村はずれに一本の松の樹が立っている。丈も高く、幹も太い。幹には注連縄が巻かれていた。この村の鎮守として祀っているのだ。村に六太郎と言う若者があった。名の通り太吉の所の六男坊だったが、上の五人の兄姉は皆、病で亡くなってしまっていた。その後、六太郎に弟妹は出来なかった。今では父親の太吉も母親のくめも歳を取り、六太郎が働き頭だった。六太郎の家は決して裕福ではなかった。村はずれにわずかな田と畑を持っているばかりだった。それでも六太郎は朝早くから夕暮れまで働いた。「そろそろ、六太郎も嫁さんをもらわにゃあなぁ……」「さいですなぁ……」近頃の両親の言葉は決まってこれだった。六太郎自身は、嫁はまだまだ早いと思っていた。まだ十九になったばかりだ。だが、親は結構な歳になっている。それを考えると、無碍にも出来ない。この話になると、六...怪談松に佇む(前編)