沖の小雨の影は雁の別れ(かりのわかれ)か み
枯蘆(かれあし)が騒いだので窓を閉めた み
ペコペコ社長の景気は大熊手 み
黄色の蛍光ペンで塗る金糸魚(いとより) み
セロリを齧(かじ)る 何かが浄(きよ)められる み
鯛焼の包み紙のひかる匂い み
末枯(うらがれ)は最上階の窓際に み
白菜は芯から喰えと豆知識 み
鴨たちよ、みんなでそっちへ行くんか み
長葱(ながねぎ)はレジ袋から街を見る み
カーブミラーに鶲(ひたき)は影を見るか み
屠場(とじょう)の上に高層ビルの小春 み
麦飯(むぎめし)と季節違いの薯蕷汁(とろろじる) み
表面は沸騰するも芯は冷ゆ み
夕日照るビルのガラスに帰り花 み
畑から脱走したか茶の花よ の
この頃は客人はなし敷松葉 み
雨の舗道は銀杏落葉(いちょうおちば)に滑る み
露寒(つゆざむ)やさっき見たのは何だろう み
群時雨(むらしぐれ)、我が町の名はひらがなに み
柘榴(ざくろ)をブロック塀へフォーシームや み
サンルームに冬浅く眠り老いる み
頭から食べて柳葉魚(ししゃも)の尾が残る み
伴走のロープが緩む秋惜しむ み
引いた牛蒡(ごぼう)を銃口に詰めてやれ み
夜霧にハイビームの影はマドロス み
やや寒し、今日は頭が回らぬ日 み
秋深き5時にコミュニティバスを待つ み
AI(えいあい)に真理を託す文化の日 み
脚注に言い訳のある『星月夜』 み
キーを挿しシングルルームに秋の灯 み
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沖の小雨の影は雁の別れ(かりのわかれ)か み
蔦の芽(つたのめ)は世界征服を企む み
お似合いと言われて微妙な春服 み
春愁(しゅんしゅう)はレシートに膨らむ財布 み
合格した花が店先に並ぶ み
重力の漣(さざなみ)に浮く春の星 み
ブラウン管テレビは雛を飾れた み
残雪に声でも文字でもない歌 み
侘(わび)しさよ椀にみつばを浮かべても み
そっちへ行けば嵐山。二月果つ み
紅梅は遅咲きか、今朝の雨雲 み
衿(えり)もとの釦(ぼたん)を留める春の風 み
春の夜やそれを粗大ゴミで出すか み
梅が咲き山全体が低くなる み
餡入りの草餅は焼き網の痕 み
風の丘を登れば焼野(やけの)の匂い み
大根の半分なら『しっぽ』を買う み
子犬よ子犬 グルグルと 遅き春 み
寝返れば寒の戻りを握りしめ み
芍薬(しゃくやく)の浴衣も湯ざめして嚏(くしゃみ) み
撫肩(なでがた)の空き瓶に雪(ゆき)の雫(しずく)を み
スポッて筒の中は卒業証書 が
枝垂桜(しだれざくら)を天蓋(てんがい)に寝転(ねころ)がれ み
三椏(みつまた)の花(はな)のブローチを吾妹(わぎも)に み
韮(にら)を洗うと緑が溶け出てきた み
喉元にイガイガがあり雛あられ み
博士(はかせ):「これが『地獄の釜の蓋』じゃっ!」 み
不便だが不幸ではない春の泥 み
平等や公平が好き蕗(ふき)の花(はな) み
請求書が来てすぐに終わる二月 み
春苺(はるいちご)を弁当に入れてやろう み
「トンボの刺身だよ」 「羊羹(ようかん)みたいね」 み
カトレアの証言、覆(くつがえ)すアザミ み
稜線(りょうせん)が朦朧(もうろう)と立つ雪月夜 み
白魚が 透明から 醤油色に み
息白し、いまごろ好きと言われても み
あの坂を登っていくと幣辛夷(しでこぶし) み
ぎこちないプロトコルだね春浅し か
春闘次第なの金融政策 か
必ず5分後に咳が出る社長 か