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風の記憶 https://blog.goo.ne.jp/yo88yo

風のように吹きすぎてゆく日常を、言葉に残せるものなら残したい…… ささやかな試みの詩集です。

風のyo-yo
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2014/10/31

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  • 花は忘れない

    今朝はじめて、ハナニラの花が咲いているのを見つけた。ハナニラは触れるとニラに似た強い匂いを放つが、それ自身も季節を嗅ぎつける鋭い嗅覚をもっているのか、冬の間ベランダで忘れられていた植木鉢に、いち早く春を運んでくるのもこの花だ。ささやかではあるけれど、忘れてはいなかったよと。ベランダの植木鉢で、ハナニラが咲き始めたのはいつ頃からだろう。最初はおそらく、小鳥か風が運んできたものではなかろうか。ある年の春、うす青色の小さな花が咲いているのが見つかった。その花はひとつかふたつ、ひっそりと咲いた。雑草にしては可憐だなと思った。そんな春があった。また、ある年には、ベランダの植木鉢のすべてを侵食するほどの勢いになった。ハナニラは雑草のように繁殖力も旺盛だった。その頃は家族も増えて、家の中もにぎやかだった。手狭になると幾...花は忘れない

  • 父の帽子

    父の死後、3年ほどがたっていたと思う。その頃はまだ、玄関の帽子掛けに父の帽子が掛かったままになっていた。何気なくその帽子をとって被ってみた。小さくて頭が入らなかった。父の頭がこんなに小さかったのかと驚いた。離れて暮らしていた間に、父は老いて小さくなっていたのだろうか。私も背丈は高い方だが、父は私よりも更に1センチ高かった。手も足も私よりもひと回り大きくて、がっしりとした体格をしていた。父の靴と私の靴が並んでいると、父の靴のほうが大きくて、私の靴は萎縮しているようにみえたものだ。一緒に釣りに行くと、たいがい父の方が多く釣った。将棋も花札も父には敵わなかった。いつだったか、パチンコをしながら父が言ったものだ。勝とうと思ったら、まじめに真剣にやることだ、と。私の記憶の、おそらくは最も古い部分に、大きくて温かい父...父の帽子

  • だったん、春の足音が聞こえてくる

    季節は海のようだと思うことがある。秋は引き潮のように遠ざかってゆき、春は満ち潮のように寄せてくる。大きな季節の巡りのなかで、遠ざかっていたものが、ふたたび戻ってくる。春はそんな季節だろうか。遠くから潮騒のような音を引き連れてやってくる。春は、海からの音が聞こえてくるような気がする。お水取りが終わると春が来る、と近畿では言われている。奈良東大寺二月堂でのお水取り(修二会)の行事は、3月1日から14日までの2週間行われる。火の粉を散らしながら外陣の廊下を駆け抜ける大松明(おおたいまつ)は、11人の練行衆を本堂へ導くための足元を照らす明かりだという。激しくて華々しい火の粉を、冷たく深い闇にまき散らしていく。冬の大気を焦がしながら、強引に春の扉を押し開いていくようだ。かたや堂内では、千年以上も欠かさずに続けられて...だったん、春の足音が聞こえてくる

  • わたしを忘れないで

    新しい朝は、どこからかやってくる。明け方の、薄れかかった夢の中へ、ラジオの低い声が侵入してくる。ニュースでもない、朗読でもない。アナウンサーの声に乗ってくるのは、誰かが放送局に送った「お便り」だった。その年は、お雛様が飾れなかったという。とおい終戦の年のことらしい。だいじなお雛様が食料の米に代わってしまったのだ。ひと粒の米が、人の命をつないだ時代の話だった。その人はお雛様を手放したことが忘れられない。生きることが辛かった時代を忘れられない。まさに、その年の3月10日には、東京大空襲があり、10万人が命を落としたという。そんな時代のかなしい話だった。お便りの人は、この季節になると、その失われたお雛様のことや、戦禍で亡くなった親しい人たちのことを、しみじみと思い出すという。お雛様が繋いでくれた貴重な命を生き延...わたしを忘れないで

  • 人形のとき

    まだ雪が舞う日もあるような春だった。九州の田舎の、すり鉢のような小さな街を、雛の節句を祝う静かな華やぎの風が漂っていた。さまざまな雛人形が、古い時代の装いや表情をして、家々の玄関や店先に飾られていた。人形のあるところには、いつもとはちがう少しだけ華やいだ風景があった。住む人も減り、人の影もめっきり少なくなったのに、着飾った人形ばかりが勢ぞろいして、かつて賑わった街の記憶を無言で語りかけてくるようだった。そんな季節に、父は逝った。父は翌日出かける予定があったのか、ていねいに髭を剃り顔も洗って寝た。そして、夢のなかで出かける場所を間違えたのか、そのまま戻ってくることがなかった。その夜、家族は眠り続けている故人を取り囲んで、記憶の中の父と語り合った。冬でもないが春でもない、夜が更けるにつれて外の冷気に包まれてく...人形のとき

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