50歳になった誕生日に、レギュラーのエアロビ番組を降板させられることを知った、一世代前の人気スター、エリザベス。年をとった自分は番組プロデューサーたちにとってすでに無用な存在なの?と衝撃を受けたまま運転中に事故を起こしてしまうが、運び込まれた病院で治療を受けるなか、看護師の青年があるものを彼女のコートへ忍び込ませる。帰宅して見つけたUSBの中身を再生し、疑心暗鬼のまま指定された場所へと向かったエリザベスが入手したパッケージの中身は、1週間おきというルール付きで「新たな自分」を手にすることができる薬だった。迷いながらも薬を接種したエリザベスの体には異変が起こり、やがて背骨の皮膚を破って若い女が現…
第二次大戦終戦後まもないローマの下町、夫とその父親、年頃の長女と二人のやんちゃな兄弟という6人家族で半地下の集合住宅に暮らすデリア。夫イヴァーノは同居する寝たきりの自分の父親には頭が上がらないが家族には威圧的で、朝から晩までことあるごとにデリアに手を上げる典型的なDV夫。娘のマルチェッラには、戦時中からうまく立ち回って金を稼ぎ、街で大きなカフェを営むサントゥッチ家のジュリオという恋人がおり、二人は将来を誓い合っているようだ。デリアは娘の幸せだけを願い、一日にいくつも掛け持ちして稼いだ賃金の中からへそくりを貯めている。家族の世話に仕事にと日々身を粉にして働くデリアにはよき相談相手で親友のマリーザ…
アルゼンチンのトレンケ・ラウケンという小さな町で、植物学者のラウラが誰にもなにも語らずひとり姿を消した。彼女を捜すためブエノスアイレスからやってきた恋人だという大学教授ラファエルとごく数日前まで彼女の助手をつとめていた地元の職員チーチョという二人の男たちは、わずかな情報をもとにラウラの行方をを捜すのだが、やがてあるガソリンスタンドで失踪前彼女に貸したチョーチョの車が見つかる。そのウィンドウには「探さないでほしい」ともとれる彼女自筆のメモが残されていた。そこからチーチョはラウラが姿を消す前に二人で調べていた、偶然見つけた古い恋文に基づく仮説を思い返す…というのがPART1でPART2ではラウラの…
オリヴェイラの特集上映では過去何度か上映されてきたけれど、なぜか今まで見たことがなかった本作をデジタルリマスター版の特集上映で初見。想像を超えた奇天烈さにぶっ飛ぶ。 土地の名士が集まる舞踏会で人々の注目を集めるのは美しいマルガリータ。彼女を崇拝し思いを寄せる男性はあまたあれど本人はどこかうわの空だ。実はマルガリータが想いを寄せているのはどこかしら謎めいた独身貴族のアヴェレダ子爵。やがて子爵その人が現れ、そそくさと彼の元へ向かったマルガリータは自らの心を打ち明ける。だが子爵から色よい返事は引き出せない。舞踏会を抜け出し夜の庭園に独りたたずむ子爵にマルガリータは再び意を決して訴える。そんな彼女の様…
教皇の逝去によって新たな教皇を選ぶべく世界各地よりバチカンへと集まってきた枢機卿たち。その選挙(コンクラーベ)の仕切りを任されたローレンスにも自ら推す候補はいるのだが、次期教皇候補として有力と目される数名の枢機卿たちそれぞれの思惑や水面下の暗躍により決が出るまでの投票は繰り返される。そして候補たちのスキャンダルや陰謀が続々と明らかになり次第に疲労の色が濃くなっていく中、ローレンスにも様々な葛藤が浮かんでは消えていく…。 アカデミー賞からしばらく経っての公開にも関わらず、フランシスコ教皇の死去に伴い現実にもコンクラーベが行われるという報道とも相まっていまだに劇場が混み合っているらしい本作は、バチ…
エイミー・ワインハウスの生涯を追った作品というとドキュメンタリーの『AMY』が先に公開されていたけれど、こちらはドラマ仕立て。 かつて歌手だった父方の祖母シンシアに憧れ慕っていたエイミー。歌い手の血はその祖母譲りか父親も歌がうまく、家族の集まる場で幼い頃から親しんでいたジャズナンバーを披露しては招待客をうならせ、自作の曲も書きためるなどエイミーは才能溢れる少女だった。やがてクラブで歌うようになった彼女はレコード会社の目にとまりスパイスガールズのマネージメント会社と契約、念願の1st アルバムが発売されシングルは全英チャートを賑わせるものの、レコード会社の指示によりアルバムの全米リリースは見送ら…
シンディ・ローパーのライブに出かけた。 ツアー最終日とあってこの日も武道館は満席。内容は日本公演が始まって以来連日SNSやウェブのニュースで見ていたけれど(なので曲目などは割愛)キャリアの集大成ともいうべきものだった。 ステージが始まる前、これまでの歩みをひとつずつ振り返っていくビデオに、「Girls just wanna have fan!」と歌ったときから、シンディが今までずっと訴えてきたことは一貫してるんだよなと思う。しかし後に改題されたらしいけれど当初の邦題「ハイ・スクールはダンステリア」って一体どっから出てきたのだろう(苦笑)。 新旧の曲を取り混ぜたセットリストはとても好きだった曲は…
Bloggerから一時的に、になるか未定だけど しばらく連日続いていた海外方面からのアクセスに さすがに勘弁、と思い 以前からアカウントを持っていたこちらに移動してみた。 ほとぼりが冷めるまでのつもりではあるけれど キリキリせずにのんびり記したいものです。 引っ越しみやげは本日観てきたこれで きれいな画面と音がすばらしかった!
時は幕末。京の都で長州藩士を討てと命じられた会津藩士・高坂が、ある晩その相手と刃を交えた瞬間に雷鳴がとどろく。気を失った高坂が目覚めるとそこは現代社会で、なんと時代劇の撮影現場のセットだった。 1.21ジゴワットの雷パワーで時空を超えてやってきた!というと「バック・トゥ・ザ・フューチャー」なのだけど、こちらはデロリアンに乗ってやってきたわけではないのでタイムトラベルの行き来はなし。でもあの一度の落雷で会津の高坂さんだけではなく長州の風見さんもタイムトラベルをして、しかもそれぞれがビミョウに違う年に飛ばされて、それぞれが特技を活かしてきた時代劇の現場で再び相まみえる、という展開はちょっと予想外。…
米国留学中のオリガルヒのどら息子・イヴァンと意気投合し、ラスベガスで結婚したストリップダンサーとしてクラブで働くアニーことアノーラの恋の顛末を描いたビタースウィートなコメディ。 最初のうちこそとんでもなく金持ちの上客を捕まえてその分割り切った関係にこたえようとするアニーではあるけれど、自分と一緒にいてもゲームに夢中なイヴァンにちょっと気持ちは複雑。アメリカ人と結婚すればアメリカ市民になれて親の待つ祖国に帰らずに済むんだけど、というイヴァンの言葉に思わず「結婚してもいいよ」と応じたのは、彼女なりに彼と一緒に生きていく覚悟ができていたのか? そのへん不明ではあるけれど、息子が勝手に結婚したらしいと…
企業弁護士として敏腕を振るうも報われなさにくすぶっていたリタは、ある日誘拐に遭う。連れて行かれたのは麻薬カルテルのボスとして悪名高いマニタスの元。そこで彼が「本来の生き方」を取り戻すための協力することを強いられたリタは無事仕事を遂行、高額な報酬を手にしてロンドンでハイソな生活を手に入れる。しかし、とあるパーティで出会ったエミリアと名乗る女性こそ、性転換手術を乗り越えたマニタス。手術後生き別れた家族と再び母国で一緒に暮らす手はずを整えてほしいというエミリアの依頼にリタはまたも奔走。エミリアと家族をメキシコへ帰国させたあと、犯罪組織の犠牲者を支援する慈善団体を設立したエミリアと共に活動を続けること…
故郷からミュージシャンになるべくニューヨークに出てきたボブ・ディランのrise and 「fall」、ではなくフォークとの決別というかエレキ化に移行するまでの約5年を追った物語。 スコセッシのドキュメンタリー、No Direction Home の前日譚というか、これがあそこにつながるんだなと思いながら観たのだけれど、自然体のままにして才気有り余るディランに関わる人々の悲喜こもごものドラマとしても興味深かった。激動する60年代という時代のなか、どこからともなくふと現れたディランの才能に気づき、彼の活動をバックアップするピート・シーガーやジョーン・バエズが、やがてはディランが自分たちを大きく越え…
1960年代後半より数々のアルバムレコードのカバーデザインを手がけたアーティスト集団、ヒプノシスの活動を、創設メンバーオーブリー・(ポー)・パウエルの語り、ストーム・トーガソンの記録映像やアルバムジャケットを依頼した数々のミュージシャンたちの証言で振り返るドキュメンタリー。 ヒプノシスといえばピンク・フロイドやレッド・ツェッペリンなど往年の名盤ジャケットには欠かせないデザイナーだけれど、今見てもそのコンセプトであったり完成度は正しく「アート」といっていい。他の誰が思いつくかという発想を形にすべく、砂漠に風船を並べてみたり、スタントマンに実際火を点けてみたり、海辺のカウチに羊を座らせたりなどなど…
1980年5月。民主化を主張する学生と軍隊の衝突があるとの情報を掴み、その取材で光州に向かうというドイツ人記者を乗せ、現地入りしたソウルに暮らすシングルファーザーのタクシー運転手。言葉も満足に通じ合えない二人は最初のうちこそ対立もするが、よそからやってきた二人を温かくもてなしてくれた光州のごく一般の人々に対する軍の容赦ない弾圧を目の当たりにし、決して国民には知らされることのなかった事実を伝えるべく二人は再びソウルへの道をひた走る。 キャラクターの設定には脚色があるそうだけれど、事実をもとにした物語。『ソウルの春』を観て再び再見。全斗煥の戒厳令下に起きた光州事件は恥ずかしながらこの作品を見るまで…
マンチェスター・ユナイテッドの創設時からのチーム史のドキュメンタリー、「ミュンヘンの悲劇」を乗り越えた栄光→低迷期→エリック・カントナの移籍・活躍とカンフーキック騒動→ファーガソンが育てたユース組の台頭→チャンピオンズリーグ決勝の「カンプ・ノウの奇跡」含めたトレブル時代までを振り返ったドキュメンタリー。作られた2022年に何かしらのアニヴァーサリーだったのかと思いきやそうでもないみたい。 自分がユナイテッドの試合をよく見ていたのはケーブルテレビでプレミアリーグが映るようになってからなので、ちょうどカントナ引退の前あたりから。最後の出場試合じゃベッカムがピッチを去るカントナの姿にくしゃくしゃに泣…
1980年12月8日、ジョン・レノンが銃撃された晩、瀕死の状態で病院に運ばれてきた「ひとりの患者」の命を救うべく尽力する外科医たち、その夜事故に遭い、たまたま同じ病院に搬送され何か重大な事態が起きていることを知った記者と、裏が取り切れない重大な事件をどのように報じるか苦悩する報道関係者など第三者たちの目から事件の一夜を追った再現ドキュメンタリードラマ。 セレブの命に関わるプライベートと世間を確実に揺るがすであろう事実を特ダネとばかりに報じる記者は一見すれば反吐が出るほど下世話なのだけれど、でも綺麗事でそう思ってみてもどこかで知りたいと思っている自分も下世話な一般人。たとえばダイアナ妃の件のよう…
1979年10月、大統領・朴正煕の暗殺をきっかけに軍事政権下から民主化への脱却の機運が世に高まるなか、暗殺事件の解明を隠れ蓑に、のちに大統領となり権力を掌握することになる保安司令官が軍内の自身の派閥を動員し実行された軍事クーデターの一夜を描く。 内容を知らずにきて、最初ひょっとして全斗煥の話?でも名前がちょっと違うような?と思って見始めたのだけれど、実際の事件をフィクションの人名に置き換えて描かれた、実録に限りなく近いフィクション大作。当時の韓国は軍事政権時代だったことぐらいしか知らなかったけれど、これらの出来事が映画『タクシー運転手』やハン・ガンの小説「少年が来る」で描かれた光州事件につなが…
1960年代のイタリアで起きたアルド・ブライバンティという劇作家・詩人で蟻の生態研究家が「教唆罪」なる罪で裁かれた実話をもとに、被告アルド、「被害者」の青年エットレ、裁判を傍聴し疑問を呈する記事を書き続けた新聞記者エンニオの葛藤を描いた物語。 エットレとアルドは確かに惹かれ合っていたのだろうけれど、恋愛感情だけに突っ走るのではなく師弟としての深い相互理解があったようにみえた。そこに力付くで割り込んで二人を引き離したのはエットレの母と彼をアルドのもとに連れて行った兄だけど、この兄の逆恨みというかアルドとの関係が感情的に見えたのは気のせいか。 イタリアでこの教唆罪によって有罪判決を受けたのはブライ…
ラストシーンが記憶に残っていたので昔テレビで見た気はする。リメイクの「リプリー」も見ているはずだが、マット・デイモンの鮮やかな黄色い海パンぐらいしか記憶にない。そんなわけでふと思い立って鑑賞。ドロン追悼上映のリバイバルにも行ってなかったし。 思うに、最後にあんな悩殺イチコロ誘惑を仕掛けてもトム・リプリーはフィリップの恋人・マルジュに惚れているわけではない。かといってフィリップに?というと、今や少数派なのかもしれないけど個人的には「うーん…」と思う。というのも、たぶん彼が望んだのはフィリップの立場や言動、やることなすことすべてを、ひたすら手にしたくてたまらなかったのではなかろうか。丸っとフィリッ…
中国返還を間近に控えた香港・九龍城砦を舞台に、侵入してきた密入国者の青年を巡り、そこに住まう人々の生活を守るまとめ役と返還後の利益を狙う黒社会一味が火花を散らすアクションドラマ。 舞台が詳細まで再現された今はなき「九龍寨城」という場所柄や義理人情あふれる人物描写のノスタルジックであったり、親世代から因縁を持ち続けてきた2つの勢力の抗争、兄貴と弟分たちの熱い漢ブラザーフッド&ド派手な功夫アクション、とくれば、いかにも往年の香港映画という感じで刺さるのも納得。 正直知識を入れずに素で見て、兄貴たちの対立構造だったり人間関係がやや入り組んでいて?という点もあったのだけど、あとから3部構成になるという…
先の大戦を体験し一人息子も育て上げ、ロンドン郊外の村で穏やかな隠居生活を送るジムとヒルダの老夫婦は、再び世界が戦争に直面しているというニュースを聞く。しかも今度は核戦争だ。役所からもらってきた小冊子をもとに自宅リビングにお手製の簡易シェルターを作って非常時に備える二人だったが、ついに核爆弾が発射されたと報じられる。手引に従いシェルターに避難し生き延びた二人は瓦礫が散乱し変わり果てた自宅で、かつての戦時を思い出しながら政府の助けと日常が戻ってくる日を待つのだが、いくら待ってもなにも変らないばかりか変調をきたしたのは二人の身体だった。 公開時には内容もさることながらボウイの主題歌も話題になっていた…
70年代はじめにアップル・レコードを経てジョン・レノン、オノ・ヨーコ夫妻の秘書をしていた女性メイ・パンによる、ヨーコの依頼、というか命によってジョンの恋人として傍らでジョンの活動を見つめて過ごした18ヶ月を回想したドキュメンタリー。 1973年の後半から75年半ばのジョンとヨーコの別居期間の「失われた週末」についてはファンにはよく知られたことのようだけど、あまり文献を読んだりしていない自分はほとんど知らなかった。その日々を雇い主ジョン&ヨーコに仕えるものとして、ヨーコに命じられるままジョンと過ごしたメイの視点で語られるので、そのまま受け取ればヨーコってなんて身勝手なんだろうと多くの人が思うだろ…
ジャン・ジュネの「ブレストの乱暴者」を原作としたファスビンダーの遺作。シネマスクエアとうきゅうでの上映は予告編しか見ておらず、後年のファスビンダーのドキュメンタリーで抜粋場面をいくつか見ていたけれど、MUBIに本編があったので初見。予告の時点からなにより目を引いたのは夕暮れともつかないオレンジ色のライトに照らされた舞台。そこに水兵姿のマッチョなB・デイヴィスが佇んでいるだけで不穏ながらも絵になりすぎている。港町の売春宿を舞台にしたドライだけどウェットな愛憎劇。ほぼ紅一点といっていいジャンヌ・モローすら醸し出す場末感。「人は誰しも愛するものを殺すのよ」という劇中のシャンソンが印象的。これまでの間…
優しい比較的カタギのカレの元を離れてクリエイターを目指すカレと同居生活を始めた21歳のカナの波乱万丈な内面を描いた物語。 ただ誰かと話したくて自分を呼び出した友人と会っている最中、彼女の言葉ではなく外野の会話に意識が飛んでしまうカナ。安定した関係の恋人や仕事がなんとなくマンネリに感じてるところに、新しいカレとの新しい生活をスタートさせこれまでとは違う世界に踏み出すキラキラしたハッピーな笑顔で終わるメインタイトル前。その先に待っていたのは思いもよらない混乱だった。 思うようにいかない今カレとの関係からアグレッシブ化したり、幸せなはずなのに満たされない感情。少しずつ変だなおかしいなという気持ちがむ…
任期三期目を一方的に押し通し、様々な法制度を反故にする大統領に対して全米19州が反旗を翻し分離独立を宣言。激しい内戦の末に首都ワシントンが反政府軍によって陥落間近との報に接し、大統領への取材を試みるべく首都へと向かう4人の報道ジャーナリストを追った物語。 初っ端から続いてきた戦いを鼓舞すべく独裁者のような大統領が「勝利の日は近い」などと語るのみで内乱の発端はわからない。報道カメラマンのリーは世界各地の様々な紛争地に出向いては、目を背けたくなるような瞬間にも恐れず飛び込んでレンズに収めてきた。報道することによって母国を含め他の土地で同じことが繰り返されないことを願って、というのが彼女の持論だった…
工場で働きながら副業の転売屋で荒稼ぎする青年がやがて身バレ、身辺で不審な出来事が続き、やがては顔の見えない相手から命を狙われることになる。 誰にも感情移入はできない、とても胸クソの悪い物語ではあるけれど、十分に現実でもあり得そうなどんよりした恐ろしさ。手っ取り早く大金を稼ぐためなら手段も理屈もない主人公にもなにかしら彼なりの筋はあるのかもしれないし、彼を狙う一味の純粋な憤りであったり、内側にこもった怒りとも恨みともつかない感情、ただ負の感情に乗ってしまう単純さ。不条理を描いた物語や現実は古今東西起こっていたにしても、目に見える現実として報じられたり垣間見られる闇を「今どきは」で片付けてはいけな…
今や合衆国副大統領となったJ.D.ヴァンスが自らの半生を綴りベストセラーとなった回顧録「ヒルビリー・エレジー」を映像化した2020年の作品。ラストベルト地帯の庶民の厳しい生活を描いた実録ものとして原書が話題になっていた時期に読みたいと思っていたけれど、未読のまま来てここに至る。祖母を演じたグレン・クロースがアカデミー賞の候補になっていたのが2021年とのことだから、それから3〜4年後にまさか副大統領に登りつめるとは出演者たちもロン・ハワードも思っていなかったのでは。 早くに子を持ち、追われるように夫とオハイオにやってきた祖母、そしてシングルマザーで恋愛を繰り返しやがては薬物に溺れてしまう元看護…
ネットフリックスのオリジナルドラマ「セナ」。製作の発表から楽しみにしていたシリーズでこのために再入会したと言っても過言ではないのだけれど、期待に違わず見ごたえがあった。セナがマクラーレンホンダに移籍する少し前ぐらいからF1の中継はよく観ていたし、あの悲劇のあった驚きと悲しみで目の覚めた朝は今でもよく覚えている。ちょうど帰省していてリアルタイムでは観ていなかったから。セナが世を去って30年、もうそんなに経ったんだな…。 ドラマは「あの日」を描いた導入部から時代は遡り、カートレースに夢中だった少年期、フォーミュラドライバーを目指し修行を積んだイギリス時代、F3そしてF1へと進むドライバーとしてのス…
臨月近い身重の妻と子どもの誕生を心待ちにしているケンプのもとに陪審員の召喚状が届く。妻の健康状態もあり一度は断ろうとするもののコミュニティ紙の記者としての義務感からか結局「陪審員2番」として裁判に参加することになった彼だが、恋人を雨の夜道で殺害し現場に打ち捨てた罪に問われている被告人を法廷で目にしたときケンプは愕然とする。なぜなら裁こうとするこの事件に彼自身心当たりがあったからだった。 本来なら関わるはずのなかった事件に偶然裁く立場で関わることになり、故意ではなかったとはいえ本来自分が座っていたかもしれない被告人席に、当日の状況的にも普段の素行から考えれば誰もが「クロ」とレッテルを貼る被害者の…
MR. JIMMY ミスター・ジミー レッド・ツェッペリンに全てを捧げた男
レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジを初めて目にしたその日から「自分はペイジになるんだ」と決心して邁進し、現在も進化を続けるジミー桜井こと桜井昭夫さんの、ほとんど「ペイジ道」といってよい道を模索するさまを記録したドキュメンタリー。 自分の知り合いにもツェッペリンのコピーバンドやトリビュートバンドでジミー・ペイジになりきっているギター弾きは何人もいたけれど、桜井さんのそれはそんじょそこらの「コピー」や「トリビュート」などを遥かに超えている。彼は「ジミー・ペイジになること」を目標としてやっている人なので、そのこだわりに一切の妥協はない。楽器や衣装、プレイテクニックどころか、インプロビゼーションてん…
NYのアパートメントで一人住まいのDOGと通販で買い求めた友だちロボットの友情の物語。DOGの部屋に飾られているピエール・エテックスの「ヨーヨー」のポスターだけで、もう大好きになってしまった一作。寂しい生活を送っていたDOGのもとにロボットがやってきて、すっかり仲良しになった二人が闊歩するニューヨークの路上に、遠くに見える貿易センタービルのツインタワーも含めとても懐かしさをそそられる。そしてハッピーな友情のストリートダンスを体いっぱいで表現するEW&F「セプテンバー」のシーンの多幸感といったら! 夏のビーチ(あれはコニーアイランド?)のシーズン最終日に滑り込んだ二人が目一杯海を満喫する中で、ロ…
去年と全く同じことを書くようでアレだけど後半3か月ほぼ仕事しかしてなかったので映画はカナシすぎるほど観ていない。よって同じく去年残った映画10本、新旧問わず順不同で ・枯れ葉 ・デューン 砂の惑星 PART TWO・オッペンハイマー・まだ明日がある (イタリア映画祭2024/2025年3月劇場公開「ドマーニ!愛のことづて」)・異人たち・関心領域・野獣の青春(旧作)・Two Trains Runnin'(PFF2024)・カラオケ行こ・あなたのおみとり次点・夜の外側 イタリアを震撼させた55日間(2023年に続き)**ライブは・ブルーノ・マーズ(ちょうど1年前だ、、)・クイーン+アダム・ランバー…
サミー・ヘイガー and Friendsみたいな感じだけど、ライブを観てきた。メンバーはベース:マイケル・アンソニー、ギター:ジョー・サトリアーニ、公演発表時の予定ではドラムにジェイソン・ボーナムだったのだけれど、全米公演中に母上が急病となり代わりに抜擢されたのがケニー・アロノフ、キーボードにはギターほかマルチにこなすレイ・シッスルウェイトが参加。 ひとこと、すっごくいいライブだった。曲はサミー時代のヴァン・ヘイレンを中心に、「I Can't Drive 55」や「Heavy Metal」などソロの代表曲やデイヴ時代からは誰もが大好き「Jump」に「Panama」とヒット曲ほぼ満載。モントロー…
昨年の東京国際映画祭で同映画祭での初上映から24年ぶりに4Kデシタルリマスター版が上映されたのに続き、嬉しい劇場でのリバイバル上映。 2002年のワールドカップ開催に向け南北の融和の機運に湧くソウルで、多発する要人暗殺の犯人と目される北朝鮮の女スナイパーを情報機関捜査員チームが追う。やがて北朝鮮の特殊部隊による大掛かりなテロ事件が計画されていることが判明し、ソウルに潜入した部隊と捜査チームとの攻防が始まる。 それまでのコリアン・ムービーのイメージを完全に変えたと言っていい、アクション娯楽大作。というか、テレビが冬ソナなら映画の韓流火付け役はこれだと断言しても過言ではないだろう。 映画祭での上映…
1978年にローマでおきたアルド・モーロ誘拐殺人事件をモーロ自身と妻、党で親しくつきあっていた内務大臣、ローマ法王、そして誘拐を引き起こした赤い旅団の女性闘士と多面的な視点から6話構成で描き出した作品。 ベロッキオのモーロ事件を描いた作品というとマヤ・サンサ演じる旅団の女性闘士の目線から描かれた、開放されたモーロの散歩というファンタジックな演出も印象的だった「夜よ、こんにちは」があったけれど、今回ものっけからそれに近い。幽閉から開放されたモーロの病室をアンドレオッティ、ザッカニーニ、そしてコッシーガという政権の主要人物が訪ねベッドを覗き込む前で、モーロは涙を浮かべ「これでもう党のあらゆる役職よ…
見世物小屋で芸人をしていたフランツはロトで大金を手にし、やがて知り合った印刷会社の息子オイゲンと一緒に暮らすようになるが、オイゲンの目当てはフランツの金だけ。経営破綻寸前の親の借金を立替えさせ、贅沢な住居への引っ越しや劇場通いにモロッコへの旅行などすべて資金はフランツ持ち。結局いいように利用され、捨てられた挙げ句すべてを失ったフランツは病を得て野垂れ死ぬ。倒れたその場に居合わせた少年に所持金や腕時計までむしり取られて。 踏んだり蹴ったりどころではない目に遭わされても愛ゆえに相手を信じてしまうフランツがひたすら気の毒でしかないのだが、大胆でふてぶてしい外見にどこか繊細な心を持ちときには友人の肩で…
ジョージアを代表する画家ニカラ(ニコ)・ピロスマニの半生を描いた作品。親を早くに亡くし世話になった家を出て以来、放浪生活を続けながらも立ち寄った村の酒場に絵を描いて残し酒と食料にいくばくかの金を得るというこぢんまりと生きてきたピロスマニ。あるときそれらの絵が酒場を訪れたロシアの画家の目に止まったことで、彼の絵と存在が世に広く知られることになるのだが…。 代金がわりに描いた絵が村の各居酒屋の壁を飾り、村のコミュニティの中でニカラを認めていった人々が、そこに外部の目を浴びひょっとして金になると期待し、芳しくない批評をうけると総スカンを食らわせるさまが、いかにも人って…と思わせる。他人との交わりに次…
とある地方都市で進学を控えた中学生たちのある夏の物語。夜のプールでこっそり、だけどなんの屈託もなく踊りまくる女子。こっそりタバコを回しのむ男子。親との関係で何かしらの問題を抱えている子。クラスの女子に一方的に思いを募らせる男子。素直なようで複雑な心を抱えたひと筋縄ではいかない中学生たちが、ある夏の土曜日の午後、台風がやってくるなか帰りそびれて校舎に取り残され、また授業をサボって東京へ家出した女子は帰る手段を失い、各々の場所で一夜を過ごす。 それぞれが危うい中学生たち。まだ子供なのに子供の範疇をちょっと抜け出たい、かといって大人のたまごですらない宙ぶらりんな時期、台風みたいな特別な状況下で学友だ…
フェラーリの創設者エンツォ・フェラーリの人生における、公私に問題を抱え起死回生をかけて挑んだ運命のミッレミリア公道レースに参戦した1957年にスポットを当てたドラマ。エンツォ一家の愛憎劇と同時にフェラーリのドライバーになりたくて彼のもとにやってきたドライバー、デ・ポルターゴの悲劇的なレース事故という事実をもとに描かれる。 マイケル・マンの作品は人物描写がどの作品も見応えがあるけれど、本作もしかり。熾烈なエンジン開発競争が繰り広げられていたなかのテスト走行で、幾人ものドライバーが事故に見舞われても割り切っていた風の剛腕エンツォが前年に病死した跡継ぎたる愛息の墓前でハラハラと涙を流す。冷めきった夫…
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