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  • 「うらはぐさ風土記」 中島京子

    「うらはぐさ風土記」(中島京子著2024年3月集英社273p)を読みました。夫バートの浮気で離婚し勤めていた大学での講師の仕事が無くなって30年ぶりにアメリカから帰って来た主人公・沙希人生の大転換点のはずなのに何だか実感がない。ぽけっとしている。というところに母校の大学から講師の口が舞い込み住まいは祖父の家を貸してもらえることになったて(祖父は今は施設にいる)「うらはぐさ」での暮らしがはじまる。30年ぶりの日本での暮らしでは(自分を浦島花子だと自認している)何とも奇妙な味のある人たちが沙希の周りを巡る。庭の手入れをしてくれる秋葉原さん。商店街の足袋屋の主人で店の屋上で「屋上菜園」をやっている(!)「これまで一度も、働いたことがありません」「もう、この年になると、おんなじだもんね」(働いていてもいなくても)...「うらはぐさ風土記」中島京子

  • 「小公女たちのしあわせレシピ」 谷瑞恵

    「小公女たちのしあわせレシピ」(谷瑞恵著2023年10月新潮社302p)を読みました。「小公女」で「しあわせ」で「レシピ」と来たらずいぶん甘そうな感じがするけどそうでもありません。舞台は家族経営の小さなビジネスホテル。そこにメアリさんという老女が長期滞在していた。自分の家を持たずホテルに住んでいたひと。まぁ、お金はあったらしい。メアリさんは、ある日、外で倒れて死んでしまう。どこの誰とも分からないメアリさんは行路病死人という扱いになってしまう。ピンクの服に麦藁帽子、大きなスーツケースを引いて、ミニ豚を連れていたメアリさん。スーツケースには古い児童書がいっぱいにつまっていた。メアリさんはその本を、あちこちに置いて歩いていた。作品にちなんだお菓子のレシピを挟み込んで。レシピはホテル備え付けの便箋に書かれていたの...「小公女たちのしあわせレシピ」谷瑞恵

  • 「水車小屋のネネ」 本屋大賞2位

    「水車小屋のネネ」(津村記久子著2023年3月5日毎日新聞出版刊)が本屋大賞の2位に!予想以上です!文中に挿絵が多いなあと思ったら新聞連載小説なのでした。ネネというのはヨウムという鳥ヨウムの寿命は50歳くらいで3歳児くらいの知能を持っている。ネネは水車小屋に住んでいて蕎麦粉を挽く手伝い(見張り番)をしている。住み込みで働ける仕事を探していた理佐は「鳥の世話じゃっかん」という求人票を出した蕎麦屋に勤めることになる。18歳の理佐は、母と8歳の妹律と3人で暮らしていた。が母子家庭暮らしに疲れた母が恋人をつくり理佐はアルバイトをして貯めた入学金を恋人に貢がれ家を出る決心をする。母の恋人は律に暴言を吐いたり夜に家から追い出したりしていた。理佐は律を連れて出ることにする。第一話(1981年)は理佐の物語。理佐の仕事は...「水車小屋のネネ」本屋大賞2位

  • 「ようこそ、ヒュナム洞書店へ」 本屋大賞翻訳小説部門 第1位

    「ようこそ、ヒュナム洞書店へ」(ボルム著2023年9月集英社)が本屋大賞翻訳小説部門第1位になりました!モモタロウ・ストーリーになっている。勤めを辞めて書店を始めたヨンジュの前に現れる人たち。ブック・カフェとして営業するためにバリスタを募集するとミンジュンという青年が。常連になったヒジュは店で読書会を開くようになりヨンジュの呼びかけで講演をした作家のスンウはヨンジュが依頼を受けて書いた原稿を見てくれるようになる。イベントが増えて多忙になったらサンスという読書好きの青年がバイトに立候補し客たちに本を薦める役をしてくれるようになる……「和音が美しく聴こえるためにはその前に不協和音がないといけない。今生きているこの瞬間が和音なのか、不協和音なのか……」という今を登場人物たちは生きている。ヨンジュは書店を開いた経...「ようこそ、ヒュナム洞書店へ」本屋大賞翻訳小説部門第1位

  • 「卒業生には向かない真実」 本屋大賞 翻訳部門第2位

    「卒業生には向かない真実」(ジャクソン著2023年7月東京創元社)が本屋大賞翻訳小説部門第2位に。「自由研究には向かない殺人」「優等生は探偵に向かない」の続編(ミステリ)です。主人公を苦しい状況に置きそれを取り除く(指圧効果=ギュッと抑えてから取り除くと血行がよくなる)という小説の場合どれだけ容赦なく主人公を苦しい状況に置けるかが腕の見せどころだとは思うけれどこれはもうすごい。あの「賢くかつ愛らしいが、すこしクセの強いオタクめいた少女」(訳者)ピップが冒頭から「隠し持ったプリペイド携帯で精神安定剤を注文してそれを飲まないと眠れない」のだ。そして誰にもそれを相談できずにいいる。母、義父、恋人のラヴィ、友人たちの誰にも。2作目で遭遇した事件の影響だ。加えて繰り返される不気味なメールチョークで描かれた頭のない棒...「卒業生には向かない真実」本屋大賞翻訳部門第2位

  • 「BLANK PAGE 空っぽを満たす旅」 内田也哉子

    「BLANKPAGE空っぽを満たす旅」(内田也哉子著2023年12月文藝春秋288p)を読みました。ご存知樹木希林と内田裕也の娘で本木雅弘の妻で内田也哉子のエッセーです。人に会ってそのことを書いている。ちょっと一般人とは違うなと思うのは谷川俊太郎養老孟司坂本龍一桐島かれん是枝裕和横尾忠則などの会った人のほとんどが既に知り合いであるということ。樹木希林は著者を「人」に会わせることに熱心だったというから。どの人とも母と子、父と子の関係について話題が収斂していく。著者は、両親を亡くして間もない時期だった。面白く読んだのは写真家の石内都と会った話。石内都は亡き母の下着を作品として撮っている。石内のお母さんは群馬県で2人目の(女性で)自動車免許取得者だ。バス、ハイヤー、ジープ、何でも運転した。1人目の夫が戦死したの...「BLANKPAGE空っぽを満たす旅」内田也哉子

  • 「リカバリー・カバヒコ」 青山美智子

    「リカバリー・カバヒコ」(青山美智子著2023年9月光文社234p)を読みました。本屋大賞の候補作です。(4月10日発表)小さな公園にあるカバのアニマルライド(人形)、カバヒコ。喋りも動きもしないただいるだけ。だけど治したいと思っている部分にさわると回復すると言われているカバなのだ。思うように成績が上がらなくて悩んでいる高校生ママ友との付き合い方に悩んでいる母親耳が不調で仕事を休職している若い女性足が痛い小学生長年営んで来たクリーニング屋をやめようかと悩む80代の女性いかにもこの世に落ちていそうな悩みが取り上げられている。そして(カバヒコではなく)登場した人の「言葉」によって登場人物は悩みから方向転換していく。まことに的確な「言葉」によって。足が痛い勇哉に整体師が言う。「足から意識を飛ばす」ように。「痛い...「リカバリー・カバヒコ」青山美智子

  • 「受験生は謎解きに向かない」 ジャクソン

    「受験生は謎解きに向かない」(ジャクソン著2024年1月東京創元社172p)を読みました。「自由研究には向かない殺人」シリーズの前日譚です。自由研究の課題として町で起こった殺人事件を選ぶピップ推理力抜群でちょっとこだわりが強いタイプ。本作はでは殺人事件は起こっているけれどまだ自由研究が始まっていない。ピップは友達に誘われて謎解きゲームに参加する。場所はコナー・レイノルズの家。「1日に1回しか船が来ない島のお屋敷」で当主のレジナルド・レミーが殺されるという設定だ。友人たちはそれぞれの役に扮している。当主の長男で一族の経営から外されているロバート当主の後継者と目されている次男のラルフラルフの妻でカジノの経営を任されているリジー執事のトッド料理人のドーラピップの役は当主の姪のシーリア・ボーン金持ちの一族から何の...「受験生は謎解きに向かない」ジャクソン

  • 「真夜中法律事務所」 五十嵐律人

    「真夜中法律事務所」(五十嵐律人著2023年11月講談社259p)を読みました。特殊設定ミステリです。ある日なぜか死者が見えるようになってしまった検事の印藤累は案内人を名乗る男に「真夜中だけ開かれる法律事務所」に連れて行かれる。ってもうそれだけで前のめりになるような設定。法律事務所には死者が見える弁護士の深夜朱莉(あかり)がいた。死者がみんな幽霊になったら見える人にはうじゃうじゃ幽霊が見える?ということはなくて幽霊は命が絶えた場所から離れることは出来ないが午前2時から明け方までは自由に動くことが出来深夜法律事務所の椅子に座った時だけ話すことができるのだ。殺害された霊は犯人が明らかになったら成仏できる仕組みだ。(だから、この世に幽霊はそんなにいない)印藤が見かけた青年は(どうやら有名アイドル)個室スポーツジ...「真夜中法律事務所」五十嵐律人

  • 「バイバイ、サンタクロース」 真門浩平

    「バイバイ、サンタクロース麻坂家の双子探偵」(真門浩平著2023年12月光文社305p)を読みました。「麻坂家」は「まさか家」小学生の双子の男の子が探偵役のミステリ。短編集です。小学生の双子の男の子が登場して日常の謎を解く、ほっこり系だろうと思っていたらまったく違いました。毎回死体が現れる探偵役が滔々と謎解きを語る本格モノです。探偵役は兄の圭司弟の有人は毒舌の兄をカバーする気遣いの役回り。母を早くに亡くし2人は刑事の父と男3人で暮らしている。第4話の「黒い密室」では山の民宿で起こった殺人事件を(警察の到着が遅いのをいいことに)圭司が勝手に現場検証をし高校生を1人ずつ呼んで取り調べをし事件の解決を滔々と語る。(爽快です)でもね刑事の父が捜査情報を子供に言ったりそれを双子が友達に言ったり学校モノなのに教師がま...「バイバイ、サンタクロース」真門浩平

  • 「冬に子供が生まれる」 佐藤正午

    「冬に子供が生まれる」(佐藤正午著2024年2月小学館364p)を読みました。落とし所はどのあたり?とにかくそれが気になる。7月のある日、丸田君のスマホにメッセージが入る。「今年の冬、彼女はおまえの子供を産む」???語り手は、普通、登場人物を「君」づけでは呼ばないでしょう。今どきは、小学校だって男女を問わず「さん」づけだ。ましてや会社だって。(丸田君は勤め人らしい)丸田君が小学生の時にもう1人の丸田君と佐渡君と仲が良かった。2人の丸田君は背格好も雰囲気も似ていたので佐渡君は2人を区別するためにマルユウ、マルセイと呼んでいた。(この丸田君は、どっち?)彼らは、小学生の時に山で宇宙船らしきものを見てそれが新聞に取り上げられてちょっとした有名人になった。高校生の時に当時の新聞記者に声を掛けられて3人は宇宙船を目...「冬に子供が生まれる」佐藤正午

  • 「あきない世傳 金と銀 特別巻下」 高田郁

    「あきない世傳金と銀特別巻下幾世の鈴」(高田郁著2024年3月ハルキ文庫319p)を読みました。(読者が)気になっていた人の様子が見える望遠鏡の特別巻嫁いだ先の店を失った結(主人公幸の妹)のその後が描かれている章もある。結夫婦は小さな旅籠を営んでいた。四十過ぎて産んだ娘が2人十になる桂と七才の茜やり手だった夫の忠兵衛は釣り三昧の日々を送っている。旅籠は結の美味しい料理でそこそこ繁盛しているけれど……結は思う。「こんなはずはない私の人生こんなはずはない」よく気がつく働き者の文字もすぐに覚えた聡い桂に姉の幸の面影が重なって、結は苛立つ。姉の店から奪った染めの型紙が何かにならないか何か、起爆剤に……一方桂は客から貰った縮緬の端切れでお守り袋を縫うようになる……まだ続くというこのシリーズ桂という少女が印象に残りま...「あきない世傳金と銀特別巻下」高田郁

  • 「あきない世傳 金と銀 特別巻上」 高田郁

    「あきない世傳金と銀特別巻上契り橋」(高田郁著2023年8月ハルキ文庫)を読みました。「みをつくし料理帖」シリーズの主人公に比べてどうも親しみの持てない主人公「幸(さち)」(次々に襲って来る困難を乗り越え次々に呉服屋商売のアイディアを繰り出していく)と思っていたけれどようやく著者はスケールの大きな人物を描きたかったんだなと分かってきた。自分の店のことだけではなく社会全体に目を向ける利益が上がることばかりではなく客の暮らしが豊かになることを願っているそんなスケールの大きな人物。閑話休題NHKのドラマ「あきない世傳」を見たけれどどうもね……人物に品がないというか厚味がないというか……そう思ったのは本書の第1話で弟に店を託して去った(幸の2番目の夫)惣次が江戸で姿を見せるまでが描かれていたからだ。惣次は井筒屋保...「あきない世傳金と銀特別巻上」高田郁

  • 「化学の授業をはじめます。」 ガルマス

    本屋をはじめた作家の今村翔吾さんはある賞をもらった時書店員さんにこそお礼をしたいと100日あまりかけて(その間一度も家に帰らず)47都道府県の書店を回った。原稿は車中泊をしていた車の中で書いた。今村さんは言う。「朝ドラのように日々のルーティンの中に文学がちょっと落ちているというのはすごくいい国だなと思っています」そういえばこのところフィクション味が足りないなと反省。「化学の授業をはじめます」(ガルマス著2024年1月文藝春秋535p)を読みました。すごく面白いです。「調子は合わせません」と言う主人公エリザベスは化学者だ。(1960年代が舞台)女であるということで不利益を被ってきた。大学院では教授に乱暴されそうになり持っていた鉛筆で刺して怪我を負わせたため博士号を得られず、事件は隠蔽された。勤めた研究所でも...「化学の授業をはじめます。」ガルマス

  • 「超人ナイチンゲール」 栗原康

    「超人ナイチンゲール」(栗原康著2023年11月医学書院241p)を読みました。講談のような文体(高校時代、よくラジオで講談を聴いていたものです)が面白い。「おめでとう。フローレンス・ナイチンゲールの誕生だ。ときは1820年5月12日。場所はイタリアのフィレンツェ……」(ナイチンゲールは両親の3年に及ぶ大新婚旅行中に生まれた)といった調子だ。子ども向けの伝記全集には欠かせないナイチンゲール灯を持って病室を回る場面が印象に残っている(というより、そこしか残っていない)ナイチンゲールは大金持ちのお嬢様だったので(父親の年収は億単位)看護師として働きたいと言ってもとんでもないと家族から反対された。(子ども向けの伝記では、そのあたりはぼかしてある)社交会にデビューして条件のいい人と結婚することを期待されていたのだ...「超人ナイチンゲール」栗原康

  • 「母の最終講義」 最相葉月

    「母の最終講義」(最相葉月著2024年1月ミシマ社169p)を読みました。「絶対音感」を書いた最相葉月さんのエッセー集です。お母さんが脳出血で倒れ脳血管性の認知症になったので著者の介護生活は20代からはじまった。26年続いた遠距離介護に限界が来た。ヘルパーさんの支援があってもお母さんの生活が立ち行かなくなったのだ。食材を大量に注文し届いた冷凍食品を冷蔵庫に入れて腐らせるヘルパーさんに暴言を吐く日に30回ほど電話を掛けてはワン切りするテレビで見たことと現実の区別がつかなくなった……(著者は思う認知症者はテレビが好きなのにテレビは彼らを見ていない片思いである彼らがニコニコ気持ちよくなれる番組を開発するというのはどうだろうか)著者はお母さんを東京に引き取って施設に入れる。一日おきに通って洗濯物を持ち帰る。お父さ...「母の最終講義」最相葉月

  • 「イラク水滸伝」 高野秀行

    「イラク水滸伝」(高野秀行著2023年7月文藝春秋474p)を読みました。古代文明誕生の地チグリス、ユーフラテス川が作った湿地帯は今、どうなっているだろうか?湿地帯というところは住みにくいところなのではないだろうか?それなのになぜ人々古代から連綿と住み続けているのだろうか?「誰も行かないところへ行き誰もやらないことをし誰も書かない本を書く」がモットーの高野さん今度の旅はいかに?と興味津々で読みはじめた。(表紙写真の前から2人目が高野さん)◯タラーデ(表紙写真の舟)を作ってそれで湿地帯の水路を旅する◯マーシュアラブ布(刺繍をした毛布)の正体を探る◯湿地帯の住人の生活を知るという3つの目標を立てた高野さんと同行者の山田高司さんしかし思うように計画は進まない。イラクでは外国人が単独で行動することは「あり得ない」...「イラク水滸伝」高野秀行

  • 「百人一首 編纂がひらく小宇宙」 田渕句美子

    「百人一首編纂がひらく小宇宙」(田渕句美子著2024年1月岩波新書258p)を読みました。「百人一首」といえばお正月に、親類が集まればやったものでした。今では小学校でもやっているところがあるとか。(歌の作者もまして順序など考えたことはなかったその順序が重要だったなんて……)前半は「百人一首」の編纂をしたのは藤原定家ではなかったという話。定家は「百人秀歌」というのは作ったけれど「百人一首」は「秀歌」に後世の人がちょっと手を加えたものなのだ。(え、そうだったの…)「百人一首」を編纂した人は(初めは札ではなくて冊子)「誰の次に誰を置くか」という配列を重視した。たとえば13番筑波嶺の峰より落つるみなの川恋ぞつもりて淵となりけるの陽成院と15番君がため春の野にいでて若菜つむ我が衣手に雪は降りつつの光孝天皇の関係は陽...「百人一首編纂がひらく小宇宙」田渕句美子

  • 「常設展へ行こう!」 奥野武範

    「常設展へ行こう」(奥野武範著2023年12月左右社347p)を読みました。「ほぼ日刊イトイ新聞」に連載されていた時ぽつぽつ読んでいたのですがまとめて読みたくなったので一度読んだから新鮮味がない?と思っていたけど、そんなことはなくてなかなかよかったです。webで読んでいた時よりも学芸員さんの「じまん話」が可愛らしく感じられて、ほっこりしてしまいました。(紙で読んだせい?)美術館のウリ作品はもちろん自分のオシ作品になると急に饒舌になる学芸員さんたち。館林美術館では彫刻家のフランソワ・ポンポン67才で「シロクマ」を発表して大人気になり77才で亡くなるまでたくさんの作品を発表した。「こんなにも美しい輪郭でできた彫刻他にはなかなかありませんから」と。青森県立美術館ではウルトラマンの生みの親・成田亨「成田さんのお宅...「常設展へ行こう!」奥野武範

  • 「現代アートを続けていたら、いつのまにかマタギの嫁になっていた」 大滝ジュンコ

    今年いちばん(といってもまだ3月ですが)の面白さという書評を見て読みたくなって書店に行ったらあったので(最近ポチッとするのをやめています)「現代アートを続けていたら、いつのまにかマタギの嫁になっていたマタギ村・山熊田の四季」(大滝ジュンコ著2024年3月山と渓谷社255p)を読みました。著者(以下ジュンコさん)は山形の東北芸工大を出て長崎県波佐見、富山県氷見でアートマネージャーなどをし新聞連載記事も書いていた。新潟県の県北の人口37人の集落・山熊田で農業とマタギをしている人と結婚ししな布(シナノキの樹皮から作った布)作家として活動している。ジュンコさんのドラマチックな人生記と思ったら違っていた。結婚までのいきさつシナ布織りをはじめるまでのことなどは何も書かれていない。読者の野次馬的好奇心はさらりとかわされ...「現代アートを続けていたら、いつのまにかマタギの嫁になっていた」大滝ジュンコ

  • 「あっぱれ! 日本の新発明」 ブルーバックス探検隊

    「あっぱれ!日本の新発明世界を変えるイノベーション」(ブルーバックス探検隊著2024年1月講談社219p)を読みました。日本の「ものづくり」が危機に瀕しているってそんなことはない!という一冊。代替フロンを使わない冷蔵庫人間のような姿をして大工さんをお手伝いするロボット300度に熱しても手で持てるレンガなどなどの中で1番面白かったのはアンモニア問題。アンモニアといえばあのにおいと思うけれどアンモニアはNH3窒素と水素がくっ付いているものなのだ。窒素は今第3の環境汚染問題として浮上している。酸性雨、赤潮、海の富栄養化などに関係しているからだ。大気中から窒素を減らさなくてはならないのだ。減らすためには集める必要がある。臭いとりによく使われる活性炭は穴を持っているから吸着できる。穴があればいいのだ。でも、活性炭の...「あっぱれ!日本の新発明」ブルーバックス探検隊

  • 「不完全な司書」 青木海青子

    「不完全な司書」(青木海青子著2023年12月晶文社253p)を読みました。不完全を完全にする必要があるのだろうか?不完全な人間は人を助けることはできないのだろうか?そんな想いで書かれた一冊です。著者夫妻は奈良県の村に移住して「ルチャ・リブロ」という私設図書館を開いている。そこで司書をして読書会などもしている。読書会の1つが「生きるためのファンタジーの会」福祉社会学者の竹端寛さんが「普段、ノンフィクションとか研究書ばかり読んでいるので根詰まりして息苦しくなることがある。そんな時に読む本を何か紹介してほしい」というので始めた会だ。(わたしも絶好調に固めの本を読んでいると思うとぱたりと嫌になってフィクションに走るということがあります)読書会で取り上げたのは「夏の王」「フィオナの海」「トムは真夜中の庭で」「新月...「不完全な司書」青木海青子

  • 「手話だから言えること 泣いた青鬼の謎」 丸山正樹

    「デフ・ヴォイス」シリーズのスピンオフ作品でシリーズの2作目「手話だから言えること泣いた青鬼の謎」[丸山正樹著2024年1月偕成社165p)を読みました。児童書です。「デフ・ヴォイス」の主人公荒井が再婚したみゆきの娘・小学生の美和が主人公。毎日いっしょに下校していた友達の英知が転校することになり美和は落胆する。英知は場面緘黙でそれまでは文字で伝えるしかなかったのが荒井に手話を習ったことによって美和とも手話で会話ができるようになったのだった。母親のみゆきにすすめられて美和は手紙を書くようになる。美和は英知が場面緘黙だからといって「配慮」したりはしない。ただ、いっしょにいると楽しいのだ。多様性について考えさせられる。「配慮」という発想を持つこと自体上から目線ではないのか……と。美和に妹が生まれる。妹の瞳美は耳...「手話だから言えること泣いた青鬼の謎」丸山正樹

  • 「家を失う人々」 デスモンド

    「家を失う人々」(デスモンド著2023年12月海と月社515p)を読みました。アメリカの低所得者の住宅事情について書いている。ノンフィクションなのだけれどフィクション作品のような書き振りで自分が家を追い出されそうになっているような気持ちになってなかなかつらい読書だった。舞台の一つは貧困地区に暮らす人々2人の息子と暮らすアーリーン2人の息子と暮らすシングルファーザーのラマー4人の子と孫と暮らすドリーン強制退去させられて必死に次の家を探している。もう一つはトレーラーハウス・パーク生活保護を受けている54才のロレイン元看護師で薬物依存のスコット3人の娘の母パム強制退去させられて必死に次の家を探している。彼らは収入の8割近くを家賃に当てている。収入が10万円だとしたら8万円窓が壊れていたり台所の排水が詰まっていた...「家を失う人々」デスモンド

  • 「柚木沙弥郎 つくること、生きること」 別冊太陽

    「柚木沙弥郎つくること、生きること」(2021年12月別冊太陽)を読みました。今年101才で亡くなった柚木沙弥郎さんを特集した一冊。テーマの立て方がいい。作品(型染め版画絵本その他の仕事(ガラス絵水彩画板絵人形立体)ロゴマーク(盛岡の光原社奈良のくるみの木松本の開運堂など)ぼくの大切なもの(柚木編)分岐点となった展覧会今の仕事(ホテルやカフェに飾られた型染め切り紙)(柚木さんは文字も素敵)美術史家の益田祐作は「柚木はめぐまれた芸術的な環境の中で育ち」(父は画家・柚木久太)「育ちのよさに由来する知的なものと夢想的なものが少しの無理なく結合している」と言っている。「ただ一枚の染めものを見た人の気が晴れて元気が出たならぼくは嬉しいそして亦染めます」(柚木沙弥郎)最晩年の言葉です。長風呂気分……「柚木沙弥郎つくること、生きること」別冊太陽

  • 「ケンブリッジ大学の途切れた原稿の謎」 ウォルシュ

    「ケンブリッジ大学の途切れた原稿の謎」(ウォルシュ著2023年10月東京創元社)を読みました。「ウィンダム図書館の奇妙な事件」のイモージェン・クワイ・シリーズの2作目です。イモージェンはセント・アガサ・カレッジの寮に勤務するナース自宅には数人の下宿人を置いている。その1人・大学院生のフランは生活費を稼ぐために指導教官から伝記を書く仕事を貰って来た。フランは伝記文学を研究する学生なのだ。フランが書いた本は教授の名前で出版されるが協力者としてフランの名前が載り出版社からの報酬はすべてフランのものになるという。伝記に書かれるのは数学者のギデオンある図形に関する発見をした(故人)それにしてもカレッジものなのに書き出しがパッチワークをしている場面→?途中でテキスタイル(布など)史を研究している学者まで登場する。パッ...「ケンブリッジ大学の途切れた原稿の謎」ウォルシュ

  • 「神田ごくら町職人ばなし」

    「神田ごくら町職人ばなし」(坂上暁仁著2023年9月リイド社)を読みました。(ずっと読んでみたいと思っていたらマンガ大賞の候補になったのでもう、これは読むしかないと)短編集です。桶職人刀鍛冶紺屋畳刺し左官女性職人が主人公です。(違うものもある)舞台は江戸まだ底の入っていない桶越しに描かれている職人の顔のアップ熱した刀を水に入れた瞬間、だけで4コマどれもいいけど左官の章がいい。手拭いを巻いた頭が振り返ると顔は女。長兵衛店(だな)左官のお七で長七は蔵を任されている職人頭だ。腕を持っているけれど人をまとめていくのは難しい。何かと妨害するのは六次左官の腕もいいが、腕っぷしも強いで、すぐに腕をふるってしまう。長七は思う「あたしはただ土をいじるのが好きなだけなのに」女が頭になったことで周囲の気が緩むことを懸念して強く...「神田ごくら町職人ばなし」

  • デフ・ヴォイス

    創元推理文庫で出たので再掲します。(ドラマにもなったし)「デフ・ヴォイス」(丸山正樹2011年7月刊)を読みました。ミステリなのだけれどミステリだということを忘れてしまうミステリです。高校を卒業後20年警察の事務職として働いて来た荒井は今は夜に警備のアルバイトをしながら職を探している。仕事はなかなか見つからない。何か特技があればというハローワークの職員の助言で荒井は手話通訳士の資格試験を受けた。資格は持っていないけれど、手話は「かなり」できる。父と母と兄が耳が聞こえなかったからだ。荒井は耳の聞こえない両親を持った子ども(コーダ)だった。手話にはろう者の言語と言われている「日本手話」と日本語に手の動きを当てはめる「日本語対応手話」がある。荒井は日本手話ができるので「あんたとは会話が楽でいいや」と通訳士として...デフ・ヴォイス

  • 「古代アメリカ文明」

    「古代アメリカ文明」(青山和夫編2023年12月講談社現代新書315p)を読みました。「世界四大文明」なんていう教え方をしているのは日本だけだ。「発見」される前からあった中南アメリカ文明をきちんと教科書で取り上げるべきだ!と著者は言う。(そういえばナスカの地上絵は宇宙人が残したメッセージだなんて言うトンデモ説があったものでした)取り上げられているのはマヤアステカナスカアンデスアステカでは絵文字(コディセ)は人々の前に示されそれを読み手が語るという「上演」がなされていた。絵文字には記憶だけに頼っていては伝達できない多様な事象が記録されていた。ナスカの地上絵には3つのタイプがある。直線の地上絵幾何学的な地上絵具象的な地上絵である。具象の絵には山の斜面に描かれたものもあり地区から地区へ移動する道沿いに10キロメ...「古代アメリカ文明」

  • 「柚木沙弥郎との時間」

    「柚木沙弥郎との時間」(木寺紀雄写真2020年12月グラフィック社252p)を読みました。写真集です。柚木沙弥郎さんはこの1月31日に亡くなられた。101才。写真のセンスがいいなどと月並みな(古い?)言葉で言うのも気が引けるけれど他にぴったり来る言葉が見つからない。柚木さんの作品は染色作品はもちろんだけど指人形もいい。縫い物もなさるそうで何枚かの布が剥ぎ合わせてある人形の衣装がいい。(顔も)柚木さんの着ているものも素敵。ブルーのダンガリーのシャツに紺色のスカーフを首元にのぞかせたり白いスタンドカラーのシャツに麻の生成りのジャケットを合わせたりストライプの布を筒に縫って上下をゴムで押さえて腕カバーにしたりニットのシャツの袖をまくって作業をしている姿もいい。部屋の隅の低い箪笥の取手に竹の物差しが差してあるのも...「柚木沙弥郎との時間」

  • 「存在のすべてを」 塩田武士

    本屋大賞にノミネートされた「存在のすべてを」(塩田武士著2023年9月朝日新聞出版464p)を読みました。ミステリです。誘拐事件が起こる。はじめは小学生の男子が塾の帰りに。さらに4才の幼児が誘拐される。小学生はやがて発見されるが(小学生の方は警察の手を薄くするための囮だったらしい)4才の子どもの方は会社経営者の祖父が身代金を指示通り運んだにも関わらず(身代金は拾い物として交番に届けられてしまう)それきり行方は分からなくなった。母親は子どもが誘拐された時にパチンコをしていたくらいでネグレクトの可能性が大きかった。3年後子どもは突然祖父母の家に現れ「ぼくを育ててください」と言った。3年間どこでどんな暮らしをしていたのかを子どもは決して言わなかった。ただ3年の間に抜けた乳歯を入れた箱を持っていた。抜けた箇所と日...「存在のすべてを」塩田武士

  • 「アンと幸福」 坂木司

    「和菓子のアン」シリーズの第4巻「アンと幸福」(坂木司著2023年10月光文社379p)を読みました。(ちなみにこのシリーズは「赤毛のアン」の本歌取りタイトル。第1巻は「赤毛のアン」→「和菓子のアン」第2巻は「アンの青春」→「アンと青春」第3巻は「アンの愛情」→「アンと愛情」となっている)主人公のアン(杏子)はデパートに入っている和菓子屋のアルバイト店員。坂木司ファンの身としてはお菓子を傍にお菓子が題材の日常の謎ミステリを味わうという贅沢な時間を過ごせる一冊です。第1話はアンが接客をしている時に割り込んでくる店長の行動の謎。それが毎回ではない。そして、アンがすすめていたのとは違うお菓子をすすめたりする。小さな子どもが串団子が欲しいと言うとどら焼きを常連の老婦人には芋入り練り切りではなくて軽羹をなぜ?最終章...「アンと幸福」坂木司

  • 「空間の未来」

    「空間の未来」(ヒョンジュン著2023年10月クオン368p)を読みました。動物が進化によって体を大きくするとそれを支える骨の強さが必要になる。世界はグルーバルになって体を大きくしたけれど骨の強さが育っていないそれが現れたのがコロナだと著者は言う。著者は韓国の建築家です。どうしたら骨を強くできる?について書いてある。「骨の強さが育っていない」と書いてあるものはこれまでもあったけれど「どうしたら骨を強くできるか」について書いているのは画期的!(ワクワクしました)出勤について自動運転について商業施設について建築について……教育についても考えている。日本でも増えている不登校。行くべきところだった「学校」がコロナで「急に1ヶ月以上も休みになった」衝撃は大きい。オンラインで学べるようになった今、学校の存在意義は単な...「空間の未来」

  • 「まいまいつぶろ」 村木嵐

    「まいまいつぶろ」(村木嵐著2023年5月幻冬舎330p)を読みました。NHKの「大奥」で三浦透子が熱演した将軍家重が主人公というより家重の「通訳」として仕えた大岡忠光と家重の友情物語。家重は出生時に臍の緒が巻き付いていたためか半身が不自由でかつ言葉を発することが出来ない。吉宗の嫡子として生まれたものの誰も家重が将軍になるとは思っていなかった。吉宗は迷っていた。家康が確立した嫡子相続のルールを破ることは家康を信奉している吉宗の信条に反する。しかし、家重に将軍がつとまるのか……そこに現れたのが忠光だった。鳥の声から伝達内容を聞き取るほど耳のよい忠光は家重の言葉を聞き取ることが出来た。最後の最後までその「通訳」された言葉が本物かどうか疑われることになる。閉じ込め症候群のように伝達する術を持たないまま観察だけを...「まいまいつぶろ」村木嵐

  • 「アジア発酵紀行」 小倉ヒラク

    「アジア発酵紀行」(小倉ヒラク著2023年11月文藝春秋285p)を読みました。「日本発酵紀行」が面白かったので。子どものころ「赤毛のアン」を読んでいた時に(マリラはアンに料理を仕込もうとするのでけっこう料理シーンが多い)よく出てきた「グレイビー」肉汁なんて訳されていた。何?どうやらグレイビーから作ったソースを料理にかけるらしい。ソースだったら冷蔵庫にあるし、何だったら醤油も、味噌もと思っていた。日本の料理は実は簡単なのだという。味噌や醤油があるから。味噌も醤油も発酵食品だ。(みりんも酒も)日本中の「発酵」を巡り歩きた著者は今度は「糀」(こうじ)のルーツを求めてアジアを巡ることにする。大陸のこうじは麦こうじが主だ。では米こうじは日本独自のものなのか?いや、そんなはずはない。きっとアジアのどこかにルーツはあ...「アジア発酵紀行」小倉ヒラク

  • 「モヤ対談」 花田菜々子

    「モヤ対談」(花田菜々子著2023年11月小学館460p)を読みました。「面白いと思った本」の著者と対談するという企画をまとめたもの。山崎ナオコーラは言う。「主婦も主夫も介護者もニートも社会人ですから社会参加とか社会復帰って言葉を使うのはおかしいなと思っています」メレ山メレ子は言う。「男らしさや女らしさを期待されることのかわりに今度は無害でまっとうな善人であることを期待されているような圧はたしかあるかも」ブレイディみかこは言う。「なんでこんなにエンパシーという言葉がウケたのかな(うちの居間にもエンパシーという文字の入った絵が額に入れてあります)いつも配偶者や子どものケアをしていると常に他者の靴を履いている状態だから子どもが失敗したら自分のせいだと思うし配偶者の仕事がうまくいかないと自分が悪いんじゃないかと...「モヤ対談」花田菜々子

  • 「曇る眼鏡を拭きながら」 くぼたのぞみ 斎藤真理子

    「曇る眼鏡を拭きながら」(くぼたのぞみ斎藤真理子著2023年10月集英社)を読みました。翻訳家の2人の往復書簡です。くぼたのぞみさんは詩人でもある。斎藤真理子さんは「82年生まれ、キム・ジョン」などハングル語の翻訳をしている。おふたりとも若くない。(60代と70代)なのに、なんだか若い女性の書いたものを読んでいるような気分になるのは何故なんでしょう。翻訳ものといえばイギリス文学、フランス文学、ロシア文学だったのに今ではアフリカ文学も韓国文学は次々にという感じになっている。それというのも翻訳のおかげ。「やむにやまれず作品を書く人がいてそれを儲けのためだけではなく出版する人がいてさらに読む人がいるその営みを多言語に広げて多くの言語の向こうにいる人たちにも読めるようにするそれが「曇る眼鏡を拭きながら」なされる翻...「曇る眼鏡を拭きながら」くぼたのぞみ斎藤真理子

  • 「マンガがあるじゃないか」

    「マンガがあるじゃないかわたしをつくったこの一冊」(2016年1月河出書房新社)を読みました。29人の方が自分のイチ押しを紹介している。光浦靖子は「エースをねらえ!」(山本鈴美香)大学もろくに行かずバイトも何十個もクビになって仲の良い少数の人としか接することができなかった光浦は現状を打破しようとショック療法的に一番苦手だと思うお笑い芸人のオーディションを受けて合格してしまう。笑いも取れないコメントも使われないしまいには怒られる……落ち込む日々。そんなとき「エースをねらえ!」を読んでダメダメな主人公の姿にふれるうちに「誰もが主役なわけじゃないそれぞれの役割があるんだ」と思うようになる。荻原規子は「動物のお医者さん」(佐々木倫子)「仕事や人間関係で行き詰まりどうしようもない気分に陥ったときハムテル(主人公の獣...「マンガがあるじゃないか」

  • 「サガレン」 梯久美子

    宮沢賢治は妹とし子を亡くした翌年、カラフトに旅に行っている。この鉄道旅が「銀河鉄道の夜」のモチーフになっているのだという。そのことを調べて書いた「サガレン」(梯久美子著2020年4月角川書店285p)を読みました。賢治は「サガレンの朝の妖精」(オホーツク挽歌)「サガレンの八月のすきとほった空気」(樺太鉄道)というふうにカラフトをサガレンと言っている。「死後、妹は、どのような道をたどってどこへ行ったのか」を賢治はどしても知りたかった。そのために、日常とは別の時間が流れる汽車の旅を必要としていたのではないかと著者は推理する。賢治は花巻から青森へ鉄道で行き連絡船で函館に渡り函館から稚内まで鉄道で行き稚内から宗谷海峡を渡ってカラフトへ渡った。賢治はとし子が成仏したイメージとそれができずにどこか暗い場所にいるイメー...「サガレン」梯久美子

  • 「文庫旅館で待つ本は」 名取佐和子

    「文庫旅館で待つ本は」(名取佐和子著2023年12月筑摩書房247p)を読みました。現実にもあるらしい本のあるホテルや旅館文庫のある小さな旅館が舞台です。円(まどか)祖母の後を継いで凧屋旅館の若女将をしている。円は本が読めない。文字は読めるのだが本の匂いに圧倒されてしまうのだ。円は人の匂いも感じる。体臭とかではなく、その人の心の持つ匂いとでも言おうか。お客に文庫の中の一冊と同じ匂いを感じたらその本を勧めて読んでもらうそして、本の内容を語ってもらうというのが基本設定。(これだけでも、じゅうぶんおいしい)全部で5話。第3話はファンタジー風第5話はミステリー風と味付けもさまざま。お客が勧められる本は夏目漱石の「こころ」志賀直哉の「小僧の神様」芥川龍之介の「藪の中」とシック。華奢な体なのにお客の荷物を軽々と持った...「文庫旅館で待つ本は」名取佐和子

  • 「ユニバーサルミュージアムへのいざない」

    「ユニバーサルミュージアムへのいざない」(広瀬浩二郎著2023年10月三元社183p)を読みました。テレビの画面に、数人の女房たちがてんでに書物を開いている場面が出てきた。(源氏物語系番組)あれ?違うでしょう。この時代の読書は一人の女房が声に出して読む→みんながそれを聞くだったはず。第一、写本だって灯だってそんなに数はない。ついこの前まで、夜は炉辺でお年寄りの話を聞いたものだっただろうし皆でラジオに耳を傾けた時代もあった。そう考えると、現代はずいぶん視覚優位になっている。美術館や博物館だって「見る」ためのものだ。その流れに対して広がっているのがユニバーサルミュージアム活動だ。著者は視覚障害者として長年開かれたミュージアム活動に携わってきた。(国立民族学博物館にお勤め)この本では、全国のユニバーサルミュージ...「ユニバーサルミュージアムへのいざない」

  • 「八ヶ岳南麓から」 上野千鶴子

    「八ヶ岳南麓から」(上野千鶴子著2023年12月山と渓谷社150p)を読みました。人一人の存在は大きい。野球のあの人も将棋のあの人も上野千鶴子氏が作った「おひとりさま」という言葉は独身の人に市民権をもたらした。その上野氏が八ヶ岳で過ごした日々のことが語られている。このエッセー、きっぱりの中の情感とユーモアの配分がほどよいところがいい。山荘を建てて「鹿野苑」(ろくやおん)と名付けたら(釈迦が仏法を説いた林園の名前)宗教系の高齢者施設に入っているの?と言われた。東大の研究室は夏熱く(誤字ではありません)、冬寒い。365日、逆冷暖房完備。コロナ下の山荘ごもりは「自分にこんなにおひとりさま耐性があったのか。小さい時から「読む」と「書く」が好きだった。それさえあれば生きていけることを確認させてくれた」「おふたりさま...「八ヶ岳南麓から」上野千鶴子

  • 「フットパスによる未来づくり」

    「脳を鍛えるには運動しかない」(レイティ著2009年3月NHK出版345p)を読んで少し歩くようになって歩くことに興味がわいてきたところだったので。「フットパスによる未来づくり」(神谷由紀子泉留維編2023年9月水曜社286p)を読みました。18世紀末イギリスでは工場労働者の健康維持のために自由に郊外の道を(所有者のある土地でも)歩くことができるという法律が定められた。それが、フットパス。日本では20年ほど前から取り組まれている。沖縄の浦添市では芥川賞作家の又吉栄喜(又吉直樹ではありません)の作品の舞台であることから「又吉栄喜の原風景を歩くDeepOkinawaフットパス」を行っている。東京の町田市の石川健さんは発祥の地イギリスの「国民が健康な生活を送るために国が歩く道を保障する」というのは斬新な発想だと...「フットパスによる未来づくり」

  • 「人生が確実に幸せになる文房具100」

    「人生が確実に幸せになる文房具100」(高畑正幸著2023年12月主婦と生活社143p)を読みました。著者は伝説の番組「TVチャンピオン」の文具通選手権で3回の優勝を飾った人。あ、〇〇がないと思ったら買い物ついでにちょっと買って済ませてしまう日々。著者は言う。「毎日の生活で触れるものに便利で、美しく、質の高いものを丁寧に選びしっかり使うことは生活の雑事を楽しむ行為に変えてくれます」No.1からNo.100まで厳選された(絞り込むのに苦労したことでしょう)100点の文房具が紹介されている。ごくごく生真面目な辞書のようなつくり。これは読み物として楽しむというよりは手元に置いて〇〇を買おうと思ったら開いてオススメを買うという使い方がいいのではないかと思います。筆記用具にウエイトが寄っていますが個人的には紙もの好...「人生が確実に幸せになる文房具100」

  • 「椿の恋文」 小川糸

    終戦間際のドイツの世界に少々疲れたので鎌倉でひと休み。「椿の恋文」(小川糸著2023年10月幻冬舎339p)を読みました。おなじみ、ドラマにもなったツバキ文具店ものの続編です。鎌倉で「ほっこり」しようと思ったらこれが違う……何だかザラっとする。イヤミスならぬイヤほっこり(著者はほっこり系のつもりはありませんと言うかもしれないけれど)散りばめられた鎌倉の食べ物屋さん、お菓子登場人物の愛称(バーバラ夫人、マダムカルピス、男爵……)がどれもほっこり風味なのに……祖母の代書屋ツバキ文具店を引き継いだ鳩子は今では子持ちになっている。夫ミツローの連れ子QPちゃんとミツローとの間に生まれた小学生の2人の子どもの3人だ。(2人が年子で同じ学年というのは次巻への伏線?)しばらく休んでいた代書屋を再開したツバキ文具店につぎつ...「椿の恋文」小川糸

  • 「歌われなかった海賊へ」 逢坂冬馬

    「同志少女よ、敵を撃て」の逢坂冬馬の「歌われなかった海賊へ」(逢坂冬馬著2023年10月早川書房375p)を読みました。舞台は第二次大戦中のドイツ父を密告によって失ったヴェルナーは密告した相手を殺そうと狙っていた。もともとヴェルナーは喧嘩には自信があった。そこに現れたレオとフリーデに誘われてヴェルナーは反ヒトラー・ユーゲント(少年組織)のグループを組むことになる。(実在したエーデルヴァイス海賊団)そこに爆弾を愛好する少年ドクトルが参加して4人はユダヤ人が運ばれて来る列車の通るトンネルの爆破作戦に取り組むことになる少しでもユダヤ人が収容所に入れられるのを遅らせるために……登場人物たちはそれぞれに壁を持っている。ヴェルナーはもちろん裕福な靴工場経営者の息子レオにも親衛隊将校に娘フリーデにもドクトルにも(兵器に...「歌われなかった海賊へ」逢坂冬馬

  • 「バールの正しい使い方」

    地震お見舞い申し上げます。年をまたいで読んでいたのは「人鳥(ペンギン)クインテット」の青本雪平(青森県出身)の「バールの正しい使い方」(青本雪平著2022年12月徳間書店421p)主人公は礼恩(れおん)小学生の男の子だ。礼恩は転校を繰り返している。お父さんは仕事が続かずに転職ばかりしている。お父さんが転職するたびに、引っ越しをすることになり礼恩は転校することになる。転校はお手のものだ。まずクラスの様子をじっと観察する。リーダー格なのは誰で、孤立しているのは誰か。そして、あとは「擬態」するだけだほどほどの存在として。小学校のクラスを舞台にした日常の謎ミステリっぽかった物語は第4話「靴の中のカメレオン」で急にカーブを切る。重い病を抱えている礼恩はついに入院し院内学級で過ごすようになる。3人だけの院内学級……物...「バールの正しい使い方」

  • ことしのことば

    文字を読むと脳内に快感が広がるたちこども頃からです読んだものの中かえらいいなと思った言葉を手帳に収取しています◯よしながさんに時代が追いついた(よしながさん=漫画家のよしながふみ)(三宅香帆)◯物語を食べて育ってきた物語は、今も、わたしの主食であり続けている(吉川トリコ)◯自分で自分を困らせてるんですその方がおもしろくなるうまくなることに興味がないんだよね(荒井良二)◯水を温めると、やがて沸騰して水蒸気になるようにすぐに成果が現れなくてもエネルギーを注ぎ続ければいつかは劇的な変化が訪れる(市川沙央)◯小説を読む行為は登山に似ていると思う幼いころから本を読む習慣がある人は高山で育った民のようなもので息を吸うように毎日山に登る(新川帆立)◯俳優の魅力ってエネルギーなんじゃないかな(草薙剛)◯脳内に降って湧いた...ことしのことば

  • 勝手にベスト10 2023 ③

    今年読んだ本の中から勝手にベスト10をえらんでみました。(順位はありません)7冊目は「さみしさは彼方カライモブックスを生きる」(奥田直美奥田順平著2023年2月岩波書店刊)石牟礼道子に惹かれ水俣や天草に通っていた奥田直美・順平は故郷の京都に書店を開いて暮らしていくことにする。そこで考えた書店名が「カライモブックス」カライモとはサツマイモのことだ。しんとしたひとりの世界に生きているような直美それを窓から眺めているような気持ちで暮らしている順平娘の道(みっちん)の三人のくらしが見える。道は「かぜはみえへん」と言う。お父さんにも他の人にも見えているのに自分だけが見えていないと思っているようだ。「しんだら(救急車で)びょういんにいってなおすんやろう」と言った道に「死んだらおしまい。もう元には戻らへん」と言ったら大...勝手にベスト102023③

  • 勝手にベスト10 2023 ②

    今年読んだ本の中から勝手にベスト10をえらんでみました。(順位はありません)4冊目は「切手デザイナーの仕事日本郵便切手・葉書室より」(間部香代著2022年10月グラフィック社刊)日本郵便の「切手・葉書」室には8人のデザイナーがいる。日本に8人しかいないとも言える。その8人を取り上げたのがこの本。ちゃんと文章ページの中にカラーで切手の写真が入っている。カラーページにまとめてなんていうケチなことはしない。(いい出版社です)「ぽすくま」(ご存知でしょうか)をデザインした中丸ひとみさんは切手デザインの仕事に加え手紙振興の仕事もしている。東京の青山に期間限定のぽすくまカフェも開いたしスコットランドから登録証明を貰ったタータンチェックも作った。中丸さんは言う。「切手には余白が必要なんです。送る人の気持ちをのせる余白が...勝手にベスト102023②

  • 勝手にベスト10 2023 ①

    今年読んだ160冊あまりの中からベスト10を選んでみました。(順位はありません)夭折した画家の中園孔ニが言っています。「よい絵というのは、記憶に残る絵のことだ」ということは「よい本というのは、記憶に残る本」ということになるでしょうか素晴らしいストーリーでもなく優れた文章でもなくただ「記憶に残る」今年読んだ「記憶に残る本」をご紹介します。1冊目は「ゴリラ裁判の日」(須藤古都離著2023年3月講談社刊)第64回メフィスト賞受賞作です。ある日、4才の男の子が動物園のゴリラパークの柵を越え転げ落ちるという事件が起こった。雄ゴリラのオマリは近づいて子どもを引きずり(子ゴリラに対する普通の扱い)危険だと判断した園長はオマリの射殺を命じた。麻酔銃でなく実弾で。オマリの妻であるローズはこのことに納得できず裁判をおこす。ロ...勝手にベスト102023①

  • 「人鳥(ペンギン)クインテット」

    「人鳥(ペンギン)クインテット」(青本雪平著2020年9月徳間書店)を読みました。う〜ん、何でしょう、これは。殺人が起こるからミステリなんでしょうか。ミステリというのは事件が起こる→解決する=すっきりとなるものだと思うのですがこれは、解決しない=分からないという不思議な小説です。警察での取り調べと主人公の記憶が交互に語られる。取り調べを受けているのは17歳の柊也取り調べをするのはマンドリル顔の年配の刑事刑事は、津軽弁を話している。それを聞き取れるということは柊也も津軽人?(著者は青森県出身だそうです)クインテットということは5何が5主要な登場人物が5人?それとも死体が5?柊也は祖父と2人暮らしだ。ある朝起きると祖父はいなくて、居間の祖父の席にペンギンがいた。高校に行っていない柊也は否応なく祖父の代わりをし...「人鳥(ペンギン)クインテット」

  • 「文学キョーダイ‼︎」

    「文学キョーダイ‼︎」(奈倉有里逢坂冬馬対談2023年9月文藝春秋)を読みました。ロシアの対ドイツ戦争を描いた「同志少女よ、敵を撃て」の逢坂冬馬とその姉で高校を卒業後ロシアの文学学校に留学して翻訳家として活動している奈倉有里の対談です。姉弟で一冊分語るというところが、まずすごい。(編集者の構成の作り方が上手いのでしょうが)対談というものにあまり期待は持っていなかったけれど逢坂さん、語る、語る。(作品で語れという言葉もあるけれどこの人は、口で言ったくらいでは目減りしない量を持っている)腹を括っている人だなと思う。作家になる前は「書いては落ち、書いては落ち、書いては落ち、書いては落ちと気づけば十年以上たっているんだけどぜんぜんつらくもなんともない極論これが一生続くんでもいいやという感じになっていった」推しは大...「文学キョーダイ‼︎」

  • 「めざせ!ムショラン三つ星」

    「めざせ!ムショラン三つ星刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります」(黒柳桂子著2023年10月朝日新聞出版)を読みました。刑務所の食事は調理員じゃなくて受刑者が作っている(大量調理の経験どころか普通の料理の経験のない人たちが)とは……唯一の専門家として著者は奮戦する。少しでも量を多くするには「作る」しかない。ホットケーキだって市販のミックスを使うよりも小麦粉とベーキングパウダーと砂糖で作った方が安く上がる→同じ予算なら多くなる。1日あたり520円で作らなければならないのだから。重視されるのは公平ということ。非常食の軟飯を消費するために粒あんを混ぜたおはぎもどきはざっくりと混ぜてマーブル模様にするのではなくて泥団子風になる。均一でなくてはならないのだ。年越しにカップ麺を出すためにはカップにお湯を...「めざせ!ムショラン三つ星」

  • 「本の栞にぶら下がる」

    「本の栞にぶら下がる」(斉藤真理子著2023年9月岩波書店)を読みました。6人の女の人が輪になって本を開いている。短い髪をして、袖のないストンとした服を着て、足は裸足だ。ひとりだけ内股気味の人の足が気になる。ひとりだけ横目で隣の人を見ている人がいるのが気になる。栞だけが赤い。という表紙絵の(高野文子の絵)この本は韓国文学の翻訳家・斎藤真理子の読書に関するエッセー集です。自分の好きなテーマや作家を追いかけているとぐるぐるとした線が中心に向かって収束していってしまうようで気がつくと同じようなものばかり読んでいる。この本はそこからポンととんで普段とは違う脳の部分を使ったようで心地よかった。取り上げられているのはいぬいとみこ李箱(イサン)堀田善衛田辺聖子(普通の女子は考える女子なのだなぜなら女子こそ考えずには生き...「本の栞にぶら下がる」

  • 「読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし」

    低気圧が苦手です。苦手感を克服するには「知る」ことが大事ということで「読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし」(荒木健太郎著2023年9月ダイヤモンド社)を読みました。著者は雲研究者これまで出来るだけ分かりやすい本をと心がけてきたけれどこのあたりで体系的に語ったものを出したいということです生まれたのが本書だそうです。「空が雲に覆われているとどんよりする。でも、その上には青空があるのだ」(そう言えば雲外蒼天(確か藤井八冠が……)という言葉もありますね)「大気は絶えず動いているが、目には見えないそれを可視化しているのが雲だ雲は体を張って空で何が起きているかを教えてくれているのだ曇り空に個性を見出せるようになると曇りや雨の日も楽しくなる」ということで雲のでき方雲の種類(400種以上)を教えてくれる。「目線...「読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし」

  • 「襷がけの二人」 直木賞候補に

    「襷がけの二人」(嶋津輝著2023年9月文藝春秋)が直木賞候補に!(10月17日のものを再掲)顔も姿も人の印象に残らないたちの千代は父の友人でよく家に遊びに来ていた山田のおじさんの息子に嫁ぐことになる。山田家は製缶工場を営む裕福な家だった。姑はすでに亡く父と息子の男所帯に女中が2人いた。女中頭のお初さんと千代より若いお芳ちゃんだ。家で家事を手伝っていた千代はそれなりに出来るつもりでいたが山田家の家事は実家とは違うものだった。台所は立って調理する仕組みで、氷冷蔵庫まである。実家では滅多に出なかった肉は薄く切って冷やしたり甘い汁でガラス器に侵けたりシチューやビフテキも作る。しばらくたつうちに千代は「奥さま」というよりは女中さんのNo.3のようなポジションになっていく。のんびり屋の千代はそれが少しも嫌ではなかっ...「襷がけの二人」直木賞候補に

  • 「カモナ マイハウス」

    「カモナマイハウス」(重松清著2023年7月中央公論社)を読みました。主人公は不動産会社で空き家を担当している水原孝夫。始まって数ページでもう課題が提示される。(ミステリではありません)両親を亡くして介護ロスに陥っている妻の美沙はマダムみちるという怪しげな女性の家に通っている。(マダムみちるは何者?)息子のケンゾーは売れない役者で怪我をして家に帰って来ている。(息子には追っかけセブンというファンがいるという)おまけに西条真知子という若い記者が空き家問題の取材のためと言って張り付いてくる。美沙の実家の空き家問題ライバル会社のやり手経営者石神井の存在……一つの国がそっくり引っ越してきても受け入れられるほどの空き家がある日本7軒に1軒は空き家なのだそうだ。石神井は次々にアイデアを繰り出す。火葬場に近い空き家を火...「カモナマイハウス」

  • 「松籟邸(しょうらいてい)の隣人 1 」

    少年・吉田茂が主人公という帯に惹かれて「松籟邸の隣人1青夏の章」(宮本昌孝著2023年11月PHP研究所)を読みました。前年に父を亡くした12歳の茂は藤沢の耕餘塾で学んでいる。大磯にある吉田家の別荘の隣には今しも新しい家が建築中だ。どんな人なのだろうと思っていた茂の前に現れた隣家のあるじは白い背広に白い帽子、白馬に乗る背の高い若者だった。アメリカ帰りの天人(あまと)シンプソンと茂の謎解きがはじまる。第6話元勲たちの夜がいい。明治22年内閣総理大臣の伊藤博文は新内閣発足を祝って藤沢の旅館で宴会を開いている。酔って目が据わって、よだれまで垂らしている黒田清隆それを詰る原敬さらにそれを止める陸奥宗光皆に謝る大山巌穏やかになだめる伊藤博文……西郷隆盛の死から立ち直れないでいる黒田清隆表には出さないけれど深いところ...「松籟邸(しょうらいてい)の隣人1」

  • 「自由の丘に、小屋をつくる」

    去年の本屋大賞ノンフィクション本大賞の「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」の川内有緒さんの新作(待ってました)「自由の丘に、小屋をつくる」(川内有緒著2023年10月新潮社)を読みました。自分が追求し続けたい題材しか書かないという川内さんは生まれた娘に故郷となる記憶の場をつくってやりたいと思うようになった。自分も夫も祖父母の家で過ごした記憶が大切なものとしてある。でも娘ナナの祖父母(川内さんと夫の両親)の家は自然の豊かなところではない。そうだ、小屋をつくろう!遊びに行って泊まれる小屋を保育園からの帰り道ダンゴムシ探しをして家に着くまでに1時間もかかってしまうナナのために木工教室に通ってナナの机作りに成功した川内さんの思考は飛躍する。自分のことを不器用者だと思って来たけれど案外出来るのだ。土地を探し借...「自由の丘に、小屋をつくる」

  • 「天気に負けないカラダ大全」

    低気圧が苦手です。と言ってばかりもいられない……、ので「天気に負けないカラダ大全」(小越久美小林弘幸著2023年9月サンマーク出版)を読んでみました。「天気によって体調も気分も悪くなるそんな私は低気圧女子で」という小越さん(気象予報士)と低気圧男子だという小林さん(医学部教授)が1章お天気と自律神経の関係2章天気を味方にするための自律神経サポート3章低気圧不調に悩む人のための自律神経予報4章ホルモンバランスと自律神経とお天気の関係という構成で書いています。主な内容は◯自分の傾向を知ることが来年のあなたの財産になる(だからセルフチェック表をつけよう見本付き)◯低気圧を怖れてばかりいても……敵を知ろう(季節ごとの天気の解説)◯低気圧に影響されにくい打たれ強い体になろう(交感神経と副交感神経の底上げ方法)小林先...「天気に負けないカラダ大全」

  • 「台形日誌」

    「台形日誌」(伏木庸平著2023年5月晶文社)読みました。「台形」?「台形」というのは国立でやっている予約制の食べ物屋の名前。エッセーのつもりで読みはじめたらプリンが食べたいとねだる謎の電話の話や首吊りパフォーマンスの家で出てきた得体の知れない鍋の話や刑事が来て監視カメラを設置させてくれと言ったという話にえ、ほんとのことなの?でも、写真があるし……と、どう読んでいいか分からなくなる。「僕らはどこへ行くにも暗い夜とそれを越えた明るい朝を体験しないことにはその土地が見えてこないと思っているから」と旅では必ず一泊する。「料理って栄養だけじゃないんだよ美味しいが正解だけど美味しいだけじゃ足りないんだよ」著者は朝4時に起きて刺繍をする。「毎日糸を刺すという生活と同化した行為によって現れてくる糸の塊」をつくっている。...「台形日誌」

  • 「枝元なほみのめし炊き日記」

    「夜のパン屋さん」(売れ残ったパンを販売する)活動をしている料理研究家の枝元なほみさんを(テレビで)見かけなくなったと思ったらコロナに罹って以後酸素が必要になっているらしい「枝元なほみのめし炊き日記」(枝元なほみ著2023年9月農分協)を読みました。コロナでいろいろなことが変わった高校生、中学生を描いた小説の余韻が残っているうちにコロナでいろいろなことが変わったおとなのエッセーを読んでしまった。ある学校でゲストティーチャーをすることになったら「家庭科の先生」と紹介されてもやもやしたという。(わたしは家庭科という教科の奥行きと幅を感じているのでそうでもありません)でも、枝元さんは炊事洗濯家事育児が大好きなのだ。(子どもはいない)料理が大好きなのに今、枝元さんはガス火で料理が出来ないでいる。(少しは可能)「コ...「枝元なほみのめし炊き日記」

  • 「この夏の星を見る」

    「この夏の星を見る」(辻村深月著2023年6月角川書店)を読みました。コロナの時のことを記録しておかなくてはと思ったけれど書いていない。そして、気がつけば忘れかけている……中学生と高校生を主人公にしたコロナで学校が休校になったあたりの話です。(辻村さん、さすがです)地元の中学校に入学した真宙[まひろ)は学校に行くのが嫌になっている。コロナ休校が有難いくらいだ。学校は、街中にある学年ひとクラスの小さな中学校で入学してみたら学年に男子は自分一人なのだ。人数が少ないせいでサッカー部もない……高校生の亜沙は突然休校になって部活も出来なくなったことに愕然としていた。亜沙の所属している天文部でも最大のイベント夏合宿が許可されないことになった。夏合宿どころか通常の部活動さえも出来ないかもしれない……五島列島の高校生円華...「この夏の星を見る」

  • 「これまでの経済で無視されてきた数々のアイデアの話」

    「アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?」のカトリーン・キラス・マルサルの「これまでの経済で無視されてきた数々のアイデアの話イノベーションとジェンダー」(2023年8月河出書房新社)を読みました。タイトルにはアイデアとあるけれどう〜ん、見方といったところでしょうか。最初に出てくるキャスター付きスーツケースの話が面白い。(最近は、キャスターの付かないスーツケースを持っている人はほぼ皆無)スーツケースとキャスターそれぞれはずっと以前からあった。それなのになぜキャスター付きスーツケースは「存在」しなかったのだろうか?文化がなかったからだと著者は言う。旅行は召使を連れて行くようなお金持ちのものだったから女性は一人では旅をするものではなく男たるもの重いスーツケースぐらい持てなくてはならなかったから駅にポーターがいた...「これまでの経済で無視されてきた数々のアイデアの話」

  • 「漢詩の手帳 いつか たこぶねになる日」

    「漢詩の手帳いつかたこぶねになる日」(小津夜景著2020年11月素粒社)を読みました。(小学生のころ海辺に住んでいたので友だちからよくたこぶねをもらったものでした)漢詩……著者はフランス在住の俳人です。漢詩というと高校の時の試験に出た書き下し文を思い浮かべるけれどそれは訳文ではないと著者は言う。(なるほど)漢詩と訳文とエッセーと俳句で構成されている。壊れた時計を売っている老人から時計を3つ買った。「コーヒーを飲んでいてふと、こんなふうにばらばらの時を奏でる時計に囲まれて一服するのはものすごく瞑想的なクリエーションなんじゃないかとの思いにかられる」「寒くなったわたしは気をまぎらすためにおいしいハムとクロワッサンのことを考えたさみしさもどうにかしたくてサーカスのパレードを胸いっぱいに思い描いた」「空気が好きで...「漢詩の手帳いつかたこぶねになる日」

  • 「自分のために料理を作る」

    「自分のために料理を作る自炊からはじまるケアの話」(山口祐加著2023年8月晶文社)を読みました。(私も自分ひとりの食事だと何でもいいやになってあるもので済ませてしまいがちなので)6人の応募者が(管理栄養士毎日夕食は作っている在宅勤務の夫ひとり暮らしの還暦近い女性など)山口さんとの料理や会話を通して変わっていくところが読みどころです。「今の世界で生きている人が仕事であってもなくても自分のやりたいことをやって楽しく生きてほしいというのは常々思っている」著者が応募者にまず言うのは「自分に何を食べたい?と聞いてみること」(そう言えば、自分が何を食べたいかをもう長いこと考えていなかったなぁ)自分に聞くの発展形として一品ずつ作るという方法も提案している(小料理屋方式)一品目を作る→食べる次に何を食べたいかと自分に聞...「自分のために料理を作る」

  • 「源氏物語を楽しむための王朝貴族入門」

    「歴史文化ライブラリー578源氏物語を楽しむための王朝貴族入門」(繁田信一著2023年10月吉川弘文館)来年の大河ドラマの影響で「源氏物語」系の本が次々に出版されているのでその中の一冊を読んでみました。「歴史文化ライブラリー」の中の一冊だそうだけれど意外に読みやすい。光源氏の母の桐壺更衣は本当は「壺」(部屋)を持てる身分ではなかった。(え?)女御は「壺」に住むことが出来たけれど更衣は宮廷のスタッフという格なので(天皇の寵愛を受けることの出来るスタッフ)本来はスタッフ部屋に住んでいるはずだったけれど天皇の寵愛を受けて一番遠い桐壺に部屋を与えられたとか天皇の皇子は宮廷で育てられるのではなくて母の里方で育てられるのが普通なので光源氏の着袴の儀が宮廷で天皇自らの指揮のもとに行われたのはとても異例なことだったとか天...「源氏物語を楽しむための王朝貴族入門」

  • 「宙わたる教室」

    「八月の銀の雪」の伊予原新の新作が出たので読みました。「宙わたる教室」(伊予原新著2023年10月文藝春秋社)定時制高校に科学部を作ろうと思う教師の藤竹は科学者としての観察眼を生かして何人かの生徒に声を掛ける。登場人物たちがその人物を「知る」ことにより読者もそも人物を「知る」ことになる。(閑話休題実は、某冒険家のことがあまり好きでありませんでした。以前講演を聞いた時に何だかなぁと思ったためかもしれません。でも、少し前新聞で彼のこれまでの闘病の経緯を「知って」考えが変わりましたすごいじゃない、と)ディスレクシアに苦しむ岳人保健室登校をしている佳澄ずっと憧れていた高校に入学したものの数学の壁にぶつかっているアンジェラ金の卵として就職して、70代になっている長嶺……数学の壁にぶつかって退学しようかと悩むアンジェ...「宙わたる教室」

  • 「でぃすぺる」

    「でぃすぺる」(今村昌弘著2023年9月文藝春秋社)を読みました。「屍人荘の殺人」の著者の新作(ディスペルは闇を晴らすという意味)小学6年生が主人公ということは児童向けなんでしょうか…「屍人荘」と同じように、ばたばたと人が死んでゆくけれどそれは、6年生の2学期の係決めの時だった。このところオカルトにはまっていたユースケは掲示係に立候補した。掲示係になれば壁新聞が作れる→みんなにオカルトの話を読んでもらえる。と思ってのことだった。ところが驚いたことに1学期まで学級委員長だったサツキも掲示係に立候補したのだ。それに転校生のミナが加わって掲示係は3人になった。サツキは従姉の(殺された)マリ姉がパソコンに遺した「奥郷町の七不思議」について調べたいのだという。いまだに分かっていないマリ姉の死の真相が知りたい…3人は...「でぃすぺる」

  • 「無限の月」

    「ゴリラ裁判の日」(第64回メフィスト賞の受賞作)の須藤古都離の新作「無限の月」(須藤古都離著2023年7月講談社)を読みました。須藤古都離は先祖返りをしたような作家だと思う。まだラジオやテレビの無かった時代「語り」が娯楽だった時代(源氏物語だって一人の女房が声に出して読むのを皆が聞くものだったというから)に返ったかのように自分が経験していないことを経験したかのように「語る」作家だと「ゴリラ裁判の日」読んで思った。「無限の月」でも「語」ってくれる。ある夜徐春洋の家中の家電のスイッチが一斉にonになる。(スマホ管理)そして、春洋が配線をした村の他の家でも同じことが起こる。春洋のスマホには「助けてくれ」の文字が流れていた……聡美は夫と離婚しようと思っていた。ある日、家の洗面所で自分のものではない口紅を見つけた...「無限の月」

  • 「ナイフをひねれば」

    ホロヴィッツの新作「ナイフをひねれば」(ホロヴィッツ著2023年9月東京創元社)を読みました。作者と同じ名前の主人公・ホロヴィッツ(作家、脚本家)が勾留されてしまうリアルなシーンからはじまる。ホロヴィッツ脚本の舞台を見に来ていた評論家のハリエットが殺されたのだ。ハリエットは評論で舞台をこき下ろしていた。これで、もう児童書は売れないな……などと考えるところが可笑しい。元刑事ホーソーンに助けを求めるとホーソーンと同じアパートに住む凄腕のハッカー青年のおかげでホロヴィッツは一時保釈される。与えられた時間は48時間。ホーソーンはホロヴィッツを連れてハリエット殺害の夜ホロヴィッツと共に居た舞台関係者をひとりひとり回って歩く。関係者は7人。ところがホーソーンはいきなりロンドンを離れる。(なぜ?)モクサム・ヒースという...「ナイフをひねれば」

  • 「古本食堂」

    「古本食堂」(原田ひ香著2022年3月角川春樹事務所)を読みました。亡くなった兄の慈郎が営んでいた古書店を何とかしようと(引き継ぐか畳むか)北海道から上京した珊瑚第三子だからさんこと名付けられようとしていたところをせめて珊瑚にしてくれと両親に頼んだのは6才の慈郎だった。右も左も分からない珊瑚を周囲の人たちは何かと助けてくれる。慈郎に進路の相談をしたことをきっかけに古書店に出入りするようになった慈郎の兄の孫・美希喜(みきき)見聞きという名前を付けてくれたのも慈郎だった。大学院に通う傍ら美希喜は古書店を手伝うようになる。北海道にロマンスの欠片を残して来た中年の珊瑚とは対照的に古本屋の階上にある出版社の社員・建文(見聞)小説家志望の青年奏人(かなと話す人)に好意を寄せられているのに若い美希喜は全く関心がない……...「古本食堂」

  • 「博物館の少女 騒がしい幽霊」

    「博物館の少女騒がしい幽霊」(富安陽子著2023年9月偕成社)を読みました。「博物館の少女怪異研究事始め」の続編です。児童書両親を亡くしたイカルは大阪から東京に来て母方の遠縁の大澤家に身を寄せ上野の博物館の附属施設・怪異研究所で働いている。(イカルは14才)研究所の所長は織田賢司(織田信長の末裔でトノサマと呼ばれている)友だちには絵師・河鍋暁斎の娘トヨがいる。たまたま博物館に来ていた山川捨松と大山巌夫妻を案内したことからイカルは捨松の兄の山川健次郎に頼まれて大山家のポルターガイスト現象の捜査をするために家庭教師として潜伏することになる。大山巌と亡くなった先妻との間には7才になる長女の信子と二女の芙蓉子がいた。捨松は会津藩の武士の娘で11才の時から10年間アメリカで暮らし大学に入って看護学も学んでいた。日本...「博物館の少女騒がしい幽霊」

  • 「可燃物」

    「推し」ミステリ作家米澤穂信の新作が出たので読みました。「可燃物」(米澤穂信著2023年7月文藝春秋社)短編集です。主人公は群馬県警の刑事部捜査一課長・葛(かつら)警部年齢も家族の有無も書かれていない。食事は菓子パンとカフェオレ(手っ取り早く血糖値を上げるため?)それにビタミン剤を足したりする。スキー場のバックカントリーの崖下に転落していた他殺死体でも凶器が見つからない「崖の下」真夜中の交通事故の目撃者が4人もいて全員の証言が一致している「ねむけ」湿地帯の木道の周辺にバラバラに切断された死体が発見された「命の恩」ゴミ集積所のゴミ袋が燃える連続放火事件「可燃物」ファミリーレストランで起こった立てこもり事件「本物か」「お前の捜査手法は独特だ。どこまでもスタンダードに情報を集めながら最後の一歩を一人で飛び越える...「可燃物」

  • 「言葉の園のお菓子番 復活祭の卵」

    「言葉の園のお菓子番復活祭の卵」(ほしおさなえ著2023年9月大和書房)を読みました。「見えない花」「孤独な月」「森に行く夢」と来て第4巻は「復活祭の卵」一気に明るくなりました。ブックカフェ「あずきブックス」で働いている一葉は祖母の遺言に従って連句会「ひとつばたご」にお菓子を持って挨拶に行ったのをきっかけに連句会に入ることになる。祖母がやっていたお菓子番も引き継ぐ。一葉は、まあ、かげの薄い主人公ではある。数年前に大河ドラマ「鎌倉殿の十三人」を一年を通して見て(久しぶりに)主人公は脇役でもあるのだなと思った。エピソードによっては主人公が脇役を引き立てるのだ。主人公の一葉は、そんな存在。今回は「ひとつばたご」主宰の航人さんにスポットが当たる。そして連句の大会というのが山場。そこで航人さんは別れた妻に再会し一葉...「言葉の園のお菓子番復活祭の卵」

  • 「人類学者と言語学者が森に入って考えたこと」

    伊藤勇馬の「ムラブリ」を読んで最終章にちょっと違和感を感じた。その違和感はいつまでも私の中に残った。久しぶりの「閉じない」読書だった。で、続いて出版された「人類学者と言語学者が森に入って考えたこと」(奥野克巳伊藤勇馬著2023年8月教育評論社)を読みました。奥野克巳は伊藤よりは20才ほど年上でボルネオ島のプナンという狩猟採集民を長年研究している人類学者。伊藤はタイとラオスに住むムラブリという狩猟採集民を研究している言語学者だ。人類は国家というものを営むようになってまだ400年もたっていない。それに対して狩猟採集民としての歴史は長い。こっちが普通ではないのだ。伊藤は言う。最初はムラブリ「を」(対象として)研究し次にムラブリ「ととも」に研究し今ではムラブリ「として」研究している。大学を辞めてフリーの研究者とし...「人類学者と言語学者が森に入って考えたこと」

  • 「シンデレラはどこへ行ったのか」

    「シンデレラはどこへ行ったのか少女小説と「ジェイン・エア」」」(廣野由美子著2023年9月岩波新書)を読みました。著者は、NHKの「100分で名著ホームズ」に出ておられた廣野由美子シンデレラというよりは「アフターアガサ・クリスティ」ならぬ「アフタージェイン・エア」といったまとめ方です。著者はこの本を「京都大学での定年退職を前にこれまでの文学研究の道筋を振り返りひとつの区切りとして少なからぬ勇気を持って書き起こしたものである」と言っている。「少女小説」も「ジェイン・エア」も決して現代的なテーマではないだけにそれは頷ける。シンデレラとジェイン・エアの共通点は何だろう?親がいないこといじめられていた(継母や姉などから)けれど最後には居場所を得ること。違いは何だろう?シンデレラには王子が現れるけれどジェイン・エア...「シンデレラはどこへ行ったのか」

  • 「スナック墓場」

    「襷がけの二人」がよかったのでもう一冊嶋津輝の「スナック墓場」(嶋津輝著2019年9月文藝春秋)を読みました。短編集です。「姉といもうと」という短編の妹が「襷」のお初さんの原型かな。(大柄なところとか)姉の里香は会社を辞めた後、家政婦をしている。幸田文が好きだからだ。気分は幸田文の「流れる」の主人公で芸者屋の住み込み女中の梨花。今はマンションで2人暮らしをしている保母(という姓)夫妻の家に朝から夕方まで週5日行っている。妹の多美子は大学を出た後ラブホテルのフロント業務をしている。多美子は手指の一部がない。でも、家事も運動も何でも出来る。ラブホテルの経営者の荻野夫妻に多美子は子供の頃から可愛がられていた。父も母も死んで姉妹は2人暮らしだ。そんなある日多美子は恋人を連れて来た。大学生の頃に家庭教師をしていた時...「スナック墓場」

  • 「どこにもない編み物研究室」

    「どこにもない編み物研究室日本の過去・未来編」(横山起也著2023年8月誠文堂新光社)を読みました。「どこにもない編み物研究室」の続編です。(待ってました!)前著が現在編だとしたら本書は未来編。(歴史も紹介しているけれど)後半の未来編がとても面白い。高度経済成長の時代に手作り文化はぱたりと途絶えたけれどコロナの時期若者の目は再び手作りに向くようになったという。「ニットってとんでもないぞ」の章で紹介されている村松啓市自分でも作る技術を持った「編めるデザイナー」で大量生産では作れない手作りのよさを最大限引き出すデザインを考えてその作り方を作り手に教えて育てていくプロジェクトをやっている。家庭用編み機を使った製品も作っている。国産羊毛の糸も使っている。「手芸はコミュニケーションツールだ」と思っている。「枠を越え...「どこにもない編み物研究室」

  • 「本のある空間採集」

    「本のある空間採集個人書店・私設図書館・ブックカフェ」(政木哲也著2023年8月学芸出版)を読みました。いつも行く書店は2ヶ所あんまり長居していないいつも行くカフェは1ヶ所結構長居している(本を読んだり)本当は書店で長居したいいつもの書店にカフェスペースがあればなぁというのは「Title」のページに店の奥にカフェ・スペースがあるのは「Titleは、あくまでも書店でカフェは本を求めに来た客のとっておきの楽しみなのである」と書かれているのを読んで思ったことなのだけれど(Titleがブックカフェなのは知っていたのですがカフェ・スペースが奥だということを初めて知りました)ルチャ・リブロ(私設図書館)火星の庭(仙台にあるブックカフェ)オヨヨ書林蟲文庫弐拾dB(営業時間23時〜27時)汽水空港ロバの本屋橙書店……名前...「本のある空間採集」

  • 「アフター・アガサ・クリスティー」

    「アフター・アガサ・クリスティー犯罪小説を書き継ぐ女性作家たち」(クライン著2023年7月左右社)を読みました。面白い視点ですアフターアガサ・クリスティーその後のミステリ界がどうなっているかなどとは考えたこともなかった……(女性ミステリ作家界)著者は執筆中に2度の入院をし(現在は亡くなっている)コロナ禍でインタビューも思うように進まなかった。そんな中で警察を舞台にした小説(女性警察官はすくなかった)マイノリティが登場するもの(レズビアンの主人公も登場するようになったし心身の障害者や黒人、アジア人なども主人公になるようになった)警察官以外の職種の人物(法医学関係者司法関係者)が登場するものも描かれるようになったと章立てて書かれています。(自閉症の女性が事件を解くドラマ「アストリッドとラフェエル」科捜研が舞台...「アフター・アガサ・クリスティー」

  • 「ネガティブ・ケイパビリティ」

    最近テレビでも取り上げられたネガティブ・ケイパビリティ。ちょっと知りたくなったので「ネガティブ・ケイパビリティ答えの出ない事態に耐える力」(帚木蓬生著2017年4月朝日新聞出版)を読みました。ははき著者の帚木蓬生は精神科のお医者さんでもあるのでたくさんの「すぐに解決できない事態」に出会っている。ネガティヴ・ケイパビリティというのは詩人のキーツ(1795〜1821)が弟への手紙に記した言葉であるという。それも、たった一回だけ。それを見出したのはイギリスの精神科医のビオンという人だった。患者と分析者(治療をする人)が向き合ったとき分析者が持っていなければならないのがネガティブ・ケイパビリティだとビオンは言う。若い分析者たちが理屈を当てはめて患者を理解しようとするのを危惧したビオンは「不可思議さ、神秘、疑念をそ...「ネガティブ・ケイパビリティ」

  • 「からさんの家」

    「からさんの家まひろの章」(小路幸也著2023年8月徳間書店)を読みました。「東京バンドワゴン」で大家族を描いた小路幸也が今度は血のつながりのない人たちの暮らしを描いています。神野まひろは高校を卒業したばかり。ところが就職先に不祥事があって採用が取り消しになり母が再婚することになり仕事のあてと住居を一気に失うことになったところに母の再婚相手の母(義祖母)のからさんの家に住み込んでの家政婦兼秘書という仕事が転がり込んできた。母といってもまひろの実母ではない。実父母はまひろが幼い頃に離婚し間もなく再婚した父と再婚相手は事故で亡くなり母は「父の再婚相手の妹」なのだ。母の欠落というのは児童文学の要素としてよくあるけれどこれはまた大きな欠落を持った主人公の設定だ。からさんは72才。詩人で画家。他の住人たちも何かしら...「からさんの家」

  • 「ザイム真理教」

    今話題の「ザイム真理教それは信者8000万人の巨大カルト」(森永卓郎著2023年6月三五館シンシャ)を読みました。ちなみに「三五館シンシャ」というのは倒産した三五館という出版社の社員だった人が立ち上げたひとり出版社。日記シリーズを出版している。(この本、あちこちの出版社で出版を断られたと森永さんは言っている)ザイムというのは財務省のこと。政治家は財務省の言いなりだよと森永さんは言う。経済オンチで経済のことはさっぱり分からないけど(かなり分かりやすく書いてくれていると思うけど)そんな私が「そうか」と思ったのは◯結婚した人たちはおおむね子どもをもうける。少子化の解決策は手厚い子育て支援ばかりではなく結婚したいけれど収入が低くて結婚しないでいる人たちに結婚しようかなと思ってもらえるように収入増を図るということな...「ザイム真理教」

  • 「ぼっけもん 最後の軍師 伊地知正治」

    「ぼっけもん最後の軍師伊地知正治」(谷津矢車著2023年6月幻冬舎)を読みました。明治維新に活躍した薩摩藩出身者といえば西郷隆盛と大久保利通彼らに次ぐ第3の男がいた?その第3の男・伊地知正治を描いた作品です。大村益次郎(司馬遼太郎の「花神」を読んで以来の大ファン)と肩を並べる軍師だったという伊地知特に鳥羽伏見の戦い会津の母成峠の戦いは有名らしい。もちろん本作にもそのシーンが出て来る。(読み応えたっぷり)伊地知の作戦がなければ官軍の勝利はなかっただろう。読ませるのは合戦のシーンばかりではない。伊地知の反対を押し切って台湾出兵を決めた大久保が清に出発する日伊地知は新橋駅に見送りに行く。他に見送りもない。随行員たちも大久保に近寄ろうとしない。「まるで、大久保一人が誰にも見えない小部屋の中に閉じ込められているかの...「ぼっけもん最後の軍師伊地知正治」

  • 「始まりの木」

    「始まりの木」(夏川草介著小学館)を読みました。2010年から小学館の「Story.Box」に連載し2020年に単行本で出てこの度文庫になった作品です。民俗学の助教授・古谷神寺郎(かんじろう)と彼の研究室の修士課程の学生・藤崎千佳(博士課程の学生の仁藤仁も、ちょっとだけ出てくる)が旅をする物語です。口が悪くて無愛想な古谷の研究室に学生は千佳と仁藤の2人だけ。古谷の「藤崎、旅の準備をしたまえ」という一言で、千佳は古谷のお供をして旅に出ることになる。古谷はまだ40代だが以前に事故に遭って脚が不自由になり杖をつかなければ歩くことが出来ないのだ。第1話「寄り道」の舞台は弘前。後半になるにつれて、物語は深みを増していく。第4話の四国が舞台の「同行二人」第5話の大学に戻っての(東京)「灯火」が特にいい。第4話14時間...「始まりの木」

  • 「なぜヒトだけが老いるのか」

    「なぜヒトだけが老いるのか」(小林武彦著2023年6月講談社現代新書)を読みました。体毛問題であるらしい。たまたま(?)体毛を失ったヒトは寒さをしのぐために服を作ったり火をおこしたり家を作ったりするようになって知能が高まった。赤ん坊はしがみつく毛がないので抱き抱えて移動するしかない。食物を採りに行くにも抱えて行くしかない。ここで「おばあちゃん仮説」が登場する。たまたま長寿になる遺伝子を持ったヒトが(子育てを助けてくれたので)多くの子孫を増やした結果集団の中で長寿遺伝子を持ったヒトが多数派になった。おばあちゃんばかりではない。おじいちゃんの居る集団は技術や知識が蓄積され引き継がれたので有利になった。これが生殖年齢を過ぎても生存するようになった理由である。昆虫の世界では生殖に関わる個体と関わらない個体がはっき...「なぜヒトだけが老いるのか」

  • 「神獣夢望伝」

    「神獣夢望伝」(武石勝義著2023年6月新潮社)を読みました。2023日本ファンタジーノベル大賞受賞作です。不快なものから目を背けがちになっている。年とともに、その傾向は強まっていると思う。ファンタジーノベルという看板を見てうかうかと読んだらなかなかのざわざわ感だった本書。都から離れた小さな村で物語は始まる。登場人物は村の自警団のリーダー童樊(どうはん)恋人の舞姫・景(けい)孤児の縹(ひょう)(表紙絵の3人)縹は夜毎不思議な夢をみる。轟音と光雲霞のごとく現れる人天を衝くばかりにそびえる建物どこなのだろう自分はそこに居たことがあるのだろうか……ある日、都の太上神官が視察に訪れる。景の見事な舞を見た太上神官は景に都の神殿の舞姫・祭踊姫(さいようき)になるように命じ景を連れて去る。景と再会するためには都に行き名...「神獣夢望伝」

  • 「パセリカレーの立ち話」

    「パセリカレーの立ち話」(平松洋子著2022年11月プレジデント社)を読みました。パセリカレーのことが知りたくて。「dancyu」30周年記念号特集「本当につくり続けたいレシピ」で1位になったというひき肉と、山ほどのパセリとトマト缶で作るというパセリカレー。東京に「私立珈琲小学校」という喫茶店があるとかサラダの水切り問題。カゴのようなものに入れて風呂場で振り回すサラダスピナーを使うふきんで拭くあるレストランでは、木箱に入れて冷蔵庫に入れておく(わたしも朝のうちに洗ってタッパーに入れて冷蔵庫に入れておく、です)「水気のあるなしはサラダの一大事である」(平松)とか沢野ひとしさんは1番上の引き出しを常に空っぽにしておいて翌日に必要なものを入れる場所にしているとか「外食の楽しさは「隠された」ところにある」(平松)...「パセリカレーの立ち話」

  • 「テオティワカンを掘る」

    「メキシコ古代都市の謎テオティワカンを掘る」(杉山三郎著2023年6月朝日新聞出版)を読みました。東京国立博物館で「古代メキシコ展」が行われたがテオティワカン文明について書かれた良書がないと思った著者(ゲストキュレーター)が書いたものです。テオティワカン文明は紀元前から紀元後6世紀までメキシコ中央高原に栄えた。月のピラミッド太陽のピラミッド羽毛の蛇ピラミッドなどが死者の大通りの周辺に配されている。都市の人口は10万人(!)図と写真ページがが数ページごとにあってとても読みやすい43年間も掘り続けている著者でなくてはこれほどの資料は持っていないだろう第2章では発掘のことが詳しく語られる。メキシコのピラミッドは前の時代のピラミッドに重ねるように建造されるので月のピラミッドなどは8層にもなっている。それを剥がして...「テオティワカンを掘る」

  • 「人類三千年の幸福論」 ヤマザキマリ

    「人類三千年の幸福論」(ヤマザキマリルマニエール対談2023年5月集英社刊)を読みました。ニコル・クーリッジは2019年に大英博物館で行われたマンガ展「TheCitiexhibitionManga」で主任キュレーターだった人。ヤマザキマリは「テルマエロマエ」をかいた漫画家。「人類三千年」というすごい題がついているけれど知識の豊富なヤマザキマリなのであちこちに話題がとぶのをクーリッジが受けるという形のそんなに固くない対談です。クーリッジとヤマザキマリには交通事故に遭って大怪我をした若いころに生まれた国から出て異文化の中で暮らしたという共通点がある。クーリッジは漫画を新しい視覚言語だと考えている。悪書と言われた時代もある漫画が新しい視覚言語!(愛漫画家であるわたしも子どもの頃は漫画を買ってもらえなかったので立...「人類三千年の幸福論」ヤマザキマリ

  • 「心はどこへ消えた?」

    「心はどこへ消えた?」(東畑開人著2021年9月文藝春秋社刊)を読みました。大佛次郎論壇賞紀伊國屋じんぶん大賞を受賞した「居るのはつらいよ」の著者の本です。著者は言う。心は後回しにされがちだ。頭が痛い時、色々な検査をして体に異常がないとなったらはじめて原因は「心」にあるのではないかとなる。クライエントは環境を変えたり、お祓いに行ったりしてもどうにもならなくなってはじめてカウンセリングに来る。「心」がもてはやされていた時代は終わったのだろうか?と言っても、週刊誌に連載されていた話だからそんなに固くはない。でも、まあ全部がすっかり飲み込めるわけではない。発想が違うのだ。そこが面白くもあるし、難しくもある。(分かるものばかりを読んでいてはいけないと何かで読んだ)途中とちゅうに挟み込まれているカウンセリングのエピ...「心はどこへ消えた?」

  • 「木挽町のあだ討ち」

    「木挽町のあだ討ち」(永井紗耶子著2023年1月新潮社刊)を読みました。直木賞受賞作です。ものすごく面白いと聞いたので読んでみました。確かにページを捲る手がとまらなくなる。江戸の芝居小屋の外で睦月の晦日の日雪の降る中菊之助という若い武士が父親の仇を討つ。2年後それを見ていた人たちに菊之助のゆかりらしい若い武士が話を聞いて回るという設定だ。この「話」というのが面白い。菊之助は若い武士に語り手の「これまで」も聞くようにと指示していた。この「これまで」が面白いのだ。木戸芸者(芝居小屋の外で呼び込みをする男)の一八は廓の遊女の子として生まれた。はじめは太鼓持ちをしていたがさっぱり売れない。師匠に「本音では女郎を買いに来る男が嫌い」という者に太鼓持ちはつとまらないと言われて流れ流れて木戸芸者になったという語りが、い...「木挽町のあだ討ち」

  • 「三人書房」 江戸川乱歩の古本屋

    「三人書房」(柳川一著2023年7月東京創元社刊)を読みました。70才の著者のデビュー作です。(69才の時に第18回ミステリーズ新人賞を史上最年長で受賞)江戸川乱歩が2人の弟と営んでいる「三人書房」にはさまざまの人が訪れる。「北の詩人からの手紙」では宮沢賢治が。「光太郎の首」では高村光太郎が。5編の短編が収録されている。どれも「三人書房」の人たちが絡む。面白かったのは「光太郎の首」高村光太郎は宮沢家を頼って岩手の花巻に疎開し、山の小屋でひとり暮らしをしている。(小学生の時に行ったことがあります)その光太郎が回想するという形で書かれている。光太郎が依頼を受けて製作したブロンズ像が盗まれる。最初に人形遣い・竹田治平の首半月後に元関取・大山太一の首(未遂)ひと月後に資産家・藤堂満の首が。凝り性の藤堂満は、一時期...「三人書房」江戸川乱歩の古本屋

  • 修道士カドフェル・シリーズ11 「秘跡」

    修道士カドフェル・シリーズ11「秘跡」(ピーターズ著光文社文庫)を読みました。戦火によって焼けてしまった修道院から長い旅をしてシュルーズベリ修道院にたどり着いた2人の修道士ヒュミリスとフィデリスヒュミリスというのは謙虚という意味だカドフェルは彼がなぜこの名前を選んだのかと気になった。ヒュミリスは40代ながら兵士だった時に負った重い傷でままならない身体になっていた。彼を献身的に介護する若いフィディリスは口がきけないのだという。死期をを悟ったヒュミリスは故郷の荘園を一目見たいためにシュルーズベリに来ることを選んだのだ。ミステリながら人は死なない。修道院の人たちとカドフェルの友人の執行長官ヒューを振り回す事件はヒュミリスの許婚だったジュリアンの行方不明事件だった。修道院に入ったヒュミリスは使いを送って婚約解消を...修道士カドフェル・シリーズ11「秘跡」

  • 修道士カドフェル・シリーズ10「憎しみの巡礼」

    修道士カドフェル・シリーズ10「憎しみの巡礼」(ピーターズ著光文社文庫)を読みました。(カドフェルが遺骨をすり替えた)あの奇跡を起こす聖女ウィニフレッドを祀る日が近づきシュルーズベリ修道院は賑わっていた。若い人の少ない巡礼者の中で目立つひと組があった。賑やかに話す女商人のアリスとその姪のミランゲル甥で足の不自由なルーン。3人は、ルーンの足の回復を聖女に願うためにやって来たのだ。3人と連れになったらしい2人連れの青年は胸に大きな十字架を下げて裸足で歩くキアランとその連れのマシュー。キアランからかたときも離れようとしないマシューは兄弟でもなく、友だちでもないようだった。いったいどんな関係の2人なのか……(タイトルにある「憎しみの巡礼」とは誰のことなのか)薬草を栽培し、薬をつくり、修道院の医務役となっているカド...修道士カドフェル・シリーズ10「憎しみの巡礼」

  • 「さみしさは彼方」 書店カライモブックスの日々

    「さみしさは彼方カライモブックスを生きる」(奥田直美奥田順平著2023年2月岩波書店刊)を読みました。石牟礼道子に惹かれ水俣や天草に通っていた奥田直美・順平は故郷の京都に書店を開いて暮らしていくことにする。そこで考えた書店名が「カライモブックス」カライモとはサツマイモのことだ。しんとしたひとりの世界に生きているような直美それを窓から眺めているような気持ちで暮らしている順平娘の道(みっちん)の三人のくらしが見える。道は「かぜはみえへん」と言う。お父さんにも他の人にも見えているのに自分だけが見えていないと思っているようだ。「しんだら(救急車で)びょういんにいってなおすんやろう」と言った道に「死んだらおしまい。もう元には戻らへん」と言ったら大泣きした。えらそうなことを言っていいのに石牟礼道子は言わない水俣関連の...「さみしさは彼方」書店カライモブックスの日々

  • 「ムラブリ」 森の民の言葉

    「ムラブリ文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと」(伊藤雄馬著2023年2月集英社インターナショナル刊)を読みました。ムラブリは、タイとラオスの山岳地帯に住む少数民族だ。今は定住もしているけれどもともとは森で移動しながら暮らしていた。著者は、ムラブリの話す言葉、ムラブリ語の研究者だ。ムラブリ語は歌うように話される。文字はない。森を出て定住しているムラブリの村に住んで著者は調査をした。スーツケースにタイ語の辞書や調査票、身の回りのものを入れていた。泊めてくれた村長のタシーはスーツケースを見て「ものがとても多いね」と言った。ここがスタートだった。タシーはとても優れた調査協力者だったのでムラブリ語の「基礎的な語彙の収集」と「音の体系調査」はとてもうまくいった。音の調査には苦労した。母音が10もあ...「ムラブリ」森の民の言葉

  • 「師弟百景」

    「師弟百景技をつないでいく職人という生き方」(井上理津子著2023年3月辰巳出版刊)を読みました。小学生の時に家にあった(なぜあったのか)「あととりはいないのか」という本を読んだことを思い出しました。その頃から言われていた伝統的な技の後継者不足今は、どうなっているのでしょう。取り上げられているのは庭師仏師染色家刀匠宮大工茅葺き珍しいところで英国靴職人宮絵師洋傘職人……各章の扉には師匠と弟子が向かい合った写真がある(表紙と同じ)意外だったのは弟子よりも師匠にウエイトが置かれているところ。掃除は新入りの仕事的な徒弟関係には意義を感じない。(染色家志村洋子)入門して2週目には材料作りを教えられ、コテをプレゼントした。弟子のモチベーションを上げる仕組みを構築して来たのだ。(左官田中昭義)「背中を見て覚える」と「無...「師弟百景」

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