師の祖父と上野で開かれた「ラスコー展」を見に行って強く興味を持った。話はトントン拍子に進み祖父のキシローじいちゃんと理乃はキシローじいちゃんの教え子で研究者のタバタさんの案内でラスコー洞窟を見にフランスに行くことになる。とここまでは夢のような話なのだけれどド・ゴール空港に到着してからはなかなかリアル。(ラスコーの壁画のことはよく考えてみると何も知らない)理乃は現地に行って本物の洞窟はもう立ち入り禁止なので近くに洞窟と壁画がそっくり再現されているとかそれをラスコー4と言うとかラスコー4の外には現代風の建物があってそこから入るとかラスコーには複数の洞窟があ...「なんで洞窟に壁画を描いたの?」物語仕立て

  • 「なんで信長はお城を建てたの?」 物語仕立て

    13歳からの考古学シリーズ「なんで信長はお城を建てたの?」(畑中英ニ著2022年5月新泉社刊)を読みました。児童向け。物語仕立てで「お城」について語っている一冊です。京都に住む中学1年のホタカがひとりで電車に乗って安土城を訪れるところから物語ははじまる。歴史好きのお父さんに連れられてあちこちの城や旧跡に行ったことはあるけれど一人で行くのははじめてだ。はじめての一人旅の目的地は信長の安土城。山の上にある安土城にひいひい言いながら登って自分なりにあちこち見てはみたものの家に帰ってお父さんと話してみると見落とした所がたくさんあったと知ってホタカはがっかりする。なぜお父さんは事前に教えてくれなかったのか?(そこがお父さんの作戦だった)次に行ったのは姫路城。駅にはガイドを自称する人が待っていてホタカを案内してくれた...「なんで信長はお城を建てたの?」物語仕立て

  • 「線と管をつながない好文×全作の小屋づくり」

    「線と管をつながない好文×全作の小屋づくり」(中村好文、吉田全作著2022年7月PHP研究所刊)を読みました。建築家の中村好文さんが「線と管をつながない家」を作ったことを書いた本を読んで牛師(うし牛飼いのこと)の吉田全作さんは「線と管をつながない」小屋を好文さんに依頼しようと考えた。線は電気管は水道つまり、電気も水道も引かない家ということだ。沢水を飲んでランプの灯りと囲炉裏の火で煮炊きして暮らすというような昔風の暮らしではなく冷蔵庫もある現代の暮らしをするというところが興味深い。まず電気は風力発電と太陽光発電を比べた結果設備費の安さから太陽光発電に決定。屋根の上にソーラーパネルを敷き詰めそれを鉛バッテリーに蓄電するという仕組み。水は雨水を樋から集め、ドイツ製のステンレスフィルターを通して濾過し地下の水タン...「線と管をつながない好文×全作の小屋づくり」

  • 「サウンド・ポスト」 子どもを「窓」として

    残暑。「サウンド・ポスト」(岩城けい著2022年7月筑摩書房刊)を読みました。サウンド・ポストとはバイオリンなどの楽器の内部にある支柱のこと。オーストラリア。日本料理店の調理人・崇はフランス人の妻エリースを亡くし3才の娘メグ(メグミ)と残される。メグは友だちがバイオリンの稽古をしているのを見て(ノコギリを引くような音だったのに)バイオリンに魅せられる。崇の働く日本料理店を経営する瑛二は自分の姉の経験から「音楽は金がかかるからやめろ」と止めるが崇はメグの望みを叶えることを決める。バイオリンとともに歩むメグの成長譚と読むことが出来るがメグという窓から外の世界とつながる崇の物語とも読める。(だからサウンド・ポスト?)メグのレッスンに付き添って先生の言葉をメモする。(ことによって崇の音楽に対する知識も耳も豊かにな...「サウンド・ポスト」子どもを「窓」として

  • 「ホール ブレイン 脳の動かし方」 脳を半分しか使えなかった学者の書いた本

    「WholeBrain(脳の全部)脳の動かし方」(ジル・ボルト・テイラー著2022年6月NHK出版刊)を読みました。前著「奇跡の脳脳科学者の脳が壊れたとき」がとてもよかったのでこちらも読んでみました。何といっても著者は左脳脳出血によって右脳しか使えなかったという貴重な体験を持つ脳科学者なのだ。(8年後に回復)統合失調症の兄を持つ著者は幼い頃から、兄と自分の感じ方に違いがあることを感じていた。それで脳を研究するようになった。左脳脳出血になって、左脳が停止した瞬間ものすごい幸福感が著者に押し寄せた。(でも、助けを求める電話を掛けるのは大変だった)この幸福感は何?というところから研究が始まった。右脳型、左脳型性格とか言われるけれど右脳だけ、左脳だけが働くということはないのだ。著者は脳を4つに分けた。右脳1、右脳...「ホールブレイン脳の動かし方」脳を半分しか使えなかった学者の書いた本

  • 「揺籃(ようらん)の都」 時代ものミステリ

    ツルボが咲いています。「蝶として死す」の羽生飛鳥の2作目「揺籃の都」(羽生飛鳥著2022年6月東京創元社刊)を読みました。時代ものミステリとしてはめずらしい平家の時代が舞台です。前作と同じく探偵役は平頼盛(平清盛の父忠盛と正室・池禅尼の子清盛とは15才離れている)清盛が旅から帰った日福原(遷都後)の清盛の館に偶然頼盛、清盛の子息・宗盛、知盛、重衡が集まった。その夜は雪。いくつもの事件が起こる。頼盛の追っていた青侍の遺体が切り刻まれた状態で塀の外に散らばっていた。厩では清盛のペットの猿が殴り殺されていた。清盛の枕元にあった刀が紛失した。厳島神社の巫女の小内侍という少女が「神」を見たと言う。その小内侍は清盛の書で封印された祈祷所の中から消え逆さ釣りにされた姿で発見される。屋敷内の多くの人が巨大な鳥が飛ぶのを見...「揺籃(ようらん)の都」時代ものミステリ

  • 「夏休みの空欄探し」 謎解き+ミステリ

    「夏休みの空欄探し」(似鳥鶏著2022年6月ポプラ社刊)を読みました。シンデレラ・ストーリーです。学級カーストの最下層にいる主人公・成田頼伸(ライ)が好きなのは謎解き。クイズ研究会の部長をしている。といっても部員は2人だけ。学級の人気者・成田清春(キヨ)と同じ姓なので「じゃない方」と言われている。夏休みのある日ライはふと入ったカフェの隣の席で2人の少女が謎解きをしているのを聞きつける。謎が解けたライはついレシートに答えを書いて置いてきてしまう。すると何と2人の少女が追いかけて来て謎解きを手伝って欲しいと言うのだ。大学2年の姉の雨音と高校1年の妹の七輝は古本屋の本に挟まれていた「ある資産家が出題した一連の謎」を解くのを手伝って欲しいと言う。偶然現れたキヨも謎解きのメンバーに加わることになる。ライの夏休みは一...「夏休みの空欄探し」謎解き+ミステリ

  • 「あきない世傳 金と銀 13」 完結編です

    「あきない世傳金と銀13大海篇」(髙田郁著2022年8月角川春樹事務所刊)を読みました。両親と兄を失い妹に離反され3人の夫を失った主人公の幸第1巻では少女だった幸も40を過ぎている。今回もさまざまな苦難が押し寄せる。最初は(ドラマや映画にもなっ)「みをつくし料理帖」シリーズには及ばないなぁと思っていたけれどこのシリーズのスケールの大きさにだんだん惹かれて行った。アイデァを駆使して呉服屋の商品を生み出すところが読みどころと思っていたけれどそればかりではない。そのアイディアを自分の店ばかりではなく同業者組合全体で取り扱う。それが火災による被害を経て町内の他の業者とも協働してキャンペーンを張るというところまで広がるところがすごい。大阪に奉公に出た身寄りのない少女がここまでのスケールを持つとは……(著者は、最初か...「あきない世傳金と銀13」完結編です

  • 「本屋という仕事」 多角的にとらえている

    「本屋という仕事」(三砂慶明著2020年6月世界思想社刊)を読みました。本屋が減っているそうです。個人的にも最近はもっぱら借読(カリドク)買うときは、一度読んだものを応援消費として買っているので(出版社への)強く「本屋」というものを意識したことはなかった。本書は、本屋の存続を◯火を熾す◯薪をくべる◯火を焚き続けるためにという3つの章に分けて書いている。(著者は各地の書店経営者、書店員」そうなのだ。はじめることよりも続けることが難しいのだ。本を差別していないか…ハード系のパンを好む人がスーパーの菓子パンを見下すようにと思うことが時々ある。沖縄の市場に古本屋を開いている宇田智子さんは「そもそも哲学書とダイエット本のどちらが立派だとかいうことはない。読むことで新しい知見が得られたり自分の動きが変わったりして心身...「本屋という仕事」多角的にとらえている

  • 「凍る草原に鐘は鳴る」 この世の中が変わったら…

    「凍る草原に鐘は鳴る」(天城光琴著2022年7月文藝春秋社刊)を読みました。災厄の起こった世界……コロナが蔓延している世界を下敷きに書いているような作品です。主人公マーラは生き絵司という仕事をしている。羊を飼って季節ごとに移り住む暮らしをしているアゴール族は草原に額を立ててその中で演じられる演劇・生き絵を娯楽として芸術として楽しんで来た。その生き絵の演出をするのが生き絵師あまたの生き絵師の中で最上の位に位置し族長たちの集う会議の時に披露する役目を担うのが生き絵司なのだ。マーラたちはある日突然、全員が「動くものが見えなくなる」病に罹ってしまう。静止しているものは見えるけれど話している口、瞬きしている目、動かした手が消えてしまう。飼っている羊も見えない。マーラの演出した生き絵を見た族長たちは表情も動きも見えな...「凍る草原に鐘は鳴る」この世の中が変わったら…

  • 「お金」で読む日本史

    「「お金」で読む日本史」(本郷和人監修BSフジ「この歴史おいくら?」制作班編集祥伝社新書2022年7月刊)を読みました。「私が青年であった頃はお金のことを云々するのは恥ずかしいという風潮が明らかにあった。しかし、最近の学生を見ているとお金を稼ぐ=素晴らしいという図式が、すっかり定着している」(本郷)確かに、先立つものがなくては大きな志も実現できないだろう。あの歴史を動かした事件には、いったいいくらのお金が必要だったのか?本書では源頼朝武田信玄忠臣蔵徳川吉宗河井継之助勝海舟が取り上げられている。お金の話なのに(偏見?)感動的なのは河井継之助の章と勝海舟の章旗本だった勝海舟は23才で結婚すると蘭学者永井青崖に学ぶため近くに引っ越すが父、病気の母、妹、妻、娘、下人の7人が俸禄41石(年収400万ほど)で暮らして...「お金」で読む日本史

  • 「言語学バーリ・トゥード」 なるほどねぇ

    面白いと聞いたので「言語学バーリ・トゥード」(川添愛著2021年7月東京大学出版会刊)を読みました。バーリ・トゥード(ポルトガル語で「何でもあり」を意味し、20世紀においてブラジルで人気を博すようになった、最小限のルールのみに従って素手で戦う格闘技の名称)日ごろ何となく思っていたことが(表紙に登場する人たちを例に)スパッと語り解かれるので爽快。言語学といってもお堅い話ではありません。中でもこれはと思ったのは第8章「たったひとつの冴えたAnswer」出てくる人はGLAYのTERUと氷室京介。(会話における反射神経が低いので「あ、今、違った意味にとられたなぁ」と思った時には、もう会話はかなり先へ流れて行ってしまってあああ、と思いながら呆然と流れを見ているというのがいつも。この章にあるように、リアクションに困っ...「言語学バーリ・トゥード」なるほどねぇ

  • 「臼月トウコは援護りたい」 援護になっていないけど

    裏庭にネジバナが一本咲いています。葉の段階でとってしまわないことが秘訣なのですがこれが難しい。「臼月(うすづき)トウコは援護(まも)りたい」(そえだ信著2022年6月早川書房刊)を読みました。ミステリです。中年の刑事・笠置が遭遇する事件でなぜか出会うおかっぱ頭で眼鏡をかけた若い女以前にも会ったような気がする……その臼月トウコの決まり文句「〇〇さんは犯人じゃない、です。証明できる、です」ところが、なぜかその証言が逆に決定的な証拠になってしまう。本当に援護りたいの?ある時はゲーム会社のアルバイトある時は漫画家のアシスタントある時はファミレスの店員……姿は変わっても言う言葉は同じ。「〇〇さんは犯人じゃない、です。証明できる、です」犯人たちは思う。(この女さえいなければ……)水戸黄門や刑事コロンボのパターン。でも...「臼月トウコは援護りたい」援護になっていないけど

  • 「ボンベイのシャーロック」 ロマンチック・ミステリ

    「ボンベイのシャーロック」(マーチ著2022年5月早川書房刊)を読みました。ポンペイではなくインドのボンベイが舞台。ホームズ要素多めの「辮髪のシャーロック・ホームズ」と違ってこちらはホームズ要素は少なめ。ロマンス要素多めです。負傷して入院中に友人の差し入れてくれたホームズものを読んだジム・アグニホトリは新聞の「2人を失っても、私は生きつづけるのですから」という一文に心惹かれて図書館の時計塔から2人の女性が転落死した事件を調べてみたいと思うようになる。名も知らぬイギリス人の父とインド人の母の間に生まれ孤児院で育ったジム。軍隊を退役し依るもののない今青年の「生き続けるのですから」という言葉に共感したのだ。ジムは青年を訪ねて捜査させてくれるよう申し出る。青年は裕福なパールシー(ボンベイに多く住むゾロアスター教徒...「ボンベイのシャーロック」ロマンチック・ミステリ

  • 「水曜日は働かない」 東京オリンピックといだてん

    「水曜日は働かない」(宇野常寛著2022年5月集英社刊)を読みました。(今朝の新聞の記事に週休3日があった)本書、水曜日は働かない会社を作った話かなと思ったら違いました。著者は(テレビにも出ている人(評論家)らしいのですが存じ上げません)仕事が終わったら夜に遊ぶという生活を変えて朝起きたら、走って午前中執筆をして午後には事務的な仕事をして人と会うのは夕方というやり方に変えた。そして、週末と水曜日には休んでいる。それはさておき東京オリンピックとドラマ「いだてん」について書いている章が面白かった。(「寅さん」「トットちゃん」についても書いている)著者は東京オリンピック反対派。何と、ただ反対するのではなく建設的な反対をしようと考えて対案を作ってしまった。それは、テレビに縛られているオリンピックをやめてインターネ...「水曜日は働かない」東京オリンピックといだてん

  • 「カレーの時間」 寺地はるなの新作

    「カレーの時間」(寺地はるな著2022年6月実業之日本社刊)を読みました。う〜んこのピースで組み立てる?というものを集めて一作を組み立ててみせる著者決して性格がいいとはいえない高齢の祖父(3人の娘ともうまくいっていない)女性蔑視ゴミ屋敷そしてレトルトカレーう〜んレトルトカレー……主人公の桐矢はよんどころなく祖父と暮らすことになる。祖父が自分の3人の娘とも3人の孫娘とも暮らしたくないと言ったからだ。唯一の男の孫である三女の子桐矢だったらと祖父は言う。祖母と離婚している祖父はひとり暮らしなのだ。かくしてはっきり言えない男桐矢と祖父の物語が交互に語られる。親を亡くし親戚の家をたらい回しにされいつも腹を空かせていた子どもだった祖父カレー会社に勤めてレトルトカレーの売り上げを伸ばすことに心血を注いでいた祖父こころの...「カレーの時間」寺地はるなの新作

  • 「ニューロダイバーシティの教科書」 脳の多様性

    「ニューロダイバーシティの教科書」(村中直人著2020年12月金子書房刊)を読みました。ニューロダイバーシティ=脳の多様性のことについて書いています。コロナで「教室で集団で受ける」授業でなくなってずいぶん楽になった人たちがいたという。教室スタイルが脳の個性に合っていなかったらしい。たぶん逆にそのスタイルが合わなかった人もいただろう。脳、つまり学び方には個性があるのだから。小学校6年生の時、担任の先生がこのグループは図書館に行って好きなテーマを調べていいよと言った時の嬉しさといったら…(今ならそんな授業は珍しくもないけれど)著者は脳の個性が一般的ではないからといってそれを障害と言うのはいかがなのもかと言っている。障害ではなくて文化の違いと似たようなものなのだ、と。ちょうど自分の家に日本と全く文化の違う人がホ...「ニューロダイバーシティの教科書」脳の多様性

  • 「本が語ること 語らせること」 青木夫妻の読書案内

    「本が語ること語らせること」(青木海青子著2022年5月夕書房刊)を読みました。「奈良県東吉野村に借りた築70年の平家で「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」を開いて6年が経ちました」とはじまる本書は司書の青木海青子さんのエッセーと寄せられた「相談」に対する答えとオススメの本で構成されています。海青子さんの文章はとても静かです。村の林の奥にある図書館の空気感がある。「窓を持つ」という章には「本棚は私にとってたくさんのすばらしい窓のついた壁でした。その向こう側にはめくるめく世界が広がっていていつかはその場所にたどり着けるかもしれないと思うと何度でも心に明かりが灯るのを感じました。もしあなたが今いる状況をしんどいと感じているならぜひ心に窓を持ってみてほししいです」「待つのが好き」には「雨音が屋根を弾き出したしもう...「本が語ること語らせること」青木夫妻の読書案内

  • 「辮髪(べんぱつ)のシャーロック・ホームズ」 翻訳ミステリ

    キキョウの花が咲いています。「辮髪のシャーロック・ホームズ神探福邇(フー・アル)の事件簿」(莫理斯・トレヴァー・モリス著2022年4月文藝春秋刊)を読みました。中国ではシャーロック・ホームズは福爾摩斯と書くそうです。その爾を邇にしたのが主人公福邇(フー・アル)ワトスンは華笙(ホア・ション)舞台は香港2人は生年も本物と同じに設定されています。連作短編集です。ホームズもので楽しいのは謎解きはもちろんだけれどホームズが来客のあれやこれやを「当てる」ところ。期待に違わずこれがたっぷり。「孟さん、あなたはスコットランド人でオックスフォード大学で理雅閣教授に中国語を学びましたね。先に学んだのは北京官話で広東語を学んだのはその後でしょう?」といった調子。フー・アルは言語から法律、政治、科学にも造詣が深く武術に巧みで戦闘...「辮髪(べんぱつ)のシャーロック・ホームズ」翻訳ミステリ

  • 「目で見ることばで話をさせて」 ろうの少女が主人公の物語

    「目で見ることばで話をさせて」(レゾット著2022年4月岩波書店刊)を読みました。ろうの著者が書いたろうの少女が主人公の物語です。11才のメアリーの住むヴィンヤード島(アメリカ)にはろう者が多い。(この島は実際にろう者が多い島として知られている)メアリーのお母さんと兄さんは聴こえる人だけれどお父さんとメアリーは聴こえない人だ。いつも面白い話を(手話で)語ってくれる老船乗りのエズラも聴こえない人だ。村の人たちは、聴こえる人も聴こえない人もみな手話を使って話をする。メアリーにとってはみんなが手話を使うのは当たり前のことなのだ。父さんは聴こえなくても牧羊場を立派に経営している。主婦になるために家の仕事の練習をするよりもメアリーは外に行くのが好きだ。そして、物語を書くのが好きだ。そんなヴィンヤード島に「なぜ、ろう...「目で見ることばで話をさせて」ろうの少女が主人公の物語

  • 「13歳からの地政学」 児童書とあなどれない

    「13歳からの地政学カイゾクとの地球儀航海」(田中孝幸著2022年3月東洋経済新報社刊)を読みました。地政学…国際政治を考察するにあたって、地理的条件を重視する学問だそうです。高校生1年生の大樹と妹で中学1年生の杏はある日、骨董屋のウインドウで古い地球儀を見て心動かされる。店主のカイゾクは7日間の講義を受けてその後の試験に合格した方にこの地球儀を与えるという。2人は、店に通ってカイゾクの講義を受けることになる。その講義録という形で地政学が語られる。杏が13歳なので「13歳からの」となっているけれどいやいや知らなかったことばかりで自分の無知さ加減が恥ずかしくなるばかり。中国が東シナ海を欲しがる理由は?中国は核ミサイルは持っている。それを積んで海底から発射できる原子力潜水艦も持っている。でも、それを隠しておく...「13歳からの地政学」児童書とあなどれない

  • 「気候変動と日本人20万年史」 歴史の分量多め

    「気候変動と日本人20万年史」(川幡穂高著2022年4月岩波書店刊)を読みました。陸奥湾の真ん中で調査と聞けば読んでみずにはいられません。加えて三内丸山の分量も多め。◯地球上のヒトの数はおよそ78億なのに遺伝子が均一過ぎるのは一時期絶滅寸前にまで追い詰められたからだ。◯温暖だった縄文中期に三内丸山は大繁栄した。三内丸山が巨大化したのはクリの半栽培を考え出した天才縄文人がいたからだと考えられる。ところが4200年前に寒冷化したため(4200年前イベント)人々は三内丸山を放棄して分散して暮らすようになった。(人口は減少していない)◯エジプト古王国は乾燥によりナイル川の水位が異常に低下したため作物が採れず飢餓に見舞われ4200年前に崩壊した。◯ペルシャ湾岸のウンム・アンナール文化は乾燥化により崩壊した。◯アッカ...「気候変動と日本人20万年史」歴史の分量多め

  • 「リリアンと燃える双子の終わらない夏」

    「リリアンと燃える双子の終わらない夏」(ウィルソン著2022年6月集英社刊)を読みました。心が燃える…などという比喩があるけれど10才になる双子のベッシーとローランドは本当に燃えるのだ。服が燃え側にある椅子が燃え…でも、双子の体には火傷ひとつできない。タイトルにあるリリアンは28才。スーパーの店員をしている。年に何回か手紙のやり取りをしている学校時代からの友人マディソンから頼まれてひと夏双子の面倒を見ることになった物語。マディソンは今では上院議員の妻になっていて双子は彼の先妻との間の子だ。双子は母親が亡くなって一時的に高齢の祖父母に引き取られている。上院議員は次期国務長官と目されていてそのため、特にこの夏はスキャンダルはご法度なのだ燃える子どもがいるなんていう。この世界の「邪魔者」であることを自覚している...「リリアンと燃える双子の終わらない夏」

  • 「ハレム」 あやしいものではありません

    「ハレム女官と宦官たちの世界」(小笠原弘幸著2022年3月新潮選書)を読みました。真面目な研究書です。ハレムというところは、緻密な記録が残っているそれがこの頃になってデータ化され誰でも見ることができるようになって、研究が一気に進んだということでこの本が出版されたという。ハレムはご存知のように閉鎖された空間なのだけれどハレムで働いていたのはオスマン帝国の出身者ではなかった。多くは外国の人だった。船で移動中に海賊に拉致されて奴隷になった人戦争で負けて捕虜になって奴隷になった人ヨーロッパから連れて来られた人アフリカから連れて来られた人モンゴルの国の人……学国の人に囲まれた暮らし(日本の大奥とはだいぶ違う)中には王の妃になって、王母になった奴隷もいたという。ハレムには唖者もいた。王よりも大きな声を出すことは禁じら...「ハレム」あやしいものではありません

  • 「明日のフリル」

    「明日のフリル」(松澤くれは著2022年2月光文社刊)を読みました。洋服が好きなので洋服モノと聞いて手に取りました。洋服モノといってもこれは作る人が主人公ではなくて売る人の話というのがめずらしい。大好きなブランド・フラットフラワーの売り手をしているあやめは仕事に行き詰まっていたある日上野公園の中にあるホワイトキューブのようなショップ「あなたのクローゼット」でブランドYou&MIEのデザイナー梓振流(あずさふりる)と出会う。とここまででもカタカナ語の多さにへきえきするけれどこの作品のカタカナ語の多いことと言ったら…著者が洋服好きというだけあってあやめが振流のデザインした服に初めて出会う場面「背骨に絡まるようにガーベラが伸びて胸骨の隙間からミモザが顔を覗かせて尾てい骨を囲むようにキキョウが茂って頭蓋骨の中でア...「明日のフリル」

  • 「水中考古学」

    「水中考古学」(佐々木ランディ著2022年2月エクスナレッジ刊)を読みました。副題が「地球最後のフロンティア」「海に眠る遺跡が塗り替える世界と日本の歴史」帯には「溺れるほど面白い」と、まぁ盛りだくさん水中考古学というのは何を対象にしているの?と思ったらそれが多種多様沈没船だったり水に沈んだ町だったり遺物だったり遺物にしても土器から銅線、焼きものなどなどさまざまこれを一冊にまとめるのは、さぞ大変だったことだろうと思う。興味深く読んだのは日本の水中遺跡の章完全な形の縄文時代の土器が発掘された葛籠尾崎(つづらおざき)遺跡(琵琶湖)江刺港の海中に眠る開陽丸幕府の船だったが榎本武揚が奪って北海道に向かった。しかし、嵐にあって難破→沈没戊辰戦争の趨勢を決するきかっけの一つだった。3万点の遺物が引き上げられたが船体は銅...「水中考古学」

  • 「気候適応の日本史」

    「気候適応の日本史」(中塚武著2022年3月吉川弘文館刊)を読みました。歴史上の出来事と気候は関係があるらしいとはうっすら分かっていたけれどそれをさらに深掘りしているのが本書。温暖だった縄文時代食糧が得やすくなって人口が増え三内丸山のような大集落が出来た。(大集落の人口を養うほどの食糧が得られた)生活の余裕は大きな建造物を作ることにも向けられた。ところが気候が寒冷化して食糧は思うように手に入らなくなり集落は小さくなり分散していった。弥生時代稲作が朝鮮半島から伝わって来たと習ったけれどどうして稲作を朝鮮半島の人は日本に伝えたのか?(自分達だけでこっそり作っていればよかったのに)それは気候が寒冷化したので朝鮮半島での稲作が難しくなり温暖な土地を求めて「人びと」が九州にやって来たからなのだ。古墳時代どうしてあん...「気候適応の日本史」

  • 「香君」 上橋菜穂子の新作

    「香君」(上下巻)(上橋菜穂子著2022年3月文藝春秋社刊)を読みました。植物のことを書きたいと思っていたという著者が植物の声を聴くことのできる少女を主人公に描いたファンタジーです。ウマール帝国はオアレ稲によって発展してきた。水田ばかりではなく陸稲としても栽培でき冷害にも干害にも強く連作障害もなく、雑草取りの必要もなく、虫もつかない。薄焼き、飯、餅としても食べられ、食べた人は体が丈夫になる…帝国の人口はあっという間に増えた。ただ、オアレ稲の周りには、他の作物は作れない。そして種籾も肥料も、帝国から配付されるものしか使えないのだ。一つの作物だけに依存する生活を密かに危惧する人々がいた。その一人視察官マシュウは帝国の西で殺されようとしていた少女アイシャの命を助ける。特異な嗅覚を持つアイシャをマシュウは都の香君...「香君」上橋菜穂子の新作

  • 「母の待つ里」 一泊50万円のふるさと

    「母の待つ里」(浅田次郎著2022年1月新潮社刊)を読みました。「母」「里」う〜んそしてクラッシクな表紙絵、う〜んまあ、でも、それで終わるわけがないし…この作家ならと思って読み始めました。60才になったばかりの3人の登場人物大手食品会社の社長の松永徹(ここまで独身を通した)薬品会社を退職したばかりの室田精一(退職を機に妻に離婚を切り出されてひとり暮らし)循環器の医者の古賀夏生(ナツオ)(母を亡くしてひとり暮らし)共通点は年会費35万円のカードの会員だということだ。そして、それぞれにアメリカのユナイテッド・ホームタウン・サービス(帰郷)の日本版のゲストになっている。ゲストとは…東北新幹線と在来線を乗り継いでさらにバスで40分あまり。バスを降りると軽トラに乗った「同級生」が声をかけて来る。この辺りも様子が変わったか...「母の待つ里」一泊50万円のふるさと

  • 「ラブカは静かに弓を持つ」

    「ラブカは静かに弓を持つ」(安壇美緒著2022年5月集英社刊)を読みました。「天龍院亜希子の日記」「金木犀とメテオラ」と独特なタイトルの付け方についつい手に取ってしまう安壇美緒今回もついつい。(ラブカというのは水深1,000m近くの深海に生息している深海魚。体長は2m3億5,000万年前から生息していたので生きた化石とも言われる)全日本音楽著作権連盟に勤める橘樹(いつき)は上司の命で大手音楽会社ミカサの音楽教室に生徒として潜入調査をすることになる。ミカサと著作権連盟の間では裁判が行われようとしていた。音楽教室で使われている楽曲から著作権料を徴収できるかどうかという問題だ。樹は、子供の頃チェロを習っていたことがあるのだ。毎回チェロのレッスンの様子をペン型マイクに録音しあえてポピュラー曲を選んでレッスンしてもらう樹...「ラブカは静かに弓を持つ」

  • 「ライトニング・メアリ」 イクチオサウルスを発掘した少女

    庭はツリガネスイセンが終わってシレネの季節「ライトニング・メアリ竜を発掘した少女」(シモンズ著2022年2月岩波書店刊)児童書です。映画にもなったメアリ・アニングの少女時代が描かれます。1才半の時、雷に打たれていっしょにいた人たちはみな死んでしまったのに1人助かったメアリは父親からライトニング(稲妻)メアリと呼ばれる。その名のとおり、メアリは稲妻だ。大人にもズバズバとものを言うし頑固で、一度こうと思ったら決して引かない。メアリの家は貧しい。(某朝ドラでの貧乏の描き方がリアルじゃないと言われているけれどここでは胸が痛くなるほどの貧しい生活が描かれる)父さんは家具職人をしながら海辺でめずらしい石(化石)を拾って避暑客に売っているが生活は楽ではない。父さんは、化石探しの名人なのだけれど。(化石にはラベルが貼ってあるわ...「ライトニング・メアリ」イクチオサウルスを発掘した少女

  • 「喜べ、幸いなる魂よ」

    「喜べ、幸いなる魂よ」(佐藤亜紀著2022年3月角川書店刊)を読みました。18世紀のヨーロッパを舞台にした作品です。亜麻糸商人の家に生まれたふたごの姉弟ヤネケとテオは父の商売仲間の遺児ヤンと兄弟のように育てられる。優秀だったテオは長じて進学し(実はヤネケはもっと優秀)家にはヤネケとヤンが残る。ヤネケは独学で身に付けた数学の成果をテオの指導教授に送り返事を貰っては学びを深めて行く。と同時にヤネケはテオとの間に子どもをもうける。秘密裏に子どもを産むために家から出されたヤネケは出産後、家には戻らず(母親も、ヤンも結婚を望んだが)子どもを、秘密の出産でできた子どもを育てる家に預けてペギン会という修道会に入って暮らすようになる。信仰があったわけではない。好きな学問を続けるための手だてだった。ペギン会では女たちは教会の周り...「喜べ、幸いなる魂よ」

  • 「図書室のはこぶね」

    「図書室のはこぶね」(名取佐和子著2022年3月実業之日本社刊)を読みました。タイトルに「図書室」とか「図書館」とあるとついつい手に取ってしまいます。学園ものミステリです。体育祭が近いある日友達から図書委員のピンチヒッターを頼まれた百瀬花音は入学して初めて図書室に足を踏み入れた。バレー部の部活動に忙しかった百瀬は3年の今まで、図書室に縁がなかったのだ。でも、足を怪我してしまったので体育祭に出場することはおろか準備に関わることさえもできない。そんな百瀬にとって、図書委員のピンチヒッターは渡に船だった。ビーバーのような前歯をした図書委員の朔太郎を手伝っているうちに百瀬は不思議な本を発見してしまう。『方舟はいらない大きな腕白ども土ダンをぶっつぶせ」と書かれた紙が挟まった「飛ぶ教室」だ。土ダンというのは、学級対抗で行わ...「図書室のはこぶね」

  • 「自由研究には向かない殺人」 容疑者が増えていく

    「自由研究には向かない殺人」(ジャクソン著2021年8月東京創元社刊)を読みました。ミステリです。高校生のピッパの自由研究のテーマに対して指導教師は「このテーマは題材としてはデリケート過ぎる。私たちの町で発生した犯罪だから」とコメントする。犯罪とは5年前に高校生のアンディが行方不明になり彼女のボーイフレンドのサリルが犯行を自供した(メールで)上で自殺した事件だ。サリルの一家(父、母、弟のラヴィ)はペンキでいたずら書きをされたり石を投げられたりとひどい扱いを受けている。ピッパは、サリルが人を殺すとはどうしても思えなかった。幼い自分に優しくしてくれたサリルの記憶があるからだ。(ナイジェリア人の義父を持つピッパは、なかなか生きにくい)ピッパは捜査を始める。マスコミ、アンディの友人たち、当時の同級生……そして、それをレ...「自由研究には向かない殺人」容疑者が増えていく

  • 「おんなの女房」 予想を裏切る展開

    「おんなの女房」(蝉谷めぐ実著2022年1月角川書店刊)を読みました。「武家の娘が歌舞伎の女形に嫁に行ったら女形は舞台を降りてもおんなとして暮らしている人だった」という紹介文を読んでこれは武家娘が歌舞伎役者の女房として成長していく修行話かな?と予想して読みはじめたらこれが大違い。主人公の志乃は米沢藩の武士の娘で父に言われるままに江戸の役者のところに嫁入った。夫は燕弥というトップの次のあたりの女形。家でも女の格好をしているのはもちろん言動までもが役になり切ってしまうから厄介だ。父から武家の娘として厳しく育てられた志乃はどうやって女形の女房になったらいいのか分からない。モデルがないのだ。生真面目な性格の志乃は、どうしても正解を求めてしまう。知り合った寿太郎という役者の女房お富は行きたければ禁制の芝居の楽屋にまで入り...「おんなの女房」予想を裏切る展開

  • 「ナチスのキッチン(決定版)」 台所はどこへ行く?

    「ナチスのキッチン」(藤原辰史著2016年7月株式会社共和国刊)を読みました。「ナチスの」とあるようにドイツの食の歴史について書いています。ドイツでは(寒いので)かまどは家の中にあった。居間に。居間に設置されたかまどには鍋が掛けられかまどの火は暖房にも照明にもなったので、家族はみな居間にいた。居間には煮炊きの湯気と、煙が常に充満していた。居間キッチンだ。熱効率のよいかまど(料理用ストーブからやがてガスコンロを経て電気コンロになる)が作られキッチンは独立した部屋になる。労働キッチンと名付けられた。家の中は清潔になったけれど(この時代、奉公人のいる家は少なくなっていた)料理を作る人(主に女性)は孤立した。キッチンが家の外に作られるという流れもあった(これはアメリカ)団地のそれぞれの家に台所はなくセントラルキッチンで...「ナチスのキッチン(決定版)」台所はどこへ行く?

  • 「山學ノオト」

    「手づくりのアジール」の著者・青木真兵、海青子夫妻の日記「山學ノオト」①②(青木真兵、海青子著エイチアンドエスカンパニー刊)を読みました。①は2019年、②は2020年の日記です。奈良県の山村に引っ越して私設図書館「ルチャ・リブロ」を開いて暮らす日々が綴られます。(著書「彼岸の図書館」に関する講演活動も)s=真兵m=海青子s午後は久しぶりに落ち着いて読書。本が読めない日々を送っているようじゃ働き過ぎ。s名古屋からの帰りのバスの車中では「彼岸の図書館」の対談箇所をパチパチと直したり疲れてなくても目を閉じたり。s現代社会は「みんなのため」にできている。近代以前は社会が「一部の人のため」のもので、これを封建制と呼ぶ。僕はこの近代社会が間違っているとは思わない。ただ、この「みんな」に含まれなかった人たちや含まれないと感...「山學ノオト」

  • 「手づくりのアジール」 寅さんの存在について考えた

    「手づくりのアジール土着の知が生まれるところ」(青木真兵著2021年11月晶文社刊)を読みました。「彼岸の図書館」を書いた著者の新刊です。(山田洋次は、なぜ寅さん(あの映画の)という人物を造形したのだろうかと、たまに考える。そんなに魅力的かなぁ寅さんなどと)著者は古代地中海史の研究者で障害者の就労支援の仕事をしながら東吉野村で私設の人文学系図書館「ルチャ・リブロ」を運営している。表紙の植物画を描いたのは、妻の海青子(みあこ)さん。「ルチャ・リブロ」の司書をしている。お金を稼いで、自分で自分の口を養って一人前という考えが満ちている。海青子さんは、司書の仕事をしていたところを退職して別の仕事に就くも職場でうまくいかず心身を病んでしまう。大学への就職を目指して論文を書いていた著者も追い詰められる。そもそも、それで賃金...「手づくりのアジール」寅さんの存在について考えた

  • 「花屋さんが言うことには」 日常の謎ミステリ風味

    「花屋さんが言うことには」(山本幸久著2022年3月ポプラ社刊)を読みました。主人公の紀久子は2年勤めたブラック企業をやっと辞めて次の仕事が決まるまでの間(グラフィックデザインの仕事をしたいと思っている)駅前の花屋の店主・外島李多(とじまりた)に誘われてアルバイトをすることになる。(李多は女性)花屋のお仕事小説(ちょっと日常の謎ミステリ風味)なので花と花言葉のうんちくがたっぷり。加えてどの人物にも奥行きがあるところがいい。もと高校の国語教師で今は花屋でアルバイトをしている光代は短歌や俳句に詳しくて店頭の黒板に毎日花にちなんだ短歌や俳句を書いている。ヒマワリをたくさん並べた日は「列車にて遠く見ている向日葵は少年のふる帽子のごとし寺山修司」というふうに。もう一人のアルバイトの芳賀は農大の研究助手で岩登りが得意。自分...「花屋さんが言うことには」日常の謎ミステリ風味

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