chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
  • パートナー

    ある老年男性。妻の葬儀のため一時退院してきた夫は、何も言われなくても病弱ということが明らかだった。痩せ細った身体は、誰かの介助がないと部屋を移動することもままならない様子。本来なら、一時退院できるような身体ではなかったのに、無理を言って一時帰宅したとのこと。「長年連れ添った妻の葬儀」と言えば病院側も承諾せざるを得なかったのだろう。夫は弱々しい中にも力のこもった言葉で、妻の亡骸に向かって何度も「ありがとう」「ありがとう」と声を掛けていた。そして、「もうじきそっちに行くから待っていてくれ」とも。作為的な脚色だけど、その別れのひと時は、老夫婦が最期の輝きをみせた瞬間に見えて神妙な気分になった。その一週間後、私は同じ家に行くことになった。現場に到着するまで同じ家だとは気づかないでいた。その家の玄関に到着して、「ん...パートナー

  • 皮の流れのように

    「皮」と言えば何を想像するだろう。値段は高いけど、皮製品には味わいがある。身体には悪いらしいけど、焼き鳥の皮は美味い。面倒臭いけど、果物は皮を剥いた方が甘露。前フリはこのくらいにしておいて、そろそろ本題。私が何の皮について書こうとしているのか・・・そう、既にお見通しの人間の皮。人の皮は薄いけど意外に丈夫。梅雨が明けたら海水浴に逝く・・・もとい、海水浴に行く人が多いと思う。本題が始まったばかりなのに早速脱線。私のwordは「いく」と打てば「行く」じゃなく「逝く」が、「いたい」と打てば「痛い」じゃなく「遺体」が一番に出る。そんな語句ばかりを毎日当り前のように打っている自分自身が笑える(笑)。本題に戻る。日光に弱い人は日焼けの後に水膨れができ、そのうち痒くなってきて皮が破れ剥がれる。死体が残す皮は、その皮をもっ...皮の流れのように

  • 「悪夢にうなされるようなことはないのか?」という類の質問が読者から寄せられることがチラホラある。そういう質問を受けてあらためて思い出してみると、私は仕事がらみの夢はあまり・・・と言うかほとんど見ていないことに気づいた。ただ、そんな夢も皆無ではない。かなり前にみた夢だが、覚醒してからもしばらく後味の悪い思いをした夢を紹介したいと思う。遺体処置業務のこと。古めの一戸建、私は死んだ老婆に死後処置を施していた。遺族も一緒に立ち会い、ほとんどの遺族に共通して見られるように、その雰囲気と振舞いは悲しみに包まれていた。昨日のブログ記事にも通じる部分がある、何となく身体の温かさが残っている、まだ生死の間にいるのではないかと思えるような遺体だった。作業を進めているうちに、何となく遺体が動いたように感じた。「気のせいか?」と...夢

  • ちょっとドキッ!

    遺体の眼がパッチリ開いていたとき。薄目を開けている遺体は珍しくはないし、完全に目蓋を開けている遺体も少なくない。その多くは、筋肉の緊張がなくなったり、腐敗が進行することが原因で眼球が下がることによって起こる現象。この状態の目蓋を閉じるにはちょっとした技術が必要。薄目ならともかく、パッチリと眼が開いた状態はさすがの遺族も気味悪がる人が多い。そう言う私も面布(遺体の顔に掛ける白い布)を取った瞬間、ちょっとドキッ!とする。そして、私の経験では100%の遺族が「閉じてくれ」と依頼してくる。やはり、「遺体は眼を閉じているべき」という先入観があるのかな?ロープがぶら下がっていたとき。遺族もなかなか言い出せないのだろう、自殺現場だと知らされずに現場に出向くことがある。床などの汚染部分に目を奪われていて、突然、ぶら下がっ...ちょっとドキッ!

  • 酒と遺書

    私の仕事においては、自殺遺体や自殺現場に遭遇することは珍しいことではない。昔は、自殺には通常死とは違った感覚を覚えていた。変な言い方になるかもしれないが、時に新鮮だったり、時に不気味だったり、時に憤ったり、時に同情したり、時に緊張したり、時に興奮したり。いいのか悪いのか分からないが、今は、自殺遺体や自殺現場に慣れてしまった自分がいる。自殺現場となると遺族からの依存度も高いので、それに応えようと妙に張り切ってテンションを上げてしまう自分がいる。職業柄から仕方のないことかもしれないけど、明らかに一般の人と比べ死に対する感覚が異なっている自分がいる。自殺を大きく分類すると、衝動的なものと計画的なもの、そしてその両方を兼ね備えたものに分かれると思う。衝動的な自殺と計画的な自殺を判別する材料は色々あるだろうが、身辺...酒と遺書

  • ある日突然

    自殺者数に比べれば少ないものの、交通事故で死ぬ人も決して少なくはない。私の知り合いでも、過去に交通事故死した人が何人かいる。交通事故死にも色々なドラマがある。私が初めて遭遇した交通事故死は20歳前の女性だった。まだ、死体業を始めて間もない頃で、見習として先輩スタッフに着いて回っていた頃だ。何もかもが初めてのこと、雰囲気的に自分の居場所さえ自分で確保できないような有り様だったので細かいことはよく覚えていないが、遺族が号泣していたことと、成人式に着る予定だったという振袖の着物を着せていたことを憶えている。そして、何故か、その女性の姓名も今も憶えてしまっている(別に憶えておきたくないのに、忘れることができない)。そして、この仕事をしばらく続けていると、若くして事故死する人にはある共通点があることを偶然に発見して...ある日突然

  • ウ○コ男

    容易に想像してもらえると思うが、夏場の特掃業務は過酷さを極める。更に、夏場は特掃依頼の数でいうと、一年を通した山場でもある。その理由も想像は説明するまでもなく、気温・湿度の高い夏は遺体の腐敗スピードも早いからである。しかも、一件の現場のみならず、そんな現場を複数抱えなければならないことも、過酷さを増す要因になる。逆に、気温・湿度の低い冬場は遺体の腐敗スピードもかなり遅く、不幸中の幸いに、ある程度の腐敗が進行する前に家族や関係者に発見されるケースが多い。「無断欠勤が続いている」「ここ何日か電話にでない」「新聞がたまっている」等の生活異変で。もちろん、真冬でも遺体は少しづつ腐っていくが、ミイラ化現象も並行していくので絵に描いたような腐乱死体になるには、結構な時間を要するのである。(「絵に描いたような腐乱死体」...ウ○コ男

  • 愕然!

    ある不動産管理会社から自殺腐乱現場の見積依頼がきた。場所は、一般には高級住宅街と言われる地域。中年男性の首吊り自殺だった。自殺の理由は借金苦。管理会社の担当者に聞くまでもなく、部屋に散乱していたクレジット会社や消費者金融からの請求書で、それは容易に察することができた。マンションの築年数はそれなりに経過しているものの、その立地もよく高級感のあるたたずまいで、いかにも「買うと高そうだな」と思われるような建物だった。管理会社立ち会いのもと、いつもの調子で現場の部屋へ。管理会社の担当者は玄関の外で待っていた。腐乱痕と腐敗臭以外は、特に変わった雰囲気もなく、多少散らかっている程度の部屋だった。もちろん、毎度のウジ・ハエもたくさんいた(彼等の存在は当り前過ぎて、いちいち書くのも面倒になってきた)。見積作業では、色々な...愕然!

  • 暑中お見舞い申し上げます

    私のブログも何のお陰か二ヶ月続けることができた。訳あって現在は非公開にしている読者からの書き込みは、それがどんなに短い文章でも、学ぶこと、感じることがある。精神的にも支えられている部分がある。感謝である。過ぎていく時間のスピード感は、その時々によって違う。辛く苦しい時は長く感じ、楽しく幸せな時は短く感じる・・・そう感じる人も少なくないのではないだろうか。かく言う私もその一人。特に、最近は時間の経過を早く感じる。・・・と言う事は、今の私は幸せなのだろうか(?)。時に、「長生きしたい」と思ったり「長生きしたくない」と思ったり、また、「死にたくない」と思ったり「死にたい」と思ったり。少しでも命を永らえようと重い病気と必死に闘っている人もいれば、自ら死を選ぶ人もいる。こんな仕事をやっていると、いやでも自分なりの死...暑中お見舞い申し上げます

  • 冷暗室

    「霊安室」と聞いて何を思いつくだろうか。言うまでもなく、そこは遺体を安置する場所。そして、霊安室という名前がつけられた部屋がある施設と言えば、ますは火葬場が挙がる。葬儀専用式場もある。あとは、病院。一口に霊安室と言っても、部屋の模様は各種バラバラ。ホテルのラウンジのような豪華な所もあれば、倉庫のような御粗末な所もある。遺体保管用の保冷庫を設置してある所もあれば、ただのテーブルをベッド代わりにしているような所もある。これは、とある老人病院の霊安室でのこと。「老人病院」と言われるだけあって入院患者のほとんどが高齢者。死人がでない月はないだろう。俗に言う、「アノ病院に入ったら、生きては出られない」と揶揄される病院の一つかもしれない。私の仕事は、故人に死後処置を施し、自宅まで送り届けること。病院の指示によると、「...冷暗室

  • 女心

    女性は、「常にきれいでありたい」と思う生き物だろうと思う(男の偏見?)。私は、遺体がどんなに年少でも高齢でも、原則として、女性遺体の服を着せ替えたりはしない。私にとっては、ただの「死体」でも、遺族にとっては、それは愛する母・姉妹・娘だったりするのだ。死体とはいえ、どこの馬の骨とも知れない男が女性の服を着せ替えることは、遺族にとってもあまり心地いいこととは思えないからである。しかし、遺族も私もそんなことを言っていられない切迫した現場もある。「敗血症」という病気がある。調べたものを簡単に転記すると「連鎖球菌などの病原菌が体内の病巣から絶えず血中に送り出され全身的な感染を起した状態の重症感染症」とある。私は医者でも科学者でもないので敗血症について直接的な理屈は吐けないのだが、専門家から学んだりして少しは知識も備...女心

  • ま、間違えたーッ!

    遺体搬送業務の話。もう随分と前のこと、遺体を自宅から葬儀式場へ搬送する依頼が入った。病院へのお迎えは「今すぐ」という依頼がほとんどだが、自宅へのお迎えは事前に時間を決められているケースがほとんど。時間厳守も礼儀のひとつ。到着時間に余裕を持って連絡された住所へ車を走らせた。当時はまだカーナビはほとんど普及しておらず、いつも縮尺一万分の一地図を使用して目的地に行っていた。それで、大きな支障はなかった。指定された地番に依頼者名の入った表札を見つけるのは容易だった。インターフォンを鳴らすと、家の中から初老の女性が出てきた。少し疲れた様子だった。「故人を迎えにきた」旨を伝えると、少々怪訝そうな表情で私を家の中に通してくれた。話がスムーズに通らないので、ちょっと変に思いながらも私は家の中に入った。そして、仏間に通され...ま、間違えたーッ!

  • 液体人間

    今回の表題を見て、これ以降にどんな文章が続いていくのかは容易に想像できると思う。食事中の方、そしてこれから食事をしようと思っている方は、一旦このページを閉じて食事を済ませ、一息ついてからあらためて読んだ方がいいかもしれない・・・イヤ、読まない方がいかもしれない(うまい誘い方でしょ?)読者に避難するチャンスを与えるために、少し行間を空けておこう↓期待通り?今回は腐敗液のお話。人間が腐乱していく過程で液状のなることはご存知の通り(残念ながら、知ってしまったね)(6月30日掲載「お菓子な奴」その他参照)。この腐敗液が放つ悪臭にはモノ凄いパワーがある(6月15日掲載「臭いなぁ」その他参照)。そのパンチは鼻にくるのは当然、それ以上に腹をえぐってくる。一般の人には「臭い」ということは分かっても、「腐乱死体の臭い」とい...液体人間

  • 最期の晩餐

    ある男性が自殺した。中年というにはまだ若い年齢。例によって、腐敗した状態で発見。高級とまではいかないが、新築の賃貸マンションの一室だった。今は亡きこの部屋の主人は、まだそこへ入居して2~3ヶ月しか経ってないらしく、部屋の荷物は全体的に少なく、最低限の生活必需品があるだけ。しかも家具や家電製品はほとんど新品状態で、捨てるのはもったいないくらいだった。裕福そうな暮らしぶりが想像でき、「なんで自殺なんかしたんだろう」と、いつも通り溜息まじりに思った。内心では、その疑問を故人に投げかけながら。どうしてか、自殺現場に入ると、知らず知らずのうちに溜息がでる。その溜息には色々な意味が混ざっている・・・悪臭、おぞましい光景、それを片付ける作業、そして自殺という事実。離婚した元妻との間には子供もおらず、血縁者といえば遠い親...最期の晩餐

  • How much?

    「死体業っていくらくらい稼げるんだろうか」と興味を持っている人は多いと思う。ブログ開設当初、読者からの質問にもこの類の質問は少なくなかった。ほとんどの人が、「結構な額を稼げるんだろう」と思っているのではないだろうか。その様に勝手に勘違いして、闇雲にこの仕事に応募してくる人が後を絶たない。応募の第一歩として、まずは履歴書・職務経歴書を郵送してもらうのだが、「高額を稼げる」と早合点しているような人に限って、志望動機欄にきれいなことを書いてくる。もちろん、何を書こうが応募者の勝手。だけど、歓迎はできない。必要な資格と言えば、車の運転免許だけ。学歴も職歴も問わない(年齢は問う)。ただし、独断も偏見も関係なく採否の決定権はこちら側にある。もちろん、私一人に決定権があるわけではないが、私の採否判断の一員に加わる。私が...Howmuch?

  • そこのけ、そこのけ、死体が通る

    死体業には色んな仕事がある。私は、一応、特掃隊の一員として死体と格闘する日々だが、時にはそれ以外の仕事にも出る。遺品回収・遺体処置・遺体搬送などなど。その遺体搬送業務のことを「死体とドライブ」と表現したことがあった。それを聞いて(見て)、もしも、死体を自家用車の助手席にでも乗せて、気ままにドライブしていると想像された方がいるとしたら、かなり可笑しい。そんなことしたら、さすがにヤバイでしょ(笑)。でも、業界外の人が想像できないにも当然と言えば当然か。遺体搬送には遺体搬送用の専用車両がちゃんとある(霊柩車とは違う)。車体は1Boxタイプがほとんどだが、まれにステーションワゴンタイプもある。車内後部が荷台になっており、ストレッチャーという折りたたみ式の車輪付担架を搭載している。分かり易く言うと、救急車をものすご...そこのけ、そこのけ、死体が通る

  • ビジネスマンと主婦

    中年ビジネスマンが急死した。勤務先の会社で突然倒れ、救急車で運ばれたものの、そのまま逝ってしまった。私が出向いたときは、故人は既に自宅の一室の布団に横たわっていた。検死をしたせいだろう、身体にはサイズの合わない浴衣が適当に着せられていた。妻はあまりに突然のことで、6月27日掲載「明日があるさ」で書いた母親に似たような状態だった。余程の猛烈ビジネスマンだったのか、故人にビジネススーツを着せてやってほしいと頼まれた。捻くれた見方をすると、一人のビジネスマンは、会社を支える歯車の一つ、単なる機械の部品・消耗品と言えるかもしれない。それでも、その中で一人一人のビジネスマンがそれぞれの夢と目標を持ち、仕事にやりがいを見出している。家族を守り家族の笑顔を支えに頑張っている人も少なくないのではないだろうか。肌の合わない...ビジネスマンと主婦

  • 敵は強者

    特殊清掃の仕事を遂行する上で立ちはだかる壁としての代表格は、悪臭・腐敗液、そしてウジ・ハエ。常連の読者に今更言うまでもないことだろう。悪臭は忍耐力と薬剤を駆使して、なんとか押さえ込む。腐敗液は、脳の思考を停止させて、なんとかきれいにする。生きたハエは外へ追い出し、死んだハエは塵として処分する(死んだウジも同様)。問題は生きたウジ!彼等は一体どこからどうやって発生してくるのか不思議で仕方がない。一見、密室に見えるような部屋でも、遺体にはウジが湧く。特に、腐乱死体にはほぼ100%の確立でウジがついている。彼等はどこからやって来て、どうやって死体に湧いてくるのか・・・。そして、その生命力と繁殖力には凄まじいものがある。「敵ながら、アッパレ!」だ。ウジに関する思い出は尽きないくらいあるが、その中でも強烈だった一事...敵は強者

  • Go to heaven

    誰も死も、どのような死も、ある人にとっては辛く悲しいもので、ある人にとってはそうとは限らないものでもある。大方の人はそうであろうと思うが、私にとって若者や子供の死は特に重い!ちょっと注意。「老人や中高齢者は、若者や子供と比べると命が軽い」とか「価値がない」と思っている訳ではないので、その辺はくれぐれも誤解のないように。さすがに、経験豊富?な私でも、子供の腐乱死体にはお目にかかったことはない。当然、お目にかかりたくもない!!ただ、そうではない遺体には何度も遭ってきた。当然のことながら、子供用の布団は大人のものに比べて小さい。身体が直接見えなくても、小さな布団を見ただけで、気持ちにズシリ!とくるものがある。そして、掛布団をめくると、小さな子供が眠るように目を閉じている。死因は、病死・事故死・突然死など色々。顔...Gotoheaven

  • 金魚すくい

    腐乱現場でやる仕事は色々ある。除菌消臭から家一軒丸ごとの解体処分まで、依頼される内容な多様である。その中でも最も多いのが、家財道具・生活用品の全て一式を撤去し除菌消臭する作業。ついでに内装工事まで依頼されることも多い。撤去する中身の主役は、もちろん腐乱死体に汚染されたモノである。今回も、その様な依頼だった。独り暮らしの故人は普段から病気がちで、一人で家にこもっていることが多かったという。フローロングのリビングで倒れ、そのまま腐ってしまっていた。汚染家財をはじめ、部屋にあるものは全て回収撤去した。作業中は作業に集中して、黙々とやることが多い。ほとんどの物を撤収してから、ふと気がついた。リビングには水槽が3つあり、中には色違いの金魚が数匹づつ泳いでいる。何日も前から(故人が死んでから)、餌も与えられてなかった...金魚すくい

  • 人は必ず誰かの子であり、親がいる。また、とある腐乱現場。亡くなったのは独居の中年男性。死後、かなりの時間が経過しているようだった。例によって、遺体は警察が持って言った後で、腐乱痕と異臭が残されていた。もちろん、私とは旧来の喧嘩友達であるハエ君とウジちゃん達もたくさん集まっていてくれた(笑)。遺族は、故人の両親と故人の姉妹らしき二人の4名。見積時も作業時も4人とも現場に来た。両親はもうかなりの年配で「おじいさん、おばあさん」という感じ。姉妹達(中年女性)は見積時も作業時も玄関から中に入ることはなく、ハンカチでずっと鼻口を押さえ、嫌悪感丸出しの表情で、私の作業を遠めに眺めていた。それは、どう見ても、「最初から来たくなかった!」という感じ。明らかに、現場に居たくないという雰囲気をひしひしと感じ、気のせいか、やり...親

  • 別れの時

    私は、もともと「熱しにくく冷めやすい」性格の持ち主だった。乾いたクールさを格好いいと思っていた(勘違いしていた?)年頃でもあったのだろうか。それが歳を重ねるごとに変化している。妙に、「情に脆くなった」というか、「涙もろくなってきた」というか・・・。そんな私であったから、若い頃は極めてクールにこの仕事をこなしてきた。割り切る所は割り切って(仕事でやっている以上は、今でもそういう時はあるが)。そういう具合だから、20代の頃は、現場で涙を流すようなこともほとんどなかった。しかし、そんな私でも、感極まった覚えが何度かある。そのうちの一件。それは遺体処置の仕事だった。亡くなったのは、当時の私と同年代の男性。業務上の事故死だった。「事故死」と言っても、特に目立った外傷はなく、まるで眠っているかのように健康的に見える故...別れの時

  • お菓子な奴

    6月も今日でおしまい。ということは、2006年も半分終わり。今年の後半、これから迎える暑い夏を美味しいお菓子でも食べて乗り切ってもらうため、今回は、趣向を変えてお菓子の作り方を紹介する。甘いものを食べると、疲れもとれ、リフレッシュできるからね。興味がある方は是非チャレンジしてみて欲しい。まず、フライパンを用意。ボウルじゃダメ。溶かしバターから澄ましバターを作り、フライパンに多めに敷く。チョコレートを湯煎し、柔らかくなった状態のものをバターの上に流し広げる。チョコレートはできるだけ色の濃い、ブラック系が適す。今度は、インスタントコーヒーを用意。通常のインスタントコーヒーは粒が粗いので、少し粒が細かくなるように磨り潰す。ここでは、粉末になり過ぎないように注意。そして、このインスタントコーヒーを先程のチョコレー...お菓子な奴

  • 輪廻転死?

    遺品回収の依頼があった。故人は病院で亡くなったので腐乱死体現場ではなさそう。とにかく、直ちに、現場に直行。依頼者は中年女性。亡くなったのはその夫。どことなく暗くて元気のない女性だったが、「夫を亡くして間もないから仕方がない」と思った。月並みのお悔やみを述べて、見積開始。今では、死体がらみじゃない仕事はどちらかというと不得意になっている私だが、一応、遺品回収・遺品供養も仕事のひとつなので、とりあえずは現場観察をして見積書を作った。依頼者は遺品の供養に対して異常に神経質になっていた。話を聞いてみると、夫の死去を含めるとこの家では三年連続で人が亡くなっているとのこと。それで、来年は自分が死ぬ番ではないかと心配していたのだ。「このままこの家に住んでいると、来年は自分が死ぬことになるのではないか」「怖くてたまらない...輪廻転死?

  • 『生き残れ!』

    ある日の午後、特殊清掃の見積依頼が入った。依頼者は、死体現場なのか遺品回収なのか、またはゴミ処分なのか全く教えてくれず、「とにかく鍵は開いているから、勝手に入って見積りをしてくれ」という一方的な依頼だった。見積時に依頼者が来ないケースは珍しくなくなってきたので(好ましくはない)、今回も仕方なく現場へ向かった。おおまかに現場近くまで行ってからカーナビで現場住所を検索してみた。ナビは目的地を表示するもの、最大限に拡大してもそこへたどり着く道が表示されない。「???どうやって行けばいいんだ???」と思いながら、とりあえず、接近可能な場所まで車で行った。夕暮時で、外は薄暗くなっていた。辺りを見渡して、地図とナビが示した方面に家を探したが、目的の家らしき家は見当たらない。困ってしまい、近隣の家を訪問して訊いてみるこ...『生き残れ!』

  • 明日があるさ

    私達のほとんどは当たり前のように今日を迎え、明日が来るのも当たり前だと思って生きているのではないだろうか。死体業を長くやっていると、その辺の感覚は一般の人の比べると鋭くならざるを得ない。「自分に明日があることは何ら保証されたものではない」「できるだけ悔いを残さないよう。やれることはやっておきたい」と思いながら、結局は、自分に負けて堕落した生活を送ってしまう私である・・・(苦笑)。ある若い男性が死んだ。自宅二階のベッドの上で。自殺ではなく自然死。私が現場に出向いたのは、当日の夕方近くになっていた。特殊清掃の依頼といっても、ベッドマット(敷布団)の一部が糞尿で汚れていたくらいで、その汚れは私のような専門業者に依頼する程のものではなかった。依頼者は故人の母親で、息子の急死が信じらないというか、受け入れられていな...明日があるさ

  • 世間の風

    今回は、首吊死体について書く。少々グロテスクな内容であるし(今更何を言ってんだ?)、読者の家族や友人・知人にも首を吊って自殺した人がいる可能性が高いので、少々気が引ける。何しろ、日本人は自殺手段としては首吊を最も好む人種らしいので。もしも、気分を悪くされるような方がいたら、予めお詫びしておく。私が幼い頃、「首を吊って死んだ人間がどんな状態になるか」という風評を何度か聞いたことがある。まず顔は?というと、「眼球が飛び出て垂れ下がり、舌も長く垂れ出る」身体の方は、「放尿・脱糞のうえ尻の穴からは内臓がでてきて垂れ下がる」という内容で、子供の頃は「うわ~気持ち悪りー!」等と言いながら、そういう話に花を咲かせていたものである。子供って、そういうおっかなビックリ的な話が大好きなものであり、純粋な分、残酷でもある。そし...世間の風

  • 弱肉強食

    弱肉強食は何も野生動物の世界に限ったことではない。我々人間界にもある。一時、「勝組・負組」という言葉が流行った。それが意味する勝敗の基準は、ほとんど社会的地位と経済力だと思う。その基準では私は完全に負組だ。その自覚もある。卑屈になって諦めている訳ではなく、現実は現実として。でも、とにかく、自分には負けたくない。非常に漠然とした抽象的な言い方だが、勝敗は自分で決めるもの、自分で分かるもの。(無意識のうちに読者ウケを意識してしまうのか、最近、自分なりの精神論(時に「きれい事」とも言う)を吐くことが多くなってきたかも・・・イカン、イカン。)本題に移らねば。今回はハエ戦記。ハエの世界にも勝組と負組がある。何度も記しているように、腐乱現場にいる生き物と言えばウジとハエと、そして私。三者仲良くしてる訳にもいかず、争い...弱肉強食

  • 知らぬが仏

    特殊清掃と遺体処置のダブル依頼で現場へ。故人は中高年女性。何人かいた遺族にお悔やみを述べ、「よろしくお願いします」と言われて家の中に入った。泣いている人も何人かいたが、一人だけ態度に落ち着きがなく、私にピッタリくっついて離れない人(中年女性)が居る。故人と同居していた長女らしい。「妙な人だなぁ」と思いながら、とりあえず遺体の安置されてある部屋へ。遺体には不自然なくらい(顔が隠れるくらい)に布団が深く掛けてある。それを見て更に妙に思った。長女は、私に何かを言いたそうにしているのだが、他に人がいるから言えないといった様子で、歯がゆそうに私の動きを逐一監視していた。その様子を感じ取った私は、「遺体処置作業の都合」ということで長女だけ残して他の遺族には席を外してもらった。葬儀では長女が喪主を務めるということだった...知らぬが仏

  • 死体と向き合う

    読者の書き込みの中にある質問で多いのが、この仕事をやっている動機ややることになったきっかけは?というものと、収入の金額を尋ねる内容のものである。あとは・・・幽霊についての質問などもあった。先日も書いたが、ご質問についてはブログを通じてお応えするつもりである。もちろん、全ての質問には応えられないだろうし、答えたくないネタには触れないので、ご容赦願いたい。そして、賛否両論もあり、読者個々に色々な感想を持たれるだろうが、書いている内容はあくまで私個人の主観であり、偏見や先入観があっても自然なことだと思っていることも併せてご了承を(つまらないジョークもね)。ただ、できるだけ率直な気持ちで持論(自論)を吐こうとしているだけで、決して正論を書いているとか、人の上に立っているという勘違いをする程バカではないと自認してい...死体と向き合う

  • 脱帽

    老朽アパートの一室で、腐乱死体が発見された。私が駆けつけたときは既に遺体は警察が回収して、火葬を待っている段階だった。亡くなったのは中年男性。遺族といえば兄弟くらいしかいない人らしく、遺族の到着を待ってから部屋に入ることになっていた。その部屋は、外から見ても窓に無数のハエが貼り付いていて、中の様子がほぼ想像できた。しばらく待っていると、遺族(故人の兄弟達)がやって来た。東北の某県からわざわざ来たらしく、話す言葉は東北弁で、ゆっくり話してもらわないと何を言っているのか分からなかった。「だいぶ臭いはずですから、気をつけて下さい」(気をつけようもないのだが)と言いながらドアを開けて中へ。案の定、中はいつもの悪臭とハエだらけで、汚染部分にはウジが這い回っていた。驚いたのは、その後の遺族達のアクティブな動きだった。...脱帽

  • ハグ

    ある不動産会社から依頼が来た。過去のその不動産屋:担当者からの依頼で仕事をやったことがあり、お互い全く知らない間柄でもなかった。現場は少し古いマンション。近隣の住人が「異臭がする」と言ってきたらしい。不動産業も長年やっていれば、住民が「異臭がする」と言ってくれば腐乱死体かゴミ屋敷かどちらかしかないと判断する。あとは、せいぜい排水溝の問題くらいである。今回は、腐乱死体だと判断したらしく、「ドアを開錠するので立ち会ってほしい」という依頼だった。現場に行ってみると、やはり腐乱死体の異臭が漂っていた。異臭の原因は腐乱死体に間違いない!いつも通り手袋をして、ドアを開けるため鍵を預かった。手袋を着けている間、一応、ドア回りを見回したら、ドアの淵が妙に湿っていて、よく見ると隙間にかすかにウジの姿が見えた。「遺体は玄関ド...ハグ

  • 遺体痛い?

    世間には、色々な事情から解剖を受けざるを得ない遺体がある。それなりの必要性があってのこととは言え、解剖遺体には痛々しさを感じる。解剖を担当する医師も、生きている人の手術とは違うので、作業の丁寧度はあきらかに違うのだろう。少しでも見識を深めるため、私は、以前、某所で検死解剖を見学したことがある。川で水死した老人の遺体だった。事故か自殺か、はたまた他殺かを調べるために解剖へ回されてきたのだろう、警察の寝台車輌に乗せられてきた。私は、解剖作業をガラス越に見学するのだが、その作業は、とても見るに耐えなかった。遺体に対する尊厳の「そ」の字も、思いやりの「お」の字も一切感じなかったのである。その医師はまるで魚をさばくかのように、はたまた大工仕事をするかのように、遺体の解剖作業を乱雑!に進めていったのである(「魚屋さん...遺体痛い?

  • おしどり夫婦

    今回は、特殊清掃というより、遺体処置の話である。現場(自宅)に行くと、なんと遺体が二体ある。二人ともかなりの高齢で、入院先の病院でほとんど同時に亡くなったとのこと。かなり珍しいケースで、遺族も悲しんでいるというより、微笑ましく思っているような感じだった。そういう私自身も、何とも言えない温かい気持ちを覚えた。生前の二人がどんな夫婦だったか知る由もないが、喜怒哀楽・羽陽曲折・七転八起、楽しかったことも嬉しかったことも、苦しかったことも辛かったことも、みんな二人で受け止めて二人で歩いてきた人生だったに違いない。そして、最期も二人仲良く一緒に。そう思うと、「お疲れ様でした」という気持ちが自然にでてきた。印象に残る現場だった。もう一つ夫婦の話。中年夫婦が自殺した。年老いた母親と成人した娘達を残して。目立った外傷は見...おしどり夫婦

  • K1グランプリ

    世に中には色々な仕事・職業がある。ひと昔、「3K」という言葉が流行ったことがある。いわゆる、「キツイ!汚い!危険!」というヤツだ。そういう仕事は嫌悪されてきたし、今もそうであろう。では、私の仕事はどうか。ちょっと考えてみたら、3Kどころじゃなかった。「キツイ!汚い!危険!」+臭い!怖い!怪異!苛酷!気色悪い!気持ち悪い!気味悪い!下流!苦しい!過激!奇怪!腐る!暗い!嫌悪!等など・・・色々挙がってきた。一体、何Kあるんだろう。これで戦ったら、私も武蔵や魔沙斗に勝てるかも?その前に、彼等はこの汚染リングに上がる前に視覚と嗅覚をやられてノックダウン?どんなに強く腹を打たれても吐いたりしない彼等だろうけど、この汚染リングでは、リングサイドで早々と嘔吐。作業中、こんなくだらないことを考えながら結構明るくやっている...K1グランプリ

  • 寝込んだネコ

    若い男性から問い合わせの電話が入った。消毒消臭作業の依頼だった。話を聞いてみると、お気に入りの自家用車のエンジンルームにネコが入り込み、そのまま死んで腐っていたらしい。それが臭くて臭くて仕方がないとのこと。特に、エアコンを動かしたら、通風口から悪臭がモロにでてきて、それが原因で彼女とも険悪な状態になっているから何とかしてほしいとのこと。「ちょっと、やっかいな仕事になりそうだな」と思いながら、とにかく現場へ行ってみた。男性は車好きらしく、車は格好よくドレスアップされたスポーツカーだった。ボンネットを開けてみると、確かに骨と毛皮だけになったネコの死骸があった。屋外だったこともあり、私にとって本件の異臭は人間の腐乱臭に比べたら全く平気なレベル。仕事の難易度を考えると、引き受けるかどうか迷った。男性も、インターネ...寝込んだネコ

  • Thanks

    このブログを書き始めて一ヶ月が経った。書き始めた動機は同僚の提案である。私は、この特殊な仕事を人知れず黙々とやってきたし、これからもそうやっていくつもりでいた。その同僚は、せっかく(?)こんな珍しい仕事をやっている私が持つ経験や考えを世間にアウトプットしていくことで、何かメリットが得られると考えたのだろうか。現場業務で手一杯の私は余計な仕事が増えるので、正直言うと嫌だったのだが、あまりにアナログ人間過ぎて時代に取り残されているような危機感も持っていたので、とりあえず書き始めることにした。拙く幼稚な文章かもしれないし、思いをうまく表現できていないかもしれない。しかし、そんな私のブロクを見ず知らずの方々が読んでくれ、感想・意見・疑問などを書き込んでくれているのに驚いている。私は、ブログを書くばかりで、肝心の掲...Thanks

  • 臭いなぁ

    「腐乱死体の匂いって、例えて言うとどんな臭い?」と尋ねられることがある。返事に困る。何故なら、何にも例えられない臭いだからである。そもそも、臭いだけじゃなく、音・味・色など、五感で受けるものを代替的に表現し伝えるのは難しい。特に腐乱死体の臭いなんて、世間一般に似たような匂いがないからなお更である。とにかく、腐乱死体は臭い!としか言えない。腐乱死体の臭いに興味のある人は割と多く居そうだが、どんな臭いなのか具体的に伝えられなくて残念だ(申し訳ない)。ちなみに、ウ○コや腐敗ゴミどころのレベルじゃないんで。多分、代替物をもって腐乱死体の臭いを作ることも無理だと思う(やってみる意味もないが)。自分で試作して「こんな臭いでどうか?」とくれぐれも送って来ないように。ちなみに、遺体からの臭いには死臭というものもある。私は...臭いなぁ

  • 自死の選択

    ここ数年、日本人の自殺者数は高いままである。私のような職業ではない人でも知っている、目新しくもないニュースである。インターネットの自殺サイトも活発に動いているようである。今日も日本のあちこちで、約100人が自らの命を絶っている。ブログにも一案件だけ載せたが、当社にも自殺志願者が電話をしてくることがたまにある。もちろん、自殺現場の跡片付けをしたことも数知れず。自殺理由はさまざまだろうし、それぞれの人にそれぞれの事情があるのだろう。「自分の命は自分のものか?」などと言う哲学的・宗教的な話は別に置いておいて、毎日のように死体と関わっている私が自殺について思うことを簡単に書いてみたい。人間は死にたくなくてもいつかは死ななければならない。人生は二度ないし、人生という時間には必ず終わりがある。一旦生まれてからは、あと...自死の選択

  • 骨を折るなぁ

    特殊清掃をやっていると、小骨がでてくることがよくある。小骨と言えば魚を食べるときのことを思いだすが、ここでいう小骨は人骨である。手足の指の骨は小さくて目立ちにくく、忙しい警察も拾い損ねることが多いのだろう。それ以前に、警察官も「いちいち拾ってられるか!」と言う心境だろう。特殊清掃をやる中では人体の色んなモノがある。頭髪はほとんどの現場にある。余談になるが、一般的にも髪の毛って、結構気持ち悪い感じを与えるものではないだろうか。今回のモノは人骨である。作業中にでてくる骨は、一応、拾い分けて保管するようにしている。このブログを何度か読んでくれた方は既にお分かりだろうが、骨と言っても白くてきれいな骨ではない。腐乱液や腐敗肉片が着いたスゴク汚く臭い代物である。当然、拾った骨は遺族に返す。困るのは遺族が欲しがらないケ...骨を折るなぁ

  • 血の海と家族

    マンションの一室、和室で中年女性が手首を切って自殺した。同居の夫や子供達がいる家だった。依頼者は故人の夫。私が現場に着いた時はもう遺体はなく、血が4畳分くらいに広がっていた。よく「血の海」と言うが、まさにそんな感じ。部屋中に血生臭い匂いが充満していたし、視覚的にもかなりインパクトのある光景だった。特殊清掃をやっていても、血の海状態の現場は少ない。「人間の身体って、こんなに血が入ってんだぁ・・・」と妙に感心するくらいだった。とりあえず、作業料金の見積書を書いて御主人と話した。夫は予想外に平静で、子供達も普通に家の中を往来していた。とても妻・母が自殺したような動揺は家族には見えなかった。なんとも言えない妙な感じだった。それどころか、夫は作業費用の見積りに対して、細かい質問を連発して値切ってきた。私は、ビジネス...血の海と家族

  • 遺族の嘘

    遺品回収の依頼で見積りに出向いた。依頼者は中年女性。現場は公営団地。「独り暮らしをしていた父親が亡くなったので、遺品を処分したい」とのことだった。とりあえず、現場へ。亡くなった場所は病院とのこと。しかし、部屋に入ったら、かすかに死体の腐敗臭がする。「男の独り暮らしで不衛生な生活をしていたので、臭くてスイマセン・・・」と依頼者は言うが、ゴミの臭いと死体の臭いくらいは嗅ぎ分けられる。念のため言っておくが自慢してるわけじゃないんで。「亡くなってから、そう時間が経っていないうちに発見されたせいで臭いが薄いだけ、間違いなく故人はここで死んでいる。依頼者が言うように病院で亡くなった訳ではない。」と確信。見積金額を少しでも安くするためか、世間体が悪いからか、「病院で死去」とウソをついているようだった。私は自信たっぷりに...遺族の嘘

  • 格差社会

    きれいに晴れ渡った青空が広がる気持ちのいいある日の午前。現場は都内某所の高級住宅地。そこに建つ高級マンション。そのマンションに住人達は、どの人も裕福そうで、私の単なる先入観かもしれないが、どことなく品の良さを感じる人達ばかりだった。駐車場の車も高級車ばかり。それを当たり前のように乗っている。依頼された仕事とは言え、私ごときが出入りするのも申し訳ないような気分がする程であった。そのマンションの高層階の一室で独り暮らしの年配女性が腐乱状態で発見された。キッチンで倒れて、そのまま亡くなったらしい。依頼者は、故人の息子。「始めから、施行できる装備できてくれ」とのことだったので、電話で聞いた現場状況から判断して、それに合わせた作業仕様で出向いた。見積りのため部屋入ったら、いつもの悪臭はするものの、間取りは広々してい...格差社会

  • ゴミがごみごみ

    ゴミ屋敷の話である。少し前に10chのある番組の企画で「汚宅拝見」というのをやっていたが、まさにそれである。ゴミを「これでもか!」という程、溜め込んでいる人って結構いるものなのである。普段は特殊清掃・遺品回収がメインの仕事だが、時々、ゴミ屋敷の片付依頼も入ってくる。当社は、ただのゴミ処分業者ではないので、住人が亡くなっている上での遺品回収ということで依頼を受けるのだが、実際はゴミ屋敷の片付けである。私はこういう仕事はかなり苦手である。地道に単調にコツコツやらなければならないことが苦手なのである。それが体力仕事だったらなお更で。同じやるなら特殊清掃の方がよっぽどいい。ある程度分別してトラックに積み込んでいく。分別作業の手間のかかることといったら、そりゃ大変。そして、運び出しても運び出してもゴミは減らない。最...ゴミがごみごみ

  • 宝探し競争

    腐乱死体で発見される故人は、やはり独居が多い。前ブログにも載せたが、独居でない珍しいケースもあるが。「お金持ち」とまではいかなくても、一般的には誰しもそれなりの御宝を持っているものである。生命保険証券・株券・預金通帳・現金をはじめ、新型のAV機器やブランド品などである。普段は疎遠・不仲にしていた遺族達も、こうおう時はハイエナのように集まってきて、宝探しを始める。臭くて汚い現場でもお構いなし。ビニールの簡易カッパ・ビニール手袋・マスクを着用して、人よりも先に御宝を発見すべく、欲望を剥き出しに目の色を変えて探しまくるのである。そうなれば、身内と言えども競争相手・ライバルである。さながら、死体に群がるハイエナのようである。遺族がハイエナなら、私はウジかもしれない?が・・・(苦笑)その無神経さには、苛立ちを覚える...宝探し競争

  • 独居男の悲哀

    若年から中年の孤独死も案外多いものである(自殺ではなく)。そんな現場に共通して言えるのはエログッズの多さである。エロ本・AV類が山ほどでてくる。普通は、古いものや見飽きたものは捨てていきそうなものだが、捨てるのが惜しいのか、そういう人はどんどん買い溜めていくのだろう。男の本質と言ってしまえばそれまでだが、ほとんどの現場で、ちょっと異常な量がある。その共通点は不思議である。そんな現場で気の毒なのは遺族である。エログッズを溜め込んでいたのは故人で、遺族ではないのに、何故かどの遺族も「お恥ずかしい・・・スイマセン。」と謝ってくる。身内の恥は自分の恥だと思ってしまうのか。別に謝るようなことでもないし、私も、謝られても何と言っていいか分からないので苦笑いするのみ。フォローの言葉が見つからない。そもそもエログッズを溜...独居男の悲哀

  • 金がない

    特殊清掃は原則として前金制でやらせてもらっている。こういう現場に絡んだ人達は「訳あり」の人が多く、その昔は代金を回収できないままトンズラされたことが何度かあったからだ。こんな仕事をやらせておいてお金も払わずバックレルなんて、当時を思い出すと泣けてくる。「人を騙すより騙される方がいい」とよく耳にするが、そんなのきれい事だ。世の中には、騙してもいいような輩があちこちにいると思う(騙された私もそんな輩の一人だったのかも?)。そんな現在の私でも情がないわけではない。お金がないから後払い・分割払いを依頼してくる相手(依頼者)はよく観察してよく話す。長年、こんな仕事をやっているせいか、人間観察には少々の自信がある。その結果、現状で言うと断ることの方が多い。しかし、受けることもある。アパートで独り暮らしをしていた20代...金がない

  • リサイクルの陰に

    当社は、遺体関係で色々なサービスや物品販売を手掛けている会社である。私が担当する仕事のほとんどは特殊清掃だが、ただの遺品処理・遺品回収の仕事もたまにはある。そこでよく遭遇するのが、リサイクル可能な電気製品・家具類の買い取りである。当社も厳正に品定めをして、買い取れる物は買い取るが、私の買い取り基準はかなり辛い!一般のリサイクル業者なら安易に安値で買い取っていきそうなものでも、私は買わない。その理由は色々あるが、まずは遺族が考えている程の価値がないものが圧倒的に多いこと、そして次はそれが「遺品である」ということである。妙ないわくがついた品である可能性が否定できないのである。しかも、特殊清掃の現場で、遺族がリサイクル業者と電話で打ち合わせしている現場にも何度か遭遇したことがある。そんな時は「これを売るつもりか...リサイクルの陰に

  • アンビリーバボー!!!

    特殊清掃の最初の仕事は現場確認と費用見積である。そこで初めて依頼者と会い、現場を見ることになる。どんな現場でも、最初は使い捨てのビニール手袋(ディスポーサブルラテックスグローブ)を必ず着ける。私はドアノブさえも素手では触らない。そんな私を見て、自分はさんざん素手で触ってきた依頼者は不安そうな表情をする。そして、ドアを開けて、すぐには中に入らずに、玄関からしばらく中を観察。いきなり入ると、予測がつかない被害を被ることがあるからだ。例えば、血液やウジが上から落ちてきたり、腐敗脂で滑って転んだり・・・。中に入ると、まずは汚染個所の状況を確認する。それから間取りや家財道具の量・種類をみながら臭いをチェック(細かいことは企業秘密)。問題は、汚染個所のチェックの際に起こった。手袋を着けているため、汚染されたものでも平...アンビリーバボー!!!

  • コタツぽかぽか

    冬場の話である。年配の女性がコタツに入ったまま亡くなった。もちろん、コタツのスイッチはONのまましばらく放置されていた。遺体の上半身(コタツからでている部分)はパンパンに膨れあがり、顔も生前の面影は全くなし。体表には無数の水泡(火傷した時の水ぶくれに空気を入れたみたいなもの)。水泡の中は腐敗ガスと深緑色の腐敗体液が溜まっていた。下半身は?というと、コタツに入っていたせいで、上半身とは逆に干乾びて茶黒黒色のミイラ状態になっていた。冬は気温も低く空気も乾燥しているため、そのような状態になったと思われるが、勉強になった。腐敗液はコタツ敷を越えて、その下の畳にまで染み込んでいた。季節柄か、私の天敵であるウジ・ハエの姿はなかった。彼等は結構寒がりなのかもしれない。故人の首を見ると、何かが首回り一周に渡って食い込んで...コタツぽかぽか

  • 嫌な見積予約

    当社は、24時間365日、電話受付をしている。仕事の問い合わせ・依頼がほとんどで、あとはどうでもいい営業電話だったりする。そんな中で、たまに自殺志願者が電話をしてくることがある。ある日の夜遅い時間に、年齢不詳・女性からの電話が鳴った。「飛び降り自殺の現場の清掃はいくらくらいかかりますか?」話の内容から、てっきり特殊清掃の「見積依頼だな」と思った・・・が、違っていた。「現場によって作業内容や費用は異なるので、実際に現場を見させていただかないと金額はだせないんですよ。」と、いつもの応え。現場の場所や状況を質問したところから話が変わってきた。「実は、これから飛ぶところなんです。」とその女性。「えッ?」」と絶句する私。本音を言うと「嫌な電話にでてしまったなぁ」と後悔した。無責任に「自殺はやめた方がいい」と言うのは...嫌な見積予約

  • だいぶダイブ

    死体がらみのダイブと聞いて一番に思いつくのは、やはり飛び降り自殺だろう。飛び降りる高さや落下した場所によって、遺体の状態や現場の状況は千差万別。やはり、高ければ高いほど遺体の損傷は激しいし、落下現場の汚染度も激しい。人体の部位で最も重いのは頭らしく、ある程度の高さから落下すると、モロに頭から落ちるらしい。汚染度の激しい現場の清掃は、手間がかかって仕方がない。なにせ、血液や肉片はあちらこちら広範囲に飛び散って、それを掃除するのが大変だからである。激しい現場だと、地面に落ちた遺体の血液・肉片が三階まで飛び散って付着していたケースもある。しかも、血液や肉片は一度乾いてしまうとなかなかきれいにならない。一応企業秘密なので、使用する機材や薬剤は明記しないが、手間がかかることには間違いない。でも、一番災難なのは、普通...だいぶダイブ

  • アンアンアン♪とっても大好き~どざえーもん~♪

    特殊清掃現場の話ではないが、ある種似たような作業なので、紹介しておく。昨今、あちこちで水死体が上がることも珍しくない。バンバンに膨れ上がった遺体はヘビー級の重さになったうえ、どこをどう持てばいいのか弱りまくる。持つところ持つところ、肉が崩れていって、遺体を持ち上げようがないのだ。警察や葬祭業界には「納体袋」という便利?なものがある。厚手の特殊ビニール製で、調度人間がスッポリ収まるくらいの大きさに作られていて、ジッパーを閉めればほぼ完全に腐乱死体を閉じ込めることができる。大きめの寝袋みたいな感じだと思っていただければいいだろう。ただ、腐乱死体をこの袋に入れる作業がポイントなのだ。私の経験だと、水死体はだいたい深緑色の変色して腐っている。しかも、身体の細部に渡って腐敗ガスを含んで膨らんでいる。ちなみに、水死体...アンアンアン♪とっても大好き~どざえーもん~♪

  • あっしの足が・・・。

    中年男性が電車事故で死んだ。自殺ではなく、事故らしい。検死も済んで遺体は自宅に戻ってきていて、出血がひどくて特殊清掃の依頼が入った。遺体はまだ部屋に安置されていたのだが、汚れた部屋に安置しておくのは遺族も偲びなかったのだろう。遺体の取扱いは一応手馴れているので、作業ついでに葬儀社が用意した柩に故人を納めてあげることにした。「ヨイショ!」と持ち上げてみたら以外と軽い。身体を柩に納めたら、遺族から「あのぉ・・・足が・・・」と。故人が安置されていた場所を見ると、片脚が敷布団の上に残っている。「ゲッ!片脚がとれてたのかよ!」「先に言っといてくれよ!」と内心動揺。場が場なだけに、笑ってごまかす訳にもいかず、平静を装って、再び残った片足だけうやうやしく手にとって、柩へ納めた。特殊清掃で部屋をきれいにするのが仕事の私が...あっしの足が・・・。

  • 香りのソムリエ

    マンションの大家さん依頼があって現場へ出掛けた。間取りは2DKで最上階の角部屋。腐乱死体が発見・処理されたのは約一年前で、あとはそのままの状態で一年間も放置されていた現場だった。一年間も手を入れずに放置しておくなんて、かなり珍しいケースである。隣近所はもちろん、大家さんもそんな物件を抱えたままで気持ち悪くなかったのだろうか、と不思議に思った。同時に「一年経過した腐乱臭は、どんな臭いになっているだろう」と興味を覚えた。「腐敗臭の中でも、めったに嗅げない匂いに違いない」といそいそと出掛けた自分に苦笑い。誰もが忌み嫌う腐乱死体の発見現場に喜んで出かけて行く訳だから、我ながら、つくづく神経が麻痺してきていると思う。現場に到着して、玄関を入ってみたら、全く期待外れ?で、いつもの腐敗臭と変わりはなかった。一年間熟成さ...香りのソムリエ

  • 瀬戸際の釘

    古いマンションの一室。事業に失敗した風の中年代男性が首を吊った。部屋の様相から、一時は羽振りのいい生活をしたことが想像できた。私が参上した時は、首にかけた紐も外れて遺体は座りこんでうな垂れているような格好になっていた。もちろん、腐った状態で。皮膚の色は青黒く、かなりの悪臭を放ちながら腐敗液が遺体の周りに染みていた。ちょうど腐ったバナナを人間に見立てた状態に近い。依頼者はそのマンションの管理会社とオーナー。死体そのものは警察が持って行ったので、私の仕事は腐敗液を吸った畳の処分と腐敗液の付着した部分の清掃。こんなのは、いつもの仕事として淡々とこなした。一番嫌だったのは、首を吊る紐をかけるために故人本人が柱に打ったネジ釘を抜く作業だった。自分が首を吊ったとき、その体重で抜け落ちないようにするためだろう(確実に死...瀬戸際の釘

  • 家庭内別居

    閑静な住宅街の大きな家。豪邸といってもいいくらい。腐乱死体は離れの小部屋にあった。依頼者は故人の夫。広い敷地内の大きな家で、家庭内別居でもしていたのだろうか、妻が腐乱死体で発見されるまで異変に気づかなかったなんて。依頼者はとにかく近隣への世間体を気にしていた。私が行ったときは、まだ妻の死を近所には知らせていないようだった。とにかく「近隣へ悪臭が漏れないように。」「清掃業者が入って作業していることを気づかれないように。」ということを重々念押しされて作業。したがって、いつも使っている業務用車輌ではなく自家用車風の車で、機材の持ち運びも回りの目を気にしながらコソコソと。ユニフォームもスーツにネクタイ姿での作業になった。非常にやりにくかったし、自前のスーツに腐敗臭と腐敗液が付着するなんて我慢ならなかった。それでも...家庭内別居

  • どうすりゃいいんだよぉ

    小規模の賃貸マンション。依頼者はマンションオーナー。いつもの調子で現場検証・見積りへ出掛けた。玄関ドアを開けるといつもの悪臭。豊富な現場経験を自負していた私は、いつものノリで室内へ。「マスクとかしなくて大丈夫ですか?」とオーナーは気遣ってくれたが、「現場見積でいちいちマスクしててもきりがないんで・・」と余裕をかましていた。故人はトイレで亡くなっていたと聞いていたので、トイレのドアを開けてみた。そこで仰天!ユニットトイレだから、腐敗液が床に染み込んだり隙間から漏れたりしていないものだから、人間の容積がそのまま液体になったくらいの量の腐敗液が便器と床に溜まっていたのである。これにはさすかに驚いた!正直「どうすりゃいいんだよぉ」と思った。いつものように、作業手順が即座に組み立てられなかったのである。私は、吐きそ...どうすりゃいいんだよぉ

  • 助けて!クラシア~ン!

    古い小さな一戸建て。故人はトイレでなくなって腐乱していた。用を足していた最中なのか、その前なのか、その後なのか・・・考えても仕方がないことだが、考えてしまった。床は腐敗液でベトベト・ヌルヌル、大量のウジが這い回っていた。床の汚染はある程度拭き取って、クロスを剥がして完了(簡単なようで難しい)。そして、問題が便器。便器自体の汚染も根気強く拭けば何とかなったが、一番往生したのがその詰まり。腐敗が進み液化した人肉・脂肪等が便器内にタップリ溜まっていたと思われ、今度は、更に時間が経過したため、それが乾燥して凝固し、トイレが完全に詰まっていたのである。糞尿で詰まることはあっても、人間そのものだったもので詰まるなんて・・・。素人の方にも分かりやすく表現すると、茶色で固めのとてもクサーイ!粘土が、便器の奥から半分位まで...助けて!クラシア~ン!

  • ゴミ山の亡骸

    ある公営団地の一室。私を呼んだのは中年男性。「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン」(古い?)ではないが、玄関を開けてビックリ!いきなり真っ暗、よくよく見るとゴミの山。亡くなったのはその中年男性の父親らしく、亡骸はまだ部屋の中にあるとのこと。土足で中に入ったところ、ゴミ山の中に一畳弱のくぼみがあり、汚れた布団らしきものが見えた。恐る恐る掛け布団をめくってみると、冷たくなった老人が横たわっていた。部屋の様子に反して遺体は若干の汚れはあったものの通常だったので、とりあえず安堵。特に腐敗が進んでいる様子もなく、警察の検死も済んでいるらしかった。故人は、4年前、奥さん(中年男性の母親)が亡くなった時のまま、家の中の物には一切手を触れさせなかったとのこと。心配した身内が頻繁に出入りしていたにも関わらず、誰にも掃除も...ゴミ山の亡骸

  • いい湯だな~

    浴室で発見される腐乱死体も珍しくない。いい気分で湯に浸かってそのままあの世に行くのも本人にとっては悪くない話かもしれない。ただ、残された者のとっては災難だ。持家ならまだマシなのだが、賃貸物件ともなると近隣や大家に対する社会的責任を追求されたり、水回り工事に莫大は費用負担を強いられるからだ。では、我々業者はどうか。これがまた難しい。湯(水)の色は濃いコーヒー色に染まり、脂や皮が浮いている。もちろん、強烈は悪臭はどの現場も共通。水は濁っていて浴槽の中がどうなっているか分からない。下手に栓を抜いて配管を詰まらせでもしたら、もっと大変なことになる。不安と憶測が渦巻く中、水の中に何かないかをまさぐる。何が出てくるか分からないところを探るというのは、結構緊張するものである。露天の金魚すくいで、紙網が破れないかどうか心...いい湯だな~

  • ロープはどうする?

    日本人の自殺者は一日約100人にのぼっていることは特に新しいニュースではない。日本人の自殺方法で最も人気のあるのは、首吊りらしい。我々が自殺現場に関わることも少なくない。これは、ある首吊り現場での出来事である。発見が早かったらしく、部屋の汚染は軽度で、特殊清掃作業自体はライトなものだった。ただ、遺族から受けた相談には困った。「故人が自殺に使ったロープはどうすればいいか?」とそのロープを差し出されたのだ。遺族は、故人が自殺したことにビビッて、ロープの取り扱いにも異常に神経質に慎重になっていたのだ。ああでもない、こうでもない、と遺族同士が議論する中で、私が責任を負わされると困るので、「お身内の方々が決められるのが本筋では?」とうまく回避した。結局、「本人が最後に使った物だから本人の責任ということで柩に入れよう...ロープはどうする?

  • 愛人

    神奈川県、賃貸マンション4階。20代女性が玄関ドアの内側にロープをかけ首吊り自殺。腐乱が進み、悪臭と腐敗液が外に漏れ出して発見。現場に参上したときは遺体はなく、汚染個所も比較的狭く玄関とその周辺だけ。部屋は、若い女性らしくインテリアや装飾も可愛らしい雰囲気だった。ただ、玄関だけは別世界。餌(遺体)を無くしたウジ・ハエの死骸と、故人の腐敗液を掃除。見た目にはきれいな部屋にも悪臭は充満。そこは除菌・消臭作業。故人には身寄りがなく、不動産賃貸契約には知人の中年男性が保証人になっていた。どうも故人は保証人男性の愛人らしい。それなりの事情があってのことだろうが、身寄りのない20代女性の自殺には、せつなさを感じざるをえなかったが、最後にオチがついていた。特殊清掃作業代を払うはずの保証人がトンズラしたのだ。まさにタダ働...愛人

  • 妙な同居人

    現場は古い二階建の一軒家。遺体は一階の角部屋で腐乱しており、その臭いはいつもの悪臭のレベルを超えた強烈なものであった。悪臭は、鼻ではなく腹で受け止めなければならないことを始めて知らされた現場だった。腹でも受け止められない人は吐いて退散するしかない。しかも、そこは1~2日前とかいったものではなく、最低でも1~2週間前から悪臭を放っていたと思われるような現場だった。しかし、家族が死体に気づいたのは2~3日前とのこと。家族の一人がまったく部屋からでてこなくなったうえ、その部屋から悪臭が漂うようになるまで本人が死んだでいたことに気がつかなかったとは、とても信じられなかった。しかも、その家族は、酷い悪臭の中を、金目の物がないか必死で探していた。何はともあれ、私の仕事はその現場をきれいに片付けることで、余計な詮索は無...妙な同居人

  • 脂でツルッ

    これは特定の現場での話ではない。人間の身体は平均的に観ると約70%が水分・約25%が脂肪といわれている。遺体は腐敗していくと、骨・歯・爪などの固形物を残して最終的には溶けて液状になる。もちろん、その過程はおぞましい光景で、強烈な悪臭を放っていく。液状になった遺体の水分は時間の経過とともに自然と蒸発していくが、最後の最後に残るのは脂肪、つまり脂。我々の仕事でやっかいなものはたくさんあるが、この脂もやっかいなモノのひとつである。ある程度は吸収剤を使って処理できるものの、やはり最後は手での拭き取り作業が必要。これが、拭いても拭いてもなかなかきれいに落ちない!ジョイ君に頼んでもダメでしょう。おまけに、ヌルヌル・ツルツル滑りやすく、そんなところで転んだらアウト!私はまだ転んだことはないが、転びそうになったことは何度...脂でツルッ

  • 残された耳

    千葉県某所、一戸建。例によって、現場確認と見積依頼で現場へ。故人は布団に入ったまま亡くなり、そのまま腐乱していた模様。特殊清掃撤去では、遺体は警察(または警察に指示された葬儀社)が回収していった後に我々が訪問するケースがほとんどである。しかし、腐乱し、溶けてバラバラになった遺体を全部拾って回収することは困難である。現実には、頭髪付の頭皮が残されていたり、指先の小さな骨が残されているケースは珍しくない。ただ、この現場では耳が落っこちていた。遺族に「この耳どうしますか?」と尋ねたら、遺族も困っていた。私も、骨などの固形化された遺体の一部は遺族に返すようにしているが、さすがに耳を返されても困るようだった。そうは言っても、私も耳を持ち帰る訳にもいかず、半強制的に遺族に返して作業を進めた。どうせなら、警察に耳も持っ...残された耳

  • 哀愁のマットレス

    時は4月下旬、晴天・春暖の心地よい季節のなか、その現場は発生した。場所は東京都某所・分譲マンション2階の寝室。遺体の腐乱液はベッド上とベッド脇の家具・床に渡って染み広がっており、当然ながらかなりの悪臭もあり、かなり刺激的な光景だった。遺族によると故人は太った老人とのこと。通常の作業チャートでは「現場検証見積」→「作業合意」→「代金前払い」→「作業実施」である。しかし、この現場の遺族は、見積に行った私に「このまま作業をやってくれ!」と懇願。遺族の心情を汲むのも当社の大事な方針なので、結局、断りきれず作業用の装備がほとんどないまま作業にとりかかることに。必要最低限の道具・備品を近くのホームセンターで調達。ベッド脇の床の家具に溜まった腐乱液を吸い取り、拭き取るときは、場慣れした私もさすがに吐き気がして、何度も「...哀愁のマットレス

  • 血の重荷

    梅雨入りが迫ってきている今日この頃。だんだんと蒸し暑くはなってきているけど、まだまだ過ごしやすい。週末ともなると、朝は下り、夕は上り、行楽の車で高速道路は渋滞。家族と共に楽しい時間を過ごすことは、人生の大きな幸せの一つ。行楽に無縁の私にとっては他人事ながら、喜ばしく思える。多くの人が共感してくれるだろう、「家族」っていいもの。「打算や利害はない」とまでは言えないけど、ほとんど無条件で、愛し合い、助け合い、信頼し合い、堅い絆で結びつき合える間柄。外の世界では、そんな人間関係、そう簡単に構築できるものではない。しかし、その反動か、揉めやすいのもまた事実。心の距離が近い分、遠慮や尊重がしにくく、怒りや憎しみの感情を抑えにくい。傷害や殺人についても、他人同士より血縁者同士の方が多いといったデータもあるらしく、日々...血の重荷

ブログリーダー」を活用して、芳田一弥さんをフォローしませんか?

ハンドル名
芳田一弥さん
ブログタイトル
特殊清掃「戦う男たち」
フォロー
特殊清掃「戦う男たち」

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用