※こちらの作品はおちゃめママ様へ献上した作品となります。つくしは苺を洗うとヘタを取り一口大に切る。そして数個の苺は更に小さく切りお子様スプーンも添え皆の待つリビングへ向かった。そこには今か今かと苺の到着を待っている娘の愛がいる。愛は類とつくしの長女で3歳になる。「お待たせ。」「ママ!あたちが恭にあげる。」「分かった。」「ちょっと待って。恭を座らせるから。」恭とは類とつくしの長男で1歳だ。最近すっかり...
※こちらの作品はおちゃめママ様へ献上した作品となります。つくしは苺を洗うとヘタを取り一口大に切る。そして数個の苺は更に小さく切りお子様スプーンも添え皆の待つリビングへ向かった。そこには今か今かと苺の到着を待っている娘の愛がいる。愛は類とつくしの長女で3歳になる。「お待たせ。」「ママ!あたちが恭にあげる。」「分かった。」「ちょっと待って。恭を座らせるから。」恭とは類とつくしの長男で1歳だ。最近すっかり...
我が家のブログにお越しいただきありがとうございました。類君とつくしちゃんを幸せにするお話を、、、と思い、書き始めて約12年になります。まさかこれほど続くとは思いませんでした。皆様の温かなコメントに支えながら何とかやってきたのですが、今は全く妄想が浮かびません。沢山の作品が生まれネタが尽きました。もちろん12年という月日は老いていく事にも繋がり、ここ数年は浮かんだ妄想がなかなか文字として書けなくて(...
一年後の夏。陽向も心陽も、しっかりと歩くようになっていた。最近は10か月ごろから歩く子供もいるというが、未熟児で生まれ3か月も保育器に入っていた為、そこを0か月として発育状況を見るらしく成長に問題はなさそうだ。「順調だね。」「ん。 首も秋ごろには座ったし、そこからすぐに寝がえりを始め、気づいたらズリズリと動き出し、ハイハイを初めてつかまり立ち?」「誕生日を迎えた頃にはしっかりつかまり立ちが出来てた...
4月になり、つくしは入院することにした。というのもこれから何があるか分からないため、万が一の時はすぐ対応できるようにだ。それに28週を過ぎた為、運動は極力避けた方が良いと言われた事も有り、家でジッとしているなら入院した方が安心という事になった。もちろん日中は麗が、仕事終わりに類が毎日来る。「どう? 変わりはない?」「うん。 元気すぎてお腹の中で暴れ回ってる。 二人がそれぞれ動くからお腹が張り裂けそ...
シリウスの元にデイジー村のギルド長から手紙が届いた。 定期的にリチャードに関する報告を貰っている。再びリチャードを王位に据えようとする貴族が接触していないか、本人にその意志がみられないか、リチャードが困っていることは無いかといった物だ。だがシリウスの思惑に反し兄はリカルドとして不便な生活を受け入れ、平民として働いている。せめて少しでも生活がしやすいようにと、魔道具の普及も急いだ。半年ほど前には村娘...
三日後、メアリーから電話があった。予想通り、あの世界へ戻るという返事だった。その為、週末に類と共にアレッタの店へ向かった。「お忙しい中、すみません。」「いいえ。」「いろいろ考えたのですが、アレッタさんにメアリーの姿を見せたくて戻る事を決断しました。」「ご主人はもうこの世界に戻れなくなりますが、それで良いんですね?」「はい。 私はメアリーと共にあの世界に骨を埋めます。 それとお言葉に甘えてこの店と自...
週末、類とつくしは子供服売り場へ向かった。小さな服はとても可愛いが、今はまだどちらが生まれるか分からない。その為、産着のみを数着買った。「男の子二人とか女の子二人なら、お揃いの服も良いな。」「形は同じで色違いとかも良いね。」「男女の双子でも一歳ぐらいまではそれで良いんじゃない?」「うん。 でも可愛いね。」「だな。」それから少し早いがアレッタの店へ向かった。小さな店で看板には漢字とカタカナで『異国料...
翌、月曜日。類の元にあきらがやってきた。「あのよぉ。 牧野さんなんだが美作が経営しているレストランのアルバイトに24歳の牧野さんがいるんだ。 だが髪の毛は茶髪なんだが、髪の色ぐらい変わる物だし会ってみるか?」あの後も裾野を広げて調べてくれていた親友に、嬉しさと申し訳なさが同時に込み上げてくる。そして再会後、バタバタしすぎて親友に報告していなかったことに気づいた。「ごめん。 見つかったんだ。」「えっ...
土曜日、類とつくしは長崎へ向かった。つくしは結婚したい相手を連れて行くと電話で連絡していた。「初めまして。 花沢類と申します。 つくしさんとの結婚をお許しください。」類はつくしの両親を前にすぐに頭を下げる。両親は俳優のような容姿の類に驚きつつも、娘のつくしに自然に目が向かう。どう見ても出産間近だ。「えっと。 つくし? あなた妊娠してるの?」「うん。 順番が逆でごめん。」結婚したい人がいるから会って...
二人っきりになり、類は改めてつくしに向き合うとポケットから小袋を取り出す。異世界で肌身離さず身に着けてた小袋だ。その中身を取り出しながら話す。「無事こうして戻ってきたんだけど、服装はあの時のままだった。 ただ傷は一切なかった。 もちろん服には大きな穴が開いていたし血も付着していた。 そして小袋には魔法陣の消えた紙切れとドラゴンの鱗、シリウスから貰った銀のプレートが入ってた。 枕の下に敷いていた紙も...
佳代は類の声に急いで玄関へ向かう。しかも珍しく「ただいま」という声まで聞こえた。どういう心境の変化だろうか?という気持ちが湧く。すると玄関に類が女性と手を繋いでいる姿が目に飛び込む。類がこうして女性と手を繋いでいる姿を見るのが初めてで動揺が走るが、努めて冷静を装い出迎えた。「お帰りなさいませ。」「佳代。 こちら俺の妻。」「妻!!?」動揺を隠していたが『妻』という言葉に、冷静さを失い驚きの声が出てい...
レストランを出ると類はすぐに花沢の車を呼んだ。「ちょっと待ってて。 20分程で車が来るから。」「うん。 あっ、だったら私の職場に来てくれない?」「あんたどこで働いていたの?」「フリーペーパーの編集部。 と言っても来月号で廃刊で会社は倒産。 あたしは今日付で倒産に伴う解雇になったんだけどね。」(類:フリーペーパー編集部? 確かに俺達のどこにも関連がない会社だよな。 だから見つからなかったんだ。)「社長...
つくしは駅に隣接しているショッピングモールに入った。バレンタインが近づいているという事で、店内は至る所にバレンタインを意識したものとなっており、一部コーナーはチョコ売り場となっている。(つ:社長に最後にチョコを渡せば良かったなぁ。 妊娠が分かってからの社長は物凄く優しくていろいろな物を差し入れしてくれたし。 まあ私が辞めたら社長一人で紙面づくりをしないといけないからってところもあったんだろうけど、...
クリスマス。この日もつくしは仕事をしていた。社内には社長もいる。身重でありながらこのような日にも仕事をしているし、土曜日も出勤しているのを見て察しているがなかなか事情を聞けないでいる。「牧野。 そろそろ帰ったらどうだ?」「はい。 これが終われば帰ります。」「年末年始はどうするんだ?」「家に居ますよ。 実家は九州なので混み合う時期に移動は避けたいので。」「まあそうだよなぁ。 きちんと親には話している...
12月つくしは土曜日も出勤し紙面づくりを行っている。その代わり平日は18時ごろには帰るようにした。そして社長が何かと気を遣ってくれるようになった。取材帰りに果物やジュースなどを買って帰ってくる。「あまり食欲がないだろ? でも何か口に入れろよ。」「ありがとうございます。」街はいつの間にかクリスマス仕様になっている。(つ:類もどこかでこの雰囲気を味わっていると良いなぁ。)そう思いながら自宅へと急いだ。...
つくしは忙しい仕事の合間にコッソリ産婦人科へ行った。休日は無いし、サービス残業の日々なのだからこれぐらい許されるだろうという気持ちだ。検査薬で陽性反応が出ているため間違いは無いだろうが、出産予定日など今後の事を決めたかった。「おめでとうございます。 双子ですね。 8週目で三か月に入ったところです。 予定日は5月25日ごろですね。」「双子?」まさか双子とは思わなかったつくしは、呆けた顔で確認した。その...
類は、ハッと目を開け飛び起きると腹を押さえる。だが、、、血は出ていない。痛みもない。どういう事?そう思いながら周囲を見渡す。「俺の部屋?」自分のベッドの上だ。しかも一人だ。「牧野? 牧野は?」周囲を見るがつくしの姿はない。「夢?」そう思いながらベッドから起き上がり自分の服を見る。それは乗合馬車に乗った時の服で、切られた箇所には穴が開き血が付着している。靴も履いている。だが、、腹に傷はない。もちろん...
それは一瞬の出来事だった。馬上の騎士達、そして乗合馬車から降りた男も崖を覗き込む。確かに二人が落ちていく姿が確認できたが、突然まばゆい光が現れ目を閉じた為、二人の行方が分からなくなった。「まさか、飛び降りるとは。」「聖女様はどうします? 森へ入りますか?」「いや。 この高さから落ちたら生きてはいないだろう。 万が一、生きていたとしても魔物が住む森ではさすがの聖女様でもどうすることも出来ない。」「あ...
翌朝、宿の人にクルクマへ行く乗合馬車を確認しチェックアウトした。時間まで村を散策する。昨日の商人の店の前に来た時に、たまたま店内に居た商人が二人を見て店から出てきた。「今から行かれるんですか?」「はい。」「この先の山を越えるんですけど、片側は断崖絶壁なんですが景色は凄く良いですよ。 半日はかかりますが、途中トイレ休憩しかないので何か食べる物を持っていかれた方が、、、あっ、是非このピーアを持って行っ...
類とつくしは王都内のギルド商会を訊ねた。類の姿を見たギルド商会長は直ぐに奥の部屋へ二人を通す。「いやぁ。 この方がマキノ殿かぁ。 本当に連れ出せたんだなぁ。」「その節はお世話になりました。 こうして無事、妻を連れ出すことが出来ました。」「いやぁ。 それにしても話に聞いてはいたが、こんなに綺麗な女性とは。 画家を呼んで姿絵を一枚作らせたいほどですよ。」「困りますね。 たとえ姿絵だとしても妻は俺だけの...
ドラゴンとの会話を終え、それらを詳しくシリウスとリーンハルト魔導士長に伝える。初めて知る事実に二人は驚愕するが納得してくれた。暫くすると陛下との謁見となった。陛下の護衛騎士や第二騎士団を中心とし、貴族や第一騎士団を含めた大勢が反逆罪の尋問を受け調査に当たっている。その指示を出しているのは陛下であり、シリウスは補佐をしながら陛下の指示の元動いている。当然ドラゴンと話し合いをするという事案も陛下の許可...
つくしは着替えを済ませると傍仕えの侍女に問う。「このアクセサリーは私のでしょうか?」「はい。 マキノ様の為に揃えた物でございます。」そこには色とりどりの宝石がついたアクセサリーが沢山ある。ネックレスやイヤリング、ブローチなどだ。その中の一つを手に取る。つくしと共にアクセサリーを見ていた類も、その種類の多さに驚きつつ尋ねる。「何? 宝石が欲しくなった?」「ううん。 あたしのじゃなくて、ドラゴンにあげ...
翌早朝。王宮の庭の隅に平民服を着たリチャードと向かい合うようにシリウス、リーンハルト魔導士長がいた。リチャードや優しい口調でシリウスに話しかける。「シリウス。 昨夜眠っていないのだろう?」「まあ。」「寝れるときにきちんと寝るんだぞ。 まあ暫くは大変だろうがシリウスならできるさ。」「兄上、、、」シリウスの顔は必死に涙を堪え苦渋の色を滲ませている。兄弟として過ごした日々が思い出される中、今から次期国王...
断罪劇の後、王宮はバタバタしていた。王妃を含め宰相やその他多くの貴族が捕らえられ尋問を受けることになる。もちろん使用人を含めて事情徴収が行われている。その為、類とつくしはつくしの室内でジッとしていた。そこに医師と薬師が訪れた。「この度はマキノ様に何とお礼を言って良いか。 私の診断では急性心不全でしたがまさか毒による物とは思いもしませんでした。 それに処方するように伝えていた薬の中にも毒が入っていた...
国王陛下はゆっくりとした足取りで進み、陛下だけが座る事の許される椅子に腰を下ろす。それを信じられない物でも見るかのように目を見開いて見ていた王妃は、ハッと我に返り最大限の礼を取る。「陛下。 ご病気が快復されたのですね。 それは大変よろしゅうございました。」「カサンドラ。 それはそなたの本心か?」「もちろんでございます。」「先ほどまで私亡き後の話に前のめりだったというのにか?」「それは、、、陛下の体...
リーンハルト魔導士長は王妃を見つけ話しかけた。「王妃様。 探しておりました。」「なんでしょう?」「実は私の娘が体調を崩しまして、王妃様なら良く効く薬草を教えて頂けるのではないかと。」「まあ、ビアンカ嬢が体調を崩されたのですか。 それは心配ですね。」上手くリーンハルト魔導士長が王妃を引き留めることに成功し、控えていた息子のオズワルドはすぐさま尋問部屋へ向かった。オズワルドの姿を確認すると、シリウスは...
――『お父様。 あの薬は本当にそのような効果がある物なのですか?』――『いや。 ハシバミ草を入れた特別な薬だ。』――『まあ、ハシバミ草ですか。 あれは子を宿す部分を腐らす効果がある劇薬では?』――『そうだ。 既に妊娠できない体になっていると思うが、万が一という事もある。 だが子を成す部分が無くなれば、万が一という心配もない。 婚約者という地位も辞退するだろう。』(類:娘も薬草名を聞いただけでどういう効能か...
バルセーヌ公爵邸(王妃の実家)「ようこそお越しくださいました。 聖女様。」「突然ご訪問致しまして申し訳ございません。」「とんでもございません。 さぁどうぞ。」「失礼いたします。」つくしは主人に頭を下げたあと、並んでいる使用人にもペコペコ頭を下げながら中へ入っていく。類は無表情のままその後について中に入った。通された応接間のソファーにつくしが座り、扉付近に類は立つ。直ぐに侍女がお茶をテーブルの上に置...
公爵家の馬車の中では、つくしとビアンカが楽しそうに話しをしていた。「まあ、では馬車自体が初めてなのですね?」「そう。 乗合馬車にも乗ったことがないから。」「初めての感想はどうですか?」「流石公爵家の馬車って感じ? クッションが良くて全然揺れを感じない。 凄いわぁ。 ねぇアーサー。」二人の会話に耳を傾けていた類は、ぶっきらぼうに答える。「ん。」「ほらっ、アーサーも同じ感想よ! 凄く心地良い乗り物だっ...
ソファーに座ったリーンハルト魔導士長はチラチラと娘のビアンカを気にする。それを見て類が告げる。「牧野に任せておけば大丈夫。 まあ娘だから心配なのも分かるけど、子供は一人?」「いいえ。 ビアンカの上に兄がおり、同じ魔法省に従事しています。 我が家は代々魔法に長けている家系なのです。」「ふ~~ん。 すごいな。 魔法か。」二人のやり取りが終わったところで、シリウスが話し始めた。「王妃の実家であるバルセー...
約一時間後、つくしの部屋にシリウスとリーンハルト魔導士、そしてビアンカが訪れた。ビアンカは瓶を手にしている。昨日約束したお茶を持参したのだろう。「おはようございます、マキノ様。 これが何時も飲んでいるお茶です。 それは良いのですが、何故お父様まで一緒に来られるのです? お仕事の方はよろしいのですか?」「あぁ、この後に行くよ。」部屋の扉がしっかりと閉まったところで、リーンハルトは表情を引き締める。そ...
つくしと類は着替えると直ぐにシリウスの執務室へ向かった。そこには魔導士の服を着た人がおり、机の上には茶葉の入った瓶が置かれていた。つくしの頭には『ポリタギリス 疲労回復 避妊 継続使用危険 癌になる恐れあり』と出る。「おはようございます。」「あぁ、マキノ。 早朝から申し訳ない。 こちらビアンカ嬢の御父上でもあるリーンハルト魔導士長だ。」紹介されたリーンハルト魔導士長は厳しい顔つきのまま、つくしに軽...
沈黙が流れる中、シリウスが息を吐いた。「アーサーには改めて感謝する。 これで王妃と宰相の内情は分かった。 結婚前から愛情があったとしても、兄上が二人の子供だったとしても、それでも陛下を殺そうと画策した事は許される事ではない。 しかも兄上を出産後も宰相との関係を続け三人も妊娠し内密に堕胎している。 これは決してあってはならない事だ。 その上、兄上が愛してやまないビアンカにも危害を加えようとしている。...
食後、類は与えられた部屋でシャワーを浴びた。そこには小さなバスタブも有りお湯を張る事も出来る。(類:元の世界と何ら遜色も無い。 部屋もスイッチ一つで電気がつく。 便利な生活の裏ではドロドロとした王位争い。 しかも身内が暗躍している。 大変だな。 元の世界でもスパイが暗躍したりランサムウエアを仕込まれ情報を抜かれたりいろいろだけど、それでも親族間での暗殺行為はない。 シリウスもこの先心許せる相手とは...
類とつくしと侍女は薬師の元へ向かった。室内には乾燥中の薬草がぶら下げられている。それにパッと目を通すが毒を持っている物はなさそうだ。「これはマキノ様。」「どうですか? 傷薬は作れていますか?」「はい。 ご指摘いただいた通りの分量で作っています。 今までと粘り気が違うのに驚かされています。」つくしは製造途中の傷薬を見る。すぐに分量が目の前に表示され、それは自分が作っていた物と変わりない事にホッとする...
類はスッと歩を進め、「失礼します。」と言いながらつくしの頭上を手で払う。(つ:何? 何をやってるの?)「何をしているのです!」王妃の苛立つ声が室内に響き、類はサッと直立し告げる。「上から大きな埃が落ちてくるのが見えましたので払っておりました。」つくしはハッと手元のカップを見る。確かに大きな埃が浮かんでいる。(つ:いつの間に? どうやって入れたの?)つくしが驚きを見せる中、類は平然と告げる。「王妃様...
つくしの部屋では、いつの間にか類を中心に作戦会議が始まっている。「まず王妃の周辺を洗い出す必要がある。 既にやっていると思うけど手こずっているんじゃない?」「そうだ。 医師が毎日診察をし薬を手配しているが、医師、薬師、付き添いの侍女の誰が毒を手配しているのか分からない。 王妃は草花に詳しいが王宮内で自分で薬を作っているとは思えない。 薬師の素性を調べたが王妃の血縁者はいなかった。」「だろうな。 つ...
つくしの私室のテーブルに四人が着く。ブランシュ騎士団長はシリウスの背後で立っていたのだが、それだと話しを聞き漏らす可能性があるという事で席に着かせた。「まずシリウス殿下に改めてお礼を言わせてください。 類を王宮に、あたしの元に連れて来てくれてありがとうございます。」「お礼を言われるほどではないし、すぐに村へ帰すと約束したのを破ったのは私だからな。 これは折衷案という事にしておこう。」「それでも嬉し...
二人掛けの丸テーブルへ移動したつくしとビアンカ。そのビアンカの姿を見た時につくしの頭にピコンと情報が入る。(つ:ポリタギリス? 避妊に効くけど飲み続けると子供が出来ない体になる? どういう事?)つくしは困惑しながらもまずは会話を試みる事にする。侍女が紅茶とクッキーをテーブルの上に置き少し離れたところで待機したところでビアンカが話し始めた。「マキノ様を誤解していました。 殿下から側室の話を聞いた時、...
類の言葉にシリウスは納得するものがある。ずっと兄を支えようと思っていた。自分が王位を目指せば貴族は二手に分かれ国は混乱する。それを避けたかったが、既に父上は毒殺されかけ自分もドラゴン討伐という命の危険にさらされた。全て兄上の周囲の者達が起こしている。兄上が王位に就けばその人達が大手を振って更に好き勝手する事が目に見えている。シリウスはギュッと拳を握る。「確かにその通りだ。 今まで兄上が王位につき私...
シリウスとつくしは陛下の部屋を出た後、リチャードの側近に呼び止められた。「マキノ様。 ここにおられましたか。」「はい。 陛下の病状が少しでも改善できないかと薬草茶を作ったのですが、あまり召し上がられませんでした。 治癒魔法も効果が無く力不足を感じていたところです。」シリウスの手にはバスケットがある。不自然にならないよう答えたつもりだ。「そうですか。 あまりお気を落とされませぬように。 怪我を治癒す...
訓練場は静まり返っている。そんな中、騎士団長は威圧感タップリの声を発した。「行くぞ。」「はい。」類は初めて手にする木剣をギュッと握る。剣を模した木製の剣は滑りやすい。視線は騎士団長に向けたまま膝を曲げ何時でも飛び込める体勢を取る。互いに見合ったまま数分が立ったところで、二人は同時に飛び込んだ。ガキッ木と木が激しくぶつかった音が響く中、二人は一歩も引かず睨み合っている。(類:重い。 一瞬でも間合いが...
類は昼前に王都の門に到着した。そこには衛兵がおり、通行証と荷物をチェックしている。(類:隣国からの間者を王都に入れないというつもりだろうが、通行証などいくらでも偽造できる。 俺のように付き添いでも中に入れるんだからザルだ。 それよりも身分階級を意識づける意味合いが大きいような気がする。 農民と王都民との違いを分からせるような? それにここに来てやたら人の声が耳に入ってくる。 元々よく聞こえていたが...
シリウスはつくしと部屋に入る。部屋には侍女も待機しており二人っきりではない。「遅い時間になったな。 申し訳ない。」「とんでもないです。 思ったんですけどリチャード殿下は何も知らないようですね。」「あぁ、私もそう感じた。 その点はホッとしている。」(つ:そりゃぁ兄として信頼しているもんね。 陛下を亡き者にしようとしている人達に加担していたらやりきれないよ。)「明日の朝から薬草園へ行きたいので薬師の手...
陛下はクックッと笑った後、シリウスに視線を向ける。「振られたぞ?」「元々、恋愛感情はありません。」シリウスは即座に答える。「そう言う事にしておこう。 それで私に毒を盛ったであろう人物には一人だけ心当たりがある。 王妃であるカサンドラだ。」「えっ!」シリウスと近衛騎士達は驚く。(つ:何となくそんな気がした。 リチャード殿下を王様にしたいという理由なんだろうけど、それならシリウス殿下を殺害しない? な...
類は町と王都の中間付近にある街に到着し、商会が経営している宿に泊まった。一階には荷馬車を置く場所があり、馬も馬舎で休ませることができる。何より建物の門を閉ざしてくれる為、荷物の見張りをする事が無くゆっくり休める。類とヘンリーは宿屋の食堂で食事を済ませると部屋へ上がる。そこにはシャワーはもちろんタオルまで備わっていた。「これ、、、」「あぁ、タオルを見るのは初めてか? 凄く良いんだよ。 布とは違って水...
つくしが目覚めると、すぐに食事が運ばれた。スープにサンドイッチと果物だ。「どれぐらい寝ていましたか?」「3時間ほどでしょうか? 少しでもお召し上がりくださいませ。」「ありがとうございます。」つくしは遠慮なく頂く。とにかくお腹が空いている。そしてスープとサンドイッチを完食し、果物に手を伸ばした頃にシリウスが入ってきた。「体の調子はどうだ?」「だいぶマシです。」「それは良かった。 食べながらでいいから...
つくしはぐるりと周囲を見渡す。まだまだ怪我人が横たわっている。それを見て見ぬふりは出来ない。「あの。 他の方達の治療は?」「あぁ、もう良い。 薬を塗っておけばそのうち治るだろう。」「えっ? でも、、、」宰相の言葉につくしは戸惑う。(つ:確かに軽い怪我の人はそれで良いけど、明らかに深い傷を負った人もいる。 あたしは不思議な力が少し使えるだけだけど、それでもこの人たちを見て見ぬふりは出来ない。)つくし...
類は早朝からずっと走り続けた。それは同行しているハンターも同じだ。途中、小川で水を飲んだものの食事はしていない。とりあえず危険な森を抜ける事だけを考えていた。だが魔物とは一度も遭遇しなかった。「こんな事は今までで初めてだ。」「あぁ。 ハギ―の一匹も出なかったな。」そう告げるハンター達だがスムーズに森を抜ける事が出来て安堵していた。ただ町は至る所に魔物の爪痕があり建物が崩れている場所が多数あった。「...
翌朝、つくしは白いストンとした足首までの長さのワンピースが用意され、それを着た。(つ:なんだかんだで第二王子はきちんと話を聞いてくれる人のようで良かった。 でもこれって小説で言う所の聖女様が着る服なんじゃない? まあ昨日のドレスよりはマシかな? それよりも類は眠れただろうか? 今日には帰れると良いんだけど。)侍女に促され朝食会場へ行くと、そこにはリチャード第一王子とシリウス第二王子が着席していた。...
第一王子の近衛騎士と魔法師はデイジー村に転移魔法で訪れた。そしてギルド商会へ向かう。「こちらにマキノの夫がいるはずだが、家はどこだ?」「マキノの夫ですか? 彼なら私たちの制止を無視してマキノを追いかけるように森へ入りました。」「森へ?」「えぇ。 マキノとの同行を拒まれましたが、どうしても心配だと言ってね。 私たちが止めるのも聞かず直ぐに森へ入りました。 ご存知の通りこの村から王都へ向かうには森を抜...
つくしの元にシリウス第二王子がやってきた。「待たせたな。 先ほどまで兄上と魔法師、騎士達との話し合いが行われていたんだが、マキノの提案した魔石の再利用に関しては魔法師に委ねた。 もちろんこれに関しては魔法師と魔道具師に頑張ってもらわなければならないからな。」つくしはホッとする。(つ:良かった。 あたしの意見に耳を傾けて貰った。)「ただ魔石についてはまだまだ必要だ。 あなたの住んでいる村まで魔道具が...
類がハンター達と共に村を出た後、商会長が村人に告げる。「あの状況でマキノをこの村に留めておくのは無理だった。 それにきっとマキノは帰してくれないだろう。 あれほど効能の高い薬を作れる人物だし、ドラゴンの傷すらも治せたんだからな。 そしてマキノの伴侶であるルイを殺しに来るだろう。 マキノがこの村に帰りたい理由は愛する夫がいるからだ。 その夫を殺せば後は好きに出来る。 それこそ王子の側室とかな。」「あ...
つくしは侍女に連れられて大きな扉の前まで歩く。侍女がドアをノックし開くと同時に、中の人達の視線が一斉につくしに集まった。「「「ほう、、、」」」何とも言えない声がした後、侍女に促されつくしは中に入った。両側には沢山の男性が並び立っている。その中にはドラゴン退治に来ていた騎士や魔法師の姿もある。そして前方には5段ほど登った先に立派な椅子に座った若い男性がいる。その隣には年配の男性が立っている。(つ:若...
魔法陣を抜けると、そこは綺麗な庭が見えた。その先に大きく綺麗な建物がある。背後は高い壁になっている。「どこ?」「王宮だ。」王子がそれだけ告げると直ぐに庭を抜け王宮内へ入り侍女を呼び指示を出す。つくしはボーと王宮内を見る。天井にはシャンデリアがありエントランスもものすごく広い。(つ:電気がある?)「マキノ。 この侍女について行け。」「えっ? 説明は?」「先に着替えてからだ。 その姿では謁見できない。...
ドラゴンが飛び立ち魔物が森へ帰り、村には騎士達や魔法師達と村人だけが残った。もちろんほとんどの人がつくしの行動を目にしている。騎士達の前に立っていた若い男性の姿に我に返った商会長がポツリと呟く。「第二王子殿下?」その一言で、若者がこの国の王子だと分かった。(類:王子? そんな人物に対し、牧野は普通の言葉で異論を唱えたが、これって不敬に当たらないか?)(つ:王子? そんな凄い人物がドラゴン退治に参加...
つくしはギルド商会の屋上から下を見ていた。数匹の中型の魔物と対峙しているハンターとカルロと類。その類の剣裁きは圧巻だ。スパッと硬い皮膚を切り裂いている。そして手こずっているハンターの元へ行くと、再び剣を振るっていた。そんな中、怪我を負うハンターもいる。「手当に向かいます。」つくしは黙ってみていられず屋上から一階へ降りる。そして傷薬や包帯等を持ち外に出た。腕や足に深手を負ったハンターは立ち上がる事が...
「もう。 寝坊したじゃない。」「ごめん。 ちょっと張り切り過ぎた。」つくしは起きてびっくりだ。既に太陽が高くなっていた。もちろん理由は分かっている。昨夜の甘いひと時が思いのほか長時間だったからだ。(つ:そりゃぁね、あたしだって嬉しかったよ? 二日目って事も有り最初っから痛みは無かったし、充分類を感じられたし、翻弄されたし、、、気持ち良かったし///。 でもちょっと張り切りすぎって違うでしょ? かなり...
朝食後、二人は傷薬と魔物除けのお香づくりを始める。「牧野。 こっちの薬草はこれくらいの乾燥で粉にしても良い?」「あっ/// うん///」「これはこのくらいで良い? もっと細かくする?」「もう少し細かくして?」「了解。」つくしはずっと椅子に座ったままで、類が薬草や道具を持ってきたりと動いている。というのも目覚めた時につくしの足に力が入らなかったからだ。「ごめん。 張り切り過ぎた。」と申し訳なさそうに、それ...
アレッタの店へ向かった二人。二人は照れた表情でアレッタに揃いの指輪を見せる。「もっと早く指輪を買うべきだったんですが。」「良かったねぇ。 良く似合ってるよ。」アレッタは魔物が襲ってくるかもしれないという情報に恐々した気持ちでいたが、類とつくしからお揃いの指輪を見せられホッコリした気分になる。「ドラゴン討伐が終わればどこかで結婚式をあげたいんですが。」「この村には教会の代りに十字架の塔が立っているだ...
商会から連絡があり、二人は急いでギルド商会へ向かった。「どうやら隣国は魔物一掃作戦に出たようだ。 というのも隣国では高ランクの魔物が村を襲ったらしい。 つまり魔物の数が増えた、或いはドラゴンが襲わせたと考えている。 当然、住処を失った魔物はこの国へ移動することになり、この国も討伐作戦に踏み切る事にしたそうだ。 ドラゴンが飛来した事で王都を攻撃する意思があると思われたみたいだな。」「という事はまだこ...
商会長が指で叩いた山は森の中心にある。当然山の麓は高ランクの魔物が住んでいるだろう。類は商会長に問う。「ドラゴンは普通どの辺を飛行しているんですか?」「山周辺だ。 森から出たことは無い。」「王宮付近からの情報は手に入りますか?」「あぁ、王宮付近の商会に確認できるがどうしてだ?」「これはあくまでも仮説ですが、この山は隣国と接しています。 ドラゴンを退治するために隣国が派兵し、それに怒ったドラゴンがこ...
「牧野の夢は叶った?」「えっ?」つくしはパッと顔をあげる。(つ:あたしの夢は半分叶ってると思う。 イケメンじゃなくても良いから優しくて頼りがいがあり自分だけを好きになってくれる人と田舎のような緑豊かな場所でのんびりと、、、だったから。 最初はイケメンすぎる類は単なる同士という考えだったけど、一緒に過ごすうちに類の良さをたくさん知った。 容姿だけじゃなく気遣ってくれるし優しいし物知りだし怪我をしても...
ギルド商会に到着した三人は、皆に驚きと喝采を浴びていた。「凄いな。 こんな大きなボアを二人でやっつけたのか?」「お前らどれだけ強いんだよ。」「さすがマキノが惚れるだけの事はあるよな。 今まで軽んじてすまなかったな。」「カルロ、流石だな。 結婚してから魔物討伐はやってなかったよな? 腕は鈍っていないんだな。」類とカルロを褒めたたえるハンターや村人たち。そんな中、つくしは商会長から傷薬と綺麗な布、そし...
約3か月が経った。つくしが作った薬は良く効くらしく、今では他の町からもギルド商会に注文が入る程だ。またハンターからの評判も良く、傷薬はもちろん、打ち身に効く軟膏や栄養ドリンクも売れる。そして子供用のシロップタイプの風邪薬も評判になった。今まで薬は苦く美味しくない物だったが、これは進んで飲んでくれる。もちろん注文が入るからと言ってすぐに作れるものではない。森の入り口にあった薬草も、少しずつ奥へ入らな...
つくしは薬草を摘み、籠に入れている。その隣には周囲に気を配りながら類も手伝っている。二人はつかず離れずの距離を保っている。そして二人以外の音を察知した時には、類がサッとつくしの手を止める。つくしは動きを止め、類の視線の先を見る。するとピンと立っている長い耳が見えた。ハギ―だ。類は静かに剣を抜く。つくしはその場に身を屈める。そしてハギ―がこちらに向かって駆け出したときに、類は剣を振るった。ザシュッどさ...
アレッタの店で、つくしは小さな巾着二つと、少し大きな巾着を一つ作っている。小さな巾着はもちろん転移魔法が込められた紙を入れる為の物。もう一つの巾着は財布代わりだ。今は類のポケットに全てのお金が入っている。その間、類は店内の服を物色中だ。すると布で出来た肩掛け鞄を見つけた。「牧野。 これも買おうか。 そうすれば大きな袋は薬草専用に出来るだろ?」「だね。 類に合うものを選んでて。」「分かった。」類は数...
朝日を感じ、つくしは目を開ける。そこには類のシャツが見える。(つ:あっ/// 昨夜、怖い夢を見てから///)途端、昨夜の事を思い出し頬を染める。スネイクが大きい口を開け向かってきた事は、かなり衝撃を受け恐怖を感じた。もちろん無事退治し、それ以降は考えないようにしていたがまさか夢で再びあの光景を見るとは思わなかった。それから類の優しさに救われて、ぐっすり眠れた。そろそろと顔を上げると類の顎が見える。今日で...
自宅へ戻った二人は、すぐにランプにオイルを入れつけてみる。「明るいね。」「ん。 十分使えるな。」「うん。 じゃあお湯を沸かすね。 沢山汗を掻いたし、類から行水してね。」「分かった。」お湯が沸くと、ランプを一つ持ち洗面所へ向かった。天井にひっかけるフックがあり、そこにランプ吊るすと部屋全体が明るくなった。「なるほど。 こうするのか。」類はお湯が冷める前にサッと行水する。そしてつくしのいるリビングへ戻...
類とつくしはもう魚釣りをする気持ちにはなれず村へ帰る事にした。蛇に似た魔物の処分に困ったものの、魔物の体には魔石があり、それは売る事が出来るとティアから聞いた。食べられるかどうかは疑問だが、魔石だけでもお金に換えられるならギルド商会へ持っていきたい。それにここに放置すれば他の魔物を呼び寄せるかもしれない。まるでロープのようにクルクルと巻き肩に乗せる類に、やっとつくしは笑顔を見せた。「ロープみたい。...
釣り道具を持ち川へ向かう途中「あっ、ティアに餌は何が良いか聞いてみようか?」「そうだな。」二人は食堂に顔を出す。昼過ぎで客は誰もいない。この世界に来て三日目だが、ここでは二食が当たり前のようだ。「いらっしゃい。 マキノ! ルイ! 食事?」問われて二人は顔を見合わせる。朝から薬草を取りに行きお腹が空いているし何より水分補給したい。「じゃあ少し食べて行こうかな。」「サンドイッチ一つとジュースを二つ下さ...
朝食を取り洗濯物を干した後、二人は二日ぶりに森に足を踏み入れる。つくしの髪はアレッタに貰った紐で括られている。そして入口周辺の薬草から取り始める。「これが腹痛に効く薬草。 こっちが頭痛に効く薬草。 やっぱり森に入ると薬草があるね。 村には何一つないのに。」「薬草に適した環境なんだろうな。 それに採取する人が少ない? 医師や薬師がいないと言っていたし。 それに多少の知識があったとしても魔物が出るかも...
家に戻った二人は早速盥を置いてみる。まるであつらえたかのようにぴったりと納まった。玄関前に置いていた薪を裏口へ運び、数本を竈に入れる。「薪は火が消えないようにしないと、使いたい時になかなか火が付かないと思う。」「うん。 中が広いから調理をしない時は竈の横の方に置くみたいだね。 火かき棒があるし。」「だな。 それと今夜はタンポポ亭で食べるとして、明日はどうする? 朝食を食べてから薬草取りに行くだろ?...
掃除道具も一揃えあり、遠慮なく使わせてもらう。食器や調理器具もある程度揃っており、いつでも娘が帰ってこられる状態になっていた。それを思うと、絶対にどこかで生きていて欲しいと願わずにはいられない。そこにティアがシーツとランプを持ってきた。「どう? すぐに住めそう? これアレッタから預かってきた。」「あっ、ティアさん。 ありがとう。」つくしはシーツとランプを受け取る。ランプはオイルが入っており、すぐに...
「おはようございます。」「あっ、おはよう。」店員は2人が手を繋いで降りてきた姿を見てニンマリと笑う。類の方は堂々と、そしてつくしの方は頬を染め下を向いている。二人は寝不足のようで、無事愛し合い満足した男性と、奔走された女性の姿に映る。店員は朝食の乗ったプレートを持ち、すぐに二人の席へ向かう。「昨夜は、あまり寝られなかったようね。」「はい。 あんなにすごいとは思わなくて///」店員はうんうんと頷き、つく...
※周囲にお気をつけご覧ください宿の窓辺に二枚の下着と類のシャツを干し、ランプの灯を消してそれぞれベッドに横になる。(類:自身のアレを見られるのと同等に下着を見られる事もこれほど恥ずかしいなんて。きっと知り合ってまだ一日も経っていないからだろうけど、これがまだ続くのか?朝になると自分の部屋に居たって事になると良いんだけど。)(つ:二つ並べて干すなんてまるで恋人同士みたいだよね。 まあここでは夫婦にな...
二人は1ルーツを渡し店を出た。「凄く良い人でしたね。 サービスとして手ぬぐいを貰ったし。」「ん。 まああっても困らない物だし。」「はい。 でもどんな仕事を斡旋するつもりでしょうかね? 畑仕事ならまだしも土木関係はやった事ないんですけど類は出来ますか?」「土木関係?」「はい。 汗を掻くし汚れると言って手ぬぐいをくれたでしょ? って事は重労働の仕事を斡旋するつもりですよ。」途端、類はプッと笑いを漏らす...
部屋に入った二人は、サッと室内を見る。8畳ほどの広さでベッドが二つに小さなテーブル一つと椅子が二脚。そのベッドもシングルサイズ。(類:狭いな。 とりあえずベッドは二つあるが手を伸ばせば届きそうな距離。 ベッドにはスプリングも無く硬い。 まあシーツは綺麗にされているみたいだから贅沢は言えないか。)類は室内をマジマジ見て、ベッドの硬さを確かめるように手で押さえる。つくしはパッと室内を見た後、もう一つの...
森から抜けるとそこは広々とした平地が広がり、田舎の風景を思わせる様な景色だった。そして土道の先に転々と家が見える。「村だ。」「やっと抜け出せたな。」「うん。」魔物の森を抜け出た二人はホッと安堵する。そして近くで畑仕事をしている女性に声をかけた。「すみません。」「はい。 何ですか?」緑色の髪に青い瞳の女性は、やはりここが異世界である事を教えている。二人は驚きを表情に出さず、類は手にしているハギ―を掲...
類とつくしはデイジー村へ向かって歩いているが、明らかに違和感を感じていた。類は遠くのものまではっきり見えるし音も良く聞こえる。それこそこの先に小川があるのかせせらぎのような水音が聞こえる。つくしは道に生えている草の名前と効能、採取や処理の仕方などがパッと思い浮かぶ。「あのっ、ちょっとすみません。 先ほどからあたしの頭の中にその辺の草の情報が入ってくるんですけど、類も入ってきます?」(類:牧野も変化...
「あのっ、あたしの願いに『田舎のような緑豊かな場所で過ごしたい』という物があったので、多分こんな場所になったのかと。」「なるほど。 あり得るな。 俺も『現実に起こり得ないようなハプニング』と願ったからこんな事になったのかも? 他にもいろいろ思いながら寝落ちした。」「あたしも、いろいろと思いながら寝ました。」「ちなみにどんな願い?」(つ:それを言うの? ドン引きされるよ。 単なる恋愛だよ? しかもキ...
夢の世界だからと思う二人。それぞれ自分の夢の中に偶然にも同じように夢だと思い込んでいる異性が登場しているという設定だろうと。ただ心地よい風が身体に当たる感じや小川のせせらぎのような音が聞こえたりと夢にしてはリアルに感じがする。何より裸足の為、地面の感触がリアルだ。「リアルすぎません?」「すぎる。」「夢なんですから靴が欲しいと言えば出てくるんですかね?」つくしの言葉に類はなるほどと思う。(類:夢とは...
類は帰宅後スーツのポケットから占い師に貰った紙を取り出しベッドに放り投げる。そしてとりあえずシャワーを浴びるためにバスルームへ向かった。それにしても変な占い師だった。まるでどこかで会話を聞いていたのかと思うほど言い当てていた。しかもこんな紙切れで良い夢が見られる?頭をタオルで拭きながらもう一度紙をじっくり見る。少し厚めの紙で手書きで魔法陣のような物が書かれている。確か世界が変わるような時間を過ごせ...
類は真っすぐ駐車場へ向かうが道の端に小さな机を出した占い師がいた。その机の上には水晶らしきものが置かれている。こんな場所で客が来るんだろうか?だが酔っ払いのようなアルコールの入った人とか、若い女性などは興味本位でやるかもしれない。ただ通行人の目があり神妙な悩み事は話せないだろうし、なにより占い師はずっと水晶を見ているのか視線を上げない。これじゃ占いをしてもらいたい人も近寄りがたい。類の予想通り、チ...
※ファンタジー色の強い作品となります。 類は司がNYから一時帰国しているという事で皆で集まる事になった。場所は美作が経営している創作レストラン。比較的安価で美味しいという評判のレストランだ。何時もより少し早めに仕事を終え、類は真っすぐそこへ向かった。既に25歳になっている4人は、仕事に奔走している。もちろん大学卒業後まだ三年ほどしか仕事に携わっていないが、それでも会議などでは意見を求められ最終判断を任...
更に三年後の三月。つくしは大学を卒業し四月から花沢物産に勤めることが決まっている。配属先は総務部の受付業務になった。そこに至るまで紆余曲折があった。もちろん最大の難関は類だ。自分の秘書以外は認めないというスタンスだったからだ。だが今の類の役職は部長だ。入社一年目から重役職を与えるわけにはいかないという物だが、実際の仕事は重要な会議には出席し判断を仰がれる立場で一般の部長職よりも重要な立場にある。し...
フランスでは静が途方に暮れていた。大学のクリススマスパーティーのパートナーがいないからだ。去年まではこの時期になれば沢山の男性から申し込みがあり、その中から容姿や家柄を考慮し選ぶ事が出来たが今年は誰からも誘われない。一人で出席しても良いのだが、それでは恋人はもちろん友人もいない寂しい人と言う視線を浴びることになる。背に腹は代えられないと自分の方から誘ってみることにした。『ジョージ。 クリスマスパー...
10月になった。二人は鎌倉に来ている。テレビで巡礼古道が紹介され、まだ足を踏み入れていない道がある事を知り、是が非にでもそこを調べたくなった。そして以前と違い二人には一人のボディガードを必ずつけるようになった。何かあってからでは遅いと悟ったからだ。入り口には『古道巡礼』と書かれた木で出来た小さな案内板があるのみ。気づかず素通りしそうな細道だ。人一人が通るぐらいの幅しかないが、二人は並んでその道へ入...
ガラッ病室のドアを開けると、ベッドを少し起こした状態でこちらを見ているつくしと目が合った。瞬間、つくしが笑う。その笑顔に類は胸にグッと来るものを感じた。そして足をベッド脇まで進め近くの椅子に座ると直ぐに手を取る。その手は暖かい。再び、類の胸がグッとくる。「まきの、、、」「るい、、ありがとう。」「ん。 良かった。」この温もりを失ったら俺はどうなっていたんだろう?それを考えるだけで怖くて仕方ない。「類...
病室に総二郎が顔を覗かせた。つくしには親戚たちが付いている為、病室を出て廊下に出る。警察への説明が終わったのか三人が揃っていた。その三人を連れ近くの談話室へ向かった。「それで牧野の状態はどうだ?」「落ち着いているし意識もはっきりしてる。頬を叩かれたことによる腫れと、肋骨のヒビ、それと背中を包丁で切り付けられ15針縫ってる。三階から飛び降りたけど、上手く受け止められたみたいでその影響はないみたい。」...
303号室と思われるベランダへ向かって声を上げ続ける。「牧野! 牧野! そこにいるんだろ!」すると突然そのベランダに牧野が現れたと思ったら躊躇することなく柵に手をかけた。飛び降りる?そう思うと咄嗟に体が動きベランダの下へ向かう。「まきの~~!!」思った通り牧野は柵を蹴るように飛び降りた。その背後にキラリと光るものが目に入ったが、そんな事よりも牧野だ。牧野の落下地点へ走ると手を広げる。必ず受け止める...
つくしは恐怖で叫び声も上げられない。ただ、こんな男に犯されたくない!と強く思う。そして、、、蒔乃の心情を思い出す。楓弥以外に触れられたくないという強い気持ちから自ら命を絶った。それ位の気持ちは今のつくしにもある。ただ、、、自分は蒔乃と違い動ける体力がある!そう思うと必死に抵抗する。諦めない!諦めたくない!!類以外の人に触れられたくない!!ブチブチと制服のボタンが千切れるが、お構いなしに両手両足をば...
つくしは怪我を負わせた人の家と思われるマンションの前でタクシーを降りた。もちろんタクシー代はつくしが支払った。「大丈夫ですか? 歩けますか?」「すみません。 なんとか、、、」男性は松葉杖をつきながらゆっくりとタクシーから降りる。「ここです。 ご親切にどうもありがとうございます。 もう大丈夫ですので。」「じゃあ自宅前まで送ります。」つくしはマンションの中に入ると先にエレベーターの前へ行き、ボタンを押...
類はテストの後、親友達とレストランへ向かった。「牧野は?」「今日は友達とランチ。 一限で終わりだったから、その後ブラブラしてくるってさ。」「まあ気分転換も必要だよなぁ。」「ん。 父親の事件があってテスト勉強に明け暮れる事で気分を紛らわせていたけど、やっぱり気もそぞろって感じだったから。」「でもお前が傍に居たからマシだろうな。 お爺さんもお前を頼ったしな。」「ん。 それには感謝してる。」普通なら東条...
テスト最終日つくしは一限目のテストが終わると真木子と共に学校を出て渋谷へ向かった。そして雑貨店などを見て回りパスタ店へ入った。二人は注文を終えると早速今回の経緯を話し始める。「、、、って事みたい。 まだ祖父からは詳しい話は聞けてないけどね。」「と言う事は花沢さんからの情報って事ね?」「そう。 類は美作さんから聞いたみたい。」「それで、、、つくしは大丈夫?いくら縁を切っているとはいえ実の父親が犯罪を...
期末テスト5日間。その間、花沢邸で夜遅くまで勉強し翌日の試験に臨んでいた。類も同じように試験勉強をする。そんな中、類がポツリと呟いた。「牧野晴男は罪を認め始めたらしい。」「そっか。」つくしの視線は教科書に向けられたままだ。「横領に関しては東条側も証拠を固めて提示していたし、未成年淫行に関しても相手の証言もあるからね。それにスマホに写真や動画が残されていたから言い逃れも出来ない。」「まさか、、、父が...
晴男は警察署で必死に訴えていた。だが横領と高校生に手を出していた事は素直に認める。証拠が残っており逃げられない為だ。だが、自分だけが悪い訳では無い。現に春香があのバーを紹介しなければ、、そうだ! 春香も翔とやっていたじゃないか!「確かに私は翔君を気に入り彼を待ち伏せして関係を持ちました。でも翔君は元々体を売る仕事をしていたんです。 初めはそこで知り合ったんです。」「そこ、、と言うのは、牧野さんが話...
愛子は急いで自宅へ帰る。するとそこには数人の警察官が、部屋の中を物色している。そして必要と思った物は箱に入れている。そこには呆然とした母と進が居た。「ママ! どういう事?」「あぁ、愛子。」母親は愛子を抱きしめ震える声で話す。「パパが高校生の男の子を脅して性行為をしていたそうなの。」「高校生の男の子?」愛子は信じられない気持ちだ。「パパのスマホにその男の子の写真が沢山入っていたそうなの。それに会社の...
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※こちらの作品はおちゃめママ様へ献上した作品となります。つくしは苺を洗うとヘタを取り一口大に切る。そして数個の苺は更に小さく切りお子様スプーンも添え皆の待つリビングへ向かった。そこには今か今かと苺の到着を待っている娘の愛がいる。愛は類とつくしの長女で3歳になる。「お待たせ。」「ママ!あたちが恭にあげる。」「分かった。」「ちょっと待って。恭を座らせるから。」恭とは類とつくしの長男で1歳だ。最近すっかり...
我が家のブログにお越しいただきありがとうございました。類君とつくしちゃんを幸せにするお話を、、、と思い、書き始めて約12年になります。まさかこれほど続くとは思いませんでした。皆様の温かなコメントに支えながら何とかやってきたのですが、今は全く妄想が浮かびません。沢山の作品が生まれネタが尽きました。もちろん12年という月日は老いていく事にも繋がり、ここ数年は浮かんだ妄想がなかなか文字として書けなくて(...
一年後の夏。陽向も心陽も、しっかりと歩くようになっていた。最近は10か月ごろから歩く子供もいるというが、未熟児で生まれ3か月も保育器に入っていた為、そこを0か月として発育状況を見るらしく成長に問題はなさそうだ。「順調だね。」「ん。 首も秋ごろには座ったし、そこからすぐに寝がえりを始め、気づいたらズリズリと動き出し、ハイハイを初めてつかまり立ち?」「誕生日を迎えた頃にはしっかりつかまり立ちが出来てた...
4月になり、つくしは入院することにした。というのもこれから何があるか分からないため、万が一の時はすぐ対応できるようにだ。それに28週を過ぎた為、運動は極力避けた方が良いと言われた事も有り、家でジッとしているなら入院した方が安心という事になった。もちろん日中は麗が、仕事終わりに類が毎日来る。「どう? 変わりはない?」「うん。 元気すぎてお腹の中で暴れ回ってる。 二人がそれぞれ動くからお腹が張り裂けそ...
シリウスの元にデイジー村のギルド長から手紙が届いた。 定期的にリチャードに関する報告を貰っている。再びリチャードを王位に据えようとする貴族が接触していないか、本人にその意志がみられないか、リチャードが困っていることは無いかといった物だ。だがシリウスの思惑に反し兄はリカルドとして不便な生活を受け入れ、平民として働いている。せめて少しでも生活がしやすいようにと、魔道具の普及も急いだ。半年ほど前には村娘...
三日後、メアリーから電話があった。予想通り、あの世界へ戻るという返事だった。その為、週末に類と共にアレッタの店へ向かった。「お忙しい中、すみません。」「いいえ。」「いろいろ考えたのですが、アレッタさんにメアリーの姿を見せたくて戻る事を決断しました。」「ご主人はもうこの世界に戻れなくなりますが、それで良いんですね?」「はい。 私はメアリーと共にあの世界に骨を埋めます。 それとお言葉に甘えてこの店と自...
週末、類とつくしは子供服売り場へ向かった。小さな服はとても可愛いが、今はまだどちらが生まれるか分からない。その為、産着のみを数着買った。「男の子二人とか女の子二人なら、お揃いの服も良いな。」「形は同じで色違いとかも良いね。」「男女の双子でも一歳ぐらいまではそれで良いんじゃない?」「うん。 でも可愛いね。」「だな。」それから少し早いがアレッタの店へ向かった。小さな店で看板には漢字とカタカナで『異国料...
翌、月曜日。類の元にあきらがやってきた。「あのよぉ。 牧野さんなんだが美作が経営しているレストランのアルバイトに24歳の牧野さんがいるんだ。 だが髪の毛は茶髪なんだが、髪の色ぐらい変わる物だし会ってみるか?」あの後も裾野を広げて調べてくれていた親友に、嬉しさと申し訳なさが同時に込み上げてくる。そして再会後、バタバタしすぎて親友に報告していなかったことに気づいた。「ごめん。 見つかったんだ。」「えっ...
土曜日、類とつくしは長崎へ向かった。つくしは結婚したい相手を連れて行くと電話で連絡していた。「初めまして。 花沢類と申します。 つくしさんとの結婚をお許しください。」類はつくしの両親を前にすぐに頭を下げる。両親は俳優のような容姿の類に驚きつつも、娘のつくしに自然に目が向かう。どう見ても出産間近だ。「えっと。 つくし? あなた妊娠してるの?」「うん。 順番が逆でごめん。」結婚したい人がいるから会って...
二人っきりになり、類は改めてつくしに向き合うとポケットから小袋を取り出す。異世界で肌身離さず身に着けてた小袋だ。その中身を取り出しながら話す。「無事こうして戻ってきたんだけど、服装はあの時のままだった。 ただ傷は一切なかった。 もちろん服には大きな穴が開いていたし血も付着していた。 そして小袋には魔法陣の消えた紙切れとドラゴンの鱗、シリウスから貰った銀のプレートが入ってた。 枕の下に敷いていた紙も...
佳代は類の声に急いで玄関へ向かう。しかも珍しく「ただいま」という声まで聞こえた。どういう心境の変化だろうか?という気持ちが湧く。すると玄関に類が女性と手を繋いでいる姿が目に飛び込む。類がこうして女性と手を繋いでいる姿を見るのが初めてで動揺が走るが、努めて冷静を装い出迎えた。「お帰りなさいませ。」「佳代。 こちら俺の妻。」「妻!!?」動揺を隠していたが『妻』という言葉に、冷静さを失い驚きの声が出てい...
レストランを出ると類はすぐに花沢の車を呼んだ。「ちょっと待ってて。 20分程で車が来るから。」「うん。 あっ、だったら私の職場に来てくれない?」「あんたどこで働いていたの?」「フリーペーパーの編集部。 と言っても来月号で廃刊で会社は倒産。 あたしは今日付で倒産に伴う解雇になったんだけどね。」(類:フリーペーパー編集部? 確かに俺達のどこにも関連がない会社だよな。 だから見つからなかったんだ。)「社長...
つくしは駅に隣接しているショッピングモールに入った。バレンタインが近づいているという事で、店内は至る所にバレンタインを意識したものとなっており、一部コーナーはチョコ売り場となっている。(つ:社長に最後にチョコを渡せば良かったなぁ。 妊娠が分かってからの社長は物凄く優しくていろいろな物を差し入れしてくれたし。 まあ私が辞めたら社長一人で紙面づくりをしないといけないからってところもあったんだろうけど、...
クリスマス。この日もつくしは仕事をしていた。社内には社長もいる。身重でありながらこのような日にも仕事をしているし、土曜日も出勤しているのを見て察しているがなかなか事情を聞けないでいる。「牧野。 そろそろ帰ったらどうだ?」「はい。 これが終われば帰ります。」「年末年始はどうするんだ?」「家に居ますよ。 実家は九州なので混み合う時期に移動は避けたいので。」「まあそうだよなぁ。 きちんと親には話している...
12月つくしは土曜日も出勤し紙面づくりを行っている。その代わり平日は18時ごろには帰るようにした。そして社長が何かと気を遣ってくれるようになった。取材帰りに果物やジュースなどを買って帰ってくる。「あまり食欲がないだろ? でも何か口に入れろよ。」「ありがとうございます。」街はいつの間にかクリスマス仕様になっている。(つ:類もどこかでこの雰囲気を味わっていると良いなぁ。)そう思いながら自宅へと急いだ。...
つくしは忙しい仕事の合間にコッソリ産婦人科へ行った。休日は無いし、サービス残業の日々なのだからこれぐらい許されるだろうという気持ちだ。検査薬で陽性反応が出ているため間違いは無いだろうが、出産予定日など今後の事を決めたかった。「おめでとうございます。 双子ですね。 8週目で三か月に入ったところです。 予定日は5月25日ごろですね。」「双子?」まさか双子とは思わなかったつくしは、呆けた顔で確認した。その...
類は、ハッと目を開け飛び起きると腹を押さえる。だが、、、血は出ていない。痛みもない。どういう事?そう思いながら周囲を見渡す。「俺の部屋?」自分のベッドの上だ。しかも一人だ。「牧野? 牧野は?」周囲を見るがつくしの姿はない。「夢?」そう思いながらベッドから起き上がり自分の服を見る。それは乗合馬車に乗った時の服で、切られた箇所には穴が開き血が付着している。靴も履いている。だが、、腹に傷はない。もちろん...
それは一瞬の出来事だった。馬上の騎士達、そして乗合馬車から降りた男も崖を覗き込む。確かに二人が落ちていく姿が確認できたが、突然まばゆい光が現れ目を閉じた為、二人の行方が分からなくなった。「まさか、飛び降りるとは。」「聖女様はどうします? 森へ入りますか?」「いや。 この高さから落ちたら生きてはいないだろう。 万が一、生きていたとしても魔物が住む森ではさすがの聖女様でもどうすることも出来ない。」「あ...
翌朝、宿の人にクルクマへ行く乗合馬車を確認しチェックアウトした。時間まで村を散策する。昨日の商人の店の前に来た時に、たまたま店内に居た商人が二人を見て店から出てきた。「今から行かれるんですか?」「はい。」「この先の山を越えるんですけど、片側は断崖絶壁なんですが景色は凄く良いですよ。 半日はかかりますが、途中トイレ休憩しかないので何か食べる物を持っていかれた方が、、、あっ、是非このピーアを持って行っ...
類とつくしは王都内のギルド商会を訊ねた。類の姿を見たギルド商会長は直ぐに奥の部屋へ二人を通す。「いやぁ。 この方がマキノ殿かぁ。 本当に連れ出せたんだなぁ。」「その節はお世話になりました。 こうして無事、妻を連れ出すことが出来ました。」「いやぁ。 それにしても話に聞いてはいたが、こんなに綺麗な女性とは。 画家を呼んで姿絵を一枚作らせたいほどですよ。」「困りますね。 たとえ姿絵だとしても妻は俺だけの...
ホテルに到着した類。もちろん普段利用するようなホテルではなく簡素なホテルだ。部屋は二人部屋。入ると直ぐに鍵をかける。洗面台へ行き蛇口をひねると勢いの弱い水が出る。もう少し人口が多い都市なら高級ホテルがあるだろうが、ここの州はかなり田舎だ。贅沢は言っていられない。「類様。食事はいかがいたしましょうか?」「ホテル内にレストランはある?」「聞いてみます。」田村はフロントに電話をかけ聞いてみる。すると一階...
翌日、類は田村とともにナイジェリアへ向かった。アブジャ国際空港に着いた類は、地理的にまずナイジャー州へ車で向かった。かなり道が悪く、しかも両サイドはボディガードが乗り狭い。だが途中で休憩を取る事は出来ず、早く現地へ到着することだけを願った。そしてやっと到着し車から降りたところで、類は背伸びをし体の筋肉をほぐす。そして庁舎と言われる建物の中へ入った。部屋に通され、そこには行ってきた州知事と握手を交わ...
類は会社に戻ると直ぐ『ジャングルハニー』と『ブラックソープ』を調べる。ジャングルハニーの方は希少価値が高く安定した生産が難しい。蜂蜜を取るための巣箱を用意するのではなく、木の上に出来ている蜂の巣を見つけそれを採取しているようだ。これでは安定した生産は出来ない。その為、付加価値も付きかなりの高額で販売されている。味はイマイチらしいが免疫効果が高くアフリカでは傷口に塗ったり治療薬に使われたりするらしい...
類は仕事の合間に総二郎から聞いた桜子の店へ向かった。そこには類の知らない女性がいる。もしかして今日は店に来ていないのか?と不安に思いながらも聞いてみる。「いらっしゃいませ。」「あのっ、西門桜子さんはいらっしゃいますか?」「オーナーですね?失礼ですがお客様のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」「花沢類です。」「少々お待ちください。」店員は電話を手に取ると話し始めた。するとすぐに後ろのドアが開き、桜...
更に5年後、司が結婚することになった。お相手はカーネギー財閥の三女のキャサリンだ。突然の事に類を始めあきらと総二郎は驚いた。だが親友の門出を祝う為NYへ向かった。「驚いたな。突然だよな?」「あぁ。パーティーで何度かエスコートしたのは知っているがあまりにも突然だよな?」「ん。でもまあ、、理由は二つのうちのどちらかだと思う。」類の言葉に、あきらと総二郎もその二つが思い浮かぶ。一つは政略結婚だ。カーネギー...
類は一年半後に無事大学を卒業した。そこから本格的に仕事を始めた。あきらと総二郎は類から遅れ半年後に卒業した。それから更に一年後、類は日本勤務となり久しぶりに日本に戻ってきた。日本を離れてから実に5年の歳月が経っていた。数か月後、司の日本出張を知ったあきらが皆に声をかけ久しぶりに集まる事になった。場所は美作が経営しているレストラン。食材にこだわったレストランで多少値段は高いが、個室になっておりかなり...
つくしは大学の寮に着いた。玄関を入ると管理人のような人がいる。「こんにちは。初めまして。牧野つくしと言います。」「牧野さんね。ちょっと待ってね。」管理人の男性は紙をペラペラと捲り「えっと、牧野つくしさんは301号室だね。鍵を渡すからちょっと待って。」そう言うと一つのカギを持ち管理人室から出てきた。「はい。これがカギ。3階の301号室ね。ここは女子寮だけど3階は医学部の生徒が集まってる。だから同室の人...
つくしは卒業式に臨んだ。そして卒業生代表として答辞を読み上げた。これでつくしの英徳生活は終止符を打つ。色々あった三年間だ。その中で最も濃い時期を過ごしたのが一年半前。司に宣戦布告してから目まぐるしく人生が変わった。もちろんそのおかげで沢山の人達と知り合い、今も交流が続いている。それは自分の人生にとってプラスになる事は間違いない。ただ大学生になる事で、そこにも一線を引くつもりだ。つくしは最後に非常階...
年が明け、つくしは共通テストを受ける。それを自己採点したうえで、国公立大学医学部の二次試験の願書を出した。それは寮が完備されている九州の大学だ。寮費と食事代で月4万円ほど。水道光熱費込みで二人部屋。だが大学から近く交通費がかからない。今住んでいるアパートの家賃と水道光熱費、食費を考えると十分賄えるしお釣りも来る。そのお釣り部分を医学部の施設使用料に回せば奨学金の額を減らせる。特待生になる事を期待し...
つくしは英徳の経済学部、都内の医学部の私学を受験する。すると両方とも合格を勝ち取った。だが特待生になるには、入試試験の上位10人で入学した者のみだ。つまり自分がその特待生になるかどうかは入学手続きをするまでわからない。しかも特待生と言っても授業料の250万円が免除されるだけ、残り施設使用料を合わせた400万円近くはかかる。「凄いな。無事合格できたじゃないか。」「はい。」「英徳は特待生間違いない。こ...
類はあきらからの報告を受け驚いていた。てっきり就職、あるいは専門学校へ行くと思っていた。ところが医学部を受験するとは想定外だ。でも、、、何となく牧野らしいと思ってしまう。いつもいつも自分の前に大きな壁を作りそれに登ろうと必死にもがいていた。実際、それを登り切っていたし、時には俺が引っ張り上げた事もある。でも今度は自分一人。俺に出来る事はここから応援するのみだ。頑張れ!!牧野!!「類君?何かいいこと...
一学期も終わろうとしていた。つくしは個人面談の為担任と向き合っている。「成績は申し分ない。よく頑張っているな。」「ありがとうございます。特待生なので必死です。」「TOEICも786点は流石だ。これなら一流企業にも十分入れる。」「ありがとうございます。」「それでなんだが、、、このまま英徳大学へ進学するのはどうだろう?英徳大学も特待生制度がある。充分特待生になれると思うんだが。」担任は学園長から頼まれてい...
類は母親と共に本屋に来ていた。平日に読む本を選ぶためだ。「電子書籍とかも出始めてるけど、やっぱり紙の本の方が目が疲れなくて好きだわ。」「確かに。」「類君は何系が好き?」「推理小説かな?」「推理小説は一気に読みたくなるのよね。こういう文庫本は文字もこんなに小さな文字で、なかなか読めなくなってきたのよね。認めたくないけど確実に老眼になってきているわ。」「こればかりは仕方ない。いやかもしれないけど老眼鏡...
つくしは高校三年になった。進は終業式後に北海道へ行った。突然家族がいなくなり寂しい気持ちはあるが、逆に言えば自分のペースで勉強が出来る。夜も進に気を遣って明かりの位置を調整する必要はない。その為、のびのびと勉強に打ち込んだ。そしてGWになり、桜子に誘われ久しぶりに総二郎、あきら、滋と食事会をした。「牧野。お前、一回り痩せたんじゃねぇか?」「そうかな?」「うん。やつれてるように見える。ちゃんと食べてる...
プロムから帰宅すると、そこには母親の犬である三沢が待っていた。司は身構える。「お帰りなさいませ。」「なんだ?」「お迎えに参りました。これからNYへ向かいます。」「はあ?」突然の事に司は呆けた声を出す。そして隣の海を見る。海もどういう事?という気持ちだ。「海も一緒か?」「いえ。司様お一人です。」「どういう事だ?」「初めからその約束でございました。日本へは一時帰国でございます。ですが司様が暴漢に刺された...
司と海が出口へ向かうのを見て、二組もダンスが終わると直ぐにフロアの隅へ移動する。あきらと総二郎は、滋と桜子にドリンクを渡す。「ありがとう。」「すみません。」喉を潤した後、、、「あったね。」「ありましたね。」「くっきりとあったな。」「あんな目立つ場所につけるなよな。」四人は海の胸にくっきりと点けられたキスマークをチェックしていた。「という事は昨夜も張り切ったという事だね。」「ですね。」「チェリーだっ...
英徳の卒業式そこにF4の姿はない。類はもちろんだが司、あきら、総二郎もサボった。既に卒業は決まっているし、堅苦しい式は元々参列するつもりはなかった。そして夕方からのプロム。ここには卒業生がドレスアップして参加する。もちろんパートナーは誰でも構わないし、一人で出席してもOKだ。そこに総二郎は滋を、あきらは桜子を同伴して現れた。その姿に生徒達は黄色い声を上げる。卒業式に参列しなかった為、プロムも欠席とばか...
つくしは桜子に連れられ英徳のラウンジに居た。そこであきらの驕りでランチを食べている。「牧野。本当に参加しねぇのか?」「うん。桜子と滋さんを誘ってよ。元々あたしはそんな場所に行きたくないし。」「先輩。お二人のどちらかと参加して道明寺さんの鼻を明かすという方法もありますよ?」「ううん。そんな事したくないし会えば必ず嫌味を言われるでしょ?そうなったら折角のプロムが台無しになるじゃない?だからあたしの分ま...
つくしは相変わらずあまり寝られなかった。そして勉強をつづけた結果、思いのほか好成績を残すことが出来た。それは自分でも信じられない成績だ。その日、担任に呼ばれたのだが、それは特待生に推薦するという話だった。思いがけない話につくしは驚くが嬉しくて仕方ない。英徳には特待生制度がある。つまり一年間の授業料が免除される。ほとんどの学生は特待生に推薦された時点で辞退する。お金持ちの子息ばかりでお金に困っていな...
「類君。ありがとう。」「いや。これくらいどうって事ない。」類は花瓶の水を入れ替え病室に置いたところだ。母親が病気で手術をすると聞いたのはNYから帰国後すぐの事。急いで帰って来いという雰囲気ではなかったが、日本では大河原主導の元、司と牧野の恋を応援するプロジェクトが立ち上がっていた。早々に参加するつもりはないと告げていたが、あのまま日本にいたら二人の状況を逐一報告される。それが嫌でとりあえずフランスへ...