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アンチ人間が吐く毒素。

ライフスタイルブログ / 残りの人生

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2015/02/04

  • 第3話:午前3時の美意識(4)

    病院時間のカスタマイズ。まず、その全体像だが、1日のフレームは「21時就寝、3時起床」ということに決めた。なぜ3時起床なのか?そんなバカはおらんぞ、ということで、バカは答えた。「寝返りをうつたびに襲われる下肢のキリキリ痛から一刻も早く逃れるためである」★患者の部屋の消灯時間は22時。朝食はだいたい7時半。ぼくもそれに合わせて寝起きしていたら、約9時間も激しい痛みと背中合わせになる。「じゃあ、3時起きにし...

  • 第3話:午前3時の美意識(3)

    術後、2日目から3日目にかけて点滴や血抜きの管が外され、ぼくは急速に「真人間」に近づいた。痛み止めも吐き気が出ない程度の弱い錠剤に変えられた。これでもう、拘束衣を着せられているような苦しみにアエグこともなかろう。★ただ。下肢が痛いのは相変わらずだった。しかしそれも、行動の自由が劇的に広がったことで、少なくとも日中はごまかしがききやすくなった。★で、清潔空間を維持するためにさっそく始めたのが、「ダブル掃...

  • 第3話:午前3時の美意識(2)

    だけど。ぼくだけが特別なのではない。少数派ではあろうが、ぼくに似た人間は、世界中にけっこういるんじゃなかろうか。★その証拠に、病的に清潔好きな刑事や探偵を主人公にした海外ドラマがあり、それらは日本にまで輸出され、けっこうな視聴率を稼いでいるらしい。その高視聴率の大半は、ふつうじゃない人間の滑稽さを「バカだね」「気が知れないよ」などと笑ったり、嗤ったりする人々に支えられているのだろうが、しかし、それ...

  • 第3話:午前3時の美意識(1)

    ぼくは変人かもしれない。…かもしれない?いや、変人だと思う。これまでもわが家で、旅先で、掃除や消毒作業に追われる異常な性格については、何度か書いてきた。書くことによって自分をいさめてきた。…いさめてきた?いや、そうでも、なかった。★入院初日(手術の前日)。入室すると、荷物を収める前に持参の除菌スプレーと除菌ペーパーで、ドアのノブ、電燈のスイッチ、引き手、テレビのリモコン、冷蔵庫、ナース・コールのボタン...

  • 第2話:ジイサン、正体を現す(5)

    術後のこの半日少々を天秤の片方に載せれば、もう片方に載せた83年間のストレスときっと釣り合うのではないだろうか。★たしかにぼくはそれなりに生きて来たつもりだった。しかし、それは人間相手だった。しかもその相手は他人だった。この半日の相手。それは自分だった。御しえない自分の生に巻きつかれ、ぼくはただのたうっていた。★この世のストレスはさまざまだ。しかし。暴れ、もがき、のたうつ自分の生と対峙した動物的なスト...

  • 第2話:ジイサン、正体を現す(4)

    尿道から管を抜いてひと息ついたのも束の間、別の看護師が勢いよく入って来た。からだを拭いてくれるという。「ハイ、裸になりますよォ」若い看護師さんが手際よくパジャマを脱がせ始める。熱いタオルが、背中を胸を脇腹を、腹部をゴシゴシとこする。容赦ない、抵抗できない力強さ。「オムツも新しいのに替えましょうね」え? オムツ?そうか、オムツはまだそのままだったんだ。ぼくは反射的に叫んだ。「オ、オムツはもういりませ...

  • 第2話:ジイサン、正体を現す(3)

    憔悴しきって朝を迎えた。命の糸はまだ切れていなかった。全館に明かりが灯り、しばらくすると看護師さんが巡回して来た。「いかがですか。眠れました?」眠れました?なんてことを言ってくれるんだ。苦しいです、痛いです、吐きそうです、そう言いたかったが、やめた。こんな患者の状況、これまでのキャリアで数えきれないほど経験しているだろう。泣き言をなんて意味がない。ベテランらしい看護師さんは、表情に何も特別な感情を...

  • 第2話:ジイサン、正体を現す(2)

    季節は大寒なのに、からだ中の毛穴から汗が噴き出ている感覚だった。強い痛み止めのせいで、吐き気もすごい。看護師さんが吸い口から水を飲ませてくれようとするのだが、飲んだとたんに吐く。口の中が粘って、舌が口蓋に張りつく。だから吐くとわかっていても「み、み、み、みず…」そしてまた吐く。★息が苦しい。空気が吸えない。いや、吸おうとする空気があまりに疎で、喉に届かない。だからアエグ。喉を掻きむしりたくなるが、手...

  • 第1話:生きものの年齢(3)

    IDとしての年齢確認に異を唱えるつもりはもちろんない。が。そういう日々を過ごしていて思い出したのは、「人類は物理的時間以外に別な時計も持ってるんですよ」という話だった。★その時計とは、一生のうちに心臓をドックンといわせる数。いわば「心臓時計」のことで、それはヒトもネズミもゾウも、一生に15億回、等しく刻むという。つまり。おなじみの物理的時間だけが生きものの寿命を測る方便ではない。用いる時計によっては、...

  • 第1話:生きものの年齢(2)

    その役割(存在のフレーム)を否定するものではないが、入院してみて1つわかったことがある。それは個々人がいつ生まれ、その後何日たったか。つまり年齢なんて何の意味もなくなるということだ。★人は病に捕縛されてしまったら、自分が何歳かなんて関係ない。病床で問われるのは、ただただ生きものとしての精神的、肉体的な生命力そのものだ。★回診に来られる看護師さんの何人かが、患者データの入ったPCを下目にしながら、異口同音...

  • 第1話:生きものの年齢(1)

    入院という非日常は、日常生活では気にも留めない事の裏面に光を差し入れる。たとえば年齢について。★私たちは過去から未来へと一直線に続く時間の流れの中にいる。が。その時間を誰も見たことがない。いや、ある、と言えなくもない。その形骸、時計によって。★時間の概念の始まりは古代エジプトだそうだ。物事に秩序を与えるために。言ってみれば、暮らしの方便として。とはいえ、おかげで歴史が成立した。また。私たち一人ひとり...

  • 人生足別離

    唐の詩人、于武陵(ウ・ブリョウ 810~没年不詳)の五言絶句「勧酒」の結び。 人生足別離 →人生、別離足る(=ばかりだ)井伏鱒二はこれをこんな日本語に変えて称賛された。 サヨナラダケガ人生ダ★しかし、じつはこれには裏話があって、講演で尾道に行った際、同行の林芙美子が港で見送る人々との別れにシンミリと、「人生はさよならだけね」とつぶやいたという。その言葉を井伏が深く胸に留め、後日「勧酒」を訳すとき、ちゃ...

  • 人を見たら✖✖と思え。

    クレジット・カードを急きょ作り直すことになった。悪人に使われた恐れがあるからだ。★ことしもあと1か月をきったある朝のこと。メールを開くと、カード会社から「ご利用通知」が2通入っていた。「おかしいなあ」その時点で首を傾げる。カードを使った覚えがない。ちなみに「ご利用通知」は使うと即来る。2通とも深夜零時過ぎの着信だった。★内容を見て疑念が確信に変わった。まず1通目が00時06分、VISA加盟店での返品。2通目...

  • 原罪。

    我々はふだん意識していないし、しても当然のことと思っているが、じつは時間に主導権を握られ、時間のせいで心をきしませながら暮らしている。だが。ほとんどの人はこう反論するだろう。「時間があるから生活秩序が保たれているし、そもそも時間がなければ、人類の歴史が成立しない。自分が何歳なのかもわからなくなるよ」★確かにそうだ。しかしね。生きもののなかで人類だけなのだ、体内時計だけでは足りず、抽象的な時間という...

  • 闇に見えるもの。

    巷はイルミネーションの真っ盛り。99%の方は「キレイ、ステキ、楽しい」なのだろう。残り1%の一人、ぼく。なぜそんなにヘソ曲がりなのか。理由は以下のとおりです。★都会では、夜は空から始まる。つまり。空が暗くなると、ビルに、店に、街路に、クルマに、明かりが灯る。闇を意識するとすれば、それは人工的な明かりとの対比によってだ。★しかし。森暮らしをしていたときに気がついたことがある。自然の中では、夜は空からでは...

  • 青いバラとナチス。

    19世紀初頭、文化・文政期の江戸。一大園芸ブームが起こり、人々はアサガオの人工交配に熱中した。★結果。できたのは、筆の穂先を束ねたようなものや捨てられた紙屑のようなもの、あるいは破れ傘のようなものなどなど。それらは「変わりアサガオ」と呼ばれた。★「これでも花?」そう思わせることができたら大成功。「おもしれぇ」「てぇしたもんだ」江戸っ子たちはこの「見世物」に拍手喝采した。★時代は飛んで2004年。サントリー...

  • 腰抜け。

    いつからなんだろう、こんな言い方をみんながし始めたのは。「…かなと思います」「大丈夫です」 「…してもらっても いいですか」キツイ言い方を避け、相手を傷つけないように気をつかう。ベースには英語表現の直訳があると思うが。★その真反対が昔ながらの断定調。「…です」「いりません」「…してください」ぼくはその言い方で育った。いまもそう言う。★「でもさ、あんたのように100年近くも生きてりゃ、そりゃ変わっていくさ。...

  • 吉本弁時代。

    かつては標準語で話せることが日本人としてのデフォルトで、関西や東北出身者はとくに苦労したんじゃないでしょうか。ぼくなんざ、広島から東京の高校に転校したとき、アクセント辞典というNHKアナウンサー御用達の一冊を購入し、「田舎者扱いされてたまるか」と馬鹿げた努力をしたもんです。当時、方言丸出しで堂々としゃべっていたのは、上方落語&漫才の人たちだけだったと思います。★もちろん、何弁で話したってかまわないし、...

  • メディアの脳味噌。

    みなさんもウンザリされてないだろうか。WBCでの活躍以来、テレビは何かにつけ「オータァニサ~ン!」ホームラン王の話題が終わると、手術の話。それが終わるとMVP。ある局では、朝のワイドショーの頭から1時間17分もMVP礼賛に使った。終わるとこんどは900億円での移籍話だ。どうでもいいじゃねえか。★大谷選手に恨みはまったくないですよ。ダメなのはメディア。流行りものを追っかける真正ミーハー体質。それが視聴者の期待に応...

  • 動物園、反対。

    動物園らしきものが最初にできたのは、紀元前1000年頃のエジプト。王侯貴族が猛獣や珍獣のコレクションを自慢し合ったらしい。★日本に動物園ができたのは明治15年のこと。博物館の付属施設としてだった。そして今日。その数は全国で158。世界には約1200の動物園があるが、日本の動物園数は世界1とも2とも3とも。(なぜか資料により異なる)が、まあ、とにかく世界で屈指の動物園数なのは間違いない。★そもそも動物園は何のためにある...

  • 大きいことはいいことか?

    かつてイギリスをはじめとするヨーロッパ諸国は植民地を持ち、覇を競い合った。日本も大東亜共栄圏というお題目を掲げ、必死でその後を追った。いまでもまだロシアと中国は迷夢のただ中にいて、争いのタネを蒔いている。★覇権主義の根幹にある価値観には、さまざまなバリエーションがある。たとえば。「大きな会社にお勤めなんですねえ。ご立派ですねえ」などと(言葉には出さないとしても)売上高の大きい会社に勤めているだけでな...

  • 溺れる者はワラもつかめぬ。

    人間は溺れる。酒に溺れ、競馬・競輪・競艇に溺れ、写真に溺れ、園芸に溺れ、骨董品に溺れ、鉄道に溺れ、ペットに溺れ、薬物に溺れ、不倫に溺れ、ホストに溺れ…そして仕事にも溺れる。★「溺れる」の意味。広辞苑では、「心を奪われる」「はまる」「ふける」(例:酒色にふける)となっている。★ただ。溺れる状態を十把一からげにはできない。一つは、溺れながらも頭は波の上に出して、自分の位置を確認している…つまり、溺れている対...

  • 動物愛護を嗤う。

    札幌の市街地に出没した熊を殺したら、抗議が殺到した。動物愛護、他の生きものとの共生、それらを言う人々だ。★しかし。その声のほとんどは道外の人々、つまり自分は熊に襲われる心配がない地域の住民からだった。★その逆の例。北海道新聞が熊の「駆除」について民意を調べた。 ※横道にそれるが、 「駆除」という言い方は 人間の上から目線だ。 「殺す」なら同等。 その結果、道民の90%近くが殺すことに...

  • 5:転回の② 身体不如意でありがとう。

    5:転回の② 身体不如意でありがとう。手術を経てから、妻はすっかりほんのりして、生命体としての輪郭がとても柔らかくなったように感じられる。体力が落ちたせいもあるだろうが、それだけではないと思う。身体不如意になったことで、少なくともいまは表舞台から去る結果となった。そのことがいちばん大きいのではあるまいか。★妻は、これまで世間と闘うためにかぶっていた鎧兜を脱いだ。刀や槍も捨てた。すると。素のままの妻の...

  • 5:転回① ぬくもり。

    5:転回① ぬくもり。ぼくが家事をしないのは病院に行く時間だけだ。病院へは、きのう洗濯した衣類を持って行く。水と新聞を持って行く。そして洗濯物を持って帰る。空いたペット・ボトルと読み終わった新聞を持って帰る。★毎日12時半頃、病院に着く。着くとまず食堂に寄って、生姜焼きだの天ぷら蕎麦だのをその日の気分で食べる。食べ終わる頃には面会可能な1時を回っている。★そして…「きょうはどう?」「歩行器で廊下に出られ...

  • 4:異変の④ 上品に生きよ。

    4:異変の④ 上品に生きよ。声帯といい、尻といい、身体がダメになっちゃ家事どころじゃない。ぼくが苦しんだら、妻も苦しかろう。じゃあ…とジイサン考えた。苦しまず、イヤにならずに家事と向き合うにはどうすればいいかと。★こんな場合、世間様はアメリカ直輸入の表現でこう答えるだろう。「楽しめよ。家事を楽しめばいいんだよ」ゾッとする。ヤなこった。ぼくは幼児の頃から82年間ひねくれ者。非・金魚のウンコ。非・付和雷同...

  • 4:異変③ 尻が痛い。

    4:異変の③ 尻が痛い。声帯のトラブルを治すために、朝に晩に風呂場で子どもじみた発声練習を開始した。その前向きな精神が肉体に作用したのか、発生装置の方は何とか正常に作動し始めた。★が…それも束の間。ぼくは次なる身体トラブルに見舞われた。両方の尻が痛くて痛くて10分と立っていられず、大げさでなく床に崩れ落ちる破目になったのだ。★外出時も100mと歩けず、両膝に手をついて痛みを和らげる始末。そして何とか歩き始...

  • 4:異変② 拘束衣。

    4:異変② 拘束衣。あっちにも、こっちにもトラブルがある。みんなに余裕がない。もしかしたらその医者も看護師も、連日の過剰労働で疲労困憊、口をきく気力さえないのかもしれない。だからってオーケーなわけないけど。★妻の報告によると、トイレの介助で看護師を呼んだら、「こんなことぐらいで呼び出しブザーを押さないでくださいっ」と怒鳴り声を浴びせられたとか。いったい、ここはどこなんだ?ほんとに病院か?監獄か? ★...

  • 4:異変① 声が出ない。

    4:異変① 声が出ない。こういう神経症的な日常の結果。起こるべき異変がやはり起こった。声が出なくなったのだ。完全に出ないわけではないが、思ったボリューム、思ったタイミングで声が出せなくなったのだった。★たとえば病院の食堂で注文をするとき、「生姜焼き定食をお願いします」と言いたいのに、「………ッ」生姜焼きの最初のショがなかなか発声できない。声が粘着質の個体と化して、声帯の隙間をくぐれないのだ。急いで息を...

  • 3:発見の⑤ 入院すべきは誰か。

    3:発見の⑤ 入院すべきは誰か。同様なことは風呂にだって言える。妻が「立ったきり」になる前、分担する家事の手順の関係上、妻が後番で入っており、出るときはカビ対策として天井、壁、床の水滴を拭き取り、その道具やタオルを洗って、干してから出て来る。そのことは知っていた。しかし。★それをいざ自分がやるとなると、「一日の汗を流した後でまた汗はかきたくない」という拒否感がハナからある。「風呂ぐらい、ゆっくり入ら...

  • 3:発見の④ 家事の真実。

    3:発見の④ 家事の真実。けっして自慢ではないけれど、ぼくは退職以前から「男子厨房に入らず」の世代にしては珍しく積極的に家事をやってきた方だと思う。家事が好きだからではない。妻ばかりに家事を担わせるのが申し訳ないと思ったからだ。とくに退職後は、「60%はあなたがやってる」と妻に言われるほどになった。しかし。じつはそれがそうではなかった、60%だなんてとんでもないことに気づかされた。★たしかに。ぼくが分担...

  • 3:発見の③ 妻の成分。

    3:発見の③ 妻の成分。家事リストを赤線で消してゆく毎日。ひとつ消すたびに義務感からもひとつぶん解放され、ギュウギュウに詰まっている呼吸が少し楽になる。★ところが。いっこうに楽にならない、いや逆に、どんどん苦しくなったのが食べることだった。★独りになると、食事中は必ず見ていたテレビを点ける気がせず、かといって、自分の咀嚼音だけという静けさにも耐えられず、妻と聴いていた音楽をかけて食卓についた。が。音...

  • 3:発見の② ぼくは変態です。

    3:発見の② ぼくは変態です。とうとう。最後まで残しておいた社会との関わりを解消した。この15年間、おなじみの完璧主義精神を発揮して、インフルエンザに罹ったとき以外は、1回も休まずに続けたボランティア活動の世話役を辞めたのだ。★なさけないことに、時間も気持も他人様のために割く余裕が持てなくなった。恥ずかしいと思う。そのセカセカとした自分が。そして(個人的なことだが)完璧主義の挫折が。「忸怩(じくじ)たる思...

  • 3:発見の① 鞭打たれたジイサン。

    3:発見の① 鞭打たれたジイサン。この15年間、ボランティア活動で通っている地域のケアセンターは、介護保険の申請を代行してくれる組織でもあった。★一連の説明、手続きがすんだ後、顔なじみの50代の社会福祉士の女性が、「共倒れにならないでくださいね」と言って、「お惣菜キットを使うと時短になりますよ。チンジャオロースーとか肉味噌炒めキットとかいろいろありますから」と教えてくれた。さらに。帰り際には、買い物の手...

  • 2:緊張の⑧ ねばならぬ。ネバナラヌ。

    2:緊張の⑧ ねばならぬ。ネバナラヌ。いまは耳にしなくなったが、「案ずるより産むがやすし」と言われているその言葉のとおり、手術の関門はあっけなく通り過ぎた。★手術が成功したことは、例の女医が病室にやって来たとき、勝ち誇ったようにぼくら夫婦を睥睨したことでわかった。きっと。本人の期待以上にうまくいったにちがいない。人格が反り返ったみたいでみっともなかった。★これから3週間。妻の過酷なリハビリが始まる。そ...

  • 2:緊張の⑦ 西の空からのメッセージ。

    2:緊張の⑦ 西の空からのメッセージ。妻より長生きしなければ…と思っても、急に元気になれるわけではない。それどころか。現実の重さに負けたかのように、なんだかボーッとしている。★病室を出るとき、妻が背中で叫んだ。「ありがと~ッ」ぼくもそれに応えたが、気持が今に根を下ろさず、病院前のバス停に立ったときには、自分がなんと応じたか、もう忘れていた。★じつは。その前の日も、ぼくが病室を出るとき、妻が泣きそうだっ...

  • 2:緊張の⑥ 先に死ぬわけにはいかない。

    2:緊張の⑥ 先に死ぬわけにはいかない。しかし。この整形外科医は、おそらくさまざまなケースの人が読むことを前提に、最も広範な、厳しい注意事項を列記したのではあるまいか。「鵜呑みにして絶望する必要はない」と解釈することにした。(ジイサン、意外に冷静)★それにしても…だった。無意識のうちにあった期待、「手術をすれば、妻は以前のように動けるのではないか」という根拠なき全快期待は吹き飛ばされた。きっと。術後の...

  • 2:緊張の⑤ 絶望的な術後。

    2:緊張の⑤ 絶望的な術後。(いちおうネットで読んだ話をしておこうかな)まず、危険性について。専門家(整形外科医)の話は、手術方法による脱臼のしやすさの違いや、合併症、感染症などの心配で、ひとことで言えば、けっきょく「医者に託すしかない」ということのようだった。★つまり。あの公立病院を紹介された時点で、危険度は100%決まっていたと言ってもよかった。したがって。いまは例の整形外科医の居丈高な態度が、人格上...

  • 2:緊張の④ 終着駅の名前。

    2:緊張の④ 終着駅の名前。準備品の中の「かがまずに…できる」という特殊な品は、ネットを利用すれば簡単に手に入ることがわかった。しかし、入院日の前日までに、となると配達が間に合わない。アナログで街を走り回るしかなかった。★その結果、諸々の家事は放置することに。白々とした埃が床にも家具にも浮き上がった。洗濯は溜まり放題だし、食事も買い食いばかりで気持がすさんだ。完璧主義&病的に清潔好きな性格のため、ぼ...

  • 2:緊張の③ 無駄な抵抗。

    2:緊張の③ 無駄な抵抗。この公立病院は何かおかしい。「おまえらの面倒をみてやってるんだぞ」という風がそこかしこで吹いている。★昭和の時代、役所がそうだった。民営化する前のJR、そしてもちろん警察もそうだった。ひとさまをバカ呼ばわりするほどバカではないけれど、正直「バカ」って単語が脳裡を走る。★ぼくはリストから目をそらし、無意味とわかっていながら、不快な現実を拒絶した。気のせいか胃が重くなってきた。「...

  • 2:緊張の② 呑み込めない魚。

    2:緊張の② 呑み込めない魚。胃に悪い刺激がさらに続いた。それは、入院手続きを担当する若い女性から手渡された準備品リストを見たときだ。★たとえば、こうだ。●身障者用の自立式杖●かがまずに靴がはける柄の長い靴ベラ●かがまずに足が洗える柄の長いボディ・ブラシ●かがまずに物が拾えるマジック・ハンド●リハビリ用の靴●室内履き●消毒スプレー(シート)●ティッシュ・ペーパー(ボックス)●吸い口付き湯飲み茶わん●下着類と寝間着...

  • 2:緊張の① 蕎麦単品でお願いします。

    2:緊張の②蕎麦単品でお願いします。CTは肉の奥の骨格の生々しい現実を映し出した。妻は早々に手術することになった。★「両股関節とも最重傷期以上に酷いです。よくもまあ、ここまで放っておけましたね。どちらからやります?右? 左?それとも両方いっしょに?」★かかりつけ医の紹介状を持って訪れた公立病院の女性整形外科医が、医者と患者の関係を思い違いしている言葉を乱暴にぶつけてきた。よくもまあ?放って、おけ、まし...

  • 1:発端の⑧ 時の歩幅。

    1:発端の⑧ 時の歩幅。ぼくたち夫婦は運動会の二人三脚のように肩を組んで、ヨタヨタとかかりつけ医にたどり着いた。すると、「すぐにCT撮影を」ということになり、こんどは介護タクシーを呼んで紹介された専門的施設へ。★そして…だった。看護師に抱えられて待合室から撮影室へやっと、やっと歩く妻の姿を、ぼくは第三者的に、あえて言うなら「客体」として、初めて数メートルの距離をおいて眺めた。そこには半世紀を共に歩んだ...

  • 1:発端の⑦ 病人はトツゼン崖から落ちる。

    1:発端の⑦ 病人はトツゼン崖から落ちる。ま、そんなことより。妻のこの急変で、ぼくは癌で母を亡くした友人から聞いた話を思い出した。★「病気の悪化というのは一本調子じゃないんだよ。下り坂の途中で突然崖から落ちる。それからまたゆるゆる下りが続いて、再びある日ズドーンと落ちる。ゆるゆるズドーン。ゆるゆるズドーン。それを何度かくり返し、やがて…ね。それが病気なんだよ」★そのときはただ聞き捨てにしていたが、ふり...

  • 1:発端の⑥ 新しい女性との関係。

    1:発端の⑥ 新しい女性との関係。他方です。能天気なぼくはどうかと言えば。ぼくの頭には妻公認の空洞がある。(じつは目にも耳にもある気がするけど)そのせいか、幼児の頃から世間と同じ考え方をしない傾向が強い。★今回も同様。自分でもどういうわけだかわからないが、(だからこそ空洞があると言われるのだろうが)「大変だぁ!」意識はハナからなし。したがって、被害者意識なんて、なに、ソレ?当然、恨み節もなし。★早い話が...

  • 1:発端の⑤ うろたえるジイサマたち。

    1:発端の⑤ うろたえるジイサマたち。妻は寝たきりではないし、トイレ、シャワーもなんとか自力でできる。(これが大きい)だいいち、そもそも死に至る病ではないし、案外あっけなく治るのかもしれない。だから。いまから大騒ぎしていたら、介護で苦闘されている方に申し訳なく、こっぱずかしく、顔向けできない。★それはそうなのですが…もし、ぼくと同じことが、ぼくと似た年齢の世間のジイサマたちに起こったらどうなるか。きっ...

  • 1:発端の④ 人生がバック転した。

    1:発端の④ 人生がバック転した。「こんなことがほんとうにあるのだろうか」最初は現実味が伴わなかった。しかし、「う~む」我ら夫婦の小舟は、どうやら新しい水脈に入ったらしいのだった。水流にもまれながら足を踏ん張り、ぼくは飛び散る言葉の飛沫にびしょ濡れになった。★「飢えたくなきゃ、おまえが三度三度の献立を考え、スーパーに走り、料理しろ。食後の皿洗いはもちろんのこと、汚れたシャツやパンツをはきたくなきゃ、...

  • 1:発端の③ 「立ったきり」の人。

    1:発端の③ 「立ったきり」の人。妻があきれた能天気なジジイ。そんな人間を天も見逃してはくれなかった。「そうやすやすと気楽にさせてたまるか」ということだろう。神様たち、リモート会議を開くと、なんとまあ、ある日突然、脳天気ジジイの奥様をいっさいの家事ができない人間にお変えになったのであります。★具体的には、「寝たきり」ならぬ「立ったきり」状態。何かにつかまらないと歩けない。それも2~3分が限度。膝は折...

  • 1:発端の② 哲学はゴミ箱に。

    1:発端の② 哲学はゴミ箱に。白状すれば。そんな気分の根底には、「生の果てに死はない」言い換えれば、「死は形を変えた生である」という80有余年かけて行き着いた(うさん臭げな)死生観があるからだ。★おまけに。「現世なんて、こんなもの。理想とはほど遠い」という乾いた気分も。さらに言うなら、「人生にウッチャリをかけて、土俵の外に放り投げたような気分」もあるからだ。★したがって。この心臓が止まるなんて、どうって...

  • 1:発端の① 死に体。

    【再開のお知らせ】 お休みをいただいている間も 弊ブログをお読みくださり、 まことにありがとうございました。 本日より(不定期投稿とはなりますが)、 再開させていただきます。 今後ともよろしくお願い申し上げます。 タイトルは 私、上品な奴隷のように 主夫を始めました。 です。 さて、結末はどうなりますか… 自分にも先が見えませぬが。 1:発端の① 死に体。ぼくが男性の平均寿命81歳をいやいや超えたと...

  • 乗り換え電車。(最終話)

    夫に怒りをぶつけている間、妻はまだ夫を見放していない。「この人はダメだ」となると何も言わなくなる。いや、心の内では言っているのだろう。「もう別れよう」と。そして「次の人生で新しい自分に…」とも。★この妻の場合、ここにいながら、もう、ここにはいない。つまり、すでに心は次の電車に乗り換えている。★こういう電車の乗り換えは、転職でも起こるし、引っ越し(転地)でも起こるだろう。もちろん恋愛でも。ところが。想い...

  • ゲラダヒヒの爪の垢。

    食べるための殺し合い。群れのボスになるための闘争。雌を得るための戦い。そして何よりテリトリーをめぐる覇権争い。これら動物たちの生存競争は、形を変えてそのまま人類の争いに置き換えられる。日本は明治時代の頭まで日本人同士で。それ以降は第二次世界大戦で負けるまで、対外的にそれをやっていた。★動物界で最も進化の度合いが進んでいる霊長類。中でも人類は、同じ霊長類でもサルたちとは別枠扱いされている。しかし。だ...

  • 永遠の旅人。

    どこか違う所で暮らしてみたくなること、みなさん、ありませんか。ぼくはしょっちゅうです。その証拠?に、これまでの82年間で12回引っ越しをしました。そのうち、会社都合が2回。あとは自己都合です。★日本人の生涯引っ越し回数を公的機関も民間も調べていますが、結果は同じ、3回です。それを知ったときにはビックラこきましたね。「みんな、なんでそんなに動かないの⁉」★いや、ぼくが動きすぎでしょう。だけどぼくなんざぁ、引...

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