主に純文学小説を最近は載せています。
連載的でもありますが、大体読みきり作品(一話で完結的な意味を持つ)が多いです。
深夜零時半、ひとりの少女が、人けのない路肩を歩いている。 この少女は、何を考えているのか。 その顔は、何かに怯えているようにも見える。 その顔は、何かを待ち望んでいるようにも見える。 ほんの一瞬、目を離した隙に、少女が味わったものを。 それは目の前で今起きている。 誰かが糸を切ったんだ。 天から繋がれた糸を、誰かが切ったんだ。 脚が頭の上に載って腕は胴体の下にある。 それらは六つの個の生物のように地面の上でのたうっている。 断末魔の苦しみにたった独りで、誰もいないこの場所で。 少女は見開いた目で涎を垂らし、自分を包む闇を見つめている。 此処に、自分以外の誰もいないことを知る。 数日間の後、 少…
俺はこの先も、人間を愛するだろう。 愛するほど、その者を殺したくなるだろう。 俺は目に見える。 正面に美しい君がいてその顏面にショットガンの銃口を突きつける。 真っ赤な蓮の花のように散らばる肉片、醜い肉の塊。 それが君のすべてであるし俺のすべてなんだ。 これ以上の美しさなど、どこにもない。 Gang Gang Dance - Lotus (Official Audio)
そこには神が燃えていた。 だがよく見ると、それは街であった。 暗黒の夜に静かに、街が燃えていた。 煌々と燃え盛る炎のなかで、馬の嘶く声が聴こえていた。 馬は蒼褪め、死者のような色をして街の広場で燃えていた。 傍には涸れたみずうみがあった。 この近くの教会で式を挙げた夫婦が翌朝、この水辺で死んでいた。 真っ白な婚礼衣装が真っ赤に染まってゆく過程を堕ちた者が眺めた。 白布の裂け目から、息子は降りて行った。 壁も床も椅子も幕も血の様に赤い劇場で今夜の劇が始まる。 息子は黒い帽子と黒いマントを脱いで一番前の中央に座った。 幕が静かに開くと一人の老人が真ん中に立ち、複雑な表情でこちらを見詰めている。 舞…
右の手にはイエス、左の手には洗礼者ヨハネが立つ。どちらが本物の救世主、エリヤだと想う?天はかしら。爪先は温泉に浸かっている。腹には死が宿っている。彼女が産むのは誰なのか。産みの聖母よ、貴女は誰の子を産むつもりか。子宮のような洞窟で、男が詩を読んでいる。医者から持ってあと半年だと言われ、この地に遣ってきた。男は誰かに話し掛けるように話し出す。子が、親の年までも生きないで死ぬのは、どれ程の罪か、考えたことはあるかい?死者を救う方法は一つしかない。我が魂を灰と見なし、これに火をつけて燃え上がらせる。これを心から信じ続ける者だけが死者を救える。その魂だけが、燃え尽きることはない。その魂は燃え続け、そし…
男は洞窟のなかで酒の入ったカップを手に、一人の幼い少女に話し掛ける。季節は真冬だというのに足は脛まで水に浸かりながら。 聴いてくれ。一人の愚かな男が、たった一つの救いをそこに見つける。なんだと想う?男は見つけたんだ。やっとそれを。泥沼のなかにね。男は一人の男を助ける。彼は泥沼のなかで、苦痛の表情に顔を歪めていた。今すぐ助けが必要なんだ。でもこれは命懸けだぞ。男は自分に問い掛ける。いいのか。俺はこれで死ぬかも知れない。泥沼の底で、息もできなくて男と共に死んでしまうかも知れない。失敗は許されない。だが男がそんなことを考えている間に目の前の男は今にも死にそうな顔をしている。嗚呼、これはまったく、時間…
男は微笑み、そこに見える幼い少女に向かって話し掛ける。面白い話をしてあげよう。独りの死に至る病の男が、或る夜、 酒に酔って泥沼のなかにはまってその底で眠ってしまう。すると一人の孤独な悲しい女がその男を見つけ、助けようとする。沼の岸辺で力尽き、 女が苦しんで息をしていると男が眠りから目を醒ましてこう言う。これは一体何の真似だ?ぼくは沼底にずっと住んでいたんだ。男は言い終わると同時に声を出して笑い始めた。男は笑いながら続けた。ぼくを救うとはすなわち、 ぼくをまた地獄へと舞い戻すということか。止してくれ。男は急にまともな顔をする。ぼくはやっと此処に、この故郷に辿り着いたんだ。このまま、ぼくは此処で死…
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