天然のスイーツ
山裾の一角の、岩肌が露わになったなんでもない場所が、とつぜん夢の中で浮かび上がってくることがある。ふだんは思い出すこともないが、子供の頃のある時期には、とてもだいじな場所だったようなところ。そんな場所だ。そこはいつも、山の清水が滴り落ちている。寒い冬の朝、雫が凍って氷柱(つらら)になっている。手を伸ばして氷柱を折る。細く尖った先の方から口に入れてガリリっと噛み砕く。氷が溶けて、口の中に草のような土のような匂いと味がひろがる。冷たくて麻痺した舌に、岩肌を伝ってきた岩苔の味もかすかにのこる。それは夢の情景だが、目覚めてみると、子供の頃の記憶の情景と鮮明に繋がっている。北国の冬ではないから、いつも氷柱が出来るとはかぎらない。とくに寒い朝だけ、その一角に珍しく貴重な氷の柱が現れる。氷柱には大小のさまざまな形があっ...天然のスイーツ
2025/02/27 10:35