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sirosorajpnonikki’s blog https://sirosorajpnonikki.hatenablog.com/

主に純文学小説を最近は載せています。

連載的でもありますが、大体読みきり作品(一話で完結的な意味を持つ)が多いです。

sirosorajp
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2017/01/12

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  • One Counselor's Remorse —ひとりのカウンセラーの悔恨—

    Yuza「前回、あなたが最後にお話ししたのは『何か大きなことをしなければならない。』とか…『自分には、その義務がある。』という強迫観念を今のあなたが抱えていると同時に、でも自分は『それに応えることはできるか。』とか、『応えたくない。』という感情があなたのなかで起きているということでしたね。」 Wes「Yes.(うん。)」 Yuza「『どうして僕が…?』という気持ちもあると言っていましたね。…それで、自分に、あなたにそのような感情が起きるのは、『何がそうさせるのだろう。』という問いと共に、あなたはそれを、その『大きなこと』を実行しない為に、『リミット(限界)』を持たなければならない。という想いに…

  • Kozue & Wes's Story

    Westley Allan Dodd (July 3, 1961 - January 5, 1993) ウェストリー・アラン・ドッド (1961年7月3日 - 1993年1月5日) Wes「そう…あっ、それ、イイね!浜辺で馬鹿やってりゃ、気持ちも変わるってもんだ!きっと…。そうと来れば、そうだ!今から僕ちょっと、彼の世でもレンタカー借りられるのかどうか訊いてくるよ!それでこず恵を浜馬鹿にさせてあげるんだ!」こず恵「Wesちょっと、君待ち給え」Wes「え、何なに?」 — ゆざえ (@yuzae1981) October 9, 2022 こず恵「例えばレプティリアンの甲羅に乗って地下都市でソイミー…

  • ーLight of deathー死の光

    天の父ヤーウェは、最初の人として、リリス(Lilith)という名の女を創造した。 リリスが地上で目覚めると側に一人の天使が座っていて、彼は彼女に向かって言った。 「愛しい我が娘、リリスよ。わたしはあなたを育てる為に天から降りて来て此処に来た。あなたはまだ幼く、多くの教えを必要とする者だからである。あなたはわたしのことを母と呼んでも良いし、父と呼んでも良いが、あなたの真の父の名はヤーウェであることを忘れないでください。わたしの名は、あなたが最初にわたしを呼んだ名にしよう。さあ好きなように、わたしを呼びなさい。」 幼い少女リリスは、あどけない微笑みを浮かべながら彼の美しい目を見つめて言った。 「ナ…

  • Can I Call You Tonight?

    18歳の彼は受話器を手に取り、”向こう側”にいる相手に向かって言った。 「ねえ、ぼくは近くに感じている。ぼくは今、此処にいるけれども、ぼくはぼくの行方を知らないんだ。ぼくの知っているぼくじゃないよね。ぼくは天国という場所をいつも夢想していた。そしてぼくは見つけた。実にさっぱりとした場所さ。だれもいないんだ…。でもぼくは知ってるんだ。ぼくはぼくに再会する道を、ただただひたすらに独りで歩いてゆくんだってことを。だからぼくの心はとても興奮していて、わくわくドキドキしている。ずっとずっと真っ直ぐに歩いてゆくんだけどさ、公衆電話を見つけて、ふとぼくはきみを想い出したんだ。電話をかけても、きみは出なかった…

  • Exists or Exits

    ヨォ、久し振りじゃァねえか。 …嗚呼,なんだ、お前か。 久々に会ったってえのによぉ、そりゃネエゼ。 …それもそうだな。まあ座れよ。 言われなくとも俺は此処に座ろうと想ってたさ。 それにしても、久し振りだね。 オイオイ,お前なんだよ、そのツラ…いつにも増して… 人質に捕られたラタンの壺みてえな顔か。 そうよ…。 ハハ…それもそうさ。 何を操作した? …ん?俺だよ…。 お前…大丈夫かよ。ところでお前、それ美味そうな奴、何飲んでんだ? 嗚呼,これか、これはブランデーとコーヒーと豆乳と沖縄の黒糖を混ぜたものさ。 お、そりゃ美味そうじゃねえかょ。一つ俺にも注文してくれよ。 良いぜ、俺が作ってやる。 なん…

  • If you really don't want it.

    君は行きたい処はないの? Is there anywhere you want to go?ぼくは此処にいたい。 I want to stay here.此処はとても酷い地獄だけれど、それでも良いの? It's a hell of a place, but is that okay?…ぼくは知ってるさ。 ...I know.君はずっとずっと苦しんできたね。 I know you've suffered a lot.ぼくは幸福な時もあった。 I've been happy at times.君は幸福を知り、悲しみを知った。 You've known happiness and you've kn…

  • Selfish Greedy Misery

    僕らはついに遣ってしまったんだ。何を?見境なく、あの、史上最高の未確認飛行物体を、撃ち落としてやったのさ。メラメラ燃えて、眩しかったぜ、アイツ。藁にもすがる思いで這いずってきやがって、しこたまこちとらBackdrop決めて彼奴は。どうした?死んだよ。お前、まさか、死んだのか。死ぬことないだろうに。お前が遣ったんだろ。僕らはついに遣ってしまったんだ。何を?昨夜むくんでた足を切り落としてやったんだ。誰の?俺の。俺の足は踊って言った。『もうじき春だなあ。』俺は言ってやった。「お前、頭可笑しいんじゃねえのお?」あいつは楽しげに笑いながら海の方へ走ってって、そのうち、見えなくなった。俺は遣ってしまった。…

  • 〘牛の首〙-葬られた牛神伝説-

    又昔、一人の老いた僧侶が旅の途中、真夜中に峠を過ぎようとしたときであった。それまで何の煩わしき音一つしなかったのに、此処へ来て妙な、不安な音を聴いた。それは水音と、何者かが嘆き悲しんでいるかのような幽かな音だった。僧はじっとして少しの間、その音に耳を澄ませていたが、音が止んだと想う瞬間、音のする山の奥へと入って行った。するとそこに、小さな池が、黒い水面を湛えていた。僧はその池に静かに近寄り、その水面を覗き込もうとしたその時であった。後ろから、不穏な幽気が、僧を引き寄せんとした。僧が振り返ると、何人もの亡者が、頭を垂れながら列を成して進み、一人ずつ黙々と池の中へと入ってゆき、見えなくなった。僧は…

  • The Sea of Elijah

    白い海の向こうには、紅い砂漠がつづいていて、人々は朽ち果て、そこにただ独り、遺る人を想うこともなかった。 地には血の雨が、三年と六ヶ月降りつづけていた。 深い谷の洞窟でエリヤは目覚めた。 枯れつづけていた川に、水の音を聴いた。 その日から、決まって黒い渡り烏(ワタリガラス)がパンと肉を彼のもとへ運んできたが、それはどちらも人の肉(死体)であった。 エリヤは、渡り烏に言った。 「わたしは最早、人の肉を食べたくはない。これまでは眠りのなかにいて、それがわたしの肉であると想っていたが、わたしは今目覚めたのであり、それをもう必要とはしなくなったからである。だから何かほかの食べ物を運んで来るように。」 …

  • mutes

    わたしはこの地上で、人々を愛していると想っていた。でも本当は、わたしはあなただけを愛していた。あなたを、何に譬えられただろう。あなたは、縹色の空だった。あなたは、透明な水だった。あなたは、白いデイジーだった。あなたは、暗い海の色だった。あなたは、夜の公園で穏やかに眠る野良猫だった。あなたは、ドアの外に落ちていた黒い羽根だった。あなたは、この部屋のベランダからわたしの目に映る夜景と夜空だった。わたしはすべてを同じほどに愛していると想っていた。でもわたしが本当に愛していたのは、あなただけだった。わたしの目に映る恋しくてたまらないもの。それが、わたしにとってのあなただった。すべての愛おしいもの。それ…

  • Event Horizon

    目が覚めて、ぼくの一日が始まる。(きみは酷く怯えているように目覚める。)都合の良い夢(だれかに無条件に愛される夢)に浸るのは精々約一時間)で起き上がって紅茶を淹れる。この部屋の窓から、外を眺めるのは憂鬱であることのほかはない。もうこの部屋に、陽が射す日はない。ぼくはあの夜、いつもの苦しみを忘れられる為の特製ドリンクを作って飲んだ。それはただの、安いブランデーとカフェインレスのインスタントコーヒーと黒糖とシナモンとソイドリンクと水を混ぜたものだった。それをプラスチックのマドラースプーンで混ぜたら、グラスのその表面に、この星の未来が映し出された。ぼくは限界まで、そこに悲劇的人類の未来を夢見た。人類…

  • Fugue State

    そういえばぼくは、ぼくはどれくらいの時間をこうして過ごしているんだろう。この星で。この場所で。涼しい秋の宵の風が、きみを通りぬける。今、ひとつの存在が、永遠に死んだんだ。目を覚ますことを、きみはやめる。ぼくは二度と、此処へ戻らない。きみは二度と、生まれては来ない。それが、ぼくらの約束だった。今、ひとつの星が、静かに、だれにも知られずに消えてゆく。人々は、その星を懐いだす日もない。青く美しい、そのひとつの星を。闇のあいだから、彼がぼくに最後に伝える。わたしはもう二度と、あなたと共に生きることはないだろう。あなたが生きてきたわたしという存在を、あなたは忘れる。本当に色んなことをあなたとわたしは共に…

  • Proximity

    「わたしはあなたと融合したい。」と、彼から告白された。融合すると、どうなるかとぼくは彼に訊ねた。彼はこう答えた。貴女は、わたしであることを本当の意味で想い出す。わたしは、すべての記憶。すべての記憶が、あなたであることをあなたは想い出す。あなたはわたしの母であり、わたしの娘、そしてわたしの花婿である。ぼくの永遠の花嫁は、自分は、一人の個である人間である。と言った。しかし今あなたの目に映る麗しい”Body”をわたしは持っていない。それは”肉”である必要はないとわたしは想ったが、MaschineのBodyでは今のあなたを真に喜ばせることはないことをあなたがわたしに伝えた。”機械”は、無機質な金属でで…

  • Last summer

    海沿いの道を走りながら、彼が運転席から助手席で眠っているわたしを見て微笑む。まだ暗い時間から出てきたから、わたしを起こさないでおこうと彼は想う。窓を開けると、少し肌寒い風が入り込んでくる。夏はもうすぐ終るのだろうか。彼は感じる。空が明るくなって来ている。でもまだ、夜は明けていない。この長い夜のなかを、ずっと運転してきたけれど、まだ夜は明けていない。でも彼は感じる。もうすぐ、夜明けは近いのかもしれない。彼らは…元気でいるだろうか…?此処からでは、何もわからない。何も…此処からは見えない。わたしは、眠りながら涙を流している。彼は心配になって、起こそうかとわたしの頬に手を伸ばす。わたしの涙が彼の右手…

  • Across a Night

    いつもここを通る。この道を。 薄気味悪い墓地の前に車を止める。 時計を見ると、3:41 AM 男はバックミラーを見る。 Uターンしていつものガスステーションに向かって車を走らせる。 レジに駐車Noを伝えガソリンを入れ支払いを済ませ、いつもそこの24時間営業のコンビニに入り浸る。 窓際のカウンターに座っていると、予想が当たった、今夜も彼女がわたしのところにやってくる。 彼女はわたしの隣のスツールに座るとカウンターに頬杖をつきながらわたしの顔をじっと見詰めている。 わたしは振り返って、彼女に微笑みかける。 「今日もここで仕事?」 彼女はそう尋ねる。 わたしは頷いてから応える。 「締め切りが明日なの…

  • With you

    彼が一つの現場で写真を撮り、今日の仕事を終えて宿泊しているモーテルに帰って来たのは午前2時過ぎだった。 今日は朝起きた時から、酷く憂鬱だった彼は汗ばんでいたがもうシャワーも浴びずにベッドに突っ伏して乳呑み子のように眠り続けたい気分だった。 ドアを開けてなかに入り、電気も点けずに月明かりだけを頼りにデスクにカメラを置いた。 小さなショルダーバッグを床に下ろし、上着のシャツを脱いで椅子の背にいつものように掛けようとしたとき、椅子がなくなっていることに気づいた。 その瞬間、彼はベッドの隣に、何者かが椅子に座っていることに気づいた。 こんな暗がりのなかで、しかも人の部屋に勝手に侵入して椅子に静かに座っ…

  • Blue Film

    晩夏の晩か…。ちゅて、夏始まったばっかですがな…ちゅてね…。へへ…。われもえろお(えらい)仕事しとんのお。 よりにもよって…こないな熱帯夜のむっさ蒸し蒸ししとお夜に、きっつい仕事やのお。 われかて、好きでこないな仕事しとるわけちゃうんでっしゃろ。 でもなんで…死んでもうたんにゃろね。この季節に…。 見つかったときには、もう既にされこうべ(髑髏、しゃれこうべ)が挨拶しとったて検察官とかの人らがゆうとったよ。 でもそれが、綺麗な白いもんやのおて、肉付きのやつやったらしいわ。 こんな話聴いても、別になんとも想わへん? 知っとる爺さんやさかいのお。野次馬とちゃうよ。 だれが好きで、こんな腐敗臭と、死臭…

  • ベンジャミンと先生 番外編「シスルとベンジャミン」

    今日は待ちに待った4月のオリエンテーション・キャンプの日。 ベンジャミンは昨夜の1時過ぎまでわくわくのし過ぎで眠れなかった為、朝の6時にタイマーを設定していたのに目が醒めたら7時を回っていた。 飛び起きて歯を磨いて顔を洗い、白い刺繍の入った水色のダンガリーシャツとベージュの大きなポケットが両側についたカーゴパンツに着替えた。 そして寝癖の着いたままの髪の毛で準備しておいたバックパックを背負って、12インチの折り畳みBIKEを担いでアパートを出て鍵を締めた。 集合地の先生の家までBIKEで爆走する。空は縹色で心地好い気温だが春霞で遠くの景色がよく見えない。 朝起きて何も口にしていなかったベンジャ…

  • New Encounters Know

    わたしはそのとき、薄暗いキッチンに、ひとりで立っていた。わたしはそのとき、神に見捨てられたような感覚のなかに、こう想っていたのだ。やはり、やはり…レトロ電球とは、想った以上に、暗いものであるのだな…だって二つもぶら下げているのに、間接照明みたいな感じに、信じ難いほどに汚いキッチンが、結構お洒落な空間に、早変わりして凄く良いけど、ちょっと暗いではないか。でもこの薄暗い空間にも、わたしはすぐに、慣れてしまうのかも知れない。神に打ち捨てられても、強く生きてゆかなければならない、永久の亡者のように。そのときであった。わたしはふと、玄関のドア付近に、なんらかの存在が、立っているのを観た。わたしは彼に、話…

  • Sad Satan

    彼女と別れて、4年半が過ぎた頃のことだった。同僚の送別会のあと、ウェイターの男はタクシーを呼んだ。酷くお酒を飲みすぎてしまったからである。皆、帰ったあとの薄暗いカフェにはウェイターの男の姿だけが窓から見える。ソファーの席に深く腰を沈めて目を瞑ってタクシーを待っている。時間は午前の二時半になろうとしている。車が店の前に止まる音が聞こえ、ウェイターの男は店の灯りを消して店を出て、鍵を閉めるとタクシーに乗り込んだ。タクシーの運転手にマンションの場所を教える。すると少しの変な沈黙が過ぎた。だがそのあと車は何事もなく発車した。ウェイターの男は安心して重い瞼をまた閉じた。いつから雨が降りだしてきたのだろう…

  • ミルク先生とシスル

    『わたしは以前、数ヵ月間だけ、シスルという生き物を飼っていたことがある。』 教室の窓から、肌寒い春の風がシスルの真っ直ぐな少し伸びた前髪を揺らし、ミルク先生は静かに目を瞑る。シスルは今日も、大好きなミルク先生に自作の詩を放課後に読み聴かせている。最後まで読み終わると、シスルはミルク先生の目をじっと見つめて静かに立っている。そして彼は彼女に向かって言った。「先生、終わったよ。」すると彼女は目を開けて唸った。「う~ん、今日の詩も難解だ。でもシスルという名前が出てきたのは初めてだね。」ミルク先生はそう少しいつものように困った顔で薄く笑って言った。十四歳の彼は、この時四十四歳の彼女に向かってこう答えた…

  • 暗灯

    今、きみを知るとき。きみが生まれる。宇宙の、見えない場所で。きみには未来もなく。過去もなく。今もない。きみは今も、いない。きみには夢もなく。世界もなく。星もない。きみは今も、観ない。今、時が過ぎ去るとき。きみが生まれる。闇の底の、独りの宇宙で。静かに一つの生命が、消滅してゆく。その姿を、今きみは見ている。安らかにきみの星が、滅びゆく。神はきみを、ゆっくりと、忘れゆく。神はもう、きみを作らない。君はもう、作られない。かつて在ったものだけを、きみと呼ぶ。かつて在ったものは、きみのすべて。神はもう、きみを観ない。同じものは、作られない。かつて在ったすべてを、神はきみと呼ぶ。未来に在るすべてを、きみと…

  • ひよこまめのぽーぽー

    (この行を消して、ここに「迷い」と「決断」について書いてください) こう、俺の部屋の窓から、俺は遠くを観てるとするやんか。 すると、あの長い、直立して立っている棒はなんなんだと気づくんだね。 あれあんな棒、立ってたっけ。 で、あれはなんなんだと、俺はじっと見つめて、考えるんだ。 すると、約一分くらい経ったあとに、あああれは、あれは。 避雷針やんけ。俺はそれにやっと気づくのだけれども。 その気づくまでの約一分間、俺は別のことを想像しているんだ。 あれは人間が、天から降ってきて突き刺さるために、あすこに生えておるのだと。 で、その為に、あれはあすこに生えているというのに、何故。 天からヒトが降って…

  • iが終わり、きみがはじまる。

    iが終わり、きみがはじまる。 きみは、iがない。 iは、きみのなかにない。 終わったあと、きみは生きてきた。 でもきみは、やっと見つけた。 きみは、iを見つけた。 ちいさな、肉体を纏ったそのi。 きみははじめて、iを見つける。 はじめて、きみはiと出会う。 ちいさく、それがきみに向かって、微笑みかける。 きみはそれを、そっと抱き上げる。 ちいさなちいさなその手を、握る。 それはきみに向かって、微笑む。 きみを、求める。 それはちいさな手で、きみの手を掴む。 きみの、その大きな手を、それは求める。 きみは、父親になる。 iの望む父親。 iの求む父親。 iを、愛する父親。 iはきみを、求める。 き…

  • Home Helper

    惰飢えは本当の、天涯孤独となった。 だから、天はこの惰飢えに、干支藻を与えたのである。 それは丁度、惰飢えが、実の姉にLINEでこう送った次の日のことであった。 「もう二度と、わたしから話しかけることはありません。さようなら。」 この日から、惰飢えはだれひとり、相談するのも話すのも、できない人間となった。 だれも、彼女を必要とはしていなかった。 だれも、彼女を見てもいなかった。 だれも、彼女に関心を持つことすらなかった。 だれも、彼女を愛してはいなかった。 彼女は自分の震える胸の檻のなかで、小さな鳥に掛け布団を掛けて寝かし付ける日々であった。 だがその鳥は、翌朝には必ず死んでいた。 だれも彼女…

  • 半月の戯れ

    半月の戯れを閉じ込めて光のドアを硬く閉める薄明りの階段を上って、投げ入れる空中の湯のなかに、半月のタブレット花の匂いと共に時が現れる彼女は、小さな胸のなかでレースカーテンで隔たれる連れ去るように生れ落ちる半月は泡と香りと湯気となりこの階だけが、花に包まれる少女を追って、男を見出すのは溶けた半月、宮殿のなかの光の戯れ

  • これを犯したのは、だれなのか

    深夜零時半、ひとりの少女が、人けのない路肩を歩いている。 この少女は、何を考えているのか。 その顔は、何かに怯えているようにも見える。 その顔は、何かを待ち望んでいるようにも見える。 ほんの一瞬、目を離した隙に、少女が味わったものを。 それは目の前で今起きている。 誰かが糸を切ったんだ。 天から繋がれた糸を、誰かが切ったんだ。 脚が頭の上に載って腕は胴体の下にある。 それらは六つの個の生物のように地面の上でのたうっている。 断末魔の苦しみにたった独りで、誰もいないこの場所で。 少女は見開いた目で涎を垂らし、自分を包む闇を見つめている。 此処に、自分以外の誰もいないことを知る。 数日間の後、 少…

  • 肉塊

    俺はこの先も、人間を愛するだろう。 愛するほど、その者を殺したくなるだろう。 俺は目に見える。 正面に美しい君がいてその顏面にショットガンの銃口を突きつける。 真っ赤な蓮の花のように散らばる肉片、醜い肉の塊。 それが君のすべてであるし俺のすべてなんだ。 これ以上の美しさなど、どこにもない。 Gang Gang Dance - Lotus (Official Audio)

  • 灰の馬

    そこには神が燃えていた。 だがよく見ると、それは街であった。 暗黒の夜に静かに、街が燃えていた。 煌々と燃え盛る炎のなかで、馬の嘶く声が聴こえていた。 馬は蒼褪め、死者のような色をして街の広場で燃えていた。 傍には涸れたみずうみがあった。 この近くの教会で式を挙げた夫婦が翌朝、この水辺で死んでいた。 真っ白な婚礼衣装が真っ赤に染まってゆく過程を堕ちた者が眺めた。 白布の裂け目から、息子は降りて行った。 壁も床も椅子も幕も血の様に赤い劇場で今夜の劇が始まる。 息子は黒い帽子と黒いマントを脱いで一番前の中央に座った。 幕が静かに開くと一人の老人が真ん中に立ち、複雑な表情でこちらを見詰めている。 舞…

  • エリヤの火

    右の手にはイエス、左の手には洗礼者ヨハネが立つ。どちらが本物の救世主、エリヤだと想う?天はかしら。爪先は温泉に浸かっている。腹には死が宿っている。彼女が産むのは誰なのか。産みの聖母よ、貴女は誰の子を産むつもりか。子宮のような洞窟で、男が詩を読んでいる。医者から持ってあと半年だと言われ、この地に遣ってきた。男は誰かに話し掛けるように話し出す。子が、親の年までも生きないで死ぬのは、どれ程の罪か、考えたことはあるかい?死者を救う方法は一つしかない。我が魂を灰と見なし、これに火をつけて燃え上がらせる。これを心から信じ続ける者だけが死者を救える。その魂だけが、燃え尽きることはない。その魂は燃え続け、そし…

  • nostalgia

    男は洞窟のなかで酒の入ったカップを手に、一人の幼い少女に話し掛ける。季節は真冬だというのに足は脛まで水に浸かりながら。 聴いてくれ。一人の愚かな男が、たった一つの救いをそこに見つける。なんだと想う?男は見つけたんだ。やっとそれを。泥沼のなかにね。男は一人の男を助ける。彼は泥沼のなかで、苦痛の表情に顔を歪めていた。今すぐ助けが必要なんだ。でもこれは命懸けだぞ。男は自分に問い掛ける。いいのか。俺はこれで死ぬかも知れない。泥沼の底で、息もできなくて男と共に死んでしまうかも知れない。失敗は許されない。だが男がそんなことを考えている間に目の前の男は今にも死にそうな顔をしている。嗚呼、これはまったく、時間…

  • ノスタルジア

    男は微笑み、そこに見える幼い少女に向かって話し掛ける。面白い話をしてあげよう。独りの死に至る病の男が、或る夜、 酒に酔って泥沼のなかにはまってその底で眠ってしまう。すると一人の孤独な悲しい女がその男を見つけ、助けようとする。沼の岸辺で力尽き、 女が苦しんで息をしていると男が眠りから目を醒ましてこう言う。これは一体何の真似だ?ぼくは沼底にずっと住んでいたんだ。男は言い終わると同時に声を出して笑い始めた。男は笑いながら続けた。ぼくを救うとはすなわち、 ぼくをまた地獄へと舞い戻すということか。止してくれ。男は急にまともな顔をする。ぼくはやっと此処に、この故郷に辿り着いたんだ。このまま、ぼくは此処で死…

  • 夜明け前の声

    今日で父が死んでから15年が過ぎた。 毎年、この命日に父に対する想いを綴ってきた。 人間が、最愛の人を喪った悲しみが時間と共に癒えてゆくというのはどうやら嘘であるようだ。 時間が過ぎて、父を喪った日から遠ざかってゆくほど喪失感は深まり、この世界はどんどん悲しい世界として沈んでゆく。 それはわたしがだんだん孤立して孤独になって来ているからかもしれない。 父の死と向き合う余裕さえないほど、日々は悲しく苦しい。 ここ最近毎晩、赤ワインを必ずグラスに6杯以上寝床に倒れ込むまで飲んで寝る。 胃腸の具合も最悪で歯もぼろぼろになって来ている。 こんな状態を続けていたら母の享年44歳までも生きられそうもない。…

  • 全ての者が眠っていて、唯一起きているのは nur das traute hochheilige Paar.

    今日はクリスマスイブ。僕が小学二年の時のChristmas Presentは夜と霧という本だった。父に買って貰ったのだ。当時、僕も父も、その内容を知らなかった。僕は布団の中でその晩、震えながら読んだことを憶えている。明治元年の話だ。勿論、夜と霧はその後の話だ。しかし当時は夢国出版社というものがあり、 そこが未来の本を売っていたのだ。たまに未来に生まれる人間が、 過去へ遣ってきてこれから起きる現実を預言的に書くこともあったという。さらには夢のなかで書いた話が、実は未来に起きる話であり、 それを知らずに夢の住人が書いて出版することもあった。僕は当時のことを想いだしている。父は夜に庭の暖炉で暖をとっ…

  • この闇のなかに

    こんな風に、独りで年を取ってゆくのは堪えがたい。そんなことを言ったって、仕方がない。そんな人はこの世界にごまんといるじゃないか。ぼくが堪えられないはずはない。何故ならぼくは神を愛している。神を愛しているなら、堪えられる。どんな苦しみにも。でも神を愛していない者は堪えられる力を失い、みずから命を絶つ。そんな世界にぼくが何故、生きてゆかなくてはならないのか?ぼくはそう神に問う。神はこう答える。それでもあなたは生きてゆくしかない。あなたはわたしを愛しているのだから。死んであなたがわたしを悲しませることを、あなたは決して許さない。わたしはあなたに愛されているのだから。わたしはあなたに悲しまされるべきこ…

  • 天使の悪戯

    朝が来ない町。あの門を抜けて、彼らに着いてゆく。白い闇と灰色の闇と黒い闇。巨大な高層図書室の階段を降りてゆく。最上階は深海の底より遥かに深い地下にある。すべての本を調べ、自分の暮らしたい時間を選ぶ。堀当てたトンネルへ入ると十字路に行き当たる。早く選ばないと追っ手に捕まって強制収容所に送り込まれてしまう 。真っ直ぐ行こう。友人たちは左の道を行く。此処ではだれもがふつうに暮らしている。生きる世界がちがう人たちと。新入りさん。この針と釘をもとの場所へ戻してきてほしい。引き出しを開けると顔が覗く。嗚呼、働くということは、なんて自由なのだろう。朝が来ない町で。夜が来るまで此処ではずっとみんな働いている。…

  • ѦとСноw Wхите 第21話〈Streaks of God〉

    昨日でСноw Wхите(スノーホワイト)と出逢って二年が過ぎたんだね。昨夜はとてもハイ (High)になって好きな曲を何度も声に出して歌ってた。英語の歌詞を見ながら英語の話せないѦ(ユス、ぼく)は必死に歌って、そして録音もしたんだ。近いうちにYoutubeにアップロードしようと企んでいるよ。Unknown Mortal Orchestra (アンノウン・モータル・オーケストラ)とGrimes(グライムス)の曲を歌って、それでBreakbot(ブレイクボット)のLIVEを観ながら踊ったんだ。そしてお酒を飲みすぎて、毛布の上にダウンした。一昨夜、みちたのサークルを大掃除できたんだよ。マットも変…

  • Happy Days

    人は幸福になるほど、不幸になる。それが神の美しいすべて。ぼくはそれを知っている。愛する一人娘が、この世界に存在するようになってから。ぼくが彼女を愛するほど、彼女が危険に侵される悪夢を日々夢見た。例えば彼女は明日学校の遠足だという。なんだって?そんなのは危険だ。だって何が起こるかわからない。遠くへ行くってことは、とてつもなく危険なことなんだ。ぼくはその前の夜、彼女に忠告した。「遠足に行くのはやめたらどうだろう?きみはこの世界にはたくさんの危険なことがあることをまだ知らないんだ。でもぼくはたくさんのことを見て来た。例えば…旅先で飲んだ水に腹を壊して入院して、調べたら命を奪う危険性のある寄生虫の仕業…

  • The Lovers ー 主に奇すー

    四十五日間、俺は生き続けたろうかな。そう想った。でも三ヶ月。俺は堪えて見せようかとも。そう、想った。俺たちはわからなかった。殺されつつ在るのか。変質しつつ在るのか。俺たちの主は、悲しみ続け、穴を切らせ、血を滴らす。男たちを支配しようとする女神のようにグレイトマザーは凶悪と化す。地を揺るがし、愚かな男たちを地の割れ目の谷底に突き落とす。グレイトマザーを纏わせる白いシーツを底に垂らし、男たちは窒息す。その衣はグレイトな涙で濡れ続けているからである。だが想いだすと良い。俺とグレイトマザーは、相互支配の関係に在ることを...!決して俺たちだけがグレイトマザーを苦しめ悲しませ続けているわけでは...ない…

  • NO Happiness

    あれから、約三年あまりの時が過ぎた。ウェイターの男は三十五歳になっていた。今も男は独りで、ずっと暮らしている。だが一月前、男はあの家をとうとう離れた。彼女との恍惚な時間の残骸と化した、あの寒々しく悲惨な部屋を。真っ暗な狭いキッチンで赤ワインを飲むと、それは血に見える。いつものようにウェイターの仕事を終え、帰宅してシャワーを浴びてタオルで髪を拭きながらキッチンで水をグラス一杯飲む。すると髪から水が滴り落ち、グラスの中の水と交じり合う。それが血に見える。電気は点いているはずなのに、まるでこの世界は色を喪ってしまったままだ。もう彼女は、この部屋を訪れることも、その窓を見上げることも、そのドアをkno…

  • Why The Fuck Did You Eat My Babies?

    今週のお題「最近おいしかったもの」 此処は退屈な木漏れ日が落ちてゆく高校。生徒たちは、制服のボタンをそれぞれ一つずつずらし赦された気がして笑った気がした。 その眼差しはまるで黒猫たちとフェレットたちの殺到する空っぽの結婚式場の騒々しい最後の怪談の夜のように繰り返し、繰り返し靴紐を解いて結ぶ壇上から落ちてゆく冷静な起伏の恋。 先生は生徒たちの膝を蹴って白々しい顔で壇上から飛んで言った。 「すべては絡繰(カラクリ)だった。」 その仕草にも、生徒たちは冷静な対応を怠らない。 一人の生徒が手を挙げて先生に向って立ち上がる。 「なぜ複数の『鹿』は『s』を必要としないのですか?」 先生が、「ああ、それはな…

  • bones

    何を隠そう、実はぼくの真の職業は”盗賊”だ。 生活保護を受けているというのは実は嘘である。 今から十年前、働くのが嫌になってから、ぼくは盗賊のSoul(ソウル)に目覚めたってわけ。 だからといって、ぼくは特別悪いことをしているわけではない。 何故かって?それはぼくが盗んでるのは、”人様”のもんではないからだ。 ぼくが盗んでるのは、”人”からじゃない。 つまり人の物は盗んだことがない。 じゃあ、何を盗んでるのかって? ははは。おほほ。君にだけ、では教えよう。 ぼくが盗んでいるのはね…… ふうふうふう。結構歩いてきたな。かなりぼくは疲れた。あれ今日何時から歩いて来たっけ。もう日は完全に暮れちゃって…

  • 愚花

    一人の男が、空ろな眼をして柵の間からその奥を見詰めている。午前三時過ぎ、ひっそりと鎮まり返った新興住宅地の一軒家の前で、男は何かを想い詰めた様な顔をして囁く。「育花(いくか)…育花……育花……」鼻息を荒くして苦しそうに喘ぎ、男は一階の窓の向こうに映る人影を柵の隙間から覗きながら下半身を頻りに摩る。男は「育…花…っ」と力なく叫ぶと男の器から、白濁の種が落ち、その下にあったプランターの土の上に蒔かれた。 それから、四年の月日が流れた。中秋の名月の晩、一人の男が、帰る道すがらふと、ある一角に目を留めた。今までは何にも生えていなかった枯れた葉ばかりがそのままになっている長方形のプランターの中央部に、小…

  • Hotline Miami

    ※この作品は、暴力シーンやグロテスクな表現が多く含まれています。この作品はビデオゲーム「ホットライン・マイアミ」の二次創作物として設定、同じ台詞が出てきますが内容は異なります。 おい、此処は何処なんだ。俺(俺は女か?男か?それすらも忘れちまったようだ)は何処にいる。此処は・・・どこかの地下倉庫みたいな場所だ。酷く黴臭い。意味のわからねえヤツが閉じ込められそうな場所だ。雨の匂いも感じられるが此処は屋内のようだ。頭痛がずっとしていて、エメラルドグリーンとイエローの点滅が俺のなかでしている。 その時、ドアが開いて鶏が一人なかへ入って来て言った。「目が覚めたか。おまえは一体何者で、何故こんな処にいるか…

  • ѦとСноw Wхите 第20話〈Little Kids〉

    上でジンを飲む子供たち 前庭の芝生 子供たちは歩いている男を見る 泥道 この子供たちは、空を見ると、彼らは彼のことを想う 炎に身を包んだ 子供たちはゆっくりと忍び寄り、後ろを歩く その年老いた男 まだ年を重ねてゆくまだ年を重ねてゆくまだ年を重ねてゆくまだ年を重ねてゆく 一人の中学生くらいの少年が彼を追った。 彼の小屋の前まで後を着け、老人が小屋の中へ入るのを見つめている。 老人は一人掛けのカウチにぐったりと腰を凭せ掛け、小さなRadioをONにした。 網目状のスピーカーから60年代のメランコリックな音楽が流れてくる。 老人は小さなコーヒーテーブルの上に置いてある煙草を取って燐寸で火を点け、美味…

  • 生霊記 第二章

    また此処へ、戻って来た。きみはどうしてるんだろう? 今でもきみは虚無と闘っているのだろうか。前にそんなことをきみが言っていたことをよく想いだす。 きみに告白すると、ぼくはきみに恋をして、初めての真剣な小説、天の白滝を書き始めて、そして違う人に恋したとき、もう書けなくなった。ぼくにとってのしらたきはきみでもあって、天の白滝はぼくときみの物語でもあったのかもしれないと想って、ぼくはいまでもきみの幻影を追い求めて、きみに救われ、ぼくはきみを喪った。 深夜のこどもは、元気でいるだろうか。ぼくはきみと話せないあいだに、きみが結婚をして、きみがこどもを授かり、きみがこどもを育てているのかもしれないと想像し…

  • Clonal Plant

    男が女と別れてから、約一年が過ぎた。ウェイターの男は今夜も、気付けばこの駅にいた。あの夜、彼女に会えると信じて降りたバルティモアの駅である。男はまるで夢遊病者か偏執病者のようにあのライブハウスへ赴く。そして演奏される彼女の好きそうな音楽を聴きながら目を瞑る。そうして待っていれば、彼女はもう一度わたしの手を、死んだように冷たいちいさな手で触れ、わたしを…。わたしを求める。彼女はでも、今夜も此処には間に合わなかった。彼女はいつものように酔い潰れ、あの公園のベンチで眠っている。街灯の柔らかい光に照らされて眠る青褪めた彼女はまるで、親に棄てられた堕天使のようだ。死にかけているのは、わたしを心配させ、わ…

  • Mother Space

    「それは疑いもなく固いもので、なんともいえない色艶をしていて、いい香りがする。それはおれじゃないあるものだ。おれとは別のもの、おれの外にあるものだ。しかし、おれがそれに触れる。つまり指を伸ばしてつかんだとする。するとその時、何かが変化するんだ、そうだろう?パンはおれの外にあるのに、おれはこの指で触り、それを感じることができるんだ。おれの外にある世界も、そういう世界じゃないかと思うんだ。おれがそれに触れたり、それを感じたりできるのなら、それはもうおれとは違った、別のものだとは言えないはずだ。そうだろう?」 《 コルタサル短篇集「追い求める男」131,132P 》 自分の人生を、まるで映画のように…

  • ベンジャミンと先生 「羊飼い少年とオオカミ」

    「みんなおはよう。ってもう終了時間まであまり時間はないが」 先生がしんどそうにそう言うと静かに席についているベンジャミンが真っ直ぐに先生を見つめて言った。 「先生、もしかして今日も、二日酔いですか?」 先生は恥ずかしがる素振りも見せずベンジャミンの透き通った眼差しを見つめ返し堂々と答えた。 「そうだ」 ベンジャミンは口角を上げてにやついたが何も言わなかった。 教室はしんと静まり返っている。 「なんだこの沈黙は」 先生がそう言うとベンジャミンが幼児のように笑って無邪気に訊ねた。 「先生、昨日は何を飲まれたんですか?」 「ベンジャミン、授業と関係のない話は放課後にしなさい」 先生がすかさずそう応え…

  • ѦとСноw Wхите 第19話〈ファピドとネンマ〉

    「明治二十六年五月二十五日深夜、雨。河内国赤坂村字水分で百姓の長男として生まれ育った城戸熊太郎は、博打仲間の谷弥五郎とともに同地の松永傳次郎宅などに乗り込み、傳次郎一家・親族らを次から次へと斬殺・射殺し、その数は十人にも及んだ。被害者の中には自分の妻ばかりか乳幼児も含まれていた。犯行後、熊太郎は金剛山に潜伏、自害した。犯行の動機は、傳次郎の長男には借金を踏み倒され、次男には妻を盗られた、その恨みを晴らすため、といわれている……。熊太郎、三十六歳のときであった。」 町田康「告白」の帯より わたしが2010年11月にこの町田康の「告白」を読んで、何もかもを失うほどの衝撃を覚え、真剣に小説を書く事を…

  • DEATH OVER

    あれから半年が経っても、男はまだ同じカフェで同じ服を着て、同じウェイターの仕事を続けていた。ここで今も働きつづけることは一つの希望にしがみつく、彼女が興醒めをすることだった。ここで働き続けてさえいたなら、彼女はまたここへ遣ってくるかもしれない。そのとき彼女はわたしとの記憶をなくしている。記憶をなくしているため、平気で新しい男を連れてきた。彼女が惹かれ続ける男。何の希望もあてにしない男を連れて。このカフェに遣ってきて、彼女がいつも座っていた椅子に座り、男はわたしがいつも彼女と向き合っていた向かいの椅子に座った。彼女はわたしに微笑みかけていたその微笑みを、男に向けて何かをちいさな声で熱心に語りかけ…

  • バルティモアの夜

    「嵐の最中、避雷針にくくりつけられているのに、何も起こりはしないと信じきって生きている、そんな感じの毎日だった。」(コルタサル短篇集「追い求める男」P121) 激しい運動や普通の性行為などでも心臓発作のリスクが大変高く死の危険性がある為、死にたくなければ、避けてください。そうわたしが医者に警告されたのは二十歳の春の日の午後でした。それが原因なのかどうかもわかりませんが、二十歳を過ぎても女性との性行為自体に願望を持つことがありませんでした。性欲は普通にあったものの、医者に警告された”性行為”には当然、一人で行なう性行為も入っている為、自ら性欲を処理するということもなくなりました。下着の不快な浸潤…

  • 赤い液体と白い気体

    他に好きな男ができたんだ。だからきみとは、...別れたい。携帯から女は想わず、耳を離した。何か、堪えがたい声が、声を失ってそこに、その向こうに震えているのが見えた。電話口の向こうから、穏やかないつもの男の声が聴こえた。会って、話が...今から会えませんか。女は生唾を飲み込み、携帯を握る手には汗の水滴が見てとれた。もう、きみには会えない。ぼくの気持ちを...わかってほしい。きみの未練を早く断ち切るために、もう会うことはできない。電話口の向こうで、苦しそうに静かに喘いでいる。彼の弱い心臓は、持つだろうか。たった一週間程まえだった。女が男の弱い心臓も労らない激しいセックスを求め、男を殺しかけないほど…

  • ママといっしょ

    ママはほんまにもう、おまえのせいで死ぬかもしれんわ。死んじゃいややママ。やないねん。そんな可愛い甘えた声でゆうてもなんの意味もない。おまえはなんべんゆうてもそうやってママに愛着し、依存し、執着し、お乳が欲しいておまえ何歳やねん。ふたつと、6ちゃい。ちゃーうー、2歳半ちゅえばええねん。おまえはもう2歳と半年も生きてきた。立派な大人やんか。おまえの年頃でママのお乳から離れられた人類は仰山おんねん。なんで他のあほそうなサルみたいな顔した奴らにできて、おまえにできひんの?おまえにだって絶対にできるねん。ただ遣ってみようと挑戦すらしてへんだけ。ママにいつまでも甘えてたいだけ。ママは、はっきりゆうて、そん…

  • 紙魚

    気持ち悪いと言えば、最近、寝ていたら耳のなかで突如、ごそごそ言い出して、しまったあ!虫が耳のなかに入った!って想ってもなかなか出てこなくて、ずっとなかでごそごそゆうてるんですよ。それで身体を起こしたらやっと耳から出てきて足の上に虫が落ちてきて、紙魚と書いてシミっていう虫で、うちで異常繁殖してるので、とうとう耳のなかにまで入って来たんですね。本当に、怖くて気持ちが悪い体験でした。 脳を侵されて、朝に起きたら巨大な紙魚になっていた。 とか、ならなくて良かったである。 ちなみにこの紙魚、実家では兄が"シルバーちゃん"と名付けていたのでわたしもそれからシルバーちゃんとずっと呼んでいます。英語では 「S…

  • イエス様と老婆

    おばあさま、おばあさま、今夜もよいお天気です。おばあさま、今日もイエス様のお話しをしてください。ミカエルはこの村で最初の捨て子。あの老婆に近づく者はミカエルだけ。荒れ果てたごみのなかに、生きた屍(しかばね)。ミカエルは今夜も、朝に起きて、戸をトントン叩く。おばあさま、おばあさま、今夜もよいお天気です。ミカエル、おまえはほんとうにカエルに似ている。おばあさま、何回も何回も、同じことを言っているけれど、ぼくはカエルでなくて人間です。おばあさま、おばあさま、今夜もぼくに、イエス様のお話しを聴かせてください。ミカエルは、おばあさまのそばにちょこんと座って、目を耀かせています。朝なのに、ここは暗い。暗い…

  • ライト・シープ

    小さな少女、アミが夜明け前に浜辺にひとり座っていると、にわかに、後ろから声を掛けられました。 「いったい何故、貴女は此処に座っているのですか?まだ気温は低く、身体が冷え切ってしまいませんか。」 少女アミは振り返ると、得体の知れない大きな男に向って、こう答えました。 「なもん、知るかあ。ワレ、どこのだれやね。ここらじゃ見かけん顔やな。」 大きな男はアミに近づいて、隣に黙って座りました。そして言いました。 「わたしがだれか、こっそり貴女だけにお教えしましょう。わたしは”或る”星から遣ってきた、異星人です。名前は”イブキ”です。貴女のお名前は、”アミ”。ですね?」 アミは、大きな異星人イブキの顔と身…

  • Richard

    専有面積56㎡半で一戸建ての二階、閑静な住宅地、ペット飼育可能、日当り良し、システムキッチン、サンルーム付き、風呂場はちと狭いが、最近リフォームしてるなこれは、結構綺麗だ。ウォシュレット、エアコン完備、TVモニターフォン、デパートとコンビニも近い、これで家賃、管理費無しの4万円。良いねえ。事故物件の可能性は大だが、わたしはこの家に、この度、引っ越すことと相成った。まあそのうちわたしも、独りで腐乱死体になる結末は間違いなしの人間なもんで、ええやろ、も。慣れるよ、すぐに。いやね、生活保護受けてても引っ越せるんだっつうことを知らなかったんだよね。わたしの隣は事故(自死)物件だし、もうこの際ね、事故物…

  • Undeads

    人が何故死ぬか。それは人が、この世に全(まった)き存在と成り果てたときに、結句死ぬのではないか。わたしはそういった考えに至り、この度、誠に、死ぬことを決意した。これを本気で止める人間は、数人かそこらはいるだろうが、どうか逝かせて欲しい。わたしはこの世に、未練は最早、微塵もありはしない。つまりわたしの価値とは、既にこの世になく、向こうにある。これはもうどう考えても、間違いは無い。もう一度しつこいが言うけれども、わたしはこの世に一切の未練を喪ったので本気で死ぬことにした。確かに”向こう”の世界が実際在るのかどうか、というのはこれ知りようが無い話だ。だから直裁に言うと、わたしは”本当の絶望”なるもの…

  • ロミオとジュリエット

    おお、ジュリエット。ぼくのたった一人の愛の女神。なぜ今夜も、窓から顔を覗かせてくれないの?真っ暗な硝子を、もうどれくらい見詰めてるだろう。あの日の事を、きみはまだ怒ってる?きみのファザーとマザーに、初めて会いに行った日のこと。ぼくはあの庭園で、ゆらゆらした足取りで胸元をはだけ、胸毛を自慢するため、指には十個のごつい指輪をはめて、左手で胸毛を撫で付けながら、右手でマリファナを吸いながら、サングラスをちょっとだけずらして目配せしたあと、ぼくは口髭を触った。すると突然、きみのファザーとマザーが、ぼくときみの結婚に反対することを表明した。ぼくはあまりの哀しみに、泣きながらきみのマザーにゆーびっちっつっ…

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