オリジナル恋愛小説を掲載しています。
■伯爵家の箱入り娘は婚儀のまえに逃亡したい(完結) 伯爵令嬢のシャーロットはもうすぐ顔も知らないおじさまと結婚する。だから最後にひとつだけわがままを叶えようと屋敷をこっそり抜け出した。そこで知り合ったのは王都の騎士団に所属するという青年で——。
「あの、今日はいつごろ帰ってきますか?」 いつものように宰相補佐の仕事のため朝から王宮に向かおうとしたとき、見送りのアリアがそう切り出した。どこかそわそわした落ち着かない様子で。何かあるのだろうかと怪訝に思いながらもアイザックは淡々と答える。「急ぎの仕事がなければ夕方までには」「そうですか」 その声には安堵の息が混じり、あからさまにほっとしている様子が窺えた。しかしながらその理由を言うつもりはない...
翌日から、アリアのスペンサー家における日常が始まった。 母のイザベラがあらかじめ家庭教師を手配しておいたそうで、さっそく教養やマナーなど幅広く学んでいる。他にも母から直々に公爵夫人の仕事や心得を教わっている。大変ではあるもののやりがいを感じているようだ。 ドレスはどれも首元の詰まったもので、チェーンに通した結婚指輪はその内側にしまってある。勉強の邪魔にならないようにと母に言われてのことらしい。 ...
「スペンサー邸だ。今日から君もここで暮らすことになる」 馬車が止まり、不安そうに外を窺っていた少女にアイザックはそう声をかけた。 少女は混乱したような困惑したような表情でそろりと振り向き、ほんのかすかに頷いてうつむく。まだ顔は蒼白で、膝の上で重ね合わせていた小さな手にも力がこもり、ひどく緊張していることが見てとれる。 アイザックは先に馬車を降りると中にいる少女に手を差し伸べた。彼女は戸惑いながらも...
「この娘は厄災じゃ! 厄災の姫じゃ! いずれ国を滅ぼすことになりましょうぞ!!」 それは十年前のことだった。 国王夫妻に第三子となる王女が生まれた。十数年ぶりの出産ということで心配されていたものの、母子ともに健康で、国王は初めての姫の誕生をたいそうお喜びになったという。面差しが王妃に似ていたからなおのこと。 しかし、その幸せは占い師の思いがけない言葉で一変した。 王家では子が生まれると占い師に見せ...
神聖な空間に、ステンドグラスの色とりどりの光が降りそそぐ。 王都のはずれにある小さな教会——その祭壇の前にアイザック・スペンサーは背筋を伸ばして立っていた。隣には彼の腰くらいの背丈しかない幼い少女が並んでいる。すっかり血の気が失せて怯えきった表情をしており、いまにも倒れそうだ。そんな二人が身にまとうのは純白のフロックコートとウェディングドレスである。 そう、アイザックはこの幼い少女と結婚するのだ。...
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