Follow @hayarin225240 12 包囲 午後の業務が始まる時間になっても、僕はまだ屋上にいた。船橋たちのワゴン車が公民館に戻ってきたからだ。 車内にあった段ボール箱はもうなくなっていた。どこかに捨てたか、 …
創作小説の発信サイトです。近未来SF・社会派フィクションを中心に、心の琴線に触れる物語世界をお届けします。
近未来社会を舞台にした「サイレント・レジスタンス」が好評連載中。音が規制された監視社会で抵抗の道を探る物語です。元々は児童文学中心でしたが、現在は大人向け社会派フィクションへと移行しています。SF・社会批評に関心ある方におすすめ。週1回の更新を心がけています。
Follow @hayarin225240 5 嵐の夜、タント・ピエールは命こそ助かりましたが、あの轟音と共に永遠に音の世界を失いました。 けれども、彼の瞳は以前にも増して輝きを放っていました。 橋の建設現場では、誰より …
Follow @hayarin225240 4 タント・ピエールが引き続き隣町の橋の建設現場で働き始めたのは、クリオの父親の紹介でした。 嵐の遭難事故で耳が聴こえなくなって以来、彼はジェスチャーを交えた口話や筆談など、独 …
Follow @hayarin225240 3 タントがクリオ少年の家族に助けられてから、何日かが経ちました。 その間に、タントは体力を取り戻しましたが、嵐で遭難した際の影響で、完全に聴力を失っていました。 指で振動を感 …
Follow @hayarin225240 2 目を覚ましたとき、タントは柔らかな砂の上に横たわっていました。 空は青く澄み、風は穏やかでした。けれども体中が痛み、動くこともままなりません。 周囲の音は、まるで綿で包まれ …
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Follow @hayarin225240 12 包囲 午後の業務が始まる時間になっても、僕はまだ屋上にいた。船橋たちのワゴン車が公民館に戻ってきたからだ。 車内にあった段ボール箱はもうなくなっていた。どこかに捨てたか、 …
Follow @hayarin225240 11 翌日は日勤だった。 昼食を済ませた僕は、いつものように屋上へ足を向けた。フェンスに身を預け、眼下に広がる住宅街を見下ろす。昨夜の出来事が頭から離れない。施設裏の公民館が、 …
Follow @hayarin225240 10 フリースペースに戻ると、先ほどの騒ぎが嘘のように和やかな雰囲気が広がっていた。 女子たちは皆、にこやかに寛ぎながら、手話で世間話をしていた。 ドローンが至近距離で飛んでき …
Follow @hayarin225240 9 通路に出た瞬間、背後のドアが閉まりかけるより早く、誰かに腕を掴まれた。 見知らぬ若者だった。僕と同じくらいの背丈で、目は鋭く、動きは早かった。 彼は焦るように手話を使って尋 …
Follow @hayarin225240 8 公民館のドアは、あっけないほど簡単に開いた。 薄闇の中に足を踏み入れると、最初の部屋は死んだように静まりかえっていた。船橋の姿はどこにもない。 図書室らしき部屋だった。壁に …
Follow @hayarin225240 7 翌朝、窓から差し込む陽光が僕の頬を撫でた。久しぶりに気持ちの良い朝だった。 寮の食堂で簡素な朝食を済ませると、体を動かしたくなって近所の公園へ足を向けた。 緑陰の小径をゆっ …
Follow @hayarin225240 6 混線する夜 職員寮の住民たちは夜になると、テレビの置かれたフリースペースでくつろぐのが日課だった。 この寮のテレビは少し変わっている。モニターは普通の大型液晶ディスプレイだ …
Follow @hayarin225240 5 急いで決めた転職だったが、新しい職場の就業環境は思っていたよりもきちんとしていることがわかってきた。 高層ビルに囲まれた静かな公園エリアに、その介護施設はひっそりと佇んでい …
Follow @hayarin225240 4 僕は新しい職場、介護施設で働き始めた。 プログラマーの夢を半ば諦め、住んでいたアパートを引き払い、この施設の職員寮へと引っ越してきたのだ。 ここは家賃が周辺相場の半額以下で …
Follow @hayarin225240 3 施設の中は夕食の真っ最中だった。 大きなテーブルを囲むお年寄りたち。懐かしい光景だけれど、僕はこの日常に飽き飽きして辞めてしまった人間だった。 空の食器を抱えたジャージ姿の …
Follow @hayarin225240 2 ハローワークを出ると、僕はビル街をぶらぶらと歩き始めた。 近くには、すぐに面接してくれる老人ホームがあるらしい。一時間後に担当者と会う予定だった。 空はどんよりと曇っている …
Follow @hayarin225240 1 灰色のコンクリート壁が道の両側に伸び、無秩序な落書きがその表面を覆っていた。 壁に挟まれた細い道の先で、大きなトンネルが口を開けている。一台の大型トレーラーがエンジンを唸ら …
Follow @hayarin225240 あらすじ 耳の不自由な青年が描く、異星からの侵略に立ち向かう静かな戦い。 プログラマーになる夢を胸に、熊本から福岡へ移り住んだ聴覚障がいを持つ主人公。しかし現実は厳しく、ハロー …
Follow @hayarin225240 13 嵐からちょうど一年が経ち、アラアラ国には平和が戻っていました。 港には、サレド国から来た一隻の大きな客船が停まっていました。 その船は、タント・ピエールが故郷に帰るために …
Follow @hayarin225240 12 タント・ピエールは、アラアラ島に取り残されてしまいました。 空はどんよりと曇り、風12が強く吹き始めていた。嵐が近づいているのを肌で感じます。 海は荒れ始め、大きな波が立 …
Follow @hayarin225240 11 アラアラ島では、人々が次々と船に乗り込み、島を離れていく姿が見られました。 嵐の前触れで風が強く、波も激しくうねっています。 港では、小さな帆船が何隻も揺れながら出港を待 …
Follow @hayarin225240 10 タントは船がほぼ完成すると、次は島民の避難を指揮する重要な役目を担うことになりました。 しかし、耳が聞こえないタントにとって、大勢の人々に指示を伝えるのは簡単なことではあ …
Follow @hayarin225240 9 タントは、アラアラ島を守るために、占い師ヨシュアの言葉を反芻しました。 「アラアラ島が嵐で沈むかもしれない…」 生真面目なタントは、眠れない夜が続きました。 ヨシュアがタン …
Follow @hayarin225240 8 国王の目はきらきらと輝いていました。 その瞳には、長い間失われていた希望の光が宿っていました。 「タント、君のおかげだ」 国王は感謝の言葉を口にすると、タントの肩に手を置き …
Follow @hayarin225240 7 タントはアラアラ山を見上げて、深呼吸をした。 「よし、これで準備は万全だ!」 彼の前には、大きなリュックサックが置いてあり、中には乾燥させたシャドウリーフがぎっしり詰まって …
Follow @hayarin225240 14 午後三時、リプリーは市立病院を出て、スバルのWRX S4を走らせた。向かう先はチェインバーグの禁猟区だ。 車内はホコリだらけで、後部座席には三冊の週刊誌とボロボロの黒い雨 …
Follow @hayarin225240 13 オットー所長はベンチに座り、足首にアンクルウエイトを巻いて、ゆっくりと屈伸運動をしていた。 リプリーは所長の前に立ち、ニヤニヤしながら言った。 「何だ、コサックダンスの練 …
Follow @hayarin225240 12 チェインバーグ市立病院は、ケンジの想像よりもずっとこじんまりとしていた。 敷地内には小高い丘が点在し、豊かな緑に覆われている。 白く輝く建物は新築のように見えたが、玄関に …
Follow @hayarin225240 11 彼女が入れたコーヒーはお世辞抜きで美味しかった。 「お母さんの名前はリンダ・フックスというの。あなたの好きな女性に少し似ているわ」 エミリーは壁のピンナップを指して言った …
Follow @hayarin225240 9 サムの店で所長と電話で喧嘩し、むかっ腹を立ててアパートに戻った。 アパートの部屋は見違えるほど綺麗になっていた。 汚れが溜まっていたシンクも、今はピカピカに輝いている。 古 …
Follow @hayarin225240 9 「マスター、エミリーは何を聴いているんだい?」 ケンジはバーカウンターで居眠りしていたが、奥の部屋の騒音で目が覚めた。 マスターは向かいのシンクで何かを作っていた。 「ヴァ …
Follow @hayarin225240 8 夕暮れ時に研究所を訪ねたが、誰もいなかった。 ケンジはいつものように、自転車を玄関脇に置くと、スペアキーで玄関の戸を開けた。 玄関から研究室の廊下を見渡したけれど、奥の壁ま …
Follow @hayarin225240 7 立ち直り準備中 クリスマス一週間前のある日、ケンジはお気に入りのレストラン「サム」に座っていた。 彼はいつもここに来るたび、ふと彼女が現れるのではないかと期待してしまう。 …
Follow @hayarin225240 6 レストラン「サム」 ウインドベルの市街地の外れにある静かな丘は、富裕層によって別荘が建てられた場所だった。 市街地では、普通の家々が等間隔に建ち並び、住民たちは平穏な休日を …
Follow @hayarin225240 4 リプリー警部補の依頼 研究所を訪れたワゴン車の持ち主は、一階の事務所が無人なのを確かめると、今度は二階へ上がってきた。 老朽化した建物の階段は、どんなに忍び歩いても容赦なく …
Follow @hayarin225240 3 偽装パンダとバイト代 ウインドベル駅を中心とした賑やかな市街地から二十キロも離れた、人目につかない裏町の一角。そこには、時代を感じさせる古びた看板がかかる自然科学研究所がひ …
Follow @hayarin225240 2 ウインドベルの光 ウインドベルは、自然と文化が調和した、珍しい近代都市の一つだ。 街の遊歩道は、小川や木立で彩られ、市民に安らぎを与えている。 ここでは、野生動物の保護も積 …
Follow @hayarin225240 1 密猟者 真夜中、チェインバーグの森はとても静かだった。二人の男が禁猟区の山中を歩いていた。二人とも黒ずくめの格好で、散弾銃を背負っている。森の中に入ってからというもの、彼ら …
Follow @hayarin225240 あらすじ かつて環境問題を引き起こし、ウィンドベルを去ったパルチノン食品グループは、新たな街チェインバーグで再び活動を開始した。彼らは驚異的な速さで成長し、チェインバーグの人々 …
Follow @hayarin225240 7 とっとこ山のむこうがわへ行くと、かきの木がたくさんならんでいる林がありました。 ここでは、りょうりのおばあさんからきいた、めずらしいきのこがとれるのです。 「あのきのこは、 …
Follow @hayarin225240 5それからしばらくして、またエミが熱を出しました。 さむい夜のことです。 園長先生と女の先生が、ろうかでエミのにゅういんのはなしをしています。 「こんなさむいところにいるよりも …
Follow @hayarin225240 1 その年の冬はとてもさむくて、とっとこ山のふもとの村は雪がつもっていました。 村には親のいない子どもたちのしせつがあり、二十人ぐらいの子どもたちがいっしょにくらしていました。 …
Follow @hayarin225240 25 ハンドサインの約束 「それで、辞めた後はどうするんだ?」 ディーが計器類のチェックをしながら、レイに尋ねた。 レイはシートに深くもたれ、窓の外を見つめていた。 「母国に帰 …
Follow @hayarin225240 24 キャビンのシートが足りない パイロットのレイはもちろん、エンジニアのディーはレイの隣の座席に座ることになった。 操縦室はこの二人で定員締め切りだった。 X50の狭いキャビ …