日々思いついた「お話」を思いついたままに書く
或る時はファンタジー、或る時はSF、又或る時は探偵もの・・・などと色々なジャンルに挑戦して参りたいと思っています。中途参入者では御座いますが、どうか、末永くお付き合いくださいますように、隅から隅まで、ず、ず、ずぃ〜っと、御願い、奉りまする!
そっぽを向き合ったトランとマーベラの隙をついて、ジャンセンは坂を上った。マスケード博士が見下ろす位置に立っているため、姉弟は動かない。……さすが、考古学界の重鎮ね。迫力で押さえつけているんだわ。実際は一歩でも動いたら命はないぞと姉弟間にビシビシと殺気が交錯しているからだった。やっとジャンセンはマスケード博士の前に立つことが出来た。「博士、お待たせしました」ジャンセンは爽やかに笑むと、握っていた右手を手の平を上にしてマスケード博士に向かった差し出し、ゆっくりと開いた。「これがメキトベレンカからもらったベクラモレスです」マスケード博士はジャンセンの手の中を覗き込む。握り締められて金色の塊になっていたベクラモレスは、ジャンセンの手の平で花が咲く様に開き始め、二インチ四方の薄い正方形へと姿を変えた。陽光が反射する...ジェシルと赤いゲート92
ジャンセンは手の平のまだ温もりの残るベクラモレスを見つめ、顔を上げると皆が消えて行った森を見つめた。「ジャン!」呼びかけたのはジェシルだった。ジャンセンが森へと向かうと思ったからだ。「もう終わりよ。メキドベレンカを追いかけてはいけないわ」ジェシルの声にジャンセンは振り返る。その表情は清々しいものだった。……何よ、もっと悲嘆に暮れて涙でぐちゃぐちゃな顔になっていると思っていたのに!ジェシルは不満気に頬を膨らませる。「分かっているよ、それくらいの事は」ジャンセンが言い返す。「ボクだってだてに考古学をやってはいないんだぜ」言い返そうとしたジェシルだったが、不意にからだが揺れ、放り出されるように投げ出され、尻餅をついてしまった。「何すんのよ!」ジェシルは尻餅をついたままで文句を言いながら顔を上げると、仁王立ちをし...ジェシルと赤いゲート91
評議院の最高責任者であるタルメリック・ローデンビッキは深いため息をついた。その様子に秘書であるベレッカ・サンピ―ラサは同情の眼差しを送る。「タルメリック様、また、ですか……?」「ああ、そうだ……」タルメリックはベレッカに顔を向け、再びため息をつく。「君は若くて有能で容姿も良い。それだけではなく、三児の母としても見事な物だ……」「ありがとうございます」ベレッカは頭を下げる。「これも、良縁を結んで下さったタルメリック様のお蔭でございますわ」「わしは、わしに関わった者たちが皆幸せになってもらうのが、何よりも好きなのだよ」タルメリックは優しい笑みを浮かべる。「君を妻にしたダングレンも優秀なエンジニアだ。この前『あんな素敵な女性を紹介して頂き、心から感謝いたします。彼女のお蔭で、自分は研究に没頭できます』なんて礼を...タルメリック叔父の憂欝~ジェシル番外編
「……ジャンセン様……」メキドベレンカは写真からジャンセンへと顔を向けた。その瞳からは涙が溢れかけている。「あれ?泣かせちゃった……」ジャンセンは困った顔で頭をぽりぽりと掻く。「想い出のつもりだったんだけど……迷惑だったかなぁ……」「いいえ、いいえ!」メキドベレンカは頭を左右に振る。瞳の涙た左右に散る。「このような嬉しい事は初めてでございます。嬉しすぎて……」「それなら良かった」ジャンセンは笑む。「ぼくは、こう言う事に慣れていなくってね。でも、喜んでくれて、ぼくも嬉しいよ」「ジャンセン様」メキドベレンカはじっとジャンセンを見つめる。その表情に、何かの覚悟を感じた。ジャンセンも思わず真顔になった。「……あなたから……」メキドベレンカは言葉を止めた。頬を染め、戸惑いながら、名前では無く「あなた」と発したからだ...ジェシルと赤いゲート90
「君の思いは良く分かった」ジャンセンは向き直ったメキドベレンカの瞳を見つめる。「ぼくも君を悩ませるのは本意じゃない。それに、君の言っている事は正しい」「そうでしょうね……」メキドベレンカは優しく笑む。「時代も何もかも違う二人は一緒にはなれないのですわ……」「そう、その通りなんだ」ジャンセンはメキドベレンカの微笑に浮かぶ悲しさを見て取った。「その通りなんだけど……」「その通りでしたら、それに従うのが節理ですわ」メキドベレンカは、自分の悲しさを抑え込むように、強い口調で言う。ジャンセンもその意思を感じ取った。「……そうだね、そうする事が正しいんだね」「そうですわ」メキドベレンカは言うと、ジャンセンの背後を指差す。「お仲間の皆さんがお待ちですわ」ジャンセンは言われて振り返る。何度もうなずいているマスケード博士、...ジェシルと赤いゲート89
「……あっ!」ジャンセンはわれに返り、慌ててメキドベレンカから身を離し、すっと立ち上がった。「ごめんなさい!つい、うっかり……」ジャンセンはぼりぼりと頭を掻きながらメキドベレンカに言う。「何だか感激しちゃって……」「……いいえ、構いません」メキドベレンカは笑みながらゆっくりと立ち上がる。「ジャンセン様のお気持ち、しかと感じました……」「女性に告白されたのも初めてだし、こんなに信頼されたのも初めてだし……」メキドベレンカは右の人差し指を立て、それをそっとジャンセンの唇に当てた。驚いたジャンセンは半開きの口のままで動きが止まった。「ジャンセン様」メキドベレンカは指をそのままにして続ける。「言い訳なんかなさらないでくださいまし……あなた様のお気持ちは十分に伝わっておりますわ」マスケード博士は何度もうなずきながら...ジェシルと赤いゲート88
「メキドベレンカ……」泣き続けるメキドベレンカにジャンセンの声がかかる。その声は手で覆った顔に真っ直ぐ届く。メキドベレンカは思わず覆っていた手を下ろし、声の方へと顔を向けた。片膝を突いたジャンセンがじっと見つめていた。ジャンセンは優しく笑んでいた。「ジャンセン様……」泣いた後のメキドベレンカの声はかすれている。「……わたくしがお嫌いなのに、そのような優しい笑みはお止め下さいまし……」「……ぼくは君が嫌いではないよ」ジャンセンは笑みを崩さない。「ただ、ぼくは直接そんな言葉をかけられたのが初めてだったんで、戸惑っただけだよ」「そんな言葉、とは……?」メキドベレンカは涙を湛えた瞳でジャンセンを見つめて言う。「その、あれだ。あ……愛してるって言葉だよ……」ジャンセンは言うと耳まで真っ赤にして下を向いた。「マーベラ...ジェシルと赤いゲート87
「……何だあ?」突然聞こえてきた泣き声に、ジャンセンはメキドベレンカから顔を離す。泣き声のする方を見ると、マーベラが座り込んで顔を両手で覆い、わあわあと泣く姿があった。そのそばにはジェシルとトランが困り果てた顔をして立っている。「どうしたんだろう……?」ジャンセンは首をひねりながらマーベラの方へと歩きだす。その腕をメキドベレンカがつかんだ。ジャンセンは振り返る。彼女は再び美しい笑顔を見せている。「ジャンセン様……」メキドベレンカは目を伏せて、恥じらう様に呼びかける。「どこへ行かれるのです?」「いや、マーベラ……デスゴンが泣いているので、気になってね」「そうですの……」メキドベレンカもマーベラを見る。途端にくすっと笑う。「あれが邪神デスゴンとは……いいえ、デスゴンが離れた、只の人ですわ。あんな者のために力を...ジェシルと赤いゲート86
「偉大な大師……」そう呼びかけたジャンセンにメキドベレンカは頭を左右に強く振る。「いいえ!そう呼ぶのはお止め下さい!」メキドベレンカはジャンセンの瞳を見つめる。「わたくしはもう大師でも呪術者でもありません……」そう言うと、彼女は再び顔を伏せ嗚咽を始める。「……じゃあ、メキドベレンカ……」ジャンセンは彼女に呼びかける。「もう泣くのは止めるんだ」ジャンセンが彼女の肩に置いた手に少し力が入る。その力の変化に彼女は顔を上げる。涙の溢れる瞳の奥には、幾ばくかの期待の光がある。「わたくしを名で呼んで下さいますのね……」メキドベレンカが囁くように言う。「嬉しゅうございますわ……わたくしも伝達者様を名前で呼びたい……」「ぼくはジャンセンって言うんだよ」ジャンセンは優しく笑む。メキドベレンカは顔を伏せた。悲しみでは無く、恥...ジェシルと赤いゲート85
メキドベレンカにしがみつかれたままのジャンセンは、困惑の表情をジェシルに向ける。「……ジャンセン、あなたに助けを求めているようよ……」マーベラがジャンセンを見ながらジェシルに言う。「どうするの?」「そうねぇ……」ジェシルもジャンセンを見ながらマーベラに気う。「わたしは恋愛なんて全く分からないわ。わたし個人としてはさっさと戻って、コルンディたちを罰してやりたいんだけど……マーベラならどうする?」「わたし?……わたしもさっさと戻って、熱いお風呂に浸かりたいわ」「あ、それも良いわね!」ジェシルとマーベラはくすくすと笑い合う。「姉さん、そしてジェシルさん!」割って入って来たのはトランだ。憤慨した表情を二人に交互に向ける。「何よ、トラン?そんな怖い顔しちゃって?」「そうよ、トラン君。可愛い顔が台無しよ」マーベラトジ...ジェシルと赤いゲート84
「挨拶に来るなんて、さすがは呪術大師だわ」マーベラは感心したように言う。「まだ回復していないようだけど、大したものだわ」「そうね。立派だわ!」ジェシルも感心している。「責任を全うするって言う姿勢、わたしも見習わなくちゃね」メキドベレンカはジャンセンの前に立った。ケルパムは圧倒されたかのように脇へとよけた。じっとジャンセンの顔を見つめる。「大丈夫なのかい?」ジャンセンは民の言葉でメキドベレンカに優しく声をかける。「貴女のお蔭で全てを終える事が出来た。後は元の世界に帰るだけだ。悪党どもは戻ってから裁きが下る」ジャンセンの言葉が聞こえているのか判断が付かないほど、メキドベレンカは表情を変えずにジャンセンを見つめている。「伝達者様……」メキドベレンカはやっとつぶやくように言う。その声は弱々しい。ジャンセンは心配そ...ジェシルと赤いゲート83
「うわああああっ!」突然、悲鳴が上がった。その方へと皆が振り向くと、悲鳴の主はコルンディだった。腰を抜かしたのか、座り込んでいる。その傍らにはトランが驚いた顔で立っている。コルンデイの首のロープは、首を絞めるまでにあと少しと言うところまで縮んでいた。トランがむしり取った草の湿り気をロープに与えたのだ。「トラン!」マーベラが叱る。「何を勝手な事をしているのよ!」「本当かどうか、試してみたくって……」トランは呆然とした顔のままで答える。「結論としては、本当だったよ……」「でも、どうしてコルンディなのよ?」「みんなに迷惑をかけまくった元凶だろう?」トランはマーベラに答えると、にやりと笑う。「だったら、良いじゃないか」「あらあら……」ジェシルはマーベラを見ながら言う。「マーベラの乱暴者の気質の血筋かしら?」「血筋...ジェシルと赤いゲート82
ジェシルとマーベラはマスケード博士に笑みを浮かべながら話をしている。しかし、博士は二人の先程までの剣幕に圧倒され、口数が少なく表情もあまり変わらない。「博士……」トランが割って入って博士に声をかける。「どの時代でも、女神と言うのは、怒らせると怖い存在なんです」トランの言葉にジェシルもマーベラも眉間に皺を寄せる。「この二人には、まだ女神の澱(おり)のようなものが残っているんです」トランは背中に殺気を感じつつ、博士の方だけを見て話す。「いずれはいつもの二人に戻りますから、安心してください」「……そうなのかね」博士はほっと息をつく。「生涯独身であるわしには、女性の事はさっぱりと分からないんだが、あれは二人に憑いた神の名残と言う事だね。わしは女性の本性かと思ったよ……」「まあ、二人とも結構活発ではありますが……」...ジェシルと赤いゲート81
ジャンセンの言葉にジェシルとマーベラは顔を見合わせる。「やっと、静かになってくれたねぇ……」ジャンセンは二人を交互に見ながら言う。「君たちが黙ってくれないと、ぼくは話が出来ないよ。そう言う意味じゃ、君たちに割って入れるトラン君は勇者だね」変な褒められ方をしたトランは曖昧な笑みを浮かべて誤魔化している。「じゃあ、聞くけど……」一気にしゃべりすぎたのか、ジェシルが呼吸を整えて言う。「ジャン、あなた、メギドベレンカを抱きとめていたじゃない」「あれは、彼女の足元がおぼつかなくなったから、支えたんだよ。見ていたら分かるだろう?」「でも、あんなにしっかりと抱きとめなくても良かったんじゃないの?」マーベラが言う。「それに彼女、あなたに抱きとめられた時、すぐに離れようとしたじゃない?嫌がられていたのは明白だわ!」「そうよ...ジェシルと赤いゲート80
金色の眩い光が少しずつ治まって行く。それに連れ、博士の視界は取り戻されて行く。民たちは立ち上がり、光を見つめている。鎮まる金色の光の中に人の姿が現われてくる。光がすっかり消えると、そこにはジェシルとメギドベレンカが並んで立っていた。「おおおおおっ!」民たちが一斉に声を上げ、一斉に頭を下げて両の手の平を上に向ける。神アーロンテイシアへの畏敬の念だ。しばらくして、民たちはゆっくりと顔を上げ始めた。「アーロンテイシア!」大きな声で叫んだのはケルパムだった。それに促され、民たちはアーロンテイシアの名を呼ばわった。「……ジャンセン君!」マスケード博士も興奮気味な声で言う。「何と言う事だ!このような奇跡の場面に出会えるとは!」「そうですね。ぼくも初めてです」ジャンセンはうなずく。「どこかの惑星で『百聞は一見にしかず』...ジェシルと赤いゲート79
メギドベレンカは優しい笑顔を湛え、ゆっくりとデスゴンに向かって歩み出した。雨風が緩んだ。「これは、一体……」「笑顔は神々に対抗する手段なんですよ」ジャンセンはマスケード博士のつぶやきに答える。「デスゴンがメギドベレンカにちょっとだけひるんだ、って事でしょうかねぇ……」「それは心強い事だ」ジャンセンはそれには答えず、メギドベレンカの動向を見ている。メギドベレンカはデスゴンの前まで来ると、右膝を突いて身を屈め、頭を深く下げ、手の平を上にして高く掲げた。「ダーレク・ダ・ザイーレ・デスゴン」メギドベレンカは至極穏やかな声で言う。「マ・レッサ・クルンツ・アーロンテイシア」「何だってぇ……」ジャンセンの表情が強張る。「ジャンセン君、彼女は何と言ったのだね?」博士が訊く。「アーロンテイシアだけは聞き取れたのだが……」「...ジェシルと赤いゲート78
不意に陽が陰った。ジャンセンは空を見上げた。上空には重々しい雲が広がっている。「うわぁ……」「……どうしたのだね?」ジャンセンの不安そうなつぶやきにマスケード博士が訊く。博士も不安そうな表情だ。「デスゴンの怒りが復活したと言うのかね……」「そう言えると思います」ジャンセンは、すっかりと空を覆った雲を見ながら言う。「デスゴンの怒りに関しての文献では『天は悪しき雲に呑み込まれ、無限の風と雨とが生じ、地は全て覆される』ってのがあります。それが起こりそうですねぇ……」「だが、デスゴンはマーベラ君から離れたのではなかったのかね?」「マーベラの激しい怒りに、邪神デスゴンが呼応したようです。大暴れ出来そうだって……」ジャンセンはため息をつく。「何と言っても、デスゴンですからね。暴れられれば良いんで、後先なんか考えてはい...ジェシルと赤いゲート77
鋭い風切音が鳴った。先陣を切って跳びかかった傭兵が、いきなり真横に吹き飛ばされ、地面に転がった。転がったのは傭兵だけでは無かった。大の大人の身長以上もある、ゼライズ鉱を幾重にも重ねて鍛え上げた、柄と本体とが一体となった大剣だ。磨き上げられた両刃の刀身は陽光を反射して静かな銀色に輝いている。皆、何が起こったのか判断が付かず、動きが止まっている。「アーロンテイシア!デスゴン!」不意に甲高い叫び声がとどろいた。皆は声の方を見る。ダームフェリアの長である巨漢のドゥルンガッテが素手で、ベランデューヌの若い長で戦闘に長けたサロトメッカが重そうな大剣を肩に担いで立ち並んでいた。傭兵に叩きつけられた大剣は、ドゥルンガッテのもので、自ら抛ったものだった。その二人の前にケルパムが立っていた。声を上げたのはケルパムだった。恐れ...ジェシルと赤いゲート76
突然、何かが落ちる音と低い呻き声がした。ジェシルがその方を見ると、コルンディが地面に転がっていた。からだを丸めて呻いている。デスゴンの力が急に失せたので、コルンディの宙づりが解けたのだ。傭兵の一人がコルンディの元に駈け寄り、コルンディの上半身を抱き起した。こちらも、デスゴンの力が失せたので、金縛り状態から解放されたようだ。「くっ……」喰いしばった歯をむき出しにしたコルンディがトランと抱き合うマーベラを睨み付ける。「貴様ぁ……許さんぞぉぉ……」低く唸る獣のような声でコルンディは言う。コルンディは介抱している傭兵の助けで立ち上がった。「散々オレをコケにしやがって……」コルンディは怒りで震えている。手にしている銃をマーベラに向けて構えた。震える指が引き金に掛かる。「死ね!死んでしまえ!」コルンディは引き金を引い...ジェシルと赤いゲート76
宙でぐったりしているコルンディと、下着姿のまま身動きのできない傭兵たちは、ジェシルとマーベラを目で追っていた。「おい、何をするつもりなんだ……」コルンディは叫ぶ。だが、散々悲鳴を上げたせいで声がかすれていて、やっと聞き取れる程度だった。マーベラは仮面をコルンディに向ける。目にはまだ青白い光がある。コルンディは短い悲鳴を上げた。ジェシルは傭兵たちを見た。ジェシルの口元に笑みが浮かんだ。その笑みは慈愛に満ちたものでは無く、酷薄な冷たさがある。傭兵たちは、命乞いをする敵を同じような笑みを浮かべながら許さなかった過去を思い出していた。「……こりゃあ、神の怒りの大爆発ですねぇ……」ジャンセンがつぶやく。「ぼくたちも巻き込まれるかもしれません……」「ならば、君だけでも安全な場所へと行きなさい」マスケード博士が言う。「...ジェシルと赤いゲート75
「なんだ、そりゃあ!宇宙パトロールの新兵器かあ?」コルンディは叫ぶ。傭兵たちは相変わらず動けない。「コルンディ君……」マスケード博士が尻餅をついたままのコルンディに近づく。「兵器開発者の君にはそのように見えるのかも知れんが、これは神のなせる業なのだよ……」「神、だとぉ……」「そうだよ」ジャンセンはうなずく。「この二人は、この時代の神として、今ここにいるんだ。さっきからそう言っているじゃないか。素直に認めなよ」「ふざけるな!」コルンディは立ち上がる。「何が神だ!オレは信じないぞ!」コルンディは言うと、上着の左内側に右手を入れ、ショルダーホルスターから熱線銃を抜き取り、銃口をジェシルたちに向ける。ジャンセンと博士は数歩後退するが、ジェシルとマーベラは無言のまま動かない。ジャンセンは、マーベラの仮面の細くくり貫...ジェシルと赤いゲート74
「おいおいおいおい!」コルンディが叫ぶ。静かに見つめるジェシル、不気味な仮面をつけて見つめるマーベラ。その異様な雰囲気はコルンディのみならず、並んでいる傭兵たちをも怖じ気づかせる。「何だよ、こりゃあ!一体何なんだよお!」コルンディは泣き声だ。「……ジェシル、悪かったよお!お前を始末するのは無しだ!」「ブオーサ・マイメーラ!」ジェシルが声を張った。「ブオーサ・マイメーラ!」マーベラも声を張る。「何だってんだよお!何を言ってんだよお!」コルンディはへたり込むように座る。「コルンディさん……」ジャンセンは並び立つジェシルとマーベラの横から姿を見せ、大きなため息をつく。「この二人が言っているのは古代ペトラン語で『神は怒る』って言っているんだ。……あんた、開けちゃいけない封印を開けちゃったみたいだねぇ……」「神、だ...ジェシルと赤いゲート73
突然、強烈な風が一瞬コルンディと傭兵たちの間を吹き抜けた。ジェシルは背筋を伸ばして立ち、コルンディを見据える。マーベラもトランのからだを地面に静かに横たえると、同じように背筋を伸ばして立ち上がり、コルンディを見据える。「おいおい、怒るなよ……」コルンディは苦笑する。「彼が飛び出して来るなんて想定外だぜ」しかし、二人は返事を返さない。黙ってコルンディを見据えている。「悪かったよ!」コルンディは只ならぬ雰囲気に慌てる。「マーベラ、この償いは必ずさせてもらうから……」マーベラはゆっくりとコルンディの方へと歩を進める。ジェシルもそれに合わせる。二人は並んで歩き始めた。「なんだよ!それ以上近付くと、二人とも撃っちまうぜ!」コルンディが声を荒げる。傭兵たちが銃口をジェシルとマーベラに向ける。ジェシルとマーベラの歩みが...ジェシルと赤いゲート72
「ジェシル……」コルンディは笑む。「最期だ。言い残す事はないか?」「そうねぇ……」ジェシルは平然と腕を組み、考え込む。「……トールメン部長には『碌で無し』って書き残したし。……特にないわ」「そうかい」コルンディは残忍な笑みへと変わる。「君を死なせるのは忍びないが、会社のためだ」「会社のため?あなた個人のため、の間違いでしょ?」ジェシルはコルンディを睨み付ける。「……わたしは仕方がないけど、他のみんなは無事に戻してちょうだい。それを約束しないと、最後に大暴れするわよ」「ははは、こんな絶体絶命の状況でも強気でいられるとはな!」コルンディは笑う。残忍さが消え、いかにも楽しいと言った感じだ。「君はその女神の格好で永遠に全宇宙を経巡る事になるだろう。ははは、オレって詩人の才能も有りそうだな!」「あなたの詩の才能なん...ジェシルと赤いゲート71
跳躍したジェシルは、宙で右肘を大きく後ろへ引き、硬く握った拳をコルンディの顔面目がけて繰り出した。が、いきなり現われた黒い壁に阻まれた。と同時に、ジェシルの腹部に激痛が走り、弾き返されるように飛ばされた。立っていた場所近くまで飛ばされたジェシルは、襲ってくる腹部の苦痛に呻きながら片膝を突いた。食いしばった歯をむき出しに殺気の籠った眼差しでコルンディを見る。コルンディの前に大柄な傭兵が右手にハンマーを持って立っていた。ハンマーで腹を殴られたようだ。赤い痣がジェシルのへその周りに広がっている。「どうだ、オレの所の傭兵は強いだろう?」傭兵の脇からコルンディが顔を出す。その顔に小馬鹿にした笑みが浮かんでいる。「まあ、宇宙パトロールのコンバットスーツだったら、そこまで吹っ飛ばされる事はなかっただろうになぁ。そんな肌...ジェシルと赤いゲート70
「じゃあ、そんな違法行為をした理由は何なのよ、おじいちゃん?」ジェシルが小馬鹿にしたようにマスケード博士に訊く。「お金だけが目当てだったの?」「ふん!」博士は鼻を鳴らし、ジェシルを睨み付ける。「わしは、こんな狭苦しい世界を微々たる報酬で生きて行くのが馬鹿らしくなったのだ」「でも、おじいちゃんは考古学の権威なんでしょ?」ジェシルが呆れた顔で言う。「膨大な知識を持っているんでしょ?それは凄い事じゃないの?」「学問なんてものは、世の役に立つかどうかで価値が決まるのだ」博士は忌々しそうに言う。「さまざまな進歩が激しい今の世界では、考古学などお遊びにしか捉えられておらん」「そんな……」マーベラは絶句する。「博士は、過去を知る事こそが将来には大切な事だと常々おっしゃっておられたではないですか!」「そんなのは、お前たち...ジェシルと赤いゲート69
「え?マスケード博士?」そう言いながら樹の陰から顔を出したのはジャンセンだった。ジャンセンの声にトランも顔を出した。「トラン君!どうやら君のもくろみは当たった様だぞ!」ジャンセンが楽しそうな声を上げる。「これで役者が揃ったんじゃないか?」三人の顔会を見た途端、マスケード博士は手にしたステッキを振り上げた。ステッキが怒りで震えている。「お前たち!」マスケード博士は高齢とは思えない荒々しい声を張り上げ、怒りで血走っている眼を三人に順に向けた。「マーベラ・トワットソン!トラン・トワットソン!ジャンセン・トルーダ!……許さん、許さん、許さんぞぉぉ!」「マスケード博士!」マーベラが声を荒げる。「やはり、この一連の黒幕は博士なんですか?」「博士!」トランも声を荒げる。「ぼくたちが一体何をしたって言うんですか?ぼくと姉...ジェシルと赤いゲート68
「大騒ぎになったら、どうなるのかしら?」マーベラが皆を見回して訊く。「ぼくたちをこの時代に飛ばしたことがばれちゃうだろうから、考古学界自体が大打撃を受け、大問題になるだろうね」トランが意地悪そうな笑みを浮かべて答える。「まあ、それを狙ったわけだけど」「じゃあ、さっさと蓋を溶接しちゃいましょう」トラブルが大好きなジェシルはご機嫌だ。「そうだわ!トラン君、メモ用紙一枚もらえる?」「それは構いませんが、どうするんです?」「『トールメン部長の碌で無し!』って書いて箱に収めておくの」ジェシルはにやにやが止まらない。「さすがに何時もの様な無表情で入られないと思うわ」「部長って事は君の上司なんじゃないのかい?」ジャンセンは驚いて訊く。「解雇になっちゃうぞ?……まあ、そうなったらぼくの手伝いをしてもらえるかな?」「解雇に...ジェシルと赤いゲート67
目当てのものを見つけたトランは取り出した。長さが六インチ、幅が四インチ、高さが三インチほどの銀色に輝くゼライズ鉱製の箱だった。「小さいもので良さそうな物を採取してしまっておくための箱なんですよ」トランが箱を見せながら言う。「いわゆる、活動資金を得るための採取だね」ジャンセンが言って、うなずく。「姉思いの結晶だね。マーベラ、トラン君に感謝しなきゃだぞ」「はいはい……」マーベラは適当に流す。「……それで、トラン、その箱をどうするの?」「実は出土されたのはこの手の箱だったんだ。……いや、これなんだよ」トランは真面目な顔で言う。「ぼくは思うんだけど、この惑星の発掘調査は、ぼくたちを飛ばす下調べと同時に、飛ばした証拠のゲートの回収もあったんじゃないかと思うんだ。知られちゃまずいから、博士自らが指揮して極秘裏にって感...ジェシルと赤いゲート66
「結果を変えるって……」ジェシルは不安そうな顔でジャンセンを見る。「ジャン、それってやっちゃいけない事なんでしょ?」「まあ、そうだねぇ……」ジャンセンは曖昧に答える。「でもね、この度は違うと言える」「ジェシルさん」トランが真顔になって言う。「考えてみてください。ぼくたちがここにいると言うこと自体が、歴史が変わったと言う事になるんです。ぼくたちが居なければ、ベランデューヌとダームフェリアは今現在まで争いが絶えない関係であったかもしれないんです」「そうかも知れないけど……」「良好な関係が築かれていたとしても、ぼくたちの関与が無ければ、別の方法があったはずなんです」「分かったような、分からないような……」ジェシルは困惑の表情をジャンセンに向ける。「ジャン……」「トラン君が言いたいのは、ぼくたちは歴史を動かせる時...ジェシルと赤いゲート65
「誰がどう関与しているのかは、戻らなければ分からないわ」ジェシルは忌々しそうな表情になる。「でも、どうやって戻れば良いのかしらねぇ……」「そうだねぇ……」ジャンセンはため息をつく。「ここにあるのは出口専用のゲートだしねぇ……」「ジェシルじゃないけど」マーベラが言う。「出入りできるゲートがどこかにないかしら」三人はそれぞれ腕組みをし、考え込んでいる。爽やかな風が三人の間を吹き抜ける。「……あら、トラン?」マーベラが、ゲートの方へ歩き出したトランに声をかける。「どこへ行くの?」「実はね」トランがマーベラに振り返る。「ぼくもジャンセンさんが肩掛けしている様な鞄を持ってここに来たんだけど、持ち運びが大変そうだからゲートの脇に隠しておいていたんだ」「そうだったんだ……」マーベラが言う。「言われてみれば、いつもの鞄を...ジェシルと赤いゲート64
マーベラはジェシルを睨み付ける。「……マーベラ……ごめんなさい。言い過ぎたわ……」ジェシルは言うと、両の手の平を顔の下辺りで合わせて見せた。「何だい、そのポーズは?」ジャンセンが驚いて訊く。「一体どこの民族の風習なんだい?ぼくの知っている文献には載って無いポーズだけど?」「これ?」ジェシルは手を合わせたままの格好でジャンセンに振り向く。「これは、辺境惑星の地球の日本って言う地域――地球では『国』って言っているけど――での謝罪のポーズよ。うんと親しい相手に許しを請う時に用いるようだわ」「うんと親しい、ですってえ!」マーベラは目を細める。「勝手な事を言わないで!」「姉さん!」怒った顔のトランがマーベラの前にすっと立った。「もういい加減にしてくれよ!姉さんは普段から事実をちゃんと見ないといけないって言っているじ...ジェシルと赤いゲート63
皆でぞろぞろと森を歩いている。柔らかな陽射しと澄んだ空気、鳥のさえずり、遠くから和解したベランデューヌとダームフェリアの民たちの笑い声が流れてくる。穏やかな中にあって、マーベラ、ジャンセン、トランの表情は暗く重かった。……マーベラたちのゲートは戻る事が出来るものなのかと言う疑問と不安、さらに、今回の五里霧中の真相……そんな中にあって、ジェシルだけは不敵な笑みを浮かべている。戻ったら真相を暴いて関係者たちをギッタンギッタンにグッチャングチャンにしてやろうと心に決めていたからだ。無意識に腰の熱線銃に手を伸ばす。宇宙パトロール捜査官に血が騒いで騒いで仕方がないと言った状態だった。「……あそこです」しばらく歩いたのち、トランが言って前方を指差した。少し開けた場所に、ジェシルたちのと同じ赤いゲートが立っていた。「こ...ジェシルと赤いゲート62
「それで赤いゲートなんだけど」ジェシルはマーベラに顔を向ける。「わたしたちが出てきたゲートからは戻れなかったわ。近くに戻れるゲートがあるのかどうかを調べる前にベランデューヌの民の子供に見つかっちゃて……」「わたしたちのゲートはどうかしらね」マーベラがジェシルに顔を向ける。「多分、同じよね……」「そう思うわ。元々が出口専用なのか、あるいは機能が停止されたのか……」「機能停止……?」「誰かが意図的に止めたって事だよ、姉さん」トランが割り込む。「誰かってのは、今のところは分からないけど」「でも言えるのは、誰かがゲートを設置したって事よ!」ジェシルは力強く言う。「古代の物なら有り得るかも知れないけど、あんな精密な機械が偶然にそこにあったなんて考えられないわ!」「ぼくもそう思う」ジャンセンが言う。「しかも、設置され...ジェシルと赤いゲート61
「ねえ、何の話をしているの?」ジェシルが、にこにこしながらジャンセンに話しかける。「ジャン、あなた暗い顔しているわね。トラン君まで……」「トラン、どうしたのよ?」マーベラもにこにこしている。にこにこしながらトランを叱っている。「わたしとジェシルは仲良くなったのよ?もう争う事はないわ。それなのに、どうしたって言うのよ?」「姉さん……」トランはため息をつきながらマーベラを見る。「あのさ、この状況をどうとも思わないのかい?ぼくたちは古代に飛ばされたんだよ。それも赤いドア枠でさ」「え?」ジェシルは驚いた顔でマーベラを見る。「あなたたちも、あの赤いドア枠、って言うか、ゲートを通ってここに来たの?」「ジェシルたちもそうなの?」マーベラも驚く。「……わたしたちって、すっかりそっくりなのね!」「そうね、すっかりそっくりだ...ジェシルと赤いゲート60
「……地下の貯蔵庫は」トランはマーベラを伺いながら話し始める。マーベラはジェシルときゃあきゃあしている。「かなり広かったですね。事前に照明器具が持ち込まれていました」「博士が準備に手を回してくれたのかねぇ?」ジャンセンはつぶやく。「ぼくの時はそんな事は一度もなかったなぁ……」「照明を点けると隅々まで明るくなりました。姉さんは、さすがマスケード博士だわって喜んでいましたね」「それで、君たちは何を探しに来たんだい?」「隅々まで探索し、何か気がついたものでもあれば回収するようにと言う指示でした」「大雑把な指示だねぇ。いつもそんな感じなのかい?」「いえ、いつもは具体的です。だから、珍しい事だなぁとは思いました」トランはマーベラを見る。「……姉さんは、それだけわたしたちを信頼してくれているのよって、張り切っていまし...ジェシルと赤いゲート59
「おや、話し合いは終わったのかい?」ジャンセンはジェシルとマーベラの殺気を無視し、座ったまま顔だけ上げて、呑気そうな声で訊く。トランは慌てて立ち上がる。「ジャンセン、あなた、わたしたちの事を馬鹿にしてたわね!」マーベラが凄む。トランはそんな姉の様子にはらはらしている。「しかもマスケード博士の事まで!」「ジャン!こんな女を馬鹿にするのは一向に構わないけど、わたしを含めるのは許せないわ!」ジェシルはマーベラを指差しながら口を挟む。マーベラが明らかな殺意の籠った視線をジェシルに向ける。「なによ!」「なによって、なによ!」マーベラの言葉にジェシルが言い返す。そして、二人はまた睨み合う。「……二人とも落ち着いてください」トランがおろおろしながらも割って入る。「特に姉さん、ジェシルさんとジャンセンさんは、ぼくたちを助...ジェシルと赤いゲート58
「そうだったわ!」ジェシルはむっとした顔で言う。「マーベラのせいで忘れていたわ!」「それはこっちのセリフだわ!」マーベラもむっとしている。「考古学のこの字も知らないような宇宙パトロール風情がうるさいのよ!」「なによ!」「なによって、なによ!」二人はぐっと顔を近付けて睨み合う。そして、互いを大声で罵り始めた。何時終わるともしれない罵り合いに、トランとジャンセンは顔を合わせて呆れたような溜め息をつく。「……そう言えば、君たちがここに来る事になった経緯って聞いていなかったねぇ……」ジャンセンは草むらの上に座り込むと、トランに話しかけた。罵り合いを無視する事にしたようだ。「そうでした……」トランも同様の心づもりをしたようで、ジャンセンの隣に座り話し出した。「あれは三週間くらい前だったんですが、マスケード博士からの...ジェシルと赤いゲート57
「……それって、どう言う意味?」マーベラがゆっくりと訊き返す。目付きが今まで違う。殺気を帯びている。「ジェシル、あなた、自分が何を言っているのか、分かっているの?」「そうだよ、ジェシル!」ジャンセンが割って入ってくる。「君は博士に会った事が無いから、そう言う歪んだ発想をするんだよ!」「だって、話を通したとは思えない展開じゃない?」ジェシルも負けていない。「それに、ジャン、あなただってそのマスケード博士から文献をもらったんでしょ?」「そうだけど、絶対に調べて来いなんて強要はされなかったよ。ぼくがジェシルの従兄弟と言うの聞き知って、都合の良い時に調査してみてはくれないかと丁寧に頼まれたんだ」「そうよ、カスケード博士は奥床しい方よ!」マーベラは語気を強める。「下衆な考えはやめる事ね!」「でも、そう言われたら、優...ジェシルと赤いゲート56
「ねえ、ジャン……」ジェシルがジャンセンを見る。「そのマスケード博士って、どんな人?」「どんなって、宇宙の考古学会の重鎮だよ」ジャンセンは両手を広げる。ジャンセンが子供の時に良くやった驚き呆れた時の仕草だった。「そしてね、とんでもない量の知識を持っているんだ」「それでいて、とっても温厚で優しいのよ」マーベラが口を挟んでくる。ジェシルはむっとした顔をする。「ご高齢なのに、とても若々しいのよね」「長生きの種族もいるから、その仲間なんじゃないの?」ジェシルの声は冷たい。「総じて長生きな連中って言うのは、碌な事を考えてはいないわ」「何よ、失礼ね!」マーベラが声を荒げる。「何にも知らないくせに、言わないでほしいわ!」「そんなに若々しく知識も豊富なのに、あなたやジャンに仕事を振るなんて変じゃない?」「そんな事無いわよ...ジェシルと赤いゲート55
「……それで、これから何処へ行くのよ?」ジェシルはジャンセンに訊く。「え?何処って……」ジャンセンはマーベラに顔を向ける。「それは……」マーベラはトランを見る。「それは……」トランは立ち止まり、皆を見回す。茂みの中は陽が遮られ、時折吹く風が茂みを音を立てて揺らし、木漏れ陽を落とさせる。「あのさ、ジャン……」ジェシルはジャンセンを睨み付ける。「ベランデューヌとダームフェリアのみんなから格好をつけて去って来たけど、行き先がはっきりしないって言うの?」「いや、そんな事はないよ」ジャンセンは平然と答える。「次はぼくたちがぼくたちの時代に戻るのさ」「どうやって?」「ほら、ここへ来る時に赤いゲートを通って来たじゃないか」「そうだったわね……」ジェシルは思い出す。「ここにあるゲートは機能しなかったわ」「そうそう、出口専...ジェシルと赤いゲート54
「何よう!」「ジェシル、君にはやってもらわなきゃならない事がある」ジャンセンは真剣な眼差しだ。マーベラは目を細める。「ベランデューヌの民とダームフェリアの民は和解した。神としての役割は終わったんだよ。だから、いつまでもぼくたちがここにいてはいけない」「え?どう言う事?」ジェシルは少し首を傾げて訊き返す。可愛らしく見えるその仕草にマーベラは目を細める。「……ジェシル、あなたって本当に何にも知らないのねぇ……」マーベラは、わざとらしいくらい大きなため息をつく。「そんなんでよくジャンセンに着いて来たわね」「なによ!」「なによって、なによ!」「わたしは、たまたまアーロンテイシアになっただけよ!」「それなら、わたしだってたまたまデスゴンになっただけだわ!」「そうね、あなたの性格にぴったりな悪の神、邪神デスゴンね!」...ジェシルと赤いゲート53
「ジャンセンさん!」トランは驚いている。しかし、すぐに状況を呑み込んだようで、大きくうなずいた。「……そうか、アーロンテイシアのメッセンジャーはジャンセンさんだったんですね」「デスゴンは君たち姉弟だったんだね」ジャンセンは嬉しそうにトランを見る。「デスゴンの正体がマーベラって分かった時点で気付くべきだったなぁ」「相変わらずのマイペースですねぇ」トランも楽しそうな顔だ。「ジャンセンさんがいるから色々と詳しかったんですね。ぼくは本物のアーロンテイシアとそのメッセンジャーかと思ってました」「本当にそうだったら、幸運だったわ」マーベラは忌々しそうなジェシルを睨む。「でも、とんだ暴力女だったのよねぇ……」「姉さん!」トランがマーベラを叱る。「知り合いにこうして逢えただけでも物凄い幸運だよ!」「まあ、ジャンセンに逢え...ジェシルと赤いゲート52
「……今頃、訊くの?」マーベラは呆れた顔をする。「遅くない?」「あなたから言わなかったじゃないのよ!」ジェシルはマーベラを睨む。「ジャンとの再会に惚けちゃってたんでしょ?状況も把握できないなんて、非常識極まりない女ね!」「うるさいわね!」マーベラもジェシルを睨む。「あなただって、何にも言わないじゃないのよ!石で攻撃してきちゃってさ!乱暴の極みなくせに!」「あれはアーロンテイシアの闘神の力が出たのよ!わたしがやったわけじゃないわ!」「そう言うんなら、デスゴンだってわたしじゃないわよ!」「どうだか……」ジェシルは嫌味な表情をマーベラに向ける。「あなたのそのねじ曲がった性格がデスゴンに好かれたんじゃないの?」「じゃあ、あなたは暴力的な所がアーロンテイシアに好かれたようね!」二人は睨み合う。不穏な気配が漂い始める...ジェシルと赤いゲート51
「マーベラ……マーベラ・トワットソンはね」ジャンセンは二人のやり取りに気がついておらず、説明を続ける。「ぼくと同じ、考古学者だよ。仲間だ」「考古学者……?」ジェシルは言いながら、訝しそうな眼差しでマーベラを見る。ジャンセンが「仲間」と言った時、勝ったと言うような表情をしたマーベラに腹が立つ。「そんなお仲間さんが、どうしてこんな所に?」「彼女は基本フィールドワークが中心で、文献や伝承の真偽を現地調査するんだ」ジャンセンはジェシルの質問には答えていない。それも腹が立つ。「優秀な考古学者なんだよ」「ああ、そうなの」ジェシルは素っ気なく答える。ジャンセンが「優秀」と言った時、再び勝ったと言うような表情をしたマーベラにさらに腹が立つ。「それで、わざわざ、ここまで現地調査に来たって言うの?そんな事したせいで、デスゴン...ジェシルと赤いゲート50
ジャンセンと彼女はじっと見つめ合っている。民たちはそんな二人を息を殺して交互に見据えている。「……ジャン……」ジェシルはジャンセンの腕を突つき、小声で訊く。「どうしたのよ?……まさか、知り合いとか……?」ジャンセンは無言のままジェシルに振り返る。ジャンセンの目を驚きのせいか、大きく見開かれている。ジェシルはデスゴンだった彼女を見る。整った顔立ちをした若い女性だ。やや褐色の肌に黒い瞳と黒い眉が大人な感じを表わしている。その反面、ぷっくりとした赤い唇が少女の様な愛らしさを見せていた。黒い瞳はジャンセン同様に大きく見開かれている。「ジャン!黙っていたら分からないわよう!」ジェシルは苛立たしそうに言う。「驚くのはもう良いから、彼女は一体誰なの?」「……ジャンセン」かすれた声が彼女から発せられた。「ジャンセン・トル...ジェシルと赤いゲート49
……え?ああ、そうだったわ!石を放った途端、ジェシルは我に返った。だが、放った石を止める事は出来なかった。すでに棒立ちだったデスゴンの仮面に全ての石は当たった。仮面は粉々になって四方に撒き散らされた。デスゴンはそのまま地面にゆっくりと落ちた。うつ伏せたまま倒れている。ジェシルも倒れているデスゴンの傍に降り立った。民たちは歓声を強くする。拳を突き上がる者、両手を叩く者、互いの肩を叩き合う者、興奮状態だった。と、茂った森の中からオレンジ色の肌をした大男が現われた。赤いなめし革で作った袖なしの服に足首までのズボン、それらがはち切れそうなほどに筋骨が隆々としている。民たちの歓声は一瞬で止み、恐れの色を目に宿して男を見つめている。男は無言で民たちを睨み回した。サロトメッカが大剣を両手で握り、からだの正面で構えた。ジ...ジェシルと赤いゲート48
すっかり油断していたデスゴンだった。大量の石礫を避ける事が出来なかった。仮面の前で両腕を交差させるのが精一杯だった。その腕と晒されたからだとに石は容赦なく飛ぶ。さらに、デスゴンに当たった石は再び宙で集まり、デスゴンに飛ぶ。それが繰り返された。「さすがはアーロンテイシア様じゃ」デールトッケが一連の出来事を見て、ハロンドッサに言う。「わしら考えを汲み取って下されたな」「左様、左様」ハロンドッサは大きくうなずく。「デスゴンは勝ったとでも思ったのだろうさ。アーロンテイシア様のつぶやいた『愚かな』はデスゴンへの言葉であったのだ」二人の長の言葉に、民は恐る恐る顔を上げた。石はひっきりなしにデスゴンを打ち続けている。民たちは歓声を上げ始め、アーロンテイシアの名を叫ぶ。皆から少し離れた所に立っていたジャンセンも宙を見上げ...ジェシルと赤いゲート47
アーロンテイシアはデスゴンと対峙する。互いに宙にあるが、堅固な地盤の上にいるかのようだ。「……ふふふ……」デスゴンは陰湿な眼差しでアーロンテイシアを上から下へ下から上へと眺め回し、小馬鹿にしたように鼻で笑う。「アーロンテイシアよ、その依童、まだ日が浅い様だな」「それがどうしたと言うのだ?」アーロンテイシアは平然と答え、両手を組み、ぼきぼきと指を鳴らす。「この者は依童は、われが依るよりも前から、すでに闘神のしての資質を持っていたのだ」アーロンテイシアは好戦的なジェシルの気性を言っているのだ。アーロンテイシアの口の端が軽く吊り上る。「デスゴンよ、お前の依童の見た目はそれ相応だが、闘気のようなものは感じないぞ。……まあ、はったり好きなお前には相応しいとは言えるだろうがな」「アーロンテイシア、お前は何も分かっては...ジェシルと赤いゲート46
長たち、集まっていた者たちが、一斉に動きを止め、空を見上げた。皆不安げな表情だ。呪術師のメキドベレンカが空に向かって何やら叫んでいる。ケルパムは空を見回している。一番若く好戦的なサロトメッカは挑むような眼差しを空に向けている。神経質なボンボテットは空を見上げるのを止めて、しきりに頭を左右に振っている。いつもは陽気なカーデルウィックもその太い体に鳥肌を立てている。知恵者のハロンドッサは右手でつるつる頭を幾度も撫でさすりながら思慮深い眼差しで空を見上げている。「……ねえ、今のは?」ジェシルは空からジャンセンに顔を向き直して訊く。「まさかとは思うけど……」「ああ、ぼくもそのまさかだと思う……」ジャンセンも皿からジェシルに顔を向き直す。「……あれはデスゴンだ」「デスゴン……」そう呟き、ジェシルは空を見上げた。そこ...ジェシルと赤いゲート45
「じゃあ、デスゴンがどこに呼び出したのか、教えてもらおうか?」ジャンセンが長たちに問いかける。「ヤツらが求めているベランデュームの未開拓の地とダームフェリアの境界区域ですじゃ」デールトッケが答える。「そして、時間は陽が昇りケーロイ鳥が鳴く時との事ですじゃ」「それって……?」ジェシルがジャンセンに訊く。「早朝だと美容に響いちゃうわ……」「なんだ、アーロンテイシアが憑いたと感心していたのになぁ……」ジャンセンは二人の言葉で言うと、がっかりしたようにため息をつく。「それなのに、何が美容だよ……」「そんな事を言っても、急にいつもの感じに戻っちゃったんだもん!」ジェシルは口を尖らせて答える。「ケーロイ鳥が鳴く時って、何時なのよ?」「心配するなよ」ジャンセンは苦笑する。「ぼくたちの時間で言うと、お昼のちょっと前だ」「...ジェシルと赤いゲート44
「それで、どうする?」ジャンセンが訊く。「長たちの提案に従って、こっちも大人数で行くのかい?」「そうねぇ……元凶はデスゴンでしょ?」「まあ、そうだけど……」「ここの神様って、互いに潰し合ってのし上がるって、あなたは言ったわ」「言ったけど……」「じゃあ、話は早いじゃない?」ジェシルは言うと、にやりと笑う。「デスゴンを倒せば良いんだわ!」「ジェシル……」ジャンセンは呆れた顔でため息をつく。「邪魔者は取り除く、その短絡的な思考パターン、子供の頃と変わらないなぁ……」「あら、いけない?」「いいかい、相手は目覚めた禍神だぜ。ちょっとだけアーロンテイシアになった程度の君じゃ、太刀打ちできないぞ」「そんなの、やってみなくちゃ分からないわ」「しかもさ、ダームフェリアの民も加わったらどうするんだい?デスゴンに操られているだ...ジェシルと赤いゲート43
「……アーロンテイシア様」衣装と格闘しているジェシルに、最長老のデールトッケが背後から話しかけた。途端にジェシルは背筋を伸ばし、笑顔でデールトッケに振り返った。「何事?」ジェシルは答える。「何か話し合いをしていたようだが?」「左様でございます」デールトッケは両手の平を上に向けて頭を下げた。「決してアーロンテイシア様のお力を疑うわけではございませぬが、やはり、アーロンテイシア様お一人を、ヤツらの所に向かわせるは忍びないですじゃ」「まだそのような事を言っているのか?」「実はですな」デールトッケは顔を上げ、ジェシルを見つめる。「サロトメッカの村は、ダームフェリアの近くでしてな、村の者は、ダームフェリアで異変が起こっているのを見たと言うのですじゃ」「異変……?」「突然空の一角に黒雲が湧き上がって雷(いかずち)が落...ジェシルと赤いゲート42
「ジェシル……」ジャンセンが声をかける。ジェシルは振り返る。ジャンセンの顔には驚きがあった。「……いやいや、大したもんだなぁ」ジェシルは長たちを見る。皆が座り直して話し合いを始めていた。誰もこちらを見ていない。それが分かると、ジェシルは思い切り不機嫌な顔になった。「何がよ?」ジェシルの声にも不機嫌さがにじんでいる。「何が大したものなのよ?」「何をそんなに不機嫌なんだい?」ジャンセンは不思議そうな顔だ。「威厳のある立派な態度だったじゃないか。ぼくの知っているジェシルからは思いもよらないよ」「それだけ、社会で揉まれているのよ!」ジェシルは、いつも偉そうな態度のトールメン部長を思い出していた。ジェシルはトールメン部長の偉そうにしているところを真似してみたのだ。結果は長たちの様子に表われていた。効き目があったと言...ジェシルと赤いゲート41
ジャンセンがジェシルの元へ着くと、長たちが立ち上がり歓喜の声を上げていた。ジェシルが助ける事を告げたのだろう。「偉大なる女神アーロンテイシア様!」恰幅の良いカーデルウィックは叫ぶと、両手を広げて、今にもジェシルを抱きしめそうな勢いだ。「こら、カーデルウィック!罰当たりな事をするでない!」最長老のデールトッケが諌める。カーデルウィックはぽりぽりと頭を掻く。「まあ、そうしたくなる気持ちは分かるがな……」ドルウィンは言うとジェシルをほれぼれとした表情で見る。「ドルウィン、お前さんも不謹慎そうな顔つきだぞ!」長の中で一番若いサロトメッカが真面目な顔で言う。「せっかくアーロンテイシア様がご助力下さるというのに、怒りを買うような真似は慎まれよ」神経質なボロボテットが唸るように言う。「浮かれている暇はそれほどは無いと思...ジェシルと赤いゲート40
「それって、わたしたちと一緒じゃない!」ジェシルは声を荒げる。「どう言う事なのよ!説明しなしさいよ!」「ぼくに怒ってもなぁ……」ジャンセンは困惑の表情でジェシルを見る。「とにかく、そのデスゴンはぼくたちと同じような状況下にあるんじゃないかとは推測できるね」「と言う事は、研究者と……」「その助手……」助手と言ったジャンセンをジェシルが殺気を込めたまなざしで見つめる。「……いや、その従妹……じゃなくって知り合い、いや、立派な援護者……」「そうかも知れないわね」立派な援護者の言葉でジェシルの機嫌が直った。「ジャン、あなた、心当たりの人なんていない?」「そうだなぁ……」ジャンセンは腕を組んで目を閉じ、考え込んでいる。しばらくして目を開けた。「……ごめん、思いつかない……」「そうなの?」「言えるのは、あの赤いゲート...ジェシルと赤いゲート39
「アーロンテイシア様……」最長老のデールトッケが話しかける。「単刀直入に申し上げます……」「そんなに畏まらないで良いわよ」ジェシルは楽しそうに言う。ジャンセンを言い負かしたのが嬉しくてしょうがない。「わたし、今とっても気分が良いから」「わしらをお助け頂きたいのですじゃ……」「え?」ジェシルは驚いた顔でデールトッケを見る。他の長たちも深刻な顔でうなずいている。ジャンセンも同じようにうなずいている。「ここって色々と恵まれた土地なんでしょ?」ジェシルはジャンセンに自分たちの言葉で訊いた。「村の人たちも明るいし問題ないって感じだけど……」「そうだけど……」ジャンセンが答える。「それ故に問題が起こったんだ」「村の人たちを見ていると、そんな風には思えないけど?」「長たちの所で話が止まっているからだよ。いずれは知られて...ジェシルと赤いゲート38
ジェシルは、あっと言う間に子供と女たちに囲まれた。男たちは、呪い師の老婆とメギドベレンカとに睨みつけられて、遠巻きに様子を窺っている。本当はジェシルに声をかけたくて仕方がないのだが、それは叶わず仕舞いのようだ。ジェシルを取り巻いている子供たちが口々に何かを言っている。しかし、ジェシルには分からない。それでも、声をかけられるたびにその方を向き笑顔を見せていた。「すっかりアーロンテイシアだな……」ジャンセンは、ジェシルの様子を見ながらつぶやく。ドルウィンがジャンセンに声をかけてきた。ドルウィンが促すところには、貫録と威厳を併せ持った年輩の男たちが五人、丸テーブルを囲んで形で座り、真剣な眼差しをジャンセンに向けていた。彼らはベランデューヌ一帯の村の長たちだった。これから、重要な話が行なわれようとしているのだ。そ...ジェシルと赤いゲート37
ドルウィンはジャンセンと話している。ジャンセンは何度もうなずく。話が終わると、ドルウィンは両手の平を上に向け、頭を下げ、その姿勢のままゆっくりと後退し始めた。「……ねぇ、あれって危険じゃない?石にでもつまづいたら転んじゃうわ」ジェシルは、不器用な動きで後退しているドルウィンを心配そうに見ている。「大丈夫、ここでは客を招くときにはこうやって誘導するんだよ」ジャンセンが答える。「後ろ向きに歩いても道には何の問題もないほど整えられている、って事を示しているんだ」「この時代の習慣って事?」「そう言う事だね。さあ、付いて行こう」ジャンセンは言うと、ジェシルを先に歩くように手で示した。「メインゲストのアーロンテイシアが先だ。ぼくは一応メッセンジャーって立場だからね。さあ。歩いて。あまり距離が開いちゃうと失礼にあたるか...ジェシルと赤いゲート36
ジェシルは駈け出す。手を握られているケルパムは、腕がぴんと伸びた格好で、転ばないようにと必死で駈けている。「ジェシル!ケルパムが……」ジャンセンが後ろから声をかけたが、曲り道で姿が見えなくなった。駆け去った後に舞う土埃を見ながらジャンセンはつぶやく。「……やれやれ、ベルザの実って、そんなに美味しいかなぁ?ぼくならペレザンデの実の方が好きだけどなぁ。あの口の中に広がる酸っぱ苦い味が最高だ」長やまじない師たちは呆然とした表情でジェシルの立てた土埃を見ていた。しばらくすると、ジェシルが駈け戻って来た。怒った顔をしている。皆が畏れて両の手の平を上に向けて頭を下げた。「ジェシル、言っただろう?怒った顔がダメだってさ」「そうは言うけど」ジェシルは鼻息が荒い。「ケルパムが全力でわたしの手を放して、わたしの前に立って、両...ジェシルと赤いゲート35
長のドルウィンを先頭に、メギドベレンカが続き、その後にジェシルとジャンセン、殿は二人のまじない師の老婆と言った並びで、ぞろぞろと歩いていた。ドルウィンの村へと向かっているのだ。老婆たちはひたすら祈りの言葉を唱えている。メギドベレンカはドルウィンと話をしている。時折、ジャンセンに振り返り何かを話している。ジャンセンはそれに答えるとジェシルの顔を見て、かわいらしくにこりと笑んでみせる。「……ねえ、ジャン」ジェシルはジャンセンに話しかける。「さっきから何を話しているのよ?それと、あの娘(「メギドベレンカだよ」ジャンセンが言う。名前を呼ばれたメギドベレンカはジェシルの方に顔を向け、再び笑む)……今もそうだったけど、どうしてわたしに笑顔を見せるのかしら?」「そりゃ、女神アーロンテイシアの覚えめでたきまじない師になる...ジェシルと赤いゲート34
老婆たちが放った炎が消えた。消えたというよりも、消し飛ばされた。腕を振り下ろした老婆たちが互いに顔を見合う。二人とも怪訝な表情をしている。その表情のままで、二人はジェシルに振り返った。ジェシルは笑顔を湛えたままで静かに立っている。ジャンセンは呆気にとられた表情で立っていた。「ジェシル……」ジャンセンが声をかける。「今、熱線銃を撃ったよな?」「あら、そうだったかしら?」ジェシルは笑顔のままで答える。「とにかく、炎が消えて何よりね」老婆たちが互いに炎を放ち合った時、ジェシルが素早く腰の背の方に手を廻し、挟んでいた熱線銃を取って炎に向かって熱線を撃ったのだ。炎よりも高温だったため、放ち合った炎を消し飛ばした。それから銃を腰に戻し、何も無かったように笑みを湛えた。一瞬の出来事だった。ジャンセンはその動きを見ていた...ジェシルと赤いゲート33
ジェシルとメギドベレンカの笑顔の見つめ合いが続く。さすがにジェシルは頬に痛みを感じ始めた。額にうっすらと汗が噴き出る。「……ジャン」ジェシルは笑顔のままで小声で傍に立っているジャンセンに声をかける。「そろそろ限界なんだけど……」「頑張れジェシル、君なら出来る!」ジャンセンはきっぱりと言う。しかし、ジェシルには思い切り無責任な発言にしか思えなかった。「何よ、他人事だと思ってさ」ジェシルはジャンセンを見る。笑顔だが、目は笑っていなかった。「元々笑顔なんて作らない方だから、もうダメだわ……」「それは相手のメギドベレンカも同じみたいだぜ」ジャンセンがそう言って、メギドベレンカを指差す。ジェシルはメギドベレンカに向き直る。メギドベレンカの頬がひくひくとし始めていた。額から汗が伝っているのが見える。……わたしよりバテ...ジェシルと赤いゲート32
ジェシルとジャンセンの気まずそうな雰囲気を察したのか、村の長がおずおずと話しだした。ジャンセンはうなずきながら話を聞いている。途中でケルパムも口を挟んできた。三人は更に白熱したように話をし、終いには笑い出していた。すっかり仲間外れのジェシルは憮然とした表情になる。「ジャン!」ジェシルは声を荒げた。「何よう!わたしを除け者にしちゃってさあ!」ジェシルの怒った顔を見た村の長とケルパムは、地面に額を押し付ける格好をし、しきりに何かを唱え始めた。「……二人ともどうしちゃったの?」ジェシルは驚いた顔でジャンセンを見る。怒っていたのを忘れてしまったようだ。「何だか、必死な感じなんだけど……」「そりゃ、そうさ」ジャンセンは苦笑する。「畏れ多い女神アーロンテイシア様がお怒りなんだぜ。彼らに取っちゃ命を奪われても仕方がない...ジェシルと赤いゲート31
「ケルパム、どこへ行っちゃったの?」ジェシルが辺りを見回す。「察するに、ふもとの自分の村に戻ったんじゃないのかなぁ?」ジャンセンが答える。「だってさ、女神を見たんだぜ?これは村の大人たちに話さなきゃならないさ!」「ジャン……あなた、なんだか興奮しているみたいだけど?」ジェシルは不満そうな顔をジャンセンに向ける。「この状況が分かっているの?わたしたち、とんでもない所に居るのよ!」「そうなんだろうけどさ……」笑顔のジャンセンの瞳はきらきらと光っている。大発見をしたと騒いでいた子供の頃のようだ。「嬉しいのは、ぼくの言葉が通じた事だよ!ぼくの研究は無駄じゃなかったんだよ!嬉しいなぁ!しかもさ、直接に生活や風俗なんかが確かめられるんだぜ!」「最低……」ジェシルはつぶやく。帰れるかどうかが心配なのに、ジャンセンは自分...ジェシルと赤いゲート30
ジェシルは銃を構え、じっと茂みを見つめている。ゆっくりと立ち上がった。何者かの気配が感じられる。宇宙パトロール捜査官としての経験から、それは間違いのない事だった。不意を突いて襲いかかってくるような野生の動物の類では無かった。「誰?出て来なさい!」ジェシルは詰問する。声は大きくはなかったが、刺すように鋭くて冷たい。茂みはぴくりともしない。……ひょっとして、言葉が通じないのかしら?ジェシルは思った。ここがどこだか分からないのだ。ジェシルは宇宙公用語で同じ質問をしてみた。しかし、反応はない。茂みの中に気配は感じているのだが。……仕方がないわ。脅かすために一発撃ち込んでみるしかないようね。ジェシルは出力を最小にしてから引き金に指を掛けた。と、茂みがざわざわと音を立てた。引き金の指が止まる。ジェシルはじっと茂みを見...ジェシルと赤いゲート29
風が吹いた。暖かで穏やかな風だったが、ジャンセンは鳥肌を立てた。「……ジェシル、その言い方だと、第三者がいるって感じだけど……」ジャンセンは言いながら周囲を見回す。たすき掛けの鞄をしっかりと両手で握っている。「ジャン、あなたってそんなに臆病だった?」ジェシルは小馬鹿にしたような顔で言う。「子供の頃はもう少し堂々としていたんじゃなかったっけ?」「大人になるにつれ、色々と学んだからなぁ……」ジャンセンはつぶやくように言う。「君はさらに磨きがかかったようだけど」「ふん!」ジェシルは鼻を鳴らす。「これは職業柄よ!本来は繊細で傷つきやすい乙女なのよ!」「自分で言い切れるところが堂々としているって言えるよなぁ……」「ジャン!」ジェシルは腕を振り上げた。「好い加減にしなさいよ!」「まあ、冗談はともかくさ……」ジャンセン...ジェシルと赤いゲート28
心地よい暖かさと、甘い香りが鼻腔をくすぐる。ジェシルが感じた事だった。……なんだか気持ちが良いわ。ジェシルは満足そうに笑む。ずっとこのままでいたいと言う気分になる。……ちょっと待って!我に返ったジェシルは飛び起きた。今一つ焦点が定まらない目をじっと凝らす。その間も、暖かさと甘い香りは続いている。「……ここは、どこなの?」ジェシルは敢えて声を出してみた。喉がからからに乾いた時の声のようだ。ジェシルは驚いて、何度か咳払いをする。徐々に焦点が定まって来た。暖かな日差しが優しく注ぐ、様々な花が咲いている野原の中だった。「え……?」ジェシルは呆然とする。……ちょっと待ってよ。さっきまでは家の地下だったわ。ジェシルは記憶を辿る。……怪しいドア枠に吸い込まれて……「そうだわ!吸い込まれたのよ!」ジェシルは声を荒げると、...ジェシルと赤いゲート27
「……ジェシル、今の聞いたよな?」「ええ、聞いたわ……」ジャンセンはドア枠に駈け寄った。ジェシルも続く。二人でドア枠を見る。ジャンセンは拳を軽く握ると、ドアをノックするようにドア枠を叩いた。「う~ん……木製だったら、もっとこんこんと言った気持ちの良い音がするんだけどなぁ……」「そうね、中に何かがありそうな音だわ……」「そんな感じだね」ジャンセンは鞄に手を突っ込んだ。あちこちを探って、やっと目当てのものを見つけたようで、手の動きが止まる。鞄から手を引き抜いた。手にはカッターナイフがあった。「どうするの?」ジェシルの問いにジャンセンがにやりと笑む。「このカッターナイフで削ってみるのさ」ジャンセンは刃先をドア枠に押し当てた。「中に何かがあればすぐに分かるだろう?」「でも、これは歴史的には貴重な物なんじゃないの?...ジェシルと赤いゲート26
ジャンセンはドア枠をぽんぽんと軽く叩いた。そして、鞄から虫眼鏡を取り出すと、調べ始めた。「う~ん……これはアズマイック杉で出来ているようだなぁ……しかも一旦蒸し焼きにして固くして、それから防腐用に塗装したもののようだ……でも、ぼくの知っている中で、赤色ってのは無かったなぁ……大発見かも知れないぞぉ……」……何よ、一人でにやにやしちゃってさ!わたしの事を忘れているんだわ!ジャンって何かに夢中になるとこうだったわね!わたしを置き去りにしてさ!にやにやしながら独り言を言っているジャンセンを、座り込んだままで口を尖らせながら見ていたジェシルは、ジャンセンの鞄から発光粘土を取り出す際に床に撒き散らした金貨を一枚拾い上げ、ジャンセンの背中に投げつけた。金貨はジャンセンに当たり、床に落ちるとちゃりんと言う音を立てた。そ...ジェシルと赤いゲート25
「痛たたた……」そう言いながら立ち上がり、お尻を撫でさすっているのはジェシルだった。いきなり足下に開いた穴から落下した。日ごろ鍛えているジェシルは咄嗟に身構えて、お尻を打つぐらいで済んだのだ。ジェシルは顔を上げた。さっきまでいた地下二階に残してきた発光粘土の明かりがうっすらと射し込んでいる。……と言う事は、ここは地下三階で間違いはなさそうね。ジェシルはそう判断した。……それにしても乱暴な入口だわ!ご先祖って何を考えているのかしら!ジェシルは見えない先祖に向かって、べえと舌を出してみせた。「……そうねぇ、この高さなら、ジャンの肩か頭にでも乗って飛び上れば戻れそうだわ」落ちて来た穴を見上げ、ジェシルはつぶやく。「で、肝心のジャンはどこかしら?」ジェシルは地下二階から射す明かりを頼りに周囲を見回す。ジャンセンは...ジェシルと赤いゲート24
ジャンセンはジェシルの意地悪な言葉を聞いてはいなかった。じっと床から突き出た赤い石を見つめていた。そして、鞄から虫眼鏡を取り出すと、石のすぐ横で左膝を突き、石に顔をくっつけんばかりにからだをうんと丸めて虫眼鏡越しに観察し始めた。「……何、やってんの……?」ジェシルは不安そうな声を出す。「それも歴史的に価値があるってわけ?」「これが本当に押しボタンなのかどうかを調べているんだ」ジャンセンは観察を続けながら、背中越しに言う。「下手に押して、扉前のような穴がぱっくり開いたら、助からないからね」「ジャン、あなた、心配し過ぎだわ。罠なんかそんなに幾つも仕掛けないわよ」「そんな事、分からないじゃないか!」ジャンセンはジェシルに振り返る。子供の頃にムキになって言い返してきた時の顔だった。「落っこちたら、地下の深い所の水...ジェシルと赤いゲート23
ジェシルの言葉にジャンセンの顔が青褪めた。「おいおい、冗談が過ぎるよ……」「あら、そうかしら?」ジェシルは、ジャンセンの反応を楽しんでいるようだ。「じゃ、他にあるって事?燭台は無いわよ?だから、地下二階でおしまいか、あの落とし穴みたいなのか、のどちらかだわ」「どっちもイヤだなぁ……」「ここでぶつくさ言っていても始まらないわ。扉の前の穴を見に行きましょう」ジェシルは言うとすたすたと歩きはじめる。……見た目は慈愛に溢れた女神そのものなんだけどなぁ。でも、内心は意地悪の塊だよなぁ。ジャンセンはジェシルを見ながら心の中でつぶやく。ジェシルがジャンセンに振り返る。一瞬、心を読まれたかと思ったジャンセンだったが、にやにやしながら手招きするジェシルを見て意地悪の続きだと知った。ジャンセンは不満そうな表情でジェシルの後に...ジェシルと赤いゲート22
ジャンセンは座り込んだまま腕を組み、高い天井を見上げる。そのままの姿勢で目を閉じた。……おかしい、圧倒的におかしい。上の階の文献もそうだったけど、余りにも雑だ。時代が全く噛み合わないし、宙域も全く噛み合わない。時代も宙域も自由自在に行き来出来る状況じゃないと、こんな収集は不可能だ。しかし、宙域を駈け巡れるようになったのはここ五百年くらいだし、時代に関しては、まだタイムマシンは実用化の段階じゃない。古代にはぼくたちの想像を遥かに超えた文明が存在したなんて戯言があるけど、それは本当なのかもしれないぞ。いや待て待て!ぼくはそんな事を考えるだけの知識も情報も無いじゃないか!何を気取って考えているんだ!ぼくが出来るのは、文献を読み解いて行く事だ。ひょっとしたら、その途中でこの謎を解く事が出来るかもしれない。でも待っ...ジェシルと赤いゲート21
右側の扉に穴が開く。何も起こらなかった。「ジャン、地下一階と同じく、な~んにも無かったわねぇ」ジェシルは意地悪さ全開でジャンセンに言う。「それとも、やっぱり熱線銃で仕掛けを破壊したのかしらぁ?」「……まあ、それは後々調べる事にするよ……」ジャンセンは言うと、軽く咳払いをする。「とにかく、部屋に入って見よう」ジャンセンは言うと、すっと脇へと移動した。ジェシルに先に入るようにと促しているのだ。ジェシルは苦笑しながら、ジャンセンが手にしている発光粘土を取り上げ、扉の穴から先へと進んだ。ジェシルの身に何も起こっていない事を確認したジャンセンは、そろそろと扉の穴から入って行く。その際、左側の扉をそっと押した。「うわぁ!」ジャンセンの悲鳴にジェシルが駈け付ける。発光粘土の灯りで、ジャンセンは扉の穴の所で座り込んでいる...ジェシルと赤いゲート20
楽しそうに熱線銃を撃ちまくるジェシルとは対照的に、ジャンセンは暗い顔をしている。「何よ?」ジェシルはそんなジャンセンの雰囲気を察して振り返る。「こんな仕掛け、他にもあるんでしょ?だったら、気にする事はないんじゃない?」「いや、そうなんだけどさ……」ジャンセンはため息をつく。「こうも楽しそうにあっさりと壊されて行く様を見せられるとさ、歴史的な蓄積ってのが、何だか薄っぺらくて馬鹿馬鹿しいものに見えてしまうんだよなぁ……」「あら、いいんじゃない?」ジェシルは微笑む。しかし、そこには底意地の悪さが潜んでいる。「これで、ジャンも現実をきちんと見る事が出来るようになったって事よ」ジャンセンは返事をしなかった。ジェシルは向き直り、天井を撃ち続ける。踊り場までたどり着いた。そこから階段は真後ろ向きになる。「何だか、味気な...ジェシルと赤いゲート19
背中の感触と同時に、ジェシルは前方へと跳躍し、燭台を握ったままの『ブラキオーレス』を床に投げ捨て、壁に向かって振り返って片膝を突いた時には、メルカトリーム熱線銃を手にし、銃口を壁に向け、いつでも撃ち出せる状態になっていた。ジャンセンは床にうつ伏せになって這いつくばっている。背中を押された驚きで腰が抜けてしまったようだ。頭だけ壁の方に向けている。壁に設えてある書棚の二面が両開きの扉のように室内に向かって開いていた。下へと向かう階段が見える。続く地下への入り口だ。「ジャン……」ジェシルは立ち上がると無様な格好のジャンセンを見て、小馬鹿にしたようにくすっと笑う。「あなた、まるでカンデーリャ星のベラートカゲみたいだわ。その首の捻り方なんか、そっくりだわ」「ふん!」ジャンセンは鼻を鳴らしながら立ち上がる。「ちょっと...ジェシルと赤いゲート18
ジェシルは顎でジャンセンに指示を出す。ジャンセンは壁に向かって両手を突き出す。壁と言っても、びっしりと書棚になっている。ジャンセンは書棚の棚の一部をつかんで、ジェシルが肩に飛び乗るのを待つ。「行くわよ」ジェシルが言う。しかし、ジャンセンの返事が無い。「ジャン……?」ジャンセンは伸ばしていた両腕を曲げて、顔を書棚に近づけた。何やらぶつぶつ言っている。「ジャンってば!」「え?」ジャンセンは怒鳴るジェシルに振り返る。その顔は大発見をしたと自慢していた子供の頃の顔だ。「ジェシル!この文献は凄いぞ!伝説と言われたクンザザ族の事が書かれている!クンザザってさ、異空間を行き来できる能力があるって言われていたんだ。誰もがそんなの作り話だって一蹴してたんだけどさ、ここにそのクンザザに関する文献が並んでいるんだ!これは大発見...ジェシルと赤いゲート17
ジェシルは周囲を見回す。四方の壁には棚が設えられている。「ねえ、ジャン……」ジェシルはジャンセンを見る。「ここよりさらに地下へは、どうやって行くの?」「どうやってって……」「だってさ、この部屋には扉は無いわよ?それに、さっき下りてきた階段はここまでしか無かったじゃない?」「確かにそうだったなぁ……」ジャンセンは腕組みをして考え込む。「どうなってんだろうな……」「ジャン、まさか、この先に行き方は分かっていないの?」「資料には、地下への下り方が載っていただけだから……」ジャンセンは腕組みしたままの姿でジェシルを見る。「下りて行けば階段があるものだって思うじゃないか」「何よ、それぇ……」ジェシルはむっとする。腕組みした姿が偉そうなのも気に食わない。「何よ!地下へ下りれば階段があると思ったって?ちゃんと調べたんじ...ジェシルと赤いゲート16
ジャンセンは床に羊皮紙を置いて、腕組みをすると、ぶつぶつ言いながら考え込んでしまった。ジェシルはまたうんざりする。……こうなると、ジャンって動かなくなっちゃうのよねぇ。いいわ、放っておいて戻っちゃおう。お腹も空いちゃったしさ。ジャンはお弁当を持ってきているみたいだし……ジェシルはそう決めると踵を返した。「おい、ジェシル!どこへ行くんだ?」ジャンセンが突然声をかけてきた。ジェシルは驚いて振り向く。「あら!随分と早いじゃない!」ジェシルは苦笑する。「ジャンってさ、考え事が始まると長くなるから、ランチにでもしようって思ったのよ」「何を呑気な事を言っているんだよ!」ジャンセンがむっとした顔をする。迫力の無さに、ジェシルは鼻で笑う。「いいかい、これは歴史的な大矛盾であり、何とか解決しなければならない問題なんだよ!」...ジェシルと赤いゲート15
部屋は真っ暗で、どこに何があるのかは全く分からない。「ジャン、灯りが必要だわ!」ジェシルの声がする。姿は見えない。「そんな事も言われなくちゃ気がつかないわけ?」「ああ、そうだね……」ジャンセンは答えながら、声のする方に向かって、思い切り舌を出して見せた。……ジェシルって、昔っからこうだよな。何でも仕切っちゃってさ!ぼくはそんなジェシルが大嫌いだあ!ジャンセンは心の底からそう思った。「ジャン!」ジェシルの鋭い声が響いた。「わたしに向かって、べえって舌を出しているんでしょ?そんな子供じみた事はやめてよね」ジャンセンは慌てって舌を引っ込めた。……どうして分かるんだ?真っ暗の中だぞ?「ふん!あなたのやる事なんか、ぜ~んぶお見通しなんだから!」ジェシルの勝ち誇った声がする。「子供の頃から、ちっとも変わらないわ。文句...ジェシルと赤いゲート14
ジャンセンの粘土照明のお蔭で、かなり遠くまで見る事が出来た。ジェシルはためらうことなく壁を熱線銃で撃つ。その度にジャンセンのかすかなうめき声が聞こえてくるのが、ジェシルには妙に楽しかった。やがて階段が終わり、平らな石を敷き詰めた踊り場のような場所に立った。ジャンセンは粘土を少しちぎってこねくり回すと床に抛った。発光し回りがより鮮明に見えてくる。正面には金属製の両開きで黒色の丈の高い扉があった。「……ここが地下一階の部屋への扉のようね」「その様だね……」ジャンセンは言うとジェシルの前に立ち、扉に触れようとする。「ジャン!」ジェシルは語気を強める。「階段であれだけの仕掛けがしてあったのよ!この扉だって怪しいものだわ!」「え?あ、そうか……」ジャンセンは慌てて手を引っ込めた。「危なかったよ。……でもさ、この扉の...ジェシルと赤いゲート13
「ジャン……」ジェシルはため息をつくと、きっとジャンセンを睨み付けた。「そんな冗談、面白くも何ともないわ。むしろ腹が立つわよ!」「何を怒っているんだ?」ジャンセンは不思議そうな顔をする。「そんな怒ってばっかりだと、美容に悪いんじゃなかったっけ?」「あなたが来るなんて話を聞くまでは、美容に問題はなかったわよ!」「じゃあ、ぼくのせいだって言うのかい?」「そうだって言っているじゃない!」「そうなんだ。そりゃあ、悪かった」ジャンセンはあっさりと謝罪した。ジェシルは拍子抜けする。しかし、すぐに昔を思い出した。ジャンセンは謝ればそれで終わりな所があった。「謝ったんだから良いじゃないか」と本気で思っているのだ。だから、この謝罪もそんなものだろうと、ジェシルは思った。「……で、この粘土なんだけどさ」「ほうら、思った通りだ...ジェシルと赤いゲート12
「怖いものはないって、どう言う意味だい?」ジャンセンは無意識に両手を上げながら訊く。その間もジェシルは不気味な笑みを浮かべている。「……まさか、本当にぼくを……」「ふふふ……冗談よ」ジェシルは銃口を天井に向けた。ジャンセンは大きくため息をついて手を下ろした。「これから地下に行くんでしょ?さっきみたいな罠があったらたまったもんじゃないわ」「まあ、確かにそうだけど……」ジャンセンは、はっとした顔をする。「でもさ、その銃で破壊しながら進もうって言うのかい?」「命は大切よ」「そうだけどさ、この仕掛けって過去の遺産なんだよねぇ……何百年経っているのかは調べてみないと分からないけど、それが起動したんだ。凄いとは思わないか?」「凄いって……」ジェシルは呆れる。「あなた、命が危険に晒されたのよ?分かっているの?」「分かっ...ジェシルと赤いゲート11
床にへたり込んで、左右から槍の突き出している階段を眺めているジャンセンの尻を、ジェシルは蹴飛ばした。思わず前のめりになって階段へと転がり落ちそうになる。ジャンセンは悲鳴を上げて両手で床を押さえ、からだを支えた。そして素早く立ち上がると、にやにや笑っているジェシルを正面から睨みつけた。「危ないじゃないかあ!」ジャンセンは怒鳴る。「階段に落っこちたらどうなると思うんだよ!」「ジャンセンの串刺しが出来るんじゃない?」ジェシルは平然と答える。「どう料理しても、美味しそうじゃないけどね」「あのなあ!」「それよりも、手伝ってよ」ジェシルは、怒っているジャンセンを気にする事も無く、横倒しになった大きな机の傍に行き、机をぽんと叩いた。「……手伝えって、何をするんだい?」「あのさあ……」ジェシルは呆れたようにため息をつく。...ジェシルと赤いゲート10
「え?何?何の音なの!」ジェシルが叫んで、ジャンセンの顔を見る。「何って……」ジャンセンは戸惑う。「何だろう?」「普通は男の人が何事かを見に行くもんじゃないの!」ジェシルは語気を強める。「それを『何だろう?』って!本当に役に立たな庭いわね!」「だって、部屋から出て行けって……」「それは、わたしが着替えるからでしょ!」「散々下着姿を見せておきながら、そんな事言うんだって、鼻で笑っちゃって、同時に呆れたけどな」「あなたって、常識が無いの?全部着替えるから出て行けって行ったんじゃない!」「え?全部?……」「あああっ!もういい!」ジェシルは、考え込んでいるジャンセンに怒鳴ると、部屋へと駈け戻った。扉を開け、部屋に入る。扉は自然と閉じて行く。その様をジャンセンは玄関ホールで見ていた。「……ちょっと、これ、何なのよう...ジェシルと赤いゲート9
ジャンセンが部屋から出ると、背後で殊更大きな音で扉が閉められ、続いて聞こえよがしに鍵を掛ける音がした。「……そんなに怒る事はないじゃないか」ジャンセンはぴったりと閉じられた扉に振り返る。「小さい頃は一緒に風呂にも入ったって言うのにさ……」全宇宙の男どもが殺意を抱きかねないつぶやきをすると、ジャンセンは手にした燭台をしげしげと見た。「やっぱり、これはレプリカだ。……にしては良く出来ているなぁ」ジャンセンは折れ口を見る。心無しか眉間に皺を寄せた。何か気になる事があるようだ。ジャンセンは燭台を右手に持ったまま、左手で右肩からたすき掛けにしている鞄のかぶせを捲り上げ、鞄の中に突っ込んだ。しばらくがさごそと探っていたが、目当ての物を見つけたようで、左手を鞄から抜き出した。左手には大きな虫眼鏡が握られていた。それを右...ジェシルと赤いゲート8
「……なんだって?」ジャンセンはジェシルの右手の燭台を見て、それから苦笑いを浮かべているジェシルの顔を見る。「……なんだってぇ!」ジャンセンは大きな声を出しながら立ち上がった。勢いでジェシルは床に転がる。ジャンセンはぼっきりと折られた燭台の根元を見上げる。「折っちゃったのか……」ジャンセンはつぶやく。「折っちまったのか……」「下に下がる構造だったって言うから、飛びついたらそうなると思うじゃない?」ジェシルも立ち上がる。手にした燭台をぶらぶらさせながら言う。「でも、下になんか下がらなかったわよ」「でも、折っちゃうかい、普通?」「それだけ軟弱な作りだったのよ」ジェシルは悪びれずに言う。「それにさ、下に下がらないんだから、あなたの得た情報も嘘だったんじゃない?元々、地下なんか無かったのよ」「いや、でも、ぼくが調...ジェシルと赤いゲート7
「探検って……」ジャンセンがむっとする。「ジェシル。君は何か勘違いをしているようだ。これは遊びじゃない、学術調査なんだ」「あら、それは言い方が悪かったわね。ごめんなさい」ジェシルは素直に謝った。先程とは違う態度にジャンセンが面食らう。「おい、どうしちゃったんだ?君なら、『あなたはどう思っていようが、わたしには探検以外の何物でもないわよ!』って怒鳴りそうなもんだけど……」ジェシルはむっとする。……せっかく歴史に興味を持ったって言うのに、これじゃ台無しだわ。でも、口の悪さも我が一族って感じかな。ジェシルは思って苦笑する。「なんだ?怒った顔をしたり苦笑いをしたり……」ジャンセンが呆れたように言う。そして、気を取り直すように頭を軽く左右に振る。「……とにかく、協力してくれるのはありがたいよ」「そう素直に言えばいい...ジェシルと赤いゲート6
「はあ?」ジェシルはまずは呆れ、次にはむっとした顔を作った。「あなた、何を言ってんのよ!」「だって、君は優秀な宇宙パトロールの捜査官なんだろう?」むっとした顔のジェシルを、ジャンセンは不思議そうな顔で見返す。「それに、飛んだり跳ねたりが得意だそうじゃないか。タルメリックおじさんが言ってたよ」「……」ジェシルの見えない熱線銃がタルメリック叔父に何発も撃ち込まれていた。気分が落ち着いたジェシルはジャンセンを見る。「たしかに、飛んだり跳ねたりは得意だけど、あんな高い所は無理よ」「やっぱりそうだよなぁ……」ジャンセンは燭台を見上げる。「あれを下に下げれば入口が開くんだけどなぁ……」ジャンセンの様子は、子供が目の前にある欲しいものに手が届かずにやきもきしているようだった。あれだけ腹立たしかったジェシルだが、ジャンセ...ジェシルと赤いゲート5
大概の来客は、屋敷の規模の大きさや圧倒的な豪華さに目を奪われ、しばし言葉が出ない。しかしジャンセンは違った。「じゃあ、地下への入り口へ行こうか?」ジャンセンはじっとジェシルを見つめて言う。周りなど全く見えていないようだ。と言うより、関心を持っていないとしか言いようがない。「……あなたって、最低ね!」ジェシルはむっとする。「どこが最低なんだ?」ジャンセンは首をかしげる。「ぼくは調査がしたくてやって来た。そして、君は通してくれた。さらに、物には触れるなとも言った。だから、君の手で地下への入り口を開けてもらわなきゃいけない。それをお願いしているのに、どうして最低なんだ?」「もう良いわ!」ジェシルは語気強く言う。「あなたに普通の感覚を求める方が間違いだったわ!」「ぼくも君の噂を聞いているんだけどさ」さすがにジャン...ジェシルと赤いゲート4
ジェシルは壁に掛かっている柱時計を見た(これも年代物だそうだが、ジェシルには全く興味も関心もない)。「ジャンのヤツ、昼前には来るだなんて言っていたわね。聞いてもいないのに、弁当を持ってくるから昼食はいらないなんて言っていたわ……」ジェシルはにやりと笑う。「だったら、思い切り豪華なランチを目の前で食べてやろうかしら」と、玄関の呼び鈴が鳴った。ジェシルは壁に備え付けたモニター画面を操作し、玄関に佇んでいる人物を映しだした。画面には右斜め上から見下ろした映像が映っている。柔らかそうな長い金髪の男性だ。右肩から大きなカバンをたすき掛けにしている。ラフな普段着姿だ。「人の家を訪ねるって言うのに、何よあの格好!」ジェシルは文句を言う。男性は呼び鈴の反応が無い事に戸惑ったのか、きょろきょろと周囲を見回している。その際、...ジェシルと赤いゲート3
ジャンセンの「お願い」と言うのは、ジェシルの住む屋敷についてだった。「ちょっと調べさせてもらいたいんだよ」ジャンセンは言う。「実はさ、あの屋敷って地下三階くらいになっているだろう?」「知らないわ、そんな事!」ジェシルはけんか腰の口調で答える。「わたしは単にあそこに住んでいるだけだから。さっさと引っ越したいんだけど、『お前は直系なのだから、ここに住まねばならない』なんて言われて、イヤイヤ住んでんのよ!」「ジェシルって、本当に物の価値ってのに無関心と言うか、無知と言うか……」ジャンセンの大きなため息が聞こえる。ジェシルはむっとする。「あのさあ、あの屋敷って連邦政府が管理しているんだぜ。それってどう言う事か分かるかい?」「叔父様たちが面白がってやっているんじゃないの?」ジェシルは、連邦評議員のタルメリック叔父の...ジェシルと赤いゲート2
ジェシルは朝から不機嫌だった。今日は休暇日で、天気も爽やかだった。いつものジェシルなら、碌で無しどもを片っ端から見つけてはとっちめると言う趣味のために出かける所だ。しかし、黒い下着の上に黒いフリソデを羽織って、自宅であるただっ広い屋敷の、玄関から入って右脇にある客室を改装した自室のソファに寝そべっていた。組んだ脚をつまらなさそうにぶらぶらさせ、時折デスクの上の時計を見てはため息をつく。「……ジャンセンのヤツ、いっつも最悪なタイミングを見計らっているようね」ジェシルは吐き捨てるように言う。ジャンセンとは、ジャンセン・トルーダと言い、ジェシルの従兄弟だ。ジェシルより二、三歳上の歴史学者だ。数々の古文書や遺跡に刻まれた文言の解析にとてつもない能力を発揮するようで、その方面では「若手天才学者」として名が通っている...ジェシルと赤いゲート
しばらく更新の手が止まっておりましたが、そろそろ始めようかと思っております。良い歳をした(何と今年で63歳になるのです)おじさん、いや、じいさんですから、ペースがゆったりしてしまうかもですが、お付き合い下さればと思っております。皆様のご多幸をお祈りい申し上げます。伸神紳ごあいさつ
みつは伝兵衛を静かに見つめる。「……道場で相対した時よりは腕を上げているようだが……」みつは静かに言う。「わたしに、その刀に寄り掛かり過ぎていると言われ、地擦りの構えを解いたのか?」「ほざけ!」伝兵衛は一喝する。「お前などに、定盛の力などいらぬと言う事だ!」「あなたは刀の妖しい話を受けて、日々の修練を怠っている。そのような者の剣など、わたしには通じない。腕が上がって見えるのは、単に場数を踏んで血の気を帯びただけの事。しかも己より弱い者を相手にして得た、まさにその邪剣に相応しい恥晒しな腕前だ」「抜けい!」伝兵衛が怒りに任せて叫ぶ。その場の空気がびりびりと震える。その空気に気圧されながらも、周りの者たちは息を凝らして成り行きを見ている。「抜かぬ」みつは伝兵衛に答える。「あなたがその刀を手にしている限り、わたし...荒木田みつ殺法帳Ⅱその十一
「好い加減にしたらどうだ?」みつは静かに言う。「戦う気力の無い者を嬲るなど、不快でしかない」「……荒木田みつ……」伝兵衛はからだをみつの方に向けた。その隙に清左衛門は這いながらその場を離れた。伝兵衛は、その姿に侮蔑の一瞥をくれると、すぐにみつに顔を戻した。「ならば、お前が相手になろうと言うのか?」伝兵衛は言うと、不遜な笑みを浮かべる。「斉藤は死に、村上は腰抜けだ。定盛が『まだ血が足らぬ』と嘆いておるわ!」「愚かな……」みつは大きくため息をつくと、前へと進み出た。伝兵衛の誘いに応じる事と、宿場の人たちを巻き込む事を避けるためだ。「あなたはその刀が妖刀だと言うが、証しはあるまい?」みつは腕組みをしたままで言う。「それに、定盛なる刀鍛冶が実在したのかも定かではないのだろう?」「……何が言いたいのだ?」伝兵衛の表...荒木田みつ殺法帳Ⅱその十
斉藤源馬は上段に構えた。一気に振り下ろして何者をも両断しようと言う気迫の籠った剛の剣だ。村上清左衛門は正眼に構えた。相手の力をいなしながら懐に斬り込もうと言う静かな中に必殺の斬れ味を持つ剣だ。……どちらもなかなかの使い手だ。みつは横並びになった源馬と清左衛門を見て思う。……さて、伝兵衛はどう出るか。みつは伝兵衛に目をやった。伝兵衛は抜刀した刀をゆっくりと下げ始めた。右足先に地擦りの下段に構えると、刀を返し、刃を二人に向けた。みつは道場での戦いを思い出していた。……あの時は下段の構えをしていなかったはずだが?あれから更に修業を積んだのだろうか?みつは思案しながら見つめていた。「……おみつさん……」背後から声を掛けられた。振り返るとおてるが青褪めた顔で立っている。「あの浪人さんたち、斬り合うの?」「そうなるだ...荒木田みつ殺法帳Ⅱその九
荒れ寺の朽ちた門をくぐり、正面の廃墟となった本堂の右側を見ると、すでにわいわいと騒ぐ下衆な声がしていた。そこが境内だ。だが、今では単なる雑草の生えた野原でしかない。長四角の土地の三つの隅にそれぞれ十人前後の男たちが固まって立っている。ひときわ大きなからだをした髭面の浪人が腕組みをして立っている。これが梅之助の所の用心棒の斉藤源馬で、源馬の隣に立っている辛気臭い様子の男が梅之助なのだろう。立ち止まっているみつを放っておいて、文吉と宗助は小走りにその二人の方へと駈けて行った。別の隅には、すらりとした立ち姿の若く小ざっぱりした浪人が笑みを浮かべて立っていた。その隣には、父親くらいの歳の、酒のせいか鼻の頭の赤いでっぷりとした男が立っている。これが、優男の村上清左衛門と竹蔵だった。みつに続いて現われた宿場の娘に気が...荒木田みつ殺法帳Ⅱその八
その翌日、文吉と若い衆とが現われた。水ごりをして艶やかに光る黒髪と、真新しい晒しを巻き付けた胸元が着物から覗いているみつの、妙に神々しい雰囲気に、文吉はほうっと見惚れてしまった。「……じゃあ、行くぜ」文吉は邪念を掃う様に頭を振る。「他の連中もすでに集まっているだろう」「どのように進めるのだ?まさか、一斉に斬り合いをさせるわけではあるまい?」みつが文吉に訊く。「何故そんな事を?」文吉は訝しそうな顔をする。「いや、話だと『松竹梅の三馬鹿』と言う事だから、何を考えているかと不安になってな」「三馬鹿……」文吉はつぶやくと、おてるを睨んだ。「おてる、お前ぇが吹き込みやがったのか?」おてるは固まってしまった。そんなおてるの前にみつが立つ。「三馬鹿は偽りか?」「え?……いや、その……」文吉も歯切れが悪い。「松吉と竹蔵に...荒木田みつ殺法帳Ⅱその七
「ブログリーダー」を活用して、伸神 紳さんをフォローしませんか?
指定した記事をブログ村の中で非表示にしたり、削除したりできます。非表示の場合は、再度表示に戻せます。
画像が取得されていないときは、ブログ側にOGP(メタタグ)の設置が必要になる場合があります。