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  • 花うばら

    『じい散歩』 藤野 千夜著 「老い」というのは、当たり前ながら誰にとっても不安な初体験。同年輩の老いざまやら、先輩諸氏の老い方とつい比べてみたり、参考にしてみたくもなるものだ。この話だって、斎藤美奈子殿が「人生の最晩年を明るく生きるシニア小説」(ちくまweb)などと紹介していなければ、読まなかったに違いない。 明石新平は89歳、妻の英子88歳。ちょっと信じられないほど高齢でも元気な夫婦だ。新平は散歩が日課だが、こちとらの田舎散歩と違い、著名な建物を見たり、お茶を飲んだりとなかなか刺激的だ。一方妻は散歩はしないで、毎日出かける夫の浮気を疑っている。ええっ、89歳ですよと思うのだが、英子には少し認…

  • 春の暮

    映画『川っぺりムコリッタ』 荻上 直子脚本・監督 雨の日だから花豆を煮て、映画を観る。前にも書いたが、荻上さんは好きな監督で、結論から言えば、今までの作品で一番良かった。 服役の過去を持った山田(松山ケンイチ)は、出所して塩辛工場に職を得る。事情もわかった社長(緒方直人)は住まいも紹介してくれ、励ましてもくれるが、なかなか心を開くことは出来ない。 ところが、住まいの隣人島田(ムロツヨシ)は、そんな山田の閉ざされた世界に容赦なく踏み込んでくる。ミニマリストと称する彼は、貧乏を切り札に自家製の野菜を手に、風呂を借りに来、食事を食べに来る。一人で食べるより二人のほうが美味しい。採れたての胡瓜を齧る幸…

  • 春闌くる

    講演会「江戸時代に破壊された各務野の古墳 」を聴く 各務原市歴史民俗資料館 長谷健生さん 市の歴史講演会に出かける。今回はとても興味深い古墳の話である。驚いたことには市域には605基の古墳があるという。(平成二年『岐阜県遺跡地図』)もちろん小さな円墳や方墳を含めた数であると思うが、墳長が岐阜県2位の前方後円墳(坊の塚古墳)もある。 さて、昨日の講演で取り上げられたのは、江戸時代に破壊された古墳に付いての話である。当時の記録から伝承された内容の一部を要約すれば、 「寛政十一年(1799)秋、美濃国各務野の古塚約二百基を暴いた。曲玉五百ばかり、紫水晶、いろいろの瑪瑙、白銅の鈴になった曲玉、管玉、珊…

  • 春暑し

    映画『お父さんチビがいなくなりました』を観る 昔々講義で、劇中人物が共感を呼ぶには、普遍的な人間像であることが大切と聞かされたことがあったけ。(なんでこんなひとコマだけ覚えているのかしらん) この映画の夫婦(藤竜也・倍賞千恵子)は、まさに私たち世代の普遍的な夫婦像。この世代の夫は、おおむね、夫婦で会話をきちんとしない。相手を思っていても口に出して言わない。マイペースで思いやりに欠け、妻の気持ちに鈍感。 猫の失踪をきっかけに妻の不満が爆発。ついに離婚を切り出すという展開だ。 最終的には元の鞘に収まるのだが、めでたしめでたしとはならず。認知症など老いの障害が待ち構えていそうな気配で終了だ。 何とい…

  • 春深し

    『風土記博物誌』 三浦 佑之著 現存する『風土記』はすべて写本。不完全なものを入れて五カ国と、後世の書物に引用された逸文が少し。されど「八世紀以前の日本列島のあちこちのすがたを窺い知ることのできる文学記録」であると、三浦さん。 その『風土記』をいくつかの視点で丁寧に読み解いてみようとされたのが、この本だ。 まず興味深いのは「なゐふる」(地震)の話。豊後国風土記には、天武天皇の時代に「大きな地震があり、山や丘は裂け崩れた。」温泉が噴き出し、神秘的な間歇泉の湧出もあったという。 どうも天武帝の時代は、地震の大活動期だったらしく、『日本書紀』には頻繁な地震の記述があり、今憂うる「南海トラフ地震」の最…

  • 牡丹

    映画『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語 』を観る 2019年に公開されたアメリカ映画。次女のジョーが昔を振り返るかたちで話が進み、過去と今が激しく交差する。もとの展開がわかっているからいいが、初めてなら、かなり混乱するにちがいない。つまり何度もリメイクされた話ならではの描き方。そしてこれはその最新版だ。 『若草物語』は何度観ても、何度読んでも、私にとっては楽しめる物語のひとつ。そういえば『赤毛のアン』などもそのうちのひとつだが、どちらも似たような展開である。貧乏で苦労しながら、明るさを失わず、ものを書き、自立を目指し、教師になる。そんなことをTに話したら、斎藤美奈子さんの本を紹介…

  • 遅き日

    『猫を棄てる』 村上 春樹著 上手い文体だというので、Tから回してもらう。かかりつけ医の待合室ですらすらと読めた詩のような小冊。 過日読んだのが娘たちが書いた父親なら、これは息子の書く、父親との和解の話。父親から受け取った命の連鎖を確かめるもので、誰にとっても、親たちの出会いがなければ、生を受けることもなかった自分を振り返る話でもある。 あたりまえの因縁だが、しみじみ考えると不思議な思いにさせられるもので、反発した親の歴史もまた、「意識の内側で、あるいはまた無意識の内側で、温もりを持つ生きた血となって流れ、次の世代へと否応なく持ち運ばれていくもの」にちがいない。 当代人気の村上春樹だが、『ノル…

  • 春の雨

    『Nさんの机で』 佐伯 一麦著 作家生活三十年めにしてオーダーメイドで机をこしらえられたという。楢材の堅牢な机らしい。その机に向かい、物にからめながら来し方を振り返ったエッセイ。 世間の不条理にハリネズミのように挑みながら、自分の生き方を模索していた『ア・ルース・ボーイ』の青年。彼の行く末を見守らんと密かに応援をしてきたが、今や押しも押されもせぬ大家となられた。取り上げられるもののいくつかは、大家らしいこだわりもある。 私小説の作家が私生活に満足したとき、何を書くのだろう。『山海記』以来、作品を読んでいない。 Nさんの机で作者:佐伯 一麦田畑書店Amazon 書を膝に舟漕ぐばかり春の雨 ムスカ…

  • 花は葉に

    映画『家族を想うとき』 ケン・ローチ監督 雨なので外仕事もできず、この冬11回目のマーマレード作りをする。ひとさまに押し付けたり、冷凍にしたりと作りに作ったが、多分これが最後。もう木にはいくつもなっていない。1回ごとに大ぶりを4個ずつ使ったのだが、それでもなった何分の一か、今になると甘味も増して美味しいのだが、皮をむくのが大変で敬遠される。うちの辺りには結構甘夏があるのだが、落ちるに任せているか、ダンボールに「お好きなだけどうぞ」と出してあるかにしても、はけるようにはみえない。 さて映画だが、社会派監督らしく最後まで救いがなくて、辛かった。 主人公のリッキーはマイホームの夢をかなえるために個人…

  • 春うらら

    『この父ありて 娘たちの歳月』 梯 久美子著 著名な女流作家たちに、父は何を残したか。彼女たちの筆で書き残された、父親たちの姿を紹介した一冊である。登場するのは、渡辺和子、斎藤史、島尾ミホ、石垣りん、茨木のり子、田辺聖子、辺見じゅん、萩原葉子、石牟礼道子。 総じて比較的長命だった娘たちで、(どうしてか母親とは早くに別れた人が多い)父との死別後も長く生き、「書くことによってその関係を更新し続けた」人たちだ。 父親像を浮き彫りにするには、短すぎるところがあるし、父親像というより娘たちの生き方そのものが興味深かった人もある。この何人かのうちで、良いにしろ悪いにしろ、特に父親の影が大きいと思ったのは、…

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